勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん   作:Mckee ItoIto

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(魔女パート)

 どこからどう見てもメインヒロイン(迫真)


私は勇者のことが気になって仕方ない魔女さん

・・・

 

 

 

 

 

 そう。

 

 

 そうだ。

 

 

 絶対に忘れてはならないのだから。

 

 

 断じて忘れたわけではない。

 

 

 

 

 罪が火種に。罰が炎に。

 すなわち咎人そのものが災いの種ならば。

 

 それは想定できた当然の結末。

 斯くあるべきと定められた必然の運命。

 

 目を背けても。意識を逸らしても。

 過去は、いつまでも消えず存在するのだから。

 

 原因に依って結果を辿り、刑罰を以て害悪に報いる。

 その粛清はただ、過ちを正すために降り注ぐ。

 それは、その周囲もろとも。

 

 

 

 

 

 

 そうだ。

 

 かつて、この指先の愚かな過ちが。

 善良であるはずの仲間を地獄に落とした。

 

 それは、未必の故意。僅かな妬み。無意識の呪い。隠れた望み。

 それを、完全に否定など、少しも認めないなど、出来るはずがない。

 

 行為には責任が、罪には償う義務がある。

 ならば必ず対価は支払われなければならない。

 清算を済ますことなく終わることなど許されない。

 

 

 

 

 

 

 そうだ。

 

 だからこそ、全てが狂ったんだ。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんなこと、絶対に有り得てはならなかったのに。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 そうだ。

 

 ああ、そうだよ。そういうことだ。

 不運でも何でもない。地獄を生んだのは他でもない。

 

 生まれたことが過ちなのだから、正された。それだけに過ぎない。

 正しく、生まれた罪に相応しい地獄が生み出された。

 

 やり直せる。そんな機会が与えられた。

 そんな浮かれきった傲慢な思いが、逆罰を呼び寄せた。

 

 そういうこと。

 

 

 

 

 

 

 そうだ。

 

 全ては、周りを巻き込んだ、最低で極悪の、自業自得だ。

 お前のせいだ。他の誰も悪くなどない。お前だけの責任だ。

 

 お前が全てを奪った。お前が何もかもを壊したんだ。

 

 

 お前のせいだ。だから絶対に忘れるな。お前の罪を。

 

 

 

 お前のせいだ。お前なんか、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──いや違う!

 

 

 

 

──お前だけが全部背負う必要なんか! どこにも無いんだ!!

 

──俺はお前がしたこと、何も知らないけどっ……!

 

──お前はどうにかしようと頑張ってた! そうだろ!?

 

 

 

──だったら俺はお前を許してやる!!

 

──お前は全力で頑張ったんだって、俺が認めてやる!!

 

 

 

──俺はお前を! 丸ごと全部信じてる!

 

──だから! お前がお前を許せなくても!!

 

 

 

──いつか許せるようになる、その日まで!!

 

──ずっとそばに! 一緒にいてやる!!

 

 

 

──お前は生きてて大丈夫なんだ!!

 

──だから! お願いだから!!

 

 

 

 

 

──俺と一緒に!! この先も生きてくれ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あぁ、どうなんだろうな。

 

 私が(わたし)を許せる日が、来るのだろうか。本当に?

 

 分からない。生きてていい理由が、どうしても自分の中に見つからなかった。

 だけど、あいつが生きろと言ったから、こうして今は生きている。

 分からないものをそのままに、分からないままにして。

 

 あぁ、本当に自分らしくない。

 あいつといると、自分が自分じゃなくなる気がする。

 

 ただ一緒にいてもらえると言ってくれた。

 それが、自分でも訳が分からないくらい嬉しかった。

 

 それはなんだか心地よく、今まで感じたことの無いような不思議な感覚。

 だから、それもいいのかもしれないと、少しは思えた。

 

 

 

 

 ……だけども。

 

 少しの間あいつと過ごして、ふと、思った。

 あいつの何の根拠もない、意味の分からない信頼が、何だか急に怖くなったんだ。

 

 私はあいつから故郷を奪ったというのに。

 あいつがいつか帰るかもしれなかった場所を壊したというのに。

 

 わからない。なぜ?

 あいつにとって、私の価値ってなんだ?

 

 あいつが私に何を望んでいるのか、どれだけ考えても何も分からなくて。

 

 だから私はあいつから、逃げ出した。

 もっともらしい屁理屈を捏ねて。

 

 

 

 

 そうだ。全部ただの言い訳だ。

 結局のところ、私があいつを信じ切れなかったってだけ。

 なんでこんなのと一緒にいてもらえるのか、全然分からなかったから。

 

 分からなくて、いつかあいつに捨てられてしまうのが怖かったから。

 考えたくもなかったから、いっそ自分から手放した。

 

 そういうこと。

 

 あの時は、これが正しい理屈で、正しい選択だと思った。思い込んでた。

 だけど、改めて考えると、それはきっと、そういうことだったんだろう。

 

 あぁ、ほんとに。

 役立たずで愚か極まりない、馬鹿な男だ。

 

 

 

 

 ……いや、元男か。

 どっちにしろ意味ないけどな。元男のくせに男心、何も分かんないし。

 

 男としての経験も知識も、何の役にも立たなかったから。

 そんなのあったところで、あいつが望むことなど、何一つ分からなかったから。

 

 かといって、完全な女にもなれない。

 女らしくなんて、元々が男だったのだから分かるわけがない。

 

 それでも……ちょっとずつ変えていこうとした。

 何となく、あいつのそばにいて、そうしたいと思ってしまったから。

 もっと近づきたくて、男同士の関係に満足できなくなってしまったから。

 

 仕草や話し方。

 自然と変わっていったもの。

 自分で恐る恐る変えていったもの。

 

 表情はいつの間にか上手く動かせなくなってたけど。

 それ以外のことを、少しずつ、少しでも女らしく。

 

 

 

 

 

 でもそんなこと、自分が思う自分の気持ち悪さに拍車を掛けるだけだった。

 

 女に生まれた癖に中身は男。おまけに前世なんてものまでついてきている。

 だから、女で子供の自分なんてものが認められなくて、男の大人として生きようとしてきた。

 

 

 なのにいまさら、少女のように振る舞おうとしている。

 これまで庇護してずっと下に見てきた、あいつのために?

 

 

 なんだこれは。気持ち悪い。

 

 

 笑えるくらいに、何もかもが中途半端で薄汚い、滑稽な存在だ。

 こんなの、本当にまったくもって、あいつに相応しくない。

 

 そんな分かり切っていることを再認識するばかり。

 

 それにあいつは、私に女を求めなかった。

 だからそもそもそういう努力も間違っていたのかもしれない。

 

 

 だとしたら、あいつの隣にいる資格は、他に私のどこにある?

