異世界から帰還した元勇者、モブウマ娘を育成します!   作:越路遼介

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第十九話 新婚旅行

氷室廉二郎とライトハローはめでたく結婚した。結婚式には廉二郎の両親と姉はもちろん、学生時代の友人とトレセン学園の同僚、かつて育成したウマ娘たち、現在育成しているカネツエックスも出席してくれた。

ライトハローの両親と祖母のライセイオー、トレセン学園で苦楽を共にしたウマ娘の友人たち、慕っていた先輩であるムーンライトミューも出席してくれた。

 

アクアリバーとブリッジコンプは、もう『この大失恋さえ人生の肥やしにしてやる』と開き直っているようだ。むしろ破れて悲しくて涙が出るような恋なんて、そう出来るものではない。これほどの恋心をくれただけでも十分ではないか。そう思い、心の底から廉二郎とライトハローを祝福した。

 

アニマアニムスは大学卒業後に父の会社の日本支社で働くことになったことを廉二郎に報告した。大学在学中から働き、その有能ぶりは父だけではなく、父の部下たちからも認められた。その才気を自分にもたらしてくれたのは廉二郎のおかげと改めてアニマアニムスは礼を言うのであった。

 

イッツコーリングは『欧州ツアーが決まった』と廉二郎に報告。

そして『凱旋門賞は何もレースだけで取るものじゃない。歌でも取れる』と胸を張った。

今や世界の歌姫であるイッツコーリング、多忙の極みだろうに結婚式に来て祝ってくれた教え子に感謝しかない廉二郎だった。

 

披露宴の最後には廉二郎ピアノ演奏による『うまぴょい伝説』を出席していたウマ娘全員で歌った。そこには廉二郎の母と姉、ムーンライトミュー、ライトハローの母、ライセイオーも加わっていた。

廉二郎とライトハローの結婚は多くの人々に祝福されたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ここは空港、新婚旅行に向かう二人。空港ロビーで結婚式を振り返るライトハロー。

「素敵な式だったわね…。みんなお祝いしてくれて…」

「そうだな。夢のような一日だった」

 

ちなみにプロポーズは廉二郎からだった。これもまた夜景の見える高級レストランなんて小洒落た場所ではなく居酒屋。酒がテーブルに運ばれてくる前に廉二郎が指輪の入った箱を開けて

「俺と結婚して下さい」

ライトハローは特に驚く様子もなくニコリと笑い

「喜んで」

と言う展開だった。そのまま二人で祝杯をあげたのは言うまでもない。

そして結婚式を経て、いまは新婚旅行に発つ前の空港というわけだ。

 

「しかし、時期がいい旅行になるね。俺も凱旋門賞は見てみたかった」

新婚旅行先はフランスのパリ、候補地はハワイを始め二人でたくさん話し合ったが、やはりウマ娘とトレーナーの夫婦、凱旋門賞を観たいと思った。

「ブリッジちゃん、出たんだよね」

「ああ、それが引退レースになったのだけど十八人出走で十六着だった。悔しかったと帰国後に言っていたけど俺から言わせれば凱旋門賞に出走出来ただけでも大したものなんだがな。しかもドベじゃないし」

「本当、私もそう思う。ロンシャンの芝の上に立てただけでもすごいよ」

 

 

飛行機に乗ってパリに到着、入国手続きを済ませてキャリーバッグを引いて歩く二人。

「あなたのおかげで今はフランス語も話せるし、本当に感謝しているわ」

空港内の案内表示が母国語のように理解できることが嬉しいライトハロー。

「嫁への点数を稼ぐにはちょうど良かったからね」

「もう、あなたったら。点数はすでに百二十点越えているよ♪」

「ん、そう?うへへ」

今日は初夜でもある。胸がときめく廉二郎だった。

 

「おっ、ストリートピアノがあるぞ」

空港内に設置されていたストリートピアノを見つけた廉二郎、誰も弾いていなかった。

「パリ到着を祝って、何か弾いてみる?」

「ハロー、何かリクエストある?」

「そうね…。あ、日本の漫画『ベルサイユのばら』がフランスでも人気と聞いたことがある。そのアニメ主題歌を弾いてみたら?」

「確か『薔薇は美しく散る』だったか。ちょっとウマチューブで聴いて譜面にしてみるよ」

 

