異世界から帰還した元勇者、モブウマ娘を育成します!   作:越路遼介

16 / 21
第十六話 フィナーレ、そして…

グランドライブ二日目、東京レース場はファンで埋め尽くされた。

 

ライブ前のこと、舞台裏の一角で

「えっ、グランドライブが来年も開催と?」

今回限りと思っていた廉二郎、最初に声をあげたライトハローもそう思っていたが、予想以上の大反響にURAも考えを改めたようだ。

「手のひらクルックルッですね」

「本当です。でも何か痛快です。最初はグランドライブの企画をURAに持ち込んで見向きもされなかったのですから」

「ライトハローさんがあきらめなかったからですね」

「…もう、あきらめるのは嫌だったんです」

「……」

「レースをあきらめてしまったわけですから…。イベントプロデューサーとして絶対にあきらめたくありませんでした」

「あきらめざるを得なかった悔しさを忘れなかったから貴女の今があると思います」

「はい、ありがとうございます。あの…」

「はい」

「グランドライブの成功を祝い、後日…ふっ、ふた…二人きりで祝杯をあげませんか?」

思わぬ誘いに驚いた廉二郎、顔を真っ赤にしているライトハローの顔を見て、廉二郎も顔を赤くして

「よっ、喜んで!」

 

出走するウマ娘たちが舞台袖に集まってきた。

「と、そろそろ円陣みたいですね。行きましょう」

「はい」

二日目の鼓舞の音頭を取るのはライトハローだ。こんな素晴らしいステージに連れて来てくれた彼女へウマ娘たちの感謝の気持ちだ。

「皆さん、泣いても笑っても千秋楽です。思いっきり楽しんで来て下さい!」

「「「はいっ!!」」」

 

「トレセーン!」

「「「ファイ、オウ、ファイ、オオオオオオオオオオオオッ!!」」」

 

「「ワアアアアアアアアッッ!!」」

舞台裏の鼓舞の声がレース場にまで届き、観客たちを湧かせた。

 

「バンドメンバー、ステージに上がって下さい」

スタッフの指示に従いステージに繋がる階段を登る廉二郎

(この楽しい夜も今日で終わりか。来年バンドメンバーに呼んでくれるか分からないし、悔いのないよう燃え尽きるまで演奏するぞ!)

 

最初の曲は『make debut!』だ。昨日廉二郎が捻挫を治療したカネツエックスがステージに立った。痛みは無いようだと廉二郎は新年度から担当するウマ娘の晴れ姿を見つめた。

「これってトレーナーとして、すごく贅沢な場所ではないか。担当ウマ娘のステージのキーボード弾けるんだから」

 

ウマ娘たちはステージで歌い、踊り、走る。

今まで一度も勝利できなかったウマ娘もこの日はセンター。いや、このグランドライブはセンターそのものが存在しない。強いて言うなら皆がセンターだ。ウマ娘たちが並ぶ隊形は円陣だから。

 

一着から三着にならなければ応援してくれるファンに感謝の気持ちを歌で伝えられない。こんなのおかしいではないか、そう思いグランドライブの再開催の声をあげたライトハロー、それに応えた廉二郎とウマ娘たちによってグランドライブは開催され、過去に行われたグランドライブより花開いた。

 

勝利どころか、ずっと下位でトレーナーにも見放され、高等部に進まず中等部でターフを去るウマ娘は『GIRLS’LEGEND U』の花道で泣き崩れた。彼女の名前が刺繍されたコンサートタオルを自作したファンたちがそこに十人以上もいた。そのタオルを広げて汗だくで応援するファンの姿を見て涙を堪え切れなかった。

仲間のウマ娘が左右で支えて中央ステージへと駆けていく。ウマ娘は歌うことも出来ず泣いた。ウマ娘失格と言えるが責める者はいなかった。

 

 

「「「何度も、何度も、走り続けるよーッ!」」」

アンコール一曲目『U.M.A.NEW WORLD!!』初披露、そしてエンドステージ後方五つの扉にシルエットが映り、飛び出してくるウマ娘たち。その五人もまた未勝利のまま学園を卒業する高等部三年生のウマ娘たち。

 

「「さあ今、駆けだした思いは止まらない!」」

 

