「……今直せるのは、これが限界だ」
リンボとのライティングデュエルで壊れたユキのD-ホイールを修理していた遊星は、道具を片付けて立ち上がった
「ありがとうございました」
「走れはするが、オートパイロットは故障したままだ
それを直さない限り、ライディングデュエルは出来ない」
「分かりました」
「助かったぞ、牛尾」
遊星は道具の入った工具入れを牛尾に手渡し、牛尾は工具入れを車のトランクに直した
「ああ
万が一の時の為に、これを車に積んどいて良かったぜ」
「それで遊星、これからどうするの?」
龍亜の一言で、全員の視線が遊星に向いた
「残る制御装置はアキが向かった1つだけ、そこへ向かおう」
「はい」
「よっしゃ!!」
牛尾が車に乗り込むと、遊星はクロウに振り返った
「クロウ、頼みが有る」
「ん?
何だ?」
「ジャックを連れて来てくれないか」
「そりゃ良いけどよ…ジャックの奴、どこにいるんだ?」
「恐らく…この辺りにいるハズだ」
遊星が広げた地図で場所を確認したクロウは、ブラック・バードに跨がった
「おっしゃ!!
それじゃ、行ってくるぜ!!」
エンジン音を響かせて、クロウはそのまま去って行った
「…さあ、オレ達も行こう」
遊星の合図で、全員はアキが向かった制御装置の方へ走り出した
……アキ達が向かった制御装置は閉館した遊園地跡にあり、到着した時には既に夕方で入り口には深影の車が止めてあった
「アキと深影さんは既に中か」
「でも、まだデュエルは始まってはいなさそう……」
「よし、手分けして捜そう!!」
「うん!!」
龍亜と龍可は2人で一緒に、遊星・ユキ・牛尾はそれぞれ1人で園内に入って行った
「姉さーんっ!!
聞こえたら返事をしてーっ!!」
バラバラになってから数十分、1人でアキを探すユキは息を切らせながら園内を走り回っていた
「ふぅ…な、何で…こんなに、広いのかな……」
「十六夜妹!!」
息を整えるユキの後ろから、牛尾が駆け寄って来た
「牛尾!!」
「深影さん達は見つかったか!?」
「ダメ、どこにもいない…」
「くそっ!!
どこに行っちまったんだ、深影さんは…!!」
苛立たしそうな様子を見せる牛尾を見て、ユキはある確信を持った
(ああ…この人、深影さんの事が好きなんだ…)
「あん?」
「どうしたの?」
「これは、治安維持局のID…」
牛尾は落ちていたIDを拾い上げた
「そんな物が、何でこんな所に…?」
「知るか」
牛尾がIDを開くと、その場に絶叫が木霊した
「だぁああああああーっ!!
深影さんのだぁああああーっ!!」
「ッ耳元で叫ばないで!!」
「しかもジャックなんかのシール張ってぇええーっ!!
許せん、ジャック・アトラスめぇーっ!!」
「えぇ……?」
痛む耳を押さえながらユキが深影のIDを覗き込むと、IDにはジャックのシールが貼られていた
「ぅわ……;」
ユキが呆れてモノも言えないでいると、どこからか聞き覚えの有る声が聞こえてきた
「─……て…………ぁ…」
「ん?」
「どうした?」
「今、誰かの声が……」
「─助けて、アトラス様ァー!!」
「ッ今の声……!!」
「深影さん!!
あっちだ!!」
「ちょっ、ちょっと!!」
牛尾は一目散に古びた建物の中へ入り、ユキは慌てて牛尾を追い掛けた
「深影さーん!!」
牛尾が建物の中に入ると、そこはもぬけの殻だった
「牛尾、本当にここだったの?」
「間違いねぇよ!!」
「─ユキ・牛尾、下だ!!」
「「え?」」
聞きなれた声に2人が下に向くと金網の下の地下室に遊星と深影がいて、地下には多量の水が流れ込んでいた
「ぅえっ!?」
「きゃあっ」
その光景に牛尾はギョッと目を見開き、ユキはスカートを押さえながら後ろに下がった
「遊星!?
それに深影さん、お前達どうしてこんなところに!?」
「話は後だ!!
