勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん   作:Mckee ItoIto

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(勇者パート)

 まったりクエストやで?


真実の大半は気づきたくない事実という現実

・・・

 

 

 

<忘れがちだけど魔女さん空前絶後超絶怒涛の絶世の美少女フェイス>

 

「ねぇ、ところであんた……」

「え?(なにいきなり、てかこの金髪ギャルやたら距離近くない……?)」

 

「何で顔隠すように布被ってんの?」

「え?(それダンジョン行く前に聞くことか?)」

 

「魔術院の試験受けられてるってことはお尋ね者ってわけでもなさそうだし、女神教以外の信仰してるとか?」

「え? いや、別に(というか神全般嫌いだし)」

 

「……そう。……、じゃあ、何か深い事情……あるの?」

「……え?(え?)」

 

「女が顔隠す理由って、あとは大抵、怪我とか病気とか……」

「え?(村でよく見たただの村娘スタイルほっかむりファッションなんですが……?)」

「あと……男とかに……嫌な思いさせられたとか……」

「え?」

「怪我とかならいい治癒術師紹介できるけど……でもあいつが話しかけた時の反応、妙にビクビクしてたし……」

 

「え、ぁ、いや、ちが、別に事情とか…………やっぱ取る」(髪ふぁっさぁ)

 

「……は?」

「えっ?」

 

「……」

「……」

 

「いややっぱそれ被ってて。あと絶対トゥールの前では外さないでね」

「あっはい(……マッチョの方はいいのか?)」

 

「はぁ……、心配して損したわ。そんなにそれあっさり外せるなら、別にその顔で嫌な思いとかもしてないんでしょ……」

 

「……」

「……、……」

 

「別に最近は、無いかな」

「……無神経だったわ。ごめん」

 

「いやいい、気にしないし。あと安心していい、別にあの男に関しては一切何とも思ってないから。ついでにあの筋肉とかも正直どうでもいい」

 

「そう……ならいいけど……」

 

(強いていうなら副院長がキモいアプローチしてくるのがちょっとアレだけど、アレは何ていうか、キモすぎて逆に許せるというか……むしろ若干シンパシーを感じるというか……)

 

「……、……ほんと、ごめんなさ」

 

「それに私にはあいつがいるし……」

 

 

「は?」

「……え?」

 

 

「え、何? つまり、そういうことなの? あんた心に決めた男でもいるわけ?」

「……ぇ、……、あ、ぅ……?」

 

 

「……」(じっ……)

 

「……」

「……」

 

 

 

「………………うん」

 

 

 

「……ふ、ふふふ、そーなんだ。いいじゃんそういうの。ねぇねぇ、どんな男? 聞かせてよ。どんな馴れ初め? 助けてくれた王子様的な?」

「ひぇっ……!?(ちょ、ちか、いきなり近いって!)」

 

 

「おい、お前たちそろそろ行くからな?」

 

 

「あ、ちょっと! もう、あいつホント空気読めないんだから。……また後で聞かせてね?」

 

(助かった……? くっ……これだから陽キャってやつは……)

 

 

 

 

 

(でも正直いい匂いした)(おっさん乙)(アレがオタクに優しいギャルってやつ……?)

(おいギャルとのふれあいに脳内でハシャぐなサブ私ども)

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

「合図を決めときましょう」

 

 おもむろにエステルが切り出した。

 俺たちは今から全員揃って孤児院巡りをするところだったのだが……?

 

「合図?」

「はい。先に確認ですが、相手が魔族と確定した場合、そのまま討伐しても構わないんですよね?」

「そうですね。審問無用でそのまま……滅してしまいましょう」

 

 

「あー……なんかさ、全然関係ないけど、メッ!する!っていうと可愛らしいお仕置きみたいだよね。実際は教会のそういうお仕置きってえげつないんだろうけど」

 

 

「……ふふ、ベルさんもお仕置きして差し上げましょうか?」

「うわこわっ……ごめんなさい冗談です勘弁してください」

 

 ベルと冗談を言い合うアリアの顔色もだいぶ良くなっていて、気分的な調子も回復してきたようだ。

 ……微笑んでるのに目があまり笑ってないのが正直ちょっと、いや、かなり怖いが。

 

 魔族の話が出るようになって、時折アリアから()()()()()()()が漏れることがある。

 何があったかはわからないが……ベルがそれを察して空気が重くなり過ぎないように少しふざけたのだろう。

 ……ちょっと失敗したみたいだけどな。

 

 

「……というか、先に相手から話を聞く必要は無いのか?」

 

 俺も続けて話の腰を折る形になってしまったんだが、ふと、気になった。

 この事件の顛末を当事者、というか恐らく犯人、から聞く必要は無いのか?

