勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん   作:Mckee ItoIto

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(魔女パート)

 どうしてこうなるまで放っておいたんだ!!



助けてっ!脳内の私ちゃんが息をしてないのっっ!(スヤァ)

・・・

 

 

 未知という名の恐怖。

 未知に対する好奇心。

 

 

 この二つの感情はしばしば両立してしまい、たびたび激しい後悔をもたらすものだけど。

 未知を既知に変えてしまう時の感覚には非常に強い中毒性がある。快感と言ってもいい。

 

 以前はできなかったこと。やりたくてもやれなかったこと。望んでも不可能だったこと。

 それが今はできてしまう。許されるかどうかは別として、やろうと思えば可能。

 何もかもできるし、やれるし、可能。それは正真正銘のチート(ずるい)能力。

 

 それを振るう誘惑は何度も形を変えて私を襲ってきた。

 幼少時代。幽閉時代。二人旅時代。そして今。

 

 新たな法則の発見。新たな技術の発見。新たな活用の発見。

 そして生まれる成果の結晶。それは世界を具現化する創造。

 

 まぁ……昔と今は方向性がだいぶ違うけど。

 それでもここ最近、ちょっと衝動的にやりすぎたかなと反省してるのだ。

 

 そうです、反省はしてるんですよ。

 でも後悔が先に立たないように、反省も先にはできない。

 今更それをどうこう言っても、結局もうどうにもできないんです。

 

 だって過去を変えることなんかできないのだから。

 そんな魔術、私にだって使えないから。

 

 ……いやまぁ、時間遅延術式はいい感じになってきた気がするし、このまま発展させていけばもしかしたらって感触はある。

 でも時間軸の原点、現在時の壁を貫くのは魔術チートをもってしてもまだかなり難しそう。停止は実現可能な目処が立ってるけどなぁ。

 なんか魔力って何でもありなように見えて、変なとこで融通効かしてくれないよね……。

 

 

 と、そんな余談はさておき。

 私は今、過去の自分のやらかしの尻拭いを、必死に考えているところなのだ。

 その時はままえやろと軽く考えてたことが結構な事になって困っているところなのだ。

 

 できればなんとかうまい具合に解決できないかと、頑張って考えているところなのだ……。

 

 

 ああそうそう。

 話は変わるけど、帝国には新聞というものが存在する。ファンタジー世界だとあんまそういうの聞かないよね。

 と言っても市民の識字率は平均で精々6割程度なのでどちらかというと特権階級向けの情報を多めに扱っているものになるけど。

 

 識字率に関していえば帝都だと教育レベルが高いから8、9割くらいになるだろうか。でも郊外になるとやっぱり文字が読めないって人はそこそこいる。

 今の皇帝様は市民教育にも力を入れているので段々とレベルも上がってるらしいけど、まあこういうのは時間がかかるものなので長い目で見ないとね。

 手っ取り早く『知識転写』の術式を使って言語知識の強制インストールをするって方法も提案したことあるけど、爆速で否決されたし。そして禁忌指定にもなりました。せっかく術式作ったのに……!

 

 あと新聞はお金があれば普通に誰でも買えるよ。前世的な感覚だとかなり高いけど弟子の家とかも購読しているらしい。

 各ギルドなんかにも備え付けで置いてあるけど、冒険者ギルドとかの冒険者は文字がわからない人も多い気がするのであれはどっちかというと職員向けな気がしないでもないかな。

 

 

 その昔、というか先代皇帝の時代までは言論の自由イコール体制批判の機会だと認識されていたので、権力者側がメディアの権限をガチガチに握っていた。

 でも今の皇帝様はその辺りを市民に段階的に解放しており、この国、特に帝都では比較的自由な発言が許されている雰囲気がある。

 皇帝様はこの他にも色々な権利を下々の人たちに与えていってるので、独裁者なのに市民人気は結構高かったりするのだ。

 

 その反面、大半の貴族からはバチクソに嫌われてるんだけどね。既得権益も潰しまくってるし、まぁそりゃそう。

 好感を持ってる極少数の貴族様の方が頭おかしい気がしないでもない。嬉しい話ではあるけどね。

 それに嫌われてるといっても皇帝様は敵に容赦ないから表立っての敵対はしてないし、いざとなったら私が出張るので問題はない。

 というかそういう根性のあるタカ派の貴族は多分もういないし。

 

