勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん   作:Mckee ItoIto

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(魔女パート)

 この物語はメインヒロインは魔女さんです。
 大事なことなのでもう一度いいます。メインヒロインは魔女さん。
 復唱しましょう。メインヒロインは魔女さん。覚えておいてください。いいですね? 


世界が私の為に回ってないってのはわかってるけど

・・・

 

 

 

 魔術院試験用迷宮。それは本来、魔術試験の為の迷宮である。

 ここでいう魔術試験とはすなわち魔術自体の試験のこと。

 

 まぁつまりは、だ。

 走査やら探査やら、探索系調査系の術式を考えたりするのに、ダンジョンっぽいのあったらやりやすいよねっていう話が聞こえてきたので、私が暇なときにサクッと作ったのだ。

 

 

 そしたら何故かみんなにドン引きされたっていう。

 おかしい……需要の声があったから作ったのに……。

 

 

 魔術院、というか帝国の地下の地盤がやたら固かったりとかして、構造力学的なこと考えたりとか、結構大変だったんだぞ?

 途中でめんどくなったから手抜き気味に闇属性術式つかって、結界で無理くり補強しつつ地下空間消滅させたりしてたけど!

 ぶっちゃけこんときの術式は禁忌ベースなのでバレたら怒られるかもだけど、一応色々オミットして出力抑えた実質別物な術式だから! リスクもあんまりないし安心安全!

 

 ついでに簡易的なトラップとか、チェックポイント的な宝箱とか、回復ポイントとか、雑魚敵的ゴーレム配置とか、やってるうちにちょっと楽しくなって割と手の込んだダンジョンになっちゃったんだけど。

 そんなこんな、適当にアドリブで空洞を作りながら補強ってのを繰り返して、魔術院大迷宮を無事完成させたわけですよ。

 研究室での仕事合間に思考分割しながらチマチマ遠隔でやって、大体工期は1ヶ月くらいだったかな?

 

 ……ちなみにこんときに使ったやつってほとんどアドリブ術式なんだけど、一応術式としてデータは残してたりする。

 この辺も含めて結構溜まってきたし、そろそろ資料整理して報告用にまとめないとかなぁ。

 

 私がノリと勢いで作ってる術式って割とチート頼りの低レイヤーだから、そのままだと可読性がマジくそみそなんだよね……。

 魔力量でゴリ押してる部分も結構あって最適化もされてないし、他の人が使える形にポーティング的リファクタリングするのってめっちゃくちゃにめんどいのよ……。

 院長が汎用化作業を手伝ってくれるようになるまで、ホント過酷でしたわ……。最近は弟子も少しできるようになってきたので割と助かってたり。

 はい、つまり弟子が不在の今は過酷に逆戻りしてます。院長の今回の助け船はホント救世主級なのよ!

 

 

 ……まぁまぁさておき、このダンジョンについて。

 基本的には術式実験用なんだけど、この魔術院には冒険を経験したことない魔術師も意外とそこそこ多かったので、ダンジョンでの魔術運用を体験してもらう、みたいな研修地みたいな役目もあった。

 

 なので実際に人に潜ってもらうために、そこそこ本格派のダンジョンになっている。

 ダンジョンの構造としては4階層に分かれていて、上層、中層、下層、深層、つまり地下4階まであるって感じ。

 覚えゲーになったら意味がないので、各階層では部屋がユニットみたいな区画分けがされてて、繋がる通路がダンジョンの迷宮術式を起動する度に変わって感じになってる。

 迷宮術式の内容は他にも色々仕込んでるけど、まぁだいたいゲーム的な迷宮と思えば概ね間違ってないだろう。

 

 難易度としては、最初は初級〜中級冒険者くらいを当初は想定してて2階層しかなかった。けどその後でその下も増築したので下層や深層はそれなりに歯応えがあるかもしれない。

 一応、怪我とかしたら回復して強制転送する術式をダンジョン全体に仕込んであるので、命の危険はほとんどないはず。

 

 この下層以下は到達難易度的にあんまり使われてないけど、農作業ゴーレムのアグリちゃんの害獣駆除機能なんかは下層でテストしたよ。

 あとちなみに、弟子は深層もクリアしてる。クッソ忙しい時期にあまり相手する時間なかったもんだから、時間稼ぎ的に修行の名目で放り込んで放置してたんだ。めんご。

 でも攻略には魔術が重視されてるとはいえ上級冒険者でも全制覇は大変だと思うのに、弟子、時間はかかったけど普通にクリアしてたのよね……君ほんまに数年前まで一般素人やったんか……?

