勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん 作:Mckee ItoIto
始まりがまったりクエストだから最終的にはまったり終わるよ。
まったりといったらまったりなんだよ。
まったりしていってね。
・・・
<とある聖女見習いさんの憂鬱>
(……)
「南方教区は住民が増加傾向にあり、信徒の数も順調に伸びております。これも女神様のご威光によるもの……」
「はは! 住民? 棄民の誤りでは? 大森林から獣国の難民が流れてきているだけだろうに。果たして竜神信仰の異教徒がどれほど紛れているものやらな」
「……西方に言われたくありませんな。そちらこそ教区の貧民街をどうにかすべきではありませんか? 信徒救済が滞っているように見受けられるが」
「ああ、北方は魔族を2体討滅した。大聖女様の御言葉の元、魔族は悪である故、断じてこの国には立ち入らせぬ」
「東方は順風そのもの。先だっての会合により商家を取り込み、寄付も大きく増えておりまする。して、法国側との協業についての進捗は……」
「……。ああ、その件は本国の了承を得ていないので今しばらく待ってもらえると」
「ええ、同じ女神教の仲間として、色よい御返事をお待ちしております」
「然り。我らは同じ女神様を崇める同志。教義の違いはあれど、協調は必要である」
「では、折り入って信徒の急増に対応する支援を要請したく……」
「いやはや、だったら異教徒を追放すべきであろう。人を救いもせぬ空飛ぶトカゲを崇めている野蛮人など、教国民に相応しくあるまい」
「しかし、かの地にて救われずにこの国に流れてきておりますのでしょう。であれば我らこそが救いを与えて改宗を促すべきでは?」
「然り。賛同である」
「追放などして潜在的な敵性異端者を作るよりは正解でしょう。東方は人手不足故、仕事を回します。ある程度でしたらこちらで受け持っても構いません」
「……致し方ありませんか。東方に借りを作りたくはありませんが、助力願います」
「その前にだ、西方に開発資金を回す話はどうなった。まさか後回しにする気じゃあるまい?」
(……あほくさ)
(なんなん? 何で僕だけ毎日毎日ハゲたおっさんたちに囲まれながら延々と下らない話を聞かされなきゃならないわけ?)
(あー……言っても仕方ないけど魔王魔神勇者の担当の方が良かったなぁ……他のみんなが羨ましいよホント……)
・・・
遠くに見える教都の大鐘楼から、時刻を知らせる鐘が鳴った。
どうやら正午を迎えたらしい。
俺たちは午前中に巡った個人運営の孤児院から情報を得て、今からとある教会孤児院に向かうところだったのだが。
アリアが、先に少し情報を調べたいと食後にパーティを離れていって、それを待っているところだ。
教会孤児院は本来、今日の予定には無かった目的地だ。
ある程度の情報は元々持っていたらしいが、改めてそれを確認しておきたいとのこと。
……アリアも割と極端だよな。
焦燥に駆られるように動き出そうとしてベルに諫められたと思ったら、今度は逆にかなり慎重な動きになっているように思う。
……いや。慎重というより……、恐れ……か?
ベルの計らいで多少マシになったとはいえ、少なくとも普段の余裕に満ち落ち着いた様子は、見る影もない。
本当に、大丈夫なのだろうか……。
……何はともあれ、俺たちはしばし待機だ。
……。なのだが。
「うーん……ちょっと食べ過ぎたかもだよ……」
苦しそうに膨れたお腹をさする、食い意地の張った褐色エルフがそこにいた。
いや、これから戦闘があるかもしれないんだぞ……?
こいつ本当に俺の親より年上なのか……?