 

 

 もしかしたら、無いのかもしれない。

 いや、わかってる。私にはそんな資格、無いんだ。

 

 

 

 

 なのに。

 

 私にそんな資格ないのに。

 分かっているのに。間違ってるのに。

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 俺を、私にした、あいつのことが。

 

 

 

 

 だから、どうしても資格が欲しい。

 あいつのそばにいても許される、そんな資格。

 

 あいつのそばに居たいなら、絶対に手に入れなきゃいけないから。

 あいつに相応しく、正しくあるために、正当な手段で。

 

 

 それがいったい何なのか、分からないけど。

 分からないことは、怖いことだけど。

 

 

 怖くても知らなきゃいけないけど……。

 

 

 

 

 

 ……怖い。本当にそんな物が、この世界にあるのだろうか。

 

 

 隅から隅まで調べても探しても、そんなもの、本当はどこにも無かったら?

 

 

 いったい『私』は……どうしたらいい……?

 

 

 

 

 

 ……あぁ。あいつ、いま何をやってるんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(はーい、病み病みな私ちゃんは心の奥にしまっちゃおうねぇ)

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 外界から遮断された、結界の内部。

 魔力光にのみ照らされる、静謐の薄暗闇。

 

 何が起きたのか状況が呑みこめてない様子の、上位聖職者の少女。

 私が発動したのは禁忌術式実験に使うための、隔離用の結界。

 

 私でも手順を踏むことなく強引に破壊することは難しい、断絶の障壁に囲まれた空間。

 世界を隔ててありとあらゆる干渉を遮断する、完璧に閉ざされた完全なる密室。

 

 それがこの、『隔絶領域』という術式世界。

 

 そう。ここはかつての私が、私自身を隔離するために用意した、絶対的な牢獄でもある。

 

 

 

 

 

 ……うん、おーけー。

 

 大丈夫。大丈夫だ。

 私は冷静。論理的。合理的。

 

 これは弟子にも口酸っぱく言ってきたことでもある。

 魔術師たるもの、いつも常にクールたれと。

 

 

 そう、大丈夫っ!

 私はいつも通りのパーフェクトガールな魔女さんさっ!

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……まぁ、とはいえ、だ。

 

 この子のこと、正直舐めてたわ。いやはやまさかね。

 油断大敵だ。大幅に上方修正しないと。

 

 

 

 

 

 

「……強き肉体を。『強健の奇跡(Roboratio Corporis)』」

 

 

 

 

 目の前の少女が呟く。

 しかし、()()()()()()()

 

 

 

 

「やっぱり……」

 

「さて、と。早速だけど」 

 

「っ……! 『混信濃霧』『消音』『身体強化』!」

 

 

 

 早い。

 せっかちちゃんというか、なんというか。

 持ってた杖をちょっと差し向けたら一瞬で離れてった。ご丁寧に妨害用の術式までばら撒いて。

 

 しっかしまぁ、さっき見たのもそうだったけど中々の術式精度だ。正直、褒めるに値する。

 さっきまでずいぶんうろたえてるように見えてたけど、もう立ち直ったのかな。

 見た目の割に、プロフェッショナルなんだね。

 

 

 ……というかどうにも、この子は荒事に長けている雰囲気を強く感じる。

 それも、魔物相手というより、対人に特化した動きのような。

 

 

 うん。

 もしかしたら教会の……そういう実働部隊みたいなところに所属しているのかもしれないね。

 

 

 こんなにも、小さな子供が。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 ……なーんて、あんまし甘いことも言ってられないわな。

 

 この子も幼くは見えるけど、だいたい13、14歳くらいだろう。

 冒険者でもそれくらいの年齢の子供はそれほど珍しくもない。定着するかはさておき。

 

 特に帝国の冒険者ギルドなんかは実力主義の傾向が強いから、有能であれば低年齢でも中級や上級に昇格したりもする。

 当然、滅多にはいないが。

 

 まぁ王国とかは割と年功序列が強そうだったけどね。

 あとは例えば貴族の末っ子とかの箔付け昇格とかも多かった感じ。

 その分ちゃんと頑張ってるあいつが中々報われなかったりしてて、やっぱり王国 is クソだなと。

 

 まぁなんだかんだ昇格の話もあったみたいだし、ちゃんと見る目のある人もいたにはいたんだけど、ね。

 結局それも私が居たせいでなんやかんや滞っちゃってたみたいだから……ホントままならないよね……。

 

 

 ……それはさておき。

 教会でも有能であれば、実力を必要とする部署に取り立てられることが、当然あっておかしくない。

 

 教会はとても大きな組織だ。

 巨大組織が綺麗事だけで回らないことは、私も帝国の表や裏で仕事してきて、多少は理解している。

 

 

 たとえ大衆の倫理にそぐわないのだとしても。

 正当な理念のもと行われる"ソレ"は、必要なことに違いないのだろう。

 

 

 冷静に、論理的に、合理的に、成るべくして為すべきを為す。

 この黒髪ちゃんもきっと、そうした意思のもとで動いている。

 

 

 

 

 

「降り注ぐ天罰をっ! 『天雹の奇跡(Grando Magna)』っ……!」

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()

 

 

 

 ……あ、いや、フェイントか。

 宣言を省略した魔術により、私の背後から重苦しい冷気の霧が急激に迫ってきてた。

 行動阻害系の構成。凍り付かせて相手を縛る『氷縛』を、薄めて拡散した感じのアレンジ術式かな。

 

 一応この子には今のところ、私を直接的に害するような意思は感じない。

 敵意はバリバリ感じるけど、様子見の牽制に終始している感じ。

 

 

 ま、それもこれも無駄なんだけど。

 

 そこそこの術式構成密度ではあるものの、どれもセキュリティが甘い。

 これが弟子ならお説教ものだ。

 

 

 

 そいじゃま。

 杖をくるりん、いんたーせぷと、ってね。

 

 

──『術式破壊』

 

 

 

「……!?」

 

 

 

 術式を構成する魔力が強引に解かれ、キラキラと引き千切られた魔力の残滓が散る。

 

 ちなみに杖を回したのにはこれといって特に意味はない。

 そもそもこの杖、試験受けるために用意した見た目用のお飾り装備だし。

 

 さてさて……じゃあ適当に無力化してそろそろお話を、

 

 

 

 ……ってあっぶな。霧に紛れてなんか針みたいなんが飛んできてたわ。

 

 サラッと解析してみたけど、麻痺系の毒針? 暗器ってやつ? 物騒だなぁ。

 身体強化してたから反射的に持ってた杖で弾いちゃったんだけど、障壁系の術式使った方が良かったかも。

 

 

 ……んーまぁいいや。別に問題ないか。

 

 とりあえずこれは意趣返し、というには別に恨みも無いのだが。

 ちょっとしたお返しというか、分からせてあげる。

 

 本物の魔術とはこういうものだと教えてあげよう。お手本ってやつね。

 

 

 

──『氷縛』

 

 

 

 冷気が迸り、一瞬で氷の枷を作る。

 

 私の術式はゴリゴリに暗号化されてるからそう簡単には解除できない。

 暴れないように相手の手足を氷でしっかりと縛ってから、そのまま目の前に転移する。

 

 

 まぁね、私も別にこの子をどうこうしたいわけではない。そもそも敵じゃないし?

