勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん   作:Mckee ItoIto

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(勇者パート)

 ハーレム系鈍感主人公にはハーレム系鈍感主人公なりの苦悩があったりなかったり。


ただ強くなってあいつの隣に続く道を行くだけのこと

・・・

 

 

<魔術の王には程遠いトラブルメーカー>

 

「わからん……何故だ……!」

 

「ま、魔王さま……?」

 

 

 

 

 

(ぐ……うぐぐ……まじゅつなんもわからん……!)

 

 

(いやだいたいなんなんだこいつ、どの魔導書も読みにくすぎるんだが? 頻繁に内容が前後する上に、単に難易度基準なのか中級の内容の一部で上級の内容が必須技術だったりするぞ? 選択的読み飛ばしが強要されててほとんど暗号なんだが? アホなのか?)

 

(というか読んでて気づいたがこの上級魔術窮極書、明確な言及は無いものの一部の術式で明らかに世界領域に干渉してるぞ……? 我は女神を知ってるから分かるが普通の人間の魔術師で扱えるものなのか……? なんか知らん間に人間のレベル上がりすぎでは……? いや単にクード個人がおかしいだけか……?)

 

(しかし魔術特有の問題というかスタックした魔力取り出し順の標準処理が環境に依存して不定なのが地味に困るな……。いやこれは技術的な話じゃなく世界領域というか世界基盤の仕様なんだが……。魔法よりも世界依存が強い構造なせいでいちいち記述が増える……。クソ女神め……)

 

(そもそもなんで世界領域にスタックした魔力が取り出す度に変化したりしなかったりする……? 一応術式構成中の最終魔力化により揺らぎを防げるが自由度は下がってしまう……。初級中級の魔術程度ならこの辺りは考える必要無いが我は上級魔術と魔法の合成複合化を目指してるからな……。複雑になるのは避けられぬか……)

 

(ああくそ。本当に我の魔法と勝手が違いすぎる。カスタム性は高いが知識量と経験値の問題で逆に不自由に思える……。とりあえず、これをああして魔力連携して、こっちの記述を置き換え……? ん? あ? 接続できない?)

 

 

(……え、なんでいやまって、は? うそ、あの、別の世界層に刻んだ中継術式、消えてない? え? 我、こないだちゃんと記述したぞ?)

 

(探査失敗……消失? いやいやいや嘘だろ? もしや術式を上書きしたか? そんなことやってないが……? じゃあ破損か……? ええと、この辺の世界層はプライベートだよな? ……だよな?)

 

 

(……よし、冷静かつ論理的に考えよう。ステップバイステップ。あの魔導書にもそう書いてあったからな。よし)

 

 

(ええと。我の成果消えた。先日に中継術式の記述を確認。さっきの魔力連携後に消失を確認。因果は不明、消失時期も不明。女神が作った世界基盤は女神が消滅しない限り干渉によってのみ変化。勝手には変わらない。この領域の操作可能、我のみ。のはず)

 

 

(……よって原因、我、濃厚)

 

 

 

 

 

「んあああああああああ畜生めッ!!」

 

「!!」(ビクッ)

 

 

「……ああ? なんだ貴様いたのか?」

「あ、ま、ま、魔王さま……? 軍の作戦でご相談が……」

 

「我は忙しい。とっとと消えろ」

「え、あ、す、すみま」

 

「我の崇高な研究の邪魔をしおって、獣にも劣る愚鈍な紛い物どもが……」(ブツブツ)

 

 

 

 

 

(魔王さまが激しくお怒りだ……いったい何に……)

 

(畜生……? 獣……? 紛い物……?)

 

(……!)

 

(そうか! 人間もどきの獣人どもが目障りだということですね!!)

 

(魔術的防護により今や帝国に近づくことすら困難な状況、しかし獣国は大森林を挟み帝国と地理的にも近い……! 大森林にはエルフもいて邪魔でしたが……)

 

(現在の獣国は内乱続きの不安定な状態でつけ入る隙も多い……。そこから浸透すればエルフどもの蹂躙も容易に可能……。大森林を貫通すれば帝国へは一直線……)

 

(流石は魔王さま……! その深謀遠慮、恐れ入ります……!)