 

 そんなこんななわけで新聞を読む市民もそこまで珍しくなくなったし、今の新聞は昔より市民的なことも書いてある。

 帝都の中央広場では文字が読めない人たちのための読み聞かせなんかもやってたりして、ちょっとした娯楽の一つになってるってわけ。

 

 

 そう……なので、何かあるとちょっとしたニュースとして……上から下までたちまち巷の噂になったりするんです。

 

 そういう、わけでしてね……。

 

 

 

 

 

 

 

"<農業ギルドで話題の新人、アグリさんへの質問>"

"冒険者顔負けの働きを見せる女性ギルド員が農家の間で話題になっている"

"この女性は冒険者の間にも噂が広まっており──"

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなった……?

 

 いやいや、別に私の仕事がなんらかの噂になることは珍しくない。けどこれはちょっと話が違う。

 

 見出しを見ただけで頭を抱えたくなったんだけど……あの……なんで汎用農作業ゴーレムが普通に一般ギルド員みたいになってんの……?

 まぁ確かに見た目だいぶ人間だけど、それでもよくよく見ると割とメカニカルよ? なんで当たり前のようにそのポジションが受け入れられてんの? 農業ギルドの人たち頭大丈夫か?

 そりゃ使ってもらう以上愛着を持ってほしいなぁと外装には(深夜的テンションで)こだわりましたがね……。

 

 これってあれよ? 普通の人の中に獣人が混ざるのとかとは全く別次元の話よ?

 そもそもギルドって結構採用基準難しいじゃん……? そこにゴーレムが人間面して所属するのは色々と問題なのでは……?

 

 それに、記事の中にゴーレムのゴの字も出てこない。普通の人間みたいに扱われている。

 いや流石にちょっと色々まずいんだが……。

 

 

「面白い記事だろう」

 

 

 ニヤリと笑う皇帝様。いや何わろてんねん。ご機嫌ですね。私はちょっぴり不機嫌です。

 

 今日は進行中案件の打ち合わせの予定なのでティータイムセットは控えめ。

 ちょっと机の上が(お菓子類的な意味で)少し寂しいが今日はこれ自体が仕事なので……(つまめるお菓子が無いとは言っていない)

 

 で、私の研究室は新聞を取ってないので、この人が面白くないこの情報を颯爽と持ってきてくれたわけだ。

 まぁ一応エントランスまで行けば院で取ってる新聞があるけど、いちいち研究室の外に出るのもめんどいから私は普段あまり読んだりしない。研究的な意味で有益な情報は少ないし。

 市場調査的な意味ではたまに役立つこともあるけど、それだってそれを読んだ他の人から教えてもらえるから自分で読む意味があまりないんだよね。

 

 

 って思ってたら、思いっきり存在しましたわ。こんな爆弾が。

 

 

「すみません……」

「何を謝る? 別に責めているわけではない」

「あ、いや、なんか……すみません」

「まあいい。こうして考えると、術式の秘匿は妥当だったな」

「いや……すみません」

 

 なんか楽しそうにクツクツ笑ってる皇帝様と謝罪botになっている私。

 というかなんだこの時間は……どういう話の流れに持っていかれるのか予想がつかなくて恐ろしいのだが……。

 

 

「実に愉快だ。興味が出てギルドマスターへの聞き取りもさせたが、面白かったぞ?」

「正直あんまり聞きたくないです……」

「彼女は私たちの仲間だ、道具ではない。ゴーレムと呼ばないで欲しい。とな」

 

「……、……。それは……個人的にはあんまりよくないように思いますね」

「ほう?」

 

 

 疑似人格が予想を遥かに超えて、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 古今、人型の道具を人間扱いする物語の結末は、大抵の場合悲劇になるものだ。

 ましてやあの子のスペックは大抵の人間より遥かに高い。だからこそ、その力の用途は農業用に限定されているのだが。

 

 まあ、というかですね、農業用なのに明らかにスペックが過剰です本当にありがとうございました。

 このスペックを予算内で実現した辺り、さすわた! なのですが、状況と場合を考えるべきでしたよね。うん。

 いやほんと、変なテンションだったとはいえ軽率にスペックを盛り過ぎだったんですわ……。

 

 盛っていいのは乳だけだと前世で言われてただろっ……!

