異世界から帰還した元勇者、モブウマ娘を育成します!   作:越路遼介

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第六話 デビュー戦アニマアニムス

無事に期末テストの数学で合格点を出したアクアリバーとアニマアニムス、廉二郎も胸を撫でおろした。

 

アニマアニムスのデビュー戦は、もう間近だ。トレーニングに励む日々。

「アニー【差しコーナー】を身に付けたのはいいが、そのスキルによって今まで出来ていたコーナーリングのフォームが崩れている。スキルに振り回されるな」

「はいっ」

「展示する。【差しコーナー】を駆使しつつ速度を上げるには」

実際に廉二郎が走ってみせた。真剣に廉二郎の展示を見つめるアニマアニムス、もちろん速度的には、いかに元勇者の廉二郎とてウマ娘に敵わない。だが走り方は廉二郎から十分に学べる。

「分かりました。今のフォームで走ってみます」

「トレーナー、私も最近【差しコーナー】のスキルを得ましたので、もう一度フォームをチェックしてもらえますか?」

「もちろんだ、アクア」

 

 

そして、アニマアニムスのデビュー戦の日が訪れた。朝食は廉二郎特製のニンジンサラダとタマゴサンドを食べて元気いっぱいだ。

「ふんすっ、ふんすっ」

控室で謎の気合を入れている。日本語がしゃべれなくて友達が出来ずしょげていたころが嘘のようだ。

「デビュー戦で【集中力】【差しのコツ】【差しコーナー】を体得しているのは僥倖だ。かつ上手に使いこなしている。上位には入れるだろう」

「一着を狙いますよ、もちろんっ!」

「その意気だ。俺とアクアは観客席で観ているからな」

「はいっ、しっかりと見ていてください、トレーナー!」

「応援しているよ!」

「うんっ、アクアちゃん、観ていて!」

控室から廉二郎とアクアリバーが出て行くと

「ふうっ」

今日のデビュー戦、両親がわざわざアメリカから見に来ている。いいところを見せたい。

母のアニマレインボーが果たせなかった中央ウマ娘のデビュー。娘の私がでっかく叶えるところを見せてあげたい。

「ママ、観ていて…」

 

ダートの砂上に立ち、ゲートに入る三番人気のアニマアニムス、九人走、枠は四番だ。気合は十分。

ゲートが開いた。砂塵が舞う。【集中力】【差しのコツ】のスキル発動、アニマアニムスはまだダート固有のスキルを得られていないが十分なスタートだ。

(四位か五位をキープして第四コーナーで【差しコーナー】を出す!)

脚質が先行である一番人気のウマ娘が早々に先頭を走りだしている。

(このレースに脚質が逃げのウマ娘はいない。やはり彼女が先頭に立った)

 

第四コーナーに差し掛かった。【差しコーナー】スキル発動、廉二郎仕込みのコーナーリングで一気に二位に躍り出たアニマアニムス、あとは差し切るだけ。直線を駆ける。もうスキルはない。地力勝負だ。一番人気のウマ娘と差が縮まってきた。差せる…!そう思った時だった。後ろからものすごい勢いで加速してくるウマ娘がいた。

さくら色の髪をなびかせて突進してくる小柄なウマ娘、後方から強烈な圧迫感を覚えるアニマアニムス

(まさか…!彼女は九番人気…!)

アニマアニムスが先頭に躍り出た。しかし、それは一瞬、すべて差し切られて一着は奪われてしまった。

 

「はあ…はあ…」

満面の笑みで観客席へ両手を振るウマ娘の背を見つめるアニマアニムス

 

『一着はハルウララ、二着はアニマアニムス』

 

完全にノーマークだった。九番人気のウマ娘が一着を取ったのだから観客席から彼女に惜しみない拍手と歓声が届いた。

 

控室で

「すまない、アニー…。全くノーマークだった…」

「トレーナー、あの差しようは事前に備えていたとしても対応できるものではありません。頭を上げて下さい」

「すまない…」

「私の実力が足りなかった。それだけです」

「そうか…」

「だから、ウララちゃんに差し切られないバリキを私に下さい」

「もちろん、そのつもりだ」

 

「それじゃ私はウイニングライブの準備がありますので」

「ああ、アクアとしっかりと観ているからな!」

「はい」

ニコリと笑って控室を出て行った。

「ふう…。俺もまだまだだな…」

「元気出してよ、トレーナー!今夜はアニーちゃんのご両親とお食事会なんだし」

「そうだなアクア、こんな顔じゃアニーのご両親に向かい合えないよ」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

