勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん 作:Mckee ItoIto
あいつが気になって!仕方がない!
・・・
剣と魔法のファンタジー世界に転生して早18年。
おっさんから美少女になった私は、悩みに悩んでいた。
(ああ……あいつ、いま何やってるんだろうなぁ……)
我ながら若干きもいが、あいつのことが気になって仕方がない。
まあ、私の唯一の友達にして幼馴染だった男だ。さもありなん。
だからおかしな話ではない。ないったらないのだ。
あいつ。アルは勇者となった。
聖剣を抜き、聖なる力で魔を払う勇者。
対して私は魔女と呼ばれた。
魔の術を操り、魔を以って魔を打ち滅ぼす魔女。
クソみたいな世界の片隅のクソみたいな時代錯誤村に生まれた私たちは、昔から似ても似つかない存在だった。
それなのに、根っからの陽の存在であるあいつは陰の存在である私を構い倒して日の光を浴びせまくった。
戸惑いながらも嫌ではなかったのだが、もし私が吸血鬼だったら多分死んでたんじゃないか。
ともあれ、あいつがいなければ私はずっと暗闇の中で暮らしていたのだろう。
そう。暗闇の中で。
村があった王国には、差別が蔓延っている。今では多少マシらしいが。
特に、魔物と同じ力を振るう魔術には強い忌避感があって、昔はそれを使う存在は魔物と同列だと見做されることも多かったという。
そして私たちの村は時代に取り残されたクソ田舎だったので現在進行形で、いや、過去進行形?で排魔主義な村だった。
私はアホだったので有り余る魔術の才能を、転生チートだ!と思う存分に振るった結果、バチクソに迫害されることになったのだ。ほんとアホだね。
色んなことがあった末に私は村はずれの暗い座敷牢みたいな場所に幽閉されていたのだが、あいつはしょっちゅう私のとこに来ては勝手に鍵を開けて外に連れ出したもんだった。
懐かしい思い出だ。辛いことも多かったけど、この時期は割と楽しかった。
でも、そんな日々も長くは続くことはなかった。
あいつの親は行商人。この村で結婚して10年も居着いていたが、ついに村を離れることになって。
あの時7歳だったあいつは、それはそれは駄々を捏ねたらしいがそんな子供の要望が通るわけもなく。
私の前からあいつはいなくなることになった。
私の世界は、再び暗闇に覆われた。
次に会ったのは、その7年後。
その間のことは……。はっきりいって思い出したくもない。
私はただ、どうにでもなれと無気力でいて、最悪のタイミングを見逃した。
結果だけ言えば、村は滅んだ。
敵がやってきて、みんなを殺して、私が敵を殺した。
言葉にすれば、それだけ。
あとに残ったのは生ける屍の地獄。
私はその地獄の中でそのまま死ぬつもりだったのに。
あいつはそこから私を引っ張り出した。また、日の当たるところへ。
ほんと、なんなんだろうな。
あいつはあの時、弱っちいただの冒険者でまだ勇者じゃなかったっていうのに。
もしも隣にいられたら。自然にそう思うようになって。
だけど私は暗く薄汚れていて、あいつが眩しすぎて……。
しばらくは一緒にいたけど、時間を重ねるごとに、これじゃ駄目だという気持ちが強くなった。
現実として、あの時の私は魔物のような扱いだったから。
王国のギルドから調査依頼を出され、場合によっては討伐対象だった、穢らわしい化け物。
あいつは結構頑張って冒険者として認められ始めていたというのに。
私なんかが近くにいたせいで周囲から嫌がらせも受けていると知った。
最初は報復を考えた。でもそんなことしたらあいつの冒険者人生に深すぎる傷が付く。
だから、私はあいつの元を離れようと決意をした。
あいつは一度たりとも自分から私の力を頼ったりはしなかった。だからあいつに私は必要ない。
それに、私のような罪深い存在があいつの隣にいるのは相応しくないと、そう思ったから。
といっても、永遠に離れると決断したわけじゃない。
本当はその方が良いのだろうと思いつつも、諦めきれなかった。
だったら。
地位と名声。消えない罪も悪評も、全部覆い隠せるほどの大きな実績。
それを、なんとしてでも手に入れなければならないと考えた。力だけではダメなんだ。
私は一人王国を離れ、隣国の帝国へと向かった。
この世界の高ランク冒険者の地位は世界基準。
だったら。完全なる実力主義の帝国ギルドで、最速で成り上がってみせる。
あいつの隣に立つために。
あいつのような、立派な冒険者と一緒にいるために。
そしたらなんかいつの間にかくっそえらい立場になってた。
チートって怖いね。流石は実力主義の国。
というかただの冒険者だったのに色々あって引き抜かれて急に帝国魔術院特別顧問とかいうわけわからんポストにぶち込まれるとか一体何が起こったのかほんと意味わかんないんですけど!!