勢いよく飛び出したはいいが、全員泣いていた。舞台裏にいた各トレーナーも、このステージで泣くのを止めろと言うのは不粋と思ったか何も言わずに笑って送り出した。

しかし、さすが高等部三年の意地か歌は途切れさせなかった。

広いステージを使った一糸も乱れないパフォーマンスを見た観客は沸き立ち、夢中になってコールを届ける。その様を見て廉二郎は

「うん、URAの手のひら返しも今回はナイス判断だ。グランドライブは毎年続けていくべきだな」

と、彼自身感動に包まれつつ演奏した。

 

『U.M.A.NEW WORLD!!』が終わると東京レース場の巨大モニターに『緊急告知!』とウマ娘レースファンには聞き慣れたレース実況女性アナの声が響くと同時に表示された。これはキャストであるウマ娘たちも聞かされていないサプライズだった。実況アナの声は続く。

『第二回グランドライブ、開催決定―ッ!』

廉二郎は事前にライトハローから聞いていたが、ウマ娘とファンたちは初耳のこと。

「「ワアアアアアアアアアッッ!」」

ファンたちは狂喜乱舞し、すっかりグランドライブに魅了されていたウマ娘たちもステージ上で抱き合い、第二回の開催を喜んだ。

 

『し・か・も!』

「「おおおおおお~?」」

もったいぶる実況アナを煽るファンたち。

『次回は東京と阪神のレース場で各2Days開催―ッ!』

「「ワアアアアアアアアアアアアアッッ!!」」

これは廉二郎も知らなかった。阪神レース場でもやるとは聞いていない。

人間のアイドルグループなら体力的にどうなのかと言われそうだが、ウマ娘なら全く問題はない。あともう一箇所くらい2Daysがあっても余裕だと言うだろう。

 

そして夢の二日間、ついにフィナーレ、ウマ娘たちを代表してシンボリルドルフ

「いよいよ、次が最後の曲です。私たちウマ娘、精一杯歌い、踊り、走ります!」

 

『うまぴょい伝説』疾走開始、ファンたちの多くは感動して涙を流し『俺の愛バ』の晴れ姿を見届けたのであった。このグランドライブの仕掛け人であるライトハローもまた歓喜の涙を流してステージを見守った。秋川理事長と駿川たづなも招待席から惜しみない拍手を贈る。グランドライブ、大成功であった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

今日はトレセン学園卒業式の日、中等部三年と高等部三年、同時に行われる。廉二郎は卒業証書を受け取る三年生たちを見守る。式後、何人かのウマ娘に囲まれた廉二郎

「「「英語を教えてくれてありがとうございました!」」」

トレセン学園には超人的な英語教師がいるのでは、そう噂された。廉二郎が英語教師になって以降、卒業したウマ娘のほとんどが英語を話せるのだから。

レースから離れて、これから社会の荒波の中を走るウマ娘たち。英語が話せると言うのは大きな武器になる。英語を一通りマスターすると、廉二郎は教頭を経て理事長に許可を取り、他の外国語も教えた。卒業生たちは語学堪能なことを称えられるたびに『トレセン学園で出会った名伯楽のおかげ』と答えた。

 

その卒業式の夜、廉二郎はライトハローと会い、祝杯を交わした。

「「グランドライブ大成功に乾杯!」」

祝杯をあげた場所は居酒屋だった。夜景の美しい高級レストランなんてお互い柄では無かった。

「そういえば昇進したそうですね」

「はい、グランドライブ大成功の手柄と言うことで」

「じゃあ、それも含めておめでとうの乾杯ですね」

「ふふっ、ありがとうございます」

 

楽しいひと時を過ごしていたが…

「れんりろーさぁん…」

ライトハローが酔い潰れてしまった。途中で酒量を控えるよう廉二郎が注意したが、よほど昇進とグランドライブ成功が嬉しかったか飲み過ぎた。何とか住所を聞き出すことにも成功、タクシーを呼んで一緒に乗った。

 

「スウ、スウ」

眠ってしまった。その寝顔を覗き込む。異世界ラーズでパーティーを組んだウマ娘たちの寝顔を思い出す。彼女たちとは、よく酒を酌み交わした。魔王を討った祝杯をあげられなかったことが今更ながら悔やまれる。

 

ライトハローの自宅に到着すると、そこはマンションだった。セキュリティのしっかりした、いいマンションに住んでいる。廉二郎の安アパートとは大きな違いだ。ライトハローを背負ってマンション入り口に