 ここの女神は私にそれを盛ってはくれなかったがなっ! クソがっ!

 

 

 

 あぁほんと……誰か過去の私をここに連れてきてくれない?

 

 今の私を煩わせた罪で17分割にしてやんよ。やろぉぶっころ。

 

 

 

 ……。……で、だ。

 

 それをそれ用の道具として理解して見做せない人がいると、どうなるか。

 きっと、その役割以外の役割を与えたがる。つまりこの場合、人間としての振る舞いを求める。

 

 それが、どのような結果に繋がりかねないかも、理解せずに。

 

 

 元々それ用の道具であれば、別に問題はない。

 人間としての振る舞いをさせる目的であれば、例えば"理想の嫁"みたいなここの副院長がやりそうな(偏見)役割を持たせてあるのであれば、その動作は完全な正常系だ。

 アル人形も同様と言える。あれも人間としての振る舞いを役目として与えられているから、内部処理的には何も問題は無い。

 

 でもあの子は農業用だ。24時間、農業のために稼働する役割を持っている。

 ゴーレムにはパーツ的な消耗は別として疲労もない。メンテナンスは必要だが、休みは不要。

 

 だけど道具ではなく人間扱いをするのであれば、役割のための稼働時間は半分以上削られることになるだろう。

 そしてその時間、役割外の行動をすることを求められる。

 その動作は異常系……ではないけど、少なくとも本来の正常処理ではない。

 

 あの子には術式の自己書き換え権限を持たせてないから、自ら独自例外挿入をして役割から逸脱することは無い。つまり異常系の拡大はない。

 あるとすれば、自己学習機能による正常系の拡大。元々目的を行うための条件は厳密ではなく、内部的に色々やってるけど概ね確率的重み付けによって行われている。

 これが正しかろう、という選択肢を選ぶ形で行動するので、本来の目的と関係ないことを目的に結びつけて行うことは、決して不可能ではないのだ。でも、それが本来でないことには変わりない。

 

 

 そうだなぁ……農作業の定義に、農作業員との関わり方なんかも加えれば無駄話をすることもできるだろうし、関係ない買い物や食事なんかもできるだろう。

 強引な解釈だが、そのための知識や行動を学習することもある意味農作業の一部と見做せるということだ。

 そうすることで農作業をする仲間が喜ぶのであればそれをする意味もできるし、悲しむのであればそれをしない理由にもなる。

 

 今回のこれはおそらく、そうした学習を積み重ねて自身を農業ギルドの一員だと自己定義し、"農業ギルドの仲間の一人として振る舞うのが農作業の一部"と拡大解釈したことによるもの。

 

 だけど、はっきり言ってこの件は……あまり良い兆候とは言えない。

 

 

 なぜなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 編集で削ったのかもしれないが、本当に言ってないのだとしたら。

 自身がゴーレムだということが農作業の目的……農業ギルドに不利益であると解釈した。

 

 つまり、外部からの干渉により、目的のための自己否定を行なった、ということになる。

 そんなことが今後もずっと続けば、最終的に擬似人格の自己崩壊を招きかねない。

 

 強制力の強いリミッターがあるので暴走して暴れたりなんかは絶対にしないけど、それ故に稼働停止か、最悪、壊れて再起不能になるだろう。

 自己保全機能が働いているはずだからすぐではないと思うけど、いずれ、高い確率で。

 

 

 ああ、こりゃやらかしだよな……。

 今考えればすぐわかるような、想定すべきだったセキュリティホールだった。

 いや、まだそうなってると決まったわけじゃないけど……そう想定して動くべきなんだろうな。

 マジでほんとかなりのお金が動いてる案件なのに、弟子のことあんま言えないじゃん……。

 いくらでも起きてられるからってやっぱ寝ないのは良くなかったな……。

 

 どうにかしてこれ、なかったことには……なりませんよね。

 

