勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん   作:Mckee ItoIto

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(魔女パート)

2話か3話分くらいの導入編。


18歳、魔術師です。特技は魔術開発です。

・・・

 

 

 冒険者、とは何か。

 

 まぁ現代的に身も蓋も無い言い方をしてしまえば、業務請負契約の派遣便利屋である。

 

 冒険者ギルドを含むギルドというものは、ざっくりいうと主に、生産系、商業系、戦闘系、情報系、探索系などに分類される。

 実際には更に細分化されてたりして大体の職業はカバーしており、仕事をしている人は大抵どれかのギルドに所属している。

 

 つまりギルドとは職業組合といっていい。

 それぞれの専門家が集まり、資金や技術的な面などでギルドのサポートを受けたりしながら仕事をしてたりする。

 

 で、冒険者ってどういう職業かというと、主に戦闘系と探索系の仕事をする人たちのこと。

 文字通り、危険を冒して日銭を得るってことが本来の仕事になる。

 そういう人が集まるのが、冒険者ギルドになるわけ。

 

 だけど冒険者ギルド自体は実のところ、情報系のギルドになっている。 

 要は色々な依頼主から依頼を受けて、色々調整や精査をした上で冒険者にクエストを発行する、仲介業者って感じだ。

 

 冒険者の登録をすると、主に行うクエストの分類に合わせて、その専門ギルドへの登録も自動で行われる。その辺は一応最初にちゃんと説明もある。

 例えば討伐系のクエストをメインにする人は、狩猟ギルドも掛け持ちしてるってことになる感じ。

 そうすることで、狩猟ギルドからのサポートを冒険者ギルドを通じて受けることができるのだ。

 依頼の報告、納品、報酬支払いなんかも冒険者ギルドが全部代理で行なってくれる。

 

 他も同様。なので根を張って固定の仕事をしている人以外は専門ギルドに行く必要がほぼなく、冒険者ギルドで事足りるといっていい。

 むしろそっちの方が煩わしい手間も少ないので、行商人や加工職人さんなんかにも冒険者ギルドに所属してるって人は多かったりする。

 まあ当然のごとく手数料は取られるけど、それは必要経費ってやつだし。

 

 そもそも、元々冒険者とは一般人ができない危険な仕事を代わりにするような仕事だった。

 それがいつの間にかクエストの種類や依頼人の数が増え、冒険者ギルドは今では危険度とか関係なく大体何でも請け負う総合ギルドみたいになってる。

 そしてそこを利用する冒険者も、いつの間にか色んな種類の依頼を請け負う何でも屋みたいになったってわけだ。

 

 そんな冒険者ギルドに集まるクエスト依頼は本当に千差万別。

 従来のような危険な討伐や探索依頼もあれば、ただひたすらにめんどくさい採集依頼や、これって単なる子供のお使いでは……? みたいな納品依頼もある。

 報酬さえ用意できるなら一般人であっても依頼を出せるので、むしろ雑用的な依頼は案外多い。

 そういう安全なクエストも初級の冒険者なんかには飯の種として非常に有難い存在だったりして、ある意味なくてはならないし、初心者以外にも息抜きで受ける人だっている。

 依頼主は面倒が減って助かる。冒険者は危険を冒さずとも比較的楽な仕事ができる。つまりウィンウィンってやつ。需要があるが故に必要なものなのだ。

 

 だからそう。個人的な欲求のためのお使いクエストを出すのだって何ら問題はないということ。

 

 

 

 

 

 

 そうですここまで壮大な言い訳です。私は悪くない。

 

 

「流石に菓子の納品依頼を魔術院名義で出すのは、いかがなものかと?」

 

 

 はい。バレました。そして苦言を賜っております。

 大体さぁ、匿名希望だったのに何で私ってバレてんだよ。

 冒険者ギルドよ、情報漏洩か? あん?