毎日毎日研究書類に埋もれながら術式開発して才能いっぱいの弟子ちゃんをしばき倒す日々が始まるって、あの時には1ミリも想像してなかったんですが!? 冒険者なのに冒険は!?
とにかく、くっっっっっそ忙しい。
休みがない。おやすみ、どこ? ここ?
なんで? なんでこんなことになってるの??
たまに手が空いた時も、なんかタイミングを見計らったかのように皇帝がお邪魔しにくる。
なんで国のトップが用もなくこんなとこほっつき歩いてるんだよマジで邪魔だから帰れ!!
でも権力者を邪険にできない悲しい男、いや、元男。それが私。悲しいね……。
ていうかだいぶ実績積んで私のこと気軽に馬鹿にできるやつなんかほとんどいないだろうし、もうあいつのとこ行ってもいいんじゃないの? だめですかそうですか……。
ああ……あいつ、いま何やってるんだろうなぁ……。
「で、貴様は今何をしているのだ」
私の研究室で皇帝様がおひとり様ティータイムをしているよ。皇帝って暇なのかな?
ちなみにティーセットは私が出したよ。この人は注文はしてこないけど変なの出すと不快な顔を隠さないから一応厳選してるよ。めんどくさいね。
ちなみに皇帝様は乙女ゲーにでも出てきそうな金髪イケメンだよ。実年齢は40近いからクソ若作りだね。いやまあ皇帝にしては若すぎなんだけど。
てかせめて護衛連れてこいや。私がいたら護衛の意味ないけど、会話が持たんのじゃ。
護衛は護衛中に喋ったりしない? 知らんそんなの、雰囲気とか空気の問題じゃ。
「……見守り使い魔くん2号の改良中、です」
「なんだそれは。というか1号もあるのか」
「1号は壊れて機能不全になったので」
「ふぅん」
実はあいつと別れる際に、こっそりと使い魔をつけて影からずっと観察していた。
これは文字通り影の中に仕込んであって、かなりのレベルの隠蔽がされているので高ランク冒険者でもまず気付かれることはない。
あいつは私から見たら相当クソザコだったので、何かあった時に介入できるように、四六時中見守っていたのだ。他意はない。
最初あいつが焦って私を探す姿を見るのはすごく心が痛かったけど、なんか思ってた以上に大事に思われてたんだなぁと知ってちょっと嬉しかったね。
でもまあ流石にすぐには戻れねぇじゃん……ってなって涙を呑んでそれを見てたんだけど。それから気持ちを切り替えたのか立派に冒険者やってて一安心。
冒険はハラハラすることも多かったものの、介入を余儀なくされるような命の危機は無かったので良かった……ちょっと怖かったことはあるけど。
正直、思わず使い魔経由で手を出しそうになったことも何度かあったりはした。でもあいつの冒険を台無しにするわけにもいかないしな……よく我慢できたよ私。
あとは、ちょくちょくあいつの日常を眺めてたりとか。これはただただすごく楽しかった。
一人で取る食事を眺めながらこっちもご飯食べてたりすると、一緒に食卓を囲んでるみたいな錯覚をしちゃったり。
なんか、前世でそういう動画が流行ってたのもわかる気がする。めっちゃ落ち着くよね。
依頼の合間に休んで出かけてる映像なんかも、ボケっと見守ってると、なんかこう、一緒にお出かけしてるみたいな感じがしてとても良い。
ま、現実の私はクソほど忙しくて遊んでられないけどな! いいだろ別に思考分割して現実逃避してても……!!
