勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん   作:Mckee ItoIto

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(魔女パート)

不穏な気配を感じておられる方もいらっしゃいますが、この物語は甘口です(当社比)


弟子が師匠のことを!まったく敬ってこない!

・・・

 

 

 

 帝国は魔術師の楽園である。

 とか言われてたり言われなかったりするのだけど、実際この国は魔術師を手厚く歓迎している。

 なので世界中から魔術師が集まってて魔術研究はかなり盛んに行われており、そして魔術研究の総本山である帝国魔術院は研究畑の魔術師にとって一度は足を踏み入れたい聖域なのだ。

 

 

 そんな帝国魔術院の朝は早い。

 

 

 ……ちょっと嘘です。盛ったというかサバ読みました。早いどころかめっちゃめちゃに徹夜してます。

 でも私だけじゃなくて周りの同僚もたびたび修羅場ってて徹夜してるから魔術院には定期的に亡者が集団発生するよ。楽園じゃなくて冥界かな?

 魔術師が足りなすぎて超少人数で基礎研究、応用研究、技術開発、実用開発、試験評価、保守改修まで一貫してやってるから時たま軽く人権が迷子なんだよ。

 元々忙しかったらしいけどなんか私がここ来てから忙しさがさらにマッハらしく、ちょっと申し訳ない気持ちもあるのだけど……諦めて。私はほとんど諦めてるから……。

 効率化のために色々な手法を導入したはずなのに、山積みの課題を大量消化できるようになった結果、逆に死ぬほど忙しくなるだなんて私も思ってなかったんだよ許して……。

 

 そんなこんな、魔術院大改革でやり方も色々変わって同僚たちもクソほど大変なはずなのに、みんな勉強熱心で凄いんだよね。

 院外秘になってる私の術式開発記録めっちゃ貸し出されてるし。そんで頭抱えてるのをよく見る。

 そんなん作った私に直接聞いて来ればちゃんと懇切丁寧に教えてあげるのに。いじっぱりな奴らめ。

 でも前に横から口出ししたらめっちゃ睨まれたから、こっちからは手助けしないようにしてるけど。いやごめんて。

 

 しっかしまあほんと、こういう開発記録って無いと後で困るけど、作るのって死ぬほど面白くないのよなぁ。

 開発は楽しいのに。皇帝様にも言われてるし作成義務があるから仕方なく作るけどさ……!

 

 あー、朝日が眩しい。ここしばらく全然寝てませんぞ。ガチで。

 まあ私には体力生成の魔術と疲労スタックの魔術があるから別に寝なくても平気なんだけどね。

 色々まだまだ考えておきたいことあるし、眠って頭をストップさせるのは時間が勿体無い。

 ほんと時間がいくらあっても足りないから、草木が寝静まっても私は寝れないのだ……。

 

 時間停止の魔術も開発中だけど、停止どころか現状では少し遅延させるのが精一杯だし。

 加速はいけたんだけどなぁ。ただでさえ時間ないのに減らしてどうするんだよって話。

 まあこれは、手応えはあるからあと1年くらい頑張ればいけるかな……。目標半年。

 

 ところで、クソ農業ギルド様からの要望追加で仕様変更になった農作業ゴーレムは、あのあと頑張って三日三晩で仕上げました。

 ムカついたけど納期には余裕あったから楽勝よ。ついでにこれでもかってくらいこんなこともあろうかと的な改良したったから、自己評価百点満点百万点。

 開墾機能とか害獣排除機能とか肥料生成機能とか諸々の他にも、共同作業のための自然言語対話機能とか、新しい作業のための自己学習機能とかいっぱい高度な機能を搭載してます。

 やりすぎて万能人型ゴーレムみたいな感じになってる気がするけど多分気のせい。農作業もちゃんとできるから、ヨシ!

 テスターが戸惑ってたけど、これならあらゆる仕様変更にも応えてくれるから文句ないやろ!!

 結局テストのOK出たんだしこれで突っ返してきたら連中しばき倒すからな!!!