 

 私の目の前にいるのは一応、名目上の上司である帝国魔術院長。

 見た目は普通の冴えないおっさんだけど中身が激ヤバな、間違いなく人類の上澄みである狂人。

 決して嫌いではないんだけど、ぶっちゃけ個人的にはちょっと苦手。

 

 でも私の表情は(表向き)涼しいものである。

 分割思考の私ちゃんズが、灰色の脳みそを使って言い訳を考えてくれているからだ。

 

 さあ反撃だぞ。突きつけろ、くらえっ!

 

 

「素材です」

「菓子が、ですか?」

「錬金素材です」

「……」

 

「……」

「……」

 

「私の活力となった結果新たなものが生み出されるのであればそれはある意味もう立派な錬成反応といってもいいのでは?」(早口)

「……」

 

 

 

 ……。

 

 く、苦しい……か?

 

 というか正直、今の発言は敗北宣言に近いのだが本当に大丈夫なのか脳内の私たちよ……。

 ぶっちゃけお菓子自体は素材じゃありませんが何か? って言ったも同然だし、もはやただの開き直りでは……。

 大体、論点からして魔術院の権威的によろしくないって話な気がしないでもないし……。

 

 

「ふむ……。まぁ、まぁ、貴女の生産性に寄与するのであれば良しとしましょう」

 

 

 なんか勝ったわ。

 よし、さすが私だ。褒めて遣わす。

 

 ……。

 

 いや何ですかその目。やめてください。私が可哀想な子みたいじゃないですか。

 相変わらず院長はクソ真面目ですね。糖分が足りてないんじゃないですか?

 

「……食べますか? お茶も入れますよ?」

「いえ、いえ、結構です」

 

 とりあえずお茶菓子でも用意しようと思ったら即答で断られた件。かなしい。

 いや多分、仕事の話をしにきててお茶しばきに来てるわけじゃないんだろうってのはわかるけどさ。

 

 自分で言うのもなんだけど、私みたいな美少女とのお茶会を普通断るか?

 フルオープンスケベな副院長だったら絶対食いついてたぞ?

 

 まぁあの人エロ親父な竿役オーラがあるんで正直あんまり長い時間同じ空間には居たくないんですが。

 お菓子とかなんかよりも私に食いついてきそうなにちょにちょした顔してこられると、ちょっとね。割とキモい。(暴言)

 あと直接的なセクハラはないけど、ちょいちょいまぁまぁ下品な下ネタぶっ込んでくるし。別に私は元男だからそこまで気にしないけど。

 

 多分今回の話だったら、"食べた物が君の身体の中で別のものに変わると。確かにそれは興味深い生体的錬成だねぇ……? "とか上から下に舐めるように見ながら言ってくるんじゃないかな。勝手に想像しといてなんだけどキモいね。

 そしてそんな副院長的下品な想像を嬉々としてお出ししてきやがった分割思考のサブ私ちゃん、お前はボッシュートです。反省しなさい。

 

 

 そうだよもう、大体さぁ、私そんなこと言わないし?

 私ってもっとこう、清らかで奥ゆかしい、ヤマトでナデシコな魔女さんなのだか──(たぶん色々違う)(宇宙戦艦かな?)(しょっちゅう妄想してる下品で汚れキャラな元男が何か言ってる)(キモさはぶっちゃけどっこいどっこい)──おい自爆的な自虐やめろ脳内の私ども!!

 まあ確かにさっきも一瞬、妄想であいつに食べてもらげふんげふん……やっぱなんでもないです。

 

 

 しかし実際、私の化け物みたいな実態を知ってるくせに平気でそんなふうに際どい軽口叩ける副院長ってほんと凄いよね。そこに痺れたり憧れたりはしないけどさ。

 実績的にも皇帝様や院長と一緒に魔術院を立て直した結構凄い人なのに……ああ自分の性癖に正直でさえなければ……。

 

 ちなみに私の弟子はその辺割と厳しいので、女好きの副院長もあまり絡みに行ったりはしてない様子。

 下ネタ言うとゴミを見るような目で見つめられるよ。怖いね。(n敗)

 

 そういうところに関して、院長はそういう気配が一ミリも無いから弟子の中ではポイントが高いみたいよ。なんかたまに二人で魔術談義してたりするのも見るし。

 いや弟子って本格的に魔術を習い始めてまだ3年くらいなんだけどな……いつの間にか帝国魔術院長と本格的な話ができるようになってて少し怖かったんだが……。

 

 あと弟子よ、質問があるなら私にしなさいね。院長も律儀に教えなくていいですよ。

 まだ弟子は私の弟子なんですから、あんまり私の師匠仕事を取ると拗ねますぞ? 