 まぁ大変は大変だったみたいで、しばらく口きいてくれなくなっちゃったけど……いやほんとめんご。そのあとめちゃくちゃ謝りました。

 

 

 

 ……で、そんな実験ダンジョンに私たちは受験生同士の即興パーティで挑むってわけ。

 途中でパーティメンバーのギャルに絡まれるという謎の事件もあったが、私の華麗なコミュニケーションで何とか回避できたし。

 特に問題なく、これから試験に臨むってところなのだ。

 

 

 

 

 

「それではこれから、みなさんにはこの先にある魔術院のダンジョンに潜っていただきます。まずはお手元の資料をご覧になり、ご同意いただけるようでしたら署名をお願いします」

 

「ナニコレ、ぶ厚……」

「ちゃんと読む奴いんのかコレ?」

「……」

「???」

 

 受付嬢さんに渡されたのは、結構な枚数の紙束。……ふむ、ざっと100ページくらいの資料か?

 

 パラパラーって見た感じ、特に新しく把握しておくべき新情報は無さそう。

 超絶細かくダラダラ書かれてはいるが、要するに、どういう感じのトラップがあるかとか、こんな感じのエネミーが出るとか、加点対象の宝箱とかチェックポイントとか、そういう試験範囲的な概要説明だ。

 あとまぁ、ダンジョン内の行動は記録されるから了承しといてねっていう契約と、普通にしてたら死なないから自殺行為はすんなよって注意とかかな。

 字もやたら小さく、読ませる気があるのかないのかって感じでなんかやり口が若干詐欺っぽいような気がしないでもないが。

 割と大事な内容も書いてあるし、まぁちゃんと読んでから署名すべきだろうね。

 

 しかしどうでもいいけど、院長とか魔術使わない素の状態だと多分これ老眼で読めないんじゃ……?

 いや、ちょっと失礼な想像だったか……?

 

 

 あ、ちなみに帝国には立派に製紙技術があるのでこういう贅沢な紙の使い方は割と珍しくない。

 というか、私が作った製紙用の術式があるので。丸太を紙にする魔術ってやつだ。

 

 帝国の南には大森林があるので、そこの間伐材なんかを余すところなく資源として活用されているのだ。地味に高度だけど、今や産業として成立するくらいには使い手がいるよ。

 何気に術式公開後の市場の反応がトップクラスに良かったし、いっぱい褒めてもらえたので割といい思い出だったりする。

 

 

 

 

「いや、でもこれから試験って考えるとやっぱり全部読んどくべきか……?」

「わかりませんでしたじゃ困るんでしょうね……でもこんなの直前で渡されても持ち込んで中で読むような暇ないでしょ……」

 

「読むなら最初の注意と概要だけで大丈夫。あとはなんかあったら私が説明するから」

 

「……え? 説明って?」

「覚えたし」

 

「は? アル、これ全部読んだのか?」

「……?(……あ、私のことか)読んだけど?」

 

「……これ、今の時間で全部覚えたってこと?」

「? 覚えたけど」

 

「なんだ……何気にお前って凄いのかもな……」

「同感……」

 

 

 なにこのイキリチャラ男とパツキンギャル、やはり失礼では?

 まぁいいが。

 

 『思考分割』を使えば、目から入った情報を高速で並列処理できるので、こういう速読はお手の物なのだ。

 こんな流し見的な読み方でも一応、ちゃんと隅から隅まで問題なく読めてるんですぜ。

 

 ……というかこの程度で驚いてたら、院長の仕事とか見たらもっとビビるよ?

 私の作った研究資料を『自動書記』の術式も使ってえげつない勢いで魔導書にまとめたりするからね?

 いやほんとおかしいよあの人。私でもちょっと気合入れて観察しないとあの人何してるかわからん時あるし。正直こわい。

 

 ところで、『自動書記』の術式って私製ではなく私が魔術院に来る前に院長が作ったってやつなんだけど。

 私もこっそり似たようなの作ってたけど、ちょっと負けた感あったのでそっとボツにしたのは秘密なのだ。

 

 というか魔術チートな私に魔術分野でちょいちょい勝つ奴が凡人なわけないだろいい加減にしろ!!!

