勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん 作:Mckee ItoIto
プロローグとチュートリアル、これにてひと段落です。
・・・
この世界での魔術の定義とは、魔力現象、つまり魔法を操る術式を用いることである。
遥か昔、強力な魔物たちが魔力で強引に物理法則を捻じ曲げて起こす固有の現象を、魔法と呼ぶようになった。
大火を起こし、洪水を起こし、暴風を起こす。それはまさしく災害であり、魔物が現れる度、人類に多くの被害がもたらされた。
人類にも魔力はあった。しかし魔法を引き起こすほどの魔力を持つものは滅多に現れることはなく。
長らくの間、人類は魔法使いと呼ばれる極僅かな突然変異的存在以外、魔物たちに対抗できる者はいなかった。
底辺を這う人類に追い打ちをかけるように、賢く器用な魔物が他の様々な魔物の魔法を魔力で模倣、再現するようになり、自身の魔法として用いるようになる。
その魔物の姿形は人間に酷似しており、人間の言葉すら操り人類の上位種として振る舞い始めたそれは魔王を名乗るようになった。そしてその眷属は魔族と呼ばれるようになる。
しかし長い年月が過ぎ、一人の天才的な魔法使いが魔族のそれの模倣、再現を成功させる。
術式として汎用化されたその技術は、忌避されつつもその実用性から、魔物と戦う人の間に広まることとなった。
次第にその技術は洗練され、効率化され、より少ない魔力でも扱えるようになり、ついには全くの新しい魔法の術式さえ作り出される。
いつしか、魔法使いは魔術師と呼ばれるようになり、望み学べば誰でも魔法……魔術を扱える時代が訪れたのだ。
それが、人類史における魔術の興り。今から500年くらい前の出来事になる。
うん、だからまあ……歴史的に見て、魔術師を魔物扱いして迫害するっていうのも納得できなくないんだ。
魔王の登場が800年くらい前なので、その時代が人類にとっての暗黒時代だったのだろうってことは想像に難くないから。
そういった背景の歴史認識が今も残っているというのは、絶対に忘れるべきではないよね。
当時の魔王を討ち滅ぼしたのは、およそ700年前の勇者。
まだ人類には僅かばかりの魔法があるばかりで、魔術なんてまだ影も形も無い時代。
元々から魔物に食物連鎖的な意味で負け続けてきた人類は、更にその暗黒時代にて、魔王率いる魔族に酷く虐げられてきた。
人類は魔物と魔族たちによって急激に数を減らし、もはや滅びを待つばかり、といったところだったのだ。
それを良しとしなかった女神様がようやく重たい腰をあげる。
救いを求める人類の祈りを聞き入れ、様々な恩寵がもたらされることとなる。
聖職者たちに奇跡という魔法に似て非なる力の恩寵を。そして脆弱な人の身を強くする守りの恩寵を。
女神の力で人々は狩られる立場から反転攻勢に出られるようになった。
それでも魔王の軍勢は強大で、人々は戦いながらも更なる祈りを捧げ続ける。
かくして、当時の人類最大勢力だった王国にもたらされた最大にして最後の恩寵が、聖剣。
人類に降りかかるあらゆる魔法の、その全てを打ち消し斬り払う、無敵の神器。
だがしかし、その強力で純粋な神気を受け入れられる人間は、なかなか現れなかった。
人々は待望する。人類の希望を。闇を照らす光を。そしてその祈りはついに届く。
ようやく現れた聖剣の担い手を、人々は勇者と呼び、熱狂し、歓待し、多くの支援を施した。
勇者は魔法使いと聖職者を仲間とし、人々を助けながら旅を続け、ついには魔王を斃す。
希望の力が暗黒時代を斬り裂いて、世界に平和がもたられたのだ。
これはいまや御伽話の中で語られるお話。でもかつて実際に起こったお話。
もはや王国でも忘れられかけている、そんな勇ましくも在り来たりなお話だ。
