「副司令たちもいるから、大丈夫だよ。それよりメリニ、アリウスの子にどんな野菜食べさせたらいいかな?」
「そうだな…廃墟同然だと言ってたから、鮮やかな見た目のが良いんじゃないか?」
「あー、良いねそれ。じゃあまずパプリカでしょ、ビーツでしょ…かぼちゃもいいね。あと、人参も黄色とか紫のとかを用意しておこうかな」
「ハァ、ハァ…中々しぶといなぁ…」
未だ健在のバルバラを見据えながら、ミカは最後のマガジンを交換していた。先刻のムサシの励ましによる士気高揚もあり、バルバラ以外の敵は全て倒したものの、バルバラが両手に携えたガトリングの弾幕と砲台の火力に攻めあぐねていたのであった。
「というか何なのあの全身タイツにベルトの格好…信徒のすごいハイレグといい、アレ考えたユスティナの趣味悪すぎでしょ…」
危なくなったら逃げろと言われてたものの、向こうはこちらを逃す気は無く、執拗にミカを攻撃し続けていた。
(どうするかな…向こうは弾切れになる気配もないし、いっそ素手は…ダメだ、至近距離で撃たれたらまずいよね…)
瓦礫からバルバラを見ると、こちらに向けて砲台を構えており、慌てて飛んで離れると、砲撃が瓦礫を跡形もなく吹き飛ばしていた。
そのままミカは飛びながら銃撃を与えるが、砲台を盾にして防がれ、反撃の弾幕が襲いかかり、ミカは被弾して墜落した。
「あぁっ‼︎…痛ぁ…」
落ちた拍子に足を捻ったらしく、患部を抑えて銃を探すもそこには破損して使い物にならなくなった銃が転がっていた。
「あーあ、ここまでかなぁ…いや、ちょっとでも時間を稼がなきゃ…!」
飛ぶためには地面を蹴らなければならないが、足を捻って痛めた現状では立つのもままならず、仮に飛べても満身創痍の状態では的にしかならない。
一瞬諦めかけたが、すぐに気を持ち直して側にある手頃な瓦礫を掴んでバルバラに投げつけていた。
石ころとはいえ攻撃してるうちはバルバラはこちらを無視してムサシの元に行くわけにはいかず、なによりそれなりに腕力のあるミカの投石はバカにならない威力を持ち、投げた石が左指に当たって指をへし折り、手にしてたガトリングを落としていた。
(あ、効くんだ…取り敢えず、これでムサシちゃんのとこにいってもなんとかなりそうだね)
左手を潰されて苛立っているのかバルバラは右手の砲台を構え、発射態勢を取り、まもなく発射されようとした時であった。
『私のお姫様(友達)に──』
『何してるの(何しやがんだ)‼︎』
バルバラの右後ろから先生を抱えたムサシが飛翔し、そのまま背中を蹴り飛ばし、蹴った拍子に発射された弾は明後日の方向に飛んでいった。
地面に先生を降ろした後、二人はミカの元に駆け寄った。
「"ミカ‼︎大丈夫?"」
「う、うん…ちょっと足を捻ったけど、平気かな…」
「ちょっと失礼…結構腫れてますね。早いところ手当てを…」
その時、蹴り飛ばされたバルバラが起き上がり、再び砲台を構えるが、すぐに銃弾と弓矢が殺到していった。3人が振り返ると、コハクやナルミら大和生徒たちが群をなして向かってくるのが見えていた。
「いたぞぉぉ!いたぞぉぉぉぉ‼︎」
「脱走者発見‼︎」「先生とミカさんもいます‼︎」
「取り敢えずあのタイツガスマスク野郎を叩き潰すぞ!」
『了解‼︎』
「やっと見つけましたよ司令官。…ベアトリーチェは?」
「……捕まえようとしたが、ゴルコンダとデカルコマニーとか言う連中が、彼女を『始末』した。どうやら、連中にとっても厄介者扱いされてたようだ。あと、ヨウカはサオリ達とこの先にいる」
その言葉にミカとコハクはそれぞれ別の理由で動揺していたが、コハクはミカの足を見て事態を把握し、指示を出していた。
