(パヴァーヌじゃケイをあっさり制圧出来たからちょっと戦闘欲求がなぁ…)
(あとは調印式だが、一対多数は慣れてるし、かといってバルバラやあの赤いのはオカルトみたいなやつだし、純粋な殴り合いが出来そうな奴がどっかにいないかなぁ…)
ナルミが襲撃を知らせる少し前、トリニティ内部に侵入したアリウス生徒たちが静かに移動をしていた。
1チーム8名が8チームの計64名。スクワッド程ではないがそれなりに腕の立つ彼女らは今夜、桐藤ナギサと可能であれば聖園ミカの暗殺を実行しようとしていた。
彼女らの居場所は流石にアズサもわからず、不明であるがおおよその検討はついているため、二手に分かれて行動していた。
「こちらチームⅧ。もうすぐ桐藤ナギサの潜伏候補地に到着する」
《こちらチームⅤ。同じくこちらも配置に…ぐぁっ⁉︎》
通信の途中で風を切るような音がした直後、鈍い音と共に倒れる音が聞こえ、通信越しでは混乱が起きていた。
《隊長‼︎》《バカな、どこから…うわっ‼︎》
ヒヒィィィィン‼︎
敵襲ゥゥ‼︎あ、敵襲ゥゥゥゥ‼︎
動物と思われる謎の声とバカでかい大声に思わず通信機から耳を離し、アリウス生徒は何が起きているのか分からずにいた。
ともかく、メインであるナギサを狙う自分らだけでも目標を達成しなくてはと先を急ぐが、行く先々でトラップが発動し足止めを食らい、そこでようやくアズサの裏切りを悟ると同時に、先ほどの声は情報にあった大和総合支援学園の生徒のものと見当がついた。
(だが、奴らのリーダーである小城ムサシは現在はここにはいないと聞いている…アズサが裏切った以上、偽情報の可能性もあるが、そうでないにしても向こうには銃ではない遠距離武器と正体不明の動物を従えている…早いところケリを付けなくては…)
「敵が来たぞー‼︎」「刀を抜けぇい‼︎」
「着☆剣‼︎」
「突撃ィィ‼︎」
…あれ?ここトリニティだよな?
銃剣突撃を行い迫り来る大和生徒を見て彼女はそう思わざるを得なかった。
・ー・・・ ・ー ・ー・・ ー・ーー ・ー・ー *1
この生き物を知っている、と一人のアリウス生は逃げながらそう感じていた。内戦が終わったばかりの頃、拾ったボロボロの絵本に載っていた動物によく似ていたのであった。
囚われの姫をそれに乗った騎士が助けに行くお話で確か馬、とかいう生き物だった筈である。数少ない娯楽であったために実物を見てみたいという憧れもあったが…
(なんだコレは⁉︎思ってたよりずっとデカいし怖い!絵本のはこんなんじゃなかった筈でしょ⁉︎)
見上げるほどに大きな体躯に発達した筋肉、さらには目を見開いて涎を振り撒いて追いかけてくる様子はそれまでのイメージを覆すものであった。
車やバイクで追いかけてくるならまだいい、タイヤなりエンジンなりを壊せば止まるのだから。だが相手は生き物であるためそういうわけにはいかず、何度か脚に向けて撃っているも自分らと同等かそれ以上に頑丈なのか、ものともせずに向かっていくため余計に恐怖を駆り立てていた。
騎馬20、歩兵10で構成された大和生徒部隊はそれぞれ騎馬と歩兵に分かれて行動し、絶賛アリウス生徒を追い立てているナルミはこの状況に満足していた。
(やっぱ効果的だったなぁ…歩兵部隊も交戦の連絡が来たし、コレナギサさんとミカさんに分かれてた感じか?これがどっちかはわからないけど…)
「ここで抑えろ!一兵たりとも逃すなよ‼︎」
「了解‼︎」
「ガッ⁉︎」「ゲッ‼︎」
「ヒィィ⁉︎」
弓道部の面々が馬上から次々に矢を放ち、一人ずつ確実に昏倒させていき、やがて中庭の隅に追い込み矢を構えて取り囲むと予想外の出来事が起きた。
なんとあまりの恐怖にアリウス生徒たちが泣き出してしまったのであった。
「ヒッグ……も、やだぁ…!」
「降伏するから、これ以上そのデカいのを来させないで…!」
互いに身を寄せ合って怯える彼女らに部員たちは毒気を抜かれていた。
「あー…部長?なんか、幼児退行起こしてませんか?」
「聞いてた話よりずっと精神的に脆い気がするのですが…」
「いや、流石に訓練を受けたとはいえ、見知らぬ土地で夜に謎の巨大生物に乗った敵に追い立てられれば怖くもなるさ…にしてもやり過ぎたか?わかった、これ以上は攻撃しない。武器を捨てて両手を挙げな。お前たち、倒した連中を運びだしてくれ」
嘘泣きによる罠の可能性も考えてそう指示を出すと、意外にもあっさりと武器を捨て始めていた。というより、逃げる途中で重いグレネードランチャーなどは投げ捨てていたようであった。全員が武器を捨てたのを見てナルミらは馬から降りて彼女らを拘束し始めた。
「ほら、ガスマスクも取って。あーあー、涙と鼻水でべちゃべちゃだ。拭いてあげるからじっとしてて。にしても細っそいしちっこいなぁ、そら余計に馬が怖く見えるよね」
「部長!気絶してる子ら含めても、最初見た時より10人くらい居ません‼︎おそらく取り逃したかと…!」
「ちなみにその子ら含むと23人です」