たまにちょっとそっちの思考が侵食してきて顔が変にニヤけてしまったときとかもあったりしたけど気にしない。
なんか近くの弟子がドン引いてた気がするけど、知るかそんなの!
そういえばあいつには女っ気がないようだ。特に重要なことではないのだが。
知り合いもほぼ男だし、まあ私も男友達みたいなもんだったからな。
女が近寄ると嬉しそうにしつつもちょっとめんどくさそうにしてるし。私の時はそんなことなかったのに。
女に興味がないというわけではなさそうだけど、普段は同性といた方が居心地がいいってことだろうか。
うん。じゃあ、だとしたら、そうだな、うん。
あいつの隣にいるなら同性の雰囲気を出しつつ美少女でもある私がやはり一番なのでは? そうじゃね?
やっぱ離れるべきじゃなかったかもしれないなぁ色々あったとはいえあの時ちょっと弱気になりすぎてたわ。
思えばあいつも一緒にいて楽しそうにしてた気がするし結局お互い居心地のいい関係ってのが最高じゃん?
一生一緒にいるならそういうのが一番ってよくいうしどうだろいやぁまいったなぁうへへ……。
「気持ち悪いぞ」
「……」
気を緩めていたら皇帝様からシンプルな罵倒を喰らった。
大丈夫だ、私は美少女。前世は大した顔面ではなかったが今世は超絶美少女顔面、表情筋が仕事しないタイプのクール系美少女だ。
弟子も言っていたじゃないか。黙ってジッとしてたらミステリアスな美少女にしか見えないって。
……あれ? これもしかして悪口か?
いや……気のせいということにしとこう。
まあとにかく、そうやってあいつのことをずっと見守ってたんだけどね。
ひと月くらい前、あいつがある時ソロで受けたクエストでのことだった。
なんか声が聞こえるとか独り言を呟いてあいつは森の奥へとズンドコ突き進んでって。
そこにあった泉の中心に突き刺さっていた、いかにもな剣を恐る恐る抜いた瞬間。
映像と音声が消し飛んで、ついでに私も吹き飛んだ。
近くで作業中だった弟子が血相を変えて寄ってきたけど、別に私は無傷。服は中破したけどね。
でも使い魔くんは……。さよなら使い魔くん……君のことは忘れないよ……。
うーん、やっぱ影に忍ばすために地混じりの闇属性術式だったってのが良くなかったのだろうか。
あいつが抜いた剣は、遥か昔に女神が鍛えた聖なる剣ってやつだったらしいし。
どうやら20年ほど前に再誕した魔王を倒す勇者として、あいつは聖剣に選ばれたってことなんだそうだが……。
どうにもこうにも直接的な観測魔術とかも弾かれるので、風の噂的な感じでしかあいつの情報が手に入らない。
これがすごく、すごく、もどかしい。いつもは全然敬ってこない弟子にも本気で心配されるレベルでしょんぼりしてしまった。
だけど私はめげない男。いや元男。この程度で諦めたりはしない。
なんかこう、うまい具合に光属性とか混ぜたりして、いい感じにした使い魔くん2号を開発。
