異世界から帰還した元勇者、モブウマ娘を育成します! 作:越路遼介
トレセン学園校舎内、トレーナーたちが利用する食堂にやってきた廉二郎
「ええと、今日の日替わり定食は…おっ、生姜焼きか」
オーダーを済ませ他のトレーナーたちが見ているウマ娘のレース中継、御冷を片手に一緒に見ることに。GⅢのレースだ。短距離で一番人気はサクラバクシンオーである。
ゲートが開いた。廉二郎もモニターに見入る。
「生姜焼き定食お待ち~」
タイミング悪いな、そう思いつつ受け取り口へと向かう廉二郎、すると
「「あああああっ!」」
トレーナーたちがモニターを見ながら悲痛に叫んだ。何事かと振り向くとモニターには大惨事が映っていた。サクラバクシンオーは逃げで先頭を走っていたが二位のウマ娘が転倒し、ちょうど密集していたことが災いして、それ以降に続くウマ娘たちが多重転倒をしてしまったのだ。
「いっ、急ぎ宝塚に!」
「ああ、急ごう!」
場所は阪神レース場、ウマ娘を送り出したトレーナーがいたのだろう。数人のトレーナーが血相を変えて食堂から出て行った。
ウマ娘は時速六十キロから七十キロほどで走る。ヒトより体は頑丈であるが、それでもレース中の転倒は危険極まりない。
モニターには動けなくなったウマ娘たちがターフに横たわっていてレース場のスタッフたちが駆けつけて手当を始めていた。レースは中止、サクラバクシンオーも引き返してきてウマ娘たちへ必死に呼びかけている。
「このウマ娘、まったく動かない…。頭でも打ったのか…」
心配そうにつぶやく先輩トレーナー、廉二郎も好物の生姜焼き定食を食べるのも忘れてモニターを見つめていた。
翌日の新聞には、この多重転倒は大きく報じられていた。不幸中の幸いか重傷者は一名だけだった。他のウマ娘は数日の入院で済む負傷程度だった。新聞やネットに掲載された写真では病院のベッドでカメラに向けてピースサインをしている包帯姿のウマ娘もいた。トレセン学園関係者も胸を撫でおろしたことだろう。
重傷者は最初に転倒してしまったウマ娘だった。懸命にサクラバクシンオーの背を追いかけた。引き離されないよう必死に駆けた。だが無理をしたか転倒してしまい、後続のウマ娘たちも巻き込んでしまった。彼女は頭部と首を強打、失明してしまったうえ、首から下が一生動かないほどの重傷だった。駆けつけた両親に
「お願い、殺して…」
そう哀願しているという。
そして入院二日目の夜、重傷のウマ娘は暗闇の中にあった。絶望していた。目が見えなくなった。体は動かない。もうウマ娘として走れない。
あのレースは賭けだった。トレセン学園に入学して、ずっと未勝利のままで高等部に進み、そこで遅い本格化を迎えた。ようやく未勝利戦に勝ってレースに出られるようになったものの勝てないレースが続き、ついに担当トレーナーから契約の更新を打ち切られてしまう。そのトレーナーがスケジュールに残していったレースが今回のGⅢレースだ。これに勝てれば新たなトレーナーと契約を結ぶ十分な材料となる。オープンリーグでも良い戦績を残せなかった彼女にとってGⅢレースは少々荷が重いものだった。そして結果は無残なものに終わった。故郷からトレセン学園に快く送り出してくれた両親へ『殺して』とまで言い泣かせてしまう。そんな自分にも嫌気がさしていた。
「ううう…」
見えなくなった目に涙が溢れた。そこに
カツ、カツ、カツ
彼女の病室に向かってくる足音が聞こえた。そして、その足音は彼女の病室の前で止まった。
「誰…!?」
とうに見舞いの時間は過ぎているはず。扉が開けられた。彼女は恐怖に包まれた。声を出そうとしたところ何故か発することが出来ない。
「あっ…が…」
自分のベッドにゆっくりと迫る足音、怖い、だが首から下は動かず震えることも出来ない。掛け布団がめくられた。羞恥に全身が紅潮した。だが次の瞬間、全身が温かい“何か”に包まれた。心地良ささえ感じるものだった。
足音の主は彼女に再び掛け布団を優しくかけて去っていく。そして、ウマ娘は静かな眠りについたのだった。
翌朝、目が覚めると驚いた。目が見える。そして脚に力が入った。慌ててベッドから降りて確かめると立てた。痛くも何ともない。急ぎ鏡を見るも多重転倒で負った顔の傷まで消えているではないか。
「あ、ああああああ…。うわあああああああ!」
病棟中に響き渡る歓喜の泣き声だった。
同じころ、廉二郎は自宅アパートを出て、自転車に乗っていつも通りトレセン学園に出勤していた。
「はあ…。新幹線代は痛かったが…未来あるウマ娘を助けることが出来たと思えばな」
