「あぁ…しかし、我々が影で彼女を粛清しても向こうの気が済むわけがない。向こうが彼女を打ちのめすまで手を出すのはやめておいた方がいい」
「それで構いませんよ。それにしても意外ですねマエストロ。貴方が生徒に興味を持つとは…そんなに気になるのですか?───小城ムサシが」
「勿論。あの導き手は本来なら消え行き、忘れ去られる筈だった者たちを拾い上げ、その才能を開花させている。それにあの姿。私の推測が正しければ彼女の神秘は恐らく……」
ヨウカ達が現場に到着し、情報を得るために避難所に駆けつけるとコハクや先生らも集まっていた。
「先生、それと副司令。現状は?」
「あのあと、アリウスは一度兵を退いています。今は負傷者の救助を行っています。それと、メリニからこのようなメッセージが」
コハクが見せたメッセージにはアズサに宛てたのと殆ど同じものが書かれており、ヨウカは彼女のファインプレイに感心していた。
「……そういうことか。アイツが助けた生徒に助けられるとはね…」
「お兄ちゃん、ムサシちゃんの容態はどうなの?」
「"まだ手術中だから詳しくはわからないけど、ミネやコノミ、セナ達がいるから大丈夫だと思うよ"」
「それについて先ほど報告が。弾丸の摘出が完了したそうで、あとは傷口を縫合すれば問題ないそうです」
救護騎士団の一人からそう伝えられ、一同は一安心した。
なお、摘出した弾丸は少し前に到着したC&Cのうち、アカネが預かってそのままミレニアムに持ち帰って解析させるとのことである。一応その場での簡単な検査で毒や放射性物質の反応はなかったものの、未知の技術が使われてるのは確かな為、解析して詳しい情報を調べて対処を考えるという事であった。
その後続けて、ヨウカ達にアビドス以外にも各自治の生徒が救援に駆けつけている事、カイザーやマフィアらがムサシを撃った弾丸を求めて介入してくる可能性があることを伝えたのであった。
「ふむ…つまり、今はアリウスの二次攻勢に備えつつ、救援部隊と協力してカイザーらが介入するのを防げばいいわけだな」
「そういう事です。カイザーに関してはナギサさんが対応中なので、我々はブラックマーケット勢力の相手が基本ですかね」
「了解。アリウスの二次攻勢に関しては、向こうも攻めるに適した状況じゃない事を考えれば、仕掛けるとするならこちらの疲弊がピークになるうえ、視界が悪くなる……『夜明け前』といったところか」
一方で、ナギサはカイザーからの救援の申し出を断っていたのだが、何度断ってもいろんな理由を挙げて救援に向かおうとするカイザーに対して流石に苛立ちを募らせていたのであった。
「ですから…人員については先ほどから述べてる通り、他の自治区から多数の救援が来ているのでそちらの手は不要と申しているのですが…」
《そうは言いましても、手は幾らでも欲しいところでしょう?我々には経験があります。戦闘にしても救援にしても役に立てると自負しています。それに、救援に来ている生徒がトリニティの情報収集のために送られてきた可能性もあるでしょう?》
「……あなた方がそうでない保証がどこにあります?どちらも保証されていないのなら、ムサシさんの為に来たという彼女らの方を私は信用します」
ようやく出てきた失言を逃さず追求すると、カイザー社員はしまったと言った顔を浮かべていた。
《あ、いや、それは…》
「それにハッキリ申し上げますと、前PMC理事が起こしたアビドス生徒の誘拐事件の件で、私たちトリニティはあなた方に不信感を抱いてます。まさか前任者がクビになったからといって不祥事がなかった事になるなんて思っていませんよね?もう埒が開かないのでこれ以降のカイザーの救援及びそれに準ずる活動、そして現場への立ち入りをホスト代行の権限をもって禁止させていただきます。破れば正式に抗議させていただきますのでお忘れ無く」
《そんなッ⁉︎こんな横暴が許されると…》
「そのような脅しが通じるとでも?」
まだ何か言いたげな様子だったが構わずナギサは通信を切った。政治的な派閥争いを潜り抜けてきたナギサにとって、カイザーのようなものは相手にならないものであった。