 

 ああ……ほんと、どうしよう……。

 もしも弟子に、院長の方が優しい! あの人よりもずっとすごいのぉ! 素敵っ! とか思われてたら……。

 

 

 やだ……つらい……これが……寝取られ……? (違う)

 

 

 ……なんか勝手に脳破壊されかけてしまった。

 だから寝取られは私の性癖じゃないんだっていってるでしょうに。

 

 それはさておいて、寝取りというよりはむしろ寝取られ顔なモブ顔おじさんに改めて視線を向ける。

 いや、流石に多分、お菓子依頼の話以外にちゃんとした用件あるだろうし。

 

 そんな私の視線に気づいた院長も軽く居住まいを正す。

 

 

「さて、さて、揶揄うのはこれくらいにして本題に入りましょうか」

「……最初から揶揄わずに本題に入っていただきたいのですが」

 

 というかどうでもいいけど皇帝様といい院長といい、前置きで私をいじめるの最近流行ってるの?

 この人たちひょっとして私のこと、いじれば面白い音が出るオモチャだと思ってない?

 気のせい?

 

 いや、別にイヤじゃないんだけどなんか釈然としないというかさ……!

 

 

 

 ……。

 

 

 ……うん。決してイヤじゃないんだよね。イヤじゃない。

 

 こうして……表向きでも普通に扱ってくれるのは、やっぱり有難いし、ちょっぴり嬉しい。

 天邪鬼な心の奥の私は、いいようにのせられておだてられてるだけって言いたげだけど……この国の人たちからは優しさのようなものを感じられることが多い、気がする。

 

 私は先代皇帝の時代を実際見てはいないけど、皇帝様が作り上げつつある今のこの国は、確実にいい方向に向かっているんじゃないか、と思う。

 

 勤勉で、真面目で、優しい人たち。それをいいように支配してた特権階級の存在。

 決して豊かとは言えない国だったのに、強者が己が欲望のための搾取を繰り返した歴史。利益を生まない存在に、無価値な弱者に人権が無かった時代。

 弱者は強者の娯楽のためのオモチャだったような、強者を楽しませられなければ生きられなかったような、そんな時代。

 

 それが大きく変わっていってる。その方向性は決して間違ってない。

 

 でも、今だって帝国民の中でそういう風潮が完全になくなったわけでは……残念ながらない。

 皇帝様だって、どっちかと言うと弱肉強食の貴族気質だ。弱者に無条件で優しいわけじゃない。

 

 今の私が優しくしてもらえるのは、今の立場にあるのは、私が圧倒的に強者だから。莫大な利益を生むから。

 

 欲望のための虚言。目的のための我慢。好意ではなく畏れと忖度。優しさではなく媚びとへつらい。

 みんなの優しさの裏がそうでないと、どうしていえるのだろうか。その方が自然で、当然だというのに。

 

 だけど……それでも私の存在を認めてくれるなら。優しくしてくれてるのなら。それでもいいのかもしれない。

 

 じゃあ……もし私がそういう存在じゃなかったとしたら?

 なんの力もない無意味で無価値な存在だったら?