 敵意に満ちた少女を宥めるように、出来るだけ穏やかな声で問いかけてあげる。

 

 

 大丈夫大丈夫。私、怒ってないよ。

 ちょっと聞き捨てならないことがあったから、いくつか聞きたいことがあるってだけ。

 

 それじゃあ……お話しようか?

 

 

 

 

 

 

「抵抗しても無駄。大人しく知ってることを教えてもらう」

 

 

 

 

 

 

 あれ、なんかめっちゃ睨まれた。なんで?

 

 

 

 

 

 

 そして、一瞬の静寂。

 

 

「私は! 何もしゃべらないんだからっ……!」

 

 

 そして氷に縛られながら、まるでこれから拷問を受ける捕虜かのように叫びもがく黒髪ちゃん。

 

 ていうかなんでそんな、"くっ、ころせ……!"みたいな顔してるん……??

 

 いやいや殺さないよ、殺さないって。流石に国際問題になりそうだし。

 そんなことしたら絶対怒られるじゃん。やだよ怒られるの。

 

 冷静かつ合理的かつ論理的に考えて、それは今やるべきことではない。

 私は理性的な魔女さんなのでそこら辺の判断はちゃんとしてる。と思う。うん。

 

 もはや意味も無く神力を放出してる黒髪ちゃんに対し、安心させるように笑いかけてあげる。

 まぁ私の表情筋、ほぼ死滅してるので多分微妙に口角が上がるくらいの変化しかないけど。

 

 よぉし、これがプライスレスのスーパー魔女さんスマイルだっ!

 

 ……ニコッ!

 

 

 

「っ……!? 何をする気っ……!!」

 

 

 

 いや、おい、なんでや。美少女の素敵な笑顔やったろ。

 なんでそんなヤバいもん見たみたいなテンションになるねん。

 

 ていうか、さっきから神力の出力を上げて何とかしてパスを作ろうとしてるみたいだけど?

 全部無駄なんだよなぁ。

 

 本人も薄々気付いてるんだろうけど、ぶっちゃけピカピカ光ってキレイだなっていう以外の意味がない。

 

 

 

 ……あぁ、そうそう。

 神力についてちょっと補足だ。

 これ単体だと属性的には光の魔力とあんま変わらないって話があったと思うけど。

 

 これは要するに、神力イコール光のイメージがあるから光属性として神力が作用してるってこと。

 無意識にその人が使いたい魔力属性に変化してる、って言ってもいいかもしれない。

 

 例えば帝国教会の人たちも使ってる『聖光の祈り』っていうのがある。

 これは神力しか使ってないんだけど、実のところ魔術的に見ると『光球』と構造的にはほぼ同一だったりする。

 

 つまりやってること自体は魔術と大して変わらない。

 普通に使う分には、魔力を使うのと変わりは無いと言ってもいいわけだ。

 

 じゃあ、神力と魔力といったい何が違うのか。

 

 

 

 

 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にある。

 

 

 

 

 より正確に言うと神力は、聖職者が持つ女神の力の欠片と女神本体との間に、接続を確立させることが出来る。

 そして聖職者はそれを使って、女神と直接的な力のやり取りをすることが出来る。

 

 つまりこれが何を意味するかっていうと。

 

 

 

 

 資格ある聖職者は一時的に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ということになるわけ。

 

 

 

 

 言うなれば聖職者は、この世界のトラブルシューターとでも呼べるかもしれない。

 聖職者が女神に世界の異常を報告して、女神がそれを修正するための奇跡を聖職者に発現させる。

 

 その力の規模は聖職者の"女神の力の欠片"の強さによる……らしい。

 正直、研究に少し付き合ってくれた帝国教会の人たちの力の欠片はショボかったのでまだ分からないことも多いけど。

 

 とはいえ、だ。

 いくらショボくても、その力はこの世界の創造主たる女神の力。

 

 つまり、奇跡とはまさしく神の意思だ。

 被造物が創造主の意思に逆らうことは許されていない。

 

 

 

 

 故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 まぁ基本的に、と頭に付くけど。

 

 魔術が過程を積み重ねて結果をもたらすのであれば。

 奇跡は結果を決めて過程を作り出す。

 

 だからはっきり言おう。奇跡とは文字通りのチートなのだ。

 チートというか、デバッグコマンドと言ってもいい。

 普通だったら使えちゃいけない裏技的なやつ。

 

 女神から許可が下りれば、世界はそれに従い、どんな奇跡だって必ず起こす。

 ということ。

 

 この話で、何が言いたいのかというとなんだけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(私なんか……)

 

(ごめんなさいごめんなさい)

 

(はは……ははは……)

 

 

 

 はい、バッチリ食らってますね。最初の精神汚染。

 

 

 いやはやホント、そこら辺の木っ端聖職者ならともかく上位聖職者の奇跡ってヤバいわ。マジでズルい。

 上位魔族とかが使うチャームとかの対策で精神干渉系の防御術式はもちろん使ってるんだけど、ほぼ意味無かったからね……。

 

 まぁ、とはいえ私はほぼ常時思考分割でそういうメンタル的な部分はダメージコントロールしてますので?

 ちょっとばかし表の方にいた私ちゃんズが犠牲になったけど、実質ノーダメと言ってもいいだろう。うん。

 

 ……。実は結構焦ったのは秘密だ。

 

 いったい何のために使われたどんな奇跡なのかは実際よく分からんけど、まぁ私に対しての探りみたいなもんだろう。

 私のパーフェクトな一般参加村娘の変装を看破して追及しようとしたわけだよね、たぶん。

 

 でも私、どこもおかしくなかったと思うんだけどなぁ……。

 

 まぁ別に、正体がバレてもそこまで困らないんだけどさ。

 何なら試験の評価に加点してもいいくらいなんだが。

 

 

 

 それはともかく、ただ、ちょっと、ね。

 色々聞きたいことあるけど、そんなかでも特に聞き捨てならないセリフがあったので。

 

 ちょっとね。

 

 うん、ちょっと。流石に問いたださないわけにもいかないので。

 

 

 で、お話するうえでいちいちそんな精神汚染食らってたら文字通り話にならない。

 じゃあどうするって話。

 

 その答えが、今のこの状況である。というわけ。

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 そう。いくら神の力とはいえ、抜け道はあるのだ。

 

 例えばこうして隔離用結界で世界領域からの干渉を遮断してしまえば、通信は途絶してしまう。

 非常に複雑な低層での構築が必要ではあるものの、それは決して不可能なことではない。

 たったそれだけで、無効化できる。

 

 

 

 だから、いくら祈ったところで、その祈りは届かない。

 

 神の言葉さえ届かない暗闇に、奇跡など起こり得ないのだから。

 

 

 

 

 ……まぁ。

 こういったら不敬というか異端扱いされそうだから決して口には出さないけど。

 

 はっきり言って全知全能には程遠い。

 

 そもそも代行者を必要としてる時点で、逆説的に神の力には限界があることを示している。

 現にこうして対処することもできてしまうのだから。

 

 まだまだ分からないことも多いけど、その力も手の届かないほどの高みにあるわけでもない。

 

 神秘を暴き現象を定義し、再現を以て技術とする。

 そう、これぞまさしく人間の力ってね。

 

 

 

 

 

 

 

(……はは、人間?)