そしてそのお話の続き。魔王は一度滅んだが魔族の残党は残っていた。
もたらされたのは仮初の平和。人々は魔物と魔族の危機を完全に克服したわけではなかった。
勇者は生涯奮闘したらしいが、殲滅を果たすことは終ぞ無く。
現代にも、その闇は未だに燻り続けている。
しかし残念なことに、人々の危機感はどんどんと薄まっていく一方だ。
魔物との戦いの技術も年々向上し、冒険者たちの討伐活動も活発となっている。
勇者に頼らずとも彼らは、それなりに魔物たちから人類を守れてしまっている。
20年ほど前に魔王の再誕が宣言されたのだが、今の魔族たちはそこまで積極的に表立って動くこともない。
なのでかつてのような勇者待望論も起こり得ず、勇者も聖剣も忘れ去られたままだ。
私はあいつの手がかりを探すために、最後の映像に見たあの剣に関する、あらゆる文献を探し始めた。
だけどその数は多くなく、あの時からこれまでに見つかったそれらも、噂、作り話、虚偽、誇張がほとんど。
事実を調べるには、断片的すぎるものばかりだった。
たったの700年。
この世界の人類には、数百年生きる長命種も存在しているというのに。
その実在は創作の衣にカビの生やした伝説として、あっさりと散逸してしまったのだ。
……そう考えるとあの融通の利かない無機物も、ちょっと可哀想だよね。
人々に望まれて生まれたのに、勇者が死んで、扱えるものが誰もいなくなって。
魔王を倒す役目を終えて、しばらくは祀られたりしたのだろうけど、結局すぐ忘れられて。
滅びることもできずに次の役目をずっとずっと待ち続けて、ついには再び魔王が現れたのに、それから二十年も主は現れず。
ようやく素質を持った者が聖剣の担い手となったというのに、喜びの声も、希望の祈りも、どこにもない。
それでも淡々と、機械的に、聖剣としての役目を果たし続けているんだ。
ほんと健気で、悲しい存在だよ。
まあそれはそれとして絶対にわからすけどな……!
必ず丸裸にしてやるぞ駄剣め……。
そんなこんなで使い魔くん4号の試作が頭の中でできたので、実装のために皇帝様の隣で歩きながら作業中。
不敬? 今更だろそんなの。皇帝様もこれに興味持ってるみたいだし。
4号のコンセプトは超望遠特化。魔力と電力のハイブリット構造で、稼働全体はともかく観測に関してはほぼ魔力を使わない。
光学的な索敵、いや敵じゃないけど、魔力に頼らない方法でいけば魔力不干渉バリアを抜けるんじゃないかなって思ったけど……。
うーん、やっぱ難しいかもなぁ。
魔力無しだと探知に時間かかるだろうし、大した観測距離を稼げないからぶっちゃけあんまりよく見えないかも。
ていうか、えーっと……観測人工衛星ってこんな感じの仕組みだったっけ……?
ぐ、うぉおお、前世の知識、知識、思い出せぇええ、……ないわ!
くっそ、もっとちゃんと勉強しとけばよかったっ……!
……まあいつものチートパワーでゴリ押しトライアンドエラーするしかないな。
そーれ使い魔くん飛べー。
この星を元気にぐるぐるしてらっしゃーい。ドラゴンには気を付けるのよー。
ていうかさっきから皇帝様、めっちゃくちゃこの使い魔くん4号に興味津々じゃない?
ちょっと説明してからの食い付きが良すぎてちょっと怖いんですが。
あ、いや、まだ試作なので完成まで時間がだいぶ掛かりそうなんですよ……。
ちょ、流石にそれは予算付けすぎじゃ、……?
……?
……ってあれ? 『契約』しないの?
てっきりいつもの無茶ぶりの流れだと思ったのに。
まあいいや。ちゃんと完成させるんでご安心を。
納期も珍しくだいぶ余裕ある設定だし。
それにしても、うーん、今日もいい天気!
絶好の冒険日和ですねぇ! ワクワクしますよ!
性急な皇帝様の要望で、転移の魔術で現場近くまで一気に飛んじゃったから旅路の風情もクソもほとんどないんですが!
