勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん 作:Mckee ItoIto
隔離用結界くんの人気に嫉妬。悲しいけど何かと便利なので使い倒される運命にあるのよね……。
・・・
<王たる魔>
「女神よ……次こそ我は……貴様を超えてみせる……その為には魔法の更なる追究を……」
「魔王様! 新生魔王軍として最上位魔族を中心とした形で再編いたしました! ご確認ください! よろしいでしょうか!」
「忙しい、好きにしろ」
「魔王様! 人間の帝国に政変が起こり攻めどきです! 攻めましょう! 今こそ新生魔王軍復活の狼煙を上げるのです!」
「忙しい、好きにしろ」
「魔王様……! 帝国へ出撃したカーネイジ様の先遣隊が……壊滅しました……! 魔力回収すらできず復活は絶望的です……! ですが皇帝への強襲は後一歩だったためどうか作戦の継続を……!」
「忙しい、好きにしろ」
「魔王様……このままでは対帝国の戦況は厳しいと言わざるを得ません……投入した戦力の損耗は……4……いや2割を超え……どうか魔王様のお力添えをいただけないでしょうか……?」
「忙しい、というか引けばよかろう」
「そ、そんな! ダメです! 新生魔王軍に敗走など有り得てはなりません!」
「大体何にそんな苦戦しておるのだ」
「え、あ、とんでもない化け物……い、いや、いえ、そう、上級魔術師の軍勢が!」
「? 魔術……? ああ、あの、我が魔法の真似事か。懐かしい。あぁ……しかしあの人間の女は……惜しい存在だったな……愚鈍な失敗作らよりもずっと……」
「魔王様?」
「なんでもない。どの道、我は忙しい。最上位どもを投入すればよかろう」
「あ、え……、すで……、……くっ、」
「話は終わりだな。さっさといけ」
「ぐ……」
「……はっ、くだらん。我は女神の世界の全てを暴かねばならぬのだ」
「我ではなく人間に与えられし、この世界の何もかもを……」
・・・
優れた魔術師とはどういう存在か。
難しい魔術を使うこと?
難しい魔術を作ること?
残念ながらそんなものは、本質的に大事な要素ではない。
難しい魔術を使えようが作れようが、それだけで優れているとは到底言えない。
もちろん、できるに越したことはないけど。
これは持論だけど、職業、仕事、役割は超大雑把に分けると二種類しかない、と思ってる。
すなわち問題解決と娯楽。まぁどっちにも属するのもあるけど。論理和ってやつだ。
職業論を突き詰めて考えれば他にも、儀礼的な文化職とか、単なる犯罪そのものとかあるけど、そこらへんは置いとくとして。
例えば弁護士や医者は、法律や医術を使って問題を解決する。この辺はわかりやすい。
コックは調理技術を使って問題を解決する。食事は生命維持に直結する問題だからね。
でもコックは美味しいご飯で娯楽も兼ねてたりしたり。
パティシエなんかも同様。こっちはどっちかと言えば嗜好品なので娯楽メインといえるけど、でも精神の安定維持に直結するので実は問題解決とも?
特に今の私にとって、甘いものは人生の1.5割くらいをガチ割合で占めてるから割と命をかけて守護らなねばならない存在でもあるのだ。
いやはや、いつも美味しいお菓子をありがとう。まじ感謝。金有り余ってるし余分に払っていいくらい。お菓子納品の報酬とかももうちょっと上げていいかもしれん。
……ちょっと話が逸れたけど、つまり魔術師とは魔術を用いて問題を解決する存在といえる。
魔術師が必ずしも魔術を作れる必要はない。魔術を使えて、問題を解決できればいい。
魔術師が必ずしも魔術を使える必要はない。魔術を作れて、問題を解決できればいい。
魔術によって何か少しでも問題を解決できるのであれば……立派に魔術師を名乗る資格があるといえるだろう。
そういった意味で言えば、私は紛れもなく万能で優秀な魔術師だが、決して全能の最優ではない。
私にだって解決できない問題なんか数え切れないほどある。
まぁ私はチートなので、ぶっちゃけ手段を選ばなければ大抵なんとかなるんだが。
でも怒られるので一応手段は選んでます。怖いわけじゃないぞ。
さて。話は変わり魔術院採用試験だ。
もちろんこの試験は優秀な魔術師を採用するための試験である。そのままだね。
試験とは評価をするためのもの。品質を認定し、保証するためのもの。
では、魔術院の試験における、評価基準とは何か。
筆記試験に関しては応用問題もあるが、正直、基礎知識偏重だ。地力を測るために仕方ない。
とはいえ、これだけで全てが評価されるわけじゃない。
本番は、実技試験。
知識を元に応用的な実践ができるかどうか。手札を如何に使いこなして問題を解決できるか。
たとえば以前、私が試験官をした時は、そこそこの結界にいきなり閉じ込めて、脱出してもらうって感じの試験をやった。
