(血が、あんなに出て…!もしムサシちゃんが死んじゃったら…⁉︎いやだ、いやだよ…!でも、これって…)
(私がアリウスと、関わったせい…?)
「…ミカさん?」
カイザーコーポレーション本社、その社長室でプレジデントとジェネラルは先ほどの映像を見て固まっていた。
エデン条約のことなど興味はなかったが、そこに襲撃を仕掛けた者がいると聞き、こちらの脅威となるかはたまた利用できる存在か確かめようとその映像を眺めていたのだが、そのなかであの憎き大和総合支援学園の総司令官、小城ムサシが腹部を撃たれ、倒れ伏すというあり得ない出来事が起きたのだから当然といえば当然だろう。
しばらく黙っていた二人だったが、次第にプレジデントは肩を震わせ始めていた。
「ふ、フフフフフ…」
「プレジデント?」
「ハハハハハハハハッ‼︎やったぞォォ‼︎」
突如として握り拳を挙げ、歓喜の声を上げるプレジデントに困惑していたジェネラルだが、すぐにプレジデントは彼に向き直った。
「見たかジェネラルよ⁉︎やっとあの目障りなムサシが死んだぞ‼︎これほど喜ばしい事態は初めてだ‼︎」
「いや、まだ死んだと決まったわけでは…」
「何を言うか?あの傷と出血で助かるはずがない‼︎他の中枢メンバーは健在だろうが、以前のようには立ち行かなくなるだろうよッ!幾度となく我々大人の邪魔をしてきた報いだ、ザマァみろッ‼︎」
いつになくハイテンションなプレジデントに若干引いているジェネラルだが、言いたいことは理解できていた。
アビドスの一件で経済的に大打撃を喰らったことに加え、『子供にしてやられた』という事実が広まり、同業者たちからこれ以上ない嘲笑を浴びせられ、社会的な地位も下がりさらには、ついでとばかりにヴァルキューレ上層部との癒着も暴かれてしまい、これまでのようなグレーゾーンギリギリを通すようなやり方も通じなくなっていたのであった。
なお、癒着に関してはカヤの前の防衛室長が関わっていたことであり、彼女本人には多少の風評被害があったくらいだということである。
今まで味わっていた甘い汁が啜れなくなり、代わりに辛酸を舐めさせられることになった原因であるムサシが銃撃を受けて倒れたとなれば、喜びたくもなるのもわかる話であった。
「さて…それはそうと、ムサシを撃ったあの銃弾…奴に効いたという事はだ、我々や他のキヴォトスの住民にも効く可能性が大いにあるな」
「そう考えるのが自然でしょう。となれば、あの生徒たちの身柄を確保するか、そうでなくとも銃弾を一つでも確保する必要があります。そうすればこちらで研究してそれを元に小銃弾を開発して量産すれば、我々がキヴォトスを掌握できるのも夢ではないかと」
「わかっているじゃないか。ではすぐに周辺地域の社員を向かわせろ‼︎救助活動の支援と言い張れば断れまい。奴が対抗して向こうがさらに発砲した可能性も考え、撃たれた地域に転がってる銃弾を残らず回収させろ‼︎なんとしてもあの銃弾を確保するのだッ‼︎」
「ハッ‼︎」
同様の考えがブラックマーケットのマフィアたちの間でも広がっており、特にアランチーノファミリーに至っては高額の懸賞金を出すとの声明もあり、各勢力の工作員たちが次々にトリニティへ向かって行こうとしていたのであった。
しかし、悪人たちが放送を見ていたように、善人たちもまた放送を見ていたのであった。
・ー・・・ ・ー・ー・ ・ー・・ ・・ ー・ーーー ーー・ー・ *1
「ホシノちゃんっ‼︎ムサシちゃんが、ムサシちゃんがぁ…!」
「わかってます。今、見ての通り武器の準備をしてるので近寄らないでください」
放送を見て半狂乱になったユメが復興委員会の扉を開けると、ボディプレートを纏い、髪型をポニーテールにしたホシノが見たことのない表情で武器を机に並べていた。
ユメに続いてムサシまでもが自分の知らないところで命を落としかけている状況にホシノは一時的に動悸が治らなかったがすぐに立ち直り、現地入りする準備を行っていたのであった。