ええんや、転移先の街から現場までは普通に徒歩だし、外歩くのも久しぶりなんだから……。自然の風が気持ちいいね……。
ちなみに本気ローブを着て行こうとしたらまだ要らんって言われたので今は普通の服。
どこにでもいるような街娘スタイルとマントだ。なんだかコスプレ感ある。
そして隣を歩く皇帝様は軍服姿。え? 皇帝様を歩かせるのは不敬?
知らんがな。こいつが勝手に歩いてるんだから私悪くないし。
以上。今回の視察メンバーとなります。はい。
いや街の拠点には世話係の人とか色々いるけど、実際視察に向かうのは私とこの人の二人だけ。
いくらなんでも身軽すぎんだろこいつ。護衛が私じゃなかったらもっと仰々しいんだろうけどさ。
あとなぜに直で現場に行かなかったかっていうと、転移術式、行ったことがないところには行けないからです。
いや無理すれば行けなくはないけど、下手したら石の中とか物の中に埋まりかねないので……皇帝様を奇妙なオブジェにするリスクは冒せないじゃん?
まあ私はそんなヘマしないけど、転移の危険性を知ってる皇帝様からしたら怖いだろうし。安全第一ですよ。
なので、以前から皇帝様が視察する際に使ってる拠点の防諜術式を目印に、まずここへ飛ぶってわけ。
いや、目印になっちゃう防諜術式ってダメじゃねって思うけど、まあこれ所詮は一般魔術師の術式だったので? ふふーん、隠蔽が甘いのよ。
ちゃんとガッツリ改造したったから私以外にはそんなふうには使えないだろうし今後は問題なしの安心安全セキュリティです。
この術式には周辺領域の監視もついてるから、前もって状況を確認して安心安全に飛べるわけですねぇ。
ところでこの転移術式も前に、皇帝様が汎用化できないかって提案してきたけど……まだ流石に、それは難しそう。
使うだけなら今の術式でも、それなりの容量の魔石かそこそこの自前の魔力があれば転移自体はできる。
一般魔術師じゃ制御できなくてどこ飛ぶかわからんだろうけどね。で、地面とか壁に埋まって立派な悪魔的芸術作品と化す。
仮に術式汎用化で制御が容易になったとしても、絶対に阿呆が安全確認怠って悲惨な重大事故を起こすに決まってるだろう。
だから、ちゃんとした資格ある実力者だけが使う形にした方がいいんじゃないかなーって逆提案して保留状態だ。
まあ一応、現状の術式記録自体は魔術院にあるから使いたいなら頑張って勉強してみてねって感じ。
公開レベルは院外秘ですんで、まずは魔術院試験に受かってメンバー入りしてからの話ですが。
ちなみに帝国魔術院に納められている術式記録の公開レベルは5段階ある。
ゆるい方から順に、公開、制限、院外秘、秘匿、禁忌となってて、簡単に説明すると、
公開が、一般見学者も閲覧可。持ち出し可のものと不可のものがある。
制限が、申請者が審査を経て閲覧可。持ち出しは不可。
院外秘が、魔術院の者のみ閲覧可。持ち出しはもちろん不可。
秘匿が、魔術院内でも限られた者のみ閲覧可。使用にも制限がある。
禁忌が、閲覧不可の封印指定。私も使用禁止。皇帝様の許可があれば例外。
これは術式の難易度とは関係なく、使った結果の影響範囲と重大度によって決められているらしい。
あと公開が2段階だから実質6段階じゃねぇか! っていうツッコミは受け付けてないみたいです。
この区分を決めてるのは魔術院長と副院長、皇帝様、そして影も髪も薄い魔術大臣さんの術式区分審査会の面々だ。
私はメンバーじゃないけどたまに意見を求められることもある。意見というか、術式の解説?
