異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜   作:トンコツマン

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この異世界クロノスの通貨は「クロノス」です
100〜100000クロノス(紙幣あり)


第12話 親は子供の危機に駆けつける 中編

くだらない言い争いがようやく収まり、空気が落ち着きを取り戻した頃――アスナは腕を組み、当然といった顔で口を開いた。

 

「成り行きとはいえ、私も冒険者になって……気づけばあんた達とパーティーを組んでたんだから。今回の報酬、ちゃんと取り分はもらうわよ」

 

その態度は一歩も引かない。「当然でしょ?」とでも言いたげな視線だった。

だがカスミは、不満どころかあっさりとうなずく。

 

「そうだね。アスナはもう、私たちの仲間なんだから。それは当然の要求だよ。それに……メガ……ワタルもね」

 

(今、絶対“メガネ”って言いかけたよな……)

 

ワタルは内心でため息をつく。

 

カスミは懐から袋を取り出し、二人にそれぞれ二千クロノスを手渡した。

 

「ちょっと待ちなさいよ!なんで二千クロノスぽっちなの!?残りは全部あんたが取る気!?」

 

アスナの声が一気に荒れる。

 

「違うよ、アスナちゃん!」

ワタルが慌ててフォローに入る。

「ボクたちは元々、生活費を稼ぐために冒険者になったんだ。だから報酬は、基本的に全部生活費に回すんだよ」

 

「わがまま言うんじゃないよ」

 

カスミの声が、ぴたりと空気を凍らせた。

 

「アスナはまだ子供だ。大金を持つべきじゃない」

 

その一言が――火種だった。

 

「……っ!」

 

アスナの表情が歪む。

 

「何よ、それ……まるでウチのママみたいな言い方!あんた、私の親でも何でもないでしょ!」

 

「……やっぱりね」

 

カスミは静かに目を細める。

 

「前世でも、似たようなことがあったんだろう?」

 

「くっ……!」

 

その一言で、アスナの心の奥底が抉られた。

 

――思い出したくもない記憶が、蘇る。

 

―――

 

「ママ!お小遣い二千円じゃ少ない!一万円にしてよ!みんなそれくらいもらってるんだから!」

 

「アスナ。あなたはまだ中学二年生よ。子供がいきなり大金を持てば、金銭感覚が狂うの」

 

「どうせ『うちはうち、よそはよそ』って言うんでしょ!?」

 

「違うわ!お金は簡単に手に入るものじゃないの。若いうちから大金を持てば――ろくな大人にならない。だから私たちは――」

 

「もういい!ママなんか、大嫌い!」

 

家を飛び出したあの日。

胸に渦巻いていた、幼く、愚かな感情。

 

「ママなんて……ママなんて……」

 

――消えてしまえばいいのに。

 

甲高いクラクション。

 

視界を埋める、光。

 

―――

 

「……っ」

 

現実に引き戻される。

 

「母親と何があったかは知らない。でもね」

 

カスミの声は、どこまでも冷静だった。

 

「アンタの母親は、アンタのことを思って言ってるんだよ」

 

「そうだよ、アスナちゃん!」

ワタルも続ける。

「カスミさんだって、ちゃんとアスナちゃんのこと――」

 

「うるさい!!」

 

アスナの叫びが、ギルド内に響いた。

 

「赤の他人のくせに、知ったようなこと言わないで!私が死んでこの世界に来たのも……全部、ママのせいよ!」

 

そして――

 

「あんなママ……死ねばよかったのよ!!」

 

――その瞬間。

 

乾いた音が、空気を裂いた。

 

バシンッ――!

 

ギルド中が凍りつく。

 

アスナの頬に、赤い痕が浮かぶ。

 

「――自分の親の悪口を言うんじゃない!!」

 

カスミの怒声が、壁を震わせた。

 

誰一人、動けない。

 

「……叩いたわね……!」

 

アスナの瞳に涙が溢れる。

 

「何よ……何が冒険者よ……!こんなことなら、なるんじゃなかった!!」

 

そのまま、アスナは走り去った。

 

「アスナちゃん!」

ワタルが叫ぶ。

 

「カスミさん、いいんですか!?追いかけなくて!」

 

「……構わないよ」

 

カスミは静かに答えた。

 

「少し頭を冷やせば、分かる」

 

その場に残された冒険者たちは、ただ呆然と立ち尽くしていた。

 

「……悪いね、ロアナ。騒がせちまった」

 

「え?あ、ううん……大丈夫よ。こういう揉め事は珍しくないし……ただ……」

 

ロアナは苦笑する。

 

「カスミさんの迫力に、ちょっと圧倒されただけ」

 

――やがて、カスミとワタルもギルドを後にした。

 

―――

 

その頃。

 

教会へと駆け戻ったアスナは、入口でセイラと鉢合わせた。

 

「あら、お帰りなさい……って、その顔」

 

セイラは一目で察する。

 

「カスミさんと、何かありましたね?」

 

「な、なんで分かるのよ……」

 

セイラはそっと手を伸ばし、アスナの頬に触れた。

 

「そんな顔をしていれば、誰だって分かりますよ。……何があったんですか?」

 

アスナは涙を滲ませながら、これまでの出来事を語った。

 

話を聞き終えたセイラは、静かに口を開く。

 

「アスナさん。あなたは勘違いしています」

 

「……は?」

 

「あなたは“怒られた”と思っている。でも、きっと違います」

 

真っ直ぐな瞳で、セイラは言った。

 

「カスミさんは、あなたを“叱った”のですよ」

 

「同じじゃない……」

 

「違います」

 

その言葉は、はっきりと断言された。

 

「“怒る”は感情をぶつけること。“叱る”は、相手を正しい道へ導くための行為です」

 

「――!」

 

胸の奥に、何かが刺さる。

 

「……まあ、叩いたのは少しやり過ぎだと思いますけど」

 

苦笑するセイラ。

 

その言葉を聞いた瞬間――アスナの瞳から、大粒の涙が溢れた。

 

「……なんで……こんな簡単なことに、気づかなかったのよ……」

 

嗚咽混じりの声。

 

「ママは……私のことを考えてくれてたのに……それなのに……!」

 

拳を握りしめる。

 

「わがまま言って……挙句に“死ね”なんて……!」

 

後悔が、胸を締め付ける。

 

「……カスミは、全部分かってた……」

 

セイラはそっと、アスナの背中を押した。

 

「気づいたのなら――やるべきことは分かりますね?」

 

「で、でも……私……」

 

「行きなさい」

 

その声は、優しくも厳しかった。

 

「自分の過ちに気づいたなら、素直に謝ること。それが一番大事です」

 

そして、はっきりと言い切る。

 

「ちゃんと謝るまで、ここに戻ってきてはいけません」

 

「……っ!」

 

迷いを振り切るように、アスナは顔を上げた。

 

そして――駆け出す。

 

向かう先は、ただ一つ。

 

――自分が、帰るべき場所へ。

 

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「親は子供の危機に駆けつける 後編」

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