クロノスのマイクが優秀だったのか、ムサシと彼女を撃った少女の会話は逃さず聞こえていた。ムサシを銃撃する直前の叫びを聞き、ホシノはそれに昔の自分が重なり、多少の同情の気持ちはあった。しかし、その前に何度も歩み寄ろうとしたムサシの言葉を振り払って銃撃した彼女を到底許せる筈もなかった。
一連の装備点検を終え、いざトリニティへ向かわんとするホシノだったが、そこにシロコたちがやってきたのであった。
「みんな、何の用?悪いけど、今はみんなに構ってる暇は…」
「ホシノ先輩、トリニティに行くんですよね?雨雲号はすでに準備出来てますので私たちと一緒に行きましょう‼︎」
「……アヤネちゃん、本気で言ってるの?遊びに行くのとは訳が違うんだよ?」
「危険なのはわかってる。けれど、トリニティにはヒフミもいる。一緒に銀行強盗した仲間が危険な目に遭ってるなら、助けに行くべき」
「それとですね、先ほどアッちゃん…アマツちゃんから連絡がありました。放送が途絶えたあとの、ムサシさんのメッセージがあるそうです」
ノノミはアマツから教えられたムサシのメッセージをホシノに伝えた。それを聞いたホシノは呆気に取られた表情を浮かべていた。
「本当なの…?ムサシちゃん、自分を撃った相手に、そこまで気遣うことを言ったの?」
「はい…アマツちゃんはホシノ先輩が放送を見てたらトリニティに殴り込みに行くことを見越して連絡したそうです」
「…ハァ〜。ムサシちゃんらしいと言えばそうなんだけどさ…そんなこと言われちゃ、あの子たちを半殺しにする気なくなっちゃうよ…」
「は、半殺し…」
いつもの口調で言う恐ろしい言葉にセリカが身震いし、そのすぐあとにホシノは自身の両頬を叩いたあと全員に向き直った。
「ヨシッ‼︎計画変更!みんなでトリニティに行くけど、あくまでもヒフミちゃんや他のみんなの手助けに行くのが目的で、ムサシちゃんの敵討ちは後回しね。そもそも、ムサシちゃんはまだ生きてるからね〜。ユメ先輩も行くよね?」
「もちろん‼︎前にムサシちゃんに助けられた恩返しがしたいもん‼︎」
「ん、ならユメ先輩にこれをあげる」
そう言いシロコが手渡したのは浅葱色で額に6と書かれた目出し帽であった。本人曰く、いくら緊急時とは言え、勝手にトリニティ内で戦闘行為をしたのがバレると面倒なので顔を隠しておく必要があるとのことであった。
「緑系でノノミと被るけど…他にいいのがないから仕方ない。後輩たちには既に留守を頼んでるからこのまま行けるよ」
「よーしそれじゃ…覆面水着強盗団、出発するよ‼︎」
一方、ミレニアムでもリオがアマツからムサシのメッセージを伝えられたあと、ネルたちC&Cに連絡を寄越していた。
「いい?彼女たちに対する過度な暴力は厳禁よ。それと、周辺地域への被害も最小限に。他所の自治区だからそこは厳守して頂戴」
《わーってるよ。正直あいつらにはムカついてるけど、ムサシがそう言ったんなら仕方ねェか。その代わり、あの幽霊みたいなのは幾らでも潰してもいいんだな?》
「ええ。それも説明されたわ。幽霊なんて非科学的な存在だけど、現に実在してる以上、対処するしかないわ」
《了解っと。んじゃC&C、校外清掃に行こうじゃないか‼︎》
ネルとの通信が終わったあと、側にいたヒマリがリオに話しかけた。
「いいんです?記録はヴェリタスで改竄しておきますが、もしバレたら外交問題ですよ?」
「その時はシャーレに協力してもらうわ。それでも無理なら責任は取るつもりよ」
「私や先生に頼るなんて、貴女にしては珍しいですね」
「周りに頼ることを教えたのは、あの人だから…」
・・ー・・ ・・ ・ー・ー・ ・・ー・・ ・・ ・ー・ー・ ・・・ー ー・ーー・ *2
この時点でもうお分かりになるだろうが、アマツはムサシの通信が伝わった直後に行動を起こしそうな各自地区に片っ端から連絡を入れ、ムサシからのメッセージを伝えていたのであった。
