異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜 作:トンコツマン
100〜100000クロノス(紙幣あり)
くだらない言い争いがようやく収まり、空気が落ち着きを取り戻した頃――アスナは腕を組み、当然といった顔で口を開いた。
「成り行きとはいえ、私も冒険者になって……気づけばあんた達とパーティーを組んでたんだから。今回の報酬、ちゃんと取り分はもらうわよ」
その態度は一歩も引かない。「当然でしょ?」とでも言いたげな視線だった。
だがカスミは、不満どころかあっさりとうなずく。
「そうだね。アスナはもう、私たちの仲間なんだから。それは当然の要求だよ。それに……メガ……ワタルもね」
(今、絶対“メガネ”って言いかけたよな……)
ワタルは内心でため息をつく。
カスミは懐から袋を取り出し、二人にそれぞれ二千クロノスを手渡した。
「ちょっと待ちなさいよ!なんで二千クロノスぽっちなの!?残りは全部あんたが取る気!?」
アスナの声が一気に荒れる。
「違うよ、アスナちゃん!」
ワタルが慌ててフォローに入る。
「ボクたちは元々、生活費を稼ぐために冒険者になったんだ。だから報酬は、基本的に全部生活費に回すんだよ」
「わがまま言うんじゃないよ」
カスミの声が、ぴたりと空気を凍らせた。
「アスナはまだ子供だ。大金を持つべきじゃない」
その一言が――火種だった。
「……っ!」
アスナの表情が歪む。
「何よ、それ……まるでウチのママみたいな言い方!あんた、私の親でも何でもないでしょ!」
「……やっぱりね」
カスミは静かに目を細める。
「前世でも、似たようなことがあったんだろう?」
「くっ……!」
その一言で、アスナの心の奥底が抉られた。
――思い出したくもない記憶が、蘇る。
―――
「ママ!お小遣い二千円じゃ少ない!一万円にしてよ!みんなそれくらいもらってるんだから!」
「アスナ。あなたはまだ中学二年生よ。子供がいきなり大金を持てば、金銭感覚が狂うの」
「どうせ『うちはうち、よそはよそ』って言うんでしょ!?」
「違うわ!お金は簡単に手に入るものじゃないの。若いうちから大金を持てば――ろくな大人にならない。だから私たちは――」
「もういい!ママなんか、大嫌い!」
家を飛び出したあの日。
胸に渦巻いていた、幼く、愚かな感情。
「ママなんて……ママなんて……」
――消えてしまえばいいのに。
甲高いクラクション。
視界を埋める、光。
―――
「……っ」
現実に引き戻される。
「母親と何があったかは知らない。でもね」
カスミの声は、どこまでも冷静だった。
「アンタの母親は、アンタのことを思って言ってるんだよ」
「そうだよ、アスナちゃん!」
ワタルも続ける。
「カスミさんだって、ちゃんとアスナちゃんのこと――」
「うるさい!!」
アスナの叫びが、ギルド内に響いた。
「赤の他人のくせに、知ったようなこと言わないで!私が死んでこの世界に来たのも……全部、ママのせいよ!」
そして――
「あんなママ……死ねばよかったのよ!!」
――その瞬間。
乾いた音が、空気を裂いた。
バシンッ――!
ギルド中が凍りつく。
アスナの頬に、赤い痕が浮かぶ。
「――自分の親の悪口を言うんじゃない!!」
カスミの怒声が、壁を震わせた。
誰一人、動けない。
「……叩いたわね……!」
アスナの瞳に涙が溢れる。
「何よ……何が冒険者よ……!こんなことなら、なるんじゃなかった!!」
そのまま、アスナは走り去った。
「アスナちゃん!」
ワタルが叫ぶ。
「カスミさん、いいんですか!?追いかけなくて!」
「……構わないよ」
カスミは静かに答えた。
「少し頭を冷やせば、分かる」
その場に残された冒険者たちは、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「……悪いね、ロアナ。騒がせちまった」
「え?あ、ううん……大丈夫よ。こういう揉め事は珍しくないし……ただ……」
ロアナは苦笑する。
「カスミさんの迫力に、ちょっと圧倒されただけ」
――やがて、カスミとワタルもギルドを後にした。
―――
その頃。
教会へと駆け戻ったアスナは、入口でセイラと鉢合わせた。
「あら、お帰りなさい……って、その顔」
セイラは一目で察する。
「カスミさんと、何かありましたね?」
「な、なんで分かるのよ……」
セイラはそっと手を伸ばし、アスナの頬に触れた。
「そんな顔をしていれば、誰だって分かりますよ。……何があったんですか?」
アスナは涙を滲ませながら、これまでの出来事を語った。
話を聞き終えたセイラは、静かに口を開く。
「アスナさん。あなたは勘違いしています」
「……は?」
「あなたは“怒られた”と思っている。でも、きっと違います」
真っ直ぐな瞳で、セイラは言った。
「カスミさんは、あなたを“叱った”のですよ」
「同じじゃない……」
「違います」
その言葉は、はっきりと断言された。
「“怒る”は感情をぶつけること。“叱る”は、相手を正しい道へ導くための行為です」
「――!」
胸の奥に、何かが刺さる。
「……まあ、叩いたのは少しやり過ぎだと思いますけど」
苦笑するセイラ。
その言葉を聞いた瞬間――アスナの瞳から、大粒の涙が溢れた。
「……なんで……こんな簡単なことに、気づかなかったのよ……」
嗚咽混じりの声。
「ママは……私のことを考えてくれてたのに……それなのに……!」
拳を握りしめる。
「わがまま言って……挙句に“死ね”なんて……!」
後悔が、胸を締め付ける。
「……カスミは、全部分かってた……」
セイラはそっと、アスナの背中を押した。
「気づいたのなら――やるべきことは分かりますね?」
「で、でも……私……」
「行きなさい」
その声は、優しくも厳しかった。
「自分の過ちに気づいたなら、素直に謝ること。それが一番大事です」
そして、はっきりと言い切る。
「ちゃんと謝るまで、ここに戻ってきてはいけません」
「……っ!」
迷いを振り切るように、アスナは顔を上げた。
そして――駆け出す。
向かう先は、ただ一つ。
――自分が、帰るべき場所へ。
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「親は子供の危機に駆けつける 後編」