今はハッチを開けてくれ!!」
「は、はい!!」
ユキと牛尾はハッチを持ち上げようとするが、ハッチが歪んでいて開かなかった
「くそっ、ダメだ
オレ達じゃビクともしねぇ」
「焼かれて封がされてる……牛尾、アレ!!」
ユキが指差した方向には、2本の長い鉄パイプが転がっていた
「よっしゃ!!」
2人はパイプをハッチの歪んだ部分に差し込み、一気に力を込めるが上がらない
「くっそぉおおっ!!」
「くっ…!!」
地下室には水がドンドン貯まっていき、遊星と深影は顔を出すだけで精一杯の状況だった
(こうなったら……もう、力を使って破壊するしか…!!)
ユキと遊星が危機的状況に顔を歪める中、深影は精一杯叫んだ
「─助けてー!!!!
アトラス様ぁーっ!!!!」
その叫びは、牛尾の耳をピクピクッと反応させた
「え…?」
ユキが牛尾を見ると、牛尾の背後にどす黒い炎がゴオオッと音を立てて燃え上がった
「─ぬぁんでぇ、ジャックなんだぁああああーっ!?」
牛尾の怒声と共にハッチがバッキィィンッと音をたてて天井まで吹き飛び、ユキはその光景を呆然と見ていた
(怖……;)
そんな事を考えながら、ユキは遊星と深影を地下から上がらせて外に出た
「遊星さん、空に地上絵が…!!」
「デュエルが始まっている」
空には蜥蜴の地上絵が描かれていて、その下の方角には紫色の炎が燃え上がっていた
遊星とユキが走り出す前に、牛尾に支えられている深影が呼び止めた
「遊星・ユキさん、待って!!
ミスティは、アキさんが彼女の弟を殺したと思っているの」
「何だって!?
本当なのか?」
「そんな…有り得ない!!
姉さんが人を殺すなんて…サイコパワーをあんなに嫌っていた姉さんに限って、絶対に無いわ!!」
深影の話に遊星は目を見開き、ユキは話を全力で否定した
「アキ……」
真剣な顔で呟いた遊星は走り出し、ユキは牛尾と深影を置いて追い掛けた
そのまま2人は地上絵の下まで走り、デュエルを見ている龍亜と龍可を見つけた
「龍亞・龍可!!」
「2人共、怪我はない?」
「遊星!!」
「ユキさん、アキさんがデュエルを…」
「でも、なんか変なんだ
昔のアキ姉ちゃんに戻ったみたいなんだ…」
「え…?」
「何…?」
心配そうな表情を浮かべながらアキを見る龍亜達の言う事に遊星とユキはフィールドを見ると、フィールドにいるアキは昔のように冷たく恐ろしい笑みを浮かべていた
「何、で…?
何で、姉さん……黒薔薇の魔女に戻って……?」
「分からない」
アキの姿を見たユキは数歩後ろに下がり、遊星は真剣にアキを見ていた
(どういう事…?
もし深影さんの言う事が正しかったとしたら…自己防衛で昔の自分に戻ってるって考える事も出来るけど…)
「ユキ、あそこの建物を見ろ」
「え?」
動揺していた心を落ち着かせたユキが考えを巡らせていると、遊星がフィールドの奥にある朽ちた建物を指差した
そこには茶色のコートを着ている男が笑みを浮かべながら立っていて、その男の顔にユキは目を見開いた
「─ディヴァイン!?
嘘、どうして……?
アイツは死んだって話じゃ…!?」
目の前の光景に驚いて固まっているユキの隣で、遊星は冷静に考える
「(奴はアキとの決勝戦の時、ユキを連れ戻そうとした男…それに、オレ達をあそこに閉じ込めたのは…)
そうか、奴の変装だったのか!!
