【悲報】1000年前に無双していた魔王様、現代のインフレについていけないwww   作:さざき

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魔王様はヒモとなり、決意を新たにする。

 

「……おう様……魔王様」

 

 ゆさゆさと体を揺さぶられる。

 我の名を呼ぶのは、爽やかな声。

 幾度となく耳にしている我の従者の声だった。

 

「お目覚めの時間ですよ、魔王様」

 

 ゆっくりと瞳を開ける。

 すると、我の眼前に現れたのは……紛う事なき、骸骨のアンデッドだった。

 

「……っ! セオドア……だよな? 知らず知らずのうちに部屋に入ってきた野良アンデッドでは無いよな?」

 

「はい。知らず知らずのうちに部屋に入ってきた野良アンデッドではありません。魔王様の忠実な僕。セオドア・ヘレスカイトでございます」

 

 骸骨は左手を胸部に当て、右手は後ろに回す。

 丁寧な言葉遣いに、仰々しい振る舞い。

 シワひとつない執事服に、言動から溢れ出す我に対する尊敬の念。

 1000年前と姿形は全く違えど……やはり、奴はセオドアで間違いない。

 

「悪いが、いつ見ても慣れんな。眉目秀麗なエルフだった1000年前の貴様と……骸骨の貴様が、どうしても紐付かんのだ」

 

「謝罪する必要はございません。過去の私と現在の私は似ても似つかない。全くの別人と形容しても過言ではありませんので」

 

 セオドア・ヘレスカイト。

 我と最も古い仲の昔馴染みであり、魔王と呼ばれる以前からずっと側で支え続けてくれた忠臣。

 尚且つ、過去の教え子の中で随一の戦闘センスを持っていた戦闘の才能溢れる秀才。

 そんな彼の種族はエルフであり、それこそ1000年前は男でも見惚れる程の美丈夫だったのだが。

 現在においては、当時の面影を全く感じさせない骸骨型のアンデッドと化していた。

 

「寿命は尽きているというのに、死霊と化してまで我の目覚めを待とうとは……見上げた忠義だ」

 

「お褒め頂き光栄です。貴方様と共に歩める事が私にとって至上の幸福。これからも、永遠にお供しますよ」

 

 遥か昔に自らを封印した時、我は当時の友人や臣下と永遠に別れる覚悟をしていた。

 人間はともかく、長寿の魔族であっても、基本的には1000年も生きられない。

 そのため、誰にも頼らずに現代に適応する必要があると考えていたが……何故か、セオドアが居た。

 

「申し訳ありません、魔王様。我々は最後の最後まで……無力でした」

 

 と言っていたのにも関わらず、奴は1000年もの間、我の目覚めを待ち続けていたのだ。

 一際長寿なエルフの特性を生かして、ずっと我が眠る場所を守り続ける。

 誰とも会話する事なく、何処へ行くでもなく。

 ただただ呆然と待ち続けて自らの寿命が尽きたら、迷う事なくアンデッドとなったそうで。

 その上、目覚めの時が近づいたら、我に何不自由ない生活をさせるため、現代に適応し始める。

 コツコツと資金を集めて起業をし、アンデッドの身でありながら莫大な資産を築いてみせた。

 それも全て、他でもない我のために。

 ……もちろん、その気持ちは嬉しい。

 凄く嬉しくはあるのだが、ちょっと怖い。

 いや、正直に言うと、めちゃくちゃ恐ろしい。

 

「ところで話は変わりますが……魔王様、お体の調子は如何ですか? 理性を失った無礼者によってもたらされた傷は痛みませんか?」

 

「い、いや、全然問題ない。心配は無用だ」

 

「ならば良いのですが。やはり、許せませんね」

 

「な、ななな、何を……だ?」

 

「魔王様を痛めつけたクソオークです。奴は絶対に生かしてはおけません。必ずや、私の手で報いを受けさせますのでご安心ください」

 