 

 

「承知いたしました!! 獣国へ攻め込みましょう!!」

「? ああ……? いや知らん勝手にしろ。我の邪魔はするな」

 

「御意!」

 

 

(ああ、我ら新生魔王軍、必ずや魔王さまに勝利をもたらしましょうぞ……!)

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

――生きる上で最も大事なのは取捨選択。

 

 

 これは行商人だった、父さんの口癖。

 俺はこの言葉が嫌いだった。

 

 

 村での俺は、何も選択することができなかったから。

 

 

 冷静に、損を切り捨て、益を取る。

 何を選ぶべきか、何を拾って何を捨てるべきか。

 

 父さんはお世辞にも強いとは言えないただの人間だった。

 弱いから、限りある選択を正しく選ばなければならない。

 

 国と国とをすら渡り歩き危険の多い道を行く、戦えない行商人の武器は判断力。

 

 商品の選別、時機の選択、護衛の選定。

 誤りは死に直結する。決して間違えてはいけない。

 

 いつだってそうだ。

 生きていくためには仕方なかった。そうするしかなかった。

 危険には近寄らず、弱きを見捨てる生存戦略。臆病者の最善策。

 

 俺は嫌いだった。

 そんなの間違ってる。そう思っていた。

 

 でも、そうではなかった。

 父さんもそれが良いことだとは思っていなかった。

 

 ただ、弱いから選べない。

 家族を守るために、悪い正しさでも貫くほかなかった。

 

 ……でも悪い正しさってなんだ?

 父さんは良くも悪くも、普通の人間だ。

 

 普通の人間は、悪いと自覚していることを続けることは出来ない。

 

 

 そうだ。

 つまり父さんは、ただ見ていることができなくなったんだ。

 

 

 無抵抗な小さな女の子を村中で虐げる、呪いのような村の因習に、行商人で王国外の価値観を持つ父さんは我慢が出来なくなった。

 だからと言って助けるわけにもいかない。村中を敵に回せるほど父さんは肉体的精神的、そして立場的にも強くない。

 

 母さんは父さんよりもずっと強かった。剣の才能があり、俺が生まれるまでは村を守る自警団にも所属していた。

 しかし母さんは村の人間だ。俺たち家族の手前、表立って加担はしてなかったが、あいつに対して良い感情は持っていなかった。

 

 

 

 だから、逃げることにした。

 弱いから、見ていられないなら離れるしかなかった。

 

 

 

 結局のところ、父さんが話してくれた本当の理由はそれだけだ。他の理由は全て、あとから理屈をつけたもの。

 それで現実として王都の仕事につなげて家族を養っていけたのだから流石ともいえるが。

 

 

 

 俺はずっと納得していなかった。

 弱いから選べない。じゃあ強ければ選べるってことだろ。

 

 だから俺は強くなりたかった。

 強くなって、選びに行きたかった。父さんが捨てたものを拾って救うのだと。

 幸い、俺にはそれなりの剣の才能があった。強くなれる自信があった。

 

 父さんは俺に商人になって欲しかったのだろう。

 冒険者になりたいと告げたとき、かなり喧嘩した。それでも最終的に「俺に似なくて良かったな」と、ため息をついて認めてくれた。

 母さんは反対していたが、ほとんど家出に近い形で無理やり俺は冒険者になった。いつか、謝らないといけないだろうな。

 

 

 

 あれから、多くの冒険をし、聖剣の使い手となり、仲間ができ、今に至る。

 

 

 

 でも結局のところ、まだ俺は弱い。

 選べるものが増えても、全てを選べるわけじゃない。

 

 もっと強くならないといけない。

 聖剣の力だけじゃなく、俺自身がもっと強く。

 

 