 

 皇帝様は。弟子は。ここの人たちは。それでも私のそばに、いてくれるのだろうか……。

 

 

 あいつは……どうなんだろうな……。

 

 

 

 

 

 

「……。本題に入る前に一つ断っておきますが」

「はい」

 

「私は、貴女のことを()()()()好ましいと思ってます」

「ふぇ……?」

 

 ……え、なに急に。

 ていうか口説き? ……ってのは流石に冗談だけど。

 大体この人、子供もいるし。なんなら私と同年代の子だし。

 じゃあ単に心配? されたんだろうか。

 

 なんか顔に出てたかなぁ……相変わらず表情筋が仕事してる様子はないんだけど……。

 思わずほっぺむにむにしちゃう。

 

「貴女は貴女が思う以上にわかりやすいですよ。196の私が、貴女が的外れなことで落ち込んでいると結論づけました」

 

「えぇ……」

 

 

 なにそれ、こわ……。ぶっちゃけ私この人のこういうとこ、苦手なんじゃよ……。

 優しくしてくれてるってのはわからなくもないんだけど、申し訳ないがなんかドン引きが先に来てしまうんだ……。

 

 あと、怖くてずっと聞けてないんだけどさ……。

 この人の思考分割術式、たぶんメインサブじゃなくて完全パラレルでやってるよね……?

 256分割の時点でだいぶ頭おかしいけど、さらにそれって正気か……?

 常人だったら絶対盛大に混線しまくって自己崩壊してると思うんですが……?

 なんで自意識が並列で大量に存在してる状態のまま自己認識の維持ができてんの……?

 

 まじ狂ってるよ……やばいよぉ……こわいよぉ……。

 

 

 

「あー……えっと。ありがとう、ございます?」

 

 でも……まぁ仮にでも心配してもらえたのなら感謝はすべきだよね。たとえその本心が、どうであったとしても。

 そもそも私は魔術師なのだから、もっと合理的に考えないと。思惑なんか切り離して、差し出されたものを純粋に受け取った方が断然いいに決まってる。

 

 あれよ。感謝と贈り物は素直に喜んどけってやつ。天邪鬼より無邪気が吉ってことよ。

 ほんのちょっとでも嬉しさを感じたなら、疑問も疑念も疑心も無視すべきで、その裏の欺瞞なんか想定すべきじゃない。

 

 ここは王国じゃないし、私も昔の私とは違うのだ。今や私にだって一応、帝国民としての人権が与えられている。そう、人と人との間に生きている、人間なのだから。

 

 なので素直になれない病み病みな私ちゃんは思考分割で切り離して仕舞っちゃおうねぇ。

 

 そもそも大体さ、化け物かゴミくずかの二択って我ながらどういう想定なんだと。アホか。両極端すぎるわ。

 

 どうせ考えるならあいつとのことでも考え(妄想し)てた方が精神的に健全なわけだし、脳内アルバムでも眺めて癒されようぞ……ふふ……あいついま何やってるのかな……。

 

 

 

 

「で、本題ですが」

「……あっはい」

 

「魔術院採用試験、テストしてもらえませんか?」

「ああ、もうそういう時期」

 

 

 帝国魔術院は慢性的に人手不足なので、定期的に新人を募集している。

 もちろん不定期での採用もある。皇帝様がぶち込んだりとかで、私もこれ。コネともいう。

 まぁでも大体は採用試験による新人が多いかな。多いと言っても年に数人程度だけど。

 

 ずっと少数精鋭で頑張ってるっていうのに特に数年前から忙しさのレベルがぶち上がってるから魔術院はとにかく人を欲している。

 でも魔術師なら誰でもいいってわけじゃなく、魔術院のレベルを落とすわけにもいかないので我々は人材の確保にとても苦慮しているのだ。

 

 大変だよねぇ。この忙しさは、いったい誰のせいなんだろうなぁ……(遠い目)

 

 

 というかだけど。

 私ってこの採用試験に関しては、ここ来た初年度以外基本的にタッチしてないんだよね。

 

 はい、そうです。弟子以外の合格者全員に逃げられたやつです。

 あの時は私の下で学びたいって人が結構多かったから、選別の為に気合注入したら入れ過ぎました。

 他の試験官のテストもあって合格者ゼロにはならなかったけど、私の下で学びたいって人は何故か弟子以外いなくなっちゃったよ。不思議だなぁ……。

 実際あの弟子を発掘できたんだから十分おつりが来ると思うんですが、あの時はちょっと怒られました。

 翌年からは自重して引っ込んでろ(意訳)って言われたので、テストにちょっと監修するくらいに留めてます。

 でもそれもやっぱり弟子を基準に考えると他の新人どもには厳しすぎるらしく、鬼畜呼ばわりされてる私の元には未だに全然人がこない。かなしい。

 