お前達はここにいろ!!」
「え、あ、遊星!?」
「遊星さん、待って!!」
走り出した遊星を追い掛けて行くユキを見送りながら、龍亜と龍可はアキと蜥蜴の痣を持つダークシグナー ミスティのデュエルを見守る事にした
アキのフィールドには『ブラック・ローズ・ドラゴン』、ミスティのフィールドには『バッド・エンド・クィーンドラゴン』が守備表示でいた
ブラック・ローズ・ドラゴン
☆7 炎属性 ドラゴン族 ATK 2400 DEF 1800
バット・エンド・クィーンドラゴン
☆6 闇属性 ドラゴン族 ATK 1900 DEF 2600
「私のターン、ドロー
墓地にある『薔薇の妖精』をゲームから除外してブラック・ローズ・ドラゴンの効果を発動する
─ローズ・リストリクション!!」
墓地から全身ピンク色で可愛らしい半透明な妖精が現れ、ブラック・ローズ・ドラゴンの前に立つと、ブラック・ローズ・ドラゴンは薔薇の妖精を無惨に噛み砕く
ピンクの花びらが舞い散り、ブラック・ローズ・ドラゴンから無数の茨が現れる
「バット・エンド・クィーンドラゴンを強制的に攻撃表示にし、攻撃力を0にする」
「何ですって!?」
無数の茨は、守備表示のバッド・エンド・クィーンドラゴンに絡みつく
バッド・エンド・クィーンドラゴンは抵抗するが強制的に攻撃表示にされ、ミスティは悔しそうに唇を噛んだ
バット・エンド・クィーンドラゴン ATK 1900→0
悔しそうな表情を浮かべるミスティを見ながら、ディヴァインは凶悪な笑みを浮かべながらデュエルを高みの見物していた
「良いぞアキ
リミッターを外したお前なら、ダークシグナーなど恐れるに足らん
後はアキを使ってユキを手元に置けば、それで完璧だ…今度は完全に操ってやる……やれっ!!」
声高らかに叫んだディヴァインの背後から、バンッと音をたてて扉が開いた
「ん?」
ディヴァインが振り返るとそこには遊星とユキがいて、突然現れた2人にディヴァインは笑みを浮かべた
「久しぶりだな、ユキ
しばらく見ない間に、良い顔をするようになった
それに…まだ生きていたのか」
最後の一言を遊星の方を見て言ったディヴァインに、ユキの視線は鋭くなる
「せっかく騙して、ハッチを開けないようにしたというのに…」
「あなたが生きてる時点で予想はしてたけど…ディヴァイン、あなたが遊星と深影さんを殺そうとした犯人ね…」
「あぁ、そうさ」
「っ…相変わらず、どこまでも自分の事しか考えられないのね…!!」
悪びれた様子を微塵も見せないディヴァインに、ユキは嫌悪の眼差しで吐き捨てた
その怒りを見たディヴァインは、当然の事のように話し出す
「そいつは邪魔になる存在なんでね、アキにとっても…ユキ、君にとっても」
「…どういう意味?
遊星さんは、私や姉さんを本来の姿に戻してくれた
私達の全ての負の感情を、損得勘定無しで受け止めてくれた!!
そんな人が邪魔になるなんて有り得ない!!」
そう言うディヴァインに、声を荒げるユキの隣で遊星が叫んだ
「お前の目的は何だ!?
何故ここに現れた!?」
「ダークシグナーとがアルカディア・ムーブメントを襲撃したおかげで…この様さ」
ディヴァインは前髪で隠れている右側を遊星達に見せると、そこには火傷の跡のような酷い傷跡が残っていた
「だが、アキのマインドコントロールは完璧だ」
「マインドコントロールだと?」
「あの計画、まだ諦めて無いのね…」
遊星は眉をひそめ、ユキは盗み見たデータを思い出しながらディヴァインを睨みつける
「今のアキは私の命令以外聞かない
アキの力を使い、私をこんな目に遭わせた全ての者に復讐してやる」
「アキを自由にしろ!!
アキは生まれ変わったんだ!!」
「「生まれ変わった」だと?
アキは私の忠実なる僕だ!!
