……日が暮れて辺りが暗くなる中、子供達は遊星とユキのD-ホイールで遊んでいた
「おい、お前等
大事なD-ホイールにイタズラするんじゃねーぞ」
「うん、分かってるー!!」
子供達に見送られ、クロウは遊星達のいる焚き火の方へ足を運んだ
「……その話、本当なのか遊星・ユキ?」
「ああ、オレは見た
サテライトの滅びる未来を」
「冗談じゃねェぜ」
「それじゃあ、サテライトがそのダークシグナーって奴等との戦場になるのか?」
「ちょっと待て
ゴドウィンって奴の言う事なんて信じられるのか?
遊星の顔にマーカー付けた奴なんだぞ」
「真実は分からない
だが、コイツとスターダストが奴等を敵だと言っている気がする」
遊星は袖を捲って、竜の尾の痣を見つめた
「私も同意見です
私の痣とこのボレアス・ガスタ・ドラゴンが、ダークシグナーを倒すべき敵だと強く示しているような…サテライトの未来を見た時、そんな感覚を覚えたんです」
ユキも遊星にならうように痣を見せ、デッキから出したボレアス・ガスタ・ドラゴンのカードをラリーに手渡した
「綺麗なドラゴンだね
遊星のスターダストとは、違う感じがする」
「ありがとう…」
カードを返して貰ったユキは、カードをそのままデッキにしまい込んだ
「ここが戦場になろうとオレはあいつ等を守る
あいつ等を守ってやれるのはオレだけなんだ…遊星・ユキ、オレも力を貸すぜ!!」
「─クロウ兄ちゃん、あの話して!!」
強く力説するクロウの後ろから、女の子が抱きついた
「お前、またあの話かよ?」
「好きだな~」
そんな女の子に、男の子達は呆れたような声を出す
「いいじゃない、クロウ兄ちゃんのお話好きなんだもん!!」
「よぉし!!
それじゃあ話してやっか!!」
「わぁーい!」
女の子がはしゃぐのを眺めながら、ユキは首を傾げた
「クロウさん、あの話とは…?」
「っと、ユキは知らねぇのか?
『伝説のD-ホイーラーの話』」
「伝説のD-ホイーラー…?
いえ、聞いた事が無いです」
「じゃあ、お姉ちゃんも聞いたら?
すっごく良い話だよ!!」
「そうなの?」
「うん!」
「うし、じゃあ話すぞ!!」
女の子はユキの隣に座り込み、得意気になったクロウは話し始めた
「むかーし昔、とっても貧しい小さな島があったそうだ
小さな島の人々はその島から出る事を許されず、ただただ隣で大きな豊かな島を眺めるばかりだった」
「うんうん!!」
(それって、まさか……)
「それってシティとサテライトの事だろ?」
「昔話でも何でもないぜ」
女の子は無邪気に頷き、ユキはクロウの話が何を指しているのかに勘づいていると、近くにいた男の子達が言った
(ああ、やっぱり……)
「え?
そうなの?」
「まったく……お前等には女の子を気遣う「デリバリー」ってもんが無いのかよ」
「クロウさん、それを言うなら「デリカシー」です
どこに、何を運ばせる気ですか?」
クロウの言い間違いに、ユキは冷静にツッコんだ
「ゔっ…あ、ああ……そうとも言う……」
(そうとしか言いませんよ…)
間違いを子供達に笑われるクロウを、ユキは苦笑しながら見ていた
「…そうだ、この話はシティとサテライトの話だ
サテライトを解放しようとした伝説の男のな」
遊星やラリー、雑賀達も次第にクロウの話に耳を傾け始めた
「お前達が生まれるずっと前、ちょうどこの場所から、シティを見つめ続けた男がいた
その男は見慣れないD-ホイールに乗って、ぶらりとこの町へやって来た
そして来る日も来る日も男はここに立ち、シティを眺めていた…だがある日、それを止めた」
「どうして?」
「その男にはやるべき事が見つかったんだ
シティへと繋がる橋、ダイダロスブリッジを作るって仕事がな」
「ぇ……それじゃあこの橋、元々あったモノじゃ無いんですか?」
ユキは上にある、未完成の橋を見上げた
「でも完成しなかったんだろ?
