【悲報】1000年前に無双していた魔王様、現代のインフレについていけないwww 作:さざき
ちびっこ魔法教室の帰り道。
我ら4人は自宅に直行する訳でもなく、寄り道をしていた。
本日、模擬戦で勝利を収めたアリサの提案により、公園でアイスを食べることになったのだ。
「あっいす、あっいす、おっいしいあっいす〜♪」
「……溶けそう。早くアイス食べたい……」
「もう少しで夜なのに……最近は、本当に暑いよね。こんな日でも元気一杯なアリサはすごいよ」
幼子の会話を耳にしながら、脳内で今回の模擬戦の反省をする。
言うまでもなく、やるべき事は多い。
魔法の詠唱時間の短縮に成功したといっても、発動に3分もかかるのでは実戦では使えない。
また、発動に成功しても、肝心の威力が高くないと、現代の魔法にかき消されてしまう。
……まぁ、子供にしては強すぎるアリサが例外なのかもしれないが、我が目指すのは最強。
彼女のような例外を相手にしても、十分に通用しうる魔法を創造しなければならないだろう。
まずは、我が愛用する「魔弾」を始めとした無属性魔法のアップデートに着手すべきだな。
主に、更なる詠唱時間短縮と、性能の底上げ。
これは、1000年前と比較すると大幅に洗練された現代の魔法理論を参考に進めれば良いので、さして時間はかからないだろう。
だが、そこから先が問題だな。
現代において、無属性魔法は軽んじられている。
誰にでも扱える無属性魔法は、魔法を学び始めた者が練習の一環として習得する初歩の魔法……というのが大多数の魔法使いの認識になっているのだ。
……少し思うところはあるが、そのような扱いを受けても納得はできる。
何故なら、無属性魔法には「属性魔法や固有魔法と比較すると応用力に欠ける」といった致命的な欠陥が存在するから。
あくまで無属性魔法が出来るのは、魔力を実体化させて、形状を自由自在に変化させる事だけ。
例を挙げると、魔力を球体状に変化させて発射したり、盾のような形状に変化させて敵の攻撃を防いだりなど。
極めてシンプルで癖がないものの、存外に出来ることは少ない。
火力に特化した炎属性魔法や、無属性魔法よりも自由度が高い水属性魔法など、様々な分野に特化した属性魔法。
アリサが有する「天賦の魔眼」のように、決まった型に嵌ることがない固有魔術と比較すると、どうしても応用力に欠けてしまう。
上記の理由から、現代においては無属性魔法の術式の研究は進められていない。
そのため、新たな術式を得るためには、我一人で無属性魔法の研究に着手しなくてはならないのだ。
また、現代の流行りであるアグロスタイルに対抗しうる戦法も考案しなければならない。
魔力消費が少なく発動が早い現代魔法の特性を活かし、武術を組み合わせた圧倒的な手数で相手を攻め潰す……というのがアグロスタイルの特徴。
当然ながら、洗練に洗練を重ねているため、目立った弱点も付け入るような隙も見当たらず。
正直に言うと、このスタイルに対する有効な戦法は、現時点では全く思いつかない。
それだけでなく、身体能力の向上と武術の習得にも励まなければならぬ。
魔法だけ扱えても、現代では通用しない。
戦いの土俵に立つためには、現代の高速戦闘についていける下地を形成する必要がある。
魔族が故に人並外れたタフネスはあるものの、今の我は殴り合いで10歳の子供に完敗するレベル。
主体となるのは魔法と言えど、魔力による肉体強化の出力を上げ、相手に接近された場合の対抗策も考案せねば。
こうやって問題点を洗い出してみると、想像以上に課題は山積みであった。
「キルギスくん、どうしたの?」
「……む、特に何もないぞ。我、自分でも気付かぬうちに、変な事でもしていたか?」
「にやにやしてる。すごく不気味」
……そうか、我は、笑っていたか。
実際のところ、楽しくて楽しくて仕方がないから、致し方ないだろう。
こんなにも己の弱さと向き合い、強くなろうと改善点を洗い出すのはいつぶりだろうか。
幼いながらに自らの才能の無さを悟りつつも、魔王になる事を決意したあの日以来かもしれぬ。
凝り固まった価値観が悉く壊される感覚が、これ以上ないほどに心地よい。
「コンビニエンスストアはもう目と鼻の先よっ。待ちに待ったアイスが食べられるから、キルギスは笑っているんでしょう?」
「ああ、その通りだ」
全然違うが、そういうことにしておこう。
仲良くしてくれる幼子らに、ヤバい奴だと思われたら嫌だからな。
そうして、我らはコンビニという名の店に入店し、各々の買い物を済ませる。
因みに、我が購入したのはあずきバーだった。
やはり、アイスは抹茶か小豆に限る。
他の味は甘すぎて、我の舌に合わんのだ。
「ソーダアイス、さいこーにおいしいわ!」
「生き返る……しふくのひととき」
「みんなで訓練するのも楽しいけど、ゆっくりするのも趣があって楽しいね」
「うむ。効率よく強くなるためには、適度に体を休ませねば」
四人揃ってベンチに腰掛け、談笑しながらアイスを貪り食う。
ユウが述べた通り、休息も時には必要だ。
適度に休み、適度に鍛える。
何事もメリハリをつけなければ、人も魔族もいつの日か壊れてしまう。
だが、それにしても……1000年後の文明の発達具合は凄まじいな。
鉄の塊がそこら中を走り回り、魔王城よりも高い建物が幾つも存在する。