 

(神に近づきすぎた存在を何ていう?)

 

(超越者、逸脱者、怪物、化け物、妖怪、あやかし、悪魔、……魔神)

 

(古今東西、少なくとも"人間"とは見なされないだろ)

 

(何が人間。傑作だな。笑える)

 

 

 

 おいうるせぇな、屁理屈捏ねてんじゃねぇよ病み私ども。思考権限剥奪して仕舞うぞ。

 私はただの人間の魔女さんだっつーの。

 

 あいつに色々言われて、私が私自身をそう定義したんだろ。

 鬱やら精神汚染ごときでいちいちブレんなや。

 

 あーもうくっそ、ホントあいつ成分が足りないな……。

 

 

 

 ……まぁいいや。

 

 こんなとこで、そんなわけで、だ。 

 こうなったら本来、聖職者として詰みと言っていい状況になる。

 

 たぶんだけど、魔王が使う『魔界』ってやつも、似たようなコンセプトなんだろう。

 きっと魔王的には、女神以外は敵ではないとか考えてたりして、自分の領域として世界を作る必要があった。

 

 だから、聖剣以外では絶対に倒すことが出来なかった。

 

 多分、聖剣はスタンドアローンな神秘で出来ているだろうから。

 女神とパスをつながなくてもその場で奇跡を起こせる物質。

 そんな文字通り規格外の、意思を持つ巨大な女神の欠片そのもの。

 

 それが聖剣。

 

 

 ……いや、わからんけど。実物見たことないし。

 

 一応、そんな仮説を立ててはいる。

 多分そう遠からずじゃないかな。

 

 

 

 話が逸れた。本筋に戻そう。

 

 黒髪ちゃんは結構魔術も使えたから、若干めんどかったけど。

 やっとこれでお話できるね。

 

 ……。

 

 

 

「えっと……」

 

「っ……!」

「あの、その……」

 

「…………、……?」

「ちょっと……聞きたいというか……教えて欲しい……のだけど……」

 

「……??」

 

 

 なんだこれ、我ながら歯切れ悪すぎワロタ。

 いや、はよ聞けや。さっさと事実を認めろ。

 

 大体何となく、わかってるはわかってる。

 だから、ちゃんと現実を直視しろよなっ……。

 

 

 

 

 

「……あいつ、帝国来てたの?」

 

「あいつ……?」

 

 

 

 

 

 え、なんか思ってたんと違う、みたいな拍子抜けした顔された。

 

 いや、だってこれ、個人的に絶対聞き捨てならないじゃん。

 ずっと探してたのにすぐ近くに来てたとか超アホみたいじゃん私……。

 

 うぐぐ……。

 

 

 

「……誰のこと?」

「勇者」

 

「あなたと何の関係が……?」

「教えて」

 

 

 なんか不思議なくらい、黒髪ちゃんは大人しくなってくれた。

 もうたぶん大丈夫だと思うので、拘束も解いてあげる。

 

 まぁ、また暴れたら捕まえればいいだけの話だし。

 それはそれでちょっと面倒だけど、大して問題は無い。

 

 

 

「……」

「……」

 

「……」

「……」

 

 

「……先に聞いたのはこっちなんだから先に答えてよ。あなた、何?」

 

 

 

 ……たしかに。

 

 

 ……たらばがに?(意味不明)

 

 

 あ、いやなんか、いきなりヤバいの食らったから条件反射で術式展開しちゃったけど、たしかにそうだ。

 正論を食らって思考がちょっぴり電波ってしまった。

 

 だからえっと、そうだな……。

 試験に影響の無い範囲でなら少しは答えてあげてもいいかな?

 

 

 

「えっと……今はアル」

「今は? 今は試験中だから、試験が終わったら違うってことなの?」

 

「え……、いや、う……私はただの村娘のアルで……」

 

「前は違った、後も変わる? でも試験に身上調査もあるはずだから魔術院に不都合のあるたぐいの犯罪者じゃないよね。となると、魔術院に利益のある存在? それか直接的な関係者? 貴族ではなさそうだし」

 

 

「……い、一個! 質問は一個! 答えた!」

 

 

 勢いがすごかったので杖を向けたら速攻でビタッと大人しくなった。

 

 いや、別にビビッたから脅して止めたってわけじゃない。

 私はそんな小心者ではないのでっ……。

 

 

「……答えたから、そっちも答えて」

 

 

 一瞬身構えて離脱態勢に入りかけた黒髪ちゃん。だけど、なんとか思い留まってくれた様子。

 そして、少しばかり逡巡して、思い出してくれてるようで……。

 

 

「えっと……勇者は少し前に帝国へと依頼を出しに向かってたって報告を聞いたけど……」

 

「ふ、ぐ……そっか……」

 

 

 やっぱり来てたってことか……。いやまぁまぁ、帝国にも冒険者ギルドはあるし?

 王国からは結構遠いけど、いやまぁそういうこともあっておかしくは……。

 

 

「場所は、ここ。帝国魔術院だった」

 

「ふっふぉ」

 

 

 あ、あぶねぇ、咄嗟に浮遊術式を使わなかったら膝から崩れ落ちてたぜ……!

 なんだよ勇者が訪れた場所って帝国って言うかピンポイントでここじゃねぇか……!

 

 いや、ていうか知らん……そんな依頼あったっけ……?

 記憶を遡ってるがあいつらしき冒険者が出してる依頼なんか思い当たらんのだが……?

 魔術院宛の依頼って毎日結構な数あるけど、たぶん無かったよなそんなの……?

