異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜 作:トンコツマン
カスミは、台所を見渡したまま固まっていた。
「……は?」
その顔には、明らかな動揺が浮かんでいる。
「カスミさん? どうかしましたか?」
ワタルが不思議そうに声をかける。
次の瞬間――
「ちょいとロメロ! これはどういうことだい!?」
勢いよく振り返り、詰め寄った。
「ど、どういうこと、と言いますと……?」
「どうもこうもあるかい! IHコンロは!? 炊飯器はどこだい!?」
カスミは台所を指差す。
そこにあるのは――流し台と、古びた竈が二つだけ。
それ以外は、何もない。
「申し訳ない、孤児院は経営が大変で、なかなか家具に手が回らなく妻も切り詰めてやっていました」
「……待ってください、カスミさん」
慌ててワタルが割って入る。
そして、この世界には電気もガスも通っておらず、家電製品という概念自体が存在しないことを説明した。
「電気もガスも……ない……だと……?」
カスミは愕然とした。
異世界の現実が、今さらながら突き刺さる。
「あのぉ、カデンセイヒンと言うものは、もしかして……『魔導具』のことですか?それならありますよ!魔導コンロですよね」
ロメロが恐る恐る口を挟む。
「!!魔導具?……その魔導具ってのは何だい!?」
カスミが食いつく。
「魔力を動力にした生活用品というか家具です」
「……まりょく?」
聞き慣れない単語に、カスミの思考が一瞬止まる。
ゆっくりとワタルの方を向くと――
「待ってました!」
と言わんばかりの顔で、彼は魔法と魔力について語り始めた。
「つまり――手品みたいなもんかい?」
「違いますよ!? 根本から別物ですからね!?」
軽く言い放つカスミに、ワタルは即座にツッコむ。
「……それで? その魔導具にコンロがあるんだね?それで、この家にあるのかい?」
カスミの問いに、ロメロは苦笑した。
「……高価なんです。子供たちを食べさせるだけで精一杯で、とても手が出せなくて……」
沈黙。
「……なるほどね」
カスミは腕を組み、頷いた。
「なら、とりあえず今は、この竈でやるよ」
「えっ、本当にいいんですか?」
「当たり前だろ」
ニヤリと笑う。
「道具がなきゃ作れないなんてのは、料理人失格だよ」
そして、胸を張って言い放つ。
「うちはうち! よそはよそ!」
(えぇ……)
ワタルとロメロの顔が、同時に引きつった。
「さて、と……何を作るかね……って」
棚を開け、カスミは顔をしかめる。
「ほとんど材料がないじゃないか」
「すみません……今日は色々あって買い出しに行けず……この時間だと市場も……」
「問題ないよ」
カスミはあっさりと言った。
「こっちには“スーパー”がある」
次の瞬間――
空間が歪み、見慣れぬ巨大な建物が現れる。
カスミは迷いなくその中へと入っていった。
「……やっぱり」
ロメロが呟く。
「あなた方、“転生者”ですね?」
「え? 知ってるんですか?」
ワタルが驚く。
「ええ。二ヶ月ほど前にも一人……女の子が倒れていて、教会に保護されました。その子も、自分は転生者だと」
「へぇ……他にもいたんだ」
そんな会話をしていると――
「アンタら、何ボーッとしてんだい?」
両手いっぱいに買い物袋を提げたカスミが戻ってきた。
「すごい量ですね……何を作るんですか?」
ワタルが尋ねる。
カスミは満面の笑みで答えた。
「子供に作る料理なんて、決まってるだろ?」
「……“アレ”ですか?」
「そう。“アレ”だよ」
ワタルは一瞬考え――
すぐに笑った。
「ははっ、なるほど!」
――それから四十分後。
「さあ、できたよ!」
カスミが声を張る。
「ロメロは子供たちを呼んできな! ワタルはコップとスプーンを並べる!」
やがて、子供たちがわいわいと集まってきた。
「わぁ……いい匂い!」
「これ、なに!?」
「おいしそうー!」
見慣れない料理に、目を輝かせる子供たち。
カスミは、どこか誇らしげに告げた。
「これは“カレーライス”だよ」
「カレー……?」
「この世界にはないみたいですね」
ワタルが補足する。
「ねえ! もう食べていい!?」
「早く食べたい!」
「まだだよ」
カスミは軽く制した。
そして一度部屋を出て――
すぐに戻ってくる。
その後ろに、一人の少年を連れて。
「……ニコル!」
ざわめきが走る。
「こわいよ……」
「また暴れるんじゃ……」
「安心しな」
カスミは静かに言った。
「もう大丈夫だ」
そして、ニコルの背を軽く押す。
「ほら。言うことがあるだろ?」
「……あ、あの……」
ニコルは震えながら俯く。
「がんばって!」
「ちゃんと謝れば大丈夫だよ!」
励ましの声。
やがて――
「ご、ごめんなさいっ!!」
深く頭を下げた。
その瞬間。
一人の少年――ロジーが駆け寄る。
「ほら、こっち来いよ! 一緒に食おうぜ!」
手を引かれ、席へ。
ニコルの顔に、少しずつ笑顔が戻っていく。
「……よし」
カスミが頷く。
「じゃあ、みんな――」
手を合わせる。
「いただきます!」
――二十分後。
「どうだい? うまかったかい?」
「おいしいー!!」
「すっごく美味しい!」
歓声が上がる。
「そりゃよかった」
カスミは満足そうに笑った。
そして――表情を引き締める。
「……さて。大事な話だ」
子供たちが静かに耳を傾ける。
「今日から――私とワタルは、ここで暮らす」
ざわめき。
「そして私は――」
一拍、置いて。
力強く、言い切った。
「アンタたちの“母親”になる」
――少し前。
外で遊ぶ子供たちを見ながら、三人は話していた。
「元気だね、どこの世界でも」
「ええ……でも」
ロメロの表情が曇る。
「人前だけ、なんです」
「……どういうことだい?」
「夜になると……みんな、泣いているんです。親を求めて」
沈黙。
やがてカスミは、きっぱりと言った。
「――なら、私がなる」
「え?」
「親に」
その言葉に、二人は目を見開く。
「“母親”になってやるんだよ」
――そして現在。
「今日から私が――アンタたちのお母さんだ!」
一瞬の静寂。
そして――
「カスミお母さん!!」
歓声が弾けた。
「ママー!」
「かあちゃん!」
だが――
一人だけ、戸惑う少年がいた。
ニコルだ。
「どうした? 呼ばないのかい?」
「で、でも……」
顔を赤らめ、もじもじする。
「いいんだよ。遠慮なんて」
「言っちゃえよ!」
背中を押され――
ニコルは顔を上げた。
「……お、お母さん!」
「なんだい?」
カスミは、満面の笑みで応えた。
その笑顔に――
ニコルもまた、笑った。
母とは――
厳しくもあり、優しくもある存在。
これは、異世界に転生した一人の女性――カスミが、
孤児院の子供たちの“母”となり、
様々な出来事に立ち向かっていく物語である。
――物語は、ここから始まる。
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「カスミ、冒険者になる 前編」
アルファポリスも投稿しようかな?