 

 そんでもって皇帝様依頼の見守り使い魔くんは、よくよく考えたら現状でも要件を満たしてたので不要な機能をオミットして汎用化したのを超特急で納入したんだけど……。

 うーん……バージョン2.8の改修中に思ったんだけど、やっぱ3号開発しなきゃダメか? いまの2号の方式だと無理なのかも。

 弾かれないように調整しても一定範囲に入ると途端に通信が阻害されたから、こう、望遠方面に舵を切った方が良い気もしてきた。

 でもそれもそれで目標固定のためのサーチが弾かれる未来が見える、というか前にも実際弾かれてるし難しいか……くそ……無機物の分際でっ……!

 

 せめて一回くらい視認させろよ……声までとは言わないから……!

 あーもう、とりあえず行け! 見守り使い魔くん2号バージョン2.81っ!! with中継機くんっ!!!

 

「ししょーおはよーございまーす」

「……おはよう。お早いね、弟子」

「うわ、機嫌わる」

 

 実家が魔術院から近いからってので普通に帰宅して普通寝て普通に出勤してきた弟子を流し見。

 別に私は普通だが? ここ最近の平常運転だが? 地面スレスレ低空飛行だが?

 全然関係ないが、私は今日も研究室で朝日を見たぞ。弟子には関係ないが。

 

 あぁ、癒しがほしい。ほんと、切実に。

 一人で見る風景も、孤独に食べるご飯も、もうこりごりなんだよ。

 

「癒して」

「回復魔術ですか?」

「ちげぇよしばくぞ。魔術でいいなら自分でやっとるわちくしょー……!」

「もー、ちょっと冗談言っただけじゃないですか」

「うぅ……つらたん……」

「ほらほら差し入れですよ。元気だしてください。あと暇できたら術式のレビューお願いします」

「暇なんか一生できねぇよ……このお菓子うまっ」

 

 え、なにこれマカロン? よくわからんけどやば、めっちゃうま。

 あぁ……甘いものが身と心に沁みるなぁ……。

 ほんと帝国は嗜好品のクオリティが高いから最高だ……うんこ王国とは大違いだよ……。

 こいつの実家めっちゃ太いから度々こういう品質高いおこぼれが貰えて割と有難かったりするのだ。うまうま。

 

 ……いや、決してこっちから乞食なクレクレ催促してるわけじゃないぞ。

 だって別に私、お金はあるし。お高いお菓子も買おうと思えばいくらでも買えるし。

 でもなんかこいつがくれるっていうから貰ってるだけだから。餌付けなんかされてないから。

 

「で、なんだっけ? 術式レビュー?」

「はい、えっと、建築ギルドの依頼の掘削魔術ですね」

「暇じゃないけどやるよ、見せて」

「お手柔らかに……」

「はーい、いつも通り辛口でいきまーす」

 

 

 ……。

 

 

「……フッ」

「うっ……」

「75点、かな」

「あ、れ……意外と点数高い……?」

「とりあえずここ。分岐処理が少しだけ曖昧で暴発可能性が僅かに残ってる」

「え、あ、しまっ……」

「工事系の大規模魔術は安全性が最重要だから事故要因は確実に潰さないとダメ」

「すみません……えっと、他の部分は……?」

「……悪くはない、かな。特に掘削部分の出力調整はよく出来てる」

「やった、ありがとうございます……!」

「まあさっきのとこは凡ミスな見落とし臭くてクソだけど。ちゃんと修正しといて」

「ほんとすみません! そのクソな箇所すぐ修正してきます!!」

 

 お菓子置いとくんで食べてください! っと、弟子は嵐のように去っていく。

 なんかここ嵐みたいなやつ多くない?

 

 ほんと、自由で元気なやつだなぁ。

 家名も貰ってるでかい家の娘とは思えんのよ。

 

 

 エステル・ドゥ・ラ・リベルテ。

 

 

 議会にも席を持つ、帝国最大の商家の娘。箱入りでもおかしくないけど箱からの脱走常習犯。

 弟がいて家督を継ぐ意思を見せてるので、開き直って弟子はめっちゃ自由に生きている。

 そんで魔術大好き! なので何も考えずに憧れの魔術院にやってきたわけだ。ど素人の状態で。

 

 実際、その時の新人の中では弟子は底辺も底辺。

 ギリッギリで魔術院の試験を通過できる程度の、そこそこ魔術使える素人ってレベル。

 まあ他の新人が冒険者とか研究者とかの現役魔術師だから仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。