私が正式メンバーじゃないのは、この区分の、特に上から二つがほぼ私専用区分みたいなとこあるから。
魔術院特別顧問になる際、皇帝様に強くお願いされてその時点の保有術式を全部開示したんだけど、流石の皇帝様もドン引きしてたからね。
政治的にも経済的にも色んな意味で公開タイミングとか考えないといけないらしく、審査会はひと月以上ぶっ通しだったんだよ。逆にむしろ審査が早すぎて凄いよね。
何気なく作ったやつの中に普通にやばいのが混ざってたりもしてたらしく、ずいぶん大変だったらしいよ(他人事)
例えば禁忌術式を何個か挙げると、『感染……あ、やっぱなし。村時代後半の結局使わなかったやつとか全部駄目です。自覚あります。
えーと、ああ、あと『黄金錬成』とかもか。たしかにこれは使ったら経済壊れちゃうからね。
まあ禁忌ではあるものの、錬金術の極致としてよく知られているからこれを研究している人は多い。
いつか私とは違ったアプローチで黄金を作る人が出たりするのかなぁ。楽しみだね。
そしてせっかく作った術式が封印されてガッカリするといい。その道は私が既に何度も通った道だ……!
まあもちろん、こっそり使ったりしたい人もいるだろう。難易度的に使えるかは別として。
でも帝国の影響下でこの区分、特に禁忌を破るととんでもなく重い罰が待っているからね。
魔術院出禁からクソデカ罰金や市民権剥奪、シンプル処刑までより取り見取りです。
ここ独裁的法治国家だよ? どうなっても知らないよ? ちなみに出禁は魔術院を敵に回すという意味だからね?
形式上、魔術院の術式は審査会を経ているので、秘匿も禁忌も、私以外の4人だけは一応知っていることになる。
皇帝様と大臣さんは、術者としてのレベルは良くて中級冒険者程度だから知ってても使えないけどさ。
副院長なら普通に上級冒険者レベルだから、比較的簡単なのならいくつかは使える、かも。
この人は魔力にも才能にも恵まれてて、しかも思考が柔軟で学びに真摯な良い人だ。ちょっとエロ親父だけど。
そう。こないだの農作業ゴーレムの術式、やっと依頼評価返ってきたと思ったら同時に秘匿指定されちゃったんだけどね……。
この人ときたら副院長権限でかなり熱心に研究しだしたから……ゴーレム嫁でも作る気だろうか。
院長ならともかく副院長には多分まだ難しいよ?
……うん、院長だったら他の難しいやつも使えておかしくないかもしれない。というかあの人、私から見ても普通に頭おかしいから。
私が来る前から結構なレベルの魔術師だったけど、私が思考分割の術式を公開したら速攻で限界ギリギリ自己崩壊寸前まで使いだすようになったからね……大丈夫? 崩壊してない?
私ですら100分割以上は使えても使おうと思わないのに常時256分割は流石に常軌を逸してるのよ……正気の沙汰じゃないよ……こわいよぉ……。
自分凡人ですのでって言ってるけど、もはやあなたただひたすらにヤバい狂人なんすよ……仕事は途轍もなく出来るけど正直あんまり関わりたくはないな……。
大半の仕事を頭の中だけで完結させてしまう超人なので、むしろ身体の方が暇になって魔術院の雑用とかをやりだしてる、本気で理解不能な存在なんです。
たまに当たり前のように見学者の道案内とかしてる一般通過激ヤバ魔術師おじさんだよ。見た目は冴えないけど、実態を知るとマジで怖いよね。
まあ院長も副院長も圧倒的に変な人たちではあるけど皇帝様にちゃんと忠誠を誓ってるし、悪い人ではないから悪用したりしないだろう。大丈夫でしょ。
最悪の場合は私が責任もって対処します。そんな最悪、考えたくないのですがね。
……ちなみにほんとは教えたらダメな術式、皇帝様に許可もらって弟子にもいくつか仕込んでます。
だって、本当に危ない時の切り札の一つや二つ、ないと困るかなって……ええい、そうだよ弟子が可愛いよ。悪いか。
いくら弟子が天然チートでも、この世界には理不尽も想定外も、いっぱい存在するんだからさ。
もしいきなり竜神級のエンシェントドラゴンが襲ってきたら、いくら弟子でも成す術なくご飯になっちゃうし……いやどんな想定だよって話だけど。
でも、それがあれば逃げることくらいはきっとできる……可能性が出てくる、かもしれない。
そんでもって、今は無理でも2年後、3年後なら多少は勝負になる、かもしれない。そうなっても不思議ではない。
だって一般人に毛が生えた程度の素人だったのが、技術力だけならもう魔術師上位のクラスになってるのだもの。
やっぱあの子の成長率、異常ですよ。真剣におかしいよ。バグだよ。普通に怖いわ。
まだまだ戦闘経験が足りないけど、上級冒険者としても普通にやっていけるだろうね。
弟子ならもう、ちょっとしたドラゴンくらいなら一捻りだろうなー。
例えばそう、今、目の前で寝ているやつら、みたいなのとか。ね。
少し離れた眼下でぐるんと丸まって眠っている、ちょっと可愛らしくも厳めしい、とても大きな竜たち。
うーん、2頭が一桁歳のベビー、1頭が20歳くらいのノーマルなバニラかな。
まあどれも若いから素材としての価値はそんなでもなさそう。なんかゴミもくっついてるし。
でもドラゴンの肉は若い方が美味しいから、ご馳走だね……!