「マジか⁉︎おい、何人でここに来た?「32人…」じゃあ9人か…副司令とヨウカさんに連絡して!……にしても、よく素直に吐いたね?」
「…どうせ戻ったらマダムに殺されるかもしれないし、だったらそっちに協力して少しでも処遇を良くしてもらった方がマシだもん」
「……そっか」
世知辛い答えに、ナルミは苦々しい顔を浮かべていたのであった。
一方で、ナオ率いる歩兵部隊と交戦しているアリウス生徒たちは途中で合流した補習授業部も戦闘に加わり苦戦を強いられていた。
「(^q^)< コハル、シュリュウダンヲナゲロ‼︎」「えっ、あっはい‼︎」
「あら、こんなに激しく…♡」「なんて言ってやがるんだ…?」
「アズサ!この裏切り者が!騒がしくして奇襲を台無しにするとは…」
「いや、それは私も知らないんだ…」
数こそ向こうが上だが、個々人の実力と先生の指揮により少しずつ戦力を減らしていくと、シスターフッドの面々も応援に駆けつけてきたのであった。
「居ました、あれがアリウス…我々の前身組織が遺してしまった怨恨の被害者、あれを鎮めなくてはトリニティの、ひいてはキヴォトスの平和は訪れません。なのでここで終わらせます。そして世に平穏のあらんことを」
『世に平穏のあらんことを』
「クソ、増援か‼︎」
(なんだろう、味方なのに台詞のせいで安心できない…)
シスターフッドの援護もあり、一人も取り逃すことなく包囲すると、観念したようで降伏したため、武装解除を始めていた。こちらもナルミらが拘束した部隊と同じく、失敗した以上は戻れないのだから諦めて降伏した方がマシであり、爆弾で自爆(ヘイロー破壊爆弾ではなく通常の爆弾)も考えたが起爆したところで目標を達成できるわけではないのでやるだけムダ、といった話であった。
(なるほど…『全ては虚しい』がここで裏目に出るとは皮肉なものだな)
「金田さん、騎馬隊が逃した相手、ミカさんとこ行ったっぽいみたいです」
「ヨウカさんが相手なら問題ないだろうけど…逃げられたら面倒だし、サクラコさん。周囲の警戒をお願いします。先生と補習授業部は万が一のためにナギサさんのとこに行ってください」
「わかりました」「"うん、任せて"」
・ー・・・ ・ー・・・ ・・ー・・ ーー・ ー・・ー・ ・・ーー *2
なんとか騎馬隊から逃れられたアリウス生徒九名は喧騒が静まってきたのを察して本命であるナギサの暗殺に失敗した事を悟り、ならばせめてミカだけでもと行動を続けていた。
セーフルームまでの一本道を進んでいくと、目の前にトンファー状の警棒を両手に持った少女の姿が見えた。
「誰だ⁉︎」
「待て、情報にあったな…確か、大和学園の風紀委員長、轟ヨウカ…!」
「まぁ、うん…そうだが…。念の為聞くが、降伏する気はない?その方が私としても気が楽なんだが…」
「断る!本来の目的が成されなかった以上、せめてもう一つの目的を達成しなければ、これまでの訓練の意味がなくなるからな!」
「………ハァァァー…やっぱこうなるかぁ。…悪く思うなよ」
抵抗の意思を見せるアリウス生徒に対して、心底嫌そうな顔を浮かべたヨウカだったが、すぐに表情を引き締めて距離を詰めるとアリウス生徒の一人の右肩に警棒を叩きつけた。
痛みに思わず銃を落とした直後、もう片方で顎を下から殴打され倒れ込むのを見て動きを止めた彼女たちに向けて警棒の先端を向けるとヨウカは握り手のスイッチを押した。
すると先端に埋め込まれたライトから強烈な光が発せられ、アリウス生徒らの目を眩ませるとすぐさま首筋や腹部に警棒を叩き込んでさらに4人気絶させていった。
「クソッ!」
「ッ!逃すか!」
奥にいて光を直視しなかった一人が不利を悟り逃げ出すも、右手の警棒をブーメランよろしく投げつけると脚に絡まるように当たり、転倒させていた。そして空いた右手に拳銃*3を握り、残りのメンバーも瞬く間に制圧していった。
その様子を陰から見ていたミカはその早さに感嘆していた。
(すごく早い制圧…そりゃあムサシちゃんも信頼するよ…)
「こちらヨウカ、アリウス生徒の鎮圧を完了。護衛対象に怪我はなし」
《こちらナルミ。了解、それで襲撃者は全員だから武装解除よろしく》
「わかった。……あぁもうッ‼︎仕方ないとはいえ、こんな胸糞悪い鎮圧初めてだよチクショウ‼︎なんだってこんなガリガリの子たちを…!ミカさん、こちらで武装解除するのでそのあとで軽く手当てしてあげてください」
「あ、うん……ヨウカちゃん、優しいんだね」
「まぁ、『色々』ありますから…」
泣きそうな顔で武装解除をしているヨウカを見ながら、ミカはアリウス生徒の手当てを開始するのであった。
無事に襲撃を防ぎきった翌朝、補習授業部は三次試験に挑み、見事全員が合格することが出来たのであった。
ハスミからムサシに、ツルギと一緒に海に行って貰いたいとの相談が来たのはその一週間ほど後の事であった。
ヨウカはあぁは言ってますが、事の重要さを理解してるので内心辛いけど頑張って任務をやっています。あとでキリノと食べ歩きしてストレスを発散したりはします。
次回はちょっとウィッシュリストを挟みます。