異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜   作:トンコツマン

8 / 48
予想以上に話が長くなってる気がする\(//∇//)\


第7話 今日から私がアンタ達のお母さんだ! 後編

 ガンッ――!

 

鈍い衝撃音が、部屋に響き渡った。

 

「……っ!」

 

ニコルが投げつけた本が、正確にカスミの額を打ち抜く。

 

つぅ――

 

裂けた皮膚から、赤い血が一筋、頬を伝い、やがて床へと滴り落ちた。

 

「カスミさん!」

 

ワタルが思わず駆け寄ろうとする――だが。

 

「来るな」

 

短く、鋭い制止。

 

カスミは血を流しながらも、視線を逸らさず、ただ静かに微笑んだ。

 

「……大丈夫だよ、ニコル。怖いものなんて、何もない」

 

 

 

ヒュンッ――!

 

ガンッ!

 

二冊目の本が、容赦なく顔面に叩きつけられる。

 

それでも、カスミは一歩、また一歩と近づいていく。

 

血は増え、頬を濡らし、服を染めていく。

 

だが――止まらない。

 

視線も、想いも、決して逸らさない。

 

「うああああああああああああああッ!!」

 

ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ!

 

ガンッ! ガンッ! ガンッ!

 

ニコルは半狂乱になりながら、本や玩具を次々と投げつける。

 

そのすべてが命中し、カスミの体はみるみるうちに血に染まっていく。

 

「まずい……! あんなに出血して……!」

 

ロメロが顔色を変える。

 

「ニコル君を止めないと――!」

 

二人が踏み出そうとした、その瞬間。

 

「来るんじゃないッ!!」

 

怒声が、空気を裂いた。

 

「ここは……私に任せろって、言っただろう!!」

 

 

 

その声には、揺るぎない覚悟があった。

 

血に濡れながらも、カスミはついにニコルの目の前まで辿り着く。

 

そして――ゆっくりと腰を落とし、同じ目線に立った。

 

そっと、手を差し出す。

 

 

 

「があああっ!!」

 

バキッ!

 

鋭い音と共に、拳が振り抜かれる。

 

ニコルの拳が、カスミの顔面を打ち抜いた。

 

「いい加減にしなさい! ニコル!」

 

ロメロが叫ぶ。

 

だがワタルが、それを押しとどめた。

 

「……待ってください。ここは、カスミさんに任せましょう」

 

 

 

それでもニコルは殴り続けた。

 

何度も、何度も、感情のままに。

 

だがやがて――その拳は鈍り、力を失っていく。

 

呼吸は荒く、体は限界を迎えていた。

 

 

 

ふらり、と後ずさる。

 

逃げようとする。

 

だが――背中に触れたのは、冷たい壁だった。

 

 

 

逃げ場は、ない。

 

 

 

その瞬間。

 

ニコルは、恐る恐る顔を上げ――

 

目の前に立つカスミを見た。

 

 

 

血だらけのまま、微笑んでいる女。

 

 

 

「――っ!」

 

顔面蒼白。

 

恐怖が一気に溢れ出す。

 

その場に崩れ落ち、失禁しながら、頭を抱えた。

 

「やめて……! ごめんなさい……! もう、許して……!」

 

震える声で、必死に謝り続ける。

 

「もう殴らないで……! お願いだから……!」

 

 

 

その姿を見た瞬間――

 

カスミは、何も言わず。

 

ただ静かに、ニコルを抱きしめた。

 

 

 

強く。

 

けれど、壊れ物を扱うように優しく。

 

 

 

「……大丈夫」

 

頭を撫でる手は、温かかった。

 

「もう、怖がらなくていい」

 

優しい声が、耳元で溶ける。

 

「ここには、アンタを傷つける奴はいない」

 

 

 

ニコルの体が、びくりと震える。

 

 

 

「私が守る。だから……安心しな」

 

 

 

恐る恐る顔を上げたニコルの視界に映ったのは――

 

血だらけのまま、優しく微笑む顔だった。

 

 

 

その瞬間。

 

 

 

堰を切ったように、涙が溢れ出した。

 

「うあああああああああああああああああああッ!!」

 

 

 

ニコルはカスミにしがみつき、声を上げて泣きじゃくる。

 

 

 

――そのとき。

 

 

 

カスミの体が、淡い光に包まれた。

 

 

 

「な、なんだ……!?」

 

ワタルが目を見開く。

 

「まさか……スキルが――!」

 

 

 

彼の視界に、文字が浮かび上がる。

 

【NEW!カタルシス/母は最強(つよし!)/スーパー召喚/???/???】

 