意味ねぇーじゃん」
「だいたい、出来っこねーんだよ」
話に耳を傾けていた男の子達は、呆れたように吐き捨てた
「最初はみんなそう思った、イカれた野郎だとバカにもした
だが、男は諦めなかった……初めのうちはバカにしていた連中も、「この男ならやり遂げるかもしれない」…みんなそう思い始めたんだ
シティから来るゴミをリサイクルするだけの日々、明日の見えないサテライトの住人にとって、いつしかダイダロスブリッジは明日への架け橋……希望の架け橋となっていったんだ
だが、それを良しとしない連中が現れて橋の工事は中止させられ、男はセキュリティのお尋ね者となった
誰もがやはりダメなんだと諦めた、おの男も捕まっておしまいだろうと」
「セキュリティ許せねーーっ!!」
話に熱くなったラリーが、勢いよく立ち上がって叫び出した
「ラ、ラリーくん…?」
一気に注目を浴びたラリーは、ハッと我に帰りクロウに詰め寄った
「ね、それでどうなったの?」
「あ、ああ……男はセキュリティに追い詰められた
男の選択肢は2つに1つ……セキュリティに捕まって一生牢獄で暮らすか、それとも生きたまま伝説となるか
男の選んだ道は……伝説となる事だった
常識にも縛られないその男は……飛んだ
その日よりD-ホイールは自由の象徴となり、そして男は伝説となった」
「そんな話があったんですね……」
しみじみと話を噛み締めるユキの真横から、ラリーがクロウに更に詰め寄った
「そ、それでどうなったのさ!?
その男は助かったのかよ!?」
「男のその後を知る者はいない……だが、少なくとも「「「ここに生きている!!」」」
クロウに合わせるように子供達は、自分の胸を指差して言い切った
「オレ等もガキの頃、よくこの話聞かされたな~」
「ああ、いつの間にか忘れちまってたけどな」
タカとナーヴは、話を懐かしむように呟いた
「それでクロウのD-ホイールには羽が生えてんのか」
ラリーは話しながら、クロウのD-ホイール 『ブラックバード』を見ていた
「う、うるせぇ
どうだっていいだろ?」
そんなラリーにクロウは複雑そうに返した
(クロウさん…?)
「さっ話はもう終わりだ、ガキ共はもう寝ろ!!」
「寝ろ寝ろ!」
「お前もな!!」
クロウの真似をしてラリーが言うと、ラリーは男の子に冷やかされた
「な、何だとーっ!!」
「まあまあ…ι」
男の子にからかわれて吠えるラリーは、ユキに宥められていた
「おやすみ、お姉ちゃん!」
「うん、おやすみなさい」
隣にいた女の子を見送ると、ユキは近くで話している遊星と雑賀の話に耳を傾けた
「サテライトの解放を目指し、伝説となった男か
そんな奴がサテライトにいたとはな、もしかして遊星……お前のその痣は、その男の志を継ぐ印なのかもな」
「……オレはそんな柄じゃない、それにシティの人間にも痣はある
…もう遅い、オレ達も休むとしよう」
焚き火を消し、遊星達は眠り出した
…サテライトの旧モーメント内に、4人の人間がいた
「ふん、やはり来たか
まずは1人目、不動 遊星……時は満ちた
5000年前の屈辱を晴らす前哨戦、最初の供物となってもらおうではないか」
4人の中で1人が立ち上がった
「奴はオレの獲物だ」
「まぁ、よかろう……」
立ち上がったその人物はニヤリと笑った
…夜、女の子達と一緒に眠っていたユキは起きてそっと荷物を掴んで外に出た
(ゴメンね……)
静まり返ったクロウのアジトを気配を消して歩く内に、2つの人影を見つけたユキは物影に隠れた
(やっぱり……)
物陰からそっと覗いたユキは、2つの人影……遊星とクロウの口論に聞き耳をたて始めた
「黙って行っちまうなんて、水臭ぇじゃねぇか」
「これはオレの戦いだ、お前達には関係が無い」
「相変わらずだな」
「この戦いに巻き込みたくないんだ」
先に進もうとする遊星の前に、クロウは立ち塞がった
「待てって!!