 いいもん……私には弟子がいるし……そのうち卒業するだろうけど……。

 

 ……いや、本音は弟子をこれ以上ない免許皆伝まで育てたい気持ちはあるけど、流石にいつまでも私の手の中に留めておくわけにもいかないでしょう。

 弟子にだって、早く独り立ちしたい気持ちとかもあるだろうし。あー……フィールドワーク中の弟子、元気にやってるかなぁ。

 

 

「ですが、いいんですか?」

「おや。何がでしょう?」

「いや私、試験官やってもいいんです?」

 

 流石にいい加減匙加減も分かってきてるのでそんな安易に全滅させたりはしないつもりだけど……。

 こと魔術に関してはあんまり妥協したくないし……私の同僚になると考えたら多少厳しくならざるを……?

 

「いえ、いえ。すみません。勘違いさせてしまいましたね」

「……勘違い?」

 

「テスト、希望者と一緒に受けてもらえません?」

 

「え? ……えぇ?」

 

 

 

 ……どういうこと?

 

 

 

「試験の方向性を変えました。つまり即戦力に限らず将来性のある魔術師……エステルさんとまではいかずとも、成長を見込めるのであれば今の実力は重視しないという形ですね」

 

「……なるほど?」

 

 要するに弟子が成功体験なわけだ。

 入った当初の弟子は正直大したことなかったけど、今や技術だけなら上級冒険者顔負けの一流を超えた超一流レベル。

 私から見たらまだまだだけど、人類の上澄みに片足を突っ込みかけてるといってもいい。

 

 しかしそんな弟子も試験の成績的にはホントぎりっぎりだったわけだし、私が目をかけなかったら落ちてた可能性も大いにある。

 

 だからこそ弟子みたいな金の卵を取り零さないようにってこと……いや、あんな異常な成長性を持った天然チートがそんないるわけねぇだろっていう話でもあるんだが。

 

 ……そもそもなんでそれが、私が試験を受けるって話になんのさ。

 

 

「一つに、貴女に受ける側の視点から試験の採点をしていただきたいということ」

「素の状態が見たいと。うーん、まぁよくあると言えばよくあるやつですけど」

「それと、試験自体に対しての改善もあれば見ていただきたいですね」

「新試験方式だというなら、まぁそれも理解」

 

「あと個人的に、貴女には常識的なレベルの魔術師ともっと関わっていただきたいとの判断もあります」

「誰が非常識ですか」

「はて、貴女が常識的だと……?」

「……」

 

 

 いや、思わずノリでツッコんだものの、私が非常識なのは自覚あるし分かるんですがね。

 

 なんだろう、この人に言われるとすごく腑に落ちない気持ちになる。

 凡人のフリした狂人が常識を語らないでいただきたいのですがっ……。

 

 

「お忙しいところ申し訳ないのですが、どうかやっていただきたい。事務処理関係の代われる仕事は全て私が行いますので」

「やるやるやります」

 

 

 え、マジで?

 しばらく書類仕事から解放されるんですか! やったー!!

 

 いや実際、この人の事務能力は異次元だから文字通り百人力……どころでは済まないかもしれないレベル。

 研究開発(と、自分の趣味)にかまけてて地味にかなり書類溜めてるからマジでホント助かるんですわ……。

 ああこれ……見たくも触れたくもないけど期日前に試作の時間遅延術式使ってでも追い込み掛けなきゃかなぁ……って思ってんだよ……。

 

 大量の書類、ソルがここ出てく前に駄目な子を見るような目をしながら分類整理してくれてるから、これそのまま渡すだけで済むし!

 サンキューソル! フォーエバーソル! 仕事のできる男は素敵だぞ! その調子でアルも早めに見つけてくれなっ!