「……うん? 今なんか失礼なこと考えなかった?」
「考えてないぞ?」
「……おいこら、ちゃんと目を合わさんかい」
「考えてないぞ?」
「嘘つけこっち見ろやい」
グイグイ来るベルに、若干引き気味の俺。
いつものことなんだが、近いんだよ……。
「というか腹出してないで仕舞え……」
「……ん? いやまぁいいでしょ誰か損するわけでもなし。むしろ得じゃん? 私かわいいし?」
「いや本気で意味不明なんだが……その自己肯定感は何処から来るんだか……」
「さわる?」
「触らねぇよ……」
「……、あの!」
じゃれ合っている俺たちの間に、ずずいと勢いよくエステルが割り込んできた。
……なんか雰囲気がちょっと怖い気がする。
「……えっとですね、なんというか、お二人とも気が緩みすぎじゃないですか? もう少し気を引き締めた方がいいのでは?」
そうか……? いや、そうだな……。
まさに正論である。反論の余地なんか無さそうだった。
反省しよう……。
「悪い……」
「いやいやごめんごめん。ごもっともだわ。私も一番の大人として反省しなきゃね」
「……大人?」
「なんだいアルくん、文句あるのかな?」
「ないぞ?」
「……。……まぁ、いいです。アリアさんが戻ってきたら真面目にやってくださいよ」
まぁいいといいつつも、エステルの目がとても怖いままなんだが……。
なんかベルと喋っているとどうにもツッコミどころが多くてつい反応してしまうんだよな……。
まるで、昔のあいつと話してる時みたいな感じでそんな会話が心地よくて楽しさもあるのだが……確かに今はふざけている場合ではない。
とはいえ、アリアが戻ってくるまで手持ち無沙汰だったりもする。
作戦会議をするにも、アリアが持ってくる情報が無いことには、だしなぁ。
「……ぅん?」
?
なんだ……?
突然、ベルとエステルが奇妙な動きをし始めた。
なんていうか、ベルが俺に近づいたり離れたりする仕草を繰り返して、それにエステルがもの言いたげに動こうとして、こらえてビクってなってる、みたいな。
「ふむん……?」
徐々に不機嫌、というかしかめっ面になっていくエステル。
それと対照的に、ベルは少し楽しそうな表情だ。
なんかよくわからんが……ベルがエステルを揶揄っているのだろうか……?
「いや、ちょっと前からもしかしてとは思ってたけど……」
「……なんですか」
「いやぁ別に?」
「……」
「うん。まぁ、さぁ。とりあえず……私もいいやつとは思ってるけどね」
「はい……?」
「でも正直、幻想ちゃんが強すぎて厳しいとも思うなぁ」
「……だから、いったい何の話ですか」
「ふふふん。なんでもないよーう」
「……」
……?
意味が分からんが、話は終わったようだ。
ベルは少し離れて落ち着いた様子。
そして、エステルは取り残されたようになり若干困っている様子。
「というか今のは何だったんだ……?」
「……」
「……エステル?」
「……。はぁ……」
おい、なんだ。何故か盛大なため息をつかれたんだが。
ベルも爆笑寸前な含み笑いをしているし……本当にいったい何なんだ……?
「お待たせしました」
頭の中に疑問符を大量に浮かべているさなか、アリアが戻ってきた。
なんとも納得いかないが……まぁいいか。ともあれ本命の目的地に出発だな。
ベルも、一見何も変わらないように見えるが、雰囲気はしっかりと真面目なものに切り替わっている。
まぁあんなんでも、俺なんかよりずっと長く活動している一流の冒険者だ。普段はあんなんでも。
こういう切り替えの早さやメリハリの付け方など、見習うべきところも多い。のかもしれない。
俺だって何年も冒険者やってるんだけど、まだまだ未熟だものな……。
「おつかれ。どうだった?」
「やはり目立つような不審な点は見つかりませんでした。ただ、経営的には厳しい状況らしく、ここ数年は民間の寄付に依存している状態のようです」
「ふぅん? まぁ孤児院が儲かるとも思えないし、赤字運営は当然なんだろうけど」
「そうですね。世知辛い話ではありますが、施設運営として支出がある以上は何かしらの収入源がどうしても必要になります」
「へぇ、なるほどな。教会孤児院っていうくらいだから、教会が全部出してるものだと思ってたんだが」
そういえば、王国の孤児院なんかはどうだったんだろうか。王国が出してるのか?