 

 

 

「で。難易度的にはどうなんだ? 危険はあるのか? どういう風に進めればいい?」

「ん……上層は大したことないから中級冒険者なら比較的楽に進められるはず。でも中層からは少し気を付けた方がいいかも。試験内容的には中層攻略で合格ライン。できればその次の下層最初の通過点も取るとなお良し」

「なるほどな。じゃあ最初の方は特に問題はなさそうだし、進みつつって感じでやってくか」

 

 

「え、えっと、ねぇねぇ、私筆記ダメダメだったんだけど、本当にそれくらいまでで大丈夫かな……?」

「……多分?」

 

 

 超恐る恐るって感じで横から黒髪ちゃんに質問されたが、まぁ評価的には足りるだろう。

 確かに黒髪ちゃんは筆記壊滅状態だけど、必要な加点ポイントとしては下層に踏み入るくらいで十分なはず。

 他の候補生たちなんかは中層クリアギリギリが大半って感じだったし。

 

「も、もうちょっと先に進んでみたりしない……? えっと、そう、私こう見えてすっごいつよいから!」

「念のため言っておくけど、この試験では魔術しか評価対象にならないよ」

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

「…………私、水魔術、得意だもん」

 

 

 めちゃんこトーンダウンした……こいつこっそり奇跡使う気だったな?

 いや、君メインジョブ聖職者なんだろうけど、そりゃ奇跡使ってもポイントになるわけないやろがい。

 間違いなく上澄み側の人間だろうから強いは強いけど、これは魔術院試験なんだからさぁ。

 手段関係なくただダンジョンを制覇できりゃいいなんて甘い話、無いっしょ。

 ちなみにこのダンジョンには至る所に術式実験用の記録術式が仕込まれてるから、ズルもできないよ。

 

 ま、私はやりたい放題できるんだが。そもそも、ここの仕組み作ったのも私だし。

 多少は変更点もあるだろうけど余裕でどうにでもできる。必要なさそうならしないけどね。

 そもそも私の目的は合格することじゃないし。試験の評価、別にサボってるわけじゃないよ?

 

 

 

 さて、さて、そんなこんな駄弁りながら、私たちはそのダンジョンの入り口に来たわけなんだが……?

 

 

 

 

 

 

 

<<君は本当の恐怖を知る!>>

 

<<心せよ!覚悟無き者は帰るがいい!>>

 

<<一切の希望を捨てて備えよ!>>

 

 

 

 

「なんだこれ?」

「すごい脅し文句ね……」

 

 

 ……お化け屋敷かな?

 

 多分、ここを最近管理してる人が採用試験の方でも使うって聞いて、ちょっとした注意喚起の看板を用意したのだろう。

 

 まぁ実際、生命の危険はほぼ無いとはいえ、怪我的な話でいえば雑魚敵役のゴーレムとかトラップとか、割と危ないっていえるかもしれない。

 あと、びっくり系のトラップも結構多いからビビるかビビらないかといわれればビビるかもしれない。

 

 そういう意味でいえば、ちゃんと覚悟というか心構えをしてもらう的な感じで警告をしておくのも必要なことではあるんだろう。

 

 だから、ちょっと悪ふざけ感はあるが、別に問題があるという話ではない。

 

 そう。問題は、無いのだ。

 

 

 

 

 

 

<<地獄へようこそ!>>

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……あぁ、やだやだ。やなこと思い出しちゃった。

 

 ここの大半の人たちは私の過去のことなんか何も知らないんだから、気にするべきじゃないってのに。

 

 それに、ほら。

 私がいるのはもう、地獄じゃないんだから。

 あいつが引っ張り出してくれたのだから。

 

 未来も、希望も、何処にも見当たらないような、最悪な地獄なんか、もう存在しないのだから。

 

 そうだろ?

 

 

 

 

 

 

 

(本当に?)

 

 

 

 

 

 

 

 ……はい。

 

 くっだらないネガティブな相槌をぶっこんで来たサボリ魔サブ私ちゃんは強制的に地獄(デスマーチ)に出荷よー。

 

 

(そんなー)

 

 

 てかお前はサボってないでさっさと『次元収容』の汎用化作業を進めろっつーの。このプロジェクトの進捗、未だに全然駄目なんじゃ。

 無理やり次元を切断しなくても安定的な異次元接続ができるようにならんと魔道具としてのアイテムボックスが作れないんだってのに、はよ何とかしろ私。

 納期は無期限だから皇帝様からは催促されてないけど、個人的なスケジュールとしてはいい加減報告できるような成果が欲しいんだよ!