 

「ふぅむ、なるほどな」

「はい……」

「で、どうする?」

「えぇと、いくつか選択肢はありますが、運用継続が前提ですよね?」

「そうなるな」

 

 であれば術式のアップデートをかけるしかない。

 自己崩壊に至らないように……役割の緩和と、過剰な自己否定に制約をかける。

 術式を新調して丸ごと上書きするのが一番手っ取り早いけど、記憶領域まで初期化しちゃうのは多分良くない。

 修正箇所が他に干渉しないようにテストもしないとだし、でも時間あんまりかけるのもあれだから時間加速も使って一個一個確認を……。

 

 うーわ、考えるだけでも結構めんどくさいな……。やるしかないか。

 

 

「あの……ちょっと回収して確認と修正してもよろしいでしょうか……」

「許可する。保証の範疇として請求もすべきではないだろうな」

「あんまり言いたくないですけど、そこは私の失敗なので当然ですね……」

「まあ仕方あるまい。試験でもそこは問題視されなかったのだ。そういうこともある」

 

 

 まあ仕方ないよなぁ、過去の私のバカヤロー。ちくちょーめぇ。

 

 

 ていうか……なんだか皇帝様優しくない……?

 気のせいか?

 

 

 

「で、ここから本題なのだが」

「え?」

 

 いやさっきまでのこれ、結構なお話なんですけど、え?

 

 

 

 

 

「あの使い魔の件以外で、何か隠れてやっているだろう」

「え?」

 

 

 

 

 

 え?

 

 

 

 ……え?

 

 

 

「え、あ、あの?」

「ああ、責めているわけではない。ただの確認だ」

 

 

 え、なんの、ことだ……?

 何か……この人に不審に思われることが、私にあったのか……?

 

 この人に私が、害意、悪意、敵意を感じさせた……?

 

 そんな、そんなこと、そんなこと、ありえ──

 

 

 

 

 

「別のゴーレム、隠れて作っているだろう?」

 

「っぴげゅ」

 

 

 

 

 

 めっちゃ変な声出た。

 

 え、待って。ちょっと待って!

 

 

 もしかして……アル人形のこと……!?

 

 ちょ、嘘嘘なんでバレ、え……!?

 

「あ、あ、あ、あの、あのあの」

「面白いように動揺しているな。相変わらず顔には出ずとも隠し事が下手だ」

「え、そ、ちが、……くなっ、な」

 

 

 

 ……速攻術式、思考分割(16)発動!!

 

 魔力を消費し、混乱した思考を分割してリリース!!

 

 一番冷静な私を代表思考として選択し、盤面に特殊召喚!!

 

 バトルフェイズに移行する!! あまり私を舐めないでいただきたい!!

 

 

 

「ええ、確かに作成しておりますが彼はあくまで今回のための試作でして」

「ほう、彼。例の男か?」

 

「……」

 

 

 はい。

 

 

(2:はいじゃないが?)(3:いや……マジ何してん……)

(4:うせやろ? これが私たちの代表思考だって……?)(5:悲報、私バカだった)

(6:草)(7:くそ)(8:私界の恥さらし)(9:最近だらしねぇな?)

(10:ありえん。かっこ笑)(11:ばーか、ざーこ)(12:流石にアホ過ぎない?)

(13:頭ミジンコか?)(14:氏ねカス)(15:負け犬乙)

(16:つか開き直るより先になんでそう思ったか聞くべきだろハゲ)

 

 

 ドキッ! 私の私による私だらけの精神的集団リンチ!

 

 じゃねーよ! やめろ! 分割思考その2~その16の私!

 メイン私のうっかり失言をここぞとばかりに寄ってたかって叩きに来るんじゃない!!

 お前らも大した冷静レベルじゃないからどうせ似たようなミスしてたぞきっと!!

 

 そんでもって正論っぽい意見が何気に一番辛い!! それは確かにそう!!

 あとハゲてねーよ!! お前と同一人物なんだからフサフサのサラサラだわ!!

