異世界から帰還した元勇者、モブウマ娘を育成します!   作:越路遼介

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第十三話 キーボード担当になりました

「んん~、これです、これ!どうしても再現できないのです!」

今日はアクアリバーがトレセン学園に訪れていた。学園内の食堂で廉二郎が作ったニンジンサラダとクラブハウスサンドを食べている。学園在籍中から彼女はこの料理が大好きだった。

 

「レシピは教えただろう」

アクアリバーの前に腰かけた廉二郎。

「そうですけど、この廉二郎さんお手製のドレッシングが再現できないのです」

実はこの二品、ブリッジコンプとイッツコーリングも忘れられず、たまに食べさせてほしいと学園にやってくる。律儀に食材を持ち込んでだ。レシピは伝えてあるが、どうしても再現が出来ないらしい。

異世界ラーズで仲間のウマ娘たちの食事も面倒を見ていた勇者レンジ、知らない間にウマ娘対応の名料理人になっていたのかもしれない。

 

「アニーもたまに『トレーナーの料理食べたい』とメール寄越すよ。叶えてあげたいが、さすがにアニーがいるのはアメリカだからなぁ」

「私は京都ですけど、この料理を食べるために東京に来る価値あります」

「そう言ってくれると作り甲斐もあるな。で、今日はどうした。メシだけ食べに来たわけじゃあるまい」

 

「はい、実は私、京都大学在学中に起業したんです」

「ほう、そりゃすごいな。どんな会社を起こしたんだ?」

「ウマ娘の勝負服を作る会社『AQUA』と言います」

「…それって聞いたことがあるぞ。最近ブランド化していなかったか?」

関西方面のレース場に属するウマ娘たちの間で、よく着用されるようになった勝負服のブランドだった。

「あれは君の会社だったのか。驚いた」

「やっぱりウマ娘のレースに関わる仕事がしたくて。最近ようやく軌道に乗ってきました」

「そうかぁ…。いや、おめでとう。大したものだよ」

 

「ありがとうございます。で…廉二郎さん、グランドライブのことは聞きました」

「ああ」

「私たちの時にもあればなぁと思いましたけれど、さすがにOGは出られませんね」

「そうだな、それはごり押し出来そうにない」

「だから、せめてステージ衣装を作らせてもらえないかと思いまして。今日これからライトハロー先輩に会いに行くのです」

「ステージ衣装?」

「あれも勝負服みたいなものじゃないですか」

「確かに…。デザイン、いま見られるか?」

「はい、見て下さい」

 

アクアリバーはバッグからタブレットPCを取り出して、いくつか候補を廉二郎に見せた。

「いや、知らなかった。君にこんな才能があるとは…」

「引き出してくれたのは廉二郎さんです。複数の外国語を通じて私の地頭を良くしてくれて。それで前から興味のあったデザイナーの勉強も捗るようになったのですから」

「そう言ってくれるのは嬉しい。ライトハローさんに氷室は君の会社に任せることを賛成していたと言ってくれていい。元教え子だからと言うひいき目は無いと断言できる」

「分かりました。お言葉に甘えて交渉の際に使わせていただきます」

学園に来た用向きを察した廉二郎、アクアリバーは氷室廉二郎が『AQUA』に任せることを認めたと言う言葉をもらいにここへ訪れたのだろう。

本心から元教え子と言うひいき目はない。ライトハローも廉二郎が公私混同を是とするものではないと分かっているだろう。

 

「アクア」

「はい」

「こんなことを君に頼むのは捕らぬ狸の皮算用もいいところだが…」

「…分かりました。喜んで私が作らせていただきます」

「まだ何も…」

「『いつか俺が育てたウマ娘がGⅠレースに出ることがあれば、その娘の勝負服を作って欲しい』ですよね?」

「…当たりだ」

「ふふっ、何年廉二郎さんの指導を受けたと思うのですか」

 

数日後、ライトハローから廉二郎宛に電話があった。アクアリバーが社長を務めるウマ娘勝負服ブランド『AQUA』にステージ衣装を依頼することになったと。

『すごいウマ娘を育てたのですね』

というライトハローの称賛が嬉しかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

告知ライブも三回目を迎えた。初回と二回目は都内のホールで行われたが、三回目は大井レース場で開催された。それほど観客動員数が増えたからである。トレセン学園内にもグランドライブ賛同者が増えて、多くのウマ娘がライブに参加、ついにURAも重い腰をあげたのだった。舞台袖でウマ娘たちのライブを見つめるライトハロー、廉二郎が彼女の元に歩み

「ライトハローさん」

「はい」

「傑作が出来ました。グランドライブ本公演に間に合ってよかった」

「二曲ですか?」

CD二枚をライトハローに渡した。

『GIRLS’LEGEND U』

『U.M.A.NEW WORLD!!』

CDを入れたケース内には畳まれた歌詞カードが添えられている。

「多くのウマ娘たちがレコーディングに協力してくれました。我ながら会心の出来栄えだと思います」

「今まで作られた楽曲も素晴らしいものばかりだったのに、氷室さんご自身が会心の出来栄えと言う二曲、楽しみです」

 