【『カタルシス』:心を閉ざした者、心を病んだ者の精神を浄化する。ただし完全に悪に染まった者には無効】

 

「新しいスキル……!」

 

 

 

やがて光は静かに消えていく。

 

カスミはニコルを抱き上げ、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

「……カスミさん。ニコル君は?」

 

「泣き疲れて、眠ったよ」

 

穏やかな声だった。

 

「ロメロ、あとは頼む」

 

「あ、ああ……! 任せてくれ」

 

ロメロは慎重にニコルを受け取る。

 

 

 

「すごいですね……あのニコル君を落ち着かせるなんて」

 

ワタルの言葉に、カスミは首を傾げた。

 

「スキル? 何言ってるんだい」

 

そして、いつもの調子で笑う。

 

「私はただ……あの子が溜め込んでたものを、吐き出させただけさ」

 

 

 

「……なんか、説得力ありますね」

 

ワタルは苦笑する。

 

「前世では、お子さんでも?」

 

 

 

カスミは胸を張り、にっと笑った。

 

「当たり前だろ。前世じゃ主婦で、母――」

 

 

 

――その時。

 

 

 

ふらり、と視界が揺れた。

 

 

 

「……あれ?」

 

自分の手を見下ろす。

 

 

 

赤い。

 

 

 

「なんで……血が……」

 

 

 

次の瞬間。

 

 

 

バタンッ――!

 

 

 

その場に、崩れ落ちた。

 

 

 

「カ、カスミさぁぁぁん!!」

 

 

 

 

 

――一時間後。

 

 

 

「……ん……」

 

重いまぶたが、ゆっくりと開く。

 

見慣れぬ天井。

 

柔らかなベッドの感触。

 

 

 

「ここは……」

 

 

 

ガチャ――

 

扉が開く音。

 

 

 

「カスミさん! 気がついたんですね!」

 

 

 

「……ああ。そうか、私……倒れたんだっけ」

 

 

 

ワタルは呆れたように肩を落とす。

 

「無茶しすぎですよ。本当に……」

 

 

 

「こんなの、かすり傷だよ」

 

カスミは軽く笑った。

 

「ニコルの心の傷に比べりゃ、蚊に刺されたようなもんさ」

 

 

 

再び扉が開く。

 

 

 

「カスミさん」

 

ロメロが入ってくる。

 

「ニコルは……?」

 

 

 

「まだ眠っています。ですが、とても穏やかな顔でした」

 

 

 

「……そうか」

 

カスミは満足げに頷いた。

 

「なら、大丈夫だろうね。もう前みたいに暴れることはない」

 

 

 

そして、軽く体を起こす。

 

「さて……私たちはそろそろ行くよ」

 

 

 

「えっ、もう?」

 

ワタルが首を傾げる。

 

「宿を探さないと――」

 

 

 

「何を言っているんです!」

 

ロメロが慌てて声を上げた。

 

「ぜひここに泊まってください! あなた方は恩人なんですから!」

 

 

 

「いや、それは悪いよ――」

 

 

 

ガチャッ!

 

 

 

「院長先生ー! お腹すいたー!」

 

 

 

次の瞬間、子供たちがどっと部屋に押し寄せてきた。

 

 

 

「こらこら、今は――」

 

「やだー! ごはんー!」

 

「おっちゃんのごはん、あんまり美味しくないしー!」

 

「それなー!」

 

 

 

……静寂。

 

 

 

カスミの視線が、すっとロメロへ向く。

 

 

 

「……アンタ、料理できないのかい?」

 

 

 

「……すみません。妻に任せきりで……」

 

頭をかくロメロ。

 

 

 

カスミは大きくため息をついた。

 

 

 

「やれやれ……これだから男ってのは」

 

 

 

ベッドから立ち上がり、腕まくりをする。

 

 

 

「ロメロ。泊めてくれるんだろ?」

 

 

 

「え? ええ、もちろん――」

 

 

 

「なら決まりだ」

 

にやりと笑う。

 

 

 

「今夜の飯は、私が作る」

 

 

 

「ほんと!? お姉ちゃんが!?」

 

「やったー!」

 

 

 

子供たちの歓声が弾ける。

 

 

 

「いいんですか……?」

 

ロメロが戸惑う。

 

 

 

「いいのいいの」

 

カスミは笑った。

 

 

 

「この子たちに、美味いもん食わせたくなっただけさ」

 

 

 

そして、子供たちを見渡し――

 

 

 

「さあ、楽しみにしてな」

 

 

 

力強く言い放つ。

 

 

 

「とびきりの夕飯、作ってやるよ」

 

 

 

NEXT

「今日から私がアンタ達のお母さんだ! 完結編」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。