タ●ラントタ●ラントうるせぇな・・・と思ったのでここからは伏字は使いません。
「嬢、なんかあったか?」
「携帯食料が少しと、応急薬がありました」
「じゃ、朝飯にするか」
なんのかんのでゾラ・マグダラオスの背中から飛び降りるという、狩りゲーでも一二を争うエキサイティングなハプニングを経て、俺たちは新大陸にたどり着いた。
で、
ハンターたちの集う拠点はかなり離れたところにあったので、ここで朝食を食べて、力を蓄えようと意見をすり合わせて決めた。
なんせ俺たちはお互い手ぶら。モンスターからしてみれば食いでの悪いエサでしかない。
だったら減った体力を回復させるのが最優先だろう。
「おいしいですね」
「そうか?」
「子どものころから色んなものを食べてきましたから。ここだけの話、携帯食料は地域によって味が違うんですよ?」
「へェ」
ウィットのある言葉を吐いて、タイラントは少し疲れた顔ではにかんだ。
味っけない携帯食を押し込んで、甘いというか苦いというか、何ともえぐみのある応急薬で流し込んだ。両手を合わせて、ごちそうさまでしたと呟く。不味くても食事は食事。俺たちのために消費される命は感謝をこめてありがたくいただく。
・・・
これを教えてくれた母ちゃん、元気にしてるかなあ。
クソ、なんで今更センチになるんだ。二十五年も生きているくせになんで今更。死んだときのことは一切覚えてないが、なんでもいい、なんだっていい。俺がこうして元気に生きていることを母ちゃんに伝えられるなら、何を失っても惜しくない。
「相棒?」
ハッとした。
受付嬢が心配そうにこっちを見ている。一見大人でも全力で逃げそうな不気味さだったが、その目にははっきりとこちらへのいたわりがあった。
・・・オーケイ、自己憐憫はここまで。俺は今を生きている。過去を全く鑑みないのはよくないが、終わってしまったことにいつまでも後ろ髪を引っ張られたってどうしようもない。
そんなことより、はぐれてしまったオトモや仲間のことに目を向けるべきだ。いくらゲームの内容通りとはいえ、アッチと違って死人が出ていてもおかしくないんだから。
「・・・なんでもねえ。アステラに着いたら、真っ先に俺のオトモを見つけないといかんなと考えてただけだぜ」
「そうですね。きっと見つかりますよ、わたしも手伝いますからね!」
「おん、サンキュー」
ドヤ顔で両腕の力こぶを強調する受付嬢。見た目がB.o.w.だから頼もしさマシマシだ。
とにかく、腹ごしらえは済んだ。
さあ、ちゃっちゃとやったろうやんけ。
▼
自然を相手する時は、支配しようとするのではなく従うこと。
雨が降ったり風が強くなったりしたら物陰に隠れるように、獣が出たら息をひそめてやり過ごすように。
草木は切り払うのではなく、傷まないようにそっとよける。石ころ一つにも気をつけて、何よりも怪我に気をつけること。
そうして運よく助かったなら、自然のくれた慈悲に感謝しなさい。
これも母ちゃんから教えられた知恵だ。最初聞いたときの俺は「緊急時にそんな気遣いなんかできねーよ」と考えていた。恥ずかしい限りだ。今も昔も、俺は斜に構えるのがかっこいいと思ってるアホガキから成長してないもんで。
今、俺はそれを実践している!草木を折らないように進み、石で足を挫かないように気を配り、全神経を使ってモンスターが近づいてないか注意をする姿は捕食者に怯えるネズミのようだ。
気分は割と気楽。なにしろ俺は十五年間ハンターとして死んでもおかしくない目に遭いまくってきたからな。これくらいの緊張感ならアニメを見ているかのように心地いいものだ。
「相棒?大丈夫ですか?」
「おう。つーかあんま独断専行すんなよ嬢」
「いやだ、ごめんなさい」
小川沿いに歩いていた受付嬢はテクテクとこちらに戻ってきた。こうして長い時間一緒にいるとなんか愛嬌を感じてくるから不思議だ。
