勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん   作:Mckee ItoIto

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(勇者パート)

シリアスさん「過去回と聞いて来ました。通してください」


俺の幼馴染は、ただ魔術が得意なだけの女の子

・・・

 

 

 

<勇者のそっくりさん、冒険者になる>

「はい、以上で終了となります。これであなたは初級冒険者です」

「ありがとう」

 

「……」

「……?」

 

「最後まで聞いていただき、ありがとうございます」

「うん?」

「いえ、あなた様のような実力者の場合、面倒だから講習はパスしろ、と仰られる人が多いものでして」

「ん、ああ……。まあ俺は出戻りみたいなものだし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、変わってることもあるかもしれないからこういうのはちゃんと受けておくべきだと思ったんだ」

「とても良い心がけです。……クエストの希望はありますか?」

 

「そうだな……人を探してるんだ。何か噂を集められるようなクエストがあるといいんだが」

「でしたら、隊商護衛などが最適でしょう。ですが今はその種のクエストはありません。もし新しく入りましたらお声かけさせていただきます」

 

「……いいのか? 隊商護衛って信頼が無いと無理なんだろ? 俺は初級だぞ?」

「ええ。あなた様は、魔術院と皇帝陛下からの推薦を受けている方ですので問題ありません。それに……この短時間のやり取りだけで個人的にもあなた様は信用できると考えました」

「なるほど……有難い話だ。じゃあ、その時はよろしく頼む」

「かしこまりました。では、それまでの間は他のクエストでもいかがでしょう? 例えば……農業ギルドへのお使いなどがございますが」

「うーん、とりあえずそれを受けておくか。しかし……初クエスト……記憶にあっても経験にない……不思議な気分だな……」

 

「……」

「……ん?」

 

「いえ。では、別室へどうぞ。クエストの説明をさせていただきます」

「? 了解、わかった」

 

 

 

(双子でしょうか……? でも、獣人……? 詮索してはいけませんが、複雑な事情がありそうですね……)

 

※複雑な事情ないです。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 あ、これは夢だな。と思うことってあるだろう。

 

 例えば不可能なことが出来たり、出来るはずのことが出来なかったり、とか。

 例えば自分は今の見た目なのに、周りが昔の見た目だった、とか。

 例えば崖から落ちたはずなのに気づいたら地面に立ってて助かった、とか。

 例えば怪我をしたのに傷が一瞬で治って痛みも感じなかった、とか。

 

 夢であればそういったことにも違和感を感じにくく、当たり前のようにその状況を受け入れたりしてるものだが。

 ふとした瞬間、違和感と共に、夢の中で夢から覚める、みたいなことが起こったりする。

 

 なら、果たしてこの光景は、現実なのか、夢なのか。

 

 

 

 

 

──お、いたいた。今日はなにやってたんだ?

 

「ん。よぉ、アル。えっとだな……、……、……ちょっとした玩具を作ってたんだよ。ほら」

 

──おぉーすっげぇ! なんかめっちゃ回る! すげぇ!

 

 

(あ、これは夢だな)

 

 

 

 

 

 目の前で()()()()()を浮かべているのは、少年のような女の子。

 あいつの……幼い頃の姿。活発で溌剌として表情豊かだった、男の子みたいな少女の姿。

 

 そこに幼い俺もいてあいつと向かい合ってて、俺が二人いるみたいな状況になってる。

 

 この俺たちは……3歳か4歳くらいだろうか。

 なんだろう、昔の記憶か……? 正直ほとんど記憶にはないが……。

 

 場所は、あいつが小さい頃、研究室?と称して色々と運び込んでた村外れの森小屋。

 

 ていうか指の上で延々と回転し続ける謎のおもちゃにハシャぐ子供の俺……ガキすぎやしないか……?

 いや、実際にガキなんだが。というか同い年のはずのあいつが大人すぎるってだけな気もするんだが。

 

 

 ……地味だけど何気にすごいなこれ。

 どういう仕組みなんだろうか。今の俺が見てもちょっと気になる。

 

 

 

 

「まぁこんなのはどうでもいいんだ。失敗の副産物だし。……もっと効率的な開発方法を考えないとダメだな」

 

──えー、しっぱい? こんなすげーのに。

 

「もっと、ちゃんと凄いものじゃないとダメなんだよ。大人たちも納得せざるを得ないような、完全無欠の有意性というかなんていうか。もちろんその前に何個も段階を踏む必要はあるんだが……」

 

──ふーん……?