 

 

 

「ありません」

 

 

 冷たく、ぴしゃりと言い切られる。

 

 

「魔族の言葉に聞く価値はありません。相手は人類の敵対種。言葉を操る魔物なのですから。むしろ害にしかなりません」

 

「そ、そうか……、すまない、悪かった」

 

 何が悪いのかわからんが何か謝ってしまった。

 俺も誤ったというわけか……いや俺は冗談のつもりでは無かったんだが……。

 

 チラリと他の二人を見てみる。

 

 

「……消極的賛成です。残念ながら、悪意を持たない魔族を、私は見たことがありませんし」

「んー……私も()()()()()()()()()()()()んだけどさ、同意見かな。異議無し」

 

 

 3対1か。まぁ、事情があっても決して許されることではないんだが。

 もし何かあるなら聞いておきたいと思うのは、不要な野次馬根性、みたいなものなんだろうか。

 

 

「……。アル様の優しさは美徳と思います。ですが、与えるべきでない慈悲は、いずれ過ちに変わるでしょう。くれぐれもお間違いをなさらぬよう……」

 

 

 納得できないような顔をしてしまっていたか、釘を刺されるように言われてしまった。

 まっすぐ目を見て言われると、やっぱりこの考えは間違ってたような気がしないでもない。

 

 いや別に魔族に優しくしようとかは考えてなかったんだが……どう考えても今回は確実に悪者だしな……。

 

 

 ……しかし、与えるべきでない慈悲、か。

 

 正しい相手。正しくない相手。

 それを、相手を知りもせずに最初から決めて、いいのか。

 

 子供のころ俺は、あいつを一方的に悪と決めつけた大人のようには、なりたくないと思っていた。

 だがそれは、あいつのことを俺がよく知っていたから思えたことかもしれない。

 知らなかったら、それでも同じように思えただろうか。

 

 今の俺は、どうなのだろう。今の俺が、あの場面にいたら。

 子供のころと同じように、躊躇わずにあいつの手を引けただろうか。

 

 

 魔族は、悪だ。魔王の眷属であり、人類に仇なす、敵だ。

 あいつは魔族のせいで、魔王のせいで、何度も悲しい思いをしなければならなかった。

 

 だからこそ、俺はあいつのために、魔族を、魔王を倒す必要がある。

 

 

 ……だとしても、だ。

 果たして本当に何も聞かずに、倒してしまってもいいのだろうか?

 

 

 

 

「話を戻しますね。私が調べて、相手が魔族とわかったら合図をしたいのですが……それを何段階か分けて決めておこうかと」

 

「……? どういうことだ?」

「相手は魔族、つまり討伐対象としては、最低でも上級冒険者の領域です。用心に越したことはありません」

 

 冒険者の間で、魔族はドラゴン並の脅威と言われている。

 とはいえその話も、滅多に会えず、というか会っても分からない非常に珍しい魔物であるがための噂話にすぎない。

 実際に魔族に会ったという冒険者の知り合いも俺にはいないし。

 

 魔王軍とかみたいに自分から名乗ってくれたらいいんだけどな。

 流石に人間で魔族を名乗るやつはいないだろう。

 

 強さの話も実際のところ使用する魔法によって幅があるらしく、誇張されている部分もあるらしい。

 魔物の中では確実に強い、というのは間違いないのだろうが……。

 

「ししょー曰く、魔族って大体4段階に分けられるんだそうです。下位、中位、上位、そして最上位。魔王は別枠とのことですが」

 

「へー、冒険者的には単に魔族としか言われてないけど違いあるんだ? 強さの違い?」

「……教会では特に区分はありません。……特定の魔族は討滅対象として名簿に載りますが」

 

「まぁ魔術院でも具体的な区別はされていないのですけどね。魔術師にとっては全部等しく脅威ですし。世代的なものもあるらしいんですが私も正直違いがあまり分からなかったので、ししょーに分かりやすく強さや危険度の数値で例えてもらいました」

 

 

 と、エステルの指が光り、空中に文字が書かれた。これも魔術なんだろうが……すごいな。

 まるで、当たり前のように何気なく、不思議なことを見せてくれる。本当にあいつみたいだ。

 

 

「まず、前置きの強さ指標としては、中級冒険者が20から40くらい、上級冒険者が30から100くらい、らしいです」

 

「いや、上級の幅広すぎない?」

「冒険者ギルドには上級より上の区分が無いらしいので……」

 

 それは俺も思ったが。まぁ確かに上級って言われてるやつの中にも、聖剣無しで勝てそうなやつとかチラホラいるな。

 

