異世界から帰還した元勇者、モブウマ娘を育成します!   作:越路遼介

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第四話 デビュー戦アクアリバー

勇者とは何か。数多ある物語では仲間と共に魔王を打倒する英雄として描かれる。

しかし、勇者レンジと名乗っていた時の廉二郎は少々毛色が違った勇者だった。

彼の仲間であった四人のウマ娘、聖騎士スレイバーン、格闘王マニッシュベイ、聖槍士ワグナード、大盾士トロンテスタ、彼女らはいずれも魔力を有さず魔法が使えない。闘気は使えるが、それは自己の戦闘力を高めるだけのもの。

 

勇者レンジは魔法使い兼ヒーラー、そして戦闘の指揮を取ることが役目だった。魔王打倒に至るまで数えきれないほどの戦闘を繰り広げていた勇者レンジ率いるパーティー。

仲間のウマ娘たちからも全幅の信頼を寄せられていた。

 

一瞬で状況を判断して、的確な指示を仲間たちに出す。針の先ほどのミスが死につながる実戦を廉二郎は何度経験してきたことだろう。本人も把握していないかもしれない。

 

そんな彼がウマ娘を育成すればどうなるだろうか。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「日本語で歌いきれた!」

「アニーちゃん上手!完璧じゃん!」

今日は課外授業と言うべきか、廉二郎はアクアリバーとアニマアニムスをカラオケボックスに連れてきていた。デビュー戦で勝利すればウイニングライブで歌う『make debut!』の練習のためだ。

 

「トレーナーの教え方が上手なんだよ!私だいぶ日本語分かってきたし!」

スカウトからそれほど経っていないのに、アニマアニムスはだいぶ日本語が上達し、ついには『make debut!』をカラオケマシーンのモニターを見ずに歌いきった。

 

ウイニングライブは人間のアイドルや歌手のライブと異なりステージに歌詞を表示するプロンプターが設置されない。歌詞を完全に覚えなくてはならないのだ。

アクアリバーは一足先に『make debut!』をマスターしているが仲間のアニマアニムスが達成できたことが心から嬉しいようだ。

『アニーちゃんの歌声は透き通っていていいね~!』

アクアリバーが英語で称えた。

「話せていた?」

「もうバッチリだよ!」

仲良く手を繋いではしゃぐ担当ウマ娘たちを見つつソフトドリンクを飲む廉二郎。

「これで二人ともデビュー戦で勝利しても問題ないな」

「「はいっ」」

「いやぁ、歌の指導は明らかにトレーナーの仕事じゃないのだが、長いウマ娘レース史の中にはウイニングライブで歌う歌の歌詞を覚えることが出来なくて、わざと四着になったウマ娘もいるらしいのでな。万が一にも二人がそんな考えを持っては困ると思ったんだよ」

「そんなことしませんよ!そんなの一緒に走っているウマ娘たちに失礼です!」

鼻息荒くアニマアニムスが言った。

 

「しかし、本当にアニーすごいな、教えた俺が一番びっくりしているよ。もうそんな流暢に日本語を話せて」

「お世辞抜きでトレーナーの教え方が上手だと思うんです。何というか頭とお腹にスウッと入っていくような感じで」

異世界ラーズで数多の戦闘の指揮を取った勇者レンジこと廉二郎、一瞬で作戦を考えて仲間たちに伝達することを数えきれないほど経験している彼はアニマアニムスが言う通り教え方がずば抜けて上手だった。

 

「でも漢字はまだまだだから…。そっちも教えてもらえると…。えへへ」

「トレーナー!私の英語力も上達したでしょ!こないだの授業で英文を読んだ時、クラスで注目されたし!」

トレーニング中、もしくはミーティングで一時間だけ英会話にしてみたところ、アクアリバーの英会話能力も上がった。学園の授業より分かりやすいと、今度は二時間にしてくれと望んだくらいだ。

「でも私も書く方はまだまだで…。えへへ」

「ああ、教えさせてもらうよ」

「それは明日から!アクアちゃん『うまぴょい伝説』歌おうよ!」

それはURAファイナルに優勝しなければ歌えない曲、夢は大きくだ。廉二郎は楽しそうに『うまぴょい伝説』を歌う二人のウマ娘たちを微笑んで見つめた。コールしろと怒られた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

しばらく経ち、アクアリバーのデビュー戦の日が訪れた。芝マイル、調子は絶好調だ。廉二郎とアニマアニムスはアクアリバーがいる控室へと。

「やれることは全部やった」

「はいっ」

「アクアちゃん、緊張していないの?」

「しているよ~。強い娘も出ているし」

デビュー戦は九人、上位三傑に入ればURA主催のレースに出走できる。

 

