異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜 作:トンコツマン
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ロメロから孤児院を引き継いで――ひと月後。
静かに、しかし確実にその時は訪れた。
ロメロ・スペーシャルは息を引き取り、
ファミリアの関係者たちによって、葬儀が執り行われた。
空は曇天。
重く垂れ込めた雲が、まるで残された者たちの心を映しているようだった。
「……さあ、アンタたち」
カスミは子供たちの背をそっと押す。
「ロメロのおじさんに、お別れをしな」
小さな足音が、静かに墓前へと進む。
「ロメロのおじさん……ありがとう」
「天国でも元気でね……」
震える声。堪えきれない涙。
その光景を見つめながら、カスミは目を細めた。
――あの男は、最後までこの子たちのことを考えていた。
その想いは、確かにここに残っている。
*
参列者は多くはない。
だが、その一人一人がロメロと深く関わった者たちだった。
「カスミさん。この度は心よりお悔やみ申し上げます」
「……ラルフか」
騎士団長ラルフが、静かに頭を下げる。
「忙しい中、よく来てくれたね」
「いえ……俺にとっても、ロメロさんは恩人でした」
一度言葉を区切り、ラルフは続ける。
「俺も……ここで育った孤児の一人です」
「そうかい」
「だから……正直、怖かったんです。この場所がなくなるんじゃないかって」
その言葉に、カスミは小さく息を吐いた。
「大丈夫さ」
短く、だが強く。
「ロメロの意思は私が引き継いだ。あの子たちも、この場所も――全部守る」
迷いのない声だった。
ラルフは、その言葉に救われたように微笑む。
「……本当に、不思議な人だ」
「何がだい?」
「普通なら、この役目を迷わず引き受けたりはしない。でもあなたは違う」
カスミは肩をすくめる。
「覚悟なんてものは、とっくにできてるだけさ」
「……現世、ですか」
ラルフが問いかけようとした、その時――
「――でさぁ!オレ、そいつに言ってやったんだよ!」
場違いな笑い声が、静寂を切り裂いた。
振り返ると、そこにはクリフ・デルタ・ロックハートの姿。
派手な服装に、軽薄な笑み。
両脇には、同じような空気を纏った女たち。
「おっ、カスミちゃーん。久しぶりじゃん?」
「……ここがどういう場所か、理解してるのかい?」
カスミの声は低く、冷たい。
「遊びに来る場所じゃない。帰りな」
ラルフも一歩前に出る。
「クリフさん。これ以上の無礼は許されません」
だが、クリフは鼻で笑った。
「相変わらず堅いなぁ。ちょっと顔見に来ただけだって」
女たちがくすくすと笑う。
その軽薄さが、場の空気をさらに冷やした。
「いい加減にしな」
カスミの一言が、鋭く突き刺さる。
「これ以上騒ぐなら――叩き出すよ」
一瞬、空気が張り詰めた。
クリフは舌打ちし、踵を返す。
「……チッ。覚えとけよ」
その目には、わずかな苛立ちと――歪んだ興味が宿っていた。
*
その後、スコットが現れ、謝罪し、ロメロを悼む。
そしてカスミは、変わらぬ覚悟を告げる。
「ロメロの意思は、私が引き継ぐ」
その言葉に、スコットは深く頭を下げた。
*
葬儀が終わり、人が引いていく。
静けさが戻った墓地で――
ラルフは何かを言いかけ、しかし言葉にできず去っていった。
その背中を見送りながら、カスミはぽつりと呟く。
「……若いねぇ」
*
――同じ頃。
ロックハート邸。
豪奢な部屋の中で、クリフはワインを傾けていた。
周囲では女たちが騒いでいるが、その声は彼の耳には入っていない。
「……カスミ、か」
低く呟く。
脳裏に浮かぶのは、あの気の強い女。
「いいよなぁ……ああいうの」
グラスを傾ける。
「簡単に従わない女ほど、落とした時が面白ぇ」
その目は、完全に歪んでいた。
「……そうだな」
机の引き出しを開ける。
中から取り出したのは、小さな瓶。
透明な液体が揺れる。
「前に使った“アレ”……まだ残ってたか」
にやり、と笑う。
「ちょっと強めのやつも、用意しとくか」
女の一人が不安げに言う。
「それって……違法なんじゃないの?」
「大丈夫だって」
クリフは軽く笑う。
「多少ヤバくても、どうとでもなる。ウチには“力”があるからな」
その言葉には、根拠のない自信と――腐った特権意識が滲んでいた。
「……待ってろよ、カスミ」
瓶を指で転がしながら、低く呟く。
「次は絶対――落としてやる」
その笑みは、もはやただの遊びではなかった。
静かに、しかし確実に。
悪意が、動き出していた。
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『領主の責務 中編』