 逆に、聖剣があれば戦えるだろうけど勝てるかはわからない、というようなとんでもないやつも見たことある。

 そういう奴らは英雄とも呼ばれ、特別な依頼が来たり来なかったり……まぁ縁が無いからこれも噂なんだが。

 

 

 ……聖剣から若干抗議の意思が届いた。そうだな、お前と一緒ならどんな相手にも勝てるはずだ。うん。

 

 むしろ俺が聖剣の足を引っ張ってるというか、使いこなせてないというか……。

 もっと頑張らないとな……。

 

 

「ドラゴンの平均が40くらい。そして魔族の平均もそれくらい、らしいです」

「なる。それが魔神さまの見立てなら、ドラゴン並っていうのも誇張じゃないってことね」

 

「……その数値は、経験などに基づく判断なのでしょうか?」

「知識と経験と鑑定、らしいです。魔術も使っているようですが、私は未熟なのでよくわかりませんでした」

「鑑定魔術……」

「実際は持っている技術や知識、武器などで数値より多少上下するらしいんですが、()()()()()()()()()()、らしいです」

 

「…………そうですか」

 

 ?

 なんかアリアが珍しくドン引いてる気がするが、今の話の中に何かあっただろうか。

 要するに、達人が相手を見て実力を測る、みたいなもんじゃないのか?

 

 

「うーん。要するにさ、人間みたく魔族にも強さの幅があるってことでしょ?」

「そうですね。といっても魔力生命体に近いので、人間とは違い眷属的な関係性が存在の力に直結するようです。具体的には、魔王に近いほど強くて偉いとかなんとか」

「えぇ、やだなぁ……なんか血統主義みたいでエルフっぽいじゃん。こっちは強さとかあんま関係ないけど」

「もちろんその中でも個体差はあるみたいですけどね。私たちの実力であれば、中位魔族ぐらいまでなら特に問題はないかと。ですが……上位になるとそれなりの消耗を覚悟する必要があると思います」

 

「上位魔族……」

 

「街にいる魔物の反応は1つって話だったっけ? 魔族ってあんまり群れないって聞くし、そもそも数少ないって話だし、戦ったとしても4対1になると思うけど、上位魔族ってそんなヤバい?」

「まぁ私とアリアさんの2人で回復できるので、それなりの怪我くらいで済むんじゃないでしょうか……? 私自身、ししょーの話と素材化した魔族の成れの果てを見ての推測なので、見立てがどれくらい当てになるかはわかりませんが……」

「なるほどな」

 

 例えば、ドラゴンを基準に当てはめるなら、下位がレッサー級、中位がノーマル級、上位がエルダー級といったところか。

 そんな依頼滅多にないが、エルダードラゴンの討伐は上級冒険者が複数人であたるようなクエストになる。上位魔族はそれほど危険、ということだろう。

 

 俺たちのパーティとしての実力はおそらく、上級冒険者たちと比べても遜色ないはずだ。

 俺は聖剣頼りなのがちょっと情けないが……大抵の魔物には勝てると思う。

 

 ……夢の中の勇者は、どういう風に魔族を倒していただろうか。

 内容をあんまり覚えていないのが残念だ。

 

「なので、下位か中位の魔族なら、周りに影響が出ない形で、私がそのまま攻撃します。それを合図にしてください。流石に一撃で仕留めるのは難しいかと思うので、追撃をお願いします」

「おっけー」

「わかりました」

「了解だ」

 

「もし上位なら、補助に徹します。時間を稼ぐので、アルさんがぶった斬ってください。その剣の力なら、当たりさえすれば仕留められるはずです」

 

 聖剣がやる気マンマンにビカビカ光っている。

 まぁ御伽話の中でも、魔族を斬るための神剣だと言われているほどだ。やれるだろう。

 

「……というか魔族って、聖剣の魔力無効化で無力化はできないのか?」

 

 魔族が魔力生命体に近いという話であれば、うまくやればそれだけで倒せるんじゃないか?

 と思ったんだが。

 

「その剣の無効化の仕組みがわからないのでどう作用するかは不明ですが……おそらく魔法を封じるに留まると思います」

 

 どうだろう。夢の中なのではっきりとはわからないが……言われてみれば過去の勇者も聖剣の光だけで倒すことはなく、直接斬っていたような気もする。

 いくら魔力に近い、といっても生き物として存在している以上、生命としての機能は残るということなのだろうか。

 

「弱体化はするでしょうけど、魔族は身体能力も高いですからね。肉体派の魔族も珍しくないって話ですし、油断は大敵ですよ」

 

「……それで、あのさ。もしも、最上位魔族ってやつだったらどうするの?」

 

「皆さんに逃げてもらいます」

 

