異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜   作:トンコツマン

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第8話 今日から私がアンタ達のお母さんだ! 完結編

カスミは、台所を見渡したまま固まっていた。

 

「……は?」

 

その顔には、明らかな動揺が浮かんでいる。

 

「カスミさん? どうかしましたか?」

 

ワタルが不思議そうに声をかける。

 

次の瞬間――

 

「ちょいとロメロ! これはどういうことだい!?」

 

勢いよく振り返り、詰め寄った。

 

「ど、どういうこと、と言いますと……?」

 

「どうもこうもあるかい! IHコンロは!? 炊飯器はどこだい!?」

 

カスミは台所を指差す。

 

そこにあるのは――流し台と、古びた竈が二つだけ。

 

それ以外は、何もない。

「申し訳ない、孤児院は経営が大変で、なかなか家具に手が回らなく妻も切り詰めてやっていました」

 

 

「……待ってください、カスミさん」

 

慌ててワタルが割って入る。

 

そして、この世界には電気もガスも通っておらず、家電製品という概念自体が存在しないことを説明した。

 

 

 

「電気もガスも……ない……だと……?」

 

 

 

カスミは愕然とした。

 

異世界の現実が、今さらながら突き刺さる。

 

 

 

「あのぉ、カデンセイヒンと言うものは、もしかして……『魔導具』のことですか?それならありますよ!魔導コンロですよね」

 

ロメロが恐る恐る口を挟む。

 

「!!魔導具?……その魔導具ってのは何だい!?」

 

カスミが食いつく。

 

「魔力を動力にした生活用品というか家具です」 

 

「……まりょく?」

 

聞き慣れない単語に、カスミの思考が一瞬止まる。

 

ゆっくりとワタルの方を向くと――

 

「待ってました!」

 

と言わんばかりの顔で、彼は魔法と魔力について語り始めた。

 

 

 

「つまり――手品みたいなもんかい?」

 

「違いますよ!? 根本から別物ですからね!?」

 

 

 

軽く言い放つカスミに、ワタルは即座にツッコむ。

 

 

 

「……それで? その魔導具にコンロがあるんだね?それで、この家にあるのかい?」

 

カスミの問いに、ロメロは苦笑した。

 

「……高価なんです。子供たちを食べさせるだけで精一杯で、とても手が出せなくて……」

 

 

 

沈黙。

 

 

 

「……なるほどね」

 

カスミは腕を組み、頷いた。

 

「なら、とりあえず今は、この竈でやるよ」

 

「えっ、本当にいいんですか?」

 

「当たり前だろ」

 

ニヤリと笑う。

 

「道具がなきゃ作れないなんてのは、料理人失格だよ」

 

 

 

そして、胸を張って言い放つ。

 

 

 

「うちはうち! よそはよそ!」

 

 

 

(えぇ……)

 

ワタルとロメロの顔が、同時に引きつった。

 

 

 

「さて、と……何を作るかね……って」

 

棚を開け、カスミは顔をしかめる。

 

「ほとんど材料がないじゃないか」

 

「すみません……今日は色々あって買い出しに行けず……この時間だと市場も……」

 

 

 

「問題ないよ」

 

カスミはあっさりと言った。

 

 

 

「こっちには“スーパー”がある」

 

 

 

次の瞬間――

 

空間が歪み、見慣れぬ巨大な建物が現れる。

 

カスミは迷いなくその中へと入っていった。

 

 

 

「……やっぱり」

 

ロメロが呟く。

 

「あなた方、“転生者”ですね?」

 

 

 

「え? 知ってるんですか?」

 

ワタルが驚く。

 

 

 

「ええ。二ヶ月ほど前にも一人……女の子が倒れていて、教会に保護されました。その子も、自分は転生者だと」

 

「へぇ……他にもいたんだ」

 

 

 

そんな会話をしていると――

 

 

 

「アンタら、何ボーッとしてんだい?」

 

 

 

両手いっぱいに買い物袋を提げたカスミが戻ってきた。

 

 

 

「すごい量ですね……何を作るんですか?」

 

ワタルが尋ねる。

 

 

 

カスミは満面の笑みで答えた。

 

 

 

「子供に作る料理なんて、決まってるだろ?」

 

 

 

「……“アレ”ですか?」

 

 

 

「そう。“アレ”だよ」

 

 

 

ワタルは一瞬考え――

 

すぐに笑った。

 

「ははっ、なるほど!」

 

 

 

 

 

――それから四十分後。

 

 

 

「さあ、できたよ!」

 

カスミが声を張る。

 

「ロメロは子供たちを呼んできな! ワタルはコップとスプーンを並べる!」

 

 

 

