サトシと翼の王   作:ヴィット

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砂の毛皮

 

 夕焼け色の町、クチバシティ。この町の南には船着き場があり、海外から観光客を出迎えるカントーの玄関だ。それ以外にもポケモンだいすきクラブがあり、会員登録したブリーダーたちが集う場所でもある。

 

 コライドンの脚力を持ってすればたったの3日でハナダシティからクチバシティへ移動することができるが、流石のコライドンもへとへとで疲れている様だ。サトシは彼をボールに戻し、そのままポケモンセンターに直行する。

 

「そういえば、ここってピカチュウとライチュウのバトルがあったジムだよな」

 

 原作にあった名場面はここのジムで行われていたことを思い出す。現在のサトシはピカチュウを手持ちに加えてはいないが、今回もここのジムリーダーにナメられるだろう。彼は溜息を吐き、そのまま自動ドアを通って中に入る。

 

 他のトレーナーたちが怪我を負ったポケモンたちを抱えてジョーイさんの下へかけつけていた。恐らく彼らはジム戦で敗北したのだろう。そして恐ろしいことに「この町ではよくあること」らしい。

 

 急患で運び込まれたポケモンの中にはイシツブテやサンド、ディグダがいた。……この町のジムリーダーは電気タイプの使い手。相性による不利など知ったことかと言わんばかりの大活躍っぷりだったのだろう。

 

 時間をかけてサンドをサンドパンに進化させなければ苦戦を強いられることは確実だ。フシギソウで挑むのもアリだが、すばやさ値で押し負ける可能性も高い。近くにディグダの穴があるので、そこでダグトリオを捕まえるのが一番効果的ではあるが、当然そういった「おやぶん」を捕まえるのは凄く難しい筈だ。

 

「ここのジムを攻略するのに1週間はかかりそうだ。はぁ……」

 

 溜息を吐くサトシ。しかしのんびりしている時間など彼には無かった。パソコンを利用してオーキドの研究所との通信を開始する。

 

 バタフリーとオニスズメをボックスに預け、サンドとナゾノクサを引き出す。どういうルールで戦うのかは不明だが、少なくとも公式戦は3対3がセオリーだったはず。タイプ相性と相手の特性『せいでんき』を加味して考えた結果だ。

 

 これで現在の手持ちはコライドン、フシギソウ、ウネルミナモ、ヒトカゲ、サンド、ナゾノクサの6匹となった。ハナダシティジムで共に戦った飛行タイプのポケモンたちは研究所で待機している。

 

 サンドの『すなかけ』、フシギソウとナゾノクサの特殊攻撃。これらを駆使してクチバジムを制覇しよう。サトシはそう考え、町外れで修行しようと思っていた時だった。

 

 ―――外から突然の轟音が鳴り響いた。

 

「な、何だ!? 」

「地震!? いやでも揺れてなかったけど……」

 

 ポケモンセンターを利用していたトレーナーたちは思わぬトラブルによって混乱した。無理もない、手持ちが全滅している状態だから不安にもなる。何せロケット団のようなヤバい組織がシオンタウンとかで事件を起こしているんだ。もしこの町が襲撃されたりしたらどうなるか分かったものではないだろう。

 

 とりあえずサトシはコライドンを連れて町の外に出る。……町の西側は無事。特に荒らされたとかそういう問題は起こっていない。

 

 問題は東側だった。空を雨雲が覆っており、雷が絶えず落ちている。轟音の正体はそれだろう。

 

 方角からして恐らくディグダの穴で何かが起こった。あの場所は良くも悪くも地面タイプの巣窟。電気タイプのポケモンが好んで立ち寄るような場所ではない。

 

 なのに、天より雷が落ちている。これは一体どういうことだろうか? サトシには見当もつかなかった。そんな彼の隣でコライドンは黙って雨雲のある場所を鋭い目で見ている。

 

「おいおい、嘘だろ? 3体目のパラドックスポケモンがいるとでもいうのかよ? 」

「グウウッ……! 」

 

 コライドンはうなり声を口から発し、完全形態になる。どうやら戦う気満々の様だ。比較的友好的な性格だったとしても、好戦的な部分があるのは「ツバサノオウ」としての本能が残っているのだろう。

 

 常日頃からウネルミナモを相手にしているサトシからしてみれば、問題児がもう1匹増える程度の考えしかない。パラドックスポケモンは野生に逃がそうものなら生態系の破壊に繋がるからだ。

 