「…わかりました。とにかく、司令官はミカさんを連れてミネさんのところへ。ここは我々が受け持ちます。先生、指揮を頼みます。後続でツルギさんもくるので」
「"指揮は任せて。ムサシは早くミカを連れて行ってあげて。…ちゃんとミネに謝るんだよ?"」
「ハイ…。ミカさん、掴まっててください」
「え?わわっ⁉︎」
ムサシはミカをお姫様抱っこし、そのまま飛んでいった。初めは戸惑っていたミカだが、どうせならと落ちないようにムサシの首に手を回して抱きつき、ムサシの顔を見上げながら先ほどの言葉を反芻していた。
(…友達、かぁ……)
ーー・・ ー・・・ ・・ ・ーー・ *1
「副司令、後続にツルギさん達が来ると言ったが、別にその前にアレを倒してしまっても…グエーーッ⁉︎」
「衛生兵ーーッ‼︎」
「アーチャーがやられた‼︎」「この人でなし!」
「人じゃなくて幽霊なんだよなぁ…」
バルバラの砲撃で吹き飛んだナルミが運ばれていくのを横目に、コハクらはバルバラを包囲し、迎撃態勢を整えていた。
「"コハク、ナルミは大丈夫なの?"」
「受け身を取ってたので、そこまで酷い怪我ではないはずです。それで、どうなさいます?」
「"ツルギが来るとは言っても、それまでに何をするかわからないからね。ここで倒すよ。幸い、ミカのおかげで武器はアレだけみたいだし、射撃の隙を突けば…"」
直後、先生の指揮のもとで攻撃が開始され、バルバラの砲撃に気をつけながら撃ち終わりのタイミングで射撃し、バルバラの体力を削っていった。
本来なら砲台の隙をガトリングで埋めるはずが、ミカの抵抗により片手が使えない現状では不利と悟ったのか、バルバラは砲台を生徒達に投げつけると、素手で殴り始めたのだった。
「ぐおっ⁉︎」「がっ…!」
「"みんな…っ!コハク、狙われてる!逃げて‼︎"」
聖女の名は伊達ではなく、巨大な武器を片手でそれぞれ扱っていたその腕力と脚力を駆使して大和生徒達を一人、また一人と倒されていった。
そしてバルバラはコハクに目をつけ、殴りかかるがコハクはそれを片手で受け止め、握りしめた。
「くっ…!思ったより殴り合いがお強いようで…!」
「……」
「話しかけても無駄なのはわかってますが…ま、せっかくなのでね…私にも、司令官と同じく異名があるんですよ…『不抜の白狐』というのが。なので、ここから先には通させませんよ」
拳を掴んだままコハクはハイキックを浴びせ、バルバラは左腕で受けるが容易くへし折れ、ダラリと腕が下がった。
そのまま何度も脇腹に蹴りを与え続けてる間も、バルバラは振り解こうとするが、離すまいと強く手を握り続けていた。
バルバラが仰け反って振り解こうとした途端、コハクは手を離しバルバラの体勢を崩させる。そして胸元のベルトを掴むと背負い投げの要領で地面に叩きつけた。起き上がろうとしたバルバラだが、すぐにコハクは離れていき──
「今ですツルギさん‼︎」
「キェェェェェエ‼︎」
上空から飛翔してきたツルギが木刀を振り下ろし、バルバラの顔面に叩きつける。木刀はそのまま砕けたがバルバラの顔面は大きく凹み、ツルギはそのままショットガンを取り出して何度も撃ち放っていった。そしてそのままバルバラの身体は限界を迎えて霧散していった。
「"…勝った…のかな?ヨシ、みんなありがとう。動ける子はそのままサオリ達の迎えに行ってあげて。ツルギもありがとう"」
「へ?あ、先生…!その…っ間に合って…よかった、です…」
一方ミカを連れたムサシだが、その場には異様な雰囲気が漂っていた。