食べ物も美味しければ、社会制度もしっかりしており、治安だって良い。
あまりにも快適すぎて、1000年前の生活には、もう戻れないだろうな。
とは言っても、全く問題がない訳でないが。
『正義執行、勇者機関! 個性豊かな勇者が所属する勇者機関の人気投票が開催中! 君がこよなく愛する勇者のグッズを購入して投票権を獲得し、どんどん投票しよう!』
公園に設置された電光掲示板から、派手な演出の広告が流れている。
……勇者機関。
魔法や武術の扱いに長けた者が、その武力をもって犯罪者を制圧する。
そういった者達が集まる組織だと聞いているが、詳細はさっぱり分からん。
なので、ここは素直に聞くことにする。
「勇者機関とは、どんな組織なのだ?」
「えっ、知らないの!? 信じられない! キルギスって、化石の生まれ変わりか何かなの?」
「おっかなびっくり、世間知らず極まれり」
アイスを食べ終えたアリサやレイから、信じられないと言わんばかりの反応をされる。
化石だの世間知らずだの、言いたい放題だった。
これは、誹謗中傷……ではないか。
我は1000年前からやってきた化石のような存在だし、世間の物事に興味関心がない世間知らず。
彼女らの発言は、紛れもない事実であったのだ。
「ふ、2人とも、そこまで言わなくても……とりあえず、僕が解説するね。キルギスくん」
それでも、ユウは違った。
言いたいことを心の奥底に押し込み、にこりとほほ笑んでくれたのだ。
10歳の子供であるのに気遣いが出来るなんて、人間が出来すぎている。
「本来、勇者は己の正義を持ち、魔王討伐を目指す存在だった。でも、現代における勇者は治安維持活動を行い、金銭を稼ぐ存在。同じような役柄の警察との違いとして挙げられるのは、犯罪者を確保した時の活躍が各種メディアなどで大々的に報道される点だね。活躍すればするほど、名誉を得れる。そんな勇者達が所属している組織の名前こそ勇者機関。魔法や武術を学ぶ大多数の人達が入ることを望む、国が運営する公安組織だよ」
……なるほど。
派手な衣装に身を包む人々が、悪人や魔族と戦う姿をテレビ等で目にしたことがある。
恐らく、派手な衣装を着ている人々こそが勇者。
悪事に手を染めた魔族や犯罪者と戦って、人々の平穏を守る存在だったのだろう。
こうやって意識してみると、小豆バーのパッケージにも勇者らしき少女の姿が載っていたり。
街中に設置されている電光掲示板にだって、勇者達の活躍が絶えず映し出されてたり。
ネットの掲示板は、基本的に勇者に関する話題でもちきりだったり。
正に……どこを見ても、勇者勇者勇者。
現在の勇者は、力を持たない民間人にとっての希望になっている側面があるのかもしれん。
「私は勇者機関の存在が気に入らないけどね。人気投票とかやっちゃって……アイドルじゃないんだから。ほんとに馬鹿みたいだと思わない? あんなの見せ物と同じ。勇者の称号が泣いてるわ! ……貴方達だって、私と同意見でしょ?」
「わたしは、別に好きでも嫌いでもない」
「まあ、価値観は人それぞれだよね。いずれにせよ、大人になっても魔法や武術の鍛錬を続けたいのなら、勇者機関に入らないと」
ユウの発言を聞いた瞬間、ピタリと体が固まる。
大人になっても魔法や武術の鍛錬を続けたいのならば、勇者機関に入らないといけない……なんて情報は、初耳だった。
「……勇者機関に入らないと、魔法が使えなくなってしまうのか?」
「使えない事はないと思うけど、頻度は減ってしまうかもね。民間人による魔法の使用は厳しく制限されているし、武器の所持だって認められてない。僕達が日々訓練できているのは、将来有望な子供という立場があるから。大人と比べると、子供は規制が緩くなっているんだよ」
もちろん、この情報も初耳。
だが、納得がいった。
この世界に来たばかりの頃、セオドアにちびっこ魔法教室に入ることを促されたり、年齢を偽るよう助言されたのは、これが原因だったのか。
というか、セオドアもセオドアだ。
そこまで配慮してくれるのなら、いずれは勇者機関に入らなければならない事を、最初から教えてくれれば良いだろうに……。
「どっちにしろ、キルギスには関係ないわね。だって、人間との混血でない魔族は……勇者機関に入れないんだもの」
淡々と、アリサはそう告げた。
その言葉が耳に入ってきた途端に、体が固まるどころか、思考が停止する。
人間との混血でない魔族は勇者機関に入れない。
そして、我は紛れもなく純血の魔族。
……何故、セオドアは勇者機関に関する情報を口にしなかったのか。
その答えが、即座に提示されてしまった。
◇
「キルギスくん。なんていうか、その……元気を出そう。まだ前例がないだけで、才能が認められれば勇者機関に入れるかもしれないよ」
「どんまいとしか、いいようがない」
「本当に何も知らなかったのね……ごめんね、キルギス。さっきの発言に悪気があった訳ではないの」
「………………」
幼子らには悪いが、返事が出ない。
それほどに、ショックは大きかった。
人間との混血でない魔族は勇者機関に入れない。
だが、大人になっても魔法や武術の鍛錬を続けたいのならば、勇者機関に入らないといけない。
……一体、どうすれば良いのだろうか。
この状況、詰みとしか言えないのではないか?