 

「あぁ……子供は素直でいいよな。大人はどうもしがらみに縛られてるというか。せっかくのチートなのにちょっと世知辛いんだわ……」

 

 

 

 

 ……これは夢だから、実際にあった会話なのかはわからない。

 昔からあいつは随分と大人びた子供だったように思うが、こんなにも小さな時から、こんなにも大人みたいな振る舞いだったのだろうか。

 

 そんな気もする。むしろ、小さい時の方が肩肘張って大人ぶっていたような、あいつはそういうやつだった。

 

 俺たちの村は田舎だからか若者が少なかったものの、俺たち以外にも子供はいた。

 でもあいつは……はっきり言って変なやつだったので、他の子供からも大人からも少し避けられていた。

 あいつに父親がいなくて、母親と一緒に村長の世話になってたっていう状況もあったせいでもあるのだろう。

 とにかく、あいつはいつも一人で、でもそれを気にしない様子で、村外れでずっとこそこそ何かをやっていた。

 

 誰もが不気味に思ってる、子供とも大人とも違うように見える、変わりものの女の子。

 俺は、この不思議な雰囲気のあいつが、気になって仕方なかったんだ。

 

 気になるし面白そうだから仲良くなりたい。できれば友達になりたい。

 そんな子供特有の勢いであいつのところに通い詰めて……多分すぐに友達になれたんだと思う。

 それから毎日のようにあいつとばかり遊んでて。

 

 おかげで俺たちはお互い他に友達らしい友達もいなくて、まるで家族かのように、いつも一緒にいたんだよな。

 

 

 

 

「なぁ、アル。将来の夢ってあるか?」

 

──ゆめ?

 

「大人になったら何になりたいとか、何をしたいとか、だな」

 

──なんだろ? わかんねーや。

 

「いや、なんかあるだろ。あれだったらいま叶えてやってもいいぞ? お前の願いを3つ言ってみろー、何でも叶えてしんぜよー、なんてな」

 

──えーっと、うーん……やりたいこと……ねがいかぁ……。じゃあ……、つよくなってマモノをやっつけたい。

 

「魔物?」

 

──だって村のみんな困ってんじゃん。オレがつよけりゃなーって思ってさ。

 

「うー、あー……魔物……確かに多い気もするが……流石にお前にやらせるのもなんだかなぁ。その願いは却下だ」

 

──えー、ケチ。なんでもじゃないのかよ。

 

「うっせ。どうせ()()()()()()()()()()()()からお前が強くなる必要ないんだよ。他のにしろ」

 

──んー、じゃあこれからもあそんでくれよ。ほかにやりたいことなんかないし。クーといっしょにいれるならなんでもいーや。

 

 

「お……?」

 

 

──あと2つ……なにがいっかなぁ……うーん……まあいいや3つ分で全部このねがいにしよ。だから、これからもいっしょにいよーぜ?

 

 

「お……、おぅ……、お安いご用、だ……?」

 

 

──やくそくだからな!

 

 

 

 

 これも記憶にはほとんど残ってない。

 小さい頃に何か約束があったような……気がしないでもなかったが……。

 

 いや、というかこの約束、何気にだいぶ小っ恥ずかしくないか……?

 ガキの頃の俺って、なんか凄いな……。

 

 

 村の魔物被害は、ある日を境にほとんどなくなった。その理由は間違いなく、あいつのおかげなんだろう。

 全くのゼロにしなかったのは、見回る大人たちに配慮したってことなのだろうか。それはわからないが。

 

 これくらいの時期には、あいつはもうとっくに魔術を覚えていて、こっそりと使ったりしてたんだと思う。

 その力を、俺と、村のために振るってた。きっとそうに違いない。

 

 学ぶ環境もなかったのに、どこで身につけたのかは全くわからない。

 流石のあいつも、あれほどの魔術をゼロから編み出したわけじゃないと思うんだが……。

 

 

