「ほぅ?随分と警戒してるようですね?」
(何故ムサシの名が…?気になるが、早いところ逃げた方がよさそうだ…)
「彼女…いや、大和の設立組でしたか…妙にこちらの計画の対策が万全でした。裏切り者の情報提供があったとはいえ、あまりにも的確過ぎます。もしかすると百合園セイアと同じかそれ以上の…む、逃げられましたか」
「どうしましたか?」
「いえ、退き際のいいネズミがいただけです」
「"や、ムサシ。体調はどう?"」
「ミネさん達とのリハビリのおかげで、万全とはいきませんがだいぶ感覚が戻ってきましたよ」
昼過ぎくらいに先生が見舞いに来訪し、ムサシは体調が戻りつつあると伝えると、安堵した表情を浮かべていた。
ちなみにユメは先日来ており、大泣きしながらムサシを抱きしめたのだが、自身の胸にムサシの頭を埋める形で抱きしめたため窒息しかけたのはここだけの話である。
「"カヤも今回の件の処理が終わったらそっちに行くって。護衛を頼んだとはいえ、危険な目に遭わせたわけだし"」
「カヤさん達がこうならない為の護衛役なのでその辺りは責める気はありませんが…どうも賛否あったみたいですね」
傘下にあるSRT生徒は別件で回せなくなり、護衛役に一自治区の長であるムサシらに任せた結果、ムサシが意識不明の重体になった事について初めは非難が相次いでいたが、じゃあSRTの生徒なら撃たれて良かったのかと言われればそうでは無く、またメアリが記録したスクワッドとの戦闘映像からして、単騎のみであの数を抑え込める人材が、部隊での連携が前提であるSRTには居なく、例えFOX小隊があの場にいたとしても、分断されて各個撃破されていたのではという意見もあり、連邦生徒会への非難も徐々に落ち着いていたのであった。
「ヨウカからも、ボルトアクションライフルの凸砂一人で、訓練されたゲリラ部隊を圧倒してるお前の方が可笑しいって言われましたしね」
「"ははは…。……正直、私は怖かったよ。大事な生徒が、死んでしまうんじゃないかって。実を言うとあの時すぐに助けに行きたかったけど、私たちを守る為に戦ってたのに私が危険な目に遭ってはムサシが戦った意味が無くなるって止められてたんだよね"」
「先生…」
「"もう少し大人としてやれることがあったんじゃないかなとか、君たちの責任を一緒に背負っておけば…痛っ⁉︎"」
自責の念に駆られている先生に対してムサシはデコピンを喰らわせ、呆れたような表情をしていた。
「はぁ…ユメさんの言う通り、あなたは優しすぎて少々心配になりますよ。いいですか?大人だからといって何でもかんでも背負い込んでもこちらも信頼されてないのかと不安になる子もいるのでそういうのは余り良くないですよ」
「それに…子供には子供の責任があります。それまで背負われたら、私たちに与えられた立場の意味が無くなってしまいますよ」
「"ムサシ…。まぁ、そうかもね。自分で頑張ってる子もいるのに、何でもかんでもこっちで背負い込んだら、それまでの頑張りを無駄にしちゃうかもね。ごめんねムサシ"」
「いえ、そこまで気にしてませんよ。ただ、助けを求めるのが下手な子もいるので、そういう子には踏み込んでもいいかもしれません」
「"なるほど…わかったよ。じゃあ私はそろそろ帰るよ。ムサシ、またね"」
「えぇ。また。(多分すぐに会うんですけどね)」
その日の夜、雨が窓を叩き始めてからしばらくした後、ヨウカからモモトークが送られてきた。
『副司令、今トリニティ内で先生を見かけました。アリウスの目撃情報もあったのでもしかしたら呼び出されたかもしれません。場所を送るので増援をお願いします』
『【画像】』
『あ』
[ヨウカ さんがメッセージを削除しました]
どうやら、ムサシが合流する際の最大の問題である何故ムサシが居場所を知っていたのかの説明として、ヨウカがモモトークを誤爆したという建前を用意したという事をムサシは理解したのであった。
(まぁ、でないとコハクが何故都合よく発信機を付けたのかってなるからな…さて、脱走するか…。正直、ここが一番困難だな。突然セリナが背後に現れたら詰むし。来ないでくれよな…)
セリナが来ないように祈りながら、ムサシは静かに素早く着替え始めた。幸い、そこまで複雑な制服でないことと、雨音で多少の音は誤魔化せていたのですぐに着替え終わり、窓をゆっくり開けて外に出るとその場でホバリングしながら窓を閉めて発信機の信号を頼りに飛び去っていった。
(次の巡回は約30分後…それまでに距離を稼がないと…)
・・・ ーーー ・・・ *1