 

 でも私の下に残ったのはこの子だけだった。みんな他の研究室に逃げて行くか、辞めていった。

 現役の魔術師が誰一人ここに残らなかったのに、この子だけがすくすく育った。

 

 まあ、素直さの勝利ってやつかな。才能ももちろんあったけど。

 下手に実績があるとそれが拠り所になって、変なプライドという名の足枷になったりする。

 これが一定以上の成長にはほんと邪魔なんだ。負けん気みたいなのは大事だけどね。

 それでいえば、ほぼ真っ白な状態の弟子は私にとってほんと最高の新人だった。

 記述も構築も変な癖とか付いてないし、素質で言っても魔力量は十二分以上で、技術の吸収力も凄い。

 今となってはそこらへんの自称一流魔術師よりよっぽど上手いし強いといえるだろう。さすが私の弟子。

 まあこいつが凄すぎて、その後の新人へのハードルが爆上がりしちゃってるんですがね……。

 

 さっきだってもっと辛口にいくつもりだったのにあんなのくらいしかなかった。

 商人の娘だからか、思考は論理的だし、結果に真摯。無駄が少なく綺麗だし、効率的。

 たまーにあるケアレスミス以外は、私から見ても素晴らしいと言っていい。

 まあそこら辺のミスも経験を積めば減っていくだろう。

 これからもちゃんと学んでいけば、歴史に残る大魔術師として大成できるはずだ。

 そろそろ私がやるような仕事を回してやってもいいかもしれない。

 

 ああ、そういえばあいつ、アルも商人の息子だったっけか。

 あいつも魔術に興味持ってたし、教えたらいい感じに身についたかもしれないなぁ。

 

 ……いや、でも王国で魔術師目指すのは流石にちょっときついか。

 いくら王都周辺は比較的差別が少ないとはいえ、ろくな魔道具も流通してなかったし学習環境としては最悪だもんな。

 

 それに。あんなところで魔術なんか。万が一でも、私みたいな目には。

 

 

 

 

 

 

 

 ……いやだいやだ。癒しが足りないよ。

 

 ああ……あいつ、いま何やってるんだろうな。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

「そーいえばなんか冒険者ギルドから魔術院宛に依頼きてますねー」

「んー?」

 

 今日も弟子から差し入れが入ったのでコーヒーブレイク中。

 思考分割して作業もしてるけど、メインスレッドはいったん休憩だ。

 

 うーん、冒険者ギルドからか。なんだろ、また冒険用具関係かな。

 それでいえば新型保温袋をこないだ納品したけど、なんか追加要望でもあったとか?

 もしくは新作冒険用具の開発依頼かもしれない。欲しがりだからなぁ、冒険者ギルドは。

 

 それにしても。

 魔術院に来てからこういうのを開発し始めたけど、もっと早く作っとけばよかったかなーって少し後悔してるんだよね。

 あいつと別れるときに、いろいろ残してやればその後のあいつの冒険ももっと楽になっただろうなって。

 

 今のあいつ、私が作った道具、冒険で使えてるのかな。

 使ってくれてたら嬉しいな。

 

「んー……」

「いやお菓子食べ終わってからでいいですよ」

 

 それにしてもこのボーロみたいなお菓子うめぇ。

 でもちょっと口に含みすぎたな。こいつが美味すぎるのが悪い。

 

 ああ、今の私には甘味しか癒してくれるものがないのだ……。

 元から甘いものは好きだったけど、性別が変わってからは尚のこと美味い。

 味覚の変化を体感した身からすれば、女子のスイーツ好き比率の高さは納得だね。

 

 おかげでカロリーと血糖値がボンバーしてるけど、そんなん魔術でどうにでもなる!

 好き放題食べても体型にも健康には影響なし!! チート術式万歳!!!

 

 ……というか思ったけどこれ、割と高度な術式だから今は私くらいしか使えんが汎用化できたら凄い有用なのでは?