 

 

 あ、そういえばあれも、そろそろ冒険者ギルドで初クエストとかしてる頃かな?

 活動資金も有り余ってるポケットマネーから渡してるけど、情報収集もしなきゃだし。

 もしギルドに情報があったとしても個人的なことは教えてくれないから、冒険者への聞き込みなんかが頼りだよね。

 冒険者ギルドって信用に関わることに関してはホント融通が利かないからねぇ。

 

 ……うん。そう。

 たとえギルド内に核心的な情報があったとしても……流石の私も、そこまで後ろめたい方法で情報を引き出そうとまでは考えてないんだ。

 それこそ、やろうと思えばギルドのセキュリティを全部素通りして個人情報を引き出すことも可能だけど。そもそも近年のセキュリティ技術は全部私製だし。

 でもそれは重大すぎる犯罪だし、どんな事情があったって、いくらなんでも許されない。そんなことしてしまったら皇帝様にもあいつにも、顔向けできなくなっちゃう。

 

 

 

 ……え? 使い魔くんは後ろめたくないのかだって?

 

 いや、でもあれは、見守り用途だし……純度百パーセントの好意と善意だし……?

 あいつに何かあった時の保険的なものであって、決して享楽のためじゃない……はずだから……。

 プライバシーも、で、できるだけ……見ないようにしてたし……。

 

 壊されてからの捜索活動とかも見守り継続のために仕方なく……そう、仕方なく……。

 

 

 ……なんかソルが生まれたおかげで、一周まわって健全な方法に戻った気がする。

 

 いや、冷静に考えたらこれまでの私ってかなりやばいストーカーだったのでは? (何を今更)

 まぁあいつには本性がバレても大丈夫だろうって確信はあるけど、正直見せたくない部分ではあるよね……。

 あれがあいつと会えた時、ほんとできれば余計なこと、言わないでほしいところ。切に。

 

 ああ、あいつ今、なにやってんのかなぁ……。

 

 

 

 

「それに貴女は一般にあまり顔を知られてませんからね。貴女が外で活動される際は主に超過サイズのフードを被ったローブ姿ですから、恐らく気付かれないでしょう」

 

 ん……。確かに私は、魔術院の人間として外の部外者と会うときは基本的に本気ローブを着ている。

 まぁ外出る機会自体がそんなにないんだけど、式典の時とかの公の場では本気ローブだから人と会うならその姿の方が何かと都合が良かったりするのだ。

 

 こないだのカジュアル遠征は侍女兼護衛ってスタイルだったからローブ不要だったってだけで。

 その後の懲らしめターンではガッツリローブ姿で威圧しましたけど。

 

 そう言われてみればあんまり意識してなかったけど、確かに私の素顔って帝国ではあんまり知られてない気がするな。

 世間一般に知られているイメージとしてクー・ド・ヴァン・デュ・シエルという魔術師は、ぶっかぶかのローブに滅茶苦茶魔力線を走らせて浮遊しながら周りを威圧してる、みたいな感じになってそう。

 

 それ以前の帝国冒険者時代とかは単なるクーでしかなかったし、そもそもその時代もローブ姿だ。

 流石に四六時中じゃなかったと思うけど……あの頃は結構人見知りしてたから大体着てた。あいつのローブ着てると落ち着くし。実は今でも寝るときとか、無駄に着てたりする。

 だからその中身がこんな美少女だと知っているのは、皇帝様と魔術大臣さんを除けば魔術院の人たちくらいかもしれない。

 

 たしか最初で最後の試験官の時もローブ着てたから素顔は出してなかった、かも。あの時の弟子がビビってたのはそういう意味もあったのかもなぁ。

 それ以降の新人なんかが私を見てマウントを取ろうとしてきたのも、単に別人の女魔術師だと思われてただけってことなのかもしれない。

 だとしたら、いい度胸してんなおい……って全力でわからせをしたのは可愛そうだったかもしれないな。

 その結果が、私の研究室には弟子しか残ってないという現状。盛大な自業自得でしたね……。

 