「だから、頼れるのはもう梔子コチョウ先生しか…家族の恩人を死なせかけておいて虫のいい話だとは思ってる…!だけど、お願いだ…姫を、助けてくれ…‼︎」
謎のメッセージに呼び出され、指定された場所についた先生の元に来たのはサオリであり、会うなり土下座をした彼女が語ったのはあの後の事であった。
任務失敗の責で追撃を受けていたスクワッドはやがて追い詰められ、その際にアツコがベアトリーチェと交渉を行い、自らの身柄と引き換えに他のスクワッドに加え、アリウスの生徒全員の解放を要求しベアトリーチェがそれを了承した事でアツコがアリウスに連れ戻されたのであった。
しかし、このままではアツコは『儀式』とやらの生贄となり死んでしまう。故にこれまでの事を棚上げしていることを承知で助けを求めてきたわけであった。
「"サオリ、まずは立って話をしよう"」
「しかし…いや、わかった」
「"確かにサオリは悪い事をした。けどね、それを本当に悪いと思ったから、私にこうして頭を下げてお願いしてくれたと思ってる。それに…ムサシ達もアリウスの生徒たちを助けたいって言ってたし、私も君たちを助けたい。だから、アツコの救出に一緒に行こう"」
「先生…‼︎すまない、恩に着る…早速だが、ヒヨリやミサキと合流「なるほど、そういう事か」っ⁉︎」
背後から声がして振り向くと、ヨウカが物陰から姿を見せており、一瞬騙されたと思いサオリは先生の方を見るが、先生も驚いた顔をしていたため、その疑いはすぐに晴れたのであった。
「"ヨウカ⁉︎なんでここに?"」
「偶々見かけましてね。それより、アツコとやらを助けにいくのでしたら、私も協力しましょう。マダムのやり口には色々と思うところがあるのでね。で、それはそうとして…先生の姿を見た時に一応副司令に状況をモモトークで送ったのですがその……送信先を間違えまして、多分そろそろ……うわ、来たよ…」
「やあ先生‼︎お昼以来ですね‼︎」
「"ムサシッ⁉︎来ちゃったの⁉︎"」
「…っ⁉︎」
清々しい顔で降り立ったムサシに先生は驚き、ヨウカは素なのか演技なのかわからない呆れ方をしていた。状況を聞こうとしたムサシだったが、ふと視線をサオリに移すと、彼女は顔を青くして蹲っていた。
「サオリ?」
「ハァッ…ハァッ…!ゔっ⁉︎エエェェ…」
過呼吸を繰り返したあと、嘔吐し始めたサオリに駆け寄ろうとするムサシをヨウカは肩を掴んで止めたのであった。
「ヨウカ、何で止める?」
「自分が殺しかけた相手が目の前に来たんだ、パニックになって当然でしょう。下手に近寄って刺激しない方がいい」
代わりに先生が近寄り、水を飲ませたり背中を摩ったりして介抱している間にムサシは状況の説明を受けていた。少しして落ち着いたサオリがムサシに近づき、震える手で一つの拳銃を手渡した。
「これは…!」
「神秘貫通弾入りの拳銃。姫から預かった最後の一つだ。私のことを信用できないのなら後ろから撃っても構わない。その代わり…他のみんなの事は、赦して欲しい…!」
「………一応預かっておくが、キミを撃つ気はない。下手にそっちに持たせて、罪悪感に押し潰されて自殺されたくないから預かっておくだけだ。そして、ひとつ守って貰いたいことがある」
「なんだ?私に出来ることなら、なんでも聞くが…」
「救出した後は、全員自首する事。流石に指名手配犯はウチじゃ匿えないからね。自首すれば、保護観察の名目で面倒みることが出来るしな」
矯正局だって、一気に何百人も入れられないだろうしな。とムサシが笑みを浮かべながら話すと、サオリは信じられないような顔でムサシを見ていた。
「何故…?私はお前を殺そうとしたのに、なんで私たちを助けようと…?」
「『居場所を失くした生徒に居場所を与える』。それが、大和総合支援学園の理念だからな」
「そうは言っても、まだ副司令から権限返してもらってないから今のアンタはあだ名が『司令官』なだけの一般生徒だからな?」
「うるさいな〜。とりあえず、色んな意味で時間がないんだ、早いところ目的地に向かおうか」
「"ムサシ、あまり無茶しないでね?"」
他のスクワッドのメンバーの元へ移動し始めた一行であるが、その時ムサシの携帯が震え、画面を見たムサシはヒュッ、と変な息がもれたのであった。
それはミネからのモモトークであり、ただ一言こう書かれていた。
『ムサシさん?』
(あぁ…思ったより早くバレた…。まぁダミーとか用意してないからな。独断で追跡したとしても、飛んでも数十分は掛かる。それまでにヒヨリとミサキと合流してカタコンベに向かわなくては…間に合うか?)
