勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん   作:Mckee ItoIto

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(勇者パート)

すみません、師匠のラブコメはちょっと入荷が遅れてまして……。そのうち入荷しますんで……。



聖剣が強すぎるせいで中々成長を実感できない

・・・

 

 

 

 魔術院の廊下を先導する少女の後ろ姿に、少し考える。

 果たして、この魔術師の強さは如何ほどか。

 

 今まで出会った魔術師は、あいつを除いて全員が魔道具を持ち歩いていた。

 杖、魔導書、ローブ、魔剣。変わったやつだと大鎌とか、箒なんて奴もいたな。

 

 

──魔道具を使わないのか? いや使うよ? そりゃ使った方が楽だし?

 

──でもまあ無くても同じことできるし必要なら必要に応じて作るか呼び出せばいいだけの話だし?

 

──いちいち持ち歩くのもめんどいから私は手ぶらなだけだよ。ほら手ぶら。

 

──……あ、うん。そうだね。だから丸腰の魔術師に会ったら気をつけたほうがいいかも。

 

──魔術師に必要なのは魔力なんかよりも応用力と想定力。優秀な魔術師は常に状況を想定して用意を怠らない。

 

──つまり用意が無いのは用意できない初心者か、ただの馬鹿か、もしくは予め用意を必要としない超一流のどれかってこと。

 

──下手にがちゃがちゃ装備してる魔術師よりも、やばいかもしれないからね。

 

 

 何故か胸に両手を当てながら話していたあいつのことを思い出す。今考えてもあのポーズは意味がわからんが……。

 ともかくあいつも使うことがあるということは、魔道具を使わない魔術師は、まず存在しないと考えていいだろう。

 

 そして目の前の少女は手ぶらで普通の服装。他に何か持っているようには見えない。

 ……流石に初心者でも馬鹿でもないだろう。

 

「気を引き締めたほうが良さそうだな」

「どゆこと?」

「多分あの子、相当強いぞ」

「そりゃそうでしょ。あの魔神さまのお墨付きだもの」

「まあ、それもそうか」

 

 それに、そもそもここは魔術の最高峰と呼ばれている帝国魔術院だ。全員がそうだったとしてもおかしくは……。

 いや、でもすれ違った人たちは杖とか持ってたな。手ぶらだったのは受付の人くらいか。

 超一流の人が受付なんかしてるわけがないから、あの人はただの事務員だろう。

 だからまあ、最高峰といえどもやっぱり普通は何か身に付けているわけだ。

 

 だからこそ、この少女の異質さが際立つ。

 仮にも最強と噂されている奴が推薦するのだから、ただの魔術師なわけがない。

 

「到着ですよ。どうぞ」

「おぉ……広いね」

 

 分厚い扉が開き、通されたのは魔術院の高い建物にぐるっと囲われた中庭。

 地面は剥き出しの土で庭側の壁には一つも窓がなく、瓦礫のようなガラクタがいくつか転がっているのみで他には何もない。

 吹き抜けの青空と太陽の光でかなり明るいのだが……少し圧迫感を感じるな。

 

 日が高い。そろそろ正午過ぎになるか。

 

「ここが第三魔術試験場です。大規模魔術のための試験場になりますね」

 

 少女が厳重に扉を閉めながら説明してくれた、のだが……。

 

 えっと、それはつまり今から大規模魔術使いますってことだろうか。

 俺たちが今からするのって、模擬戦なんだよな?

 というかこれ、もしかして閉じ込められたんじゃないか……?

 

「あ、もちろん壁も強化されてますが、空にも結界が張られていますよ。必要な空気や光以外は一切何も通さない特製のものです」

「へー、全然見た目わかんない。普通に空が見えるだけなのにねぇ」

「なので、うっかり外に飛び火したり空から何かが飛び込んできたりは無いから安心ですねー」

 

 いや、完全に密室じゃねえか!!

 まあ最悪、聖剣でどうにでもできるだろうけど……。

 

「ちょっと試してもいい?」

「構いませんよー」

 

 ベルが弓に矢をつがえて魔力を込め、真上に放つ。

 空気を引き裂く矢は当たればワイバーンすら一発で落とす強力な一撃だが……?