 

 

 

「あの、それってどんな依頼……」

「次はこっちの質問だよ。あと二つぐらい教えてほしいかなぁ」

 

 え、さっきまで大人しかったのに、一転攻勢ってなばかりにグイグイ来るやんこの子……。

 私に敵意が無いってのはとりあえず分かってもらえたようだけど……。

 

 

 

「うーん、質問というか、確認……かなぁ」

 

 ……。

 

 ほんの少しだけ、緊張感に空気がピリつく感覚。

 

 大人しくなったように見えて、今もこの子は、少しも油断していない。

 そう、使命に対しての強い意思、覚悟のようなものを感じさせる。

 

 

 

 

()()()()()。たぶん知ってるよね?」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 魔神。

 

 

 ……私にそんな呼び名が付けられていることは、一応知っている。

 他の人がそう呼ぶことも、ちょっと嫌だけど私は構わないと思っている。

 

 だけど私は、絶対に自分でそう名乗ったりはしない。

 私は決して神などではない。私はただの、人間の魔女さんだから。

 

 

 というか大体、魔神とか、カッコ悪いじゃないか。ダサすぎるでしょ。

 

 死者を生き返らせることも出来ない。時間を巻き戻すことも出来ない。

 何もかも、世界の法則に縛られてしまっている。

 

 こんな、世界から何も逃れられない私ごとき、あまりにも烏滸がましい話。

 いくらチートとはいえ所詮、私は人間に過ぎないのだから。

 

 それに魔術の深淵はまだまだ底が見えていない。

 私だって他の人から学ぶべきこともたくさんあるわけで。

 

 弟子を取ってたりもするが、本来は人を導けるような立場じゃないのだ。

 

 

 こんなやつが? 魔術の神?

 

 はは、ご冗談を(笑)

 

 

 

 ……。

 

 まぁとはいえ……。

 魔神と呼ばれている存在を私は他に知らないので……。

 

 それは恐らく、私を指していると考えていいだろう。非常に不服だが。

 

 魔神について知りたいということは、察するに魔術師としての私について知りたいことがあるということのはず。

 

 

 魔術師としての私について。

 例えば……私が作った魔術についてとか?

 

 帝国式魔術は私によって大幅に魔改造されており、他国の魔術よりは洗練されていると言ってもいいと思う。

 そして黒髪ちゃんは教会の聖職者でありながら、かなり高度な魔術も扱うことが出来ている。

 つまりこの子が例外でないのなら、教会が帝国式の魔術に割と寛容であり、普通に技術として取り入れようとしていると考えてもいいはずだ。

 

 

 あるいは私が作った魔道具。

 

 事実として、帝国が輸出している魔道具は法国にも流れていたと思う。ちゃんと確認はしてないけど。

 ゆえにそうした魔術支援的なものを求めて魔術院や私に接触しようと考えるのも不思議なことではない。

 まぁ実際のところ魔道具に関しては私が、というより私の術式をもとに魔術院全体で作ってるので私に聞かれても若干困るのだが。

 

 肯定的に捉えれば聞きたいだろうことは、こんなとこかな。

 ポジティブに考えれば、ともいう。

 

 

 

 そして否定的、ネガティブに考えるのであれば、例えば政治的な話。

 正直そういった面には疎いからちょっとアレだけど。

 

 でも私という魔術師が政治的にかなり大きな存在になっていることは、客観的に見て分からなくもない。

 正直、私単独じゃ大したこと出来てないと思うんだが。そこらへんは皇帝様の手腕よな。

 

 帝国に対してアクションを起こしたいと考えた時、皇帝様やら他の政治的主要人物より、私の方が御しやすいと見えても不思議ではない。

 

 また、私という魔術師は自他ともに認めている帝国の最高戦力だ。

 そういう使われ方をしたことはほとんど無いが、ある、というだけで抑止力になっているのだろうとは思う。

 だから帝国から私を切り離したい、という輩がいても何もおかしくはない。

 

 

 

 ……はてさて?

 

 

 

 

 

「魔神……クードヴァンドゥシエル。いきなり帝国に現れた謎の魔術師」

 

「デュ・シエル」

 

 

 なんかちょっと発音が気になったので口をはさんでしまった。

 私が皇帝様から賜った名前は、デュ・シエルなので。一応、訂正しておく。

 

 

「……どぅしえる」

 

「デュ、シエル」

 

「でゆ……」

 

 

「……」

「どゆ……」

 

「……」

 

 

「……魔神シエルの魔術。これがあまりにも非常識だったから」

 

 

 ……まぁいいか。

 キリッとした雰囲気になっても相変わらず舌っ足らずな黒髪ちゃん。可愛いね。

 

「教会には魔術を専門に研究するところがあって、色々調べてるんだけど、ここ数年の帝国の魔術は本当に異常に見えて」

「……」

 

「それは魔道具にしてもそうなんだよ。どれもとても便利だけど、なんでいきなりこの形になったのかがよくわからない。段階を踏んでいない、そう思われてる」

「……」

 

 

「そしてわけもわからず優れているそれらが突然、帝国の世界的な立場を急激に押し上げてしまった。そのせいでとにかく教会の上のおじいちゃんたちがものすごく困ってる」

 

「……なるほど?」

 

 

 まぁ実際、私はちょいちょい前世を参考に、時代や文化レベルにそぐわないブツをたびたび放出してしまってたりする。

 それが一つの国から産出されまくってるわけで、そりゃ他の国とか組織からしたら、なんやコレ……?ってなるに決まってる。

 

 いや、というか私的には、最初は割と身内向けに、こんなん便利やろ?って出してただけなはずなんだが……。

 皇帝様とか院長らへんと、じゃあこれってこういう風に出来るんじゃね?みたいな雑談をし合ってるうちに企画化して、気づいたら仕事になってたというか。

 

 これって私が悪いんだろか……? うーん……?

 

 でも私の作った術式や魔道具が巡り廻って何か問題を起こしてたとして、それを皇帝様たちに責任転嫁するのもちょっと違うような……。

 そもそも私が作らなければ問題起こってないわけだし……。

 

 

 

「とにかく、いまや魔神は、教会の最重要調査対象の一つ。でも調べても情報があまり出てこない。確かなことでわかってるのは元冒険者で、皇帝の護衛に就く以外はずっと帝国魔術院にいる、ということだけ」

「……」

 

 

「その、冒険者だったってことについての情報もはっきりしない。ギルドに当たってもなかなか情報を見せない。だから魔術院に当たるしかなくて、私が魔術師のフリして色々調べてたんだよ」

 

 

 ふぅむ……?

 ていうか私ってそんな謎の人物だったのか……?

 

 たしかに人前に出るときは本気ローブ着てフード被ってるからあまり露出無い。

 外で使う魔術も皇帝様リクエストで派手めなものが多いからそっちに目が行くのもあるんだろうが。

 

 ……。

 

 ……まぁいいや。その辺はあとで考えよう。

 

 

「魔神の正体。仮説としては、複数人の魔術師が合同で名乗っている、というものが有力だった。魔神の実績はとても個人の魔術師のものには思えなかったから。だけど……」

 

 

 言葉を溜める黒髪ちゃん。

 薄暗い結界内を見渡し、振り返り、そしてこちらを見据える。

 

 この『隔絶領域』には、()()()()()、私たち以外の何もない。

 キョロキョロしても別に見るものも無いんだけど……?