ー・ー・・ ー・・ーー ・・ー ーーーー ・・ *2
時間は少し遡り、セイアはミカと話をしていた。予知夢で異形の者たちが話し合いをしている様子を目撃し、その会話から彼らは『ゲマトリア』という集団であること、そのうちの一人の女性がアリウスを支配下に置いているとの発言から話に聞いたマダムである事がわかりさらに先生の始末をスクワッドに頼んだ事を聞き急ぎアリウスに来訪したミカに話をするため呼び出したというわけであった。
「本当なの?スクワッドが、先生の命を狙ってるってのは?」
「間違いないだろうね。それと、ムサシについての言及もあったが、アマツの警告もあって途中で退散したから詳しくは…」
実際、退散する直前に視線を感じたため、アマツの警告がなければ完全に捕捉されていた可能性があったと考えているとムサシの名を聞いたミカが取り乱していた。
「えっ…ムサシちゃんも…⁉︎まさか病院に刺客を…?すぐ病院に連絡しないと…!」
ミカが病院に連絡を入れると、普段はミネが出るはずが何故かセリナが応対したのであった。
《ミカ様⁉︎どうかなされましたか?》
「セリナちゃん?あのね、ムサシちゃんがアリウスに狙われてるかもってセイアちゃんからで…それで心配で…」
《なんですって⁉︎いや、それがですね…ちょうど連絡しようとしたのですが…ムサシさん、病院を脱走しまして…》
「……脱走⁉︎なんで⁉︎」
セリナの説明によると、どうやら先生がアリウスと接触するかもとの連絡をヨウカが間違ってムサシに寄越してしまい、それを聞いたムサシが脱走して合流したのではと先ほどコハクから連絡が来たとの事であった。
《それで、ミネ団長が滅茶苦茶怒ってまして…今、ナギサ様もシスターフッドや図書委員会と協力してカタコンベへの突入を計画しています。大和の方々も合流するそうです》
「わかった、連絡ありがとね」
「…ミカ、一人で行くつもりかい?」
「うん。ナギちゃんに行き方を説明した方がいいかもしれないけど、大人数で動くからどうしても時間がかかるから、先に私が行った方が早いと思うの」
「そうか、行ってくるといい。私も早く部隊を動かせるようナギサに協力するとしよう」
すぐに部屋を飛び出して行ったミカを見送った後、セイアは眠気に襲われたが、ゲマトリアに捕捉された可能性がある以上、ここで予知夢を見るのは危険と判断しどうしたものかと考えてると、以前アマツから眠気覚ましにとハッカ油を貰ったのを思い出した。
「確かこの辺に…あった。…っ⁉︎ケホッゲホッ‼︎なんて刺激臭…!いや、おかげで眠気が吹き飛んだ、これを作ったミズホとやらに感謝しなくては…」
『アブソリュート』と書かれたハッカ油をオイルストーンに垂らした後、セイアはナギサに連絡を取ったのであった。
その一方で、コハクはミネと連絡を取り合っていた。
「司令官とヨウカさんは共に携帯の位置情報を切ってますね。司令官はともかく、ヨウカさんは恐らくアリウス側の傍受を警戒しての事でしょう。幸い、ミサイル特定の時のアレが残ってるので、ヨウカさんが残した画像の位置から近い入り口の特定をマドカさんに頼んでいるので終わったら連絡します」
《是非お願いします。まったく、救護精神は認めますが、怪我がまた開くかもしれない無茶をして…‼︎》
(あーあ、滅茶苦茶怒ってますね…。適当なタイミングで位置を教えますか。下手に連絡渋ると庇ってると思われて誤救護されたくないですしね)
(サオリの脳が少しずつ焼かれる音)
ムサシはカタコンベに行く前にヒヨリとミサキに会うのを脱走後に思い出したのでかなり焦ってます。
セイアはハッカ油のおかけで色彩接触を回避し、ミカは復讐ではなくムサシと先生の救援に向かいました。
ミネがキレてますが、カタコンベの入り方がわからないので待機してますが判明した途端マッハで来る事でしょう。
このタイミングですが、ヨウカ・メリニ・ミズホの立ち絵を公開します。
例によってAI生成なのでご了承を。上手くいったと思ったらケジメしてたり腕が増えてたりで調整が難しかったです。
轟 ヨウカ
【挿絵表示】
有澤 メリニ(服はワイルドハント時代イメージ)
【挿絵表示】
豊条 ミズホ
【挿絵表示】