幼いと毒抜き魔力抜きも楽だし、そういう意味ではお宝だよ……!
「なんかおなかすいたな……!」
「相変わらず貴様は緊張感がないな」
「……申し訳ございません、心の声が」
やっべ、マジやらかした……。
すみません、最近ほんと気を抜くと、抑えてた欲が出てきてしまうんです……恥ずかしい……ゆるして……。
……。
……そんなつもりなかったけど、なんか今のエロい本の団地妻みたいなセリフだったな。
個人の性癖的にはそういう不倫物も寝取られ物もNGなんですが……あ、ていうか、妻?
……あいつの?
…………。
……。
。
「ふっ」
両手で頬を叩く。
いやいや気を抜き過ぎ。仕事中だ。抑えろ。我ながら最近の私、気持ち悪いぞ。
そもそも段階ってやつがあるだろ。飛躍し過ぎにも程がある。
あぁ……皇帝様の目が冷たいよ。
きっとまた、気持ち悪い顔してたなって思ってるんだろうな……。
気持ち悪い部下ですまんな……。
……ていうか。
そういえば、皇帝様に妻って多分いないよな。
なんか今の今まで聞いてこなかったけど、世継ぎとかどうする気だろ。
種無しか? いやこの人の健康状態は定期的に勝手に確認してるから、それはない。相手の選り好みでもしてる?
まぁ、まだ若くてこんだけイケメンな独裁者なら候補の一人や十人や百人、より取り見取りだろうけどさ。
私?
ないない。流石にないわ。皇帝様からは一切そんな意思感じたことないし。
単純に、使える部下としてしか見てないんじゃないかな。まぁそんな皇帝様だから私も仕えてるんだけどね。
そもそも副院長ならともかく、この人が私をそういう目で見てくるって想像がつかない。
大体私、見た目はミステリアスな美少女でも中身が色んな意味でバケモンだし?
私! 魔女っ子型核爆弾!! スイッチ一つで世界を滅ぼすよ!!!
……いやいや、いくら見た目が良くても無理でしょ。
普通に女としてどころか人間として見れるかどうかも怪しい。
魔族にすら化け物扱いされるくらいだし。王国でも……。
……あいつはどうだろな。
人間扱い、してくれたけど……実は内心怖かったりとかしたんだろうか。
そうだったとしても、おかしくはない。おかしくはないけど……。
……はぁ。あいつ今、なにやってるんだろ。
「……」
「……?」
なんか気づいたら皇帝様に横目で見つめられていた。
なんだ、どうした。実はちょっとやる気とテンション下げてるのバレたか?
いやマジすんません、仕事はちゃんとやるんで……。
「……」
「えっと、どうかなさいましたか?」
「なんでもない。それで、どうだアレは」
「如何様にでも料理できますよ。ご注文をどうぞ」
「そうだな……ステーキを頼む」
「……」
「無理か?」
「……いえ、お望みとあらば」
皇帝様が冗談など、珍しい。応えてあげよう。
軽く、指を振る。綺麗に、均等に。
──『空間分割』
世界が、ほんの一瞬、幾重にもズレる。
「……!」
……はい。輪切りドラゴンの出来上がりってね。こんなの朝飯前よ。もう昼過ぎだけど。
大した魔力抵抗も無い幼竜程度、ちょっとやる気出せばこんなもんかな。
ほんとは冒険者らしくもうちょっと遊びたかったけど、事情が変わったので仕方ない。
眠ったままの幼くも巨大な竜たちは、何もわからないまま永遠の眠りについた。
痛みも知らず、安らかに私たちのお腹の中に入るがいい……なんてね。
収容魔術で次元の隙間にくっそデカい血塗れの肉の塊を仕舞う。
血も立派な素材なので内部で仕分けとく。爪とか鱗とか皮とかは後回し。
量が凄いけど、容量は実質無限なので問題なーし!
