異世界から帰還した元勇者、モブウマ娘を育成します!   作:越路遼介

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ライブシアターは、いつもモブウマ娘編成にして観ています。


第二話 アクアリバー

入学式が終わり、今年からトレセン学園に配属される新人トレーナーが改めて校舎内の会議室へと。廉二郎と同期のトレーナーは七人、廉二郎は一番若い。

秋川理事長と駿川たづなが会議室にやってきた。新人トレーナーたちは立ちあがり、一斉に頭を下げた。

「うむ、着席!」

「「はいっ!」」

 

「皆さんは配属前、ここトレセン学園で三ヶ月の研修を行っていますので、お互いに顔と名前は知っていると思いますが改めて自己紹介をお願いいたします」

と、駿川たづな。新人トレーナー、一人一人が自己紹介をしていく。廉二郎の番になった。

「URAトレーナー養成学校、第七十五期卒業の氷室廉二郎と言います」

廉二郎に関する資料を見ていた秋川理事長は

「むっ、氷室トレーナーはマリンナデシコの弟なのか」

「はい、マリンナデシコは私の姉です」

「戦績は残せなかったが努力家で良いウマ娘だった。元気にしているか?」

「ええ、消防士となって、現在はウマ娘のみのスーパーレスキュー隊に配属され、日々訓練に励んでいるようです。最近は彼氏も出来たとか」

「重畳!うらやましいな、たづな」

「はい、ふふっ」

さて、と前置きし駿川たづなが

「研修のさいに説明をしましたが各トレーナーは新入生の中からスカウトを行うことから始めて下さい」

その後も新人トレーナーに当面の方針を説明、各自資料を見つつ聴き入る。一定数のウマ娘を担当することでチームの旗揚げが許可されて部室も与えられると。

「質問ですが、新入生ではなく中等部高等部の上級生で担当トレーナーが就いていないウマ娘をスカウトすることは?」

廉二郎が訊ねた。

「可能です。二年生三年生の中には、まだ本格化を迎えていないウマ娘もいますので」

 

説明会を終えると、早速各新人トレーナーたちは会議室を出て行く。スカウトをするため学園内のターフに向かう。廉二郎も席を立つと

「期待しておるぞ」

「はい、理事長!」

 

こうして廉二郎もターフに向かった。芝に入らず観客席から走るウマ娘たちを見ようと思ったが、そこに

「あの娘は…」

入学式で見かけた車椅子のウマ娘だった。ターフで走るウマ娘たちを羨ましそうに見ている。

「やあ」

反応がない。ターフで駆けるウマ娘たちの姿に見惚れているかのようだった。ターフ内では同期のトレーナーたちが早速スカウトを始めていた。

「コホン、俺は新人トレーナーの氷室廉二郎、君は?」

「は?」

車椅子の横に腰かけた。

「私ですか?」

「うん」

「アクアリバーと言います」

セミロングで亜麻色の髪、左耳に青いリボンをつけている。廉二郎はそのまま何も言わず、アクアリバーと共にターフで駆けるウマ娘を眺めていた。

「いいんですか?どんどん優秀なウマ娘を他のトレーナーさんたちに取られてしまいますよ」

「かまわないよ。君と話したかった」

「……」

「快癒後でいい。君の走りが見たい」

「…卒業まで治りません。私はここトレセン学園のウマ娘専門医療とリハビリ施設を利用するため入学しただけですから」

「ほう」

「もちろん入学テストを受ける時は彼女たちのようにトゥインクルシリーズに出るウマ娘になるつもりでした。だけど合格後に私は交通事故で…」

「……」

「地元の主治医によると長期のウマ娘専門医療とリハビリを頑張れば、たとえ走れずとも歩けるようになれると診断されました。でも私の家はそんなに裕福ではありませんから治療代とリハビリ代が捻出できない。だから、そのまま入学しました」

アクアリバーは自嘲し

「最低ですよね…。私と同じウマ娘たちがトゥインクルシリーズ目指して頑張る場所を無料診療所扱いするなんて…」

本心では走りたいんだな、そう廉二郎は思う。駆けるウマ娘たちを彼女は心から羨ましそうに見つめていた。一緒に駆けたい、そう願っているのだろう。そもそも無料診療所としてトレセン学園を利用するのなら、ターフに来ず学園常駐の専門医がいる医務室かリハビリセンターに行けばいい。走りたいのだ。そして目の前のウマ娘たちと競う自分を想像している。走ることはウマ娘にとって本能、それは地球と異世界ラーズも変わらない。

「気術【睡眠】」

「あ、あれ…?」

アクアリバーは車椅子に腰かけたまま眠ってしまった。

 

周囲を見渡す廉二郎、観客席に在る者は廉二郎とアクアリバーだけ。あとはみなターフにいる。

(状況よし、こんな異端の力、見られたくないからな)