生水は当然飲めるわけないので、ポーチに入れた応急薬でちびちびと喉を潤しながら歩く。これが真夏だったら最悪だったが、今日は天気も温度も心地いい。日本とはえらい違いだ。
アステラへ直接続く道は案の定塞がれていたから俺たちは迂回しているってわけ。その辺はオリジナルストーリーらしくどいとけよ。そっちの方が楽だし面白いぞ?多分。
「・・・・・・あっ」
「嬢、息小さくしろ」
俺は受付嬢を押して草陰に隠れた。視界の先には、黄色いうろこをまとった巨体。
ドスジャグラスだ。木漏れ日が降り注ぐ森の中でお供を伴い、のし、のし、と闊歩している。
画面越しだったかつてと違い、生きて動いているその姿は遠くからでも心地いい迫力に全身が粟立つようだ。
(ど~やら縄張りの中に入っちまったみてェだな)
(これはしまりましたね・・・)
(ま、森に分け入った以上こうなんのはわかりきったことだろ)
丸腰であんな巨体にプレスされたら全身粉砕骨折死重点なのは間違いない。俺たちは慎重に立ち回りながら、迂回の道をたどった。
一応服や顔に草の汁や泥を擦り付けて変装はしているが、トカゲは二つの目に加え、頭頂部にももう一つ目がある。ドスジャグラスがどうなのかは知らないが、気を付けるに越したことはないだろう。
幸いと言うか、ドスジャグラスたちに気づかれないうちに森を抜けることができた。トカゲたちが見えなくなるまで音を殺しながら歩き、森から塞がれていた道の向こう側へ抜けて、陽射しを全身に浴びたとき、受付嬢はへなへなと膝を折った。
「腰が・・・は~・・・・・」
肺から酸素を絞り切るように息を吐いて汗を拭う受付嬢を見ていると、ああ、俺の目からは怪物のように見えているだけで、彼女はこの世界ではごく普通の水準に入るただの人間なんだなと心底実感した。怪物を見るような目をしていただろう自分が、途端に浅ましい人間に思えてくる。
「ごめんな」
「え?何がです?」
きょとんとする受付嬢へ、俺は申し訳なさを籠めた手を伸ばした。
「どれ、つかまりな。腰抜けたんなら引っ張り上げてやるよ」
「・・・・・・」
受付嬢はにっこり笑って、膝をぱんぱんと叩くと気丈に立ち上がった。
「へーきです!わたし、自立できる女なので!」
「・・・ははは!ちげぇねぇ!」
もう一度力こぶを作る受付嬢がおかしくて、思わず笑ってしまった。
▼
木の杭でできた、明らかに人工のものだとわかる門には数人のハンターがたむろしていた。中心人物らしいワイルドな扮装の男が俺に気づく。
「お前たち!大丈夫か!?」
「ウッス。捜索隊っスか?」
「ああ、救助したメンバーの中でお前らだけがいなかったから、隊を組んで探しに出かけていたんだ。見つかってよかった。悪いところはないか?」
首を振ると、リーダーは腕の何か──スリンガーに信号弾を籠めて、空に撃ち放った。青い煙が尾を引いて遠ざかっていく。緑色の服を着た女性が、勝気そうな顔を安堵したように緩めて受付嬢の肩に手を置いた。
「リーダーがあたしたちの言いたいことをみんな言ってしまったわね。悪い想像ばかりして、胸が苦しかったわ。怪我はしていない?」
「・・・ドキドキのし通しでちょっと疲れちゃいました」
受付嬢は胸に手を当て、肩を揺らして言った。「今ならベッドに抱かれてもいいです」と茶化すように付け足して、周囲の笑いを誘う。
「はは、まあ無事が何より!さあ、アステラに案内しよう。蜂蜜たっぷりの熱い茶とふかふかのベッドがお前たちを待っているぞ」
「そいつはうれしいね。お茶菓子もついてきたら言うことないんだが」
おどけると「欲張りめ!」と頭を小突かれ、ほがらかな笑いがまた起きた。
その後戻ってきた捜索チームと合流し、俺たちはアステラに入った。