 だけどもあいつは恐らく、魔術が使えることを大人に知られるべきじゃないと、ずっと前から勘づいていた。

 子供とも呼べないような幼い俺に対しても、わかるように直接見せることはなかった。

 

 唯一の例外と言えたのが、俺の身に危険が迫ったとき。例えば、エステルいわく遠隔空間転移で俺を救助したときなど。

 思えばあの時のあいつの表情は、焦燥感と安心感と後悔と葛藤が入り混じったような、複雑な表情をしていたような気がする。

 アホガキな当時の俺はあいつに"夢だ"と言われて、なんだ夢か?とアホみたいに納得してたんだが……流石に今の俺ならあれが紛れもない現実だったってわかる。

 

 

 

 それを、初めて人前で明確に使ったのは、俺たちが6歳の時。

 

 魔物……ワイバーンの大移動という災害から、たった一人の力で村を守ったとき。

 

 その選択が、その後のあいつの運命を絶対的に決定づけた。

 

 

 

 葛藤もあったのだろう。躊躇もあったのだろう。でもあいつは、使うことを決めた。

 こうなることが多分わかってたにも関わらず、こっそりで対応できる範囲を超えてしまったから。

 

 

 

「おい、お前はバカか。こんなところに来るんじゃない。帰れ」

 

──なんでだよ。オレたち、友だちだろ?

 

 

 

 場面が変わった。ここは、村はずれの簡易的な牢獄。

 犯罪者や重篤な病人……穢れたモノたちを隔離するための場所。

 

 そうだ。村のみんなは、村を守ったあいつを拒絶した。

 

 その"みんな"の中には、消極的ながら、あいつの母親さえも含まれていた。

 

 

 

 

「あのなぁ………………、大人たちが言ってただろ。……()()()()()()()。お前を食っちまうぞ?」

 

──クーのどこがマモノなんだよ。だいたい今までオレのこと食わなかったじゃん。

 

「それは……その……あれだ、お前が大きく太るのを待ってだな……」

 

──そんなのどーでもいいから外に出ようぜ。こんなのおかしいって。このカギってどーやって開けんだ……?

 

「聞けよ。これだから子供は……」

 

──聞かない。ていうかクーも子どもじゃん。それにオレ子どもでいいし。友だちをサベツするような大人になりたくねーし。

 

「……。……はぁ。いいんだよ。あのな、これは俺の失敗なんだ。気にするんじゃない」

 

──……しっぱい? なにがだよ。

 

「自分を過信してた。きっとどうにかなるしどうにでもできるってバイアスに捉われてた。10年計画とかいいつつ、楽観的で視野が狭くて、予測も保険もだんだん怠るようになってた。これは単なる間抜けな無能の末路なんだよ。自業自得だから、仕方がないんだ」

 

──いみがわかんねーよ。なんでクーがわるいことしたみたいになってんだよ。

 

「悪いことをした、じゃなくて悪いモノだからだよ。ここの人たちにとっちゃな。……しかしどうせ魔術がバレるならって少しやりすぎたとはいえ……正直これほどの忌避だとは思ってなかったから……ここでも想定不足だった。……そういう意味では、お母さんには悪いことをした、か」

 

──なんで……クーが。

 

「……まぁ何にせよ天秤にかけたらやむを得なかった。お前のことを考えたら俺の立場なんか安いもんだよ」

 

──オレの……?

 

「お前は子供だ。まだまだ大人が必要だからな。……だからお前は家に帰れ。そこがお前の帰る場所だ。お前の居場所はここじゃないんだ」

 

──だからなんだよ、それ。わかんねーって。

 

「わかれよ。お願いだから」

 

──……。

 

「……わかってくれ」

 

 

 

──……、……なぁ、クー。

 

 

「……なんだ」

 

 

──あそぼうぜ。これからもずっといっしょに、さ。オレたち友だちだろ?