 

 ここ最近の私、成果上がってない気がしてならないし!

 

 

 

 

「よし、そんじゃいくぜ!」

「はいはい」

「……」

「……」

 

 

 ていうか黒髪ちゃん無言になっちゃった……。なんかごめんね。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

「そっち行ったぞ! 任せた!」

「任されよ……『風刃』……ッ!」

 

 ムキムキマッチョは『風刃』を唱えた!

 

 ゴブリン型ゴーレムEに35のダメージ!

 ゴブリン型ゴーレムFに32のダメージ!

 ゴブリン型ゴーレムGに41のダメージ!

 ゴブリン型ゴーレムEをやっつけた!

 ゴブリン型ゴーレムGをやっつけた!

 

 ゴブリン型ゴーレムFの弓矢攻撃!

 

「甘いわね! 『風圧障壁』!」

 

 金髪ギャルは『風圧障壁』を唱えた!

 金髪ギャルはダメージを受けなかった!

 

「いくぜ……! 『真空弾』!!」

 

 イキリチャラ男は『真空弾』を唱えた!

 ゴブリン型ゴーレムFに87のダメージ!

 ゴブリン型ゴーレムFをやっつけた!

 

 

 

「と……こんなもんか。というか普通に魔物出るんだなこのダンジョン」

「でもゴブリンにしては何か動きが変だった気がするけど……何なのかしら」

 

 意外とこいつらの動きが良かったので、実況してサボってました。

 流石はちょっと前まで現役で冒険者やってただけあるわな。

 連携がスムーズだし、上層のうちは心配いらなそうだね。

 

 といってもまだ上層だ。推奨レベルにして5から10前後ってとこ。

 中層に入ってからが本番ってとこかな。

 

 

 それにしてもマッチョマンが全然筋肉使わない件。前衛ですらないし。

 それ何のための筋肉だよ!!

 

 

「お前らは大丈夫か?」

「大丈夫だよ」

「大丈夫」

 

 私らは見た目が弱そうだからか、あんまり前に出してもらえてない。

 なので出番がない。別にいいんだが。この試験はパーティの評価の配分も高めみたいなので。

 

 ま、私は言わずもがな、黒髪ちゃんでさえ君たち3人まとめてよりも強いんだけどね。

 

 

「……! またゴブリン!?」

「おい、今、壁の中から出てこなかったか……!?」

 

 

 そういえばだが、ここの魔物型ゴーレム、基本的には生体部品が使われている。フレッシュゴーレムってやつだ。

 魔物の素材なんかを元に、こう、獣のお肉とかをいい具合に魔術的に混ぜ混ぜしながら変換したり整えたりして作ってある。

 ゾンビとかのアンデットとかとは違って、完全に魔術駆動なので安心安全だよ。(ただし術式構造の安定性による)

 データを元に行動もかなり再現されているので、実際のダンジョンの雰囲気づくりに大いに貢献してくれているのだ。動き方とかルーチンは多少機械的だけどね。

 見た目、というか外装ほとんど普通の魔物と変わらない。ただしこの辺も術式精度によるので失敗するとちょっとホラーなグロ注意になるけど。

 

 最初は単なる雑魚敵の配置のために作ったけど、副院長とかのアイデアなんかも色々盛り込んだ結果、ダンジョンの迷宮術式と連携してかなり複雑怪奇な術式になってしまっている。

 

 例えば、倒されたらダンジョンが回収して、ダンジョンの中で再生成する仕組みとか。

 生成用の素材も冒険者ギルドからの納品で大量にストックされているので、実質無限湧きと言ってもいい。

 

 割と大変だったけど、結構それっぽい感じに出来たんじゃないかな?

 

 

「数も強さも大したことないが不気味だな……突っ切ってさっさと次の階層に行くぞ!」

「ええ、やるわよ! 『風圧装甲』!」

 

 お、強化系付与術式の他人への行使か。

 これって自分への付与と違って、対象に術式と魔力を付与して継続的な出力をする必要があるから結構高度なんだよ。

 術式の構造も少し変わるから制御も難しくなるんだけど、中々やるね。

 

 

「……失礼するぞ」

 

 

 お?