オレじゃあ、力になれねぇっていうのか?
それに、お前が連れて来たユキはどうなんだよ」
「お前は分かってないんだ、ダークシグナーとの闘いが命懸けだって事を
スリルを求めるだけのライディングデュエルとはワケが違う…奴等との戦いは命を削る闘い
アレはまさに、魂をかけた闘いなんだ
その結果は、あるいは……死
…ユキの事は、雑賀に頼んだ
アイツはゴドウィンのせいで、今はシティに居られなくなっている…暫くはサテライトに身を潜めていさせた方が良い」
「はぁ……クソ真面目なお前がそう言うんなら本当にそうなんだろうな
だがオレも……ガキ共を命懸けで守る、そう誓った!!」
「思いは一緒……と言う事か?」
「ああっ!!」
力強く頷くクロウに、遊星は考え込み頷いた
「覚悟してついて来いよ」
「ナメんなよ!!
道案内すんのはオレの方だ!!」
2人は拳をゴツッと合わせると、D-ホイールを押して歩き出す
物影の横を通り過ぎるのを見計らい、ユキは物影からそっと出て行った
「─…お早い出発ですね、お2人共」
「「なっ…/ゲッ…!?」」
弾かれたように振り返る遊星とクロウを見て、ユキは背を預けていた物影を離れた
「おはようございます」
「ユキ、お前…」
「いつからそこにいたんだ!?」
「「黙って行っちまうなんて、水臭ぇじゃねぇか」…からです」
「つまり、殆ど最初からか…」
「そうなりますね……私も同行させていただきます」
「だが…!!」
「シーッ…声を小さくして下さい、ラリーくん達や子供達が起きちゃいますよ」
「あ、ああ…すまない……」
「…私だってシグナーです、この闘いの当事者ですよ
それに、あの力は私の持つサイコパワーに匹敵…下手をすればそれ以上の力
対抗するには、サイコデュエリストが居た方が良いんじゃないですか?」
「危険なんだぞ…?」
「覚悟の上です…そうじゃないと、ここまでついて来たりしてませんよ」
口論の間に、ユキのはD-ホイールの準備を済ませた
「さあ、ここでいつまでも立ち止まってないで行きましょう」
「お前、大人しそうに見えて、結構根性据わってんだな」
そんなユキを見て、クロウはケラケラと笑っていた
「…分かった
クロウ・ユキ、行くぞ」
「「おうっ/はいっ」」
3人はD―ホイールを押して、歩き出した
エンジン音が聞こえない場所まで歩き、遊星達はクロウを先頭にD-ホイールで走り出す
「旧モーメントだと?
B.A.Dの最深部だぜ!!」
「そうだ、そこに奴等がいるハズだ!!」
「昼間に見たあの謎の集団、アレはダークシグナーの手下で、何かしらの目的の為にサテライトの住民達を集めているんじゃないでしょうか!!」
「ド真ん中から攻めるってワケか、面白ぇ!
こっちだ、ついて来いよ遊星・ユキ!!」
方向を変えるクロウにならうように、遊星とユキはクロウの後を追った
「─遊星とユキがいなーいっ!!」
一方クロウのアジトでは、遊星達がいなくなった事に気付いたラリーが慌てていた
「クロウのD-ホイールもねぇぞ!!」
「あいつ等行っちまったのかよ!?」
「探しに行こう!!」
「おし!!