アキの全ては私が決める!!」
(ダメね、ディヴァインに言う事を聞かせるなんて無理
このままだと埒があかない…)
ディヴァインと平行線な会話を繰り返す遊星を見て、ユキはそう確信した
「人の心を操るなど、許さない!!」
「私の手にかかれば、どんな人間も思うが儘だ
人の心の痛みに刺激を与えてやれば、いくらでも私の思うように動くのさ
アキや、以前のユキのようにね!!」
怒りを現す遊星を見て、ディヴァインは高らかに言い放った
(確かに、ディヴァインはそういう能力に長けてる
現に私や姉さんのような、アイツの信者もかなりの人数いたんだし…)
「まあ、それが無い場合は作ってやればいいのさ……あのリンボとかいう小僧のように」
その一言に、ユキは憎しみと怒りの籠った声で呟いた
「─リンボがアンタのエースモンスターに殺されたって聞いた時に、そうだとは思っていたけど……ディヴァイン、リンボを殺したのは…!!」
「あぁ、そうさ
─リンボは私が殺した」
「何…っ!?」
言い切ったディヴァインに、遊星は目を見開いた
「ユキ、君はアキの次に優秀なサイコデュエリストだ
私は君とアキを手放したくは無かった…だが、リンボはアキとユキを返せとアルカディア・ムーヴメントまでやって来た」
「だから堕天の魔女の仮面で変装して、リンボをあなたのサイコパワーで殺したって言うの…?」
「その通りさ
だが、君が私の計画を知った事は誤算だった
逃げ出した君を血眼になって追い掛けなかった理由、それはアキに「妹に裏切られた」と思わせる為さ」
「何だと!?」
「アキにとって私以外の唯一の味方だった君が裏切った…この事はアキの憎しみを増大させ、更に力を上げる事に成功した」
「姉さんが私を裏切り者と言って憎んでいたのは、あなたがそう刷り込んだから…!!」
ユキの問いに答えずに、ディヴァインは笑みを濃ゆくしながらデュエルディスクを構えた
それを見たユキは遊星の前に出て、自身のデュエルディスクを構えた
「リンボもそうだが、ミスティも哀れだなぁ
弟の仇をとる為にダークシグナーになり、サイコデュエリストに闘いを挑む……泣ける姉弟愛じゃないか
だが、所詮アキにやられる運命だがね」
心にもない言葉を並べるディヴァインに、ユキは不愉快そうに眉をしかめた
だが遊星は、ディヴァインの言葉に引っ掛かりを覚えた
「─まさか…リンボだけではなく、ミスティがダークシグナーに仕向けたのもお前か!?」
「そこまでは流石の私も予想はしていなかった
だが、サイコデュエリストの実力を証明する為には、格好の舞台となったわけだ」
「つまり、予想の範疇だったって事ね…」
「語るに落ちたな、ディヴァイン!!」
何かを確信した遊星は、ディヴァインを指差す
「やはりお前はミスティの弟の死に関係しているんだな!!」
「…だったらどうする?」
ディヴァインがカードを構えると、ならうようにユキもカードを構えた
「ユキ、そんな男を守って私と闘うというのか?
君はアキや私と同じこちら側の人間だろう?」
「そうね…確かに私もサイコデュエリスト
姉さんやあなたと同じ力を持っている……けど、もう私は魔女にはならない!!
復讐なんて、もう考えてもいないわ!!」
「だが、今まで君が犯した罪は消えない」
「……何が言いたいの?」
「ユキ、こんな奴の言葉に耳を傾ける必要は無い」
「はい、遊星さん…」
警戒するかのように距離を取る遊星とユキを見て、ディヴァインは愉快そうに笑みをこぼして話し続ける
「確かに君は変わった
だが、力を持っているという点は何も変わらないのだよ
だから君は私のもとに来るべきだ…アキと一緒にね」
ディヴァインの最後の一言に、遊星は深影に見せて貰った映像とユキの話を元に1つの推測をたてた悪寒が走る
「まさか…っ!!
─貴様、ユキにも洗脳を…!!」
顔に焦りが浮かんだ遊星に、ディヴァインは卑劣な笑みを浮かべてゆっくりと言い放った
「─翡翠色の邪悪なる風は、世の全てに吹き渡る」
「っ…!?」
ドクン…ッと、ユキの脳内にディヴァインの声が響き、目を見開ながら頭の中で煩く鳴る音を遮るようにユキはその場に膝をつく
「ぐっ……あぁ…」
「ユキ、落ち着くんだっ!!」
遊星が側で必死に呼びかけると一時的に落ち着きを取り戻したユキは、グイッと遊星を押し退けた
「…ユキ…?」
立ち上がったユキの眼差しは……アキと同じモノに変わっていた
固まっている遊星の背後から、ディヴァインが残酷な一言を発した
「─…ユキ、最初の命令だ……その男を殺せ!!」
ゆっくりとカードを引くユキを見て、遊星は直ぐに距離を取った
「っ…止めろ、ユキ!!」
「─……魔法カード『ファイアー・ボール』」
ユキのデュエルディスクで発動されたカードから出た火の玉が、遊星に襲い掛かる
咄嗟に避けた遊星がいた場所で、ドオオォンッと爆音が響き辺りは焦げていた
「っ…やはりお前が仕組んだのか、ディヴァイン!!」
「ん?」
「リンボを殺してその罪をユキに擦り付けたように、お前がミスティの弟を殺しんたんだろう!!