アニマアニムスとその両親、そしてアクアリバーと廉二郎の食事会は都内の高級レストランで行われた。アニマアニムスの父デビットは日本語が話せないため会話は英語だ。

『まあまあ、トレーナーさんはマリン先輩の息子さんだったのですか!?』

世間は狭い、アニマアニムスの母親アニマレインボーは廉二郎の母マリンスクエアと浦和レース場で先輩と後輩の間柄だったようだ。

 

『浦和レース場では大変お世話になって…。先輩はお元気ですか?』

『はい、昔から近隣のウマ娘ランナーズクラブでコーチをやっていますし、今は私と姉も巣立ち、父と二人暮らしですが、夫婦でよく旅行に行っているようです』

『それはよかった…。もしかしてお姉さまもレースに?』

『姉のマリンナデシコはトレセン学園に入学できたものの未勝利のまま終わりました。大学に行き、卒業後は消防士になって今はレスキュー隊員です』

『レスキューですか。お母様も後輩を助けることに熱心でしたし血筋なのですね』

『まあ、私には厳しい姉でしたが』

 

『氷室さん、娘に日本語を教えていただきありがとうございます』

英語で廉二郎に礼を言うデビットは白人のアメリカ男性、たくましい体躯で堂々としたものだ。会社の社長をしているらしい。アニマアニムスは社長令嬢だったようだ。

『いいえ、こちらでウマ娘として活動していくのなら必要かと思いまして』

『アクアリバーさんの英語も流暢で…よき指導力をお持ちのようだ』

『恐縮です』

 

『ママ、見て見て、いま私は漢字の練習中なの!』

アニマアニムスが漢字の書き取りノートを見せた。

『まあまあ、これはもう小学校高学年レベルじゃないの。字も綺麗だし、アニー、すごいわ』

『えへへ…』

『今後はトレセン学園の授業だけでおのずと身に付くと思います』

『ありがとうございます、トレーナーさん。デビュー戦で二着になれる走力ばかりか、ターフを去った後も一生の財になる日本語まで授けてくれるなんて母としてお礼の言いようもございません』

『教えられることは何でも教えます。今後も安心して娘さんを預けて下されれば嬉しいです』

 

食事会は終わり、アニマアニムスの両親は空港近くのホテルまでタクシーで向かう。

廉二郎は二人のウマ娘を連れてトレセン学園の寮だ。電車で帰る。

『ママ、パパ、またレースを観に来てね!』

『もちろんよ、本当に嬉しいわ…。私の娘が中央でデビュー出来るのだもの』

『大変なのは、ここからだけどね』

『そうね、応援しているわ』

『アニー、体に気をつけてな。氷室さん、娘をよろしくお願いいたします』

『お任せください』

『またね!ママ、パパ!』

 

タクシー車内、母のアニマレインボーが

『ああ、よかった。あなたが会社のルーキーに向ける威圧たっぷりの視線をトレーナーさんに向けやしないか心配だったのよ』

『…向けたよ』

『え?』

『愛娘を預けるんだ。どんな男か慎重に見極めなければならないだろう。ついな』

『気づかなかったのかもね。何の反応もしなかったもの』

『気づいていたよ。そして何事も無いように流された』

父のデビットは苦笑した。一代でマーケットチェーンを展開させた傑物社長デビット、毎年新入社員の研修にも立ち合い、社会の厳しさを理解していない若い新入社員に向ける威圧の視線、筋骨隆々の黒人の若者でさえ震え上がるものだ。

もっとも、彼の妻アニマレインボーはその圧のこもった視線に惚れたのだが。

『まさかトレーナー養成学校出たての若者に私の圧が流されるとは思わなかったな』

『胆力は十分ということね。頼もしいわ』

『不思議な若者だ。何というか私より修羅場をくぐっているというか…』

『そんなはずないでしょ』

そう返すものの母のアニマレインボーも廉二郎に『年に似合わぬ落ち着きと風格がある』という印象を抱いた。廉二郎の母をよく知る彼女は改めて、かつて先輩と慕ったウマ娘に敬意を表した。素晴らしい男子を育てたと。その男子が愛娘の師となる幸運を。

「伯楽に出会えたわね…。アニー」




ちなみに私が一番推しているウマ娘はハルウララです。トップ画面も彼女ですし。20回は育成しているでしょうが有馬記念を勝たせられたのは一度だけ。凱旋門賞の二連覇は今だ成しておりません。モンジューを差すハルウララが見たいものです。
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