さらに言えば、
(あそこまで言えば表向きは大人しくなるのでしょうが、裏ではどうなるか…ですが、実家が有力者なものが多いトリニティ内で問題行動を起こすのは彼らにとってもリスクが高い筈…念の為警戒は怠らないようにしなくては…)
「ムサシさん…どうか、無事に快復してください…」
ー・ー・・ ー・・ーー ・・ー ー・ーーー ・ー・ー・ *1
雨が降っている事もあり、ムサシが撃たれた現場には彼女の血は殆ど洗い流されているが、妙に重苦しい雰囲気が漂っていた。
そんな場所で、ブラックマーケット構成員の少女が数名、瓦礫を漁っていたのであった。
「あったか?」
「いや、無いな…アレ以上撃ってないんじゃないか?」
「だとしても、弾が貫通さえしてれば見つけられるかもしれないだろ?」
「薬莢じゃダメだしな…早いとこ見つけたら出世間違いなしだ‼︎」
そう意気込む彼女達だが、実際のところマフィアらが約束を守る保証がないうえ、仮に弾丸を手にいれて複製した場合、その効力を確かめる為に誰かが『実験体』になる必要がある事までは考えが巡らなかった。
しかし幸か不幸か、弾丸は二発ともムサシの体内に残り手術によって回収され、銃に関してもスクワッドのメンバーが持ち去ってるので無駄足に過ぎなかった。
「これは…小銃弾だな」
「これも違うよなぁ…」
「よぉ、何してんだ?」
「ん?何だチビガキ?邪魔だからあっち行け!」
「……待て、今のって…⁉︎」
何者かに話しかけられ邪険にするが、その姿に見覚えがありよく見ると、そこにはイイ笑顔をしたネルが立っており、次の瞬間に彼女らはネルによって殴り倒されたのであった。
「ヨシ、こちらコールサイン00。ここらの掃除は終わったぜ」
《こちらコールサイン02。周辺に怪しい人影はありません》
「了解。モノが無ぇって言っても信じる訳ないしな。見つけ次第追っ払うなり制圧なりして対処するしかねぇか」
現場ではアカネを除いたC&Cメンバーが現地の正実部員と協力してブラックマーケット構成員、もしくはそうと思われる人物の撃退を行っていた。
流石に向こうも他の自治区の者がいるとは思ってもおらず、構成員たちは次々と逮捕されていった。なお、メアリに関してだがあのあと救助され、ヘリのパイロット共々多少の火傷と打撲はあったものの、命に別状はなく、ギリギリまで報道して状況を伝えてくれた事をコハクらに感謝されたのであった。
やがて山海経、レッドウインターからの応援も到着し、各々が先生の指示のもとで救援活動を行っていた。
「"サヤ、こっちに薬が足りないっていうから持ってきてあげて!"」
「任せるのだ!」
「は〜い、炊き出しはこっちだよ。今が辛いのはわかるけど、ちゃんと食べとかないと心も身体も持たないよ‼︎」
「おいらたちレッドウインターの力、見せつけてやれ!まずは瓦礫の撤去だ!」
「非常時にブルジョワも労働者も関係ない!全員等しく救助だ‼︎行くぞ工務部‼︎」
救助活動が進んでいき、現場が落ち着きを取り戻した頃、コハクは今後について先生と話し合いを始めていた。
「先生。救助活動に関しては各自治区の人たちがいるので問題はありません。アリウスの二次攻勢についてですが…」
「"アリウスは本当にまた来るの?"」
「アズサちゃんの情報から目的が貴方である以上、再び来るのは間違い無いでしょう。また、ユスティナに関してですが、アレを何とかしない限り幾ら数の点でこちらが有利でも、向こうは諦めないでしょう。サクラコさん、なにか手掛かりはありますか?」
「そうですね……ユスティナは戒律の守護者と言われてました。戒律をエデン条約と定義されたのであれば、アリウスはそれを利用してユスティナを味方につけたのではないでしょうか」
「なるほど…条約締結前に乱入されたため、条約が不完全だったのを利用されたのでしょう。場所も第一回公会議が行われていた場所…となれば古聖堂に再び赴き、条約を再締結すればあるいは…」
「"可能性はありそうだね。でもある程度ゲヘナとトリニティのメンバーがいないと条約と見做されないかもね。誰を連れて行くか…"」