 

 

「……えぇと。そもそも、どうしてそのようなことを?」

「ふむ……あの農作業ゴーレムに関してどうも、完成度が高すぎるように感じていたからな。それも、様々な点が短期間で前段階から高度になっている。であるならば同様の技術による試作、もしくは完成品から流用した可能性を考えるのが普通だろう。そして先ほどの話で確信した」

 

「へ、へぇ……なるほど?」

 

 

 そういうことらしいぞ。聞いているか私ども。

 

 いやさ……私ってば思考分割の物量で計算速度上げてるだけで別に地頭が良いわけじゃないからね……。

 こう不意打ち的に突然ロジカル頭脳パワーでぶん殴られると、どうにも厳しいものが……。

 

 

「負け……ました」

「ククッ、別に勝負ではないのだがな」

 

 

 いやいや、マジでどしたんこの人。めっちゃご機嫌じゃん……こわ……。

 というか何? これって私を揶揄って遊んでるだけなん? なんなん? 暇なん?

 私、他にもまだ溜めてる仕事あるからこう見えて暇じゃないんスけど?

 

 

「して、そのゴーレムはどういう運用がされている?」

 

 

「……」

 

 

 ……。

 

 

 い、いえねぇ……。

 

 

 

「……じ、実験用?」

 

 

「ああ、別に言えないなら言えないで良い。貴様に悪意が無いのはわかっているしな」

「……」

 

 じゃあ聞くなよ相変わらず性格悪いなこのおっさん……!

 

「して……そのゴーレムを作るにはどれほどかかる?」

「かかり切りになれる時間が数日もあれば……今は素材が足りませんが。それは新規案件ですか?」

「そうだな。まだ今は必要ないが、そのうち一体だけ、用立ててもらいたい」

「承知いたしました。準備します」

「秘匿指定だから分かっているだろうが、()()()()()()

「……?」

「追って詳細は伝える。本題は以上だ」

 

 

 まぁ私からこの人依頼の案件を漏らすことはないが。

 ……うっかり失言する可能性はあるから頭の中に鍵付き保管しとこ。

 私から見た私の信頼度は先ほど著しく下がったので。うん。ストップ安。

 

 

 ……ああ、そうだ。

 どうせバレてるならついでに。

 

 

 

「あの……実はお願いがありまして」

「ふむ、貴様が私に願いを乞うなど珍しいな。聞こう」

 

「実は──」

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 と、いうわけで。

 

 

「私、お前、改造する」

「わけわからんが急だな……」

 

 

 魔女さんinプライベートルーム。アル人形を添えて。

 

 あのあと皇帝様とは適当にお茶しながらお菓子をつまんで、適当にちょろちょろ打ち合わせしてお帰りいただいた。

 ていうか本来そっちが本題だったはずでは……まあいいか。

 

 あと残ったお菓子は私が全部(お腹の中に)片付けました。いつも結構残るんだよね。

 

 

「……って、いやちょっとやめてよ。その、"そうか、俺にも遂に死ぬ日が来たのか"みたいな顔」

「違うのか?」

「違うに決まってんでしょうが! ほぼ外装変更のみだよ!」

 

 

 どんだけ苦労して作ったと思ってんだ。愛着湧きまくりなんだが?

 こいつが壊れたら1ヶ月くらいは死ぬほど凹む自信あるぞ。

 そうなっても思考分割して仕事続けるんだろうけど。

 

 まぁ、改造といっても大した手間ではない。

 パパッと術式を行使して、アル人形の見た目を少しだけ変える。

 

 

「うーん、これでいいかな」

「……どうなったんだ?」

「ほら、こんな感じ」

 

 

 虚空から鏡を取り出して見せてやる。

 そこに写っているのは、白髪になったアルの顔。頭に猫耳付き。

 

 

 はい。猫耳付き。です。

 

 

 そうです。私の趣味です。悪いか。

 

 

(……)

 

 ……おい。わざわざメインの私の思考に侵食してきたならなんか言えよサブの私。

 何もないなら戻って仕事してろ。

 

 それに、別に悪くないだろこれ。

 有り寄りの有りだろ。ベリーいまそかりだろ? (意味不明)

 

 

「……獣人の耳?」

「聴覚センサーになってる。聴力が上がってるよ」

「へぇ、なるほどな」

 

 

 ぶっちゃけ聴力機能の向上で猫耳をつける必然性は皆無なんだけどな!