 一度はすくい上げたはずのあいつが、手の中からすり抜けて消えていく感覚。

 それは俺の弱さがため。

 

 

 そんな思い、二度と味わいたくない。次は、もう取り零さない。

 

 

 あいつが失踪してからその後、本当に今も生きているかどうか、信じているが不安ではあった。

 あの時あいつに伝えた俺の言葉に、そこまでの価値があったのかどうか。

 

 

 

 でも今は確信している。あいつは生きている。

 確認はできていないし、まだ難しいだろう。情報をもっと集める必要がある。

 

 再会はできる。だからあいつにまた会える日までに、俺は勇者として強くなる。

 

 

 

 まぁ、というかそもそもの話として、再会できる前提で考えて行動すべきじゃないか。

 

 そうじゃなきゃ、かっこ悪い俺のまま再会することになりかねないだろ?

 

 

 

 ……なんてな。

 

 常に正しくあることなんか不可能だ。少なくとも今の俺には。

 

 だからあいつにとっての正しさを選び続ける。

 それが俺の望んだ道に違いないはずだから。

 

 

 

 

 何はともあれ、今回の事件の顛末には苦いものが混じる。

 

 

 決して忘れてはならないだろう。

 俺が一つを選んだために選べなかった結末を。

 

 連行されていった修道士の男の、憎悪に満ちた視線を。

 全てが変わってから目覚めた孤児院の少年の、裏切られたような失望の眼差しを。

 

 

 全部を抱えて、俺はあいつの隣への道を行かなければならない。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 事の顛末として、ひとまず孤児院は閉院を免れることになりそうだと聞かされた。

 

 それは単純に今いる孤児の受け入れ先がすぐには見つからないということと、少なくとも設備として充実している施設を捨て置くのは勿体無いという実利的な面を考えてのことらしい。

 

 それに実務を担当していた修道士の男とは別に、ここの孤児院には教国司祭が運営責任者として就いている。

 ここにはあまり訪れないとのことだが、全くの無関係とは考えにくいだろう。

 また、他にも孤児の引き取り先のナーサリー商会もかなり怪しい存在と言える。

 

 この事件は終わったわけではなく、まだまだ闇は残っているように感じざるを得ない。

 

 

 

 

 ……とはいえ、俺たちのクエストはここで終わりだ。

 

 ここから先は教会内部での政治的な話になるし、冒険者としても、俺個人としても、そして勇者としても口を挟める領域ではなくなる。

 

 ただ、アリアだけは少し忙しくしているようだ。パーティに合流するまであと1、2日は時間が掛かると言っていた。

 この件は教国にはなるべく情報を伏せた状態で動かなければならず、法国の聖女見習いとしてそれなりに高い立場にあるアリアには色々とやらなければならないことも多いらしい。

 

 また、同じく聖女見習いのテッラは孤児院に詰めるらしい。

 詰めるというか普通に教会の仕事もするとのことで、兼任するというのが正確か。

 

 まだ確認したいこともあるし、とは言ってたが修道士の男の代わりに子供たちを見てくれる、ということでもあるんじゃないか。

 色々油断ならない雰囲気も感じるが、そこまで悪いやつとも思えない。アリアの仲間でもあるし、無闇に警戒するのも失礼だろう。

 

 エステルの魔術が切れて目覚め始めた子供たちとの対応の様子も、問題ないように見えた。

 戸惑う子供たちを言い含めて大人しくさせる話術は、むしろ芸術的とも言えるかもしれない。

 

 

 ……あのしっかり者の少年だけは、どこか納得していなかったようだが。

 あの子にはテッラも目を掛けている様子だったし、何とか心の傷にならないような形で納得してくれると良いのだけどな。

 

 いや、シスターを斬った俺があまり言えたことではないだろうが……。

 

 

 

 ともあれ、孤児院を離れ、アリアの教会での仕事を待つまでの空き時間。

 俺とベルとエステルは教国の中心、教都にて時間を潰すこととなった。

 