 これを機にサトシは思う。もっと沢山ポケモンを捕まえておかないとオーキド研究所から狂暴なポケモンが脱出してしまうんじゃないかと。たかが老齢のジジイ1人にパラドックスポケモンを抑えられる力があるとは到底思えないからだ。

 

 サトシとコライドンは戦場へと足を動かす。そして5分もしない内に相手の姿を見ることができた。

 

「あれは、スナノケガワか……? 」

 

 スナノケガワ。電気と地面の複合タイプ。レアコイルの先祖だと思われる古代のパラドックスポケモン。無理矢理磁石で恐竜を再現してみましたと言わんばかりの異質な姿は正しく怪物(・・)だろう。誰だってあんなU字磁石みたいな四肢で歩行している姿を見たら不気味がるに違いない。

 

 そして、サトシよりも早くこの場に駆けつけ、スナノケガワと戦っている人物がいた。

 

 クチバシティのジムリーダー、マチス。電気タイプの使い手。その彼が相棒であるライチュウを連れて古代のパラドックスポケモンを相手に戦っていた。

 

「ホーリーシット! なんて厄介なポケモンなんだ!? 」

「ラ、ライ……! 」

 

 見た限りでは満身創痍である。無理もない、スナノケガワは『だいちのちから』が使えるから、ライチュウは必然的に効果抜群の技を受けることになる。苦戦は免れないだろう。

 

「じじじ、てっこ!! 」

 

 対するスナノケガワも体力をかなり消耗していた。しかしまだ戦えるのか、磁石みたいな腕からとてつもないパワーを蓄えている。

 

「ライチュウ、『きしかいせい』だ! 」

「ラ、ララィチュウ!! 」

 

 格闘技の『きしかいせい』。効果は残り体力が少なければ少ない程、威力が増すというもの。確かに瀕死寸前のライチュウが使えば大きな火力を引き出せる。

 

 ライチュウは草タイプの『くさむすび』という技が使えた筈だが、もう既に使った後だったのだろう。地面にはその技が行使された跡が沢山あった。しかしその技を使っても倒しきるまでには至らなかったということか。

 

 やはりパラドックスポケモン。性能だけ見れば無茶苦茶だ。ライチュウの決死の特攻に対し、スナノケガワは『だいちのちから』で応戦した。ライチュウは大ダメージを受けるが、それでも何とか踏ん張っている。

 

「ライ、ヂュウ!! 」

 

 そして右ストレートでスナノケガワを殴り飛ばした。

 

「ベリーチャンス、ハイパーボールだ!! 」

 

 すかさずマチスがボールを投げる。その剛速球はスナノケガワの身体にぶつかり、そして中に閉じ込める。2、3回揺れ、そしてゲットが完了した。

 

「HAHAHA!! レアコイルもどき、ゲットだ! 」

 

 まさかの事態にサトシは絶句する。狂暴なパラドックスポケモンがジムリーダーの手に渡るとは思っていなかったからだ。……しかしよく考えてみればそれが一番安全だと思えた。

 

 マチスは軍隊で少佐をやっていた人物。ライチュウもそうだが、彼は戦場をポケモンと共に生き延びて来たスペシャリストでもある。サトシよりも理不尽な目に遭って、そして今日までたくましく生きて来た男だ。スナノケガワの世話くらい、彼であれば朝飯前だろう。

 

「むっ! そこにいるのは誰だっ!? 」

 

 マチスは恐ろしい形相でサトシのいる場所に目を向けた。そして自分を見ている者の正体が解ると、直ぐに警戒を緩める。

 

「なんだ子供か。どうせお前も強いポケモンが欲しくてこのトラブルに首を突っ込んだ口だろう? ……だが残念だったな! このレアコイルもどきはミーが捕まえたぜ! 」

 

 そう言ってマチスはスナノケガワが入ったボールを見せびらかす。サトシからしてみればパラドックスポケモンを管理できる人であれば誰でも良かった。

 

「えっと、おめでとうございます? 」

「お、おう? 調子狂うな……。それよりもライチュウ! 今すぐ怪我を治すぜ! 」

 

 そう言ってマチスは懐から緊急用だと思われるすごいキズぐすりを取り出し、ライチュウに使う。傷に染みるのか、ねずみポケモンは顔をしかめる。

 

 ……改めてサトシは周囲を見渡した。ウネルミナモの時にあった結晶だが、この場所にはそういったモノは無かった。先程のバトルで荒れてはいるが、それ以外に特に目立った所は無い。

 

 それでは何故スナノケガワが現れたのか。サトシはマチスに尋ねることにした。

 