 

 

「……、……、お前ってやつは、……ほんと」

 

 

 

 

 

 ……このことは、はっきりと覚えてる。俺はこの時、純粋にあいつのことを尊敬してた。

 あんなに恐ろしい魔物たちをあっさりと打ち払うその姿が、カッコいいと思ったんだ。

 

 だからこんなこと、到底納得いくわけがなかった。

 周りの何もかもがおかしくて、俺は絶対にあいつの味方じゃなきゃいけないと、子供心ながらに思ったんだ。

 

 だからそれ以来、俺はあいつのところにこっそり通って、色んな話をしたり、色んな魔術をせがんで見せてもらったりしてた。

 その度にあいつは少し困りながらも元気そうに、嬉しそうに、今の俺が見ても理解できないような凄い魔術を惜しみなく見せてくれた。

 

 何もない地面に花を咲かせる魔術。

 風を吹かせて自由に空を飛ぶ魔術。

 地面の土から人形を作って動かす魔術。

 光を空中に浮かべて辺りを照らす魔術。

 甘いものを苦く、苦いものを甘くする魔術。

 近くの狭い範囲にだけ雨や雷を降らす魔術。

 見えない壁や階段を作り透明な家を建てる魔術。

 触れもせず一瞬でパンを輪切りにして焼く魔術。

 

 他にも色々あった。

 

 楽しい思い出だ。同時に、後悔の記憶でもある。

 

 このことは、ずっと心に残っていた。何度も何度も思い出した。

 

 そう、その後たった1年で、俺の方から約束を破ることになるなんて思ってもいなかったから。

 

 

 

 

 

「ん、アル。今日は遅かったな。……お前さ、なんか最近元気ないだろ? だからとっておきの面白い術式を作っ」

 

 

──クー。

 

「…………どうした?」

 

──オレ、しばらくここにいるよ。……家出してきた。

 

「は……? なんの冗談だ?」

 

──父さんが、村を出るって。王都にオレもつれてくって。でも、オレは村に残るから。

 

「……」

 

──王都についてったってなんの意味もねーよ。オレの友だちはクーだけだから、()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぁ……」

 

──だからオレも中に……、あれ、なんでカギが開かないんだ……?

 

「は……」

 

──うーん? みんな見回りぜんぜんしないくせにカギだけ変えたのか……? おい、クーなら開けれるだろ? 早く、

 

「はは……」

 

──クー?

 

 

 

 

「あぁ、ほんと馬鹿だなぁ……馬鹿だよ……こんな子供なんかに……最低じゃないか……。……。()()()()()()()()

 

──え?

 

 

 

 

「さよならだな。クソガキめ」

 

──え……?

 

 

 

 

「お前は嫌でもどうせ村を出てくよ。大人には逆らいようのない、ガキなんだからな。ほんとよかった。もうその顔を見なくて済むと思うと、せいせいする」

 

──な……に、いってんだよ、クー。

 

「わからないのか? …………俺はガキが嫌いだったんだ。いつも迷惑だったんだよ鬱陶しい。お前みたいなガキに付き纏われてずっと気分が悪かったんだ」

 

──おい……おいっ……!

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

──おい、クー! なにふざけっ!?

 

 

 

「『転送』」

 

 

 

 

 あいつは……本当に嘘が下手だった。

 絶対にそんなこと本当は思ってないって、子供の俺でも確信できた。

 

 だから、何度も何度も会おうとした。なのに、なぜか道に迷ったり、近づいたと思ったら村の中に戻ってたりして、あいつのところに辿り着きさえできなかった。

 最後の手段で、村の近くで俺が危ない目に合えばあの時の夢みたいに会えるんじゃないかと思ったけど、子供が立ち入れるような危ない場所には透明な壁みたいなものがあって、入れなくなっていた。

 

 結局のところ俺は、両親に引きずられるようにして村を出るまでの間、一度もあいつには会えなかったんだ。

 

 

 ……そうだ。俺は、ずっと悔しかった。

 大人の都合に振り回されるばかりの、無力な子供の俺が……嫌だった。

 

 だから冒険者になった。

 もちろん冒険に憧れる気持ちもあったが、何よりも自分の力で事をなせる、自由な立場をこそ欲した。

 

 父さんとは随分喧嘩したが、最終的には折れてくれた。

 母さんは……結局最後まで口をきいてくれなかったが……。

 

 

 そうして、冒険をして、評価を上げて、実力をつけて。

 

 誰にも、あいつにも文句なんか言わせず、村から連れ出せるように……なんて考えてて。

 

 

 ほんとバカだよな。俺。

 あいつがそれまで無事な保証なんて、どこにもなかったのに。

 いや……あいつが実力的に誰かにやられてしまうなんて考えにくかったけど、それでも。

 

 もっと急ぐべきだった。何もかもが遅すぎた。

 

 

 あれからの7年という歳月は……あまりにも……長すぎたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ぁ、……は。久しぶり、じゃないか。()()()()()()()。……()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(っ……!)