 

 

「……」

 

「?」

「……手間は減ったけど懸念がとてつもなく増えちゃった……頭がいたいなぁ」

 

 

 どういうこと?

 

 

「とりあえず、聞いても答えに意味は無いけど、聞くことに意味はあると思うから、確認」

「……?」

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()?」

 

 

()()()()

 

 

 

 

 

 

 即答する。

 私が人間かどうか。()()()()()()()()()()()

 

 もう、とっくの昔に答えは出ている。人間だ。

 

 私は私のことを信用できなかった。だから徹底的に調べた。

 人間じゃないという証拠を、何度も何度も、隅から隅まで調べ尽くした。

 

 だけどそんなの、どこにも無かった。完膚なきまでに人間でしかなかった。

 

 もしも人間じゃなかったら、我慢する必要は無かったのだろうか。

 村にいた時にそう思ったことも、無くは無い。

 

 

 とはいえぶっちゃけた話。

 あの頃の自己解析の精度は甘かったから、今でもたびたび私は自分の身体を調べ直している。

 ここ数年で魔族のサンプルも色々手に入ったので比較研究がしやすくなったというのもある。

 

 それでも私は人間のままだった。

 

 ……本当に? 本当に私は人間なのか?

 それは間違いなく証明できるのか?

 

 

 例えば、魔族という魔物。それがどういう形で発生するのかは分かっていない。

 魔族が語る話は大体信憑性が無い。聞く意味はあまりない。恐らく当人たちもよく分かってないんじゃないか。

 魔王が関わってるのは間違いないが、そもそも何故こんなにも人間に近い存在なのか。

 

 だから分からない。

 今の私は人間。だけど分からない。

 

 限りなく人間に近い魔物、魔族。

 その発生の原因が分からない以上、未来の私が魔族でないという証明にはならないから。

 

 未来は未知で、未知は恐怖。恐怖の未来は悪夢そのもの。

 

 だから何度だって私は、私が人間だと確かめなければ気が済まない。

 

 

 

 ……まぁおかげさまの副産物として人体に作用する魔術なんかも色々できたわけで。

 いいとこ探しをすれば悪いことばかりではなかったというかなんというか。

 

 代謝を弄って甘いものもいっぱい食べれるし。疲労も無視して寝ないでも平気だし。

 あと性別が変わって一番困りそうだったそういう生理的なものも調整してるし?

 

 あ、いや、一回来てちょっと思ったよりしんどかったので……これ別に要らんやろと……。

 

 

 とにかく、魔術の知見も広がったのでひとまず結果オーライ的な?

 

 

 

 

 

「……ふぅん。そっか」

 

 なんだかよくわからんが納得した様子。

 さっきから私の顔をじっくり見てるが、私の表情筋は死んでいる。

 見てても何の変わりもないはずだが。

 

 

「うーん。大誤算だったけど、結果的には……確定要素は無いけどたぶん間違いないし……おじいちゃんたち納得するかなぁ……」

 

 ブツブツ考え事し始めて手持無沙汰なのでなんとなくほっぺムニムニしてみる。

 特に意味は無い。

 

 ……なんか何してんだこいつみたいな目で見られた。なんでや。

 

 そして、ふっ……とアンニュイな雰囲気でため息を吐かれる。

 敵意みたいなのはだいぶ薄れた様子だけど、ちょっと納得いかない件。

 

 

 

「……ごめんなさい。あんまりにも怪しかったから変な風に疑っちゃった」

 

「あ、それはいいけど。仕事だろうし」

 

 

 私が変に疑われることは別にどうでもいい。実質ノーダメだし問題ない。

 そもそもなんで疑われてたのかはよく分からんが……。

 

 

「というか私、どこか怪しかった……?」

 

 気になったので流れで聞いてみる。

 考えてもわからんことが確定してるならさっさと聞くが吉。

 

 

 

「……本気で聞いてるの? 大丈夫?」

 

 なんでや。

 本気でダメな子を見るような目で見られた。なんでや。

 

 私この子より遥かに年上だが? 肉体年齢的にも普通に年上だが?

 そのなんか、まじアホだなぁこいつ、みたいな目は何ですか?

 

 いや、実際私は意外にもアホではあるんだが。

 主にコミュニケーション的な部分で。でも陰キャではないぞ。

 

 

 

 そして問いかけは思いっきり無視されて、キョロキョロしながら右往左往する黒髪ちゃん。

 

 

「えっと……ごめんなさい、あなたは敵じゃなかった。もう変なことしないから、この結界を解除して欲しいんだけど……私が見てもよくわかんなかったし……」

 

「? 解除とかできないよ?」

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 

 別にやりたくないとかじゃなく、解除方法が無いからやれないって意味。

 大体この隔離用結界くん、本来の用途は牢獄だし。中から開けれたら意味ないじゃん?

 

 だからこれ、私の保有魔力が術式の最低維持魔力を下回るまで常時発動し続けるんだよ。

 

 

 

「私が魔力切れになるまで結界はずっとこのまま」

 

「は……? え? は? え、それってどれくらいの時間なの……?」

 

「一週間くらい?」

 

 

 マンガみたいに、ポカンって顔してる。この子おもしろ。

 

 

 

「え、えぇ……うそぉ……自分ごと閉じ込めてたってこと……? ばかなの……?」

 

 

 

 誰が馬鹿やねん。

 

 というか別に解除の方法が無いだけで、出れなくはないぞ?

 もちろん昔の私には不可能だったけど、今の私にはそれなりに手段もある。

 

 ……この中と外は全く違う世界なので、時間の流れとかも違ったりするんだけど。

 試験中だし流石にそろそろ戻った方がいいよなぁと思うし、そうだなぁ。

 

 

 

「一週間も一緒……えぇ……あぁ……どうしよ……」

 

「じゃあ今から出る」

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 今から使うのは、とある禁忌術式。私の持つ最高峰の術式の一つ。

 

 基本的にバレたら怒られる禁忌術式の中でも影響範囲がかなり小さく、使用がバレることもほぼ無いので実はちょくちょく実験や研究に使ってる超便利魔術なのだ。

 

 

 思考分割、並列演算……。

 デフラグ中の私ちゃんズは脇に置いといて、二百くらいあれば足りるか……。

 

 頭がギリギリっと痛むけど、これも別に無視できるので問題ナッシング。

 

 

 光の魔力を励起させ、無を空白に、零を極小に。

 あらゆる存在を二分する、存在しない究極の刃を。

 

 

 術式展開。さぁ、世界を切り裂け。

 

 

 

 

 

 

 

──『万象切断』

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 剣のように、杖を振るう。

 それは究極の圧力。

 