 

「え?」

「わぁ」

 

 おもむろに筋肉男が近寄り、黒髪ちゃんともども、ひょいと両脇に抱えられてしまった。

 

 こいつらを警戒する必要性が皆無だったせいで抵抗する気にもならんかったが、なんだ?

 意外に丁寧な持ち方だし、やけに手馴れてる感あるが……。

 

 

「よっしゃあ行くぜ! 『順風走破』! ゴブリンども、そこをどきやがれ!」

 

 

 お、おおっ!?

 

 風を纏って加速したチャラ男がゴブリン型ゴーレムの群れに思いっきり突っ込み轢き蹴散らす。

 その後ろをギャルと筋肉with私たちが全力で走って付いていくという構図。

 

 えええ、いや、力技過ぎでしょ……!?

 

 なんだかんだ上手く行ってるから評価的には減点ではないだろうけど!

 

 

「うひゃぁ」

「おおー速い速ーい」

 

 

 思ったより快適だけど邪道だぞ!! 本当にそれでいいのか!?

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 トレイントレインで走って行って、一気に中層に到達。

 途中でトラップなどにも引っかかることは無く、平和だったと言ってもいい、のだが……。

 

 なんか迷宮の製作者としてちょっと釈然としない……。

 

 

「お、宝箱か。遺跡っぽいダンジョンに似せて作ってあるっぽいからあってもおかしくはなさそうだが……どうする?」

「……無視でいいんじゃないかしら。私ら試験を受けに来てるのであってクエストしてるわけじゃないし」

 

「一応、宝箱の中身は自由に持って帰っても大丈夫って説明あったよ。トラップもあるから自己責任になるけど。一応加点ポイントにもなってる」

 

「そうなのか? 一応調べてから中身見てみるか……?」

 

 ここのダンジョンの宝箱の中身は魔術院で作られた魔道具の不良在庫が適当に入れられている。

 なのでそんなにいいアイテムは入ってないのだが。こいつらみたいな中級冒険者らへんの人の小遣い稼ぎにはちょうどいいレベルなんじゃないだろうか。

 まぁ最近の中身のラインナップに関しては私はノータッチなので詳しくは知らんが。

 

 そうそう、ところで、いわゆる普通のダンジョンの宝箱。あれってよくよく考えたら不思議な存在だよね。

 これ、もちろん人や魔物が設置してるのもあるけど、実は自然発生してるってやつもあったりするのよ。

 

 ミミックって魔物がいるんだけど、こいつって要は周囲の入れ物的な箱の形をまねて外殻を作る、一種の貝みたいな魔物なのだ。

 で、箱と言っても二枚貝的構造の殻を好むので必然的に宝箱的な形のミミックが多くなり、そういう天然のトラップみたいになってるってわけね。

 ただ、こいつらは貴金属や魔力を帯びた物を溜め込む習性があるので倒せばちゃんとお宝が手に入る。

 そして、中身が自然死すればそこに勝手に宝箱が設置されるっていう形になるわけだ。

 だから何故かぽつんと意味不明な場所に宝箱があったら、それは間違いなくミミックと考えていい。

 

 魔物としての強さは魔女さん判定20~25レベルくらいで意外に強いのだが、基本的にこっちから触れなければ動かない。

 というか他の大きな生き物がいる場合は触れられない限り一切動かない。

 

 触ったらワイバーンに匹敵するクラスの魔物がいきなり至近距離から襲ってくることになるので、腕に自信が無いなら怪しい宝箱は放置がおすすめだね。

 外だとアホなゴブリンとかが餌になってることもあるが、逆に同じく貴金属大好きなドラゴンさんなんかには狩られてしまったりしてたり。

 悲しいけど、これが弱肉強食ってやつなのね……。

 

 で、このダンジョンにはそのミミックさんがたくさん放し飼いになってます。あんまり自発的に動かないので管理しやすいし。

 ちなみに、このダンジョン内で実際に生きている魔物はこいつとスライムくらいかな。あとは全部魔物型ゴーレムになってる。

 

 

「忠告しておくと、中層からはミミックも出るって書いてあった。気を付けた方がいいよ」

 

 

 はい。そしてもちろんいま目の前にあるこの宝箱もミミックさんです。

 まぁ危なそうなら助けるが、この辺は評価ポイントにもなってるのでどこまで手を出そうかちょっと迷うね……。

 