 

 

 最悪な目覚めだ。脂汗が酷い。

 脳裏にあの時の凄絶な……死の気配が、こびり付いて残っている。

 

 ようやく、それなりの冒険者として覚えてもらえるようになって、王都から離れた依頼も受けるようになって。

 王国冒険者ギルドのあまり整理されていない膨大な依頼書の中から、故郷の村の、様子のおかしい依頼を見つけて。

 

 胸騒ぎを覚えながら向かった先にあったのは、何故か生者を襲わないアンデットが蠢く村。

 

 そんな地獄絵図のような光景の中、いつかの牢獄の中で、最初あいつは置物のように動かなかった。

 

 

 それが、俺を認識したと思ったら……いきなり()()()()()()んだ。

 

 

 全力で手加減された、本気の攻撃をぶつけてきた。

 大地を消し飛ばしてしまうかのような強大な魔術が、冗談のように降り注いだ。

 

 あいつが使う魔術は俺に一度だって直撃することはなくて、だから攻撃というよりはむしろ、癇癪や虚勢、威嚇のように見えた。

 それでも、そのどれもが万が一直撃してしまえば、間違いなく命は無いと思えるような凄まじい威力で。

 

 

 どうやって俺がこの場面を乗り越えられたのかは、無我夢中だったからあまり覚えていない。

 

 ただ、剣を放り捨てて、何かを叫び続けて必死に、ボロボロになりながらあいつのところに辿り着いて、抱き止めた。それだけだったと思う。

 

 たったそれだけで、あいつはおとなしくなった。

 

 

 それから、ぽつりぽつりと、言葉をこぼし始めて……。

 

 

 

 

──……違う、違うんだ。こんなの、こんなことにするつもりなんか、なかったんだ。

 

──ただ……、いや……、色々……あって……、村から少し目を離しただけ。色んなことに疲れたから、少し隠れるだけのつもり、だったのに。

 

──今までずっと、大したことはなかったから、ほんのちょっとの間なら大丈夫だろうと、思ってたのに。

 

──そしたら、よりもよって最悪のタイミングで、最低な魔物、吸血鬼が、村を襲ってた。

 

──本当なら、直接対処できてれば、そんな雑魚どうにだってできたっていうのに。こんなことにはならなかったのに。

 

──少し一人になりたくて、感知も最低限にしてたせいだ。すり抜けられた。気づけなかった。そんなの想定してなかった。

 

──だから、村人を皆殺しにしたのは、村を滅ぼしたのは、全部自分の責任。この怠け者がもたらした、最悪の結果、なんだ。

 

──ごめん、ごめんな。お前の生まれ故郷を、こんな地獄にしちゃったんだ。本当に、ごめん。

 

──こんな力、何の役にも立たなかった。今更、吸血鬼を殺したって、何の意味もなかった。

 

──ずっとずっと、何もかもが裏目になって上手くいかない。こんなのまるで、ただの疫病神だ。

 

──不幸と不運を振り撒く存在なんて、魔物と何が違うっていうんだ。結局みんなの言う通りだった。

 

──馬鹿だ。ただの馬鹿じゃないか。何がチートだ。過ちのやり直しなんかどうやったってできない。こんなの……こんなもの……。

 

 

──…………。……あぁ、アル。お前、ほんと大きくなったよな。なんだ、商人じゃなくて、……冒険者になった、のか。

 

 

──依頼は……調査か? 討伐、か? ……まぁ、どっちでも、いいか。

 

 

──よかったな、アル。簡単な依頼だぞ。ほら、お前が処理すべきクエスト目標がここに、

 

 

 

 

 

──……って!! いってぇ!? えっ? なに、頭突き? なんで!?