雑賀さん、アンタはあいつらが戻って来た時のためにここに残ってくれ!!」
雑賀は片手を振って、ラリー達を送り出した
「オレ達は手分けして探すぞ!!」
ラリー達は四方に散り、遊星達を探し始めた
「……遊星から聞いた時は驚いたな
あの嬢ちゃんがまさか、魔女だったなんてなぁ…」
雑賀の独り言は、風に消された
「な、なんだこりゃあ…!?」
B・A・Dエリアに近づくにつれ覆っていた霧が光になっていく
遊星達を待っていたその光景に、クロウは目を見開いて絶叫した
遊星とユキの痣も赤く光り出し、目の前の禍々しい光はすぐに消え去った
「なんだったんだ、今のは…?」
「気をつけろ!!
近くにダークシグナーがいる!!」
「何っ!?」
遊星の声にクロウが反応すると、ビュッと何かがクロウに向かって飛んで行く
「ックロウさん、上ですっ!!」
飛んで来る何かに気付いたユキの声にクロウは、紙一重で飛んできたモノを避けながら急停止した
「無事か、クロウ!?」
「クロウさん、大丈夫ですか!?」
急停止したクロウに続いて遊星とユキもD-ホイールを止めた
「ヘヘッ、心配すんな
オレは大丈夫だぜ、サンキューなユキ」
遊星は飛んできたモノの方向を見やると、そこには1枚のカードが瓦礫に刺さっていた
「『ブラッド・ヴォルス』…!?」
カードに描かれているモンスター名を遊星は呟いた
「ッ、そこにいるのは誰っ!?」
ユキの鋭い声に弾かれたように遊星が振り返ると、崖の上にはうっすらと人影があった
「─遊星」
1人の男の声に呼ばれた遊星と、側にいたクロウとユキは驚いたように警戒する
「クロウも一緒か……?
そっちの女は、オレの穴埋めか…?」
(遊星さんだけじゃなくて、クロウさんの事も知ってる……一体、誰…!?)
「フフッ……オレがどれほどこの時を待ったか、お前達には分かるまい…」
「何ぃ!?」
「何故オレ達の名を!?」
「姿を現しなさい!!」
聞こえてくる声に、遊星達は威嚇をするような声で叫んだ
「フンッ!!
オレのことを忘れたか!?」
瓦礫の上に声の正体であるD-ホイールに跨っている男が現れ、被っているマントに手を伸ばし、勢いよく放り捨てた
現れた素顔を見た遊星とクロウは驚愕に色を染める様子を見て、ユキは戸惑いを見せた
「遊星さん…クロウさん……?」
「─まさか……鬼柳!?」
「─生きていたのか、鬼柳 京介!?」
確信をもった口調で遊星とクロウは、男……鬼柳を呼んだ
鬼柳の瞳は常人の物とは違い、黒く禍々しい瞳をしていて笑った顔はひどく恐ろしいモノだった
「遊星、オレは貴様のおかげで地獄を見てきた
貴様にはこの恨みを、嫌というほど分からせてやろう……!!」
「地獄だかなんだか知らねえが、それはお前の逆恨みってもんだぜ!!」
「お前がダークシグナーだと!?
お前がサテライトを滅ぼす者だと言うのか!?」
「お前の知っているオレとどう違うか……確かめてみるか!?」
クロウと遊星の叫びには答えず、鬼柳はヘルメットを被ってD-ホイールを稼動させて走り出す
その背後には、禍々しい光のオーラが煌いていた
鬼柳がD-ホイールを走らせた瞬間、光の亀裂が走り遊星はクロウやユキと分離された
「ここで貴様との因縁に、決着をつけてやる
これがシグナーとダークシグナーが闘う、フィールドだ!!」
いつの間にか遊星とフィールドの中へと追いやられ、光はライディングレースを作るように伸びている
「何ぃ……?」
「これはっ……?」
「一体、何なの……?」
「デュエルだ!
・・・クククッ、アーハハハハハハ!!」
狂ったような鬼柳の笑い声が、その場に木霊した