 正直この忠告も結構グレーなのではと思ったが、まぁこれくらいはええやろ……。

 

 

「うげ、冗談……ではなさそうだな……ガチで本格的なダンジョンじゃねぇか……」

「罠判別用に鉤縄とかも用意しとけば良かったわね……」

 

 

 

 

「『激流槍』」

 

 

 

 

 空気を引き裂く、一瞬の鋭い音とともに。

 超高圧の水流が、一直線にミミックを穿ち抜く。

 

 

 

 

 ふむ、なるほど。黒髪ちゃんの魔術か。その前に『構造解析』を宣言無しで使ってたね。

 あと『激流槍』の術式は中級魔術としては、威力の割にそれほど難度が高いわけではない。

 でも、術式構成がしっかりしててロスもほとんどなく、出力もかなり高くなってた。

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()それは、非常に丁寧な制御がされていた。

 

 ……聖職者だっていうのに片手間の精度じゃないね。意外とやるじゃん。

 

 

「魔物、やっつけたよー」

 

「……え?」

「お、おう……ありがとな……」

「……」

 

 

 ポカンとしてるギャルと、ドン引きしてるチャラ男。

 筋肉男は顔に出さずともちょっと驚いてる様子。

 

 

「えーと中身はー……指輪?」

「ん、見た感じ、魔力補助具のたぐい。消費魔力を節約するタイプの奴。デメリットは無い」

 

「ふーん、でも私は要らないなぁ。誰か要るー?」

 

 

「お、おお!?」

 

 ポーンと放られた指輪をチャラ男が慌ててキャッチする。

 中級冒険者ともなれば魔道具の一つや二つくらいは持ってるだろうけど、高価なのは違いないし、十分当たりだろう。

 売ってもそれなりのお金になるし、ギャルとか結構重めの魔術を好んでる雰囲気だから自分で使うのもいいかもね。

 

 

「お前ら要らないのか?」

「要らなーい」

「右に同じ」

 

「なら有難く貰うが……魔力節約の魔道具か。俺やゼフィールよりビズ向きだな。やるよ、ほら」

「え」

 

 

 ?

 指輪を受け取り何故かフリーズした金髪ギャル。

 

 

「あ……ありがとう……」

 

 

 ……? え? 耳赤くない?

 

 あ。そういうこと? こいつそういうこと?

 へぇ、私のこと散々イジってきた癖に?

 

 ふぅん……ふふ……まぁいいんじゃないか。

 こいつら家名持ちと無しで身分差ありそうだけど、そういうの魔女さん好きだぜ。

 

 ああ、そうそう、一応この世界にも結婚するときには指輪を送る風習がある。

 まぁ前世と違って両方が送り合うんじゃなく、男が女にって感じの一方通行になるんだが。

 

 ……この手、使えそうだな。

 

 あいつと会って、もしまたなんか冒険するみたいな展開が有ったら、こんな風にあいつに指輪をもらって……。

 で、これを口実に、話を広げ、広げ……、いや……あいつ鈍感だもんなぁ……もっと直球じゃないと駄目か……。

 

 二人旅中も結構アピってたのにあんまり反応無かったし……チラチラ見てたから私に興味ないというわけじゃなさそうなんだが……。

 

 や、でも私からそういう直球は……やっぱこう……あいつから来てほしいというか……。

 なんならこう、強引に迫ってほしい感もあったり……。

 

 まぁこういう話をする前に、先にあいつを見つけなきゃならんのだけどね……。

 

 

 

 あぁ、あいつ今、なにやってるのかなぁ……。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 そっからの道中。私も別にサボってたわけじゃない。

 

 

「『構造解析』、罠あるよ。少し先の石畳と右側の壁。ちょっと色褪せてるとこ」

「おう、助かる」

 

 

「『空間探査』、前方の分かれ道右の曲がり角、敵が複数いる。数は5。オーク型」

「よし、オークなら火力が必要だな。前もって術式に魔力を溜めとくか」

 

 

「ん、次の広場に回復ポイント。『疲労回復』と『軽傷治癒』の設置型魔道具がある」

「じゃあそこでひとまず休憩にすっか」

 

 

 てなわけで、私もそれなりに仕事をしながら先に進み、中層終盤のボス部屋前でブレイクタイムへ。

 このダンジョンは親切設計なので、各所にちゃんとこういうセーブポイント的なセーフエリアが用意されてるのだ。

 