「そろそろ時間だ。俺とアニーは観客席で見ているからな」

「うん、二人とも、しっかりと見ていてね!」

パドックを経て、アクアリバーはターフへと。ゲートがある。ゆっくりとアクアリバーは自分の枠へと。

「ここから始まるんだ…。私のトゥインクルシリーズが…」

 

その隣の枠で『響けファンファーレ…。届けゴールまで…』と『make debut!』の歌詞を諳んじているウマ娘がいた。もう勝つ気でいる。気が早いな、とアクアリバーは苦笑したが、どうやら様子が違う。

 

「ああもうっ!」

頭を抱えている。デビュー戦当日まで歌詞を覚えることが出来なかったようだ。

(タクティちゃん…。アンタ何やってんのよ…)

タクティカルワン、鮮やかな長い金髪をサイドテールで垂らしている。アクアリバーと同じマイル路線、廉二郎と同期である松本トレーナーが担当している。アクアリバーは両頬を軽く叩いて

「人のことを考えている余裕はない…。無心で行こう!」

 

ゲートが開いた。九人のウマ娘が一斉にスタート、アクアリバーはスキル【集中力】と【差しのコツ】が発動した。

「よしっ、出遅れもない。理想的なスタートだ!」

廉二郎は拳を握る。ゲートからのスタートダッシュは何度も練習を重ねた。

「トレーナー、アクアちゃん、いい位置につけています」

「ああ、九人走で五位をキープするのは差しとして理想だ」

 

タクティカルワンの脚質は先行、現在二位をキープしている。そして、いよいよ第四コーナーに差し掛かりアクアリバーが勝負に出ようとした時だった。タクティカルワンの順位が下がりだした。

(歌詞もだけど、ダンスもマスターしきれなかった…。デビュー戦は次がある…。今の状態でウイニングライブに出るよりは…)

 

「ふざけるなぁ!」

差しに来たアクアリバーがタクティカルワンに怒鳴り飛ばした。

「アンタ…!その行為が同じレースを走るウマ娘に対して、どれほどの侮辱か分かんないの!」

「アクア…!」

「勝つ気がないならレースに出るな!この駄バ女!」

「駄…」

アクアリバーに差されたタクティカルワン、その背を見て

「そこまで言われて引けるかああああっ!」

己に喝を入れてタクティカルワンはアクアリバーを猛追、先頭は逃げのウマ娘、もはや残りは二百メートルを切った。アクアリバーは先頭の逃げウマ娘に懸命に食い下がる。タクティカルワンも同じく食い下がる。先頭の逃げウマ娘は抜けない。しかしアクアリバーは抜いてやると懸命に駆けた。結果は

 

『一着はサイレンススズカ、二着はアクアリバー、三着はタクティカルワン』

 

観客席で掲示板を見つめる廉二郎、満足な結果だった。

「デビュー戦は二位か。しかし終盤にサイレンススズカと距離を縮めたのは大したものだ」

「スズカ、すごいウマ娘だね、トレーナー」

「ダートにスズカがいなくてよかったな、アニー」

「そうでもないよ、コパノリッキーって、ものすごく強い娘がいるもの」

 

サイレンススズカはタクティカルワンに歩み

「タクティさん」

「はぁ…はぁ…。な、なによ」

「アクアちゃんの言う通りです。二度とあんな振る舞いをしないで下さい」

「……」

「同じレースを走る私たちに対する裏切りです」

見抜かれていた。先頭の景色は譲らないと言っておきながら後ろにも目があるのか。静かな怒りを瞳に宿すサイレンススズカに気圧されたタクティカルワン、かつ周りを見渡すと他のウマ娘たちも怒りに満ちた視線でタクティカルワンを見つめていた。何て愚かなことをしたのかと思い知らされる。

「…ごめんなさい。みんなにもごめん。心から謝らせて。私はウマ娘として…最低の行為をしてしまった」

同じレースを走ったウマ娘たちに頭を下げるタクティカルワン、申し訳なさと後悔で涙があふれていた。

「二度としないと誓う。本当にごめんなさい」

 

「分かってくれればいいのです。さて皆さん、ウイニングライブに備えましょう」

「「ああ」」

「「おうっ!」」

「タクティちゃん、二着と三着の私たちは、急ぎスズカちゃんの両翼として仕上げないと!」

「う、うん」

ターフから去ろうとするアクアリバーに

「アクア、ありがとう、あの時に怒鳴り飛ばしてくれて…」

「いいよ、さあ急ごう、まだ歌詞を覚えられる時間くらいあるって!」




ウマ娘育成中のレースでアクアリバーとアニマアニムスが出走していると嬉しくなります。そして育成中のウマ娘に勝ってくれと願うのですが、それは叶わず。そんなモブウマ娘大好きの私ですが、育成中のGⅠレースでモブウマ娘が上位三傑に入った場合はライブをスキップせずに観ることを鉄の掟にしています。
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