空港ロビーのベンチに腰かけて『薔薇は美しく散る』をスマホで聴いて譜面に記した。ライトハローがコーヒーを買って来て渡してくれた。

「ありがとう、ちょうど出来上がったところだ」

「さすが早いわね」

譜面にしたものの、その譜面は見ずにピアノを弾く。廉二郎の持つ音楽スキルは一度聴いただけで完全コピーが出来る。念を入れただけだ。

 

「ええと…ハロー、このストピは歌唱可のようだ。歌ってみるかい?」

「ごめんなさい、言い出しっぺのくせして歌詞は全部覚えていないの」

「いえいえ、それじゃ聴いて下さい『薔薇は美しく散る』」

 

パリ空港ロビーに美しい旋律が流れる。ベルサイユのばら主題歌『薔薇は美しく散る』のピアノ演奏。その見事な旋律に前奏だけでライトハローは痺れた。音楽ほど人を魅了するものはない。

 

すると

『草むらに名も知れず~咲いている~花ならば~♪』

と歌いだしたウマ娘がいた。フランス語でだ。それは美しい長い金髪をなびかせるウマ娘だった。廉二郎とライトハローも驚いたが、ピアノは続く。思わぬ歌い手とのセッションとなった。

(おいおい、何だよ、このウマ娘の歌唱力は…)

 

二番から、もう一人増えた。それは茶褐色の肌、美しい黒髪のウマ娘だった。締めの

『薔薇は薔薇は、気高く咲いて、薔薇は薔薇は、美しく散る~♪』

見事にハーモニーで歌った。この歌のフランス語バージョンは初めて聴いた廉二郎とライトハローだが、その美声に聴き惚れるばかりだ。

 

演奏を終えると空港ロビーは大きな拍手喝さいに包まれた。廉二郎とウマ娘二人は聴衆にお辞儀をした。金髪のウマ娘が

『見事なピアノでした。思わず我慢できなくて歌いだしてしまいました』

廉二郎のピアノを称えた。茶褐色の肌のウマ娘は

『大好きなアニメでした。日本の原作と聴いています。日本の方のピアノ演奏で歌えたことを嬉しく思います』

『いえいえ、こちらこそ。素晴らしい歌声に心から感謝いたします』

『お二人は友人ですか?』

と、ライトハローがフランス語で訊ねた。二人は頷く。

『あんな素晴らしいハーモニーを即興で出来るとは大したものです』

そう廉二郎が称えると

『フランスのウマ娘は幼少から歌舞を厳しく叩き込まれますので』

茶褐色の肌のウマ娘はそう答えたあと『それでは』と廉二郎夫婦にペコリと頭を下げてその場をあとにした。続けて金髪のウマ娘も

『ようこそパリへ、日本の方。楽しい旅行をお過ごしください』

そう言って立ち去った。

 

「あっ、名前聴き忘れたな」

「私たちも名乗らなかったじゃない」

「もしかしたら、もう一度会えるかな。あの二人…」

「見込みありそうな娘?」

「見込みどころじゃない。とんでもないウマ娘だ。日本で会ったなら即スカウトしていたな」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

新婚旅行二日目、凱旋門とエッフェル塔を観に行く二人。凱旋門賞は明後日に開催される。明日はルーブル美術館に行く予定だ。

そして廉二郎と腕を組んで歩くライトハローは体に違和感を覚えた。

「ん?」

「どうした?」

「現役時代に負った怪我…。後遺症もあって痛かったんだけど…何故か全然痛くなくて」

「それは俺にも嬉しいことだな。結婚祝いに三女神が何かしてくれたんじゃないか」

「それならいいんだけど…」

日常生活には支障のない程度の痛みだ。現に廉二郎はライトハローの引退理由が故障ということを彼女の祖母ライセイオーに聴いて初めて知ったくらいだ。

一生付き合わなければならない痛みと覚悟していたものが、ある日突然綺麗さっぱり無くなっている。逆に戸惑うライトハロー。

 