 

 

 ぱん、と間の抜けた音を立ててあっさり矢が落ちる。

 

 

「うわ……ちょっとショック」

「まぁ、あれはここの院長でも破れないので仕方ないですね」

 

 それはつまり、帝国魔術院長以上の実力者があの結界を張った、ということになる。

 

 魔神と呼ばれる男、デュシエル……か。

 

 でも、きっとあいつならいけるんだろうな。

 あっさりと、余裕な表情で突き破るのが容易に想像できてしまう。

 そしてニヤリと得意気に笑ってこちらを振り返るのだろう。楽勝だったよ、と。

 

 なんか聖剣からも「自分いけますけど!」みたいな意思を感じるが。いや、今はダメだぞ?

 

「ちなみに私なら、時間さえかければ穴を空けられますよ」

「えー、時間かけていいなら私だって何百発か撃ち込めば」

「いや無理ですねー。あれはダメージを丸めて全部ゼロにしちゃうので、別のアプローチが必要になるんです」

「むむ……ちなみにあれ、上から乗るとどうなるの?」

「乗れますよ。ただしずっと乗ってると形状が変化して、外側に押し出されちゃいますね」

「あー、なるほど。ゴミとか溜まるかもだもんね」

「……そろそろ始めようぜ?」

 

 雑談し始めた少女とベル。いや目的忘れてないか?

 アリアも微笑ましく見てないで、突っ込んでくれ……。

 

「……そうですね。すみません、私から提案した模擬戦でしたのに」

「アル?」

 

 いやなんで俺が悪者みたいになってるんだよ。

 

 試験場の中央まで歩いていく少女。

 ついて行こうとしたら手で制されたので、俺たちは入り口近くで待機。

 

 

「さて……模擬戦とは言いましたが、実力のわからないもの同士で不測の事態があると困りますので」

 

 

 

 

 

──『魔動機兵・召喚』

 

 

 

 

 

「これと戦ってみてください。訓練用のゴーレムです」

 

 地響きが轟いた。

 土煙をあげて着地したのは、3体のかなり大きな金属鎧。

 巨大なハンマーを持つ鎧。二本の剣を持つ鎧。そして、謎の筒を幾つも持つ鎧。

 

 不気味な威圧感がある。ホントに訓練用か……?

 

「え、えぇ……何でもないように使ってるけど空間転移……? 超上級魔術じゃん……」

「あ、えっと……これ厳密には転移じゃなく召喚で、決まった単方向にしか、それに結界内で使うにも色々条件が」

「始めようぜ?」

 

 話が長くなりそうだったので打ち切る。

 白い目で見られたが、俺は悪くないはずだ。だよな?

 アリア、ニコニコしてないで何かいってくれ……。

 

「……ちゃんと安全装置は付いてるので安心してください。それでは始めます」

 

 全く安心できない見た目の鎧が、見た目から想像できないほど静かに、素早く動き始めた。

 重量級にしか見えないがかなり機敏な動作だ。下手な冒険者よりもよっぽど、

 

 いや、というか速過ぎでは!? 絶対これ訓練用じゃないだろ!!

 

 

 

「……行け! バイオレンスアーマー! キリングアーマー! ジェノサイドアーマー!!」

 

 

 

 しかも名前が、なんか不穏っ!!

 

 って、

 

 あ、ちょ、聖剣待っ────

 

 

 

 

 

 

「──え?」

「あー……」

 

 こりゃ台無し、だな……。

 制御の一切を失った鎧たちは、そのまま頭から転倒して動かなくなってしまった。

 

「やっちゃったねぇ……」

「すまん、鞘に収めたままなら大丈夫かと思ってたんだが……」

「あ、え……?」

 

 おそらく、聖剣が魔力を無力化したのだろう。

 それじゃ模擬戦が成立しないから使うつもりなかったんだが……。

 

 ピカピカ光って「楽勝!」と主張してくる聖剣を背中から下ろす。

 

「悪いアリア、やっぱ預かっててくれ」

「でもアル様、それでは武器が……?」

「たまには使わず戦ってみるのもいいだろう。いい修行になる」

 

 聖剣が「あれ? 自分なんかやっちゃいましたか!?」とばかりに光ってるが、今回はちょっと留守番な。

 確かにこの子は凄い魔術師だろうが、流石にあいつほどじゃない。

 やっぱ魔術師相手にお前を使ってちゃ勝負に……。

 

 

 

「待って、下さい」

 

 

 

 鎧に駆け寄って何か調べていた少女が、ゆらりと立ち上がった。

 いつの間にか、その手には魔力光を放つ長杖が。って、今……無言で魔術を使って杖を出したのか?

