異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜 作:トンコツマン
ミスティに着いた矢先に誘拐現場に遭遇して少女ノルンを助ける
そして、ノルンの案内で孤児院『ファミリア』に行くのであった
「――どうも、はじめまして」
低く落ち着いた声が、静かに響いた。
「私はこの孤児院の院長を務めているロメロと申します。この度は……ノルンを助けていただき、本当にありがとうございました」
ロメロは深く、深く頭を下げる。
その背には、ただの礼ではない――責任と覚悟が滲んでいた。
「いいってことよ」
カスミは軽く手を振る。
「困ってる子供を放っとくほど、落ちぶれちゃいないんでね」
ぶっきらぼうな言葉。だが、その奥にある温度は確かだった。
カスミは視線を外へ向ける。
庭では、数人の子供たちが無邪気に駆け回っていた。
笑い声。
土を蹴る音。
――だが、そのどれもが、どこか儚い。
「……ここにいる子たちは、どういう理由で集められてるんだい?」
ロメロは一瞬、言葉を選ぶように目を伏せた。
「……多くは、親を魔物に殺された子供たちです」
静かに、だが重く。
「あるいは、逃げる途中で“足手まとい”として捨てられた子。……育児放棄で保護された子もいます」
空気が、冷える。
カスミの眉がわずかに動いた。
「……魔物、ねぇ」
「簡単に言えば化け物ですよ」
ワタルが口を挟む。
「この世界には“モンスター”っていう存在が――」
「アンタ、妙に詳しいじゃないか」
カスミの視線が鋭く刺さる。
ワタルは眼鏡をクイッと上げ、どこか得意げに口角を上げた。
「いやぁ、前世でそういう作品をいろいろと――漫画とかアニメとか――」
「はぁ……」
間髪入れずにため息。
「要するに、引きこもりのオタクってことかい」
「違いますよ!?文化に精通した健全な青少年です!」
「どの口が言ってんだい……」
軽口が交わされるが、その空気はどこかぎこちない。
――重い現実を、無理やり薄めているような。
「あの……」
ロメロの一言で、二人は我に返る。
「ああ、悪いね。話の腰を折っちまった」
カスミが顎を引く。
ワタルも咳払いをひとつ。
「先ほど、親を魔物に殺された子がいると……その子たちは、冒険者の子供なんですか?」
ロメロは庭へと視線を向けた。
「あそこにいる……赤い髪と緑の髪の少年、ロジーとキース。あの二人の両親は、共に冒険者でした」
子供たちは無邪気に笑っている。
だが、その笑顔の裏にあるものを、ロメロは知っていた。
「……一年前、討伐任務の最中に命を落としました」
短い沈黙。
「……そうかい」
カスミの声は、低かった。
「じゃあ、ノルンも――」
「いいえ」
ロメロは静かに首を振る。
「ノルンの場合は……少し事情が違います」
その時だった。
「ロメロおじさん!洗濯物、全部畳んでおいたよ!」
明るい声が場の空気を切り裂く。
現れたのは、十二歳ほどの少女。
「ありがとう、メリッサ」
ロメロは穏やかに微笑む。
「この方たちが、ノルンを助けてくれた人たちだ」
「……っ!」
メリッサの目が大きく見開かれる。
そして――
「妹を助けてくれて、本当にありがとうございます!」
深々と頭を下げた。
その動作は、年齢に似合わず、あまりにも“慣れていた”。
「いいってことよ」
カスミは短く答える。
「ほら、もういいから遊んできな」
「はい!……本当に、ありがとうございました!」
もう一度頭を下げ、メリッサは駆けていく。
その背中を、三人は無言で見送った。
――やがて。
ロメロが、ぽつりと呟く。
「あの子たちの両親は……二人を捨てたんです」
「……何だって?」
カスミの声が、低く震えた。
ロメロは目を伏せる。
「あの子たちは、二年前……外で魔物に襲われました。その時、両親は――」
一拍。
「……“生き延びるために”、二人を置いて逃げたそうです」
静寂。
風の音だけが、やけに大きく聞こえた。
「ふざけるな……!」
カスミの拳が、ぎり、と鳴る。
「自分の命惜しさに、子供を捨てただって……?そんなの、親でも何でもないじゃないか!」
怒りが、露わになる。
だが――
「カスミさん」
ワタルが静かに言う。
「それは……違うと思います」
「……何?」
鋭い視線。
だが、ワタルは目を逸らさない。
「極限状態で、人は正常な判断ができなくなる。……パニックの中で、最悪の選択をしてしまうこともある」
「だからって――!」
「擁護するつもりはありません。でも……」
言葉を選びながら、続ける。
「その結果を背負わされた子供たちは、今もここで生きているんです」
ロメロが、静かに頷いた。
「……はい」
そして、子供たちを見る。
「ここにいる子供たちは、確かに過去に傷を負っています。ですが……その痛みを糧に、前を向こうとしている」
風に乗って、子供たちの笑い声が届く。
「どうか……そのことだけは、理解していただけませんか」
カスミは何も答えなかった。
ただ、子供たちを見つめる。
走る姿。
転んで笑う姿。
手を取り合う姿。
――その全てが、あまりにも“強く”見えた。
「……チッ」
小さく舌打ち。
だがその目には、怒りだけではない何かが宿っていた。
拭いきれない感情。
そして――
かすかな決意。
――
NEXT
「今日から私がアンタ達のお母さんだ! 中編」