「っ……」
「ふむ、流石だな」
「お褒めに与り光栄です。『撃墜突風』」
ゴミが飛んだので風魔術の超局所ダウンバーストで優しーく叩き落としてあげる。
うーん、デジャブ。そういや皇帝様と初めて会った時もこの魔術使ってたなぁ。懐かしいね。
さてさて。
いや正直、危険は危険だけど、なんでこのレベルの護衛に私が必要だったんだろうなって考えてたんだよね。
戦闘では物理しかできない兵長さんを使うより、魔術院を脳内作業しながら徘徊してる院長とか、研究室に引き篭ってる副院長とかのがやれること多いし護衛に良いのでは?
もしくは魔術院から比較的手の空いている優秀な何人か連れ出せばいいのでは? って。まあ護衛に付随する諸々をこなせるかは別として。
だから、ひょっとして
まあその意味が思い当たらなくて考えを保留してたんだけど。移動中もなんもなかったし。
式典の時とかみたいに本気ローブ装備で周りを威圧したりとか? って思ったけど違ったし。
まぁ結局、現地に理由があったわけだ。考え過ぎだったね。
あーあ、ゴミ掃除かぁ。正直テンション下がるわぁ。
というかやっぱり兵長さんには荷が重かったね。
いやマジで私がこの話乗らなかったらどうするつもりだったんだ……?
「最初からご存じで?」
「いや。だが可能性は少なくないと考えていた。国境線近くの災害の種にしては、相手の反応が薄いように感じたからな」
「『魔力捕捉』『拘束』……ああ、なるほど。あちらは知っていたかもしれないと」
つまり、元々ドラゴンらは相手の国にいて、その災害の種をこちらで引き取ったということかな。
ここを自治している領主がおそらく金銭、もしくは諸々な意味で美味しい何かと引き換えに。
ほんとはもっと領地の内側に持っていって、それから討伐依頼か何かをギルドに出すつもりだったんじゃないかな。
多少ドラゴンが暴れたとしても、
でも、皇帝様が立ち寄るような主要拠点には私特製の魔力観測術式が仕込まれている。領主側は知らないだろうけどね。
だからドラゴンなんて生命魔力の塊に、中央がいち早く勘付けたわけだ。
で、皇帝様が手っ取り早い解決手段として私を連れて、直接叩けるタイミングで動いた。
正午出発だったのは根回しかなんかがあったのかな。その辺はわかんないけど。
とにかく、領主にとっても相手の国にとってもバレたら最悪のタイミング。こちらにとっては叩くのに最善のタイミング。
がっつり大問題だね。政治的には美味しすぎるカードになったわけだ。
ていうか、うん。まぁそうなんだけどさぁ。
「……少しくらい相談していただいても、よかったのではないでしょうか」
「確実ではなかったからな。第一、そうすると貴様は一人で処理しに行くだろう?」
「当たり前でしょう。危険過ぎます」
3頭もの眠ったドラゴンを、こっそりと運び出せる存在など限られる。
複数の高度な魔術、もしくは魔法を使える存在。
すなわち、魔術師。
そして……魔族。
あー、ほんと嫌になるよね。アレに協力する人間がいるとかさぁ。
いや今回は協力された方かな? まあどっちにしても嫌になるよ。
「物証が必要になる。直接確認しておくべきだろう。
「『転送』……まあ、私に政治的な話はわかりませんので。良きようにお使いくださいとしか言えません」
「……なん……っだ、ナニが……」
「上位一歩手前の中位魔族でしょうか。不正の運び屋に成り下がるとか、自称人間の上位種の癖にプライド無いんですかね」
遠隔転移魔術でゴミのお取り寄せ。
ていうか捕捉も直接干渉もほぼ無抵抗とか、耐性ガバガバじゃん。
最近ずっと一切手応えのない壁打ちばっかしてたから、なんか変な感じするわ……。
眼前に現れたのは、魔力線で雁字搦めになって、片腕を変な感じにへし曲げてしまっているヒトの姿。
どうみても人間の青年にしか見えない魔物。内部構造は人間とまるで別物だけど。
私判定、60レベルくらい? 平均よりちょっと強そうかな。
まぁ、まな板の上のなんとやらなんですけどね。ふふ、ざっこ。
「クッ、『
──『術式破壊』
なんかやってきそうだったので魔力誘発で即時無効化。やっぱセキュリティゆるゆるっすわ。
一対一ならどんな発動効果か見てあげても良かったんだけど、皇帝様もいるからね。残念だったねぇ。
「なんだ、この女……!?」
おや、知らないのか?