 これも開発スケジュールに……いやいや自ら仕事を増やすのも……でも医術院とかで使えるなら使えるようにした方が絶対いいよな……。

 どうしよう。まぁとりあえず脳内のやるかもしれないことリストに放り込んどくとして。

 

「んー、ん。なんだこれ。場所、帝国じゃないじゃん」

「ギルド経由の個人依頼ですね。依頼主が聖女見習いなので公的に近い感じですけど。場所は法国近くの遺跡で、内容は入口魔術鍵の開錠」

「修行クエストのヘルプって感じかな」

 

 とにかくここ最近、聖って文字にいい思い出がないので、一切この人とは関係ないけど全然モチベが湧かない。

 今日飛ばした2.9がダメだったら本格的に3号作らねば……。ぜってぇ負けねぇからな……!

 

「見た感じ魔族が使う古代暗号文字の魔法式だね。現物見ないと詳細はわからんけど、そんな大したことはない感じ」

「この雰囲気ならたぶん、ししょーの部屋の鍵の方が強固ですよねー」

「そうだね。てか魔術練習で人のプライベートルーム開けようとするのやめようね?」

「さいきん結構、良さげな感じの手応えが……」

「やめようね!?」

 

 もはやほぼ我が家といってもいい、この研究室には私の私室もある。

 そんでもって、ここにはちょっと人にはお見せできないものとかあって、ちょっと人にはお見せできないことしてるので結構がっつり鍵をかけてるのだけど……え……手応えあるの……?

 恐ろしい子。誰だよこいつ育てたやつ。私だったわ。レベルアップ早すぎてちょっとビビるわ。

 

 こわ……セキュリティ更新しとこ……。

 

 いや、いつでもかかってこい的なことは言った記憶あるけど、そういう意味じゃないんだが……?

 なんか思い描いてた師匠と弟子の関係と違う気がするっ……! 別にいいんだけどさっ……!

 

「まあとりあえず、私はパスかな……」

「この形式だと全体像が必要だから、現地行かないとですもんね」

「ゴリ押しもイケるけど崩壊対策必須だし、どのみち現地だね。私はちょっと流石にいま他国に出向ける暇は無いわ」

「……じゃあ、他の研究室に順番に回してきますね」

「ん」

 

 ……いやどうだろ。大したことないとは言ったけど、この手のタイプは専門外だときついかも。上級の魔術師でも解析系と精密調整が苦手だったら厳しいかもしれない。

 魔術院長とか副院長クラスなら余裕。他の同僚たちだと、まあ半数以上はいけるだろうか。一応ここは魔術の最高峰。専門分野なら上級冒険者と比べても引けを取らない優秀な実力者がごろごろいるのだから。 

 なんだったら弟子も楽勝だろうね。技術力だけならここでも上位クラスはあるし。

 

 うーん……そうだな。

 

「ちょい、エステル?」

「はい?」

「いま大した依頼持ってないでしょ?」

「そーですね。こないだのが納入完了したので評価が来るまでは自主研究に当てようかと」

「じゃあこれ、やってみる?」

「……いいんですか?」

「いや、というか興味あるんでしょ? 他より真っ先にここに持ってきたってことはさ」

「えー、えーと……えへへ……」

「他国の調査も兼ねて行っておいでよ。前の依頼の最終報告書は私が作っといてあげる」

「え? 開発過程とか……あ、いや愚問でしたね。お願いしてもいいでしょうか?」

「どんと師匠に任せんしゃい」

「やった! ありがとうございます! お願いします!」

 

 それなりに手頃っぽい依頼だし、これは弟子の経験値になってもらおう。

 ついでに私たちの開発製品がどんな感じで使われてるかの実地調査もしてもらう感じで。

 

「あ、お礼にししょー、これ実家の新発売のお菓子です!」

 

 ……いや、あのさ。ちょっと弟子よ。

 気のせいかもしれんが私のこと近所のガキかなんかだと思ってないか?

 ちゃんと敬ってる? 私、ユーの師匠よ? お菓子で毎回喜ぶと思ったら大間違いなんやぞ?

 

 

 あ、このチョコっぽいの、うまっ……。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 弟子の依頼評価が思ったより早く来たので最終報告はサクッと消化した。オールオッケーです。

 魔術鍵開錠の依頼人が帝国に来て弟子と会うのが来週なのでまだ弟子いるんだけど、私がやるって言ったんだから言葉通りにやっといたのだ。

 まあちょっぴり複雑な気持ちにはなったけど。ていうかなんか私の時より依頼評価返ってくるの早くない?