あの多重転倒、彼女以外のウマ娘は自然治癒でどうにかなるが、ただ一人重傷を負った彼女はそうもいかない。失明したうえ、一生首から下が動かない。ウマ娘を助けるのは元勇者として当然の務めと思っている廉二郎、見捨てられなかった。だが、やはり東京の府中から宝塚までの交通費が自腹なのは堪えた。観光も出来なかったのでなおさら。
「マナが地球にもあればなぁ…。転移魔法でビュン!なのに」
闘気技で転移は使えないのが残念だ。
数日が過ぎて、多重転倒で負傷したウマ娘たちが全員トレセン学園に戻ってきた。もちろん重傷を負ったウマ娘も。まるでギャグ漫画の主人公のように何事もない姿で戻ってきたので大変驚かれたが、寝たら治ったと言い張っているようだ。
多重転倒に巻き込んでしまったウマ娘たち一人一人に詫びていく。『レースは生き物だから仕方ない』と逆に元気づけられていた。
廉二郎も彼女の元気な姿を見られて満足だ。自腹で交通費を出した甲斐があった。
そして、廉二郎がいつものようにトレセン学園内を歩いていると
「やっと見つけました」
いきなり後ろから声をかけられた。彼が助けた重傷のウマ娘だった。
「ん、何かな、見つけたって」
名札を見て
「氷室さんと言うのですね。貴方でしょう。私の目と体を治してくれた人」
「なっ、何の話だ?」(のワの)
ウマ娘は頭頂部に在る耳と廉二郎の脚を指した。
「足音が同じです」
「……!」
これは異世界ラーズで勇者だったころも仲間のウマ娘たちに言われたことがある。
“同じ足音は聞き逃さない”
聴力が良いのではなく、その大きな耳から入る音に対して分析力がヒトより優れているのだろう。ウマ娘の体はいまだ謎が多いのだ。
(うかつだった!)
「心配いりません、墓まで持っていくつもりですから」
そして深々と頭を下げた。
「ありがとうございました。氷室トレーナー、貴方が治してくれなかったら今ごろ絶望の中に在ったでしょう。心より感謝いたします」
廉二郎は観念して
「どういたしまして」
「改めて…私は高等部のブリッジコンプと言います。氷室さん、私のトレーナーになって下さい」
「そういえば、君は先のGⅢレース前に契約を打ち切られたのだったね」
「はい、全然勝てなかったのですから、それは仕方ないですし怨んでもいません。でも、やっぱり見返してやりたいと思っているんです」
「うん、それでいいと思う」
「私…サクラバクシンオーに勝ちたいんです」
「確か同期だったね」
「はい」
「種目は短距離とはいえ勝利への道のりはかなり長距離となる相手だぞ」
「望むところです!」
「これも縁だな。分かった。君を担当させてもらうよ」
担当ウマ娘が三人となった。
その日の授業が終わり、アクアリバーとアニマアニムスがトレーナー室に訪れると
「ブリッジ先輩!」
アクアリバーとアニマアニムスがブリッジコンプに駆け寄った。今まで話したことは無かったが、ずっと勝てなくても不屈の闘志でレースを走り続けるブリッジコンプを後輩として尊敬していた。
「アクア、アニー、今日から私も氷室トレーナーに担当してもらうことになったの」
「本当ですか!」
「それは嬉しいのですが、ブリッジ先輩、大丈夫なのですか?ひどい事故だったのに」
アニマアニムスが訊ねた。
「不思議と一晩寝たら治っていたのよ。アクアも車椅子生活から走れるようになったでしょう。お互い三女神が治してくれたんじゃないかなと思う」
「三女神…。そうですね、そうでないと説明がつきません。私も一瞬で歩けるようになったのだから」
「ふふ、アクア、今日のトレーニングのあと一緒に三女神の像に手を合わせましょう」
「私もやりまーす。アメリカにも三女神は伝わっていますからね!」
「え?アニー、いま気づいたけれど、どうしてそんなに日本語が上手なの?」
「トレーナーに教えてもらったんです。トレーナーは英語話せるし、何より教え方が上手なんです。何か頭とお腹にスッと入ってくるようで」
「ブリッジ先輩、私は同時に英語を教えてもらっているんです。トレーニングやミーティングで一時間から二時間くらい英会話で行うようにしていたら、自然と話せるようになりました」
言葉も出ないブリッジコンプ、アクアリバーの脚を治したのは廉二郎と察していたが、それに加えてアクアリバーには英語、アニマアニムスには日本語を教えていると言う。
廉二郎の意図を読み取った。彼は担当ウマ娘のレース引退後まで視野に入れてトレーニングをしていると。
(とんでもない伯楽に出会えたかも…!)
ブリッジコンプの体は歓喜に震えた。
以前、サポートカードを『駿川たづなSSR無凸』『ライトハローSSR無凸』『樫本理子R完凸』『安心沢刺々美R完凸』『佐岳メイR完凸』レンタル『都留岐涼花SSR完凸』で☆5Lv5のサイレンススズカを育成したらS+で終えることが出来ました。こんな冗談みたいなサポカ編成でもクリアできるんだとビックリしました。