 あいつもたまにやってた、宣言無しの魔術行使。わかってはいたが、やはり、ただの魔術師じゃないようだ。

 

「本気で、やります。()()()()()()()()()使()()()()()()()()()

 

 ガタッ!! と聖剣から音が鳴る。

 いや聖剣は自分では動けないので実際には鳴ってないのだが、強烈な抗議の意思を感じた。

 

 ていうか落ち着けって……多分悪気は無いんだろうから……。

 今の俺たち、全然知名度無いから所詮ただの自称勇者と古くて凄い剣ってだけなんだしさ……。

 法国だけがアリアを通じて勇者だと認識してくれてるものの、それだって勇者見習いみたいな感じに過ぎない。

 

 まあ別に俺は有名になりたいわけじゃないしな。

 あいつを守れるぐらい強くなり、あいつの隣に立つ。俺の望みはそれだけだ。

 もっと強くなって、聖剣の力も使いこなせるようになって、そのついでに魔王を倒す。

 結果として勇者と呼ばれるなら、それでいいじゃないか。その過程に聖剣も不満はないはずだろ?

 とりあえず、落ち着いてくれ……落ち着けー……あの子は斬っていい敵じゃないぞ……。

 

 

 

「仕切り直しです、構えてください」

「正直やめた方がいいと思うんだが……」

 

 

 

 最初と明らかに雰囲気が変わった少女が、物騒な気配と共に立ちはだかる。

 

 いやだからこれ、模擬戦なんだよな……?

 

 

 

・・・

 

 

 

「んー、私は少し下がった方がいいかな」

 

 ベルがアリアの位置まで下がる。

 アリアは相変わらずニコニコして……いやなんか楽しんでないか?

 

 うーん……やるしか、ないか。

 

 

「仕方ない、やろう」

「『拘束』」

 

 

 聖剣を抜いて構えた瞬間、間髪入れずに魔術を使われるも何も起きなかった。

 一切躊躇が無い不意打ちだったぞ……意外とこの子えげつないな……。

 

 

「……『肉体虚脱』」

 

 

 再び魔術が使われる。

 しかし何も起きない。

 

 

「なら、『火球』」

 

 

 聖剣を軽く振る。

 キラリと光る刀身の輝きに、いくつもの拳大の火の玉がことごとく消え去る。

 

 

「『瞬間跳躍』『浮遊』」

 

 

 距離を詰めた俺から逃げるように、高速で後方へ飛び上がる。

 ……って、いや俺、遠距離攻撃の手段がないんだが?

 飛ばれたら何もできないぞ……どうすっか……。

 

 チラッとベルを見るが手を振られるだけ。

 いや前衛が困ってるんだから仕事しろ後衛。

 

 

「『疲労回復』」

 

 

 ……?

 身体が少し軽くなった?

 

 

「なるほど……では、『過剰治癒』」

 

 

 何も起きない。

 

 

「効力を認識してる……? とんでもない魔剣ですね……『構造解析』」

 

 

 何も起きない。

 

 

「うーん駄目……術式破壊というより消去……例外化……無の上書き……?」

「……」

「一体どうやって術式に割り込んでるんだろ……そもそも条件……どういう基準で……」

「……おーい?」

 

 飛ばれたまま考え込まれてしまったので、何もできない膠着状態が続く。なんだこの状況は。

 あと、ベルも見てないで牽制くらいしてくれよ。お前も模擬戦に参加する予定だったろ。

 

 しょうがないなぁという表情で弓に矢をつがえて放つ。

 いやしょうがないなぁじゃないんだよ。てか今更だけどなに観客になってんだお前。

 

 絶妙に手加減され射線を少し外した矢に少女が反応し、ひらりと避ける。

 さっきから思ってたが、魔術師の割に意外と身のこなしが軽いな。

 ふわふわと、改めて距離を取られてしまう。

 

 ……そうだ、飛ぶのが魔術によるものなら……いや、危ないか?