これが割といけそうな雰囲気だったけど、近くまでいったら結局弾かれて帰ってきたので今改良中なのである。
でも1号と違って破壊はされてないので、多分術式の構成というか方向性は間違ってないと思う。
そんなこんなな2号はトライアンドエラーを経て、今バージョン2.75ってところです。
「災難だな」
「そうですね」
「いや、その男の方だが」
「?」
「気にするな。毎度の感想だ」
いや気になるんだけど。
言いたいことあるならはっきり言えよ。……まあいいか。
「で、その魔術は声と景色を映すんだな?」
「はい、そうですけど」
「距離の制限は?」
「この形式だと大体地平線の先までくらいですかね」
「ふむ」
「ほんとは単独でもう少し距離を伸ばしたいんですけど、とりあえず中継用の使い魔をばら撒けば距離はもっと伸ばせます」
「使い魔の魔力の補充はどうする?」
「太陽光変換なので実質不要です」
「なるほどな」
ちなみに1号は地脈変換だったけど、これだと闇とか地属性に偏りすぎるので変えざるを得なかった。
でも風と光属性にすると通信が揺らいで距離が伸びないんだよなぁ。なんか上手い方法は無いものかねぇ。
「よし。予算をつけてやるから術式が完成したら報告して納めろ」
「え」
これ個人的な術式だったんですけど……。
いや開発はどのみちするからいいけど、仕事にしたらそれ書類増えますよね?
ただでさえクソ忙しいのに納入関係の仕事も、増えますよね?
「あの、予算よりも、人員を……」
「こちらも人材不足だ。今後新しく送る予定もあるからちゃんと育てろ」
「えぇ……」
横暴だ……暴君かな? 暴君でしたわ。
新人はちょいちょい来るけど、みんなちょっとしばいただけですぐ心折れるんだよな……。
帝国魔術院は魔術の最高峰。だから新しく入ってくる人材もハイレベルなはずなんだけど……。
私がここ来てからこの研究室に残ったのは弟子だけだよ。だから弟子は弟子なんだけどね。
……いや、やっぱちょっとしばきすぎたわ。ごめんやりすぎた。
少しぐらい妥協してせめて書類仕事手伝えるやつくらいは残さなきゃだったよ……。
他の研究魔術師たちもいるにはいるけど、彼らには彼らの研究があるからなぁ。
まあ彼らの研究、半分くらい私が納めた術式の再解析だったりするんだけど。
っていうかいやそれ私に直接聞けよ。その方が早いだろ。そして私の書類仕事の片付けを手伝ってくれ……。
まあなんだかんだ私も私で必要に応じてホイホイ新しい術式をポンポン作っちゃってたので、気づいたら色んなことを全部私が管理しなくちゃいけなくなったっていうアホな事情もあるにはある。
いっそのこと書類を勝手に記述してくれる魔術作って……いやちょっと怖いな。どうせ全部私の責任になるし、やっぱ直接確認しないと……。
自業自得って言葉が頭の中をぐるぐる回るけど、追加のこれ、断るって選択肢は……無いですよねぇ。
「ふむ。そうだな」
お、珍しく願いが届いたか?