 

 

 時刻は日没前。

 食事にはやや早く、何か依頼を探すには遅い、隙間の時間。

 

 

 

 ……。

 

 

 ……ああ、何だったっけか。

 あいつは夕暮れが好きで、こういう時間は魔の潜む時間?と言ってたような気がする。

 

 

 実際にギルドなんかでは日が暮れたら魔物に気をつけろ、みたいな注意喚起がされていたりするのだが。

 あいつの話の意味とは何となく違う気もする。精神的なことなのだろうか。

 

 中途半端な、光と闇が混じり合う薄暗闇。

 それは魔に魅入られる狭間の境界線でもあるのだろうか。

 

 悪事は日中よりも夜間に多いと聞く。

 明るい日の下では善人でも、闇の中では悪人になったりもする。

 

 綺麗に二分できるほど単純な話ではない。

 あの孤児院でもきっとそうだったのだろう。あくまで憶測に過ぎないが。

 

 ただ、闇も悪いものばかりが潜んでいるわけじゃない。

 あいつを初めて見かけたのもほとんど日の沈んだ夕暮れのことだったし。

 

 なんか綺麗な子がいるな、って子供ながらに思って、興味を覚えたのが始まりだったと思う。懐かしい。

 

 

 

「ま、なるようにしかならないんじゃないかなぁ」

 

 

「……?」

 

 

 

 特にあてもなく歩いていると、ベルが唐突に言葉をこぼす。

 いつもと変わらない調子の軽さで、独り言のように。

 

 これは、俺に対しての言葉だろうか。

 

 

 

「ん。いやアルさ、あの子達どうなるんだろとか考えてたでしょ?」

 

「まぁ……、考えてはいたが」

「そんでそっから連想してまた幼馴染ちゃんのこと考えてたり」

 

「……いやまぁそのとおりだが」

 

 

 なんか変に見透かされてるみたいでちょっと恥ずかしいな。

 いや、別に恥ずかしいこと考えてたわけでは無いと思うが……。

 

 

「なんにせよ、なるようにしかならないって。私たちがやれることはやれる範囲のことだけなんだから」

「……そうだな」

 

「手を尽くしたら後は祈るだけ。女神さまのお導きのままにってね!」

 

「む……? なんだそりゃ」

 

 

 なにやらパチっと片目をつむり、キメ顔を作って微笑んできたので思わず突っ込んでしまった。

 言ってることは正しいとは思うものの、普段ふざけてるベルが急にまともなこと言い出すとなんとなく、くさしたくなってしまう。

 

 

「まぁまぁ、年長者の助言ってやつ? お金払ってくれてもいいよ?」

「急に言葉に重みがなくなったな……」

 

「それに実際さ、少なくとも間違いなくあのまま放置してたらあの子たちに未来は無かったわけだよ。……そだよね?」

 

 

「え? あー……そうですね」

 

 

 どこか遠く、恐らく遠い帝国の方を眺めながら少し離れて歩いていたエステルにベルが問いかける。

 

 

「あれは魔術的……いえ魔法の呪いというべきでしょうか。一種の人工的な魔石加工……?」

 

「あ、軽い確認だったんだけど、そのへん話しても大丈夫なの?」

「まぁこの程度でしたら。あまり愉快な話ではありませんので詳細は伏せますが。……そのままでは長生きは難しかったかと」

 

「今は大丈夫なのか?」

「はい。進行性の呪いで、()()()()()()()()は対処可能な状態だったので幸いでした。ほとんどはアリアさんの奇跡で除去でき、私がやったのは確認くらいでしたね」

 

「なるほど、それは良かった」

 

 

 一概に良かったと一言で済ませては良くないとも思うが、良かった。

 

 ……そう、あそこの子供たちはそれなりに幸せそうではあった。

 運営上の何かしらの悪事があったのは間違いないが、それでも子供たちにはあそこの修道士の男やシスターとの間に思い出のようなものもあったのだろう。

 