しばらく話し合った後、ヒナとサクラコ及び正義実現委員会、さらにそれぞれの所属組織の者が何名か、それと三勢力が集まる事でより堅実な再現になる可能性があるという事でコハク達も同行する事となった。
「では、準備が出来次第出発しましょう。アリウス側もそれを理解して先手を打つ可能性もありますので急いだ方が……そういえば、ユメさんは?」
「"さっき、ヒフミを助けに行くってホシノたちと出ていったよ"」
「…ヒフミちゃんはアズサちゃんのところに向かってるはずです。なら目指す場所は同じと見ていいでしょう。我々もメンバーを選定して行きましょう」
同行メンバーを選定していくなかで、コハクやその他の転生組はこのあと起こる出来事に不謹慎ながら気分を高揚させつつ、『それ』を間近で見られないムサシに同情したのであった。
・ーーー・ ・ー・ー・ ー・ーー ・・ ・ー・ー・ *2
古聖堂前にて、アズサが待ち構えていると、サオリ率いるスクワッドとユスティナがこちらに向かってくるのが見えてきた。恐らく残りのアリウス生徒もそのうち合流してくるだろう。
「アズサ…本気で私を殺そうとしたな…」
「あぁ…でも、友達に助けられた。私には勿体無いくらいのいい友達だ」
「そうか、やはりアレはお前の意思じゃなかったか…ここを通す気は無いのだろう?」
「勿論だ。前の私なら、刺し違えてでも止めるつもりだった…だけど、私の為を思って爆弾をすり替えた友達の思いを無駄にするつもりはない」
「殺意も無しに我々を止められると思っているのか⁉︎」
そう叫び戦闘態勢に入るサオリだったが、ムサシが自分らと相対した時に殺意を感じられなかったことを思い出し、強さに殺意は関係ない事に気が付き、ならベアトリーチェの教えは何だったのかと迷いが生じていた。
その時であった。足音が聞こえ、見るとトリニティの生徒らしき少女が佇んでいた。さらには複数の少女たちが先生と共に集結していった。
「…なんか、あの人私に似てませんか?」
「あれは…確か、梔子ユメ。アビドスの卒業生で、シャーレの先生の妹だね」
「ヒフミ…?なんでここに…ここは、ヒフミみたいな普通の生徒が来るようなところじゃ…」
混乱するアズサを前に、ヒフミは確かに自分は普通で平凡であり、アズサとは生きる世界が違うかもしれないが、勘違いをしていると言い放ち、5と書かれた紙袋を頭に被さった。
ヒフミはさらに言葉を続け、自身は覆面水着団のリーダー、『ファウスト』であり、この姿を見て周りも怖がっていると話し、自分もアズサと一緒にいられるし、このあともずっと彼女の側にいると約束した。
「ヒフミ…いやでも、そんな嘘を吐かなくても…」
「あ、アレはファウスト⁉︎」
コハクの驚く声が聞こえ、アズサが顔を向けると信じられないような顔をしたコハクに続いて、大和の設立組が口々に声を上げた。
「ファウストだと⁉︎司令官が『絶対に関わるな』って言ってた、あのファウストですか?」
「聞いた事あります…ターゲットを仕留めて得た金で鰻を食べるのが趣味だとか…!」
「しかもターゲットの遺体はパートナーの黄色いレインコートの少女に『処理』させてるとも聞いてます!」
本人も知らない噂にヒフミも動揺していると、次々に覆面を被ったホシノたちが合流し、口上を述べ、武勇伝を語ったあとヒフミを讃え始めた。
『ファウスト‼︎ファウスト‼︎ファウスト‼︎』
「あ…その……えっと…」
流石に恥ずかしくなったのか、たまらずヒフミが紙袋を外すと、他のメンバーも覆面を外したのであった。
「えー、もう外しちゃうの?」
「ユメ先輩、残念そうにしないでください。リーダーが外したんですから」
「"よし、来ていいよ"」
『オオォォォォ‼︎』
先生の合図と共に、ヒナやツルギ、サクラコ達の他にも、他の自治区の救援部隊も続々と集結していった。
「囲まれた…⁉︎救援が来たのは知ってましたけど、こんな大勢が来るなんて…‼︎」
「リーダー、流石にユスティナがいても厳しいんじゃ…」
「…いや、数はいても所詮有象無象。ユスティナの前では無力だという事を、すぐ思い知ることになる…!」
諦める姿勢を見せないサオリに対して、ヒフミは瓦礫に登り、言葉を紡ぎ始めた。