 徹頭徹尾、身を粉にして尽くすセオドアに……我はビビり散らかしているのだ。

 威厳を保ちたいので、決して口には出さないが、怖くて怖くて仕方ない。

 少なくとも、当時の価値観では人間や魔族問わず、アンデッドになるのは恥とされていた。

 どんなに取り繕うとも、アンデッドは動く屍。

 みるみると肉体は腐れ落ち、やがて骨と化して、元の面影は消え失せる。

 時を経るにつれて、思考能力が低下していき、人間性すら失われる。

 最後には、本当にただの動く屍となってしまうため、神によって定められた寿命が尽きたら、大人しく死ぬべきだと考えられていた。

 しかし、1000年経っても、セオドアは思考能力も人間性も失ってはいない。

 強固な意思……もとい我への忠誠心を強く持ち、今でも尚自我を保っているそうだ。

 前から薄々勘づいてはいたが、セオドアは我の事が好き過ぎる。

 それも、病的と言えるレベルで。

 本当に、あまりにも……愛が重い。

 異性ならともかく、我らは同性なのに。

 同じ男であるのに!!!

 

「オークに対する報復はするな。貴様が私刑を行ったら、警察や勇者機関に目をつけられる可能性がある。真に我を慮るのであれば、無用な荒事を起こそうとするでない」

 

「……魔王様が仰る通りですね。考えが浅はかでした。申し訳ございません」

 

「事ある毎に謝罪しなくても良い。それよりも、朝ごはんの用意は出来ておるのだろうな? 我はもうお腹がペコペコだぞ」

 

「勿論でございます。本日の朝食は鮭の塩焼きと白米、豆腐とわかめの味噌汁ですよ」

 

「本当か!? やはり、朝食は和食に限る。朝から脂っこい物を食べたら、胃がもたれてしまうからな! 褒めて遣わすぞ、セオドア!」

 

「ふふ、お褒め頂き教悦至極に存じます」

 

 だが、セオドアのお陰で、文化や文明が一変していた現代でも、何事もなく暮らせている。

 実際のところ、彼が居なかったら、我は確実に路頭に迷っていたに違いない。

 何をせずとも上手い飯を喰らい、暖かい布団で眠れるのだから、感謝しなくてはならないだろう。

 ……とは言っても。

 

「またもや褒めて頂けた……! 誰にも邪魔されず、魔王様と二人きりで暮らせて、毎日のようにお話しできるなんて……何たる僥倖、何たる至福。私は、この世界で一番の果報者に違いない……!」

 

 感謝を伝えすぎると、次第にセオドアの声色が狂気を帯びてくるので、気をつけないといけないが。

 

 

 朝食を摂り、仕事に向かうセオドアを見送り、部屋の掃除や洗濯等の家事を行う。

 昼食を摂り、ネットの掲示板を見たり、魔術の自己研鑽に励む。

 そうすると、瞬く間に時は過ぎて……待ちに待った時が訪れる。

 ちびっこ魔術教室の時間がやってきたのだ。

 

「さぁ、三人がかりで遠慮なくかかって来なさい。勇者の子孫たる私の実力を見せてあげる!」

 

 本日は、前回オークに襲撃されるトラブルが生じたことにより、行えなかった模擬戦を行う。

 相手は勇者の末裔であるアリサ。

 こちらはマイペースな魔族の少女レイと、内気な少年ユウに、最強の魔王たる我の三人体制だった。

 

「皆の者。戦闘態勢は整えたか?」

 

「う、うん。大丈夫だよ」

 

「問題なっしんぐ」

 

「お互いに準備はばっちりみたいだね。それでは……始め!」

 

 審判を務める先生の合図と共に、弾丸の如き速度でアリサがこちらに向かってくる。

 そんな彼女に対して、我は。

 

「うつろう事なき魔力の奔流。万物の創造を成す魔術の禁忌の力を解き放つ。忘却されし古の術式と邂逅する……」

 

 長々と魔法の詠唱を行う。

 普段なら、この時点で頭を模擬刀でぶん殴られて勝負が終わるが、今回は違った。

 

「氷結の盾」

 

 我とアリサの間に、氷の盾が形成される。

 我の脳天を穿つ一撃は、レイによって生み出された盾によって防がれた。

 

「加速!」

 