「え?」

 

 恐る恐る、といった調子で聞いたベルに、真顔で応えるエステル。

 当たり前のように。最初から答えが決まっているかのように。

 

「最悪その場合、判定術式で触れた瞬間に気づかれる可能性が高いでしょう。フィードバックが来るはずなので即座に転送術式で皆さんを安全な場所に送ります。同時に、隔離用の結界術式で相手を閉じ込めます。これはししょーが術式実験用に使う特別な結界なので、何があっても周囲に被害は出ないはずです」

 

「え……どういう……?」

「おいちょっと待て。……そのあとエステルはどうなる?」

 

 逃げる、それはいい。

 戦わないことも戦術の一つだし、冒険者の鉄則として、勝てない勝負にこだわるべきではない。

 

 だが、この話の場合、エステルは残らなければならないことになる。

 エステルが一人だけ残って、対応することになる。一人で、何ができる。何をするつもりだ。

 

「その時は奥の手を使うので大丈夫です。私にも切り札の一つや二つ、ありますから。強力すぎるので隔離するための結界が必要になってしまうだけって話で」

「本当に大丈夫……なのか?」

 

「大丈夫、大丈夫ですって。……あれですよ、師匠にどんとまかせんしゃいってやつです」

「……そう、か」

 

 エステルは俺よりも間違いなく頭がいい。

 おそらくこれが最適解だと思ってるし、実際そうなのかもしれない。

 つまり、俺たちを足手纏いと判断した?

 

 多分違う。

 前に模擬戦をした時の感覚では、俺個人はともかく、聖剣を含めた俺たちの実力とはそこまでかけ離れていないはずだ。

 それでも俺たちを逃がすということは、誰かがいては出来ないことを、やろうとしている。

 

 でも、そんなの、勇者としても、俺の気持ちとしても、見逃せそうにない。

 

 

「……その剣は無敵かもしれません。ですが、アルさんは生身です。どれほど凄い剣でも、自分で動けない以上……身体的実力を大幅に上回っている相手と戦うのは無謀です」

「っ……だけど」

「勇気と無謀は違いますよ。仮に無謀にしか見えない状況になったとしても、勝算があればこその、勇気なんです。私には、後先も状況も関係なく、全部壊せる最後の手段がありますから」

 

 

 一人なら、そんな相手にも勝てるというのか。それを、勝算と呼ぶのか。

 エステルがどうなるかわからないという結果の上で得た勝利を、俺たちは勝利と言えるのか。

 

 それも、これも、全て俺自身の弱さがもたらすかもしれない未来。

 

 それで、いいのか。

 

 

「……その場に私も残ります。私は奇跡の器ですから、きっとお力になれるはずです」

「あ、いや、えーっと……うーん……」

 

 見ていられなくなったのか、アリアが割り込んだ。

 エステルがチラッと俺たちを見る。困ったように様子を伺うように。

 そして、まるで、釘を刺すように。

 

「あーいや……多分無謀ではないんでしょうが……そういう問題ではなく損得勘定的な……というかそもそも最悪中の最悪な想定なのできっと大丈夫ですって。そんなヤバいやつおそらく出てこないと思いますし大丈夫大丈夫。だいたい私も道半ばでそんな危険背負いたくないんで」

 

 聖剣からもこちらを伺うような意思を感じた。その時はどうするのかというような。そういう状況になったら、俺も残るべきなのだろうか。

 俺とこいつは一心同体のようなものとはいえ、今までのような形では、足りないのかもしれない。

 

 聖剣の真の力。俺には使いこなせない、本当の強さ。

 残滓のように残る、夢の中の勇者の感覚。

 

 聖剣との完全な一体感。その、怖いほどの全能感。

 

 おそらく、今の俺には制御できないだろう。だとしても、必要なら使わなければならない。

 

 最上位だとしても、魔族。魔王の眷属に過ぎない。つまり、魔王はもっと強いはずだ。

 そんなやつが出てきて、戦うことになったとしても、俺は勝たなければならない。

 

 勇者として。倒せるようにならなきゃならない。

 

 かつての勇者は、そんなやつらも全部倒していったのだから。

 

 

「……前置きが長くなりましたね。そんな感じでやるので、お願いします」

「……。そうですね。いきましょう」

 

「ねぇねぇ最後に一個質問。じゃあさ、その最上位魔族ってのと魔神さま、どっちが強いの?」

 

 重くなった空気を払うように、軽い声が響く。

 最強の魔術師。人々に知られている中では、間違いなく最も強い魔術師と評される人間。

 

 

 俺はあいつ……クーほどじゃないとずっと思っていたが……どうだろうか。

 

 