「ライトハローさん、部屋の番号は…」

「ハローって呼んでくんなきゃ教えにゃあい」

「困ったな、ハロー、何号室ですか?」

「204号室……」

マンション内に入って204号室に。背負っているのでライトハローの豊満な胸が背に当たるが

(あいつらが酒に潰れた時も、こうして背負ったっけなぁ…。スレイバーンに至っては俺の背でゲロ吐きやがったし)

こういうラッキー何とかには慣れっこになっていたようだ。幸いライトハローは嘔吐しなかった。

 

「着きましたよ。ライトハ…ハロー、鍵」

「はぁーい」

ドアを開けた。雪崩れ込むように廊下に倒れたライトハロー、それを抱き上げた廉二郎。

「あ…」

いわゆるお姫様抱っこというものだ。初体験だった。ウマ娘より力の無い人間の男が容易に抱き上げたことに酩酊状態であるも驚くライトハロー。少し正気を取り戻し、初お姫様抱っこを酩酊状態で受けるとは何たる不覚と。

寝室の場所を教えてもらい廉二郎はライトハローをベッドに寝かせた。強烈な睡魔が襲い掛かり、ライトハローはそのまま眠った。

 

廉二郎は迷った。このまま帰ったらドアを未施錠のまま帰らなくてはならない。まさか鍵を黙って持って帰るわけにもいくまい。仕方がないので廉二郎は廊下で休み明日を待つことにした。幸いに明日は彼とライトハローもお休みだ。

寝室を離れ、リビングを経て廊下に行こうとしたところ、フォトフレームが目に入った。写っているのは少女期のライトハローと中年女性、容貌から言って母親ではない。彼女の祖母だろう。

 

「……!?」

廉二郎は己が目を疑った。最後に見た時より齢を重ねているが間違いない。見間違えるはずがない。

「スレイ…バーン…」

それは異世界ラーズにおいて共に魔王ザナッハを討った仲間のウマ娘だった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

翌朝、ライトハローは目が覚めた。昨日外出した時の服で寝ていたことに気付き、そして強烈な頭痛とだるさ。見事な二日酔いだ。

しかし、いい匂いがすることに気付く。

 

ノックのあと、ゆっくりと扉を開ける廉二郎、隙間から顔を出して

「おはようございます、ライトハローさん」

「……」

「昨日は少し飲み過ぎたようで。私がご自宅まで送りました」

「すっ、すっ、すいません!」

ライトハロー、ベッド上で土下座、何度も廉二郎に頭を下げた。

「いやいや、私と飲む酒は美味しいって言ってくれて嬉しかったです」

「すみませ~ん、本当にすみません!」

「勝手に材料を使ってすみませんが二日酔いでも食べられるお粥を作りました」

「お粥…」

「服は皺だらけですし、髪は爆発しています。こちらで待っていますから」

鏡を見ると、目も当てられない姿の自分、ますます顔が赤くなった。

 

ライトハローはシャワーを浴びたあと、改めてパジャマに着替え髪も整えてリビングへと。

「お見苦しいものを見せました…」

「お望みなら忘れますが」

「そうして下さい、必ず…」

お椀にお粥が盛られた。

「美味しい…」

「そりゃあ良かった」

廉二郎も食べた。我ながら上出来と思っている。

「本当に美味しいです。二日酔いで食欲なんて無いのに、すいすい食べられます」

「おかわりは」

「もらいますっ!」

 

朝食後、廉二郎は昨夜見た写真について訊ねた。

「申し訳なかったのですが、あの写真を見ました。あの方はライトハローさんの…」

「えっ?はい、祖母のライセイオーです」

「ライ…ッ!?」

それは昭和の名ウマ娘だ。ウマ娘が幼いころから大好きな廉二郎だが記憶しているウマ娘の顔立ちは母親世代から。祖母世代となるとさすがに知らない。だがライセイオーの名は知っている。戦績と人気といい、三女神にも劣らない、まさに伝説のウマ娘だ。

 

「私に祖母の力が少しでもあればと思いましたけれど…だめでした」

「あの…失礼ですが…」

「生きていますよ、ピンピンしています。本人から望んで施設に入っております」

「すみません、会わせていただくことは出来るでしょうか。トレーナーとして昭和の偉大なウマ娘に是非お会いしてお話を伺いたくて…」

「かまいません。ちょうどよかった。今日祖母に会いに行く予定だったのです」

「連れて行っていただけるのですか」

「はい、それなら一旦別れませんか。祖母との約束は十四時なので、施設最寄りのJR尾久駅の改札口で十三時半に待ち合わせるのは」

「分かりました。それでは後ほど」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。