 どんな事情があれ、それをあの子たちから奪ったのは俺たちなのだから、忘れてはならない。

 

 

 

 

「んー、と。私の持論なんだけどさ?」

 

「……ん?」

 

 

「ほんとの幸せってのは最後に後悔しないことなんだよ。たぶん。今がどんなに幸せそうに見えても、いつかそれを悔やんで終わってしまうなら不幸だから」

 

 

「……ベル?」

 

「つまり、終わりよければ全て良しってこと。あの子たち、長生きできるといいね」

 

 

 

 

 ……妙に含蓄ある言葉に思えた。体験談だろうか。

 

 エルフは俺たちのようなただの人間よりずっと長く生きる。

 実年齢は知らないが、ダークエルフのベルも長く生きてるはずだ。

 

 

 

 

「なんていうか……難しい話、ですね」

「いやぁ、簡単な話だよ。そう思えるくらい長く生きてればね。明日のことを考えながら、過去を糧に今を楽しく生きられる、それが人生の幸せってやつ?」

 

 

「……年の功か」

 

「いま私のことババアって言った? うん?」

 

 

「言ってないぞ」

「おいコラ目を合わさんかい」

 

 

 

 

 なんか思わずうっかり失言してしまったが。

 

 いつものようなじゃれ合いの中、日が落ちていく。

 そして明日もまた日が昇り、今日とは違った明日が来る。

 

 そうだな、今の未熟な俺より成長できるよう、もっと頑張らなきゃな。

 

 

 

・・・

 

 

 

 そうこうしているうちに、束の間の自由時間は過ぎていく。

 日が暮れ、闇が落ちてくる。

 

 教国の夜は特に暗い。他の国にあるような魔石灯は少なく、点在するかがり火の明りが頼りだ。

 

 この辺り、教国に関して短い滞在で多くを見れたわけではないが、どことなく田舎っぽい不便さがあるというか。

 王国もそうだが、魔道具のような複雑な設備も少ない気もする。

 

 同じ女神教の中心地である法国はそれなりに発展していたのを考えると、教義の違いもあるのだろうか。

 国の経済的な面もあるだろうからあまり単純に比較すべきではないとは思うが。

 

 

 何はともあれ、日が落ちれば営業している店も無いので特にやれることが無い。 

 夜は宿に戻り大人しくしているしかないだろう。

 

 

 

 ちなみに、だが。

 

 街で宿を取るときは基本、俺だけ一人部屋だったりする。

 当然自腹だ。

 

 ベルとアリアは相性が良いのかほぼ相部屋で、今はエステルもそこに加わっている。

 なんか俺だけ一人部屋ってのも申し訳ない気もするが、そもそも俺たちは自分の財布を個人で管理しているので、この辺りは割と個人の自由というか。

 他のパーティだと共同資産としてリーダーが一括管理してたりするところも珍しくないし、おそらく俺たちが変わってるのだろう。

 

 まぁ……、自由というか、宿に関しては男である俺が女性陣の部屋に一緒になるのは流石に良くないと思うしな……。

 というより、ベルやアリアが拒否しなかったとしても俺が困る。

 

 普段一緒にいるから多少慣れてはいるものの、あいつらは見目麗しいと言っても差し支えない。

 命を預け合うパーティの一員として、何か間違いがあっては困るだろう。

 

 ……いやまぁ、そんなことあるわけないが。

 

 

 それに思えばあいつとの二人旅でもずっと別々の個室にしてたし、一人が楽というのもあるな。

 

 いや、それ以前に、あいつをそういう目で見るのはなんていうか。こう、申し訳ないというか腰が引けるというかちょっとビビるというか。

 でも決してそういう目で見れないわけじゃないというか、むしろ……。

 

 

 ……。 

 

 

 ……まぁまぁ、そういう下賤な話はともかくとして、だ。

 金銭的負担は大きいが、人目を気にする必要がないというのは大きい。

 

 気が楽だし、個人的な鍛錬をしても迷惑にならないしな。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 いや、正直言えば他に理由も無くはないが……。

 俺にだって、たまには一人の時間も欲しい時はあるわけで……。

 

 元盗賊の助っ人冒険者ドレイクが一緒の時は相部屋になったりもしてたが、それもだいぶ前の話だ。

 ここしばらくは野宿する場合を除いて、こうして自分一人の時間を取ることができているから助かっている。

 

 

 

 ……ん?