 

 ま、まぁ。そんなわけで、素顔を晒して人前で魔術師として振る舞うのは相当久しぶりなのかもしれない。

 ……なんだかドッキリの仕掛け人みたいでちょっとワクワクするね。

 

 

「そういうわけで、宜しくお願いします」

「了解。書類の件、こちらこそ是非よろしくお願いします」

「言うまでもないことですが、新人候補生なのですから、やりすぎないように」

「……善処します」

 

 信用ないなぁ……。

 

 

「……」

 

「……?」

 

「先に謝罪します。ですが……致命的なことがない限り、どうか必ず、その場では様子を見て下さい」

「了解……?」

 

 

 なんか脅されてるみたいで怖いけど。

 

 

 まぁ、まぁ、ちょっとした息抜き気分でやってみましょうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

<教国教会での密談回想>

「魔術を修めた……魔族?」

「そうそう。最近の魔族は魔術を覚えていたりする。苦し紛れの言い訳のように使う稚拙なものじゃなく、ちゃんとした魔術を、ね」

「魔族が、魔族の魔法ではなく人間の魔術を……人類を見下す自称上位存在たる魔族が、ですか……?」

「うん。つまりそれって負けを認めたってことなんじゃないかな。何百年もかけて研鑽してきた魔族の汎用魔法技術を、人間の魔術が超えた。勝てないと思わせた。だからプライドを捨てて学び始めた」

「最近……。帝国の魔神さんの、影響でしょうか」

「たぶんね。勇者の聖剣でもなく聖女の奇跡でもなく、魔神の魔術が魔族という種族……魔王に負けを認めさせたってこと。……ちょっと悔しいけどね」

「……」

 

「でもそれで少し困ったことになるんだよね。元々魔術師は魔族容疑が掛かりやすいんだけどさぁ……」

「魔術師の魔術と魔族の魔法は似ていても違う。……専門家以外では違いが分からない方も多くおられるのですが、私どもにとっては大きな頼みの綱。自白に等しい判断材料」

「魔族の魔法を使う魔術師は存在しないからね。強力無比で千差万別だから使われると困るけど、使ってもらえたら一発で魔族判定できる」

「それが今後は、たとえ追い詰めても使われない可能性があり得る。代わりに……魔術師と同じく強力な魔術を……」

「うーん、それってだいぶやばいよね。絶対、いずれ不味いことになる」

 

「……()()()()()()()()

 

「まぁ、まだ当分は大丈夫だろうけどね。あまり知られていない情報だし」

「……だから貴女はここに」

「そう。ここは結構保守的で過激な宗派だからね。今の教国は聖女を有しないから戦力は法国よりだいぶ下、だけど影響力はあるから変に動かれると困るんだ」

「この秘密会談も、情報を絞る為、ですか」

「魔族が魔術を使う噂はここの上層部の一部にもある。今の段階でそれと、"街に魔族がいるという情報"とくっ付けさせるわけにはいけないんだよね。勝手に暴走されちゃ堪ったもんじゃない」

「……」

 

「てなわけで、僕はここの動きを抑えるために動けない。事後処理はこっちで何とかやるから、頑張って秘密裡に対処してね。()()()()()()()()()()?」

 

「……やはり私は貴女のこと、苦手です。()()()()()()()()()

 

 

 

・・・




聖剣ちゃん「魔族……うーん、魔族。やっぱわっかんないなぁ。主の判断に任せよう……」





(聖剣ちゃんは700歳児なだけで悪い子じゃないんです!)
(ちょっと強大な力があって調子に乗りがちなだけの純粋な子なんです!)
(そもそも調整をユーザー任せにしてる女神さんが一番酷いのでは)

(ちなみに教会の四聖女……見習いは四大元素がモチーフになってて、全員女性名詞のイタリア語ですね)
(なのでヴェント(男性名詞)はイコールでアリア(女性名詞)です。風担当)
(本当は風と空気なので厳密には違いますが細かいことは気にしない)
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