私、魔族には有名人だと思ってたんだけど。前に魔王軍の幹部(笑)を盛大にしばき倒してるし。
まあいいか。
「あなた方がバカにしてる人間の魔術師ですよ。お見知り置き、いただく必要もありません」
「人間……、……?」
うーん、魔王と関係ない野良魔族なのかな。人間とつるんで汚いことやってるくらいだし。
でも魔王軍のやつが内職的にこういうことしている可能性も無きにしもなんだよね。
そもそも魔王軍、私が盛大にしばいてからは全然大きな活動してないからなぁ。
……ほんと、あれは失敗だった。魔王も次元の狭間に隠れちゃったし。
「ああ、皇帝、グラン。そうか、そうか、なるほど」
「口数が多いな、少し静かにさせられるか?」
「承知いたしました、では」
「ははは……」
薄笑いするゴミに指を向け、沈黙魔術を、
「なぁお前、
──『空間分割』
「陛下の御前です。……口を慎め」
不可視のギロチンが首を落とす。人間であれば、致命の一撃。
「ふむ……まぁ良い。確証が欲しかったが、この首が証拠になるか」
「……申し訳ございません、やり過ぎました」
「構わない。これの言葉に聞く価値は無かった」
撹乱、だ。不和をもたらす、こいつらの得意技。
ああ、心の底から気分が悪い。
こんなのと言葉を交わしてしまうだなんて、軽率だった。油断し過ぎたな。
「はは……バケモ……ノ……め。こんな、のが人間なわけ」
「……身体の方、要らないですよね。『極点圧縮』」
首を失い跪いた胴体が、ギュッと音を立て、捻れるように一瞬で消失する。
人体の構造を無視して首だけで言葉を絞り出すコレには、改めて沈黙魔術をかけて黙らせる。
どんなに人間のように見えたって、人間ではないんだよ、コレは。
首だけになってもまだ死なないし、ほら、血もあんまり出ていないじゃないか。
……私だって、首を切られたら血を流して死ぬ、はずなんだ。人間なのだから。
やったこともないのに? そう思いたくて、思い込んでるだけでは?