もちろん、勇者機関や警察の目を盗んで魔法や武術の鍛錬に励む事も出来るだろう。
しかし、影に隠れてコソコソ鍛錬しても、成長できるとは思えない。
他者に教えを乞う事も出来なければ、他者と切磋琢磨する事も出来ない。
そんな環境で、最強にはなれないと断言できる。
我の願いは……己の力が及ばぬ問題によって、終わりを迎えようとしていたのだ。
「うっうっうっ……」
一応言っておくが、この変な泣き声は我のものではない。
……本当は、今すぐ泣きたい。
玩具を買って貰えない駄々っ子のように、嫌だ嫌だと泣き喚きたいけれども。
魔王としてのプライドがあるので、何があっても子供らの前で涙は流さぬ。
となれば、泣き声の主は誰だろうか。
そんな疑問を抱きながら、後方を振り返ると。
「うっうっ……うわばあああ!!!」
小柄な体躯のドワーフが、狂ったように泣きながら叫び声を上げる。
彼の目は真っ赤に血走っており、口からは涎が流れ出ていた。
……少し前に我らを襲撃したオークのように。
「ま、また……先日のオークの人といい、どうして……?」
「……おそろしい」
「安心しなさい、みんな。勇者の末裔たる私が対処するわ!」
怯えるような表情を見せるユウとレイに、果敢に立ち向かおうとするアリサ。
あの時と極めて似通っている状況であるが、決定的な相違点が一つだけ存在した。
「土の隆起いいい!!!!」
ドワーフが詠唱を行うのと同時に、幾つもの棘状の岩が我らの足元から突き上がってきた。
我は、咄嗟にすぐ側に居たレイとユウを投げ飛ばした後に回避を試みたものの……すんでのところで躱しきれず、腹を岩の棘で刺し貫かれる。
「う……」
唯一助けられなかったアリサへと目を向けると、彼女は苦しそうに地に伏せていた。
恐らく、奇襲を察知したものの、実践経験が無い故に対処が遅れてしまい、岩に吹き飛ばされて地面に叩きつけられたのだろう。
棘に刺されなかったとは言えど、所々に痣が出来ており、動けそうには見えない。
「ぐおおお……!」
我は岩の棘から逃れようとするが、脱出は叶わない。
どんなに叩こうとも、拳が割れるだけ。
脆弱な力では、ぴくりとも動かない。
どこまでいっても我は無力で……そんな自分に腹が立つ。
アリサもレイもユウも。
幼子らは皆、優しい子だ。
無法者による理不尽な暴力に晒されて傷つくべき人間では決して無い。
だからこそ、我が助けねばならぬのに。
単なる雑魚である我では、何も出来ない。
1000年前に最強であろうと、現代においては取るに足らない弱者。
その事実を突きつけられ、頭がどうにかなりそうだった。
「うっうっ、うわあああ!!!」
ドワーフは興奮状態のまま。
依然として、我らを害する意志を見せている。
土属性魔法を扱える奴に、唯一対抗できる可能性があったアリサは戦闘不能。
我は、今現在も岩の棘に貫かれており、オークの時のように幼子らの盾にはなれず、魔法で援護しようにも詠唱に三分は要する。
最後に、一般的な10歳の子供の精神性であるレイやユウに、ドワーフの相手を任せるのは酷であり。
まさに、絶望的な状況。
我らの命の灯火は消える寸前だった。
……しかし。
「風切」
凄まじい速度を誇る風の刃が、こちらへ向かおうとしていたドワーフを襲う。
その攻撃を身を翻す事で回避した奴は即座に飛び退き、距離を取る。
正気を失いながらも、一定の思考能力を有しているのか、ドワーフの表情に緊張の色が窺えた。
「要救助者4名と、対象を発見。第4位階勇者シエラ……これより、任務を開始する」
淡々とそう述べる少女。
癖のある緑色の髪と鋭い三白眼が印象に残る年若い少女の胸元には……現役の勇者である事を示す金色のバッチが備え付けられていたのだった。
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