 

 ああ、そうだな。俺だけじゃないか。いや、悪い悪い。

 

 

 聖剣がピカピカ光って抗議してきたので謝っておく。

 孤児院では多少興奮してた様子の聖剣も、戦闘が終わってからは多少満足したのか大人しかったのだが。

 

 まぁそうだな、俺たちは一心同体なわけだものな。考えてみれば完全な一人っきりってのは無いわけか。

 

 

 ……まぁ、これは仕方ないか。

 俺が選んだ道でもあるし、それが負担になることばかりではない。

 

 

 大体それ以前の問題として。

 あいつのために強い勇者を目指す俺は、そんなこと考えてる場合じゃないだろう。

 

 

 一意専心で道を進むことの難しさと重要性というのは、様々な場所で伝え聞かされている。

 

 

 どうにもここ最近は変な雑念が多い気がする。

 ほとんど人と変わらない姿をした魔物と初めて相対し、それを斬ったことで気持ちがより変に高ぶってしまっているのかもしれない。

 

 悪いことだと一概には言えないがそちらに傾きすぎても良くないだろう。気を付けなければ。

 

 

 

 とりあえず……、発散するために宿屋の裏で鍛錬でもするか。

 

 

 聖剣もピカピカ光って付き合う気になってるし、あかり代わりになってもらうとする。

 暗闇で剣を振ってたら不審者扱いされるかもだが、あかりがあったら別だろう。いや、そこだけ明るいと逆に不審か……?

 

 

 あと流石にこんな使い方してるってバレたら教会に怒られそうだが。

 

 聖剣本人……本剣?からは全然気にしてない風な意思が伝わってきてるし良しとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 ……。……。

 

 

 

 

 

 ……。……。……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

 なんか思ったより捗ってしまった。

 まだ暗いが、夜明けは近そうだ。

 

 

 

 

 

「アルさん、お疲れ様です」

「うぉっ」

 

 

 暗闇からエステルが顔を覗かせた。

 気配は感じていたが、聖剣からの光で煽り気味に照らされ少し不気味にも見えてしまい、少し驚いてしまった。

 

 

「……鍛錬ですか?」

「ん、ああ。寝れなくてな。エステルは?」

 

「まぁ、似たようなものです」

「似たような?」

 

 

 似たような……?

 いや、変な意味ではないだろうが。

 

 

 

「ああ、いえ、なんていうか。なんていうか……私って弱いんだなと」

「……?」

 

 

 

 エステルが影の中から近づき、その表情が見える。

 

 見えたのは、想定外に、思っていた以上に。

 

 

 ……沈鬱だった。

 

 

 この事件を通し、エステルは完璧に仕事をし、完璧に振舞い、完璧に事後調査まで終えた。

 

 俺は、そのように思えていた。

 

 

「ちゃんと動けていたんじゃないか……? 少なくとも俺は助けられたし、エステルが居なければ何もできなかったぞ」

 

 

「助けられたのは私です。皆さんが完璧に挽回してくれたというだけで」

 

 

 吐き捨てるように、失望が闇に落ちた。

 苦い自己嫌悪。致命的な深刻さは無いが、その苦悩の強さは相当に深い。

 

 

「躊躇したんですよ、私。あれだけ大口叩いておいて。明らかな確信的材料が揃っていたにも関わらず。現状が平和を見せているというだけで。あの場面、ししょーなら絶対に躊躇わなかったのに」

 

「……」

 

 

 