「強さは間違いなくししょーです。素材化した最上位魔族、見ちゃいましたし」

「予想してたけど魔神さまヤバ過ぎない……?」

「素材足りないって言って薬草感覚でドラゴン狩ってくる人ですからね……流石にそれはやめろって言われてやらなくなりましたけど」

「あれ……ドラゴンってあのドラゴンだよね……? 私の知ってるドラゴンじゃないのかな……やっぱ魔神さま人間やめてるよ……」

 

 

 ……どうだろうかと、やっぱり思う。

 ここ最近、ずっと、疑問に思う度に引っかかり続けていることがある。

 

 人間の領域ではない。そう評されるほどの人間。

 なんでもできてしまうような、驚異的な魔術の能力。

 

 俺は、あいつ以外にそんなやつがいることを知らなかった。

 

 あいつ並に凄い魔術師だって、英雄クラスの冒険者の中にいても不思議なことではない。

 世界は俺が思っているよりずっと広い。俺の視野が狭かったってだけかもしれない。

 だから可能性は正直低いと言える。だというのに、気になって仕方がない。

 俺がそうだと思いたいだけなのだろうか。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 過去に一度、魔神について調べたことがある。どう考えても、突然帝国に現れたその魔術師は異質だった。調べないわけがない。

 といってもその当時は王国を拠点にしていたから、魔術師について直接的に調べるわけにもいかずものすごく回りくどい形にはなったのだが……。

 しかし、元盗賊の優男、ドレイクにも協力してもらい得られた情報は、断片的ながらも、どれもあいつらしくなかった。

 

 時代を破壊する魔神。冷血で冷徹な皇帝の剣。

 帝国に歯向かうものへの、絶対的な最終兵器。

 

 魔神に関する話は、どれもこれも、強烈で、苛烈だ。

 

 真偽は不明だが、帝国を襲撃した魔王軍を貴族軍ごと巻き込んで殲滅したという噂。

 巻き込まれた帝国の貴族は全て反対派閥のもので、大半がこの襲撃時期に力を失ったらしい。

 

 更には皇帝の反対派閥に対する、粛清用の魔道具を作成しているという。

 これについては実際に使われてきたらしいので、信憑性は高い。

 革新的な技術で庶民や冒険者の便利な道具を作る一方、そのようなこともしていたのも、確か。

 

 その他にも外交的な無理筋を通そうとしてきた獣国、王国への警告。

 大森林のほとんどを消し飛ばすような威嚇行為も行なったという。

 これは調べずとも、王都で大きな噂になっていた。

 また、冒険者ギルドが調査した事実として、実際に大森林の木々は3割近くが薙ぎ払われていた。

 

 表向きは大量発生した魔物の鎮圧だとされている。人的被害は一切なく、危険は排除された。

 しかし大森林は獣国、王国、帝国の三国にまたがる、危険とともに恩恵も等しくもたらす巨大樹林だ。

 それを損なう行為を行なった帝国からは、二国へと正式に謝罪と賠償が行われた。

 

 だが、その実態は凶悪なまでの示威行為だったのではないかという話が有力だ。

 更には大森林に残された爪痕を、跡形もなく元通りにさえしてしまった。

 

 まるで、生かすも殺すもこちらの自由なのだと、どちらが強者なのかを突き付けるように。

 

 得体の知れない人物。実態の見えない魔術師。

 皇帝に忠誠を誓い、その力は全て帝国のために振るわれている。

 

 ……さまざまな逸話から見えてくる姿はどこか、別人のように思えた。

 誇張もあるだろう。逆に、実は雑魚のハリボテではないかとも言われている。

 実在さえ疑われ、魔術院の成果を一つにまとめて象徴化している、という話すらある。

 

 でも、わからない。俺の知らないあいつが、いたのかもしれない。

 そうしてもおかしくはない境遇だと納得しそうな自分もいるが、否定したい自分もいる。

 だからその可能性をあまり考えないようにしていた。

 

 それに、所詮はどれも噂だ。確かな事実は数えるほどもない。

 そしてその事実だけでも、あいつの可能性は低いように思えてしまった。

 

 だが……その可能性が、少しずつ揺らいできている。

 エステルは魔神の弟子だ。それは間違いない。帝国魔術院でもそう名乗り、疑問視されなかった。

 だからその言葉の中に出てくる魔神は、俺が集めた噂話なんかよりもずっと精度が高いに決まっている。

 そこから見えてくる姿は、やはり、まるで、どう考えても……。

 

 その可能性を今や無視するのも難しい。改めて、考えておくべきだろう。

 

 ……できればあの時点、模擬戦の日に確認できていればよかったのだが。

 

 

 