 こちとら下手しなくても半月以上かかってるんだが。なんだ品質には問題ないだろ。何にそんな時間かかってるんだ。

 

 で、とりあえず私も急ぎじゃない仕事はともかくとして、急ぎの仕事は全部相手待ちなので息抜きの開発中。

 思考分割して、あいつの足取りを追う見守り使い魔くん2号バージョン2.91の動向をウォッチしつつ。

 やっぱり必要だと思ったので3号の開発のための理論構築と試作も進めつつ。

 そしてここ最近のマイトレンドに取り掛かるため、私室に籠ることにする。

 

 いやね、思ったんだよ。

 

 もう二ヶ月近く供給がない。甘いものだけでは精神の癒しが足りない。

 まだ大丈夫だけどこのままだと、多分近いうちに耐えきれなくなってダメになる。

 じゃあ、供給がないならいっそのこともう自給自足しようかなと思い立ったのが、半月ほど前。

 

 

 

 

 

 そしてここにあるのが、ついに完成した、アル人形バージョン1.0です。

 

 

 

 

 

 えっと、うん……。まあなんていうかね。私も最初は思ったよ?

 流石にこれはちょっと良くないダメな方向に向かっちゃってるなって。一線、超えちゃってない?

 というか前々から若干というかちょっとというか、普通に私ってやばいんじゃないかなって薄々思ってたけどね?

 

 でも、私はもう、私のことを客観視することは、やめることにしたのだっ……!

 もう我慢しない……やりたいことを……やるのだっ……!!

 

 さて。そんなわけで、この人形、というかゴーレムには私の持てる技術の粋を尽くしてある。

 外装はほぼ人間。感触も可能な限り人間に近づけてあり、エネルギー生成も全身に分散しているので熱放出によりどこを触れても人肌の温度を感じられる。

 外見も記憶を大量に脳みそから引っ張り出して構築したので、どの角度から見ても完全再現といっていい。

 特にこの筋肉の張りとか、めっちゃ良くない? 再現度高すぎて我ながら少し引くけど最高だわ。

 

 ……まあ見たことない部分は想像なんだけど、多分こんな感じだろ。

 

 やるからには完璧を目指したので、もちろん自然言語対話機能と自己学習機能もつけてる。

 会話の学習データも記憶から大量にぶち込んでるので、いい具合に対話もできるはず。

 あと、エネルギー生成用に有機物の擬似消化機能もつけてるので食事だってできる。

 そして食ってから不要になったもんはもちろん人間と同じように出せます。まさに、ほぼ人間!

 

 ちなみにちょっと前の農作業ゴーレムくんにはこの人形の開発技術をめっちゃ流用してます。

 いやぁ、経験が活かされてるねぇ! 我ながら技術を無駄にしない魔術師の鑑だよ!

 変なテンションで作っちゃったから見た目も8割方人間ぽくなっちゃったけど、外装指定なかったしええやん?

 美少女にしたったし農業ギルドの男どもも嬉しいやろ? おん!? ところで依頼評価まだ来ないんですかねぇ!!?

 

 

 

 そんなことはさておき、さて、さて。早速、起動を……。

 

 ……それにしても今のこの構図、まるで目を閉じて立ってる勇者とそれを見上げる魔女って感じだよね。

 はたから見たら割と絵になってないかな。

 

 割とこいつイケメンだし、勇者っぽい精悍な顔つきしてる。

 私は言わずもがなの美少女だから、これがゲームならイベントスチル間違いなし。

 

 ……いやなんか改まってこいつの顔を見てたら、ちょっと恥ずかしくなってきたな。

 

 どうしよ。今、無性にドキドキしてるんだけど……。

 外装構築中も服着せるときも、何とも思わなかったのに……。

 そう、何も思ってないけど、なんかちょっと変な感じだったからそれは少し薄目でやりましたよ。

 

 ええ、はい、大丈夫です、そう、大丈夫、大丈夫……。

 

 えーっと……いきなり機能全開だと私の情緒が壊れる可能性があるので、レベル1から……。

 

 

 

 目が開く。目が合う。

 ひぇっ……。

 

 

 

「……クー?」

 

 

 

 ……っ、大丈夫だ、意外と耐えられた。

 

 

「……おはよう、アル。ご飯できてるよ」

「あー……わりぃ。寝過ごしたな、ありがとう」

 

 

 ……。

 

 

 ふっ……、ふっふー……。

 

 

 いや解像度たけぇな。流石私だ。天才すぎる。

 大丈夫か? いま美少女フェイス維持できてる? 大丈夫、ヨシ!!

