異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜 作:トンコツマン
ファンクはテリー・ファンクから使いましたw
(どうしてだよ……どうしてなんだよ、姉貴!? どうして死んだんだ!!)
――脳裏に、あの日の声が蘇る。
(大丈夫だよ、ギンガ! 姉ちゃんは簡単には死なないよ! 姉として、母親代わりとして、アンタが一人立ちできるまでしっかり面倒を見るからね!)
(姉ちゃんが死んだ!? あの姉ちゃんが!? 嘘だろ……!?)
(ごめんね、ギンガ……約束……守れ……なかった……)
――やめろ。
――思い出したくない。
だが、耳を塞いでも聞こえてくる。
「馬鹿だぜ、ハズキのヤツ。実力があるからって上級依頼《クエスト》ばっかり受けやがってよ。そんなに金が必要だったのかねぇ」
「なんでも、両親が早くに死んで、歳の離れた弟を養うために稼いでたらしいぜ」
「それにしても稼ぎすぎじゃねぇか?」
「ああ、その話なんだけどよ。ハズキのヤツ、気に入った男がいて貢いでたらしいぞ」
「あのハズキが? まあ、ガサツだけど顔とスタイルだけは良かったからなぁ」
「それで金欲しさに上級依頼ばっかり受けて、無理がたたって過労死したらしいぜ」
「うわぁ、馬鹿だなぁ。まるでホストに溺れた女じゃねぇか♪」
「いや、まんまそれだろ!」
「違いねぇ! がっはっはっはっ!」
下品な笑い声が路地裏に響く。
その瞬間――。
「違うッ!!」
ギンガの怒号が轟いた。
「姉ちゃんはそんなんじゃねぇ!! 姉ちゃんの悪口を言うなァァァッ!!」
◆
――数分後。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
肩で荒く息をしながら、ギンガは立っていた。
周囲には、先ほどまで笑っていた荒くれ者たちが血だらけで倒れている。
「あ、兄貴が……久しぶりにキレた……」
「最近なかったから忘れてたけどよ……兄貴はハズキ姉ちゃんのことを悪く言われると誰だろうと容赦しねぇんだ……」
「しかも、この前あの女との喧嘩に負けたばかりだからな……今は特にヤバい」
ビリーとバリーが青ざめた顔で呟く。
その時だった。
パチ、パチ、パチ――。
誰かが拍手をしている。
ギンガが顔を上げると、空き家の屋根の上に一人の少年が座っていた。
「凄い凄い。マーベラス♪」
楽しそうに笑いながら拍手を続ける。
「キレていたとはいえ、あれだけいた連中をまとめて叩きのめすなんてね♪ やっぱり僕の目に狂いはなかった。流石だよ、ギンガ君♪」
少年はぼさぼさに伸びた水色の髪を揺らした。
肌は不自然な紫色。
左目は黄色、右目は緑。
異質――。
その一言で表現できる存在だった。
「このガキ! いきなり出てきて兄貴に馴れ馴れしいな! だいたい何が『やっぱり』――」
ヒュン――!
ズドォォン!!
突如、少年が放った魔法がバリーの顔面すれすれを通過し、背後の瓦礫を粉砕した。
「ひっ!?」
バリーの顔から血の気が引く。
「な、なんだコイツ!?」
「バリー! てめぇ、弟に何しやがる!!」
ギンガが怒鳴る。
だが少年は笑ったままだ。
「うるさいなぁ。僕は今、ギンガ君と話してるんだから邪魔しないでくれる?」
その声は穏やかだった。
だからこそ恐ろしい。
「じゃないと――殺すよ♪」
空気が凍りついた。
「殺すだぁ……?」
「ガキのくせに舐めた真似を!」
ビリーとバリーがナイフを抜く。
だが。
「やめろ!!」
ギンガが二人を制止した。
「兄貴!?」
「お前らじゃ勝てねぇ」
少年の実力を本能が理解していた。
「へぇ♪ どうして止めたのかな? まるで僕が何者か知ってるみたいだね♪」
ギンガは険しい表情で答えた。
「姉貴から聞いたことがある。この世界には『魔界』って場所があって、そこには『魔族』って異種族がいるってな」
少年の笑みが深まる。
「そして……お前がその魔族なんだろ?」
「ザッツライト♪」
少年は嬉しそうに指を鳴らした。
「へぇ、君みたいな人間でも僕らの存在を知ってるんだね♪」
「そんなことはどうでもいい!」
ギンガは睨みつける。
「その魔族のお前が、俺に何の用だ!」
少年は屋根から軽やかに飛び降りた。
そしてギンガの前まで歩み寄る。
「まあまあ。そんなに怒らないでよ♪」
少年――ファンクは笑う。
「一部始終見させてもらったけど、『レガイアの狂犬』として有名なギンガ君が女相手に喧嘩で負けたって話、もう王都中に広まってるよ♪」
「うるせぇ!!」
ギンガは拳を握り締めた。
「負けたよ! だが次は負けねぇ!」
「あはっ♪ まだやる気なんだ」
ファンクは肩をすくめる。
「でも無理だよ」
その一言に、ギンガの眉が跳ねた。
「カスミ・ババ。ミスティでも有名な冒険者だ。A級冒険者すら凌ぐ実力者らしい」
ファンクの笑みが鋭くなる。
「君みたいな凡人じゃ勝てないよ♪」
「凡人だと……!?」
「彼女は転生者なんだ」
空気が変わった。
「しかも普通じゃない。勇者カズチカと同じ――『超転生者』だ」
ギンガの表情が強張る。
「超転生者……」
「普通の転生者とは次元が違う存在さ♪」
そしてファンクは続けた。
「君のお父さんも転生者だったらしいね」
「なっ!?」
「コテツ・サカタ。前世はプロレスラー。強くはなかったけど指導力があった。そしてこの世界にプロレスを広めた功労者の一人」
ギンガの拳が震える。
なぜそこまで知っている。
ファンクは塀に飛び乗り、チョコバーをかじりながら語り続ける。
「母は剣闘士。二人は結婚してハズキとギンガが生まれた」
「……」
「だが父は何者かに誘拐され行方不明。母は試合中に死亡」
ファンクの声が静かになる。
「その後、姉は君を養うために冒険者となり――無理を重ねた末に依頼中、過労死した」
ゲシッ!!
