【悲報】1000年前に無双していた魔王様、現代のインフレについていけないwww 作:さざき
今回は、少し短めです。
彗星の如く現れた勇者の少女。
彼女はドワーフと相対しながらも、岩の棘に刺されている我をちらちらと見ていた。
もしかしたら、心配してるのかもしれんな。
我の腹は岩の棘に風穴を空けられている。
客観的に見ると、重症にしか見えないだろう。
だがしかし、問題はない。
痛いのは痛いのだが、痛みには慣れている。
最強となる以前の未熟だった我は、日夜戦闘に明け暮れていた。
そのため、傷を負うどころか、四肢をもがれるのも日常茶飯事。
魔族という種族は生まれつき生命力が高い側面もあり、この程度の傷では死んだりはせん。
そう伝えたい我はサムズアップする事で、勇者の少女との意思疎通を図る。
すると、意図を解した彼女はこくりと頷いた。
「岩石砲!!!!」
ドワーフは先程出現させた岩の棘を魔法によって砕き、弾丸状にして射出する。
ふむ、なるほど。
もう使いようがない岩の棘を素材にする事で、一から岩石砲を創造する必要がなくなる。
魔力を岩へと変換させる工程を省く事で魔法の出が早くなり、尚且つ魔力消費量も少なくなる高等テクニックだ。
岩の棘を地面から出現させる事で我らの意表を突いた点といい、このドワーフ、中々に強い。
戦い方が巧妙なので、割と参考になるな。
「風の刃」
しかし、ドワーフの岩石砲は、風の刃によって粉々に切り裂かれる。
見たところ、勇者の少女の属性魔法は風。
風属性魔法の長所として挙げられるのは、魔法の出の速さなのだが……それにしても、彼女が使用する魔法の発動速度は極めて速い。
その上、質量もスピードも申し分ない岩石砲を容易く切り裂ける出力を有しているのだから、威力も十分で。
……まずいな。
我、だんだんと楽しくなってきている。
暴走した民間人らしきドワーフと、年若き勇者の戦闘は見応えばっちり。
互いに高度な魔法を使用しているため、観戦に熱が入ってしまう。
悠長に楽しむ状況ではない事は重々承知しているが、どうしても感想がまろびでてしまうのだ。
一応言っておくが……もちろん、勇者を応援しているぞ。
ここには我だけではなく、何も罪のない幼子らもいるのだからな。
「わ、ああああ!!!!」
魔法の撃ち合いでは分が悪い。
そう判断したらしきドワーフは、半狂乱しながら勇者の少女へと飛びかかる。
奴が手に持つ武器は、刃渡りが長いナイフ。
対して、少女は徒手空拳。
間合い的に有利なのはドワーフであるが……接近するのは悪手であった。
「うぎゃあああ!!!!」
ナイフを勇者の少女へと突き立てた刹那、ドワーフの体が吹き飛ばされる。
それと同時に、手にしていたナイフごと、腕がズタズタに切り裂かれてしまった。
少女は一歩も動かず、反撃すらしていないのに。
……何故、こうなったのか。
一瞬だけ理解が追いつかなかったが、目を凝らして彼女の姿を見ると、すぐに介した。
それは、風の刃による鎧。
行動を阻害しないくらいの大きさの円状の風の刃を幾重にも重ね、自らの体を囲わせる。
そうする事で、ドワーフの刺突を防ぎ、逆に手傷を負わせたのだ。
イメージ的には、触れたら怪我をするフラフープを大量に身に纒うような感じと言えるだろう。
如何にも発想力に富んだ年若い少女らしい、固定観念に囚われない独創的な魔法。
弱点が全くないとは言えないものの、完成度の高い……攻防一体の術式だったのだ。
「ユウシャ……ユウシャアアアア!!!」
「……貴様に勝機はない。観念しろ」
ドワーフはもう自棄になっていた。
岩石砲を放ち、地面から岩の棘を出現させ、果てには全力で石を投擲する。
けれども、勇者の少女には通用しない。
回避できる攻撃は回避され、回避できない攻撃は風の鎧によって切り裂かれ。
風の鎧の特性上、近接で攻撃される事はないものの、風の刃によってじりじりと追い詰められる。
両者の間に存在する力の差は歴然。
どちらが勝利するかなんて、一目瞭然。
ドワーフに出来ることは、何も無かった。
風の刃の鎧で守りを固めながら、高威力かつ速度の早い風の刃で攻め立てる。
少女の戦法は、魔法に特化したアグロスタイル。
そのため、一度後手に回って仕舞うと、何もさせてもらえない。
状況的に不利な状態のまま、手数の多さで押しに押されてしまうのだ。
風の刃を幾つも同時に運用する性質により、魔力の消費が激しいため、短時間で勝負をつけなければならないデメリットはある。
だが、風の刃の鎧は堅牢で攻め手も申し分ないため、明確な打開策がない限り、突破は難しい。
現代の人々の手本となるに違いない、良く考えられた戦い方であった。
……そもそも、あそこまで健闘したドワーフは一体何者なのだろうか。
暴走した民間人にしては、強すぎるだろう。
流石に、ドワーフの実力が現代の平均レベルだなんて言わないよな?
