「ありがとう、ミズホさん。頑張って育ててみるよ」
「わからないことがあったらいつでも連絡していいからね」
休みの日、買い物を終えたアマツが軽く何か食べようかと店を探していると、とあるメイド喫茶の看板が目に入った。
(『メイドラマティック!』…あー、カリンちゃんが働いてるとこか。ヨシ、ここにするかな)
面白半分でアマツが入店するとメイド姿の店員が出迎え、カリンはいないのかと思ったが、奥の方に彼女らしき後ろ姿が見えていた。
「お帰りなさいませお嬢様!」
「あ、うん。ただいま…」
(しまった…ついクセで…実家でも『お嬢様』呼びだったからな…)
テーブルに案内される途中、ユメとムサシが食事してるのを見かけ、思わず二度見するの向こうも気がついて声をかけてきた。
「おぉアマツ。ここで会うとはな」
「アマツちゃん久しぶりー!ねぇ、どうせなら一緒に食べようよ?」
「え?では、お言葉に甘えて…すみません、この人たちと相席で」
ムサシたちのテーブルに着き、注文を頼んだあとで2人に何故ここにいるか聞いてみると、偶々出かけた先で会い、話し込んでるうちにここで休憩しようと入店したようであった。
「この手の店は初めてだが、雰囲気も良いしコーヒーも案外美味い。見た感じ労働環境もいいし、アリウスの子たちのバイト先の候補に加えておくのもありかな」
「いきなりメイド喫茶はハードル高くないですか?」
「でも服は可愛いよね〜。…あれ?お兄ちゃんだ」
ふと見ると妙なテンションの先生が来店し、カリンが出迎え対応をしてここから離れたテーブルに案内されていた。
それを見たムサシとアマツは何かを察し、顔を見合わせた。
(これ…もしかして『アレ』か?)
(多分『アレ』かなぁ…)
「意外…お兄ちゃんこういう趣味があるんだ…」
「ユメさん、取り敢えずここは黙っておきましょう。身内に知られると気まずいでしょうし」
2人の予想通りなら退店した方が良さそうだが、アマツの注文が来てないのと、なんか面白そうという好奇心もありその場に留まることにした。
注文の品をアマツが食べながらしばらくすると、案の定酔っ払った客が店員に絡んでおり、それを先生が対応している様子が見えていた。
「そ、そんなまさか⁉︎天国だと思ったら地獄だったなんて!」
「男の娘に適応してないとは…未熟ですね。その状態でクラスメイトが来てバレるかバレないかのスリルで目覚めるのがいいのに…」
「アマツ?」
「へぇ…お兄ちゃん、ちゃんと外でも先生やってるんだ…」
兄の活躍に感心しているユメの前で、駆けつけた店長が先生に礼を述べており、先生が何かを話すとカリンが動揺しており、店長に促されるとカリンは靴を脱いで椅子に座る。
そしてその足元に先生が四つん這いになり、自ら踏まれにいったのであった。
「………え⁉︎」
「ほ、本当にこれでご褒美になるのか…?」
「"大丈夫!十分にご褒美だよ‼︎だからもっと強く踏んで‼︎"」
活き活きとした声で踏むことを要求する先生の姿にやっぱりかとムサシとアマツは苦笑いを浮かべ、ユメの方に顔を向けると彼女は信じられないものでも見るかのような顔をしたあと、表情を消すと無言で立ち上がり、先生のところにスタスタと歩いて行った。
「あの、先生…やっぱりこういうのは……ッ⁉︎」
「"…カリン?なんで止めるの?さぁ早く続きを…"」
「楽しそうだねお兄ちゃぁぁん?」
恐ろしく低い声で話しかけるユメに先生はビクリと肩を震わせ、恐る恐る顔を上げると、無表情でこちらを見下ろす彼女の姿に身を凍らせていた。
「"ユ、ユメ…⁉︎いや、これは…"」
「ごめんカリンちゃん、ちょっとこの人借りるね?」
「あ、はい…どうぞ、お好きなように…」
「"カリン⁉︎"」
「ありがとね。ムサシちゃん、悪いけど会計お願いね。さて……お兄ちゃん、ちょっとお時間貰うね?」
「"ひぃん…"」
この世の終わりみたいな顔でユメに店外に引き摺られる先生を見送り、急いで会計を済ませてこっそり後をつけて2人が覗くと、路地裏で先生はユメに正座させれて説教を受けていた。
「あのねぇ…お兄ちゃんがどんな趣味してようが構わないけどさ、流石に
「"違うんだユメ…これは…"」
「何が違うの?…まさかホシノちゃんにもやってないよね?」
「"いや!ホシノにはやってないよ⁉︎「
墓穴を掘った先生に対してさらに説教を続けるユメを眺め、2人はその場を去って行った。
「あーあ、これは長くなりそうですね」
「当然の帰結である」
「…これでセクハラが減りますかね?」
「多分な。我々の知らない範囲で変なテンションになるタイプの生徒が来るかもしれないが…実妹からのガチ説教なら懲りるだろうな」