 

 ダメだぞ、今の私を客観的に見たら色んな意味で絶対やばいからそんなことはしない!

 

 そうだ、もう、私は我慢しないんだ……! やりたいことを、やるんだ……!

 今日は仕事しない! 知らん! 頑張れ未来の私!

 

 ……いや流石に緊急用のチャンネルは開けとくけど。

 でも何がなんでも今日やらないといけない緊急事態以外は、絶対にやりませんっ……!!

 

 

 ……。

 

 

 うへへ……。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 あー……やっぱダメだわ。

 

「どうした?」

「なんでもない」

「……大丈夫か?」

「なんでもないって」

 

 完璧、なんだけどなぁ。

 声も、言葉も、見た目も、仕草も、表情も、動きも。

 記憶にないことだって、あいつはこんな感じなんだろうって全部納得できるのに。

 私の期待に全部応えてくれるはず、なのに。

 

 ふと思っちゃったんだ。

 

 

 やっぱこれ、()()()()って。

 

 

 これは決してあいつではない。本物に限りなく近いだけの偽物。

 こいつが本物に近ければ近いほど、むしろ本物の存在が際立ってしまう。

 

 何が天才なんだか。ぜんぜんダメだよ。バカみたい。

 成果は決して無駄ではなかったと思うけど、なんだかすごく虚しくなっちゃった。

 

 あーあ……なんであの時、離れちゃったんだろうな。

 ほんと、バカじゃん。過去に戻れたらいいのに。

 

 はぁ……。

 これならいっそ、自動化されてない本当の人形にした方が良かったのかもしれない。

 

 こいつが悪いわけじゃないんだけど、ね。ごめんよ。

 

 

「ありがと。もういいよ」

「……そっか。俺じゃ、やっぱりダメか」

「いやほんと……解像度高いなぁ。ごめんね」

「悪い、代わりになれなくて。本物に会ったらよろしく言っといてくれ」

 

 うん。いや、君の存在はちょっと色々な意味で話せないけど……。

 そうだね。本当のあいつに会うためにこれからもっと頑張るよ。

 

 

──カチャリ。

 

 

 あぁ。あいつ、いま何やってるんだろな……。

 

 

「アル……」

 

 

「……」

 

 

 ……。

 

 

 ……片付ける前に、ちょっと名残惜しいので、ぎゅっと、

 

 

 

 

「……あ、開いた。ししょー?」

「『次元収容』」

 

 

 証拠、隠滅ッ……!!

 

 

 間に合った? 間に合ったよね?

 あっぶね、気を抜いてただでさえ存在するか怪しい師匠ポイントを暴落させるとこだった……。

 というか勢いで開発中のアイテムボックスにぶち込んだけど人形壊れてないかな……。

 正直、あるのかないのかわからん私の尊厳よりこっちのが大事なんだけど……。

 

 というか、え、この弟子まじやばくない?

 更新したセキュリティ、たった一日で突破したの? マジで?

 天然チートじゃん。だれだよこいつ育てたやつ。私だったわ。

 

 鍵更新したけどやるなよ? まぁやれねぇだろうけどな! って煽ったのがよくなかったか……。

 過小評価してるつもりはなかったけど、正直まだナメてたわ。自業自得すぎる。

 

「よくぞやった。流石は私の弟子だ……」

「えっと……ありがとうございます?」

「褒美に模擬戦でボコボコにしてしんぜよう……」

「怒ってます……?」

「……怒ってないよ?」

「お菓子食べます?」

「食べる」

 

 

 まあまあ。なんだかんだ開発のモチベも上がったし、いいか。

 

 

 さって、今日も一日頑張るぞい!!

 

 

・・・

 

 

 あれが、ししょーの……? 

 

 

・・・




聖剣ちゃん「最近目標指定系の魔術がえげつなく飛んでくるけど、こんなん間違いなく攻撃の予兆やろ。絶対に通さんよ!」




(明るいラブコメディです)(3回目)
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