ワンチャンありそうで、結構恐ろしいぞ……。
「目標の確保に成功しました。怪我人が複数いるので、救護班は直ちに……」
勇者の少女はあっさりとドワーフの拘束に成功し、いずれやってくるであろう救護班へ連絡する。
気を失っているアリサはともかく、我は依然として岩の棘に串刺しのまま。
そんな我を勇者の少女はじーっと見上げているのだが……多分、どうやって救護すれば良いのか分からず、思い悩んでいるのだろう。
じっくりと検討するがいい。
我は、いくらでも待てるからな。
「キ、キルギスくん。お、おな、お腹に穴が……岩に貫かれてるけど、平気なの……?」
「死んだりしない? だいじょうぶ? 尋常じゃないくらい痛そう」
「くくく……全くもって問題ない。全然、痛くもないぞ! 胴体を切断されても生命を維持できる程度に、我はタフだからな!」
レイやユウは、心配するような眼差しをこちらに向ける。
我はともかく、友人が串刺しになっている様を見る彼らの精神状態の方が心配だ。
……トラウマにならないと、良いのだが。
そういった心配があるため、本当はめちゃくちゃ痛いのだが、見栄を張っておく。
これぞ、年長者の余裕という奴だな。
「串刺しの御人! 申し訳ないが、少々手荒い救出方法を試みて宜しいか?」
そう考えていると、我の発言を耳にして何かを思いついたらしき勇者の少女に声をかけられる。
少々手荒い……か。
勇者の少女は見た感じだと、優秀だ。
終始、ドワーフを圧倒していた上に、民間人である我らに危険が及ばないように立ち回っていた。
そんな彼女が突飛な救出方法を提案するとは思えないが……どうにも嫌な予感がする。
ここは、大丈夫だと即答せず、詳細を尋ねてから判断するとしよう。
「少々手荒い救出方法? 具体的に、どうするつもりなのだ?」
「私の風の刃を用い、だるま落としの要領で岩の棘を削らせて頂く! それでは、ゆくぞ!」
「え? ちょ、ちょっと待っ」
我の返答を返答を待たずに、勇者の少女は「だるま落とし」を開始する。
感想を先に述べると、1000年前の時代でも体験した事がないくらいにはスリリングで。
思わず気絶してしまう程度には、刺激的。
もう二度と体験しなくない……地獄のようなアトラクションだった。
勇者の少女は、優秀ではあるのだろう。
至って生真面目で、実力も申し分ないが、それ以上に……人並外れて天然な気性であったようだ。
突如現れたドワーフに串刺しにされ、最低最悪なだるま落としを身をもって体験する。
ちびっこ魔法教室でアリサにボコボコにされた事といい、今日は厄日としか言えない。
しかし、その対価として、大きな学びを得た。
我は、応用力がないとされている無属性魔法に秘められた一つの可能性に気がついたのだ。
このアイデアを実現出来れば、アグロスタイルに勝ち得るかもしれない。
否。
……絶対に勝てると、そう確信した。
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