こっそりと手のひらを切った。小さな痛みと共に、血が流れる。
……うん、大丈夫。
そうだよ。あいつだって、私のこと普通の人間だって言ってくれたんだ。
あいつのおかげで私は、道を踏み外さずに済んでるんだ。
でも。でも最近。
胸の中のそれが、だんだん薄まっていくような気がして、怖くなることがある。
だからはやく、その姿で、その声で、新しく上書きして満たしたい。
あぁ、今あいつ、なにやってるんだろ。
「……気にするな。貴様の悪い癖だ」
「申し訳、ございません」
「謝罪は要らん。処理が終わったら拠点を経由して領主館に向かう。ここからは私の領分だ」
「……はい」
「沙汰を下したら拠点に戻り一泊する。その後帝都に戻る。移動が済めばそこで護衛を解く。貴様もしばらく休むといい」
「ありがとうございます」
……この人だって、心の中では私をどう思ってるかどうかはわからない。
でも少なくとも、恐怖を理由に忌避することも拒絶することもない。
私を認めて、まるで人間のような扱いをしてくれている。だから、応えたい。
不敬に決まってるけど、私はこの人のことを友のようにさえ感じているんだ。身の程知らずにもね。
それは弟子だってそう。そしてもちろん、あいつも同じ。私の大切な、希少で、本当に奇特な人間たち。
私が人間の枠から大きく逸脱している化け物だなんて、私が一番わかっているよ。
普通の人間から見れば自分たちの仲間というより、むしろ魔物のような生きた災害。そんなのわかってる。
でもみんなの前なら、
優しいみんなが夢を見させてくれてるんだ。どうか、その夢が醒めないでほしい。
私はみんながいるこの世界に……幻滅したくないんだよ。
厳重に封印した魔族の首をガラスケースのように結界で包み、次元の隙間に放り込む。
はぁ……このくそ生首め。出発前の冒険へのワクワクを返してくれ。
とんだ強行軍だよ。ゆっくりできなかったよ。
なんだかいつもみたいに冗談めかす気力もないくらい、疲れた感じがする。
あーあ。いま無性に甘いものが食べたい。でもお腹空いたからお肉もいいな。
そうだな、新鮮なドラゴン肉が手に入ったから皇帝様のご要望通りステーキを振る舞うとしよう。
よっし……こうなったらやけ食いだ。嫌なことは食べて忘れるに限る。
ちゃっかりご相伴に与っても皇帝様だってきっと許してくれるはず! 食べるぞ!
カロリーゼロ理論術式で! どれだけ食べても問題ないし!
とりあえず現場の処理も終わったし、じゃあ戻りましょっかね!
「……あと5回だ」
「……?」
「あと5回ほど大きな仕事に力を貸してもらう」
「えっと、5回でも10回でもお貸ししますが……?」
「区切りの話だ。まあ覚えておくと良い」
「はぁ……わかりました」
なんだなんだ。また勿体ぶり病が出たな。別にいいが。
えーっと。領主館は行ったことないから、また拠点からは自力移動だなぁ。
今度は他の人も連れてくと思うから、流石に馬車になるかな?
うーん、そろそろ自動車も開発したいねぇ。
あ、あっち着いたら本気ローブ装備ね。領主さん威圧するんだね。りょ。
よくよく考えたらこのローブくん、本来の使い道で使ったことほとんどないな……。
まあまあ、でもトータルで見たら楽な仕事だったね。まだ終わってないけど。
帰ったら研究の続きしなきゃなぁ。弟子もいないとなるとちょっとだけ寂しい。
やっぱ様子こっそり見ようかな……いやいや弟子を信じて……でもでも……。
うん、そうだ見守り使い魔くん4号の試験で……。
そう、あくまで試験のついでだから……あわよくばあいつも見つけられたら……。
……よし、このプランで行こう。
頑張るぞ!
・・・
"親愛なるししょー。"
"すみません。何がかわからないと思いますが、とにかくすみません。"
"私、もっと頑張ります。この仕事も完璧にこなして、もっともっと成長します。"
"そして近いうちに、必ずししょーの立場を奪い取るので覚悟しておいてください。"
"では、行ってきます。私がいない間、どうか、ご自愛くださいますように。"
"不肖の弟子、エステルより。"
"追伸。研究室の冷却箱にいっぱい新作お菓子を入れておきます。"
"食べ過ぎないように。一日一箱を目安にお召し上がりくださいね。"
・・・
女神さん「ちょっと寝てたら人類滅びかけとる……テコ入れもしてみたけどやっぱ魔法が強すぎるんよね。……そだ、いっそのこと私の半身を送ったろっと」
聖剣ちゃん「わかった!素質ある純粋な人間を主に選んで魔法を使う敵を全部斬ればいいんよね!頑張るよ!」
女神さん「よし、これで完璧。頑張ってね。それじゃもうちょい寝ますんで……」
(最近ずっと湿度が高いですが皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか)
(聖剣はデフォだと"魔法を使う敵"の区別がつかないので、勇者による調教が必要です)