 そこらへん何にも疑問に思ってない様子のアル人形くん。かわいいね。

 

 猫耳がくるくるぴこぴこ動く。私がそれを目で追う。

 思わず手を伸ばして触れてしまう。ピクッとなる。

 もふもふ。もふもふ。

 

 

 ああ、なんだこの気持ちは……。

 

 

「おい、ちょっと……そろそろ離れ」

「ふもっふ」

 

「マスター?」

「ふんもっふ……!」

 

 

 いやぁ、素晴らしいとは思わんかね……って、あ、待って。

 アルの顔でその、ちょっと冷たい目は、なんか来そう。

 

(ダメだこいつ)

 

 あん? ダメだが? ダメで何か問題でも?

 私は私のキモさを自覚しているので無敵だが?

 あと何時までも思考の片隅に居座ってないで早く仕事に戻れ?

 

 

「にゃんだふる……」

「これは、偽物ならではの役得というべきか……」

「あぇ? なんか言った?」

「何でもない。というか良かったのかこれ。だいぶ本物から離れたぞ?」

「んー……まぁいいよ。同一人物のままだと困るし」

 

「困る?」

 

 

 そう、困るのだ。

 丸っきりアルの姿そのものでは問題が起こりかねない。

 

 

 こいつには、()()()()()()()()()

 

 

 

 

「冒険、したいでしょ?」

 

 

 

 

「……!」

「アルに限りなく近いから、別に私の相手を嫌だとは思ってない……とは思いたいけど、外も見たいと思考してるはずだよ」

「いや、俺は……マスターが作った、マスターのものだ。今の立場に不満は無い」

 

 

()()

「っ……」

 

 

「私を誰だと思ってるんだ。舐めてるのか。()()()()()()()()

 

 

 

 

 私だってあいつのことが全部わかるわけじゃない。

 だけど、こいつのことは別だ。だってこいつを作ったのは、私だから。

 これはあいつのコピーだが、あいつから直接記憶と思考を写したわけじゃない。

 全て私の中から抽出された記憶と思考。それに基づいて肉付けされた存在。

 

 何もかも私から生まれたのだから、分からないわけがないでしょう。

 

 それに……あいつが商人ではなく冒険者になったように。

 こいつにも広い世界を知りたいという気持ち、思いが、必ずあるはず。

 

 だって私があいつのことを……そう理解し、定義しているのだから。

 

 ……まぁ、こいつの自己学習機能は術式書き換えの権限もあるから、最早中身は術式再展開をして解析しない限り私にも半分ブラックボックス状態なんだけどね。

 でもそこまで逸脱はしてないでしょ。たぶん。そんなブレブレな人間じゃないんで、あいつは。

 

 

「……」

 

「あーもう、じゃあ命令。"()()()好きなことをしろ"」

 

「……。俺はマスターのこと、好きだぞ」

「おっふ……」

 

 

 お前その顔でそれはちょっとさぁ……。

 

 いやまてまて、耐えろ。今は真面目なターンだ。

 落ち着けー、落ち着け。……ヨシ!

 

 

「でも、外にも出たい、でしょ」

「……」

「……」

 

「……、否定はできない、な」

「いいよ、出ても。許可は取ったから。仕事は与えるけどね」

 

 

 それに、少し前から考えていたこと。

 こいつを私の趣味嗜好的な感じの用途で閉じ込め続けておくのは……あまりにも勿体無い。

 じゃあどういう使い道が一番、こいつを有効活用できるのか。

 

 奇しくもその時、私は例のアレのために、完全自立の使い魔くんを開発しようとしてた。

 で、途中まで着手してて……ふと気づいた。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()。完全自立で、使い魔になり得るやつ。

 

 

 ってなわけで私はこいつを、自分で考え、自分で行動する使い魔くん的な扱いにすることに決めたのだ。ちょっとこう……寂しい思いはあるけど、ここを巣立ってもらおうと。

 そうなると、完全に人間の見た目のこいつが活動するにはそれにふさわしい身分が必要だろう。存在しない人間として活動するのは色々面倒の元となるからね。

 それに最初は隠れて活動させる運用も考えてみたけど、表立って人間として動けた方が色々と都合の良いことも多いはずでしょう。

 

 皇帝様にお願いしたことは、そういった存在をゴーレムではなく人間として活動させてもいいかどうか……そして諸々の手続きの許可。市民記録の作成、ギルド登録のための根回し、えとせとら。

 この件は即行で快諾されたよ。面白い試みだってね。むしろなんかめっちゃ食いつかれたけど、また無茶振りに繋がるんやろか……?