まぁ正直ロクな運営してなさそうな気しかしないが……個人的に王国への信頼度あまりないしな……。
「……はい。ある程度は教会側でも負担をしていますが、それで運営費用の全額を賄うことは到底厳しいのが現実です。孤児院の中には農地運営や商売などを手掛けるところもあるようですね」
「そんで、その孤児院は寄付に全面的に頼っていると」
「はい。なのですが……その辺りの話は正直なところ、余談ですね。はっきり言えば、何処にでもあるような特に珍しくもない運営状況の孤児院です」
「そっか、なるほどね……」
「……午前中と同じような感じで行くしかなさそうですね」
「まぁ、そうだな」
「よし。じゃあみんな向かおっか」
「……はい」
やはり、アリアは少し複雑そうな様子だ。
もしかすると、教会関係者が魔族と関わっているかもしれない。
その疑惑が果たしてどれほどの重大さなのか、俺には想像もつかないが。
……しばらく注意しておいた方が良さそうだな。
・・・
"リブストク孤児院"
到着した孤児院は、ここまで見てきた中では飛び抜けて綺麗な施設だった。
建物も大きく、手入れも行き届いているように見える。
かつて、この孤児院は経営破綻により廃院の危機にあったという。
それを救ったのが、とある一人の有力な資産家。
おかげでボロボロだった孤児院も見違えるように生まれ変わったそうだ。
今のこの孤児院の名前も、その共同支援者たちが新しく名付けた物らしい。
その前までの孤児院の名称は普通に"西地区第三教会孤児院"という無機質なものだったそうだったのだが。
まぁ寄付の返礼として命名権がもらえるのは、割と一般的らしいので珍しい話ではない。
話を聞く限り、どこにも不自然な点は無さそうに思える。
「と、いうわけでして……。我々どもは生まれ変わったように、子供たちの救済を行なっているわけであります」
「なるほど」
「……しかし法国司祭様、それも上級司祭様が、こんな孤児院にいったいどのようなご用件で?」
「ああ、いえ。近々法国での孤児院新設を予定しておりまして。参考までに教国の孤児院の運営状況を順に見学させていただいております」
孤児院訪問の理由としてここまでの訪問でも使ってきた台詞だ。
実際は今のところ未定らしいんだが、アリア的には"ちゃんと今後の為に役立てるので完全な嘘ではないですよ"とのこと。
ともあれアリアの口ぶりがあまりにも自然すぎて、その辺りに関して相手も特に不審には思っていない様子。
「左様で……参考になるかはわかりませんが」
「前約束も無く急で申し訳ございませんが……」
「……構いません。どうぞ」
「ありがとうございます。ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いいたします」
いまこうやって俺たちを出迎えてくれているのは、ここの孤児院を運営する教会の、修道士の男だ。
実際には他にいる教国司祭が最高責任者らしいんだが、滅多に現場に出てこないらしいため、この男が実質的なここの責任者と言ってもいいのだろう。
しかし……ここまでの個人運営の孤児院ではあまり俺たちに対して警戒された様子は無かったんだが……この男はかなり訝しげな態度を見せている。
まぁ、アリアは教国ではなく法国の人間で、聖女見習いとしてそれなりに高い立場でもある。
前約束もなく、いきなりそんな外部の偉い人間が見学に来たら、多少は身構えてしまうのも無理は無いのかもしれないんだが。
「孤児の奉公先……引き取り先はほとんど一か所に固定されているのですね」
「ええ、その通りですが……然るべき形での卒院として……教会には間違いなく報告いたしております」
「引き取り先であるナーサリー商会、ここは支援者と関係が?」
「ええ、その通りですが……どうかなさいましたか。何か気になることでも?」
……なんだか少し前のめり過ぎない、だろうか。
徐々に相手の警戒度も上がっているようで、このまま見てるだけでいいのかと少し悩む。
とはいえ、俺が入ったところで話が良い方向に進むとも思えないが……。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんたち何してるの?」
「……ん?」
アリアの様子を少しばかりやきもきしながら見ていたら、小さな子に話しかけられた。
見た感じ9、10歳くらいで、髪が少し長く清潔感があり、血色が良く綺麗な顔立ちをしている。
男の子か女の子かはわからないが、まぁ、考えるまでもなくこの孤児院の子供だろう。
とりあえずエステルの気配を確認しつつ判別術式の邪魔にならないように、ベルと一緒に子供の相手をすることにする。
「ん、俺たちはあのお姉さんの付き添いだな。特に何をしてるってわけでもないんだが」
「あー、あのキレイで大きなお姉ちゃん?」
「……」
「いや、なんでこっちを見るのかな? どうしてかな?」
チラッとベルの方を見たら思いっきり目が合い、ちょっと怖い顔で睨み返された。何故……。
いやほら、アリアは身長も女性の中では大きい方だろ。
別に変なこと想像したわけじゃないんだが。多分。
「でも、こっちのお姉ちゃんたちもすっごくキレイだね!」
「おぉ……君はいい子だね。ちょっとお姉ちゃん感動だよ。飴ちゃんいる?」
「いいの?」
子供におだてられあっという間に上機嫌になり、懐から飴玉を取り出すベル。
たぶん帝国で購入した嗜好品だろう。そんなものいつの間に買ってたのやら。
いや、いくら甘味が他国に比べて劇的に安かった帝国とはいえ、貧乏冒険者としては結構な贅沢品なんだがな……。
……それにしてもホント、帝国の甘味は他国に比べて異常に安かったな。
下手したら相場の半値以下だったんじゃないか? 逆に肉料理とかは少し高かったが……。
というかチラッと見えたが、ベルの持ってる冷却袋の中、滅茶苦茶大量に飴玉が入ってるな……。
別に個人の金で買ったものだから別に文句は言わないが……流石にどうなんだ……?