というのも、ムサシの前にはミネが無表情で腕を組んで彼女を見つめていたからであった。
「………」
「えっと、あの…その…ミネ、さん…すみませんでした、無断で病院を抜け出して…」
冷や汗を流してムサシが謝るが返答はなく、ミカはというとこの状況をどうすればいいかわからず、ムサシとミネの顔を交互にみて困惑していた。
やがて、ミネがゆっくりと口を開いた。
「事情は把握してますが…無断離院されると色々と迷惑がかかるんですよ?病院には他の患者さんもいるので、勝手に出て行かれると大変なんですからね…!」
「ハイ…ホント、申し訳ございません…」
「…取り敢えず、ミカ様はこちらで預かります。ムサシさんは、まだやる事が残っているのでしょう?先にそれを済ませてから、戻ってきてください」
「いいの、ですか?」
「傷は開いてないようですし…ムサシさんなりの救護活動を、途中で辞めさせたりはしませんよ」
「…ありがとうございます」
一言例を言い、ミカをミネに預けるとすぐさま飛び立ち、サオリ達の元へと向かっていった。
・ー・・ ・ー ー・・ ・・ー *2
アリウスの生徒達は全員無事に保護し、開けた場所に集められていた。トリニティの者に囲まれて不安がっている子もいたが、スバルや他の三年生が宥めて落ち着かせていた。
そこにムサシが現れ、少し高いところに登ると軽く咳払いをしたあと、彼女らに語りかけた。
「──諸君、私は大和総合支援学校・総司令官…つまるところ生徒会長の小城ムサシだ。キミらの中には私がエデン条約の日にどんな目に遭ったか知る者もいるだろうが…ここに来たのはその報復ではなく、ベアトリーチェの支配から、キミらを解放するためだとはっきり伝えておこう」
ざわつく会場をよそに、ムサシは言葉を続ける
「肝心のベアトリーチェだが……二度とキミらの前に姿を現さない。それは断言しよう。キミらの処遇も、私のできる範囲で関係各所に交渉して便宜を図ることを約束しよう。いずれここは再建されるだろうが、それまでは違うところで過ごすこととなるだろう」
「今までと違う環境での生活に戸惑うかもしれない、自分達が培った常識が他所と違うのではと不安に思うかもしれないが、少しずつ馴染めるように我々も手を貸そう」
「…私のする事が、余計なお世話だと思う者もいるかもしれないだろう…。それでも‼︎私はキミたちには残り少ない学園生活を明るい所で過ごして欲しいと本気で願っている‼︎他所の学園の子とも友人になったり、その友人たちと色んな景色を見て、色んな物を食べたりして…時には喧嘩もするだろうけど……あとで振り返って、それすらいい思い出だったと思えるような…そんな青春を、キミらに過ごして貰いたいんだ‼︎」
ムサシは飛び上がり、翼を広げて右手を彼女たちに向けて差し出した。
「これからなんだ──キミ達の…
その力強い言葉に嘘は言ってないと直感的に感じ取ると、アリウスの生徒達はベアトリーチェから解放された安心感と、やっとこの苦しい生活が終わることの安堵と喜びで泣き崩れる者らが多く、サオリに至っては自分がしでかしたことの罪悪感もあり、ボロボロと涙を流して蹲っていた。
「ムサシ……ッ‼︎ありがとう、ありがとう…‼︎」
・ーー ・・・ー ーーー・ ・・・ー *3
「取り敢えず、完治して許可を出すまでは入院しててくださいね」
「はい…わかってます」
あのあとすぐにミネの元に戻り、そのまま病室に連行されたムサシはミネの指示に大人しく従っていた。
「この階層内なら彷徨いてもいいですが…もし次、脱走したら本気で
「ヒェッ…わかりました。それで…何故ミカさんが同じ病室に?」