「クー・ド・ヴァン・デュ・シエルに勅命を下す」
「はい」
「『契約』として、現在着手している観測魔術を完成させ献上せよ。期間は一ヶ月」
「喜んで拝命いたします」
くっそこいつ……こんな下らないことに契約魔術使いやがった……。
これは相手のフルネームと用件をつけて唱えるとそれがお互いの記憶に絶対忘れないよう刻まれるっていう魔術。
記録はお互いが用件を完了させた、もしくは達成不可能だと認識したときに削除される、というか削除不可のロックが解除されて忘れられるようになる。
皇帝様が欲しいって言ったので、この術式も私が作った。内容を第三者に確認させることもできて改竄は実質不可だし、これなら言った言わないみたいなのが無くなるからね。
そんなに難しい魔術じゃないのである程度の素養があったら普通の人も使おうと思えば使えるは使える。
術式構成もほぼ用件記録と記録変更の可否の判定のみとシンプルで、これ自体には別に強制力は無かったり。
でも権力ある人が使えば実質これは強制契約の魔術と言ってもいいかもしれないな。
受ける側が最初に記録を受け入れるかどうか選択できるけど、権力者から使われたらまず断れないし。
ところでこの魔術、なんかやたら私に使われてる気がするんですが……気のせいですかね……。
ちなみに、私の名前はもともと単なる”クー”でしかなかった。田舎生まれだからね。
後ろの長ったらしい名前は目の前のイケメンおっさんを助けたときの報酬みたいなので付けられた。意味は知らん。
家名みたいなもんだからめちゃくちゃ名誉なことだぞ! って色んな人に言われたけど凄さが良くわからんのよ。
基本的に正式な書類にサインするときと、このおっさんに我に従えされる時くらいにしか使われんからあんまり有り難みを感じてないのが正直なところ。
いや色々とこのおっさんにもらった恩はあるけど、名前に関してはマジで無茶振りの記憶としか結びついてないんですって……。
「無理なのか?」
「出来ますけど??」
普通の魔術師には無理でも、残念ながら私はチートなのでやれてしまうのだ。
正直にいえば、実のところキャパはまだまだある。
そもそも無理なら相手が皇帝だろうが即答で断っているからね。
無理なことをやれるとは決して言わない人間なのだよ私は。
なので仕事がもう一個程度増えたところでスケジュール的にはそれほど問題はない。
いやなんかやたらと無茶を完遂することに関しての信頼度が高いせいで、こうしていきなり急な仕事が増えたりするんですけど……ね。
ほんと勘弁してくださいよマジで。私だって、たまには休みたいし息抜きしたい。最大の息抜きがいま物足りない状況なんだからより切実に。
でも無茶振りされたら断れない社畜男。いや社畜元男。それが私。悲しいね。
お金はすごい貯まるけど、使い道が無いよ。使う時間もないよ。まさに社畜……!
最近魔術院の外、出てない気がするなぁ……。
「ではまた会おう」
そのあと色々問答してるうちにティータイムは終了したようで、嵐のような皇帝様は嵐のように去っていった。
まあこの方も決して暇なわけではない。
魔王軍の動きがどうこうって話もあるし、色々やることもあるのだろう。
いやていうか忙しい合間を縫ってすることが、私の邪魔か? おかしくないか?
放置されたティーセットを魔術で適当に片付けながら、新しい仕事のことを考えるけど。
うーん、なんかもう、なんでもいいや。
決まったもんは仕方ないし。とりあえずリスケしなきゃな。
えーっと、あとは市場に出した保冷保温の魔術のフィードバックが溜まってるから反映させる術式改修作業をスケジュールにいれるとして。
農作業自動ゴーレムの安全試験は終わってるから、テスターが来る予定の日までこいつは放置でよし。
水質浄化の魔術改良版はこないだ納入したからとりあえずテスターの評価待ち。たぶん問題なさそうだから最終報告書を準備するとして。
今現在進行形なのが次元空間圧縮を使ったいわゆるアイテムボックスの開発、これは納期が無期限だから優先度低めの同時並行でオーケー。
それと魔力のない一般人でも使える安全な発火装置の開発。これは魔石の安定化と安全装置の調整が終わったからもうすぐ完成する。書類は手付かずだけど。
ついでに今後のために作り始めた、魔術師が使うもっと複雑な装置用のコンバーターとインバーターの開発もあと少しで終わりそう。これもあとで書類作らないと。
あと同僚がレビュー依頼出してきた空中筆記の術式は面白かったけどちょっと無駄が多いからリファクタリングしたのを今度返すとして。
うーん、使い魔くんのは一ヶ月どころか上手くいけば今日中にとりあえず完了しそうだし……これは実質納入と書類作業だけか。
他の仕事は細々とした事務処理がちょろちょろぱっぱって感じで。
……あれ、思ったより暇か? ぜんぜんいけるやん!
