異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜 作:トンコツマン
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アスナは頭を押さえながら、じっとカスミを睨みつけていた。
「……痛っ。よく初対面の相手を、こんな遠慮なく殴れるわね」
低く、苛立ちを滲ませた声。
それに対し、カスミはまったく悪びれる様子もなく言い放つ。
「無礼な相手に、遠慮する理由はないよ。初対面だろうと関係ない」
「……ふぅん」
アスナは目を細めた。
「“昔から”って言ってたわよね。前世、いくつだったの?」
「四十九歳だよ。――で、今は二十三」
さらりと答えるカスミ。
一瞬の沈黙。
そして――
アスナは吹き出した。
「……ははっ。なるほどね」
口元を押さえながら、くすくすと笑う。
「見た目は若いのに、中身は中年女ってわけか。コナンじゃん」
その視線には、わずかな軽蔑と興味が混じっていた。
「アスナちゃん、その辺でやめといた方が……」
ワタルが慌てて制止に入る。
だが――遅かった。
「――っ!」
鈍い音と共に、アスナの身体がぐらりと揺れた。
カスミの手刀が、容赦なく振り下ろされていた。
「……言葉は選びな」
短く、低い声。
アスナはその場でよろめき、意識を飛ばしかける。
(だから言ったのに……)
ワタルは内心でため息をついた。
「……とにかく」
気を取り直すように、ワタルが言う。
「カスミさん。そろそろギルドに向かいましょう」
「……ああ、そうだったね」
カスミは頷き、踵を返した。
「司教さん、邪魔したよ」
二人がその場を後にしようとした、その時。
「……ちょっと待って」
後ろから声がかかる。
振り返ると、頭を押さえながら立ち上がるアスナの姿があった。
「今からギルドに行くの?」
「ああ。生活費を稼ぐためにね。冒険者登録だよ」
その言葉に、アスナの目がわずかに光る。
「……へぇ」
何かを測るような視線。
そして、ふっと笑った。
「面白そうじゃない」
そのままセイラへ振り向く。
「司教様。少し外出します」
「アスナさん、待ちなさい。掃除は――」
「はいはい、帰ってからやるわよ」
言い切ると同時に、彼女は駆け出した。
止める暇もない。
「……まったく」
セイラは小さくため息をつきながら、三人の背中を見送った。
◆
道中。
アスナはふと思い出したように口を開く。
「そういえば、孤児院にいるって言ってたわよね。ニコルはどうなったの?」
その名前に、ワタルは少し表情を引き締めた。
「その件なら……カスミさんが解決したよ」
「……嘘……!?あのニコルを?」
ワタルはこれまでの経緯を簡潔に説明する。
話を聞き終えたアスナは、しばらく沈黙した。
そして――
「……あんた、何者?」
カスミを見つめる視線が変わる。
軽口は消え、代わりに警戒が浮かんでいた。
「大したもんじゃないよ」
カスミは肩をすくめる。
「ただの“母親”さ」
その言葉に、アスナは何も返さなかった。
(……逆らわない方がいいタイプね)
それだけは、はっきり理解した。
◆
やがて三人は、大きな建物の前に辿り着く。
冒険者ギルド。
扉の向こうからは、ざわめきと荒々しい気配が漏れていた。
「ここがギルドか」
カスミが一歩踏み出す。
中に入ると、屈強な冒険者たちが所狭しとひしめいていた。
視線が、一斉にこちらへ向く。
――新顔。
そう値踏みするような空気。
だがカスミは気にした様子もなく、受付へと歩いていく。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。受付のリアナです。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「登録を頼むよ」
手続きは淡々と進んだ。
書類の記入、確認。
そして――
「こちらが冒険者カードになります」
三人の手に、それぞれカードが渡される。
「冒険者にはランクがあり、FからSまで存在します。皆様はFランクからのスタートです」
リアナは丁寧に説明を続けた。
依頼内容、昇格条件、規則。
すべてを聞き終えた後――
一人だけ、不満そうな顔をしている者がいた。
「……ちょっと待って」
アスナだった。
「なんで私まで登録されてるのよ」
「いや、ついて来たからでしょ」
ワタルが即答する。
「教会の仕事もあるんでしょ?だったら――」
「……正直、あそこ居心地悪いのよね」
ぽつりと漏らす。
「義理で居るだけだし」
少しの沈黙。
そして――
「……決めた」
アスナは顔を上げた。
「一緒にやるわ。冒険者」
カスミが、わずかに笑う。
「いいじゃないか。歓迎するよ」
「これで決まりですね」
ワタルも安堵したように息を吐いた。
「では、依頼はあちらのボードからお選びください」
リアナが指差す先には、無数の依頼書が並んでいる。
「……まずは様子見だね」
カスミは静かに言う。
「魔物討伐は後回し。別の仕事から始めるよ」
「冒険者なのに?」
アスナが首を傾げる。
「無益な殺生はしない。それだけさ」
その言葉に、アスナは何も言えなかった。
◆
――その頃。
街外れの酒場。
薄暗い店内で、二人の男女が向かい合っていた。
「……あの孤児院に、いるんだな?」
女が低く問う。
「ああ。“ファミリア”って場所らしい」
男が酒をあおりながら答える。
「まったく……余計な手間をかけさせやがる」
女は舌打ちした。
「最初から素直に捕まってりゃいいものを」
「そう言うなよ」
男は笑う。
「迎えに行くんだろ?“親”として」
「ふざけるな」
女の目が冷たく光る。
「あんなもん、勝手に生まれてきただけだ」
言葉には一切の情がなかった。
「……まあいい」
男は煙を吐きながら言う。
「用心棒も手配済みだ。腕は確かだぞ」
「確か、ね……」
女は笑う。
「失敗は許さないよ」
「わかってるさ」
二人の視線が交差する。
「――明日だ」
その言葉と共に、静かな殺意が場を満たした。
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「親は子供の危機に駆けつける 前編」
孤児院に魔の手が!