ゴトリと置かれた尿瓶に身震いしつつ、ムサシは向かい側にいるミカを見ながら質問した。
検査の結果、捻挫に加えて軽く骨にヒビが入っておりミカも入院することとなったのだが、何故か個室ではなく、ムサシとの相部屋を希望したのであった。
「だって、個室じゃまたムサシちゃん脱走するかもじゃん?だからお願いしたの。それに……一人じゃ寂しいから…」
「なるほど…。私としても、話し相手がいるのは良いですからね」
「あとね…その、プライベートで私と話すときは敬語じゃなくて、ヨウカちゃんとかと話すような感じでいいからね?」
「…わかった、じゃあ退院までよろしく、ミカ」
「……っうん!」
元々脱走するつもりもなかったので大人しくミカと話しながら治療を受けて数日後、問題ないと判断されムサシは退院したあと、ハナコの元へ訪れたのであった。
「どうしましたかムサシさん?退院早々に来るなんて…」
「約束、しましたからね。『事が終われば貴女のお願いを一つ聞く』って」
「…え?覚えてくれてたのですか?でも、あんな事が起きたから、別に私は無くても…」
「何言ってるんですか。こちらの都合で無理させたのに、いざその時になったらゴタゴタがあったから約束は無しというのは、私の気が済みませんよ。あ、でも水着徘徊といった公然の目に留まるような過激なお願いはやめてもらっていいです?前ならともかく、今だと撃たれて出血したからおかしくなったと思われかねないので」
キチンと筋を通すムサシの姿勢に嬉しく思いつつも、まさか約束が生きてるとは思って無かったのでどんな事をお願いしようかハナコはしばらく悩んが、一つ思いついた事があり、口を開いた。
「でしたら…今度のお休みに、私とデートして貰っても良いですか?」
「あぁハイ。良いですよ」
「やっぱり難しいですよね。なら……えっ良いんですか?」
「全然構いませんよ。あとでスケジュール確認して連絡しますね」
「あ、はい…お願い、します…」
颯爽と立ち去るムサシの背中を見ながら、ハナコは呆然と立ち尽くしていた。本来なら、彼女の羽を使ったアクセサリーでも作ってもらうと思い、あえて無茶なお願いをしたのだが*4、あっさりと了承されてしまい、どうしようかと逆に悩んでしまっていた。
ーー・ー・ ー・ー・・ ー・ー・ー ・ー *5
ムサシのアリウス生徒に対する鼓舞を見て非常に満足したマエストロが帰還すると、黒服が何やら深刻そうな顔を浮かべていた。
「どうかしましたか黒服?」
「あぁ、戻ったのですね。それが少々厄介な事が起きまして…どうやらマダムの儀式、アレは『失敗』ではなく、『不完全な成功』だったようで、色彩の力を僅かでありますが手にした可能性が浮上しまして」
「それが何が問題でも?彼女は既にデカルコマニーらによってその命を散らしたはずでは?」
「彼女が色彩の力に触れたのなら、逆に向こうも彼女…ひいては『この世界』を認識したかもしれないのですよ」
「なんだと…⁉︎」
「ですが、例えるなら窓を開けて呼び込むような強い呼びかけではなく、人混みの中で誰かに呼ばれたような気がするような弱い物でしょう。気のせいだと通り過ぎるならいいのですが…もし気になってやって来るような事があれば…」
Q.ミカ、足をやってたけど入院中はお手洗いどうしたの?尿瓶?それとも誰かの手を借りてトイレまで行ったの?
A.どちらもありうる…そんだけだ
これにてエデン編は完結です。
本文通り、色彩に認識されてますが、原作より弱い反応なので来るのは遅れますがムサシたちには知る由もありません。
次回はドアインフェイスしようとしたら失敗して自滅したハナコとのデートです。