「冷え過ぎないから丁度いいみたいですね。自分好みの色に塗装してるみたいですよ」
「へぇ…なぁ、あの子の竹水筒…ピンクじゃね?」
「……え?」
「司令、副司令、よく見てください。アレはピンクじゃない。マゼンタです」
「あ、ホントだ。なら平気か」
「別の意味で心配なのですが……」
クロノススクール報道部、その一室にて報道部の面々は明日の調印式に向けての準備を進めていた。
「カメラ機材は問題ない?マイクチェックも忘れずにね‼︎」
「それにしても、この前の会見でのリン代行官のコメント…ありきたり過ぎてクッソつまんなかったですねぇ。何か失言でもしてくれれば面白かったんですが…」
先日行われた記者会見では、依然として行方不明の連邦生徒会長の捜索は行政に影響の出ない範囲で続けていく方針であり、エデン条約についても長い間因縁のあった両校が一種の平和条約を結ぶことは喜ばしい事であり、これを機にキヴォトスの治安が改善される事を望んでいるといった旨のコメントをしており、シノンにとってはそれが個人的に刺激のない内容で不満であった。
「当日の調印式で何かトラブルでも起きないですかねぇ?ティーパーティと万魔殿が乱闘を起こすとか!」
「大和の人たちやカヤ防衛室長がいる前でそんなマネするわけないでしょう。そう言えば、急に連邦生徒会が大和の人を護衛につけて参加することになったけど、もしかしたらムサシ総司令官が何か吹き込んだかも…?その辺りを色々手を加えて記事にすれば…」
「シノンにマイ…貴女たちそんな事企んで…またシメられても知らないわよ?」
「「メ、メアリ(先輩)…」」
二人の前にやって来たのは、マイの同期であり同じ報道部の
「大事な条約なんだからシノン、当日変に対立心を煽るような事言わないでよね?」
「え〜?それじゃつまらなくないですか?ある程度刺激がないと…」
「創作がしたいなら今からでもエンタメ部にでも行く?それで条約が台無しになって、その責任を連邦生徒会から詰められたらどうするつもりなの?最悪、クロノスが解体されるわよ?」
「え"、いや…それは…」
メアリが睨みながら言うと、シノンは口ごもり押し黙った。
とはいえ、メアリ自身も一連の連邦生徒会や大和学園の動きに疑問を持っていた。連邦生徒会が来るのは理解できる。失踪前の連邦生徒会長が提案したものなのだから。そして当日の護衛にSRTが別件で不在なので大和学園を指定したのも何となく理解しているが、数週間ほど前から大和学園の者たちがトリニティに出入りしている事がそれと無縁であるとは思えなかった。
そしてつい最近、身元不明の少女たちがトリニティ自治区で保護された情報も何か関係があるのではと考えているのであった。
(一体、トリニティで何が起きてるのかしら…?)
・ーーー・ ・ーー・ ・・ー・・ ・・・ー ・・ー・ ー・・ーー ・・ー *1
大和学園 応接室
「えっと…それは本当なのですか?」
「残念ながら事実です。アリウスは明日の調印式に襲撃を仕掛ける可能性があるのはスクワッドなる部隊が健在であることから明白かと。ですが先に話した通り、アリウス生徒はマダムなる人物の私兵となっています。なのでこれを迎え撃ち、彼女の支配から解放する必要があります。故に明日の調印式には絶対に参加しなくてはなりません」
ムサシの報告を聞き、カヤは頭を抱えていた。彼女から大事な話があると聞いてやって来れば、いざ内容を聞くとトリニティ設立時に追放され、歴史から消えた筈のアリウス分派が実は生き残っており、その末裔がマダムという人物による虐待と洗脳により仮初の怨みを待たされたゲリラ兵として仕立て上げられ、調印式にトリニティ、ゲヘナ双方に攻撃を仕掛けるといったものであった。
そして彼女らを保護するためには自分が参加しないと護衛として来れないから、攻撃されるとわかっていながら来てくれというものなのだからカヤの胸中は穏やかではなかった。
「あの、護衛対象の私を危険に晒すのはどうなのですか…?」
「それは重々理解してますが、知っての通りトリニティとゲヘナは長い間対立しています。その状態で調印式を襲撃されれば互いの仕業と勘違いして交戦状態になるのは明白です。事実、アリウスはトリニティの一部であったわけですし。ですが我々と連邦生徒会も攻撃を受けたとなればそういった誤解も防げるわけです。不知火防衛室長ならその辺りは理解できると思いますが…」
「ま、まぁ確かに三大校のうち二校が戦争状態になるのは望ましくないですが…私が参加をやめるのは出来ないのですか?」
「…どのみちアリウスが仕掛けるのはわかりきってます。直前の参加拒否のあとに調印式襲撃が行われれば、世間的にはエデン条約自体が両校の戦力を削る連邦生徒会の罠、と見られても可笑しくありませんよ?」
あ、この人ハメやがったな。とここまで聞いたカヤは悟ったのであった。
(数週間前にトリニティにムサシさんたちが出入りしているという情報がありましたね…ならばその時にアリウスの事は知ってても可笑しくない。にも関わらずこちらにその事を報告しなかったのは、恐らく『アリウス生徒の保護』が目的…!)