 

 

 

 

 

 このときは、なんか馬鹿なことを口走ろうとしたあいつを止めようと、軽く頭突きしたんだったっけか。

 というかこう、なんかイラッとしたけど流石にぶん殴って止めるってわけにもいかなかったし、そもそもあいつを抱き止めてたから頭を使うしかなかったというか。

 

 とにかく正気を取り戻させるために。逃がさないように捕まえておきながら根気強く説得した。

 その間、弱い抵抗はあったものの……あいつが本気で逃げるつもりなら俺の力なんか振り払って何処へでも行けただろうから、多分拒絶はされてなかった。

 

 

 引き攣るように固まった表情のまま、涙を流しながら腕の中で小さく震えてて。

 そんな姿は……いつかみんなが言ってたような、大人のような子供でも不気味な存在なんかでも、恐ろしい魔物なんかでもなくて、ただの小さい子供でしかなかった。

 

 成長して美しくなっても、あいつはずっと、小さなままだった。

 ただ、吸血鬼なんてドラゴンと並ぶような最上位の魔物を、雑魚と言い切れる常識外の強さと魔術の知識があるだけ。

 みんな、その分厚い外側の違和感に捉われて、その中にいる、ただの女の子に気づいていない。

 

 そこにいるのは大人ぶってるだけの、素直でお人好しで思い込みが激しくて、色んな事を知ってるのに結構馬鹿で、無邪気で楽しいことが好きな、小さく可愛らしい女の子。

 

 そんな子が、助けを求めてたんだ。だから助けなければならない。そうだろう。

 あいつのことを周りがどう見てようが、そんなのどうだっていい。

 どれだけあいつが凄いとか強いとか、そんなのだって関係ないんだ。

 

 正直に言ってしまえば、俺はあいつの役に立てれば、それだけで満足なのだから。

 

 

 

 そう、これが子供のころからの、本当の俺の夢。

 

 この思いが悪いものであるとは思えないし、思いたくもない。

 

 だけどそのせいで……俺は一つ勘違いをしてしまう。

 

 あいつを一度助けただけで、つい、()()()()()()()()

 

 その先の道もまだずっと続いてたというのに。

 

 

 

 あれからしばらく、俺の隣にはあいつがいた。王都までの道中と、王都での冒険者の活動。そこには、あいつの姿が共にあった。

 あいつの力を借りればもっと色々楽することはできたのだろう。だけど王国で大っぴらに魔術を使わせるわけにはいかないし、俺自身あいつを利用するような真似はしたくなかった。

 

 まぁ……あいつを助けられたのだから、あいつに守られたくはなかった。という情けないちっぽけな男のプライドみたいなのが邪魔をしてたのも少なからずあったのだろう。

 でもそれ以上に、あいつの力が欲しいのじゃなく、あいつがいてくれたらそれでいいというだけで。隣であいつが笑っててくれるなら、それだけで俺は満たされた。

 

 昔みたいに表情全体で笑うことは無くなったけど、だんだん愉快な性格に戻って、小さく口角を上げて笑うくらいは、たまにするようになった。

 

 そんなあいつと旅をしながら、昔みたいに色んな話をするのは……本当に楽しかった。

 

 

 

 

──あのさ……本当に良かったのか……? ()()()()を助けて、後悔したりは……。

 

──え、あ、ごめ、わかっ、わかったよ……わかったってば……もう二度と聞かないからさ……………………ふぅん……。

 

 

 

──教えてくれ。お前は、何が望みだ……? お前が望むなら何だって叶えてやれるぞ……? それこそ……何だって。

 

──って、いや、なんだそれ。()()()()()()()じゃないか。欲が無いやつだ。……ほんと変わんないよなぁお前は………………ふぅん……。えへへ……。

 

 

 

──えっと……その……正直に言ってほしいんだけど……()()()()()()()()

 

──あ、うん。そっか、友達か。……そうだよなぁ。……うん。……でも大事には思ってるんだな。ふぅん……。まぁ私も……アルのこと、大事に思ってるぞ。うん。

 

 

 

──いや、ほんとマジで何かしてほしいこと、ないのか? というか私に対してアレしたいとかコレしてほしいとかも、本当に何にも思わないのか?

 

──あー……実際さ……お前も男の子だろ……? でさ……えっと……その……一応……私は女の子なわけだし……?