この時に使ったのは単なる『四重:交錯結界』で、難易度的には決して無理ゲーではなかったはず。……だったんだけどなぁ。
この『交錯結界』は複数の魔力障壁を重ね合わせて、その術式構成の魔力暗号をランダムなタイミングでランダムに入れ替えるってだけのシンプルな暗号結界だ。
結界の物理強度自体は高いけど、四重じゃ術式のセキュリティ強度としてぶっちゃけ大したことはないよ。
私の部屋の鍵なんか魔力暗号を重ねに重ねて64階層だしね。なんか弟子にあっさり突破されたが。
この時の試験は、上級冒険者クラスであれば、まぁ半数はクリアできるだろうって難易度設定にしたつもり。
だったのだけど……流石に合格者が一人も出ないとは思ってなかったね。うん。
一応何やるかは院長に伝えてあったけど「これは私のミスですね……」とか沈痛な表情で言われてすごくなんとも言えない気持ちになったよ……。
なんか解析すらせず自慢の攻撃呪文(笑)をブッパして自爆してるアホとかもいたし……。
だけど、この時の素人同然なはずの弟子は結構いい線いってたんだ。
わからないなりにあたりをつけて解析を進めて、仮説を立てながら可能性の高い方法を順番に試行錯誤しつつ、うまく行きそうに見えて実は先がない手段を見極めて、無駄を躊躇なく切り捨てられる優れた判断力もあった。
残念ながら知識と手札が少なすぎて突破はできなかったけど、今の弟子ならこんな結界ごとき一瞬で脱出してみせるだろう。
それこそ、私のプライベートルームの魔力鍵を開錠できるくらいだし。マジすごいわ。でも人の部屋の鍵を軽率に開けるようとするのやめようね?
つーか真面目な話、見られて困るから鍵かけてるんですけど? やばい素材とか変な失敗作とか見られてないよね……?
いやほんと天然チートの弟子を煽った過去の私が悪いから仕方ないとはいえ……師匠としては弟子の成長を喜ぶべきか……。
今の鍵はもっと強固なのに変更してるけど……これもいつか突破されそうで怖いな……。
これ以上強固にすると私自身が自分の部屋に入るのに苦労することになるんだが……一体誰のせいなんでしょうねぇ……。
……それはさておき、今年の試験について。
今回の実技試験について、私は関わってないから何するかはマジで知らされていない。
今までの傾向的に何かしら実践的な課題がいくつか出てそれをクリアするって感じ、だと思うんだけど……。
「……パー、ティ?」
「そ。私らでパーティ組んで、魔術院にある試験用の人工ダンジョンを突破するんだってさ」
ぱーちぃ。
ふむ。なるほど。
あれですかな、着飾って美味しいご飯とか食べたりするやつ。
……いや流石にわかるよ。現実逃避しただけだよ。
でもさ、院長。私がパーティプレイできると思う?
私ってば冒険者時代もパーティ組めなくてずっとソロだったんだが?
というか組みたくてもギルドの人たちとか冒険者たちには何故か避けられてたんだが……? なんでなん……?
危なそうな人とか横から豪快に助けてあげたり、野良ドラゴンが南の獣国から追い立てられてやってきた時とか率先してサクッと狩ってあげたり、冒険者として結構貢献してたと思うんだけどなぁ……。
ちなみに皇帝様にお茶会の席でこの件について話したら、ダメな子を見る目で見られたけど何がダメかは説明してもらえなかったよ……。
むしろ「いや、貴様はそのままでいい」とか言われたけど、いや、じゃねぇよ一体何がいいんだよ意味がわからん。お前いっつも言葉足らないんだよ……。
「というわけで、今日の午前組の俺たち五人でダンジョンに潜る。魔術院のダンジョンとやらがどれほどの難易度かわからんが、筆記試験の難しさを見るに相当なものに違いない。気を引き締めないとな」
「……」
「えへへ、頑張ろうね」
「それじゃあ自己紹介しましょうよ。私と彼、あとそこの筋肉は一緒のパーティだったけど、あなたたちはお互いの名前も知らないわけだし」
「まず先にこっちから名乗るか。俺はトゥールだ。トゥール・ビオン。攻撃魔術には少しばかし自信がある。"旋風の刃"っていう冒険者パーティのサブリーダーをしてた……やめたから元だけどな」
「私はビズ。家名は無いから、ただのビズよ。トゥールとは同じ"旋風の刃"に所属してたわ。よろしく」
「……ゼフィール」
「えっと。わたしは、あっかー、だよ? よろしくね!」
なんか私がキョドってる間に話がずんどこ進んでる……。
というかこのムキムキマッチョ喋れたんだ……無駄に名前かっこいいな……。
あと私、黒髪ちゃんの舌っ足らずな喋り方が若干気になります。でもロリっぽくて可愛いね。
「? お前は?」
「……え?」
「いや、名前。教えてもらえないとパーティ内での意思疎通できないだろ? もし教えたくないなら、代わりに何て呼べばいいかを教えてくれ」
「え、あー、アル……」
「よし。それじゃアル、今日はよろしくな」
「あ、うん……」
なんだこのイキリボーイ、やたらグイグイくるんだが?