「ちなみに最初に貴女に報告したのは、先に七神代行に報告するとあの人のことですし、調印式そのものを中止にしかねません。そうなれば保護したアリウス生徒の証言からして、マダムという人物はアリウス生徒は用済みとして皆殺しにする可能性が高いです。そうならない為にまず貴女に報告した次第です」
(なるほど…あの人ならあり得そうですね。調印式に参加するには護衛対象である私が参加しなければならない。故にあえて報告せず、引き返せないこのタイミングで報告する事で確実に参加する、といった計画でしょう。護衛対象を危険に晒してまで虐げられているアリウス生徒を助けるとは…)
目的の為に常軌を逸した行動を取るという点では、ある意味大和学園の面々もキヴォトスの民と言っても良いだろう。
正直言ってムサシらの行動は職務放棄と言って良いくらいの行動であるし、この場で責任を問う事もできるが、しかしカヤはムサシのこの行動を気に入っていた。
(連邦生徒会である私をある意味脅迫してまでアリウス生徒を助けようとするなんて…大した胆力といいますか…。まぁいいでしょう、彼女の話によればアリウス生徒は相応の武力を有してます。マダムという人物が全員処刑するにしても何名かが逃げる可能性があります。そんなのが野放しになるのはキヴォトスの治安維持の面からしても好ましくありませんしね)
(職務放棄として処罰されるかもしれないのに私に報告したその覚悟に免じて、彼女の計画に乗るとしましょう)
「…わかりました。調印式の参加は予定通りに行います。その代わり、必ずアリウスの生徒を助けてあげてください」
「ありがとうございます。貴女の護衛は稲荷に任せますので安心してください」
ーー ・ー・ーー ・ー ・・ー・・ ・・ ・ー・・・ ーー・ *2
【朗報】我々、無事調印式に参加決定【やったぜ】
1:司令官
カヤの説得に成功したゾイ☆
なので参加出来ないって事はないから安心しな
2:名無しの大和魂
よっしゃあ‼︎
3:名無しの大和魂
それで司令官?
職務放棄になるわけだけど、何か不都合があったりは?
4:司令官
いや、問題なかった
こっちの覚悟を汲んでくれたみたいだ
5:名無しの大和魂
覚悟()
6:名無しの大和魂
今、覚悟と申したか?
7:司令官
○すぞ
8:名無しの大和魂
アッハイ
9:名無しの大和魂
すまん、悪かった!
10:司令官
あと、古聖堂の爆弾解除はどうなってる?
まだ解除しきれてないか?
11:副司令
問題ありませんよ
メリニさんが古聖堂の設計図見ながら爆弾が仕掛けられそうな場所を見つけて正実の皆さんと一緒に探索した結果、全ての爆弾を発見して解除しました
12:名無しの大和魂
なお、あまりにも的確に見つけるもんだからメリニがグルなんじゃないかって疑われてたけどな
13:名無しの大和魂
メリニ、半泣きで弁明してたよ
可哀想に…爆破解体が得意なばかりに…
まぁ結局、疑いは晴れたけど
14:司令官
じゃあ当日に古聖堂が爆破される可能性はほぼ無いわけか
ツルギやヒナが負傷する可能性が減るのはありがたい
15:名無しの大和魂
大丈夫だ
少年探偵団でも来なけりゃ爆破されないさ
16:名無しの大和魂
元○「すっげー‼︎」
歩○「すっごーい‼︎」
17:名無しの大和魂
やめろそれはマジで
18:風紀委員長
ようやくですね司令官
これで子供たちを助けられる
覚悟しろよあの赤いの…!
19:名無しの大和魂
長かったなぁ…
20:司令官
そうだな
いつの間にか私も多くの人から慕われるようになったな
21:名無しの大和魂
転入生たちはもちろん、統合組の子らからも慕われてますからね
22:名無しの大和魂
名前は変わったけど、廃れてくだけの自治区をここまで建て直してくれたわけですからね
23:副司令
確かリナリアでしたっけ?
司令官が潜伏してたの
私はクロユリでしたが、生まれ自体は百鬼夜行ですがね
24:司令官
そうだ
潜伏というか、生まれがそこだったし
てか大概の転生組は生まれた自治区にいたろ?