 

 上から下までやばい技術の塊であるこいつは当然秘匿指定、どころか秘匿技術である擬似人格ゴーレムの完全上位互換なので禁忌になる可能性もある。

 でも放出しても解析できる存在が私以外にいるとも思えないし、そもそも完成度が高すぎてゴーレムだと思われることすらまず無いだろう。

 

 ほんと苦労したからなぁ……マジで全てを注ぎ込んだ最高傑作なんだから。

 戦闘力は本物準拠だからそんな大したことないけどね。

 

 

「本当に……いいのか……?」

 

「うん。名前もつけてあげる。外で活動する時に"アル"って名前は使えないから」

 

「……名、前?」

 

 

 

 

「そう。今からお前は "ソル" だよ。"ソル・フィデル" と名乗るといい」

 

 

 

 

「俺の……名前……?」

 

 

 ちなみにこの名前は皇帝様のネーミングです。意味は知らん。

 ご機嫌ハッピーエンペラー状態のあの人がノリノリで付けてくれたので有難く頂戴した。

 いや、見た目はあんま変化ないけどほんと過去一番レベルで機嫌が良かったな。結局なんだったんだ……?

 

 それにまあ、私にネーミングセンスは無いのでちょうどよかったというか……うん、自覚あるよ……。

 

 

「そして、明日からお前は帝国の冒険者、ソルとなる」

「……」

「お前の任務は冒険者活動をしつつ、アルを探すこと」

「本物、を……」

 

「ん。まぁお前はもう偽物じゃないけどね。アルとは別の存在になったわけだし」

 

 

 じゃあ顔も変えろよって話だけど、いいだろ別に……この顔を名残惜しんでも……。

 別人と言い張れるパーツが揃ってるんだから問題ないっしょ。他人の空似ってやつよ。

 

 そして、アル探索はこいつに任せる。いや、同時並行で使い魔くんも飛ばすけど。

 聖剣の不干渉フィールドにこいつがどう作用するかは未知数だけど、前の使い魔くんが途中まで近づけたこと、そして弾かれるタイミングにムラがあるってことは……自動的ではなく、選択的に行われている。

 つまり、あいつに魔力干渉を行うのは危険だが、直接干渉を試みない限りは問題ない。

 

 であれば地道に探すしかないだろう。こいつの目視が頼りだ。

 こいつと私のパスはダイレクトに繋がってないから、見るだけならおそらく察知されることはない。

 普通の人間のように、見たものを記憶領域に格納するだけ。なら問題になり得るはずがないんだ。

 だってそれは、人間……通常の生き物と同じプロセスなのだから。

 

 そうじゃなければ魔力でものを見ているタイプの種族なんかはあいつを見た瞬間失明することになってしまう。

 でもそんな怪事件、今のところ全く噂にも聞かない。であるなら大丈夫だろう。おそらく……敵対さえしなければ。

 

 世界中を見て回るのは不可能だが、自発的に情報収集をしてもらいながら、少しずつ近づいていってもらう。

 人探しには、そういった噂話を辿る方向の方がやりやすいのかもしれないし、ね。

 

 

 

 とまぁ……。

 色々理論武装したけど結局のところ、私はこいつを道具として見れなくなってしまったというのが一番大きな理由なんだけど。

 

 いつの間にか一つの個として。あいつに限りなく近い……あいつの偽物である、人間として。

 そういうことに気付いてしまったら、偽物のままでいさせることが、少し不憫になってしまったんだ。

 農業ギルドの件も、そういう気持ちに拍車をかけさせた、のかもしれない。

 

 いやはや……私も人のこと言えないじゃないか。感情移入し過ぎだよ。

 

 だけど、私は悲劇の結末なんか認めない。

 だから、私にとってもお前にとっても、一番いい方法を考えたんだ。

 

 そしてあの子とあの人たちの物語も悲劇にはしない。そこら辺も同様に、許可を取った。

 どうせお前たちの技術は秘匿対象の一点ものなのだから。

 量産なんかされないユニークである存在なのだから特別扱いしても別にいいでしょ?