これだから陽キャは……いや私は決して陰キャじゃないけどな。
いきなり知らん奴に慣れ慣れしく話しかけられると咄嗟に言葉が出ないってだけだし。
根は明るく楽しい陽気で愉快な魔女さんでやってますし。
「……こいつの言うこと、まともに聞いちゃダメよ。女ったらしなんだから」
「おい、変なこと吹き込むな」
「いや実際そうでしょ。"旋風の刃"でも散々女の子引っ掛けてさぁ?」
「おい……それくらいにしておけビズ……こいつはただ優しいだけだ……優柔不断でもあるがな……」
「? おにーさん顔はカッコ良くないけどモテるの?」
「気に食わないことにね。こんなふつーの顔してるくせに」
「……なんか俺の評価が早々に急落してる気がするんだが?」
楽しそうだなこいつら。あと君ら仲良くなるの早くない?
というかガチムチマッスルマンは普通に長文も喋れたんだなぁ……。
まぁ、まぁ、心配されずとも私がこいつに絆されることはない。
もう私には心に決めたやつがいるからな。ふへへ。
「で、アルは何が得意なんだ?」
……?
あ、私のことか。あいつのこと考えてたから名前呼ばれて一瞬呆けてしまった。
うーん……何が得意か、か。多分、何の魔術が得意か聞いてるんだよな……?
ぶっちゃけ魔術に関することであればこれといって苦手分野は無いから、全部得意といっても過言ではないんだが。
まぁでも、属性的な話で強いて言えば……。
「……風?」
風属性かな。
そう、私がこの世界で生まれて初めて触れたのが風の元素だったんだよね。
転生して、魔力なんてものがあると知って、テンプレ的に見えない魔力を感じようとあてもなく修行(笑)を頑張ってたらいつの間にか操れるようになってたってやつ。
あれはたしか2歳くらいの時だったか。
今思い返せばあんなの魔術とも呼べないような、実に幼稚で稚拙極まりない原始的なものだったんだけど……というよりあれは魔物が使うような原始魔法に近いか?
この時に見られて魔力バレしてたらもしかしなくてヤバかったかもなぁ……。転生早々、実は割と危なかったのかもしれん。
流石の魔術チートも、全くの初期レベル状態じゃ問題解決もクソもない。2歳児の時点で迫害されてたらいくらなんでもどうしようもなかったわ。
まぁ客観的に考えたら、5歳で迫害されてたのも正直どうなんだって感じではあるが。
成長した魔術チートで大抵のことは可能になってた分、結果的にはだいぶマシだったというか。
それこそ、あの頃より遥かにレベルアップしてる今なら、何でもドンとこいって感じ?
そう、なんでも……。
…………。
……ごめんやっぱ無し。もう二度とごめんだわ。
そのせいで。
「……ふーん。へぇ。アルも風適性か、奇遇だな。俺らも3人とも風なんだぜ?」
「むーぅ、わたし水だから仲間はずれだよぉ」
「………………ん。でも他の属性も全部得意」
「……なんだそりゃ? まぁでも一番は風なんだろ?」
「それはそうだけど」
はい。メイン私が勝手に闇落ちしかけたのでサブだったメンタル健常な私と交代しました。
こういう時、思考分割ってすっごい便利やね!
というかこれが本来の用途であって、院長みたいな使い方はホントは想定されてないんだよ!
マジであの人頭おかしいね!!!