よっしゃ、とにかく次の仕事の前にこいつの改良を少しでも早く進め……
「ししょー、こないだのゴーレムの仕様変更ですー」
「あ゛あ゛あ゛!!!」
ああ……あいつ、いま何やってるんだろうなぁ……。
・・・
皇帝の絶対守護者。
帝国の最終兵器。
時代の破壊者。
深奥の魔神。
その驚異的な実績と、途轍もない術式の恩恵により、その存在を知らない冒険者はいない。
それでいて全く無名の時に召し抱えられたため情報が少なく、謎に包まれた、至高にして最強の魔術師。
「最強、ねぇ。物騒な噂ばかりだから正直強いというよりやばいやつって印象なんですけど?」
「私たちがいま使っている旅の道具ですけど、ほとんど全部この方が作られたそうですよ」
「え……マジ? やばくない? これ無い旅とか考えられないじゃん。いやぁ魔神さまさまだね」
冷却箱、保温袋、自動発光照明、撥水外套、他にも様々。
あらゆる技術を過去の物にし、今までの冒険の在り方を一変させた。
帝国に襲来した魔王軍の幹部も単独で撃破したと言われ、その実力も凄まじい。
並び立つものがいない、至高で、最強。
だけど。
……至高にして最強の魔術師、か。
この旅で会った魔術師はどいつもこいつも、大したことなかった。
最強というからには、今までのやつらよりは凄いんだろうが。
それでもやっぱり俺の中では、あいつ以上の魔術師を想像できない。
聖剣はあらゆる魔を断つ、魔力には無敵の存在。
それでも、俺はあいつより弱い。圧倒的で、隔絶した差がある。
あいつは俺を守れるけど、俺はあいつを守れない。
勘違いしていたんだ。俺はあいつを、助けたのだと。
あんな凄いやつを、助けられる存在なのだと。
思いあがっていた。傷ついたあいつを、守れるのだと。
王国は、はっきり言ってかなり駄目な国だった。
住人の公的記録すら碌に残していない怠惰な国だ。
村が滅んで現地の記録が焼けたせいで、あいつに関する記録はギルドにあるものだけ。
王国の外れの村にいる、
嫌がらせのように村の住人に出されて、悪戯だと疑われて放置されていた討伐依頼。
村との連絡の一切が途絶えたことにより、依頼が本当だったかもしれないと新しく作られた調査依頼。
俺がその依頼を受けて、その依頼は問題無かったと報告した。
でもこの、地獄にたった一人無傷で生きていた女の子が、果たして本当に人間なのかどうか。
中々信じてもらえなかった。
忘れられない。村人に拒絶されて、檻の中に入っていた幼少のあいつを。
忘れられない。何もかも拒絶して、檻の中に入っていた成長したあいつを。
吸血鬼に襲われた村人が死んだまま蠢く村の外れで、あいつは生きる気力を失い自ら檻に入っていた。
まるであの時と同じように。まるで、自分が罪人なのだと言い聞かせるように。
吸血鬼を滅ぼしたあいつは村人の支配権だけを奪い取り、屍が日光や魔力切れで滅びる様を、暗闇の中から光のない目で眺めていた。
まるで自分も、あのように死ぬべきなのだと。そう言いたげな様子で。
だから俺はあの時のように、強引に暗闇から引っ張り出した。
たくさんの言葉を交わし、無理やり外の光の中へと連れ出した。
お前はその吸血鬼みたいな化け物じゃないのだと、そう言い聞かせるように。
その時の様子は、何も子供のころと変わらなかった。7年経ってもあの時のまま。
押しに弱いところも、思い込みが激しいところも、言葉の端々の気遣いも優しさも、何もかも。
あいつは、人より器用で頭が良く、人を疑うことが嫌いなお人好しの、ただの女の子だ。
大人ぶって地獄のような現実を無理やり噛み砕いて、それを泣きながら飲み込んでただけの、ただの子供なんだ。
俺の力が足りなかったばっかりに、あいつはずっと魔物扱いだった。
俺が弱かったせいだ。
そのせいであいつは王国を、俺たちを見限って、離れていった。
俺では、あいつを守れなかった。
何が、勇者だ。
人々を守る、救世主?