ギンガの蹴りが塀を揺らした。
「それ以上言うんじゃねぇ!!」
怒声が響く。
「目的は何だ!!」
ファンクは楽しそうに笑った。
「そうそう♪ 本題だったね」
その笑顔のまま言う。
「君はカスミに負けた。屈辱だった」
「……」
「そして必ずリベンジしようとしている」
ギンガは黙った。
否定できない。
「そこで提案があるんだ♪」
ファンクは空間を裂くように手を突っ込み、中から一本のブレスレットを取り出した。
赤い水晶が埋め込まれた、不気味な腕輪。
「身体強化の腕輪だよ♪」
ファンクはにやりと笑った。
「これを使えば――君はカスミに一矢報いることができる」
ギンガは腕輪を睨みつけた。
そして、この出会いが自分の運命を大きく狂わせることになるなど――。
この時の彼は、まだ知る由もなかった。
「……うそくせぇな」
ギンガは、ファンクが差し出した赤い水晶の腕輪を睨みつけた。
「だいたい俺は、そんなもんに頼る気は――」
その時だった。
「お前がギンガか!?」
低く、野太い声が路地裏に響いた。
ギンガたちが振り返ると、そこには屈強な大男が立っていた。
分厚い胸板。
丸太のような腕。
全身から放たれる威圧感は、そこらの荒くれ者とは比べものにならない。
「オレ様の弟が世話になったな」
大男は拳を鳴らしながら、一歩ずつ近づいてくる。
「オトシマエ、つけさせてもらうぞ」
「ゲゲェーッ!」
バリーが顔を引きつらせた。
「コイツ、今、闘技場《コロシアム》で有望株って言われてる闘技者だ! いくら兄貴でも無理だ!」
「へぇ♪」
ファンクは愉快そうに笑った。
「ちょうどいいじゃん♪ そいつを相手に、そのブレスレットを試してみなよ」
そう言うと、ファンクは腕輪をギンガへ投げ渡した。
ギンガは反射的にそれを受け取る。
「待てよ。俺はコレを使う気は――」
「はぁ……まだわからないの?」
ファンクの声から、わずかに笑みが消えた。
「今のギンガ君じゃ、カスミには勝てないの」
その言葉が、ギンガの胸を鋭く刺した。
「カスミに勝ちたいなら、そのブレスレットを使うしかないんだよ」
ファンクは再び笑う。
「早くしないと、カスミと再戦する前に、そこの大男に殺されちゃうよ?」
大男が迫る。
地面が軋むような錯覚すら覚えた。
「悪く思うなよ」
大男が拳を振り上げる。
「なあ、『レガイアの狂犬』のギンガ!」
「ちぃ……!」
ギンガは歯を食いしばった。
目の前の敵。
敗北の記憶。
カスミの背中。
そして、姉を侮辱した連中の笑い声。
それらが頭の中で渦を巻く。
「ままよ!」
ギンガは右腕にブレスレットをはめた。
そして、水晶の下にあるダイヤルを回す。
瞬間――。
赤い光が、ギンガの全身を包み込んだ。
「ぐっ……!?」
体の奥底から、何かが這い上がってくる。
熱い。
血が沸騰するように熱い。
筋肉が軋み、骨が悲鳴を上げる。
「ぐあああああああああッ!!」
ギンガは絶叫した。
「ビリー……兄貴の様子、おかしくないか……?」
「どう見てもおかしいぞ!」
ビリーが青ざめる。
「あのブレスレット、やっぱりヤバいもんだったんだ! 兄貴! それ外して!」
二人が駆け寄ろうとする。
だが、もう遅かった。
ギンガの茶色い瞳が、血のような赤へと染まっていく。
呼吸は荒く。
目つきは鋭く。
そこにいたのは、いつものギンガではなかった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「あ、兄貴……?」
バリーが震える声で呼びかける。
「おい、ファンク! てめぇ、これはどういう――」
ビリーが塀の上を見る。
だが、そこにファンクの姿はなかった。
「いない……!? どこ行きやがった!?」
慌てて周囲を見回すと、ファンクは宙に浮かんでいた。
相変わらず楽しそうな笑顔を浮かべて。
「それじゃあ、僕は帰るね♪」
「はぁ!?」
「後のことはよろしく♪」
「宙に浮いて……てめぇ! 逃げるな!」
ビリーが叫ぶ。