 まぁ一応、天然ダンジョンにもこんな感じの休憩場所は無いわけでもないけど。

 でもそういうのって先に攻略してた冒険者とかの使い捨て魔道具の残骸とかで作られてたりするので、完全に安全かって言われるとあんま保証は出来ないって感じ。

 

 ここの安全地帯は完璧な安全設計だが、決してスタンダードではない。あくまでも試験用ダンジョンで、いわば冒険者のチュートリアルみたいなもんだ。

 なので研修受けた魔術師たちには、実際のフィールドワークなんかでは気を付けなきゃ駄目って注意がされていたりする。

 

 

「おぉー……でっか……すごいなこれ。流石魔術の最高峰だ」

「むぅ……これ値段付けたらとんでもない金額になるんでしょうね……」

「美しい……」

 

 設置型回復魔道具はキラキラした巨大クリスタルみたいな見た目をしている。もちろんこれも私が手がけました。

 中々幻想的な景色になってて、なんか感動してるのか筋肉がプルプルしてる。ホント見てて面白いやつだなこいつ。

 

 

「なぁ、この先はどうなってると思う?」

「?」

「いや、そろそろこの階層も終わりだろ。だからなんていうか、最後に試験の評価的な強敵でもいるんじゃないかと思ってな」

 

 

 お、鋭い。この先のボス部屋にはドラゴン型ゴーレムくんがいらっしゃる。と言ってもベビーに毛が生えた程度のクラスだが。

 魔女さん判定、30レベルくらいかな。中級冒険者だと結構きついと思うけど、突破できればポイントは高いだろう。

 

 

「その認識は間違ってないと思うよ。だからここで準備を整えた方がいい」

「うーん、じゃあ交代で仮眠でも取るか?」

 

 

 このダンジョンに入って、だいたい6時間程度。まぁ休憩にはちょうどいいくらいかな。

 ダンジョン攻略中に寝るなんてとか思われそうだが、魔力回復には睡眠が一番なので、こういうタイミングで仮眠をとるのって実は結構理に適ってる。

 あと他には、食事もそこそこ効率が良い。魔力って意外に生物学的欲求に直結してたりするのだ。といっても性欲は関係なさそうだが。

 

 なので、私が仕事中にお菓子を食べるのも理に適っているのだぞ!という主張も一応しておきたい……!

 

 

「そうね、賛成。どういう順番にする?」

 

「私はまだまだ大丈夫だよー」

「ん……私も魔力は全く問題ない」

 

「じゃあ、俺とビズから休ませてもらうか。ゼフィールは見張りを頼む」

「了解……」

 

「……携帯天幕、用意しといてよかったわね」

 

 

 ギャルの背嚢から簡易テントが取り出され、ポンッと天幕が完成する。

 

 おお、ていうかこれ魔術院の新作魔道具じゃん。

 魔術的な圧縮収容がされてるから結構コンパクトだけど展開したらそれなりの大きさのテントができるってやつ。

 魔力もほとんど必要なく、片づけるときもワンタッチで元のコンパクトモードになって便利なので、冒険者や行商人なんかを中心に結構売れてるって話。

 私も設計的な監修してるので実際に使ってるとこ見ると、なんかちょっとグッとくるものがあるね……!

 

 

 ……。あいつも冒険でこれ使ってたりするのかなぁ。

 使ってたら嬉しいなぁ。

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 ……この次のボス倒したら、試験もほぼ終わりだ。

 全体の予定的に見ても、この実技が終われば後は面接くらいしか残っていない。

 

 だからそろそろ、評価的な総括をすべき、なのかもしれない。

 だけども。そう、なんていうか、その。

 

 今までパーティプレイの経験、あんまり無かったんだけど……。

 

 

 なんだか……、思ってたより良かったなって。

 

 

 ……なんてね。

 私は責任ある立場で、これは仕事なんだから、あんまり個人的な感想を差し挟むべきじゃない。

 失われた青春の追体験、みたいな感じでちょっとノスタルジックなメランコリーになっちゃっただけ。

 こういうのはここだけの思い出にして、捨て置くべきだ。仕事に集中せねば。

 

 