 

 うーん、まあ、ちゃんと受け止めれば問題ないだろ。

 

 やってみるか。よし、やってくれ。

 

 

 

 

 

 

 聖剣が、強烈な光の波動が放つ。

 

 

 

 

 

 

「え、ちょ」

 

 突如として浮力を失った少女が真っ逆さまに落ち──

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

「……」

「……」

 

「……離して、ください」

「ああ、じゃあ飛ぶのは無しな」

「わかりました、わかりましたから」

 

 抱きとめた腕の中からもがく少女を解放すると、ぎこちなく離れていく。

 その様子をベルは、やれやれだよ、と呆れた雰囲気で見てくる。

 アリアは相変わらずニコニコ……じゃなくもはやニヤニヤといった表情。

 ……絶対楽しんでるだろこの状況。見せ物じゃないぞ。

 

「……あなたっていつもそうなんですか?」

「なんの話かわからんけど、今の俺は普段と変わってるつもりはないぞ」

「こうも女の人をはべらせて、挙句私の身体までべたべた触って……」

「ちょっとまて、なんか特大の誤解をされている気がする」

「どんな、気持ちで……!」

「あ、いや、よくわからんがすまん。触って悪かった、許してくれ」

 

 わけもわからず急に少女が怒りだしたので早急に白旗を揚げる。

 女の子が怒った時点で男は負けだ。とにかく謝らなければならない。

 そう元盗賊優男のドレイクも言ってたしな……おいやめろベル、天を仰ぐな。

 アリア助け……る気ないよなくっそ……なんでそんなにいい顔してるんだよ。

 どうして俺が悪者みたいになってるんだ……いや俺が悪いのか……?

 

 

「何もわかってないのに? 許す? 何をですか? ……『身体強化』『武器硬化』『爆裂付与』」

 

 

 エンチャントされた杖が地面を叩き、バンッと火花を散らす。

 いやブチギレじゃねぇか……一体何が正解だったんだ……。

 仕方なく聖剣を構えて、少女を待ち構える。

 

 

「わからないことを謝る必要はありません。そんなの聞く気にもなれませんから」

 

 

 もう話を聞いてもらえそうにない。

 ……しょうがない。一旦この模擬戦、終わらせるか。

 

 

「直接、干渉すればっ……『瞬間跳躍』!!」

「悪い」

 

 

 聖剣の意思をなぞり、全ての付与魔術を無効化して正確に杖を弾き飛ばす。

 

 呆然とする少女に切先を突きつけ、これにて模擬戦は終了だ。

 

 ゆっくりと回転しながら宙を舞っていた杖が、少し離れたところに突き刺さった。

 

 

 

 

「これで俺の勝ち、だな。合格か?」

 

 

 

 

 ……正確には俺の、じゃなくて聖剣の、だがな。俺だけの力じゃ死んでも無理だった。

 聖剣が無ければこの、俺よりも年下に見える少女に手も足も出なかったはずだ。

 やっぱり俺は弱い。もっと強くならなければ。

 

 少女が、無言で杖を拾いにいく。まだ続ける気だろうか。

 

 小さくため息をつき、こちらを振り返って、逡巡するように何度も口を開き、告げる。

 

 

 

「……とっくに合格、してますよ。その剣がある時点で恐らく問題ありませんから」

 

 杖を、恐らく魔術でどこかに仕舞った少女が、少し悔しそうな顔で告げてくれた。

 振り返るとベルがニヤニヤ笑っていた。お前……勘づいてたなら言えよ。

 

「依頼は受けます。さっきまでのは私の我儘でした。お時間取らせてしまい申し訳ございません」

「ああ、それは別に構わない」

 

 遺跡探索の依頼も時間的に厳しいわけではない。

 それにどうせ帝国を出発するのは明日だ。宿は今日まで取ってあるからな。

 