・・ー ・・ー・ー ・・ー・・ ーー・ ・・・ー *1
また別の日、ノノミの家に遊びに来たアマツだが、現在ぬいぐるみのように後ろからノノミに抱き締められていた。
「アッちゃんが遊びに来てくれるなんて、久しぶりですね〜♧」
「調印式の事後処理やアリウスの子達の書類整理とかで忙しかったからね。ノノちゃんはどう?復興の方は進んでる?」
「はい♪少し前に広い範囲で地質の違うところがあったので調べたら、かつてナツメヤシやカボチャの農園だった地域らしくて、ミズホさんに協力して種や苗木を貰って栽培してるんですよ〜」
ぬいぐるみ状態はいつもの事なので構わずに近況を聞いていると、ふいに腕の力が少し強くなった。
「…どうかしたの?」
「いえ…私は今でもいっぱいいっぱいだけど、アッちゃんはもっと多い人数に指示出して経済活動してるのが凄いなって…親からの進路を外れたのは同じなのに、こうも違うのが少し…」
「何言ってんのさ、アタシとノノちゃんは状況が違うよ。ノノちゃんは親の反対押し切ってハイランダーじゃなくて借金のあるアビドス行ったけど、アタシは別に親から『オデュッセイア』に行かずに消えかけの自治区の集まりを纏めた大和を立ち上げて入るの反対されなかったんだから」
アマツは元はオデュッセイアの生まれであり、親も海上輸送や海関係のレジャー施設を営む大企業であり、ネフティスとは昔からの取引相手であったため、その繋がりでノノミとは幼少の頃からの仲を続けていたのであった。
いずれはオデュッセイアに入学してそれなりの地位に就く筈であったがその前にムサシらと出会い、彼女らの学園設立計画に乗ることにし、オデュッセイア入学を取りやめたのであった。両親の方も娘の好きにさせる方針であったため、反対されることはなかった。
「それに、こっちは司令含めて沢山人手がいたし、比べない方がいいよ。寧ろ、少ない人数でやってたそっちの方が立派だよ」
「むぅ…」
「ノノちゃんはノノちゃんの出来ることをやってるんだから、そこは誇りに思いなよ。アタシも友達として応援するよ」
手を伸ばして頬を撫でると、機嫌が良くなったのかノノミはアマツを撫でくり回し、揉みくちゃにされたアマツは悲鳴をあげていた。
ノノミがアマツに対して一種のコンプレックスを抱いているのは同じ令嬢としての行動力と結果の差もあるが、両親から政治的な意味で仲良くするよう言われたことへの対抗心でもあった。
キヴォトスの物流の大多数は海上輸送が担っているため、その海上輸送をメインにしている企業の令嬢であるアマツと仲良くすることは、海上から受け取った資材を陸路で運ぶネフティスやハイランダーにとって有益となるため、適度な関係を持つよう幼少期からうんざりするほど聞かされていた。
立場など関係なしに仲良くなりたいと思ってたノノミは、ならばいっそ過度に仲良くなれば親が自分に干渉するのが難しくなると考え、距離をどんどん詰めて今の関係を築いていた。
アマツとしても、ノノミが親の操り人形になるのは『自身の過去』を踏まえても良しとしないため、何かあれば彼女を守るつもりでいた。
(まぁ、それにしても随分と懐かれているけどね…)
「…で、そろそろ離してくれない?来てからずっと抱き締められっぱなんだけど…」
「うーん…ならついでに耳掃除するので、横になってください♧」
「あくまで離れるつもりはないと…仕方ないなぁ」
いつの間にか取り出した耳掻きを手に、ノノミはアマツの耳掃除を開始していく。
しばらくするとノノミはそういえばとアマツに話しかけていく。
「アッちゃんも、アビドス砂漠のお宝探し、付き合ってくれるんですよね?」
「そうだよ。その日も暇だし、どのみち見つけた場合は買取先の業者を探さないといけないから、そこも手配しておくよ。それまでの保管場所もアタシが個人で用意するから盗難の心配もしなくて良いよ」
かつてのアビドスが花火のために大量に用意し、結局使わずに投棄したという貴重な金属粉。それの探索をまたやろうとユメが計画してるのを聞きつけ、アマツは適正価格で買い取る業者の仲介とそれまでの保管場所の提供を兼ねて参加することにしたのであった。
「ありがとうございます。じゃああとで必要なものを一緒に買いに行きましょうね?」
「うん、日付決まったら教えて」
アマツの生まれはオデュッセイアなのは元々決めてました。寄港する港町で育ったとかの感じです。
なおこの前発表されたオデュッセイアPVでダイビング部お金ないって聞いてちょっと気まずいですね…
この作品内ではユメのひぃんは兄由来となってます。多分、何回かユウカやリンの前で言ってます。
次回はアビドスの宝探しです。