「……そろそろお時間です。最初の孤児院に向かいましょう」

 

 

 ともあれ結論を急ぐべきじゃない。なんにせよ、エステルは何らかの事情を抱えている。

 信頼を破壊するような形で、不用意に踏み込むのは避けた方がいいだろう。

 

 何にせよ俺がやることは変わらないのだから。ならば疑念や疑心ではなく、希望を持つべきだ。

 消えていた可能性が復活した。今はそれだけでいい。焦ってはいけない。

 

 そう。それに、俺たちはこれから魔族を探し、倒さなければならない。

 目の前のことに集中しなければ。

 

 

「……ああ、行こう」

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 と、気合を入れ直して孤児院を巡り、時刻は既に正午を迎えた。

 

 アリアが時間稼ぎに孤児院の人間と雑談をし、俺たちは少し離れて子供たちの相手をする。

 思っていた以上に凄まじい子供たちのエネルギーに圧倒されながらも、何とか相手をしつつ……。

 なるべくエステルの邪魔にならないように子供たちの妨害からエステルを守り、結果を待つ。

 その繰り返しだ。

 

 そして今も、その場の関係者にこっそり術式をかけていたエステルがこっちに近づき、耳打ちしてきた。

 

「白でした。……ここもハズレですね」

「……そうか。それじゃアリアに切り上げてもらって次に行くか」

 

 

「へへへ……しかしながらこれほどお美しい司祭さまにお越しいただけるなんて感謝感激……」

「いえ、こちらこそ急な訪問にご対応いただき、改めてありがとうございます。ここはとても良い孤児院ですね」

「おおっと、お褒めに預かり光栄……! 実際はガキどもが勝手に元気でやってるだけなんですがねぇ……! 小金持ちな小市民の道楽ですよぉ……!」

「……子供たちが楽しく、元気に過ごせている。それは、それだけで本当に素晴らしいことなのです」

「げへへぇ……」

 

 

 いや、実際ここの孤児院の子供たちは元気で楽しそうなんだが……。

 ここの院長なんか嫌だな……妙に脂ぎっててねっとりしてるんだが……。

 

 距離も妙にアリアと近い気がして、なんていうか、気が気でない。

 こいつ違う意味で危ないんじゃないか……?

 

 ああいや……そうやって見た目で決めつけてはいけないな……反省しなくては……。

 

 

「ていうか私らは美しくないのかっていうね。あのおっさん、ずっとアリアの方、というかアリアの胸ばっか見てるし」

「……ふっ」

 

 なんかエステルが遠い目をして息をついた。

 いや、ベルもエステルもあいつに比べれば断然あるとおも……いやなんでもない。

 

「……お? おやおや? なんだね勇者くんその目は? 私たちに何かいいたいことでも?」

「何でもないぞ?」

「おいこらちゃんと目を見んかい」

 

「……アルさんってアリアさんみたいな見た目が好みなんですか?」

 

 いやまて、まてまて、ちょっと待ってほしい。

 いきなり何故か俺の風評被害が発生しそうな流れになっている気がする。

 

 だいたい男のサガとして気になってしまうってだけでだな……個人的にはあってもなくても……むしろ……いや何の話だ!

 

 

 

 

「ぐふふ…………本当にお綺麗だ」

「いんちょーきもちわるーい」

「えーへーよぶー?」

「ええい、うるせぇガキども! あっち行って遊んでもらえ! 今のオレは忙しいんだ!」

「きゃーこわいー!」

 

「ふふふ……」

「くそガキどもめ……すみませんねぇ司祭様」

「いえ、構いませんよ」

 

「……。……あぁ、そういえば司祭様? ちょうど少しお聞きしたいことがあったんですがね」

 

 室温もそこまで高くないはずなのにやたらと汗をかいている孤児院の院長が、唐突に切り出した。

 って、いや、ダメだダメだ。どうしても変な偏見が混じってしまう。俺の風評被害発生の流れも変えてくれたのだし感謝しなければ……。

 

 たぶんここの子供たちの様子から見るに、本当に良い人物なんだろうが……絶対見た目で損してるよなこの人……。

 

 

「向かいにある、隣の区の教会孤児院なんですが、どぉも様子がおかしい気がするんですよねぇ……」

「様子が?」

 

 

 ……? おかしい?

 

 どういうことだ?

 

 空気が一気に張り詰めた。急な進展だが、気持ちを切り替えなければ。

 そもそもアリアの話では、教会孤児院には異常は無かったという話じゃ無かったのか?