25:吉田
私ルピナス
26:金田
こっちはヒヤシンスだよ
27:名無しの大和魂
まさか我らの生まれ故郷や潜伏先がArea14の学区に集中するとはねぇ…
閉鎖される筈の学区がこうなるとは感慨深いな…
28:名無しの大和魂
14に行け、か
一回死んでる我々にとってこれ以上の場所はあるまい
29:名無しの大和魂
あーだからか
なんとなく理解したわ
30:司令官
ともかくだ、ここが正念場だ
気を引き締めて明日に臨むぞ
・・・ー ・ー ー・ ・・ ー ・ー ・・・ *3
調印式当日、会場である古聖堂ではティーパーティや万魔殿、そして先行した大和学園の面々や先生が主要人物の到着を待っていた。現場ではナギサ以外にもミカもおり、近くにはミネも万が一のため待機していた。
事前の指導により、同盟を結ぶ場で喧嘩を売るような真似はするなと厳命された彼女らは互いに睨んだりガンを飛ばすような事はせずにただ黙々と待っていると、マコトらを乗せたリムジン*4が到着し、その数分後にヒナ達の乗る車が、そして最後にカヤと付き添いの連邦生徒会員数名。それとムサシとコハクが会場に到着した様子をクロノスが報道していたのであった。
《みなさん、ご覧ください!たった今不知火カヤ防衛室長と、その護衛である大和総合支援学園の総司令官、小城ムサシ氏と副司令、稲荷コハク氏が到着いたしました!いやーそれにしてもトリニティはともかく、ゲヘナの人がここまでお行儀よく待っているなんて私個人としてはとても信じられません‼︎え?差別発言になる?でも事実を言ってるだけで…わかりましたよ。では、上空ヘリのメアリ先輩に繋げて見ましょう、メアリせんぱーい!そちらはどうですか?》
《はーい‼︎こちら壁に耳あり東海林メアリです!こちら上空からの映像ですが、見てください!綺麗に学園の生徒が整列し、荘厳な雰囲気を醸し出しております!この古聖堂、トリニティ設立時の講和会議にも使われたとのことでエデン条約の調印式にはぴったりの場所と言えるでしょう。お、まもなく調印式が始まるそうです‼︎》
一方で、カタコンベ出入り口では大勢のアリウス生徒が襲撃の時を今か今かと待ち構えていた。そしてアリウススクワッドの面々も、その時を待っていた。
《予定通りミサイルは11:55に発射せよ。着弾を確認次第、行動開始だ》
《リーダー、大和の連中や連邦生徒会も攻撃していいんだよね?》
《当然だ。我々を見つけようともしなかった連邦生徒会も、それを守る大和学園にも我々の恨みを思い知らせてやる…!》
サオリが指示を出す中で、別地点のアリウス生徒らは身体の震えを抑えていた。
マダムから直々に彼女らに下された指令は秘密作戦のためスクワッドにも伝えるなと言われている為【それ】を知るのは自分らとマダムのみである。
正直言って【この作戦】は実行するのに抵抗があるが、実行すればもしもの場合彼女らの姉妹や友人の安全は保証するとマダムが言っていたため、やるしかなかった。
(約束を守るかどうかはわからないけど、どの道やらないと酷い目に遭うんだ、やるしかないよね…‼︎)
調印式は順調に進んでいき、やがて時刻は11:53となっていた。
(多少の誤差があるかも知れない、今スイッチを入れるか…!上手くいってくれ…‼︎)
そう思いながらマドカは事前にミサイル発射予定地点に仕掛けた爆弾のスイッチを押した。
「……何の音だ?」
ミサイルの発射を任されたアリウス生徒が既にミサイルの発射プログラムを起動し、あとは発射のカウントダウンを待つのみといったところで突然発生した地響きに首を傾げると、別のアリウス生徒が血相を変えて駆け込んできた。
「たっ大変です‼︎地上付近で爆発が発生‼︎それにより出入り口が瓦礫で封鎖されました!このままではミサイルが瓦礫に衝突し大爆発を起こします‼︎」
「何だって⁉︎クソッ!発射のキャンセル方法は…無理か!総員、退避ィィーー‼︎」
「サオリ、聞こえるか⁉︎こちらミサイル担当班、ミサイル攻撃は不可能‼︎何故かここが連中にバレてたみたいで、出入り口を破壊されてまもなく暴発する‼︎」
《何だと⁉︎一体どうやって…アズサにも伝えてない筈…了解した、すぐに離れろ‼︎》
「もうやってるよ‼︎」
(にしても、何故バレた…?例の百合園セイアの予知夢か?)