「アズサちゃん…私、すっごく怒ってます。すっごく。事情は聞いてます…でもアズサちゃんが人殺しになろうとしたことはメリニさんがなんとかしてくれたのでまぁ良しとします。ですが…私はあの方々についてはまだ怒ってます。殺意ですとか憎しみですとか、これが世界の真実とか…それを強要して全ては虚しいだとか言いますけど、それでも私は…‼︎」
ざり、とヒフミは瓦礫を踏み締め、一息ついて話し始めた。
「アズサちゃんが人殺しになるのは嫌です…そんな暗くて憂鬱なお話、私は嫌なんです……‼︎」
「それが真実だって、この世界の本質だって言われても、私は好きじゃないんです!」
「私には、好きなものがあります!」
「平凡で、大した個性もない私ですが…自分が好きなものについては、絶対に譲れません!」
「友情で苦難を乗り越え、努力がキチンと報われて、辛いことは慰めて…お友達と慰め合って…!苦しいことがあっても…誰もが最後は笑顔になれるような…」
「そんなハッピーエンドが私は好きなんです‼︎」
いつの間にか朝日が登り始め、その光を背に、ヒフミは続けた。
「誰がなんと言おうとも、何度だって言い続けてみせます!」
「私たちの物語は、私たちが決めるんです‼︎」
「終わりになんてさせません、まだまだ続けていくんです‼︎」
「私たちの物語……私たちの
『ウオオォォォォ‼︎』
ヒフミが拳を掲げると同時に雲が晴れ、それに合わせて大和生徒を始めとした周りの生徒も歓声を上げ、その様子にアリウスが狼狽える中、先生は言葉を告げた。
「"今ここに宣言する。私たちが、『エデン条約』だよ"」
その宣言により、ユスティナが非常に不安定となり、やがて同士討ちを始めていき、不死の軍勢を失ったサオリは取り乱していた。
「ふざけるな…ふざけるな!何がハッピーエンドだ!そんな言葉で変わるものか‼︎何より……人を殺した私が、そんなモノを得ることなんて…‼︎」
「サオリちゃん…一つだけ貴女に伝えておきます。司令官は、生きてますよ」
コハクのその言葉を聞いたサオリは一瞬だけ安堵した表情を見せたが、すぐに表情を引き締め、銃を握りしめた。
「だとしても、これからシャーレの先生を仕留めるんだ、そんなモノ…必要ない‼︎」
「……頑固者」
スクワッドのリーダーとしての意地か、または自棄になっているのかはわからないが、抵抗の意思を向けるサオリにコハクはそう呟き、戦闘態勢に入るが、突如として地響きが鳴り一同は何事かと身構えた。
「なんだ何事だ⁉︎」
(これは…まさか⁉︎)
コハクの嫌な予感は的中し、地下から現れたのは二対の腕を持つ異形の存在…『ヒエロニムス』が絶大なプレッシャーを放ちながら顕現したのであった。
「あの化け物は…?」
「これは、例の『教義』か?何故今ここに…?」
古聖堂の物陰で、二つの頭を持つタキシードを着たマネキン、マエストロが身体を軋ませながら歓喜に震えていた。
「あぁ…なんと、なんと素晴らしい……!『彼女』から受けた恩のため、あらゆる神秘を纏った者たちが一同に会するとは…!芸術は、より多くの目に留めておくべきだ…!惜しむらくは、『彼女』にこれを見せることが出来ない事だが…『彼女』が倒れなければ、この光景を見られなかったのだから仕方があるまい…さぁ、ここに遍く神秘たち、そして先生よ…私の作品に応えてくれたまえ‼︎」
転生組「生のブルアカ宣言キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!」
マエストロ「推しピが見せてくれた景色マヂ尊い。お礼に私の作品みんなに見せるね(意訳)」
ムサシ「リアルで三ヶ月くらい意識不明なんですが…」
ヒナはシナシナになってませんし、ツルギに至っては寧ろ好調に加え、周りが自主的に集まってるのでガチ総力戦と化しました。
マエストロはムサシの事を割と気に入ってますし、彼女の神秘について目星がついてます。その内明かすのでそれまでは気付いてもノーコメントでお願いします。
…アリウスモブがほぼ幼女なのは公式も感じてたのか…この世界線だとすぐに対応するだろうから不穏な2章は回避できそうかな。