異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜   作:トンコツマン

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第10話 カスミ冒険者になる 後編

 

アスナは頭を押さえながら、じっとカスミを睨みつけていた。

 

「……痛っ。よく初対面の相手を、こんな遠慮なく殴れるわね」

 

低く、苛立ちを滲ませた声。

 

それに対し、カスミはまったく悪びれる様子もなく言い放つ。

 

「無礼な相手に、遠慮する理由はないよ。初対面だろうと関係ない」

 

「……ふぅん」

 

アスナは目を細めた。

 

「“昔から”って言ってたわよね。前世、いくつだったの?」

 

「四十九歳だよ。――で、今は二十三」

 

さらりと答えるカスミ。

 

一瞬の沈黙。

 

そして――

 

アスナは吹き出した。

 

「……ははっ。なるほどね」

 

口元を押さえながら、くすくすと笑う。

 

「見た目は若いのに、中身は中年女ってわけか。コナンじゃん」

 

その視線には、わずかな軽蔑と興味が混じっていた。

 

「アスナちゃん、その辺でやめといた方が……」

 

ワタルが慌てて制止に入る。

 

だが――遅かった。

 

「――っ!」

 

鈍い音と共に、アスナの身体がぐらりと揺れた。

 

カスミの手刀が、容赦なく振り下ろされていた。

 

「……言葉は選びな」

 

短く、低い声。

 

アスナはその場でよろめき、意識を飛ばしかける。

 

(だから言ったのに……)

 

ワタルは内心でため息をついた。

 

「……とにかく」

 

気を取り直すように、ワタルが言う。

 

「カスミさん。そろそろギルドに向かいましょう」

 

「……ああ、そうだったね」

 

カスミは頷き、踵を返した。

 

「司教さん、邪魔したよ」

 

二人がその場を後にしようとした、その時。

 

「……ちょっと待って」

 

後ろから声がかかる。

 

振り返ると、頭を押さえながら立ち上がるアスナの姿があった。

 

「今からギルドに行くの?」

 

「ああ。生活費を稼ぐためにね。冒険者登録だよ」

 

その言葉に、アスナの目がわずかに光る。

 

「……へぇ」

 

何かを測るような視線。

 

そして、ふっと笑った。

 

「面白そうじゃない」

 

そのままセイラへ振り向く。

 

「司教様。少し外出します」

 

「アスナさん、待ちなさい。掃除は――」

 

「はいはい、帰ってからやるわよ」

 

言い切ると同時に、彼女は駆け出した。

 

止める暇もない。

 

「……まったく」

 

セイラは小さくため息をつきながら、三人の背中を見送った。

 

 

道中。

 

アスナはふと思い出したように口を開く。

 

「そういえば、孤児院にいるって言ってたわよね。ニコルはどうなったの?」

 

その名前に、ワタルは少し表情を引き締めた。

 

「その件なら……カスミさんが解決したよ」

 

「……嘘……!?あのニコルを?」

ワタルはこれまでの経緯を簡潔に説明する。

話を聞き終えたアスナは、しばらく沈黙した。

 

そして――

 

「……あんた、何者?」

 

カスミを見つめる視線が変わる。

 

軽口は消え、代わりに警戒が浮かんでいた。

 

「大したもんじゃないよ」

 

カスミは肩をすくめる。

 

「ただの“母親”さ」

 

その言葉に、アスナは何も返さなかった。

 

(……逆らわない方がいいタイプね)

 

それだけは、はっきり理解した。

 

 

やがて三人は、大きな建物の前に辿り着く。

 

冒険者ギルド。

 

扉の向こうからは、ざわめきと荒々しい気配が漏れていた。

 

「ここがギルドか」

 

カスミが一歩踏み出す。

 

中に入ると、屈強な冒険者たちが所狭しとひしめいていた。

 

視線が、一斉にこちらへ向く。

 

――新顔。

 

そう値踏みするような空気。

 

だがカスミは気にした様子もなく、受付へと歩いていく。

 

「ようこそ、冒険者ギルドへ。受付のリアナです。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

「登録を頼むよ」

 

手続きは淡々と進んだ。

 

書類の記入、確認。

 

そして――

 

「こちらが冒険者カードになります」

 

三人の手に、それぞれカードが渡される。

 

「冒険者にはランクがあり、FからSまで存在します。皆様はFランクからのスタートです」

 

リアナは丁寧に説明を続けた。

 

依頼内容、昇格条件、規則。

 

すべてを聞き終えた後――

 

一人だけ、不満そうな顔をしている者がいた。

 

「……ちょっと待って」

 

アスナだった。

 

「なんで私まで登録されてるのよ」

 

「いや、ついて来たからでしょ」

 

ワタルが即答する。

 

「教会の仕事もあるんでしょ?だったら――」

 

「……正直、あそこ居心地悪いのよね」

 

ぽつりと漏らす。

 

「義理で居るだけだし」

 

少しの沈黙。

 

そして――

 

「……決めた」

 

アスナは顔を上げた。

 

「一緒にやるわ。冒険者」

 

カスミが、わずかに笑う。

 

「いいじゃないか。歓迎するよ」

 

「これで決まりですね」

 

ワタルも安堵したように息を吐いた。

 

「では、依頼はあちらのボードからお選びください」

 

リアナが指差す先には、無数の依頼書が並んでいる。

 

「……まずは様子見だね」

 

カスミは静かに言う。

 

「魔物討伐は後回し。別の仕事から始めるよ」

 

「冒険者なのに?」

 

アスナが首を傾げる。

 

「無益な殺生はしない。それだけさ」

 

その言葉に、アスナは何も言えなかった。

 

 

――その頃。

 

街外れの酒場。

 

薄暗い店内で、二人の男女が向かい合っていた。

 

「……あの孤児院に、いるんだな?」

 

女が低く問う。

 

「ああ。“ファミリア”って場所らしい」

 

男が酒をあおりながら答える。

 

「まったく……余計な手間をかけさせやがる」

 

女は舌打ちした。

 

「最初から素直に捕まってりゃいいものを」

 

「そう言うなよ」

 

男は笑う。

 

「迎えに行くんだろ?“親”として」

 

「ふざけるな」

 

女の目が冷たく光る。

 

「あんなもん、勝手に生まれてきただけだ」

 

言葉には一切の情がなかった。

 

「……まあいい」

 

男は煙を吐きながら言う。

 

「用心棒も手配済みだ。腕は確かだぞ」

 

「確か、ね……」

 

女は笑う。

 

「失敗は許さないよ」

 

「わかってるさ」

 

二人の視線が交差する。

 

「――明日だ」

 

その言葉と共に、静かな殺意が場を満たした。

 

 

NEXT

「親は子供の危機に駆けつける 前編」

 




孤児院に魔の手が!
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