「あの、さっきのレアコイルに似たポケモンなんですけど。どこからやって来たのですか? 」

「やっぱりお前も欲しかったのか? ……ディグダの穴で修行していた時に壁から現れたんだ! 場所が場所なだけにそのまま戦うワケにはいかなかったから、外に追い出してやったぞ! 」

 

 マチスの話を聞いて更に疑問が出てきた。古代のパラドックスポケモンがどういう訳かディグダの穴から現れたという。この情報を聞いてサトシの頭の中で警報が鳴り響く。

 

 ウネルミナモはハナダの洞窟の奥地を縄張りにしようとしていた。そのせいで元々洞窟に棲んでいたポケモンたちが外に出てしまう危険が出てしまった。

 

 今回のスナノケガワ。どういう訳かディグダの穴に現れた。元々その場所を縄張りにする気であったのなら特に問題は無い。それをマチスが解決したようなものだから。

 

 しかし、もしスナノケガワが何かとの縄張り争いに負けてディグダの穴に逃げたのなら?

 

「だけど今は駄目だぜ! この後ミーがリーグ協会に報告して、この洞窟の調査を」

「マチスさん。申し訳無いけど、急用が出たので俺は行きます! 」

「……っておい!? 」

 

 マチスの話を途中で切り上げ、サトシはディグダの穴へと向かう。コライドンも彼に着いて行った。もし彼の懸念が正しければ、とんでもない事態がディグダの穴で起こっているかもしれないからだ。

 

「ガッデム! 待てボーイ!! ディグダの穴で死人が出たらミーの責任になるだろうが!! 」

 

 マチスはライチュウをボールに戻し、代わりにエレブ―を出す。そして少年の跡を追いかけていった。

 

 

 * * *

 

 

 ディグダの穴をサトシとコライドンは走る。途中で出会ったディグダたちは不機嫌そうな顔をしながらも彼らを見送った。スナノケガワよりも強いポケモンであろうコライドンにわざわざ喧嘩(けんか)をふっかける気など起こらなかったからだ。

 

 そしてようやくサトシはスナノケガワが現れたであろう場所へと辿り着く。大きな空洞だ。恐らく向こう側から壁を破壊して作った穴だと思われる。スナノケガワは『あなをほる』のような技など覚えられない筈だが、『だいちのちから』を応用して空間を広げたのだろう。

 

 サトシとコライドンは空洞の中に入る。どんどん先へ進んでいくと、広い空間に辿り着いた。例の結晶だらけの場所、輝く樹木。そして地面に落ちている謎の食料。

 

 ハナダの洞窟の奥地にあったものと殆ど同じだ。違うのは木の大きさがこちらの方が小さい(・・・)ことくらいか。そして今は何もいないことが分かる。

 

「やっと追いついたぜ! ……って、何だこりゃ!? 」

 

 サトシたちの跡を追って来たのだろう。マチスがエレブ―を連れて結晶だらけの空間に入って来た。そしてこの場所の異様さに彼は驚愕する。幻想的な光景なのは間違いないが、それ以上に不気味さも感じられる。

 

「ああ、来たんですか。……非常に申し訳ないのですが、早くここから出た方がいいと思います」

「馬鹿野郎! ミーはお前を連れ戻しに来たんだ! 」

 

 マチスは目の前の少年の腕を掴み、そのまま出口まで戻ろうとする。しかしサトシは険しい顔をしながら、黄金に輝く(・・・・・)大木を見ていた。

 

 食べ物があるにも関わらず、スナノケガワはここから離れようとしていた。どう考えてもこの空間を縄張りにしているポケモンが他にいるということだ。

 

 そして、無慈悲なことにサトシに向かって凄まじい雷が飛来してきた。それをコライドンが『ドラゴンクロー』で威力を相殺する。

 

 今の今までサトシたちは気付けなかった。この空間を支配しているポケモンはずっとこの場所にいた。そいつは結晶の大木の陰に隠れて侵入者たちを見ていたのだ。

 

 現れたのは大型の竜脚類を模した姿を持つ、落雷の化身。彼の瞳がサトシたちを睥睨(へいげい)し、神の如き力が背中からバチバチと弾けている。まるで、愚かなる人間たちを裁かんとする自然現象の様だ。コライドンとエレブ―は彼の存在からの敵意を受け、戦意を(たかぶ)らせる。

 

「ば、馬鹿な!? ライコウに似たポケモンがこのカントーにいるというのか!? 」

 

 仮称、タケルライコ。伝説の三犬が1匹、ライコウの古代の姿と言われた電気タイプのパラドックスポケモンである。

 

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