新婚の二人、初夜を迎えた時に廉二郎は気付いてしまった。これはこのまま放置していたら、いずれ歩行が出来なくなると。だから廉二郎はライトハローと肌を合わせつつ、気術の【治癒】で治してしまった。

 

(そういえば…)

ライトハローは廉二郎に抱かれながら、故障している右脚が徐々に温かくなったことを思いだした。とても優しい温かさだった。触れられた羞恥かと感じたが、いま思うと違う気がする。

(間違いない。彼は私に何かした。だけど…)

ライトハローはより体を廉二郎に密着させる。それが嬉しい廉二郎。

 

(気づかないふりを通そう…)

合点のいったことがある。あのカネツエックスの右足首の捻挫、テレビで見た施術の真似と廉二郎は言っていたが、あれはそんな素人芸で治る浅い捻挫では無かった。

しかし現実、廉二郎は一瞬で治してしまった。そういうことだったのか、ライトハローは思った。

 

廉二郎の施術を受けたアクアリバーとブリッジコンプも廉二郎の【治癒】について今に至るまで一切口外していない。墓まで持っていくと決めている。廉二郎の能力が世間に露見すれば大変なことになる。妻にさえ隠さなくてはならない。それほどの秘密と納得も出来る。

(これは墓まで持っていかなければならないことだから…)

そして、ひまわりのような笑顔を夫に向けるのだった。“脚を治してくれてありがとう”と心の中で感謝の気持ちを伝えながら。

 

 

そして新婚旅行四日目、パリロンシャンレース場へと訪れた廉二郎とライトハロー。

「すまないな、どうしても第一レースから観たいんだ」

メインの凱旋門賞は第十レースだ。その他にも凱旋門賞当日は同レース場でGIとGⅡレースが行われる。第一レースはGⅢレースだが

「やっぱりいた…」

「空港で会った二人ね。同じ第一レースを走るみたい。ええと名前は」

電光掲示板を見つめる二人、金髪のウマ娘がモンジュー、黒髪で茶褐色の肌のウマ娘がリガントーナと分かった。廉二郎は

「バ体を見る限り、あの二人が大差で勝つだろうな」

 

ゲートに入る前、モンジューが廉二郎とライトハローが観客席にいることに気付いた。第一レースは観客もまばらだ。モンジューがリガントーナに話しかけて、廉二郎たちがいることを教えた。ニコリと笑ってモンジューとリガントーナは廉二郎たちに手を振る。廉二郎とライトハローも手を振った。

 

ゲートが開いた。モンジューとリガントーナは中盤を保ち、そして終盤の直線で一気に差した。一着はモンジュー、二着はリガントーナだった。三着のウマ娘に大差をつけてゴールした。

「現段階でこの実力か…。日本ならGⅠに出ていても不思議じゃない」

「しかも、そのGⅠで勝つでしょうね」

「彼女たちがジャパンカップに乗り込んでこないことを願うしかないかな」

「そういうの、フラグって言うのよ。ふふっ」

 

凱旋門賞を観た二人、やはりレースと、そのウイニングライブも迫力と華があった。

廉二郎とライトハローにとっても学ぶことは多かった。

 

新婚旅行から帰った廉二郎、トレセン学園近くにマンションを借りてライトハローと住むことに。日常に戻った二人。

ライトハローはこの時期に独立してイベントプロデュースの会社『ハロープロデュース』を立ち上げた。長年の夢であった。そしてライトハローの会社はURAからグランドライブの運営を任されることに。廉二郎は公私共にライトハローのよきパートナーとなる。

 

廉二郎は相変わらずトレセン学園で英語教師を務め、カネツエックスのトレーナーとして在る。育成は順調、カネツエックスはGⅢとGⅡのレースに勝利し、ついに宝塚記念への出走が決まった。マヤノトップガンとの再戦の機会が訪れたのだ。

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