 

「あぁ、気のせいかもしんないんですが、うぅん、何と言えばいいのやら……」

「どうか……気軽にお話しください。どのような内容であれ、貴方様の不利益にはなりませんから」

 

「いやぁ……あそこにいらっしゃる院長さん、ここ最近、なんか人が変わったように思うんですよねぇ……」

「……変わった、とは?」

 

「いやはや、前と同じようにも見えなくもなくて、学が無いもので言葉が正しいかはわからんのですが……雰囲気が変わったというか……()()()()()()()()()()()()()()……というか……」

 

「そう、ですか。……。……そうですね、その方も何かお悩みがあるのかもしれません。()()()()()()()()()()()()()()()()()、少しお話しを伺ってみたいと思います」

「おお! ありがとうございます! いやぁ、実はあそこの院長さんに昔いろいろと世話になりましてねぇ」

 

 

 その後、2、3言の言葉を交わし、話を切り上げてアリアが離れる。

 院長のおっさんは少し名残惜しそうにしてたが……まぁそれはいいとしてだ。

 

 おそらく、全員が同じことを考えた。

 

 

()()()()?」

「お願いします」

 

 間髪入れず、アリアが決断する。

 この後は違う孤児院を見る予定だったが……予定の変更だ。

 

 単なる勘違いなら、それはそれでいい。むしろ取り越し苦労であった方がいい。

 

 変わったというのが……別人に、か。潜伏の目的が、か。

 最悪この二つでなければ……別に何も問題は無い。

 

 だが、もしかしたらこれは教会の大きな火種になる、かもしれない。

 

 

「……大丈夫か?」

「えぇ、そのような事態が全く想定されていなかったわけでは、ありませんから。むしろ……」

 

 

 抑え切った表情。その向こうに、苦痛を堪えるような感情が見えた気がした。

 

 

「……大丈夫です。判明するなら早い方が良いでしょう。急ぎ向かいたいと思います」

「焦ったらダメだよアリア」

「ベル……?」

「……いえ、ここは急ぐべき場面でしょう」

「違うって。焦るのと急ぐのは全く違う。これまでと同じようにいくよ。ほら、深呼吸して」

「……」

「年長者の言うことは聞いといて損はないよ? まぁあの脂身おじさんの脂が混じった空気を思いっきり吸うのは嫌かもだけど」

「……ふ、ふふ、脂身……あ、いえ、失礼ですよベルさん。あの方は誠実に孤児院を運営されているのですから……」

「いやぁ、誠実なのかなぁ……?」

 

 張り詰めていた空気が、少し和らいだ気がした。

 そうだな。まだそうと決まったわけでもないし、焦っては間違いも起こりやすい。

 ここまでと同じような流れで、落ち着いて向かうべきだろう。

 

「……じゃあどうする? 元々軽い昼飯を挟む予定だったが、食ってから行くか? 次が本命となると本当に軽くになるが」

「そうしよ。孤児院は逃げないんだから。少し打ち合わせもしたいし、それに腹が減っては冒険できないからねぇ」

「まぁ普通は判別方法がないと考えれば、あちらも逃げる理由ないですからね。万全の状態で臨む方がいいでしょう」

「そう、ですね」

 

 そうと決まれば、適当に表通りとかでパンでも買って食うか。

 

「私お肉の串がいいなー買ってきてー」

「自分で買えって。俺はパン買うし」

「えー。それじゃあさ、分け合ってパンに肉挟んで食べない?」

「お、それは有りだな」

 

 

「……前々から私思うんですけど、お二人とも妙に仲良くありません?」

「気が合うんでしょうね。始めの頃からこのような調子でおられましたし」

「ふーん。まぁいいですけど」

 

 

「二人はパンと肉どっちにするんだ?」

「2択なんですか。それならパンですかねー」

「私も、パンをお願いいたします」

「3対1じゃん! なんか負けた気がする!」

 

 

 束の間の休息だ。

 補給をしたらその後……次の孤児院で魔族と会うことになるかもしれない。

 

 人類の敵対種。悪意の魔物。最低の怪物。

 極悪の害悪とまで言われるような、人間の写し身。

 

 果たして、実態はどんなやつなのか。

 

 どんなやつと……あいつは間違われていたのか。

 やはり、どういう存在か、一度しっかり知っておいた方がいいように思う。

 

 話す機会もなさそうなのであまり見極められないかもしれないが……。

 難しい問題だな……。

 

 ……まぁ、悩んでも仕方ないか。

 

 聖剣からも労るような意思が飛んできた。

 多分、聖剣はよくわからないまま俺が悩んでるのを感じて労っているんだろうが……。

 

 そうだな。今の俺は、今の俺がやれることをやるしかない。

 

 よし、頑張るぞ。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

<エンペラータイムin魔術院の院長室>

 