「というか反則すぎます。落とされた瞬間、結構焦りましたよ」

「ああ、その時のこと、やっぱ悪かった。なんにせよ知らん男に抱き止められるのは気分が良くなかったろ」

「別にそれは……あー……私のことに関しては、大丈夫です。そこは許してもいいです」

 

 許してもらえた? のか? なんか含みがある気がするが。

 

 まあともあれ、これで依頼は受けてもらえたってわけか。

 色々と道具の補充もしたし、帝国での予定も全部終わりだな。

 美味いと噂の食事も十分堪能したし、今夜も食べるし。

 忘れてること、ないよな……。

 

 ……あ、そうだ。

 

「なあ、この試験場って何時まで使えるんだ?」

「……日没までですが、なんでしょう」

「最初のゴーレム、また出せるか?」

「え、……あーいえ、あの子たちは術式の再付与が必要なので違うゴーレムでしたら」

「今日はもう、これでお開きだろ。もし時間があったらでいいんだが少し修行に付き合ってくれないか」

「……」

「……」

「……お好きに、どうぞ。『魔動機兵・召喚』」

 

 ちょっと図々しいかとも思ったが、聞き入れてもらえたみたいだ。

 剣を持つ金属鎧が現れる。最初のやつらよりは少し弱そうだが、相手としては十分すぎる。

 さっきのゴーレムの動きからして、そこら辺の魔物よりもずっといい修行相手になりそうだって思ってたんだよな。

 結界で周りのことも気にしなくていい、安全らしいし万が一の怪我もアリアがいるから心配ない、相手がゴーレムだからこっちがやりすぎてしまっても心配ない。

 ここまで条件が揃ってるのも中々無いだろ。修行も捗りそうだ。ガンガン頑張ろう。

 

「アリアは聖剣を預かっててくれ。ベルは……先に帰ってていいぞ」

「いやなんでよ。一人で帰ってもしょうがないし終わるまで待ってるって」

「怪我は癒しますが、なるべく無理はされないよう……」

 

 と、いきなり鞘に入った長剣が飛んできたので思わず受け取る。

 

「素手でやるとかバカですか……あなた剣士でしょう、使ってください」

「おう、ありがとうな」

 

 こちらを横目で見ながら、ぶっ倒れたままの鎧たちの方へと歩いていった。

 

 うん。なんだかんだ、悪い奴ではないなこの子。

 

 

 

 よし! やるか!

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 訓練用ゴーレムの剣を、借りた剣で弾く。

 なんか昔使ってた市販の剣より使いやすいなこれ……。

 あとで売ってくれないかな。いや聖剣が拗ねるか?

 

「……流石に、そろそろ休憩にしたらどうですか」

「ああ、そうだな」

 

 対峙していたゴーレムが動きを止めたので一旦小休止。日もかなり傾いてきた。

 アリアから飲み物を受け取り飲み干す。冷えてはいないが、十分に喉の渇きは満たしてくれる。

 そして身体の調子を見るためにアリアが俺の腕や腰を触るが……やっぱこれちょっと恥ずかしい。

 

「疲労のみですね。彼のものに安らぎを、『安息の奇跡(Quies)』」

「相変わらず、よくやるよねぇ」

「まだまだ俺は弱いからな。もっと強くならないと」

「……あなたは十分強いと思いますよ」

 

 倒れたゴーレムの上で何か作業をしていた少女が地面に降りてくる。

 

「特にその魔剣があれば、間違いなく上級の冒険者を名乗れると思います」

「いや、それじゃダメだしまだ足りない。あと、魔剣って呼ぶのやめてあげてくれ、こいつ聖剣だから」

「……聖剣?」

 

 やっぱり知らなかったようだ。俺らやっぱり知名度無さすぎでは?