「お菓子……!」
「え、おかし!?」
「うひょー」
「ぁはーっ!」
甘味をチラつかせたからか、何処からともなく子供たちが集まってきた。
というか結構な人数だが、今まで何処に隠れていたんだろうか……?
まぁ、客が来るということで隠れているように言われていたのかもしれないが。
「この孤児院では年に3度しか甘味は供されておりませんもの。生誕日と、聖女節、女神節。それ以外でまず口にすることはありませんから」
子供たちに続き、女性が出てきて声を掛けてきた。恐らく、ここの子供たちを世話している修道女だろう。
冷たそうな雰囲気があるが、さり気なく子供たちの動きに注意を払っている様子が窺える。
あと、正直言って途轍もなく綺麗な顔立ちをしている……まぁあいつほどじゃないが。
「それ以外の機会は制限されているものの、やはり子供ですから。欲求の抑えが効かないのは致し方ないですね」
ベルに群がる様子を見た感じ、子供にしてもだいぶ大人しい、というより割と行儀が良い気もするな。
しかし元は貧民街にいたような孤児なのだろうから、強奪を試みるような子供がいてもおかしくは無いだろうし、このままだと揉め事が起こる可能性も無くもないか。
まぁベルから物を無理やり奪えるやつなんか冒険者でもあまりいないし、もし喧嘩が起きてもベルなら上手く対処するんだろうが……。
「ああ……すまない。止めてきた方がいいか?」
「いえ、構いませんよ。たまにはこのような刺激があっても、良い、影響があるでしょう。……ところで貴方様は? あちらの方の護衛、教会騎士でしょうか?」
「ん? うーん、俺たちは教会の所属じゃないが。まぁ護衛みたいなものか」
建前上、俺たちのパーティはアリアがリーダーだ。
そして、教会の巡礼者には護衛が付くのが慣例になっているらしく、必然的に俺たちの立場はそのように見られることが多い。
まぁアリアは普通に強いので、たぶん護衛とかは要らないんだろうけどな……。
初めて会った時も当たり前のように他の冒険者に混じってギルドの依頼をこなしていたし。
「そうですか。その剣なども、ずいぶん御立派に見えましたので、てっきり騎士の方かと」
そう言われて何となしに、そっと聖剣に触れる。
今のところ、勝手に光ったりもせず大人しくしている、が。
ただ……少しだけ警戒しているような意思だけは伝わってくる。
なんていうか、はっきり敵か分からないが、敵かな?みたいな雰囲気を感じている。
たしかこんな感じで、聖剣から似たような意思が伝わってくることは、前にもあった。
……そう、それは、ずいぶん前にも思えるがそれほど前ではない出来事。
聖剣は魔力を無効化する神器。魔力を持っている相手を倒すための剣。
今までも魔術師にはちょくちょく反応していた。その度、宥めるのに少し苦労したのだが……。
聖剣が反応を示しているということは、つまりここに魔力を持っている何者かがいるということに他ならない。
冒険者の中では魔術師という存在は珍しくもない。
しかし、ここは孤児院だ。無関係な魔術師がいるとも思えない。
俺は聖剣と完全な意思疎通ができるわけじゃないので、何処の誰が、といった詳細までは分からない。
でも、聖剣が対処する候補に考えるぐらいの魔力を持つ者は、間違いなく近くに存在している。
だとすれば、やはり恐らく、ここが当たり。
あとはエステルが判別術式で断定するのを待つだけ……だな。
見える範囲の大人は、目の前の修道女と、アリアと話している修道士の男しかいない。
この二人だけで運営しているとは考えにくいので、孤児院の奥にも何人かいると思って良いだろう。
あとは、子供たちの中に紛れている可能性……この後で戦うだろうことを考えるとそれはあまり考えたくないが……。
「いい子たちでしょう?」
「……そうだな」
ベルと戯れる子供たちは、元気ではあるが元孤児と思えないほど行儀が良い。
しかし、疑いによる先入観かもしれないが、この修道女の表情は何処か得意気に見えた。
まるで、自らの成果を誇るかのように。
……何なのだろう。俺は何に違和感を感じている?