 分厚いガラスが割れるように、世界を隔てた壁に一本の亀裂を作る。

 世界を隔てた術式は、二つに分かれて破壊され、魔力に還元され、音もなく消え失せる。

 

 

 切り裂くという行為とは、つまり極小接触による割り込み。

 概念の楔を打ち込むように、上位次元から存在をなぞる。

 その接触を強制的に拡大することで、()()()()()

 

 

 ……ちょっと何を言ってるか分かりにくいだろうけど、やってること自体は非常にシンプルだ。

 

 ほころびが無ければ作ればいい。作れないなら作れるようにすればいい。

 完璧を壊すには、たった一つの小さな傷があれば十分なのだから。

 

 

 かつての私が作った、今の私でもこれを上回るものは作れない、芸術的な最強の結界術式。

 とはいえ私も探求を怠ることなく過去より成長している。数年も経てば、破壊する手段も見つからなくはないわけだ。

 

 

 ……でもこれって他のほぼ全ての大規模禁忌術式すら完封するから、言うてもそんないくつも方法無いんだけど。すげーな過去の私。

 

 

 ま、とりあえず終わったので思考統合……、一部破損してるのはデフラグ続行で。

 

 しっかし限定的とはいえ、思考の三桁分割は少し疲れるね……。

 院長ってやっぱ頭おかしいなと再認識するわ……。

 

 これも便利な術式とはいえ、私でもそうポンポン使えるもんじゃないのよな。

 実際普通に使うなら『空間分割』とかのがコスパは良いし。

 

 

 

「え? え……?」

 

 

 そしてなぜか黒髪ちゃんに激烈ドン引きされてる件。

 

 

「なん、なの今の……?」

 

 

 いや別にこの魔術、そんなドン引くようなもんでもなくない?

 パッと見じゃ何してるかわからないだろうし、見た目はかなり地味だよ?

 

 

「…………」

 

 

 そしてまた考えごとし始めてしまった。

 もう、そんな眉間にシワ寄せて、可愛いお顔が台無しやで?

 

 ……うーん、まぁいいや。

 それじゃま、何事も無かったわけだし、試験に戻るかなっとー……。

 

 えっと、私ら交代で休憩してたんだっけか?

 

 

 

 

 

 

 

「お前ら! 大丈夫だったか!?」

 

 

 振り返ったらなんか超焦った様子のイキリチャラ男とギャルがいた。

 あれ、君ら仮眠中だったのでは?

 

 

 

「ゼフィールからいきなりお前らが消えたって聞いたから探してたんだ……! 無事なのか……!?」

 

「……」

「え、あ、うん」

 

 

 少し離れたところには何かの番人みたいにあたりを警戒してるモリモリマッチョマンがいる。

 

 あーそっか、なるほど。

 そういえばこいつは仮眠側じゃなくてこっちにいたな……。

 

 あのゴリゴリガチムチマッチョマンが知らせたってわけね……。

 そんな何十分も掛かってないと思うし、割と早めに帰ってきたつもりだったんだけど……。

 

 そういやそうだった。

 先ほどお役御免になった隔離用結界くんこと『隔絶領域』という魔術は、あらゆる干渉を拒む絶対障壁。

 つまり外からの観測も認識も一切できないので……これに閉じ込められると傍から見たら突然消失したみたいになるわけだ。

 

 

「そう……か。良かった。流石に試験用ダンジョンのトラップでそこまで危険は無いと思いたいが、魔物が普通にいるからな……少し心配した」

 

「えっと……ごめんなさい?」

 

 

 なんだこいつら。意外と過保護か……?

 私らそんな弱くは無いんだが? 見た目がか弱いせいか……?

 

 そんでもって隣のギャルは何故か少し青ざめている。

 

 どうしたどうした?

 

 

「ねぇ、ホントにあんたたち、大丈夫なの……?」

 

 

 ギャルが恐る恐る、といった感じで問いかける。どことなく遠巻きに。

 ……なんだろう。私、どこか変だろうか?

 

 大丈夫なはずだ。

 大丈夫。私はいつもの私。

 

 

「……何があった?」

「……()()()()()()()()?」

 

 

 どう説明しようか一瞬悩んでたら黒髪ちゃんが口を開いた。

 

「えっとぉ、転移罠か何かで二人して変なとこに閉じ込められちゃった?って感じかなぁ……? それでがんばって脱出したって感じ?」

 

 

 まぁ、色々ちょっと違うが説明としてはおおむね間違ってはいないか……?

 最初も最後もやったのは私なんだが。

 

「だけど、えっとね、その時に……ちょっと二人でいろいろあって……。……本当にごめんなさい」

「だからいいって、私は何も気にしてないから」

 

 

 黒髪ちゃんから改めて謝罪を受けたが、そこまで気にしていない。

 

 うん。別に大丈夫だ。

 疑われたり敵意を受けたり、そんなの、これまでいくらでもあったこと。

 別に忘れてなんかいないし、とっくの昔に慣れっこだから。

 

 あいつと、優しいみんなのおかげで薄れたように思えても、私の烙印は決して消えることなんかない。

 それを少しばかり、再認識しただけ。

 

 

 

「……疲れてるのか?」

「別に」

 

 

 いや実際、ちょっぴり疲れたは疲れたが。

 でも身体的な異常や疲労は『代謝制御』『肉体操作』やら『疲労留保』とかの魔術でどうにでもなるし。

 精神的な異常や疲労も『思考分割』でリレー式にメイン思考を交代して休んでるから特に問題ない。

 

 そう、私は無敵の魔女さんなのだから。チート万歳っ!

 

 

 

「……えっと……じゃあ私がお詫びに回復するね」

 

 ん?

 いや別に要らないというか、私は自分で回復できるし特にダメージもないので意味はないのだけど。

 まぁでも、もう敵意のようなものも感じ取れないし、変に遠慮するのもちょっとアレか。

 

 

「私、癒すのは得意だから。『疲労回復』」

 

 

 やわらかな光。

 ほやーん、て感じのゆるふわな魔力が身体を包んでくれる。

 

 うんうん、黒髪ちゃんの回復魔術、これはスタミナ回復系だね。

 怪我とかより肉体的な疲労に作用するタイプの術式。

 

 うん、悪くない術式構成だ。魔女さんポイント80点。

 

 

 

「……祝福を。耐え難き苦痛からの解放を」

 

 

 

 うん……?

 

 よく聞き取れなかったけど黒髪ちゃんが、ポツリと何かをつぶやいた気がする。

 

 神力を感知したけど、術式に合わせて何かしたのか?