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「アクアリバー」

「ん…」

「こんなところで転寝していたら風邪をひくぞ」

「私、寝ていたのですか?」

「ああ、気持ちよさそうに。起こしたらかわいそうと思って、しばらく放置していたけれど冷えてきたから…ん?」

アクアリバーの右肩の上に何かいた。

「アクアリバー、毛虫が右肩の上に」

「……ヒッ…!」

ウマ娘は虫が大の苦手な者が多い。実を言うと毛虫を彼女の右肩の上に乗せたのは廉二郎だ。

 

「いっ、いっ、いやあああああ!」

ガシャンと音を立てて車椅子が倒れた。そしてアクアリバーは暴れた。自分の両の脚で立って。

大きな叫び声と超が付くほどの暴れっぷり、ターフを走っていたウマ娘とトレーナーたちも何事か観客席を見る。

予想を超える大暴れに廉二郎は驚きつつ

「落ち着け、いま毛虫を取ってあげるから…ぷげら!」

「毛虫、毛虫いいいぃぃっ!いやああああ!」

暴れるアクアリバーの裏拳が廉二郎の顔面にヒットした。年頃のウマ娘の肩に毛虫を乗せたのだから当然の報いか。

さすがウマ娘の裏拳、元勇者といえども、かなり痛かった。廉二郎が顔面を押さえつつ

「アッ、アクアリバー、君、立っているぞ」

 

「……え」

驚き、呆然としているアクアリバー、そのすきに毛虫を取った廉二郎。

「う、うそ…。脚が動く、痛くない…!地面の感触も!」

「よかったなぁ…。素人考えだけど案外精神的なものもあったかもな」

そんなはずはないと思うアクアリバーだが現実、いま自分は両の脚で立っている。

「あ、あああ…」

「ああ、じゃ早速君の走りを見た…」

「うわああああああんっ!うわああああ!」

大声で泣きだした。異常事態と思ったかターフにいた同期トレーナーが数人きて

「おい氷室!この娘に何をした!」

「強引なスカウトでもしたのか!?ぶん殴られているし!」

見事な青痣になっている廉二郎の頬、そこを撫でながら

「いやいやいやいや、誤解だって!ほら泣きやめ、アクアリバー」

「えぐっ、ぐしっ」

廉二郎が差し出したハンカチを取って涙を拭くアクアリバー。

「違います。歩けなかった私がこうして…。ぐすっ」

倒れている車椅子に気づいた同期トレーナーたち。彼らも入学式の時に車椅子のアクアリバーを見ている。そんな奇跡が起こるものかと呆然としている。

 

アクアリバーの脚を治したのは気術の【治癒】だ。病気には対応できないが外傷には効果が発揮される。元勇者である廉二郎が有している高度な闘気術だ。同期トレーナーたちが何かしたのかと廉二郎を見るので

「と、ともあれ、リハビリがてら軽く歩いて、可能なようなら少し走ってみたらどうか」

話を逸らした。

「う、うん、そうします。ジャージに着替えてきますんで!」

ターフの観客席から寮まで早速走り出したアクアリバーだった。

 

「三女神が何かしてくれたのかね…」

同期トレーナーが言うと廉二郎は頷き

「そうかもしれませんね。嘘か本当か、三女神像の前で不思議な力をもらえた気がしたと言うウマ娘は何人か聞いたことがありますから」

 

廉二郎はバインダーとストップウォッチを改めて持ち、アクアリバーが戻ってくるのをターフで待った。

「お待たせしました!」

戻ってきたアクアリバー、よほど走れるのが嬉しいか頬が紅潮している。年頃のウマ娘らしい可愛らしさだった。

「軽く歩く段階は必要ありません。走りを見て下さい!」

 

ターフを走り出したアクアリバー、車椅子生活でも上半身の方はちゃんとトレーニングを欠かさなかったか、快癒当日にしては素晴らしい走りを見せた。走ることが楽しくて仕方ない、ひまわりのような笑顔で芝のターフを走り続けた。脚質が長距離ではないのに走り続ける。

「走れるって最高!すごく楽しい!」

額に宝石のような汗をにじませ、アクアリバーは廉二郎の前に

「ああ、伝わってきたよ」

「あ、今更ですけど殴っちゃってごめんなさい!痛そう…」

「いやいやいや、ウマ娘は虫が苦手だからな。無理もない。さて…」

「はい」

「走りの基本は出来ている。地元のランナーズクラブ等に属していたのか?」

「はい、小さなクラブでしたけれど、この学園のOGである先生が教えてくれて、そこに小さいころから通っていました」

「では、その先生が君に言ってくれた脚質は何と?」

「マイルで差し、ダートは向いていないと言われました」

(さすがトレセン学園OGだな。当たりだ)

「私もそうだと思うのですが…」

「よし、最初はマイル中心でトレーニングを組んでみよう。あ、その前に」

「え?」

「順番がおかしくなってしまったが、俺が君、アクアリバーのトレーナーになっていいか?」

「もちろんです!よろしくお願いいたします!」

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