そんじゃ、本筋に戻って属性云々の話。
この世界の魔力は6種類の元素を元にしている。
それが火水風土光闇の6元素だ。まさにテンプレファンタジーって感じ。
この世界の魔力を持ってる生き物には、それぞれ魔力適性ってのがあって、それによって使える属性が違う、と言われている。
これは間違いともいえないんだけど絶対じゃなくて、適性じゃなくても使おうと思えば他の属性も使えるし、なんなら同時に複数属性の行使だって可能だったりする。
もちろん火と水や、風と土、光と闇みたいに相反する属性は同時に扱いにくいけど、言うてもちょっと難しいくらいで普通に共存させられる。
魔力って割と融通が利くからね。なのである程度以上のレベルになったらあんまり深く考えなくても問題はないよ。
というかむしろ、色んな属性を使えるようになるべきだね。私の術式、主属性と副属性の比重はあれど初心者向け以外は複数属性必須のものばっかだから。
まぁ当然というか流石に初心者が魔術を使うなら、ちゃんと属性を合わせた方がいいんだけど。
例えば弟子は火の適性があったから最初は火属性の魔術を中心に覚えてもらった。
あ、ちなみに火属性は適性じゃなくても比較的覚えやすく使いやすいので、初心者にはかなりおすすめだったりする。
火、というか熱という概念は生き物にとって感覚的にとても理解しやすいものだから。
逆におすすめできないのが、風属性。
目に見えないものだから感覚的に扱うには結構コツというか、才能みたいなものがいる。
まぁ私はチートなので苦労した記憶は無いが、弟子も習得にそこそこ苦労してたので非適性だとやっぱ難しいらしい。
ちなみに魔力適性は基本的に4元素のどれかになることが多く、光と闇はほぼない。どっちも属性としては神のものに近いから、この二つの属性は特に扱いが難しいんだよ。
私でも光と闇は基本、補助的な使い方をしてるし。これらを主属性とした魔術は、まぁ色々作ってはいるけど……。
中には私でも制御ギリギリなやつとかもあるから出来るだけ使わないようにしてる。
もちろん『光球』や『遮光』の様な危険性ほぼゼロなものも当然あるけど、何にせよ初心者にはお勧めできない上級者向けの属性だね。
つっても弟子は普通に使ってるが。やっぱあの子絶対おかしいよ……。
……さて、そんなこんなで、改めて私たちの属性を見ていこう。
私、風。
イキリボーイ、風。
金髪ギャル、風。
マッチョマン、風。
まな板黒髪ちゃん、水。
いや、バランス悪っ!
それに風と水はどっちも流体なので親和性があって相互に覚えやすいし、多分風トリオも多少は水属性を使えるだろう。
黒髪ちゃんはパッと見の力量的に、恐らく他属性も使える……まぁこの子は神力があるから多分そっちを優先で鍛えてるんだろうけど、風属性くらいは使えておかしくはない。
だから多分全員ほぼ似たような属性を使う魔術師。いやいやもうちょいバランス考えて振り分けよ?
ああ、ちなみにだけど、女神と関連深い聖職者が持つ、ほぼ固有能力な神力。これ自体に属性は無いけど、魔力に作用するのでそれに影響されて属性っぽい働きをしたりもする。
例えば魔力的に水属性であれば、水に関連する神力の使い方になるだろう。元の魔力をブーストする形になるのが多いかな?
でも魔力を介さず神力単品で使うこともできるらしいし、その場合は光属性っぽい振る舞いをする、らしい。私は使えんからわからんが。
このへん帝国教会の人に協力してもらって色々検証してみてるけど、まだまだ謎は多いね。
どっかの剣は多分神力で謎の魔力無効化してきやがるし。感知できないから神力を使ってるかは推測だが。ほんとクソゲーですわ。
……というか黒髪ちゃんって力量的に明らかに教会の上位の人間だよな。
院長が気づかないわけないし、これが院長の言ってた問題ってやつか……?
あんまりお偉いさんだと対応ミスったら政治的にってことなのかなぁ。
「? どしたの?」
「なんでもない」
まぁいいや。さておき、となるとほぼ全員、風水魔術師か。
なんかこういうと途端にちょっぴり胡散臭くなるが気にしてはいけない。
そんで、このバランスわるわる魔術師オンリーなパーティでダンジョンに挑むと。
いや、そもそも魔術院試験なんだからここには魔術師しかいないわけなんだが?
パーティ組むと必然的に全員後衛になってしまうんだが?
あの、院長、この試験本当に大丈夫っすか……?