その罪をアキに擦り付けたのか!?」
いきなり言われた一言にディヴァインは面食らったが、すぐに余裕の笑みに変わった
「─勘づかれたのなら仕方がない…そうだよ
ミスティの弟を殺したのも私だよ」
そしてディヴァインは、ゆっくりと語り始めた
1年前、アルカディア・ムーブメントでは力のある人間を使って多くの実験を行ってきた事
その中にはミスティの弟 トビーもいて、トビーには電撃を浴びせて潜在能力を引き出す実験を行っていた事
だが、トビーは出力最大にした結果、実験に耐え切れなくなり命を落とした事
簡単な説明に遊星は顔を歪めるが、ディヴァインは得意げに語り続けた
「あいつは使い物にならなかったよ、まさかあの程度の実験で音を上げるとはな
その点アキは優秀な素材だ、いつでも私の期待に応えてくれる
そしてユキもまた、私に反抗する所さえ削り取れば優秀な素材となる」
「貴様ぁ…許さん!!」
怒りに燃えた遊星はディヴァインに向かっていくが、その前にユキが立ちはだかり遊星はすぐに距離を取った
その様子に、ディヴァインは愉快そうに笑みを浮かべた
「今から死ぬ君に許さないと言われても怖くないな
…やれユキ、早くその男を殺せ」
その命令にユキはデッキに手を置くと遊星は攻撃に備えて身構えたが、遊星はユキのある行動を見逃さなかった
(アレは…!?
そういう事か…!!)
「─ファイアー・ボール」
再び現れた火の玉を避けた遊星を、ユキは2回 3回と狙い続け、ユキの立ち位置はディヴァインの真後ろになった
「目を覚ませユキ!!
お前はこんな事を望んでなんかいないだろう!!」
「クッ、クックッ…!!
無駄だ、私の洗脳は完璧
そんな言葉が通じるものか!!
さあユキ、早く殺せ!!」
「魔法カード『サイコ・ソード』を…」
「ん?
どうしたユキ?」
発動を途中で止めたユキにディヴァインは眉をひそめ、そんなディヴァインを見て遊星は不敵に笑った
「─今だ、ユキ!!」
「─発動!!」
目の前に現れたサイコ・ソードを握ったユキは……ディヴァインに切り掛かった
「ぐあっ!!」
いきなりの不意打ちに、ディヴァインは攻撃を受けて後ろに下がった
「バ、バカな…!?
私の洗脳を、いつ破ったと言うんだ…!?」
「─最初からよ」
ディヴァインに答えたのは、これまで淡々とした声で話していたユキだった
「何だと…!?」
「ディヴァイン、あなたの洗脳は魔法カード『洗脳-ブレイン・コントロール』を実体化させたもの
けどアレは術者から離れれば離れる程、効力が薄まるもの
この事を知った私はアルカディア・ムーヴメントから逃げてすぐに、この洗脳を解いたのよ」
そう言ってユキは、1枚のカードを取り出した
「─魔法カード『魔法除去』…!?
まさか、自分に…!?」
「そうよ
そしてあなたに一撃入れてあげる為に、わざと洗脳されたフリをしていたの」
「不動 遊星を危険に晒してまで、そんな事を…!?」
「ユキは攻撃を、わざと避けやすい方に向けて放っていた
─それにユキの背中しか見ていなかったお前は気付いていなかっただろうな…ユキがずっと、避ける方向をオレに指示していた事に」
「お、おのれェ…!!」
「それともう1つ、オレのデュエルディスクは手作りでね
マルチデュエル用の音声ネットワークをオンにしておいた」
「何!?」
「えっ…!?」
「─今までの話は、全てミスティに聞こえているぞ!!」
「遊星さん、いつの間に…?」
「オレが声を大きくした辺りからだ」
遊星の手際の良さに呆気に取られるユキを無視して、ディヴァインが慌てて外のミスティを見下ろすとそこには、『地縛神
その表情に、ディヴァインは数歩後ずさる
「ディヴァイン…お前が、お前がトビーを殺したのね!?」
「……ハッハッハッ!!
それがどうした!?
お前の弟が無能だったんだ!!