「シスターイールド! 少し話に加わってほしい! こちらに来てもらえないか!」
修道女が、男に呼ばれたようだ。断りを入れて、俺たちから離れていく。
エステルは……まだかかりそうか。
ボーっとしててもしょうがない。ベルと一緒に子供たちの相手でもするか。
……?
少し離れたところに、子供たちを見守るような表情で眺めている少年がいた。
体格もよく、日に焼けて健康的な体つきをしている。
13、14歳くらいだろうか。恐らく子供たちの中では一番年長だろう。
「行かないのか?」
「! ……なんだよ、別にいいだろ。俺は甘いものが嫌いなんだ」
……何となくだが、昔を思い出した。
あいつも最初は、露骨にこんな感じだったような気がする。
誰かのために、自分の望みを我慢する。
そんな、大人ぶった雰囲気。そんなところが、少し似ている。
これを、子供だな、と思えるようになったのは、俺がそれだけ大人に近づいたからだろうか。
「みんな、いい子たちだな」
「……」
「……」
ちょっと警戒している様子だが、踏み込み過ぎないように返事を待つ。
「……」
「……」
「……まぁな。ここの先生たちは厳しいし」
「やんちゃな奴とかはいないのか?」
「いるけど、先生に連れてかれて別室でこっぴどく叱られたら大体大人しくなる。俺は一度も無いけど」
「そうなのか」
「最近はそういうのも少ないけど。今は俺が一番年上だから、ちゃんと目を光らせてるんだ」
「へぇ。やるな」
「……俺、もうすぐ卒院だから後が心配なんだけど」
「卒院?」
「そう、牧場で働くんだ。俺、鍛えてるから。頑張って稼いで、恩返ししたい」
「……恩返し」
「ああ。最低な場所で最低なことして暮らしてた俺を拾ってくれたんだ。先生たち、なんか誤解されがちだけどさ、凄く優しくていい人なんだ。だからさ」
なるほど、な。いい子……か。
「ああそうだ、ベル……あそこの褐色のお姉ちゃんなんだがな」
「?」
「あいつアホみたいな数の飴玉持ってたから多分全員に配れるんだろうが、子供たちも少し興奮してるだろ? 出来れば配るの手伝ってやってもらえないか?」
「……」
こうして送り出せば、多分ベルも察して分かってくれるだろう。
甘いものに興味津々で目線を誤魔化せてない癖に生意気な子供へ、ちゃんとご褒美をやってくれるはずだ。
「……しょうがないな。手伝ってくるよ」
どれだけ大人ぶっててもやっぱり子供だ。微笑ましい。
やっぱり甘いものの誘惑には勝てないのだろう。これまた、何となく懐かしい気持ちになる。
……あぁ、あいつも甘味や菓子は本当に好きだったんだよな。
村時代はそうでもなかったが、二人旅時代のあいつのそういうところ、かなり子供っぽかった。
王国での甘味は途轍もなく値段が高く、到底、庶民に手が出せるものではなかった。
だというのにあいつは度々、ふと気づいたら謎の甘いものを食べてた。
何なのか気になって見ていたら俺にも少し分けてくれた、のだが。
その……なんていうか……本音を言うとあまり美味しくは無くて菓子というより……甘さそのものな物質といった印象だった。
なにやら果物などから”甘さ”の部分だけを抜き出して結晶化してるとかなんとかで。
あいつ曰く、頭を動かすのに必須のアイテムだとかいってボリボリ食べてたんだよな……
……これも多分、エステルに話したらまためちゃくちゃにドン引かれるんだろう。
エステルから魔術の初歩を教わって改めて思ったが、やはりあいつの魔術はわけが分からないほどにヤバい。
小規模なものも、大規模なものも、俺なんかでは想像もつかないほどの領域にある。
俺はあいつのことを小さなころから見ているから安心して見ていられるが……。
……ああ、そうだ。
だから飛び抜けた魔術を使うあいつのことを、あいつをあまり知らない人たちから見たら。
どう見えるのか。見えてしまうのか。