だがファンクは、笑顔で手を振った。
次の瞬間、空間が歪み、彼の姿は跡形もなく消えた。
「……あのクソガキ!」
ビリーは歯ぎしりした。
「はっ! それより兄貴だ!」
「バリー、兄貴は――」
二人が振り返った時。
そこには、信じられない光景が広がっていた。
先ほどまで威圧感を放っていた大男が、壁にめり込んで失神していた。
そして、その前にギンガが仁王立ちしている。
「ま、マジかよ……」
バリーが呆然と呟く。
「コイツ、かなり強いって有名な闘技者だったんだぞ……」
「それを兄貴がやったってことだよな……?」
ビリーの声も震えていた。
戦いが終わると同時に、ギンガの全身を包んでいた赤い光は消えた。
瞳の色も、元の茶色に戻っている。
「俺が……やったのか……?」
ギンガは、自分の拳を見下ろした。
まだ熱が残っている。
腕輪の赤い水晶が、鈍く光っていた。
「このブレスレットの力で……?」
「兄貴!」
ビリーが駆け寄る。
「身体は大丈夫か!? どこか痛いところは――」
「ふ……」
ギンガの肩が震えた。
「ふは……」
それは安堵ではなかった。
恐怖でもなかった。
「ふははははははははッ!!」
ギンガは突然、笑い出した。
失神した大男を見下ろしながら、狂ったように笑った。
そしてビリーとバリーの首に両腕を回し、強引にヘッドロックを決める。
「勝てる……!」
「ぐぇっ、兄貴!?」
「勝てるぞ、ビリー! バリー!」
ギンガの声は興奮に震えていた。
「このブレスレットがあれば、カスミにも勝てる! いや、それだけじゃねぇ!」
赤い光は消えているはずなのに。
ギンガの目には、まだ危うい炎が残っていた。
「今まで俺やお袋や姉貴を馬鹿にしてきた連中を、全員見返してやる!」
「何言ってんだよ兄貴!」
ビリーが必死に叫ぶ。
「そのブレスレットはヤバいって! やめとけよ!」
「そうだよ!」
バリーも声を張り上げる。
「あのファンクって魔族のガキ、どこかヤバいよ! 絶対に信用しちゃダメだ!」
だが、ギンガには届かない。
「お前ら……」
低い声だった。
「まさか、忘れたわけじゃねぇだろうな?」
ビリーとバリーの表情が強張る。
「アイツらが……あの冒険者どもが……姉貴を散々利用しておいて、用済みになったら見捨てた」
ギンガの拳が震える。
「それだけじゃねぇ。姉貴の悪評を立てて、何食わぬ顔で笑ってやがった」
胸の奥に沈めていた憎しみが、堰を切ったように溢れ出す。
「何も知らねぇくせに、お袋を卑怯者呼ばわりして嘲笑ったヤツらもいた」
ギンガの顔が歪む。
怒り。
悲しみ。
悔しさ。
そのすべてが混ざり合い、彼の中で黒く燃えていた。
「俺は……絶対に許さねぇ」
ビリーとバリーは、ギンガの腕に必死でしがみついた。
「忘れてないよ!」
ビリーが叫ぶ。
「兄貴がずっと耐えてきたのは知ってる! 悔しいのもわかる! でも、そのブレスレットだけはダメだ!」
「そうだよ兄貴!」
バリーも必死に続ける。
「あんな怪しい道具に頼ったら、兄貴が兄貴じゃなくなっちまう!」
だが――。
「うるせぇ!!」
バキッ!!
ギンガの拳が、ビリーの顔面を捉えた。
「ぐはっ!」
ビリーは地面に転がる。
「ビリー!」
バリーが悲鳴を上げた。
「ちょっと兄貴! 何して――」
「邪魔するんじゃねぇよ」
ギンガの声は、氷のように冷たかった。
「俺の邪魔をするなら、お前らでも容赦しねぇ」
その顔は、まるで鬼だった。
怒りに取り憑かれたような形相のまま、ギンガは裏路地の出口へ歩き出す。
ビリーとバリーは動けなかった。
止めなければならない。
そう思っているのに、足が震えて動かない。
遠ざかっていく背中を、ただ見ていることしかできなかった。
そして、ギンガの右腕で――。
赤い水晶が、妖しく光っていた。
NEXT
特別編 レッツゴー!座談会
この次は、本編とか関係ない特別編です
早い話がギャグパートで銀魂のような感じでやっていこうと思います(自信ないですが・・・)