 

「……えっと、御伽話のですか?」

「そうそう、つまりアルは勇者様ってわけ。そう言っても全然信じてもらえないけどね」

「私は一目見た時からずっと信じておりますよ。アル様は一途で純粋な思いを持つ、立派な勇者様です」

「一途……ずっと空想の幼馴染のために修行してるんだもんねぇ。勇者というか、狂信者というか」

「いや俺はまだ勇者って言えないし、そもそもあいつも空想じゃないって」

「……あいつ?」

「とっても凄い魔術師の女の子だそうですよ。アル様はその子と離れ離れになってしまって……」

「アルはその子を見つけるために旅を続けてきたってわけ。聖剣を抜いちゃったから、勇者の使命もできちゃったけどね」

「まあ世界なんか、あいつのついでで正直いいかなって思ってるがな」

「あはは、すごいこと言うじゃん。勇者失格だねぇ」

「いえいえ。その純粋さ、女神様もお認めになっておりますよ。聖剣がその証ですから」

「……ふーん」

 

 興味をなくしたのか、再びゴーレムの元へと行ってしまう。

 

「ところであのエステルちゃんと幼馴染ちゃん、どっちが凄いの?」

「うーん……あの子には悪いが、やっぱりクーのがずっと凄かったな」

「えぇ……やっぱ幻想だってその幼馴染。エステルちゃんもこの目で見てなかったら実在が疑わしい幻想級の女の子なんだよ? それより凄いってもう人間じゃないじゃん」

「いいや、人間だよあいつは。凄いだけの、ただの女の子なんだ。だから俺は、あいつをただの女の子として守るために、もっと強くならないといけない」

「いやぁ、その心がけは立派だけど、やっぱりちょっと信じがたいかなぁ」

 

 

 

「信じますよ」

 

 

 

 ゴーレムの山の裏から声が聞こえた。聞いていたのだろうか。

 なんか貶めたみたいになってて申し訳なかったんだが……。

 

「丸ごと全部、信じてあげます。そんな人を本当にただの女の子にしようというのなら、私はあなたを勇者と認めざるを得ませんね」

 

 倒れていたゴーレムが霞のように消える。

 その裏から現れた少女の姿はどこか吹っ切れた様子に見えた。

 

「改めて、自己紹介をさせてください」

 

 手ぶらで俺たちの前に立つ、堂々とした姿の超一流の魔術師。

 

 

「私はエステル・ドゥ・ラ・リベルテ。魔神の唯一の弟子にして、いずれ魔神になるべき魔術師」

 

 

 右手を差し出される。恐る恐る、その手を握る。

 

 

「あなたを仲間と認めたいと思います。今後ともよろしくお願いします」

 

 

「お、おう」

「気軽にエステルと呼んでください、アルさん」

 

 よくわからんが、認めてくれたらしい。

 というか女の子の手をちゃんと握るの、あんまり経験ないからちょっと気恥ずかしい。

 

「……さっきはすみませんでした。少し、誤解していたようです」

「あぁ……いや、別に気にしてないからいい」

 

 奇しくもさっきと逆の構図になったが、いやちょっと握手長くないか?

 じんわりと体温が伝わってきて、さっきは気にしてなかったけど抱き止めた時の感触が……いやいやダメだ!

 

 ちょっと後ろの二人、そんないい表情してないでなんか言ってくれ……!

 

「あー、えっと、魔神の推薦というか、そもそも弟子だったんだな。通りで凄いわけだ。ところでデュシエルって男は実際どんなやつなんだ?」

「デュシエル……? あー、そういうことですか。なるほど……」

 

 首を傾げてから何かを納得したようだが、いや、だから何がなるほどなんだ?

 

「違いますよ。デュ・シエルです。なので、呼ぶとしたらシエルですね。あと男……うーん……」

 

 

 なにやらまた考え込み始めてしまった。

 そして右手がようやく解放されたが、なんとなく開いたり閉じたりしてしまう。

 なんかこれ、まさにモテない男の挙動だよな……なんかアリアの時と違う恥ずかしさを感じるぞ……。

 

「うーん……いや大丈夫、かな。会った方が話が早いし……」

「おーい……?」

「よし、これから少しお時間もらえますか? ご紹介したいと思います」

「えっと、まあ大丈夫だが。二人はいいか?」

「おお、噂の魔神さまに会えるの? やだちょっとすごい楽しみ」

「私も構いませんよ。是非ともお話しさせていただけたらと思っております」

「あー……お二人は別の機会の方が、あ、でも衝撃は一度の方が? 私が説明すれば大丈夫かな……?」

 

 よくわからないが、これから例の魔神に会える流れになったらしい。少し楽しみだな。

 謎のベールに包まれた、最強の魔術師デュシエル……じゃなくてシエルか。どんな男なんだろうか。

 

「ご案内します。あ、時間的に特訓も終わりになりますね」

 

 エステルが手を振って、剣を消してしまう。めっちゃいい剣だったからなんかすごく名残惜しい……!