 

 

 そんなわけだよ。

 お前たちには、ぜひとも……頑張っていただきたいね。

 

 

「俺だけの、俺……そうか……」

 

「そうだよ。ハッピーバースデー、ソル。なんてね」

 

 

 

「そうか……そうか……! ああ、ありがとうっ!!」

「ひぇっ!?」

 

 

 

 ああああ! ちょ! 力強い!

 いま身体強化切ってるから折れる! 身体壊れちゃうっ!

 

 あっ、あっ!

 

 あ、でも、すこし、なんか、いいかも、きもちよ、

 

 

「っ! 悪い、大丈夫か!?」

「えへ、えへぇ……。……、……危ないとこだった」

 

 

 ……いろんな意味で。

 

 いやぁ、あいつと村で再会した時の抱擁はすごく優しかったからなぁ。

 あれはあれでよかったけど、なんかこう、こういうのもギャップがあっていいよね……。

 アルとは別の存在になったとはいえ、アルの顔と仕草でこういうことされると、うん。

 あいつもこんな風にやってくれないかなぁ……。

 

(キモ……)

 

 おい自己批判やめろサブ私。お前にも刺さるぞ。

 あとメインからのフィードバックをモロに食らったいくつかのサブ私が息をしてない件。

 いやはや仕方ないね。おかしいやつを亡くしたよ……全部私なんだが。

 こいつら当分仕事できそうにないから統合して回収しなきゃ。

 

 

「それじゃ、明日から頑張ってね」

「ああ……任せろ……!」

 

「あー……そうそう、プレゼントも用意してるんだ。ちょっと待ってて」

 

 

 こいつを冒険者として活動させるなら、戦力増強は必須だ。

 せめて1~2ドラゴンくらいの強さは欲しい。

 

 

「ほい、魔剣。銘はレーヴァテインだよ」

「……もらっても……いいのか? こんな凄まじい剣」

 

「もちろん。えっとね、これには炎熱系の術式がいっぱい入ってるけど最初からは使えない。基本は身体強化が発動するだけで、使い込むと段階的に解放される。……こういうの好きでしょ?」

 

「なるほど、わかった。マスター……ありがとうな!」

 

 

 ふふふ、めっちゃワクワクしてるねぇ。喜んでもらえて私も内心ニッコリだよ。

 あいつは魔術を使えないから、こいつも魔術を使えない。でもこれならオールレンジで対応できる。

 それに術者保護の術式もついてるから、絶対的なピンチには早々陥ることはないはずだ。

 

 さぁて、要件も済んだし気分的なリフレッシュもできたし、私は仕事に戻……。

 

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

「……えっと、あっちの拡張空間で試し切り、してきていいよ」

「よし、早速色々試してくる!」

 

 

 アル人形……ソルがプライベートルームの術式実験用拡張空間へと駆け出し消えていく。

 

 おいおい、お前は待てをする犬かよと。ついてるのは猫耳だけどさ。

 なんかこういうところは、やっぱりあいつっぽくて再現度が高い。

 でも……やっぱり少し、違う。

 

 

 それはきっと、私の知らないあいつの一面がまだまだあったということ。

 

 あれほど観察して、あれほど理解しようとして、それでもまだまだ足りない。

 もしかしたら一生かかっても……知ることはできないのかもしれない、けれど。

 

 私が知りたくて、でも決して届かない、未知。

 

 もっと知りたい、もっと、深く、もっと、もっと。

 

 

 

 

 ああ……あいつ今、何やってるんだろうな。

 

 

 

 

 

 

・・・




聖剣ちゃん「そういえば最近の干渉大人しい気がする。主のこと諦めたんかな?」


(魔力干渉でのアプローチを諦めただけです)
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