私の役に立たない人間など必要ないのだよ!!」
開き直って大笑いするディヴァインは、ミスティの逆鱗に触れた
地を這うような低い声と共に、ミスティのマーカーが紫色に光る
「…許さないっ…!!」
ミスティの感情を感じ取り、地縛神
「なっ!?」
「ディヴァイン!?」
「うわぁーっ!!」
巨大なモンスターの舌に捕らえられ、口元に運ばれる男の悲鳴が響く
「うわぁああぁあ、うわぁああああーっ!!!!」
テーマパークに響く断末魔の悲鳴が無くなると同時に、ゴクンッと何かを飲み込む音も響いた
「た…食べちゃった…!!」
(リンボ…これで、良かったのよね…)
ディヴァインの末路を見届けたユキは、切なそうに空を見上げた
目の前で起こった事に遊星達は呆然と立ち尽くし、洗脳が解けたアキは朦朧としていた
「トビー…仇は打ったわ……」
ミスティはとても穏やかに呟くと、対峙しているアキに向き直った
「アキさん…
ごめんなさい、トビーが死んだのはあなたのせいじゃなかったわ」
心から申し訳なさそうな表情を浮かべたミスティの顔からマーカーは消え、瞳は元に戻っていた
「もう私には闘う理由は無い、サレンダーするわ」
静かに告げ、デッキに手を置こうとするミスティを遊星達は静かに見つめた
「─そんな事はさせない……」
「っ!?」
ミスティの頭の中に声が響くと同時に、ミスティの周りに闇のオーラがまとわりつく
体を覆う闇がドンドンと侵食し、ミスティの頭の中に侵入していく
「うあっ…!!
あぁあ、私の中の神がっ…私の中の、神が……っ!!!!」
「─倒せ…倒せ…シグナーを倒すのだ……」
「あ、あ…!!」
ミスティの顔に、紫色に鈍く光るマーカーが再び浮かび上がる
邪神は何度も呪いのようにシグナーを倒すようにと繰り返し、ミスティはそれに耐えていた
降りてきた遊星達はアキに向かって叫んだ
「リンボの時と同じ…ダークシグナーが正気に戻ったら、力付くで……!!」
「アキっ!
目を覚ませ、アキッ!!!!」
遊星の声に意識が朦朧としていたアキは、少しずつ意識を取り戻し始めた
「…遊、星…?
…遊星の声が、聞こえる…?」
目の前が一気に鮮明になると同時に、アキは目の前の現状に目を見開いた
邪神に苦しんでいるミスティは、必死にアキに言葉を投げ掛けた
「もう、このデュエルは私の意思では止められないっ…!!」
「っ…ミスティ!!」
「ミスティ、邪神なんかに負けるんじゃない!!!!」
「そうよ!!
諸悪の根源は消えたのよ!!
もう闘う意味なんて無いわ!!」
アキ・遊星・ユキの叫びに、ミスティは最後の力を振り絞った
「アキ……お願いっ…!!
私を、私を倒してっ……!!!!」
その言葉の最後に、ミスティを覆う闇が消えた
ミスティはゆっくりと立ち上がりアキに笑みを向けるが、その瞳は黒く染まっていた
「─シグナーを倒す!!
それがダークシグナーの使命!!」
濁ったようなミスティの声に、遊星達は顔を歪めた
「そんな……」
「アキ、ミスティを止められるのはお前だけだ!!」
「…えぇ!!」
デュエルディスクを構え直したアキは、デュエルを続けた
素材となるモンスター達を並べ、既に墓地へ送られていたブラック・ローズ・ドラゴンを魔法カード『シャイニング・リバース』でシンクロ召喚し、地縛神ごとフィールドのカードを全ての破壊をしかけた
だがミスティは、罠カードでアキのライフを削り取ろうとしたが、アキはその効果を逆手にとり、罠カード『リフレクト・ネイチャー』でデュエルに決着をつけた
「大丈夫か、アキ!!」
「姉さん!!」
「アキさん!!」
「アキ姉ちゃん!!」
遊星達はアキの周りに集まったが、アキは暗い表情を浮かべ制御装置の髪飾りを着けてゆっくりとミスティがいた所へ向かった
そこにはミスティが身につけていたロケットが落ちていた
拾い上げて中を見れば、幸せそうに笑っている姉弟の写真が入っていた
その写真を見たアキは、自分だけに聞こえたミスティの最後の言葉を思い出す
ーーー
「私達を…覚えていて…」
ーーー
「っ……ミスティ、トビー…」
優しくて穏やかな笑顔の写真に、アキの視界はゆっくりと歪んでいった
ディヴァインはどうやってアキ達を洗脳したのかが分かりませんでしたので、ちょっと想像で書きました
ダークシグナー編も、後1~2話で終わらせるつもりです
それが終わったら、オリジナルも含めた準備期間編へ移ろうと思っています