──知らないことって怖いことだよ。分からないものは対処のしようが無いから。
──なら、知るしかない。だけど、逆に知ることもまた怖いものなんだ。
──そう、世の中は知らなければ良かったってことだらけだからね。
──だから、大抵の人は見なかったことにする。その恐怖から遠ざかるか、遠ざけるようになる。
──……、……何でアル、……。あぁいや、元来、新しいこと知るのって楽しいはずなのにね。知ることは進むことと同義ともいえる。ホント、勿体ないよ。
──うん……。
そう、俺は二人旅の最中あいつに、なるべく魔術は使わないようにと言い含めていた。
それは魔術忌避が強い王国で使うところを見られることの危険性が第一にあったんだが。
でもあいつ、ちょくちょく隠れて魔術を使ったりしてたんだよな……。
流石に知らない人前でバレるように使うことは絶対に無かったとはいえ……。
多分だが、明確に他人の前で使ったのは野盗討伐の時くらいか……?
まぁ、俺の前で使うようなものに関しても、当時の俺の素人感覚では大したことのないようなものばかりだった。
それこそ、苦いものを甘くしたりとか、周りに影響のないものがほとんどで、実際はとんでもないことをやってるんだろうが、見てる分には可愛らしいものばかり。
それに俺も昔のあいつとの遊びを思い出して懐かしくなる気持ちもあったので、俺の前だけで使う分にはあまり強く言わなかったんだが……。
……あれはあいつがいなくなる少し前のことだったか。
王国ギルドで魔術嫌いな冒険者と、あいつ絡みで少し揉めたことがあった。
そいつは前々から嫉妬深く嫌味な奴ではあったが、冒険者としてはそれなりにまともだったので、きっと王国の冒険者としては正しいことを言っていたのだろう。
問題ないと手続き上処理してもらえたとはいえ、あいつが……討伐を含む調査対象だったことに変わりはないのだから。
そう、だからまぁ、それなりに激しく言い合いをした結果、ちょっとした勝負としていくつかの依頼を受けることになったわけだ。
要はどちらが依頼を達成して高評価を受けるかという、わかりやすく単純なもの。
冒険者には、格上の冒険者の言うことは聞くべき、という暗黙のルールの様なものがある。
なのでこの際、どっちが格上かをはっきり決めようって話になったというわけで。
そしてそれは結果として、俺の完勝に終わった。
俺は受けた全ての依頼を、完全かつ完璧にこなすことができた。
そう。まるで、
──う……でも……だって……。
──私の……それに魔術無しじゃ大した力になれないし……させてもらえないし……。
俺は、きっとその時、決定的に間違えてしまった。
俺はあいつの為の生活基盤を何とか作ろうと必死に考えていた。
しかし、あいつの立場を確立するための障害が、あの国には多すぎた。
何もかもが、思うように上手く進まず、あまりにも遅々としていた。
だから焦りの感情も、苛立ちも、少しはあったのだろう。
全部言い訳に過ぎない。俺が馬鹿だった。
結果的に、俺はあいつを問い詰めるような真似をしてしまった。
俺が弱かったから。俺が、頼りなかったから。
あの時の俺には、力が無かったから。
だが、だったらどうすれば正解だったのか。それは今でも、わからない。
もし仮に今の俺があの場にいたとして、いなくなるあいつを引き留めることができたのか。
それも……わからない。
だけど、それでも俺は。
また、あいつと共に居れたらと思っている。
だったら俺は、前の俺よりももっと、あいつに相応しい俺にならなきゃならない。
……あぁ、あいつ今、何をやってるんだろうな。
「……あのお兄ちゃん、どうかしたの?」
「アルってばホントさぁ……まぁほっといて君たちは、そう、綺麗な私!と、遊びましょーね!」
「わはー!」
「わーい!」
・・・
聖剣ちゃん(そわそわ)