 

──あ、うん。肉じゃが作るのはいいんだけどさ。うん。そうだな。お前男の子だからいっぱい食べるもんな。うん。でもそうじゃないんだよな。……まぁいいか。

 

 

 

──なぁ……お前って実は男好きだったりするのか…………? あ、いやいや、ごめんごめん。恥ずかしいだけなのか。ふふ。そりゃ男といる方が楽だよな。へぇ。思春期じゃん。ふふ。

 

──って……あれ? にしては私に対して自然体じゃないか? ……あ、なるほど。そっかそっか。まぁ私はお前のこと、()()()()()()で理解できてるからな。……これでお前が鈍感系じゃなければなぁ。

 

 

 

 

 

 今の旅に楽しさがないとは決して言わない。だけど、この二人旅は本当に、本当に、楽しかった。

 周りから揶揄されることも、誹謗中傷を受けることもあった。でもそれ以上に、嬉しかった。

 

 あいつの耳にそんな醜聞が入らないように頑張りながら、あいつを守っているって充実感もあって……勘違いをしていた。

 

 俺たちの関係は、昔みたいに笑い合える関係に戻ったんだと、そう思い込んでた。

 

 

 

 

 

 

 

 

──"しばらく旅に出ます。探さないでください。"

 

 

 

 

 

 

 

 

(……あぁ、あいつ今、何やってるんだろうな)

 

 

 思い返すのもツラいことが多い、だけど決して忘れるべきではない記憶たち。

 焼き付くように魂に刻まれた、沢山のあいつの小さな姿。

 

 俺の、大事な幼馴染で、大切な友達なんだ。忘れられるわけがない。

 

 

 視界の端で、聖剣がぼんやりと光っている。まるで、元気出せよと励ますように。

 同情……というより納得……憧憬……激励……?そんな意思がじわじわと伝わってくる。

 

 

 ……ああ、そうだな。頑張らなきゃな。

 今度こそ間違えないように。二度と取り零さないように。

 

 

 勇者になるんだ。

 俺は、あいつが生きていける世界を作るために、勇者の使命を果たさなきゃならない。

 

 あいつが迫害されない世界を。あいつが昔みたいに、心から笑って過ごせる世界を。

 

 魔族を、魔王を、倒すこと。

 それだけじゃ足りないかもしれないが、あいつのために、絶対に必要なこと。

 

 

 

 何も理解していなかった今までは、ただの、凄い剣を持っているだけの冒険者に過ぎなかった。

 

 こんな夢を見たのも、いま一度俺の原点を見つめ直すため。そうなんだろう。

 

 だからこれは、俺にとって本物の勇者としての、本当の最初の一歩。

 

 

 やるぞ。まずは、ここの魔族の脅威を取り払うんだ。

 

 

 

 

 

 

 あいつの勇者になるために。

 

 

 

 

 

 

「おはよー。……え、なんかアル顔ひどいよ? あ、いや、そういう意味じゃなくて」

 

「いや、だからどういう意味だよ……アリアとエステルは?」

「まだ寝てる。まぁ時間も早いからね。アリアとか帰りも遅かったし」

 

「ほんとお前、時間は守らない癖にいつも早起きだよな……」

「まぁね。そんな褒めなくても」

「褒めてねえよ」

「ていうかアルも珍しく早起きじゃん。また夢見でも悪かったん?」

 

 

 

「……まぁな。でも、悪いことばかりじゃなかった」

 

 

 

「?」

 

「先に色々準備しとこう。日の出と共に出発するぞ」

 

「うん、わかった……やる気満々だねぇ。流石は我らが勇者様」

 

 

 

──ピカピカ!

 

 

 

「お、聖剣もそうだそうだと言ってるよ。たぶん」

「言ってねぇよ。多分この感じはちょっと違うな。……うん、一緒に頑張ろうぜ」

 

 

 

・・・




聖剣ちゃん「そっか、あれが主にとっての魔法使いなんだ。覚えとこ。……ほんと主はすごいなぁ。私も一緒に頑張んなきゃ」





(過去回想を挟むならちょうどいいタイミングじゃね?ってなった結果、勇者パートがまるまる1話増えました。反省してます)
(実際この魔女さん、昔から有り余るチートスペックでゴリ押ししてるだけの無邪気なアホです。そんな魔女さんを上手に扱ってる皇帝様の苦労が偲ばれますね)
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