あの時、たった一人の幼馴染すら守れなかったのに?
ふざけるな。何が勇者だ。
力が。
切実に、力が欲しい。
あいつを守れるほどの、力が。
俺はもっと、強くならなきゃいけない。
「ねぇねぇアル? 聞いてる?」
「あ……すまん、聞いてなかった」
「まーた空想の幼馴染のことでも考えてたの?」
「だからクーは空想じゃねぇっての」
「いや……そんなのいるわけないじゃん。なにワイバーンを一撃で叩き堕とす女の子って」
現実味がないとは、俺も思う。
それをあいつは、小さな子供のころにやってのけた。
あの村は最低な村だ。村を守った英雄を、化け物みたいに扱った。
でも俺はあいつを純粋にかっこいいと思い、こっそりとあいつの元に通ったんだ。
最初は戸惑ってたあいつも喜んで、色んな魔術を見せてくれた。
花を咲かせる魔術。
風を吹かせて空を飛ぶ魔術。
地面から人形を作る魔術。
光を空中に浮かべる魔術。
他にも色々あった。
そのどれもこれもが、一流とされる魔術師でも簡単には出来ないことだと知ったのは、村を離れた後だった。
あれが当たり前みたいに思ってたから冒険者になってこの認識を正常にするのには苦労したものだ。
……まあ確かに嘘くさいとは思うけどな。
でもいたんだって。そんなすごい女の子が、本当に。
「はいはい。で、私たちのパーティにも魔術師が必要だけど、どうするの?」
俺たちは最近仲間になった聖女見習いアリアの教会がある法国を当面の拠点としながら、世界各地を巡って魔王軍の脅威と戦っている。
今受けている依頼は魔王軍が以前使っていた遺跡の探索。なのだが、結界が張られていて入ることができない。
アリアも奇跡と呼ばれる魔術に似たものを使うことができるが、結界の解析のような細かいことは無理らしい。
そして同じく最近パーティ入りしたダークエルフのベルも、弓使いなのでそんなことはできない。
ドレイク……たまに依頼を手伝ってくれる元盗賊の優男も、魔術鍵には疎いといっていたから無理だろう。
そういう話で、俺たちは依頼を手伝ってくれる魔術師を探していて、最初の話題となったわけなんだが。
「実際その、
「いや無理でしょ。あんた例えば王国で王様直轄の部下を依頼に貸してくださいって言っていけると思う?」
「無理だな」
「まー本当に噂通りなら、もし手を貸してくれたら一発なんでしょーけどねぇ」
「無駄に高度で他の冒険者仲間の魔術師じゃ歯が立たなかったからな……まあダメ元で帝国に行ってみるか」
「そこまで凄い方でしたら、何か突破するアドバイスくらいは頂けないものでしょうか?」
「うーん、帝国行ったら正式に依頼出してみる? 試す価値はあるかも?」
「そうだな、とりあえずそうするか」
もしあいつがいたら。
そんなことを思う資格なんか、俺には無い。
だからいつか。本当の勇者となることができたら。
その時初めて、あいつの隣に立てるのだろう。
いつか、見つけ出して、その隣に。
どこにいるかもわからないけど。
生きると約束してくれたのだから、生きているはずだ。
きっと、元気でやっている。信じよう。
ああ。あいつは、いま何をやっているのだろうな。
・・・
「あ、また聖剣が光った」
「ホントだな。最近多いけどなんだろうな」
・・・
聖剣ちゃん「なんやこの盗撮魔術、きも……。弾いとこ」
(最近TS成分が足りない……って思ってたらなんか性癖が漏れてしまいました)
(明るいラブコメディです)(迫真)