 一応、防御術式にも情報術式にも特に何も異常ない。

 むしろ、数値的には良いくらい。ほんのりとあったかい気持ちになる。

 

 なんだろ、害は全く無いし……最悪保険もあるから別にいいか。

 

 

 

「あ、そうだ……依頼の話についてなんだけどね……」

 

 

 そう、そうだ。さっきの話の続きで私が知りたかったこと。

 これは、あいつの今の、唯一の手がかりだから。

 

 

「私、そっちの担当じゃないから詳しくは私も知らないんだ……ごめんなさい」

 

「……」

 

「……嘘じゃないよ?」

 

「……。そっか。ありがとう」

 

 

 

 ……。

 

 

 

 ……これに関しては嘘も誤魔化しもなさそうだ。

 恐らく黒髪ちゃんは、本当に詳しくは知らないんだろう。

 

 だけど、少なくともあいつの居場所を教会サイドで把握してたことは分かった。

 それだけでもかなり大きな収穫だ。

 

 そもそも、あいつのことを教会の人間が知ってるのは予想してたんだ。

 

 あいつは女神の聖剣に選ばれた勇者。

 いずれ女神教が接触してくるのは必然だったから。

 

 教会については軽く調べたけど、決して悪ではないように思う。

 ほんとは私の方が先に見つかるつもりだったから、先を越された形だけど。

 

 きっと、神器の担い手として、悪いようにはされてないはず。

 

 

 

 ……うん。大丈夫。

 

 

 ……。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 ……。

 

 あいつの影が、ようやく見えた。

 だけど、やっぱり遠い。いや、近くにいたのに見逃してしまった。

 

 いや、大丈夫。前よりずっと進展してるはず。

 

 だけど、どうして? どうして私はこんなにも駄目なんだろう。

 

 できることなら、せめて、一目だけでも見たかったのに。

 

 そんな贅沢、今更思っても仕方ないのに。

 

 全部、私の間抜けな自業自得なのに。

 

 

 

 

 

 ……あぁ。

 

 

 

 

「あいつ……いま……なにしてるんだろな……ほんと……」

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 ……?

 

 

 

 

 ……あれ?

 

 

 

 

「っ……」

 

 

 

 

 え?

 

 あ、やば、ちょ、まず、!

 

 

 

 ん! んんんんっ! 『代謝制御』! 『肉体操作』!!

 

 止まれ! よし止まった!

 

 

 

 あー、びっくりした……。いやいや駄目じゃないか。

 全部私の自業自得なのにさぁ。

 

 ()()()()、流す資格なんか無いんだから。

 

 

 

 あーもう、顔もビチャついちゃったので適当に処理しといてっと……。

 

 というかいつもは心の中だけにしてるのに、思わず思ってたこと口に出ちゃってたのも多分アレか……。

 

 ……黒髪ちゃんを見やる。

 

 

 あの子、さっき何かやったよな……?

 別に悪い効果では無さそうだったし、保険もたくさんあるからぶっちゃけ何されてもどうとでもなるっちゃなるんだが……。

 

 

 一応、後でちょっと釘を刺しとこ……。

 

 

 

 

 

 

 ……?

 

 

「……わぷっ」

 

 

「ごめん、トゥール、ゼフィール。私、もうちょっと休むから、二人で見張りお願いできる?」

 

「了解した……」

「あぁ、任せろ。……任せたぞ」

 

 

 

 う、うん……?

 なんだ……? なんなんだ……!?

 

 なんでいま私、ギャルに抱きしめられてるんだ……!?

 というかなんか私には無い柔らかな母性の塊の感触がっ……!

 

 正直嬉しさよりも、ちょいムカつくというか、複雑な感じがするが……!

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 ……なんか、あいつの抱擁とは少し違う。

 

 そうやって比べるようなもの、じゃないけど。

 

 これも、()()()()()()()()()()()()()……のかもしれない。

 

 

 

 って何を考えてんだか……。

 

 

 

 

 

「ねぇ、あんたの言ってるあいつって、気になってる男のことでしょ?」

 

「え……あ……うん」

 

「聞かせてよ。さっきの、どんな罠だったのか分からないけど……吐き出せば少しは気持ち、楽になると思うから」

 

 

 

 

 

  ……。

 

 ……なんかこうしてると駄目になりそうだから優しくギャルを引き剥がす。

 

 いや……客観的に見たらやっぱり私、気持ち悪い気もするんだが。

 たぶんこういう時はそういう見方しない方が吉だと思うので……。

 

 というか、その……、なんだか……。

 恥ずかしいけど、ムズムズするけど……。

 

 こういうの、なんだか悪くは無い気持ち、なのかも……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あっと、その前にちょっとやることあった。

 優しく手を引こうとするギャルにお断りを入れて、少しだけ。

 

 少し離れて考え事してる黒髪ちゃんにちょっと声を掛けに行かなきゃな。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

<水も滴る聖なる少女>

 

 

(……奇跡が通じた)

 

 

(そう、だから、使えば通る。でも、罪の影が見えたのに『告解の奇跡』が通じなかったのは、なんで?)

 

(それに、祈りが届かなくなるほどの異常な結界。私でも対処できないほどの魔術。そして最後の……。やっぱりいくらなんでも、さすがに危険すぎるよね……)

 

(たぶん、私たちの敵ってわけじゃない。だけど、女神さまの敵すらに成り得るほどの怪物……)

 

(正体はおおよそ掴めた。本質は無垢で、感情は明朗。透き通るように単純で、嘘はあっても悪意は無い。それは対峙してわかったんだけど……)

 

(どうしよ……わっかんないなぁ……これっていつもの審問討伐じゃないから私じゃ答え出すのが難しいかも……)

 

(とりあえず……法国のおじいちゃんたちに情報を持って帰らないと……)

 

 

 

(……あ、そうだ。情報といえば)

 

 

()()()()()()()()()()、なにかに使えそ――

 

 

 

 

 

 

()()

 

 

(ッ!?)

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

(え、なっ……、やっ、ぅ……!)

 

 

 

()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

「…………うん」

 

 

「そっか、良かった」

 

 

 

 

(……)

 

(……)

 

(……私は水)

 

 

(固まれば断罪の刃、熱を受ければ天に昇る道標。どんなに揺らいでも形を変えて元に戻るもの)

 

 

(……ていうか別に揺らいでないもん)

 

(……)

 

 

 

 

(……。ちょっと物陰で『浄化の奇跡』使ってこよ……)

 

 

 

 

・・・

 




女神さま「zzz…………ん……? ぅぅん……」(n度寝)





※黒髪まな板ちゃんは感覚派の若き天才で、大抵のことは何となくで高度にこなせてしまうので教会内ではまぁまぁ調子に乗ってました(過去形)
※隔離用結界くんは最強結界なので魔女さんがちょっと本気になる度に酷使されてますが、用済みになったら大体寿命をまっとうすることなく雑に処分されて光か闇になります。儚い。
※ところで、どこかでも書いた気がしますが作者の性癖に聖水的なものは含まれておりません。悪しからず。でもわからせは嫌いじゃないです。いいですよね。
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