 聖剣がピカピカ「私がいるじゃん!」と主張してくる。そうだな……お前以上の剣はないもんな……。

 でもお前ちょっと強すぎるから、ほどほどの使いやすい修行用の剣も欲しいんだよ……。

 

「アルさんも、きっと驚くと思いますよ?」

「アリア、どうしよ。もしかしたらやっぱり改宗するかも」

「それを私に言われても……」

「……えっと、みなさんいきますよー?」

 

 

 

 

 

 

 魔術院はかなり広い。

 どこも似た構造をしてるから今どこにいるかわからなくなりそうなものだが、エステルはスイスイと迷わず進む。

 何度も階段を降りては昇り、昇っては降り、置いていかれたら多分これ一生追いつけないな。

 

 というか、外から見た時より明らかに広くなってないか? 気のせいか?

 

 

 

「もうすぐ到着、ですねー……?」

 

 

 エステルが立ち止まる。その向こうには、シンプルな鎧の中年の男が。

 

 あれが魔神……なのか?

 魔術師っぽくないし剣を持ってるから、多分違うよな……?

 

 

「ずいぶん遅かったな。待ちくたびれたぞ」

「兵長さん……?」

 

 やっぱり違った。

 どうやら待ち受けていたのは、魔神ではなくて兵長さん? だったらしい。

 ってことは帝国兵の長ってことだよな。帝国兵って魔術院にいるもんなのか?

 

「まったく、陛下も困ったお人だ……」

「えっと、ししょーは……あ、いや、まさか」

「陛下よりお言葉を賜っている」

「え……」

 

 

 

 

 

「”しばらく使う。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”とのことだ」

 

 

 

 

 

「、……、……はい、確かに、承知いたしました」

「やれやれ。お前が賢明であることを祈るよ」

 

 男は立ち去っていった。

 というかあの男、清々しいくらい俺たちのこと完全に無視していったな……。

 蚊帳の外感が凄かったのだが、凄まじく漂う緊張感に何も言えなかったぞ……。

 

「えっと、大丈夫か?」

「えぇ、大丈夫ですよ。魔術師心得その一、魔術師は常に、冷静に、合理的に、論理的に。私は今、冷静で、合理的で、論理的な判断が出来てます。だから大丈夫です」

「……大丈夫か?」

「大丈夫ですって。あー、みなさんすみません。無駄足となってしまいました」

「うーん、残念だけど仕方ないよね。気にしないで」

「ええ、いずれまた機会もあるでしょうから」

「本当にすみません。出口まで送りますねー」

「……」

 

 一見、何も変わらないように見えるが、無理してるのが分かる。

 明らかに今のエステルは、冷静を装っている。

 本来はさっきの模擬戦の時のように、もっと感情的なはずだろうに。

 

 どんな事情があるかわからないが、気にかけてやった方が良さそうだ。

 

 

「では、明日から改めて宜しくお願いします」

「ああ、よろしく頼む。……依頼中の関係とはいえ俺たちは仲間なんだから、何かあれば相談に乗るからな」

「ありがとうございます。何かあったら、その時はお願いしますね?」

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

(久々の冒険者っぽい仕事、楽しみだなー)ワクワク

「……貴様の今回の仕事は、あくまでも護衛が主であることを忘れるなよ?」

「ええ、なんでもお任せください。どんな危険からもお守りいたします!」

「……まあ、やりすぎなければ何でも良い。任せる」

 

 

 

・・・




聖剣ちゃん「よりにもよって魔族の武器と間違えるとか!!今は人間も使ってるんは知ってるけど!!絶対喧嘩売ってるって!!!」

聖剣ちゃん「え、主を勇者と認めてくれるの?ほなええか……」




(今回出た弟子のゴーレムをまとめても師匠の農作業ゴーレムのが強いみたいです。農作業用とは……?)
(あと何気に兵長さん、伝言伝えるためだけに正午から日没近くまで一人で待たされてて可哀そう)
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