……まぁ、きっとムキムキの人が筋肉的に前衛の代わりをしてくれるんだろう。
最悪、オールマイティなワイルドカードでジョーカーたる私が臨機応変に対応すればヨシ。
どのみちここの人工ダンジョンは魔術実験用だから、おおよその構造は私も把握している。
というか最初は私が依頼されて作ってるし。
そこから結構改造されてるらしいけど、そんな変わらんと思うし。
「よし、じゃあ行くか」
「準備も良さそうだし、そーね」
「……」
「がんばるよ!」
なんかイキリボーイが仕切ってるのが気になるが……まぁいいだろう。
実はこういう、冒険者パーティっぽいの、憧れだったりしたし。
みんなでダンジョン潜るとかなかったからね。ソロならあるが。
あいつとの二人旅はあんまりクエスト的なことしなかったし。
あれはあれで良かったけど。
……あいつ今なにやってるんだろな。
「
……?
あ、私か。
「ごめん、いま行く」
んー、でもパーティクエストか。どう動こうかなぁ。
あんま出しゃばってもアレだから、サポートしつつ動く感じがいいかな?
……一応仕事だけど、ちょっとワクワクしてきたね。
今日の私は魔女さんではなく冒険者だ。
さぁ、冒険者のアルちゃん、がんばるよ!
・・・
<厄介魔術オタク>
「チッ……これではダメか……小休止にしよう。そういえばあれ以来静かだな」
「ふん……魔王軍、か。どうでもいい。しかし、帝国。たしか、カーネイジは上位だったか?」
「あれを退ける帝国の魔術。どうせ大したことはないだろうが……研究の手がかりにはなるかもしれんな……」
「情報を集めてみるか……」
「くっ……くくっ……魔の神、とな。我を差し置いて面白い存在だ。実に傲慢。人間如きが烏滸がましい」
「まぁ、あの女ほどじゃないだろうが。気晴らしに魔神とやらの顔でも見てやるか」
「なにあれ。すご」
「え? どういうこと? 待って、ちょっと待って、理論がわからんから訳がわからんかった。ちゃんと調べよ……」
「『初級魔術指南書』著:クードヴァンデュシエル。ふむ、なるほど。あの人間はクードというのか」
「く、くくくっ……、やはり我は天才……この程度児戯に等しい……! 帝国式魔術とやらも多少は過去の偽魔法より発展してるが、何、大したことないな……!」
「『中級魔術探究書』……え、ちょっと待って、この間になんかないの? あれの次がこれ? 急に飛躍しすぎじゃない? は?」
「……ふん。まぁ所詮はこの程度か。しかし……この術理……理論構築……なるほどな。かつてのあの女ですらクードほどではなかった。これほどの人間が存在するとは……」
「『上級魔術窮極書』……流石に簡単には手に入らんか。中級ですら制限扱いで軍の保管倉庫には一冊しかなかったからな」
「改めて帝国に乗り込むのは……できれば避けるべきだろう……そもそもあやつの索敵から逃れるために無理にでも異次元に入らざるを得なかったという現状が……」
「あっちに展開してる魔界を経由すれば恐らく大丈夫だろうが……肉体的にも魔力的にも衰えてる現状では正直この接続も切ってしまいたい……しかし繋がりを断つと新たな知識を得られない……やはりあの書は欲しい……」
「魔王さま、今度こそお時間よろしいでしょうか……?」
「ええいうるさい。我は忙しい。後にしろ。ゲートを開けてるだけでも有り難いと思え」
「ぐっ……く、申し訳、ござ」
「あ、いやちょっと待て」
「……?」
「クードヴァンデュシエルという人間の書いた書物があったら献上せよ」
「! 承知いたしました! ああ! ついに魔王様が!! あ、あと、さ、差し出がましい願いを」
「よい。新たな書一冊につき、一つ魔法を与えてやろう。献上済みのものであっても何かしら取らす」
「ありがとうございます! 全軍に通達いたします!!」
「さっさといけ。我は忙しい」
「はっ!」
「……よし」
「有り難き……幸せ……」
「よい。受け取ったならさっさといけ。我は忙しい」
「はっ……」
「……」
「……ふ、ふふ」
「くくく、やった、ついにやったぞ。『上級魔術窮極書』、どこぞの上級冒険者とやらには不幸だったろうが我に関係無いしな」
「これであやつの魔術全てを平らげ、我の真なる魔法を完成させてやろう……!」
「待っていろ怠惰なる女神よ……愚かな貴様に変わり……我こそが世界を統べるのだ……!」
「まじゅつなんもわからん……」
「え、うそ、まだこの上がある? うぅ……ぐぐ……」
・・・
魔王さん「『秘匿禁忌』とやらも欲しい……実在するかもわからん根も葉もない流言でしかないが……」
女神さん「zzz……」