 ああ、あと良かったといえば、チャラ男ギャル筋肉のクレーマーズトリオだ。

 意外にも、というかやはり、というか、普通にまともだった。

 空回りする場面もあったが、それはそれだけ真剣に事に当たっていることの証左でもあるのだろう。

 それぞれがそれぞれの個性でそれぞれの足りないところをカバーしてて、中々うまくやってたと思う。

 まぁ全員が受かるのは期待薄だろうが、私から三人ともの高評価を具申しても問題ないはずだ。

 

 

 だが逆に、黒髪ちゃんはよくわからなかった。

 

 

 なるほど、たしかに魔術は洗練されていて素晴らしい。

 聖職者ではなく魔術師として見ても、十分に上級冒険者レベルはある。

 

 でもダンジョン攻略の観点から言えば、実のところ大したことをしていない。

 時折、後ろから援護するくらいで、敵との戦闘、トラップへの対応、探索上の立ち回り、その他。

 ここに入る前の勢いの割に、積極的に加点を狙う姿勢は見えなかった。

 

 この実技試験内で使用した魔術は、『水球』『水圧障壁』『激流槍』『圧壊波濤』『構造解析』の5つ。

 制限クラスの上級魔術もあるが、効果的に使用されていたかといえば微妙。

 

 

 それに、なんだろうか。少し、()()()()()()()()()()()()()ような……?

 違うことに、気を取られてる……?

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、ちょっといい?」

 

 

 チャラ男とギャルは向かいのテントで仮眠中。筋肉は辺りを警戒するために少し離れている。

 この試験用ダンジョンの安全地帯はちゃんと安全地帯なのでそんな警戒する必要ないけどね。

 

 なので、今は私と黒髪ちゃんの二人っきり。

 

 

「えっとね、聞きたいことがたくさんあるのだけど。……とりあえず」

「?」

 

 

 

 

 

「あなた、だれ?」

 

 

 

 

 

──え?

 

 

 

 

 

「教えてよ」

「いや……私はアル」

 

「って聞いてもやっぱり教えてくれないかぁ」

 

 

 

 なんだいったい……?

 欺瞞情報の術式が暴かれた、わけじゃない。そんな形跡はない。

 

 今の私は、見た目はそのままだが、魔力などの潜在的情報は全部、昔のエステルくらい、普通の町娘のようにしか見えないはずだ。

 それ以前の話として、身分を隠す人間は多い。特に魔術師に関しては、色々な事情もあって隠している人の方が多いともいえる。

 そういう意味でいえば黒髪ちゃんもそうだ。明らかに身分を隠している。だから、仮に私の名前が偽名だとバレたところで、何の問題はないじゃないか。

 

 それにそもそも、今回の魔術院試験は魔術院の身辺調査も入る。やましいことは無いと、お墨付きがあるようなもの。

 だから受験生の立場で他の受験生に対し、それ以上の事情に関して疑う要素など、どこにも……。

 

 

 

「まーしょうがないよね。あっちも気になるけどこっちの方も大事だし……私の立場的に確かめないわけにもいかないし……」

 

「だから、なんの、話……?」

 

 

 

 

 

 

「『告解の奇跡(Confessio)』」

 

 

 

 

 

 

──……。

 

 

 

 

「よし。……駄目だよ。嘘は罪、罪は暴かれるものなんだから」

 

 

 

──……。

 

 

 

「私は水。透き通り、染み渡る者。私だけの水の奇跡で、鏡のように映し出す、真実の探求者。なーんてね。……それじゃあ、改めて教えて?」

 

 

──……。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

──……。

 

 

「前に勇者がやってきた場所で、こーんなに怪しい人が、まったく関係ないなんて、ないよねぇ?」

 

 

──……。

 

 

 

「……」

 

 

 

──……。

 

 

 

「……。あれ?」

 

 

 

──……『隔絶領域』

 

 

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 思考分割、多重並列処理開始、実行展開、構造接触成功。

 

 世界領域接続、全事象遮断、境界挿入、領域形成。

 

 生まれるは暗闇。幽かに光るは魔力の残滓。

 

 照らし描かれるは私だけの世界の形。

 

 

 

 

 

「う、そ……? なん、で……?」

 

 

「奇遇だね」

 

 

 

 

 

 ああ、ごめん。……ちょっと事情が変わった。

 

 

 

 

 

「私も今、お前に聞きたいことが沢山できた」

 

 

 

 

 

・・・




女神さん「zzz……(寝返り)」






 隔離用結界くん大活躍。

 次回は勇者パートのオチ、の前半。
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