そんな疑問を胸にミサイル担当班は全速力でその場から退避していき、やがてミサイルはプログラム通りに放たれ、その直後、瓦礫に衝突して大爆発を引き起こしたのであった。
当初ミサイル攻撃によりヒナやツルギ、ムサシといった強者を負傷させ、その隙にユスティナを掌握しシャーレの先生を排除する計画だったが、肝心のミサイルが不発とならどうすべきかサオリが悩んでいると、マダムから通信が入った。
《構いません。予備プランは用意してあるので、多少前倒しですが、行動を開始してください》
「…っ、了解」
《…では貴女たち、始めてください。落ちこぼれの貴女らが処罰されずにここにいるのはこの為ですよ。爆発に連中は気づいてます。避難される前にやるのです》
「い、イエスマム…」
マダムの通信を聞き、彼女らは屋上からその翼で羽ばたき、大聖堂を眼下に捉えていた。
『Vanitas vanitatum et omnia vanitas』
そう呟くと彼女らは古聖堂へと急降下していった。
──身に纏った無数の爆弾と共に。
ミサイルが暴発した音は古聖堂にも聞こえ、周りの人間は何事かとざわついていると、銃声が聞こえ、正体不明の武装勢力が侵攻しているとの報告が相次いで発生していった。
「(始まったか…)総員、迎撃準備‼︎非戦闘員は避難してください‼︎稲荷、不知火防衛室長を。桐藤さんや聖園さん、歌住さんも早く退避を!先生も」
「了解。カヤさん、こちらに」
「は、はい」
「待て、我々の心配はしないのか⁉︎」
「言われなきゃ避難しないんですか羽沼さん‼︎邪魔なので早く逃げてください。空崎さん、剣先さん、それぞれの部隊指揮を…」
その時であった。ステンドグラスを突き破り、数名の翼の生えた人影──恐らくアリウス生徒──が飛び込んできた。しかし妙な事にその誰もが銃を持っておらず、疑問に思った隙をつき、ヒナを始めとした数名の生徒に抱きつくと…
爆発が、起きた。
「……は?」
「"ヒナ⁉︎大丈夫⁉︎"」
「えぇ…なんとか……え?」
幸いにもムサシからは距離が離れていたため爆風に煽られるだけで済み、ヒナも持ち前の頑強さで多少怪我をしたものの重傷は負わなかった。
しかし、ヒナ以外の爆発の影響を受けた生徒は大怪我を負っており気を失っていた。そして、爆心地にはボロボロのアリウス生徒が横たわっており、その姿を見たムサシは思わず怒気を込めた声を上げていた。
何故ならその生徒は、
同様の爆発は他にも発生しており、辺りは騒然としており、転生組からは怒号混じりの声も発せられていた。
《み、見ましたかテレビの前の皆さん…⁉︎い、今、中等部くらいの子が…特攻による自爆テロを行っています‼︎それに、突如として青白い肌の武装集団が発生しました‼︎ここで一体、何が起こっているのでしょうか⁉︎》
「………」
メアリの報道を聞いて押し黙っているムサシだったが、その表情は激怒という言葉では表す事はできず、その様子にナギサやマコトたちだけでなく、ヒナやツルギといった者たちも薄寒いものを感じ取っていた。やがてムサシは倒れてるアリウス生徒の様子を見て、まだ息があることを確認するとこう告げた。
「…
任務中の呼び方をせず口調もいつものそれとは違う様子に周りは緊急性を把握して動いていき、ムサシは勢いよく羽ばたいて古聖堂から飛び出した。
六名ほどのユスティナ信徒がムサシの姿を捉え、撃墜しようと銃を向ける。が、次の瞬間…
「邪魔」
その一言と共にユスティナたちはムサシの銃剣により全員首を刎ね飛ばされ、消滅していった。
同じように他のユスティナを表情ひとつ変えずに斬首していくムサシの様子はまさしく『怪鳥』の名に相応しい動きであった。
「死人ならば、容赦しない……‼︎そして待っていろよベアトリーチェ…必ず貴様の蛮行を白日の元に晒して、地獄に堕としてやる…‼︎」
姉妹を守るためにやる(守る姉妹が妹とはいってない)
えぇ、皆様の予想通り特攻させやがりましたよあの赤いの。それも最悪な奴を。
当然ながら先生はもとより、ムサシ以下転生組ブチギレ案件。もう助からないゾ♡
本文にある通り、大和学園の自治区は元々はArea14の学区であり、それらが集まって出来たものです。
ついでにカヤは既に書類仕事のリアルを体験してるので、ここで戦場のリアルを体験してもらいます。
ちなみにメアリはクロノスのオリキャラです。
由来は本文通り『壁に耳あり障子に目あり』。
さて、ここからが地獄です。