「調子はどうだ?」

「おや、おや、陛下。……順調といいたいところですね」

「ふむ、万全ではないということか」

「流石に彼女の仕事は、非常に重たいですから。凡人は凡人なりのやり方で進めるしかありません」

「くくっ、割に合わんな。だが、悪くはない判断だ」

「ふむ、ふむ。お褒めいただいていると捉えておきます」

 

「帝国魔術院は優秀で、歴代でも最高と言える。決して、一人の魔術師に依存した存在ではない」

「まぁ、まぁ、ようやく半分を超えたくらいですけどね……未だに新規術式は半数近くが彼女個人のものなので」

「計画よりもかなり早い。素晴らしい成果だ」

「ありがとうございます」

 

「……ああ、決まり次第追って伝えるが、次に進む。()()使()()()

 

「そう、ですか。畏まりました」

「ずいぶん入れ込んでるようだが、気にする必要はない。これは全て私の罪だ」

「陛下……」

「人形にすらなれなかった歯車の、存在する意味でもある」

 

 

「……シャリオ様」

「幼名で呼ぶな。私はグラン7世。輝かしい過去の栄光を爛れ腐らせた一族、その末裔だ」

 

 

「シャリオ様。貴方の幼く遠い夢は、きっと貴方の思惑以上の形で叶いますよ」

 

 

「……。そうか。そうだといい。では、また来る」

 

 

 

 

・・・




魔王さま(なんでこれがこうなる……そもそも直感に反する動きがあったということは理論が正確に身についてないということだが……)

魔王さま(クソ……おそらくこの辺りか……魔法創造の癖が抜けておらんな……魔法合成術式の作成に手をつけるのはまだ早かったか……?)

魔王さま「……チッ」

魔族さん(ひぇ……魔王さまがお怒りだ……恐ろしい……魔法を賜るのは次の機会にしよう……しかしついに魔王様自らが動くとなれば……人類支配の日も近い……!)









(おまけの魔族紹介)
・魔王エオルゼさん
 弱体化してても半ギレ魔女さんから逃げられるくらいにはめちゃつよ。
 性別はなく姿形も他の魔族と違い不定形。でも大体は女神様の姿を真似ている。男バージョンにもなれる。
 800年くらい前から魔族が大暴れし始めたせいで知らん間に人間の歴史では800歳くらいと思われている。
 実際の年齢は本人も覚えてない。性格は傲岸不遜でわりかし邪気眼。メンタルの振れ幅が大きいけど低反発。研究が趣味。
 自分を差し置き、世界の代理運営者として人間を作った女神様が憎くて憎くて仕方ない。ついでに人間にも嫉妬してる。
 なので女神様の真似して勝手に人間の上位互換な魔族を作りました。魂実装済み。魔法の力ってすげー。
 でも実際動かしたら失敗してたし問題だらけで研究しても先がなさそうだし、ぶっちゃけ飽きたので適当に放逐。
 ザ・傍迷惑の極み。聖剣で討伐されたのはとばっちりだけど自業自得としかいえない。

・運び屋竜使いドラグーンくん
 本当はそこそこ強い中位魔族。ワイルド系のイケメン。ドラゴンと親和性が高く、『火竜の咆哮(ドラゴンブレス)』などの竜魔法的な魔法を使える。 
 魔王軍とは何も関係ない野良魔族で、普通に悪いことして暮らしてる普通の悪いやつ。
 なんやかんや魔女さんに捕まって、今は生まれ変わったように生きてます。反省してね。

・魔王軍先遣隊長カーネイジさん
 『殺戮の雨(ジェノサイドレイン)』という超強い魔法を使える、上位魔族の中でも上位の最上位一歩手前なつよつよエリート魔族。
 性格は凶悪かつ傲慢で虐殺と弱者を甚振ることが趣味な倫理観終わってるカス中のカス。魔族のあかんとこを濃縮還元したあかんやつ代表な魔族。
 取り巻きにはトーチャーくんやカットスロートさん、ボマーちゃんやアーソニストくんもいて、一緒に先遣隊として大活躍してた。
 そして3年ちょっと前、突然帝国にやってきて空から一方的に帝国兵を蹴散らし、帝都攻略は見事に皇帝様のお命頂戴寸前まで達成。
 しかしたまたま帝国で冒険者やってた通りすがりの半ギレ魔女さんに羽虫の如く突風で撃墜された挙句、
 隔離用の結界に閉じ込められ、中で激ヤバ術式を喰らって無事消滅。でも頑張って7秒くらいは耐えてた模様。すごいね。
 ちなみに取り巻きくんたちはその後捕まって色々されたけど、今は魔女さんのおうちで生まれ変わり無事に暮らしてます。生きててよかったね。
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