 ……難しい話、だな。

 これは簡単に肯定も同意すべきでもないし、恐らく慰めるべきではないのだろう。

 

 ただ、理解はできる。

 そもそも俺もエステルが動かなければ動くことはできなかった。

 

 視点の違いだ。俺は俺だけでは何もできない。

 少なくとも、個人の強さとしてはエステルの方が強いのだから。

 

 

 

「ダメダメですね。私も、もっと成長しないとダメです」

「……俺の方こそ、な。もっと頑張らないと」

 

 

「む、アルさんはすごいですよ。私なんか師匠面しといてダメダメです」

「エステルの方がすごいぞ。俺に無い物をたくさん持ってる」

 

 

「むむむ……でもアルさんの方が」

「エステルは俺より、ずっとすごい」

 

 

「……いや、不毛なのでやめましょうか」

「……そうだな」

 

 

 

 結局のところ、無い物ねだりだ。

 

 欠けたものは足したくなる。足りないものは補いたくなる。

 補えないものは、どうしても補えないものは、ただ羨ましくなるだけ。

 

 悩んでも仕方ない。自分にできることは所詮、自分にできること。

 

 

 だから、自分にあるものを強くするため、鍛錬するしかない。

 

 

 決めたことだ。俺はもっと強くなる。

 

 

 ……。

 

 

 

「……夜が明けますね」

「ああ」

 

 

「アルさんは……、どうして強くなりたいんですか? ああ、いえ、強くなくてもきっと、幼馴染さんは認めてくれるでしょうに」

 

 

 

 ……どうして、か。

 

 それは、一言で言える。あいつの隣に立つため。

 

 もっと正確にいえば、俺はあいつと対等になりたい。

 強くなって、あいつを守らなきゃいけないとかじゃない。

 ただ弱いばかりに、一方的に守られるだけの関係が嫌なだけ。

 

 こう表せばただのわがままだ。無駄なプライドとも言えるかもしれない。

 でも優しいあいつが、俺を、俺たちを守るために傷つくのは間違ってると信じている。

 

 だから。

 

 

 

「俺は、強くならなきゃいけない。弱い俺のままあいつの隣にいられても、そんな俺を俺が許せない」

 

 

 それだけの話だ。

 

 

「……そう、ですか。頑張らなきゃ、ですね」

「道は険しいと分かってるけどな」

 

「アルさんの良いところは強さばかりでは無いです。が、強くなければ認められない、というのも分かります」

 

「おう。だからよろしくな、師匠」

 

 

 朝日が昇る。

 自然の明るい光に照らされたエステルの表情は、少し曇りから晴れたように思える。

 

 

「そう、ですね。曲がりなりにも私はあなたの師匠になったのですから、師匠に相応しく頑張りたいと思います」

 

「ああ。……とりあえず、俺は夜でも鍛錬できるような魔術を覚えたいな」

 

「ふふふ、休むことも大事ですよ。それに理論が先です。いえ、実践から入るのも決して悪くはないのですが、やはり知識の有無は大きいですし」

 

 

 

 話しながら宿に戻る。少しずつ、町が明るくなっていく。

 

 明日……いや、夜が明けたのだから今日だな。

 教会からアリアが戻れば、俺たちも次の街へと出発だ。

 

 ようやく元々の目的地、法国に帰還する。

 

 魔族の痕跡を探るクエスト。

 その先に何が待っているかは分からないが……気を引き締めねば。

 

 

 

 ……。

 

 ただ、ちょっと思わず徹夜になってしまったので今は仮眠を取った方が良いか……。

 

 

 

 

・・・




聖剣ちゃん「え、暗い? 光る? ……眩しい? ……これくらい?」

聖剣ちゃん「よし……主の役に立ってる……!」

聖剣ちゃん「敵もばっちり斬ったし、これは大活躍……!」






(超絶遅刻オブ謝罪)(土下座……)

(先に告知している通り、次回の魔女パートにて本章終了)
(次回更新はおおむね1週間~10日前後の予定)
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