いまセンターで歌っているウマ娘はずっとレースに勝てなかった高等部三年生のウマ娘、廉二郎が作った『彩Phantasia』を熱唱している。号泣しているファンもいた。やっと見られた推しのウマ娘のライブ、歌っているウマ娘も涙を堪えつつ歌っているようだ。

「ミニコスモス…。そこで涙出そうになっていると本公演大変だぞ…」

苦笑する廉二郎を見てライトハローも微笑む。

 

 

ライブは終演、大井レース場の門をくぐる廉二郎とライトハロー

「あの、氷室さん」

「はい」

「グランドライブの本公演は先に言った通り東京レース場なのですがURA理事から、こんな提案がありました」

「何でしょうか」

「本公演は生バンド演奏にしてはどうかと」

「えらく協力的になりましたね。しかし今からバンドメンバーを探すの大変では?」

「いえ、ギタリスト二名、そしてドラマーとベーシストは素晴らしい方を確保できました」

名前を聞くと、それほど音楽業界に詳しくない廉二郎でも知っている者たちばかり。

「それって、ほとんどオールスターじゃないですか」

「はい、皆さんウマ娘のレースとライブが大好きな方なので快く引き受けてくれました。でもどうしてもキーボーディストが確保できないのです。そこで氷室さん、貴方にお願いしてよろしいですか?」

「…え?」

「もちろん後日に学園を通して正式に依頼いたします。どうでしょうか」

「私でいいのなら、喜んでお引き受けいたします」

「よかった…」

実は他のバンドメンバーからグランドライブ用の楽曲を多く作った氷室を連れてくればいいと言われていたライトハローだった。

「バンド練習の日程など、LINEで知らせてもらえますか」

「分かりました」

 

ライトハローと別れた廉二郎、頭を掻きつつ

「トレーナーとしてトレセン学園に入ったのに、気が付いたらウマ娘のライブのキーボーディストになっているなんて…。全く人生というのは分からないもんだな」

このまま真っすぐ帰る気になれず、府中駅近くの立ち飲み居酒屋の暖簾をくぐったのだった。

 

自宅マンションに帰ったライトハロー、入浴後に廉二郎から渡されたデモCDを聴いてみる。彼女が納得できたのなら、この曲をURAに提出し、URAの審査を通ればライブで歌われる曲となる。ちなみに楽曲の権利は廉二郎だが管理をするのはURAだ。

二曲を聴き終えた。体が震えるライトハロー、演奏は廉二郎、見事な腕前だと改めて思う。彼にグランドライブのキーボードを任せるのは誤りではないと。歌は二十人近いウマ娘が歌っている。ライトハローも元はレースを走っていたウマ娘だ。

『GIRLS’LEGEND U』

『U.M.A.NEW WORLD!!』

この二曲がどれだけウマ娘の心を震わすか肌で実感できる。何度でも聴きたい。実際何度も繰り返して聴いた。いつの間にか頭の中で自分がステージに立って敬愛する先輩と共に歌って踊ってステージを走っている。

「氷室さんは天才だわ…」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「事前にライトハローから打診はあったと思いますが念のため。グランドライブ本公演、生バンド演奏によって行われますがキーボードを担当してほしいと学園を通し、氷室先生に依頼がありました」

数日後の朝、理事長室に呼ばれて先のキーボーディストの件をたづなから通達された。

「はい、事前にそれは聞いています。引き受けてよろしいでしょうか。もちろん英語の授業に支障は出しません」

理事長は頷く。

「生演奏!氷室先生はライブのバンドメンバーをしたことがあるのか?」

「いえ、学生のころピアノのコンテストで演奏したことくらいで」

しかし本公演まで三ヶ月ある。

 

「時間はありますし、申し訳ありませんが実はバンドメンバーとはすでに会っていて、一度音を合わせました。手応えも感じたので」

「うむ、本公演は私も楽しみにしている。実はいい席で観られることになってな」

「それでは、うっかりとした演奏は出来ませんね」

「それと聴きました。『GIRLS’LEGEND U』『U.M.A.NEW WORLD!!』素晴らしいですね」

たづなの称賛が嬉しい。

「ありがとうございます。レコーディングに参加してくれたウマ娘たちも頑張ってくれました」

グランドライブの協力を最初に申し出たスマートファルコンを始め、二十人近いウマ娘がレコーディングに参加した。

 

参加したウマ娘は『GIRLS’LEGEND U』『U.M.A.NEW WORLD!!』の収録を終えると気持ちが高ぶったか、今度は体育館に場所を変えて歌いだした。走って、そして踊って歌った。歌の収録はマイクスタンドの前で立って歌うだけだからフラストレーションが溜まってしまったようだ。シンボリルドルフ曰く、この二曲を踊らず、しかも走らずに歌えと言うのはウマ娘にとって拷問に近いと言うことだった。

 

「理事長、このグランドライブ、大成功の暁には一つ褒美が欲しいのです」

「何か、私に与えられる褒美なら考えよう」

「はい、私をトレーナーに復帰させてほしいのです。もちろん英語教師も続けます」

「ふむ…」

理事長はたづなを見つめる。そして頷くたづな。

「承諾!グランドライブを大成功に導いたのなら、新年度より君にトレーナーを任せよう。期待しておるぞ!」

「ありがとうございますっ!」

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