理由としては、ムサシを慕っている者たちが放送を見て激昂、トリニティに殺到してサオリらをリンチするのを防ぐ目的である。
「あとはレッドウインターと百鬼夜行、山海経…は鎖国気味だけど、念のためルミさんには伝えとくか。よく食べに行くって言ってたし。…他にも連絡しなきゃいけないとこあるな…あーもうッ!司令官の人たらしのせいで大変だよチクショウ!あとで愚痴ってやるから必ず復帰してくださいよ司令官‼︎」
レッドウインターでは現在クーデターの真っ只中であったが、街頭テレビで放送が流れた途端、辺りは鎮まりかえっていた。そんななか、チェリノが群衆の前に現れ、彼女らに呼びかけていた。
「お前たちッ‼︎書記長の椅子が欲しければくれてやる‼︎おいらはムサシを助けに向かう‼︎何度もクーデターから助けてくれた恩を返す時が来たんだ、わかったらさっさと道を開けろッ‼︎」
「……いや待ってくれチェリノ書記長!我々もお供します‼︎」
「…え?」
呆然とするチェリノに群衆たちは次々と声をあげて同行すると言い始めていた。
「我々だってあの人に助けて貰ったんだ‼︎」「あんたが配給を忘れて放置した時、代わりに物資を寄越してくれたこと、忘れてないからね‼︎」
「特に羊羹ッ‼︎アレは良かった!」「そうそう!プリンがカチカチに凍って食べられない時も凍らなかったから助かった‼︎」
『それに、クーデターはいつでも出来るけど、恩返しは今しかできない‼︎』
群衆の言葉を胸に、チェリノは高らかに宣言した。
「お前たち……‼︎わかった、一緒に行こう‼︎では全員、トリニティに向けて全速前進だ‼︎」
『Уллaaaaaa‼︎』
百鬼夜行では、イズナが全速力でトリニティへと走っているのが見え、それをミチルら忍術研究部が必死に追いかけていた。
「ムサシ殿ォォォォ‼︎イズナが今すぐ向かいますよォォ‼︎」
「イ、イズナぁぁ…ちょっと待ってぇぇぇ…」
「ニヤ様、ホントにいいんですか?彼女らを行かせて…」
「いーのいーの。ウチと仲良くしてる大和の総司令官が危ない目に遭ってるのになんもしなかったらあとで角が立つやろ?けど下手に百花繚乱を向かわせるとトリニティと揉めるかもしれんし、なら非公認の部活である彼女らに行かせれば最悪彼女らを切り捨てればいいし、丸く収まるでしょ?」
「え〜?忍術、もう観れないの〜?」
「と、チセちゃんが言ってますが?」
「切り捨てるなんてそんな真似するわけ無いじゃないですか〜?」
そして山海経ではサヤが現場に向かうべきか悩んでいた。というのも、かつての同期が現在大和に属してるため、その縁で助けに行こうにもキサキの事があるためどうするか決めあぐねていると、当のキサキ本人から連絡がきた。
内容は遠回しな言い方だが、要約すると
『急にトリニティのお茶が飲みたくなったので買いに行って欲しい。テレビを見てないので状況は知らないが
とのことであった。
(門主様…!わかったのだ。そうと決まれば早速準備するのだ‼︎)
その他の自治区の生徒たちも、恩を返すべく行動を開始するが、その道中でカイザー社員やマフィア構成員と遭遇。彼らと大和学園の因縁を知っている彼女らは意図を察するとそれらと交戦し足止めを行い始めていた。
そして、渦中のトリニティでは深妙な面持ちのアズサが、廃ビルに罠を仕掛けていたのであった。
悪い大人「やったあのアホ死んだぜ‼︎(慢心)お、あの銃弾使えそうやな‼︎確保したろ‼︎」
恩返し生徒「させるかボケェェ‼︎」
大人のカード「これ、出番ない感じッスか?」
|ω彩`)<絶望の匂いがする…
ムサシ銃撃が生中継された影響で善人も悪人もトリニティに大集合してきました。
本文で説明したとおり、カイザーは滅茶苦茶弱体化してます。他にも裏社会にちょっかい出してるので悪い大人たちからは目の上のタンコブ状態でした。
ミカもヘラってきて、あーもう滅茶苦茶だよ。