 次いで、固有魔法によって自らの速度を向上させたユウが、不意をつく形でアリサに斬りかかる。

 彼女は素晴らしい反応速度で初撃を防ぐも、彼の猛攻は止まらない。

 息をつく暇もなく模擬刀を振り、アリサを防御に徹しさせていた。

 

「氷結の槍」

 

 その側で、レイは瞬時に幾つもの氷の槍を出現させ、剣の打ち合いを行うアリサへと射出する。

 一斉に撃ち出されたそれらの槍は、決してユウに当たることはない。

 一本一本をレイ自身が操作しているため、的確にアリサを狙い続ける。

 これは、万人に成し得る事ではない。

 人並み外れた魔術のセンスを有している彼女だからこそ出来る芸当であった。

 

「ああもう! うざったいけど……中々やるじゃない、貴方達!」

 

 攻めっ気を削がれ、苛立ちを露わにするアリサ。

 ひたすらに間合いを詰めて剣を振るユウと、遠隔操作する氷の槍による攻撃を仕掛けるレイ。

 彼らの連携は見事なモノであり、付け入る隙は欠片ほどもない。

 ……これこそが、我らの作戦。

 ユウが前線を務めてタンク役となり、レイはサポートに徹して時間を稼ぐ。

 その間に我は無属性魔法「魔弾」の詠唱を進め、疲労困憊のアリサへと放って試合終了。

 我ら三人の長所を存分に活かす……名付けて「三位一体、最後は魔弾でドーン!」作戦。

 流石のアリサも手も足も出ないに違いない。

 間もなく詠唱は終わる。

 そうすれば我らの勝ち。

 現時点の我は、完全に少年少女の足手纏いではあるが、ようやく貢献できる、と考えていると。

 

「……仕方ないわね。このままだと埒が開かないから、ちょっとだけ本気を見せてあげるわ」

 

 その刹那。

 アリサの姿がふっと消えるのと同時に、煌々と輝く光の矢が出現し、無防備のユウへと降り注ぐ。

 その威力は、まさに絶大。

 地面に衝突すると小規模のクレーターが生まれ、周囲を旋回していた氷の槍は瞬時に破壊される。

 肝心のユウは光の矢による衝撃で吹っ飛ばされ、抵抗すら出来ずに倒れ伏した。

 先程まで、前衛を務めていたタンク役はもう居ない。

 ほんの一瞬で、均衡状態が崩れたのだ。

 

「まず、一人目」

 

 そんな呟きと共にアリサは……氷の槍を操っていた少女の後ろで姿を現す。

 彼女が操る魔法はユウやレイの物とは一線を画す無詠唱魔法。

 俗に言う予備動作が全くないため、どんな手で攻めてくるか全く想像がつかない。

 よって、対策は不可能であった。

 

「っ、氷結の盾!」

 

 鋭い勘を十全に活かして奇襲を察知したレイが氷の盾を生成するものの、光を帯びた模擬刀の一振りで容易く破壊される。

 ガラスをハンマーで叩き割るかのようにパリンと音を立てて、盾は崩れ落ちてしまったのだ。

 次いで、アリサは握り拳を作り、唖然とするレイの頭をこつんと打ち付けた。

 

「ば、ばけもの……」

 

 レイは恨み言を吐き捨てて、ぱたりと倒れる。

 これで、後衛を務めていたサポート役はもう居ない。

 ……残ったのは、我一人だけだった。

 

「あっという間に二人目……っと。最後に残ってるのは、自称魔王様ただ1人ねっ」

 

 口元に笑みを浮かべながら、ゆっくりとこちらへ歩みを進めるアリサ。

 恐らく、勝利を確信しているのだろう。

 他の2人とは違って、我ならば舐めてかかっても余裕だと高を括っているのだ。

 どうせ、まだ魔術の詠唱は終わらない。

 少なくとも、後数分はかかると、推測しているに違いない。

 ……その判断は、間違いだと言うのに。

 我は……以前の我とは一味違う。

 