やがて、子供たちがわいわいと集まってきた。

 

 

 

「わぁ……いい匂い!」

 

「これ、なに!?」

 

「おいしそうー!」

 

 

 

見慣れない料理に、目を輝かせる子供たち。

 

 

 

カスミは、どこか誇らしげに告げた。

 

「これは“カレーライス”だよ」

 

 

 

「カレー……?」

 

 

 

「この世界にはないみたいですね」

 

ワタルが補足する。

 

 

 

「ねえ! もう食べていい!?」

 

「早く食べたい!」

 

 

 

「まだだよ」

 

カスミは軽く制した。

 

そして一度部屋を出て――

 

すぐに戻ってくる。

 

 

 

その後ろに、一人の少年を連れて。

 

 

 

「……ニコル!」

 

 

 

ざわめきが走る。

 

 

 

「こわいよ……」

 

「また暴れるんじゃ……」

 

 

 

「安心しな」

 

カスミは静かに言った。

 

「もう大丈夫だ」

 

 

 

そして、ニコルの背を軽く押す。

 

 

 

「ほら。言うことがあるだろ?」

 

 

 

「……あ、あの……」

 

ニコルは震えながら俯く。

 

 

 

「がんばって!」

 

「ちゃんと謝れば大丈夫だよ!」

 

 

 

励ましの声。

 

 

 

やがて――

 

 

 

「ご、ごめんなさいっ!!」

 

 

 

深く頭を下げた。

 

 

 

その瞬間。

 

一人の少年――ロジーが駆け寄る。

 

 

 

「ほら、こっち来いよ! 一緒に食おうぜ!」

 

 

 

手を引かれ、席へ。

 

 

 

ニコルの顔に、少しずつ笑顔が戻っていく。

 

 

 

「……よし」

 

カスミが頷く。

 

 

 

「じゃあ、みんな――」

 

 

 

手を合わせる。

 

 

 

「いただきます!」

 

 

 

 

 

――二十分後。

 

 

 

「どうだい? うまかったかい?」

 

 

 

「おいしいー!!」

 

「すっごく美味しい!」

 

 

 

歓声が上がる。

 

 

 

「そりゃよかった」

 

カスミは満足そうに笑った。

 

 

 

そして――表情を引き締める。

 

 

 

「……さて。大事な話だ」

 

 

 

子供たちが静かに耳を傾ける。

 

 

 

「今日から――私とワタルは、ここで暮らす」

 

 

 

ざわめき。

 

 

 

「そして私は――」

 

 

 

一拍、置いて。

 

 

 

力強く、言い切った。

 

 

 

「アンタたちの“母親”になる」

 

 

 

 

 

――少し前。

 

 

 

外で遊ぶ子供たちを見ながら、三人は話していた。

 

 

 

「元気だね、どこの世界でも」

 

 

 

「ええ……でも」

 

ロメロの表情が曇る。

 

 

 

「人前だけ、なんです」

 

 

 

「……どういうことだい?」

 

 

 

「夜になると……みんな、泣いているんです。親を求めて」

 

 

 

沈黙。

 

 

 

やがてカスミは、きっぱりと言った。

 

 

 

「――なら、私がなる」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「親に」

 

 

 

その言葉に、二人は目を見開く。

 

 

 

「“母親”になってやるんだよ」

 

 

 

 

 

――そして現在。

 

 

 

「今日から私が――アンタたちのお母さんだ!」

 

 

 

 

 

一瞬の静寂。

 

 

 

そして――

 

 

 

「カスミお母さん!!」

 

 

 

歓声が弾けた。

 

 

 

「ママー!」

 

「かあちゃん!」

 

 

 

だが――

 

一人だけ、戸惑う少年がいた。

 

 

 

ニコルだ。

 

 

 

「どうした? 呼ばないのかい?」

 

 

 

「で、でも……」

 

 

 

顔を赤らめ、もじもじする。

 

 

 

「いいんだよ。遠慮なんて」

 

 

 

「言っちゃえよ!」

 

 

 

背中を押され――

 

 

 

ニコルは顔を上げた。

 

 

 

「……お、お母さん!」

 

 

 

「なんだい?」

 

 

 

カスミは、満面の笑みで応えた。

 

 

 

その笑顔に――

 

ニコルもまた、笑った。

 

 

 

 

 

母とは――

 

厳しくもあり、優しくもある存在。

 

 

 

これは、異世界に転生した一人の女性――カスミが、

 

孤児院の子供たちの“母”となり、

 

様々な出来事に立ち向かっていく物語である。

 

 

 

――物語は、ここから始まる。

 

 

 

NEXT

「カスミ、冒険者になる 前編」




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