異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜   作:トンコツマン

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第19話 領主の責務 後編

モンシアに案内され、クリフの部屋へ足を踏み入れた瞬間――空気が、妙に軽かった。

 

ソファにだらしなく寝そべったクリフが、待ち構えていたかのように上体を起こす。

 

「おっ!来た来た♪ 待ってたよ〜ん♪ ……お、ちゃんとメイド服に着替えてくれたんだね。その小包、こっちちょうだい」

 

カスミたちは無言で前に出る――が、一人だけ足が止まっていた。

 

ワタルだ。

 

ドアの影に半分隠れたまま、絶対に入ろうとしない。

 

「いい加減に観念しなさいよ!」

 

アスナが強引に腕を掴み、ズルズルと引きずり込む。

 

「結構可愛いんだから問題ないでしょ!」

 

「嫌だよ!!こんな恥ずかしい格好、誰も見たくないって!!なんでボクだけミニスカなの!?っていうかアスナちゃん絶対楽しんでるでしょこれ!!」

 

「ふーん……」

 

クリフの目が、怪しく細められる。

 

「やっぱりオレの見立ては正しかったな。カスミちゃんとアスナちゃんもいいけど……ピンクのウィッグにミニスカメイドの男の娘、ワタル……いいねぇ、実に唆る」

 

「(ヅラじゃない!ウィッグだ!!……って今ツッコんでる場合じゃない!!)ひぃぃぃ!!ボクにそんな趣味はありません!!」

 

明らかに呼吸が荒くなっているクリフに、カスミが眉をひそめた。

 

「……それより、あたしたちは何をすればいいんだい?まさか、いかがわしいことでもさせる気かい。この変態」

 

「いきなり失礼だな!?オレはただ“ご奉仕”してほしいだけだよ」

 

クリフは楽しげに指を鳴らす。

 

「君たち、転生者なんだろ?元の世界には“メイド喫茶”っていう文化があるって聞いたよ。可愛いメイドが接客してくれる店なんだって?」

 

「なんでそれをあなたが知ってるんですか?」

 

ワタルが警戒するように問い返す。

 

「うちの使用人に転生者がいてね。“ジュンペイ・サクラバ”。固有アイテムが“タブレット”でさ。“ドウガ”ってやつを見せてもらったんだよ」

 

にやり、と笑う。

 

「……あれは衝撃だった。だから再現したくなった。それだけだよ」

 

「つまり、動画に影響されて私たちにメイド服を着せた、と」

 

「そうそう。で、君たちの経験を活かして接客してほしい。安心していい、“プレイ”とかじゃなくて純粋な再現だから」

 

(今、ちょっと怪しいこと言いかけたよね?)

 

そんなやり取りの中――

 

「ちょっと待ちな!」

 

カスミだけが腕を組み、完全に話についていけていなかった。

 

「メイド喫茶?ご奉仕?何をさせる気なんだい?」

 

(しまった……!)

 

ワタルとアスナが同時に顔を見合わせる。

 

(カスミさん、この文化知らない!!)

 

「(もう説明するしかないわ……!スマホで動画見せるわよ!)」

 

「クリフさん、少し時間をください!」

 

三人は一度部屋を出た。

 

――そして数分後。

 

「ふざけるんじゃないよ!!!」

 

屋敷の廊下に怒号が響いた。

 

「頭おかしいんじゃないのかい!?これをやれって!?冗談じゃないよ!!服はまだいい!でもこの接客は無理だ!!帰るよ!!」

 

怒り心頭のカスミが踵を返す。

 

「だ、ダメよ!!あんたが帰ったら終わりでしょ!!」

 

「そうですよ!拒否権ないんですから!!土地権利証、クリフさんが持ってるんですよ!?」

 

「聞けるかい!!“萌え萌えきゅん”なんて言えるか!!」

 

(……今ちょっとノリかけてたわよね)

 

その時――

 

「何してるの?」

 

いつの間にか後ろに立っていたクリフが、あっさりと言った。

 

「拒否権ないって言ったよね?」

 

空気が一瞬、凍る。

 

その緊張を破ったのは――ワタルだった。

 

「大丈夫です!!今のカスミさんならいけます!!」

 

「は?」

 

「その容姿!スタイル!そして声!!“はやみん”こと早見沙織さんレベルの破壊力です!!」

 

「(何言ってるか全然わからないよ!!)」

 

沈黙。

 

そして――

 

「……ええい!ままよ!!やってやるよ!!」

 

こうして、即席メイド喫茶が開店することになった。

 

⸻

 

「いい?段取り通りよ」

 

アスナが指示を飛ばす。

 

「特にカスミ。今だけは完全にメイドになりきるの」

 

「わかってるよ……これはファミリアのためだ。ロメロの守ってきた場所を守るためだ!!」

 

その瞳には、覚悟が宿っていた。

 

⸻

 

玄関。

 

「お帰りなさいませ♪ご主人様♪」

 

ワタルが完璧な笑顔で出迎える。

 

「おおおっ!!これがメイド喫茶か!!」

 

クリフ、感動。

 

完全にテンションが上がっている。

 

案内され、部屋へ――

 

「お帰りなさいませ!ご主人様!」

 

カスミとアスナが、揃って頭を下げた。

 

その笑顔は――

 

(怖い)

 

(怖いわね)

 

ワタルとアスナの心が一致する。

 

⸻

 

料理が運ばれる。

 

「キャラメルラテにお絵描きしまーす♪」

 

「オムライスにはクマを描くよ」

 

そして――運命の瞬間。

 

「ではご主人様、“おまじない”をかけます」

 

カスミが微笑む。

 

「両手でハートを作って――復唱してください。“美味しくなーれ♪萌え♪萌え♪”」

 

(……これ、絶対やばい)

 

アスナがニヤリと笑う。

 

(ワタル、作戦よ)

 

(え、マジで!?……でも見たい)

 

頷き合う二人。

 

そして――

 

カスミ、ただ一人。

 

「美味しくなーれ♪萌え♪萌え♪きゅーん♪」

 

――静寂。

 

次の瞬間。

 

ドサッ。

 

ワタル、崩れる。

 

ドサッ。

 

アスナ、崩れる。

 

ドサッ。

 

クリフ、崩れる。

 

「な、なんだこの破壊力はぁぁぁぁぁ!!」

 

「予想外ですよ!!早見沙織ボイスの威力やばすぎです!!」

 

「女の私でも耐えられない……!」

 

「……何やってんだい、あんたら?」

 

カスミだけが、何も知らない。

 

⸻

 

数分後。

 

「最高だよカスミちゃん!!」

 

「想像以上ね……」

 

「……あ」

 

ワタルとアスナ、固まる。

 

カスミのこめかみに、青筋。

 

「……説明してもらおうか?」

 

ゴキッ、と指が鳴る。

 

「ちょっと待って!!その顔は絶対殴るやつ!!」

 

「まあまあ、楽しかったじゃないか」

 

クリフの一言で――

 

プチン!

 

カスミの中でブチっと何かがキレる音がした

 

「何が楽しかっただ!!このドラ息子がぁ!!」

 

パチーン!!

 

吹っ飛ぶクリフ。

 

「殴ったね!?」

 

バチーン!!

 

追撃。

 

「二度もぶった!!」

 

「殴って何が悪い!!」

 

(ガンダムネタ!?しかもブライトさんのポーズ完璧!?)

 

⸻

 

ドアが勢いよく開く。

 

「何事だ!!クリフ!!」

 

スコットとスレイが飛び込んできた。

 

――騒動は、まだ終わらない。

 

NEXT

「領主の責務 完結編」

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