 先日、我は一つのスレッドを閲覧した。

 そこで得たアドバイス。

 1000年前に愛用していたカウンタースタイルを捨て、現代に適応したスタイルを作るという天啓を踏まえて、我は一つの術式を編み出した。

 その名も、詠唱短縮版高威力無属性魔法弾。

 略して、魔弾。

 学ぶは真似ぶという言葉があるように、過去に作り出した術式を現代風にアレンジした秘密兵器だ。

 当たりさえすれば岩盤を抉り取る威力はそのままに、詠唱時間の短縮を試みた。

 その結果、1時間の詠唱から3分程度の詠唱で発動する事が可能になったのだ。

 もちろん、まだ改善の余地は幾つもあるが、現時点ではこれが限界だった。

 今後は、他の術式も魔弾のように詠唱時間を短縮させ、今の環境に適応させる。

 それから、現代の主流な戦法であるアグロスタイルに対抗し得る戦法を編み出す心算だ。

 

「ふっふっふ。何か企んでるみたいだけど、無駄よ。貴方が魔法を発動するためには後何十分も必要な事は御見通しなんだから」

 

 くくく……油断しおって、小娘が。

 小生意気に振る舞えるのも今のうちだ。

 レイやユウが時間を稼いでくれたお陰で、詠唱は既に終わっている。

 後は、解き放つだけ。

 最後の一小節を口にすると、新兵器は火を吹く。

 ……我の最強伝説は、この一撃から始まるのだ。

 

「我を侮ったなあああ、才能溢れる小娘があああ!『詠唱短縮版高威力無属性魔法弾』発動! 喰らえええええい!!!!!」

 

 魔弾を解き放つ。

 何色にも染まらない白い輝きを放つ魔力の塊たる球体が、地面を抉りながらアリサへと向かう。

 発動は無事に成功した。

 威力も速度も申し分ない。

 この攻撃を防ぐ術もない筈で……今回の勝負は我らの勝利だと、そう確信した。

 

「嘘! こうなったら……必殺、魔弾返し!」

 

「えっ?」

 

 アリサが使用した魔術によって生み出されたのは……我の物と瓜二つの魔弾。

 だがしかし、決定的な差異が存在した。

 ……そう、威力もサイズも速度でさえも、我の魔弾よりも数段上だったのだ。

 ボシュっと音を立てて、我の魔弾が呆気なく飲み込まれる。

 それでも尚、小娘の魔弾は勢い衰えることなく、我の方へと突き進む。

 

「あ、あああ、ありえん。何故、こんな事が……」

 

「土壇場で真似してみたの! 誰でも使える無属性魔法だからといって、上手くいくかどうか分からなかったけれど、成功して一安心ね!」

 

「そんなん反則だろう、小娘ええええ!!!」

 

 悲痛な叫びと共に、我の全身が巨大な魔弾に飲み込まれていく。

 ……我、レイ、ユウの三人がかりでも歯が立たないほどの実力を有する少女の名は神代(かみしろ)有紗(ありさ)

 彼女の先祖は、我に何度も勝負を挑み、その度に爆発的な成長を見せた初代勇者。

 そんな初代勇者と全く同じ性格と外見を有するアリサの固有魔法は「天賦の魔眼」。

 固有魔法以外の魔術や、ありとあらゆる武術を一目見ただけで模倣できる……我が知る限りだと他の追随を許さない最強の魔法だったのだ。

 

「危なかったけど、大勝利! やっぱり、勇者の末裔たる私が一番さいきょーだわ!」

 

 薄れゆく意識の中で、勝利に喜ぶアリサの声を耳にする。

 当然ながら、悔しい。

 悔しくて悔しくて仕方がないが……それ以上に高揚している我がいた。

 この世界に訪れて良かったと思う自分が、確かに存在していたのだ。

 ……1000年後の人々は強い。

 現在の我では手足も出ない。

 だけれど、それで良い。

 寧ろ、それが良いのだ。

 目の前に立ちはだかる壁は高いほど良い。

 高ければ高いほど、その壁を乗り越えようとする我は、今よりも強くなれる。

 万人が我より弱い世界で生きるよりも、万人が我より強い世界で生きる方が、ずっと成長できる。

 だからこそ、我はこの世界で生きるのだ。

 昨日よりも今日よりも強くなり、いつの日か……かつて座っていた最強の座を取り戻すために。





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