「─あれェーっ!?」
……翌朝、双子の家に龍亜の絶叫が響いた
「いない!!
いない いない、どこにもいない!!
遊星がいなーい!!」
「おはよう、龍亜」
「……もう、何なの~…?」
既に朝食の用意を始めているユキは、朝から暴れる龍亜と騒ぎを聞いて寝ぼけ眼で起きてきた龍可を見て笑っていた
「龍可!!
遊星がいなくなってる!!」
「やっぱり出て行ったのね……」
「何でいなくなっちゃうんだよーー!!
龍可があんな事言うからだぞー!!」
龍亜は部屋中を走り回りながら叫びまわった
「朝から元気ね…」
「まったくもう、龍亜ったら…わたしにあたらないの
それより、コレ見て……」
テーブルの上に、青とピンクのデュエルディスクが列べて置いてあった
「あ、軽くなってる!!
見てよ、コレオレにピッタリだ!!」
「あの人……わたし達に合うようにしてくれたのね……」
「スッゲー……何でも出来るんだな」
「相当なメカニックだったみたいね、遊星さん」
「不思議な人だったね……何か、もうちょっとお話したかったかも……って今頃思っても遅いか……」
「龍可、昨日は遊星の事すっごい警戒してたくせに」
そんな中、ピリリリリッとTV電話の音が鳴り、龍亜が通話ボタンを押した
『おっはよー、龍亜!!』
「おーー天兵、早いなぁ!」
電話の先には、四角い眼鏡をかけた茶髪の男の子がいた
『約束、今日だぞ!
忘れてないよな!?』
「えーっと……」
『─黒薔薇の魔女だよ!!』
天兵の一言にピクリと反応を見せたユキは、火を止めて電話の近くに寄った
「あーそうそう!!
魔女やっつけに『ダイモンエリア』に行くんだっけ?」
「2人共大丈夫?
魔女ってすっごいデュエル強いんでしょ?
噂じゃ、負けた相手は魔女に消されるって……『大丈夫だって!!』
心配そうな龍可に天兵が自身満々に言う
『オレさ、魔女やっつける最強デッキ作ったんだ!!』
電話先で天兵は龍亜にデッキのカードを見せつけた
「オーッ!!
スゲーじゃん!!」
『魔女のデッキって目撃者の話がネットに出てるだろ?
オレ、分析して、これなら絶対負けないってのを作ってきたんだよ!』
「オレもやるぜ!」
龍亜はカスタマイズされたばかりの青いデュエルディスクを構えた
『…あれ?
何かそれ普通のとちょっと変わってない?』
「まーねー!
オレのデュエルディスク、カスマタイズしたんだ!」
「それを言うならカスタマイズ……」
自慢気な龍亜に、呆れたような龍可のツッコミが入った
『何々?
どーゆう事?
龍亜、そんな事できたっけ?』
「へへーん!
昨日、凄い人に会ってさぁ「待った!!」
龍可がペラペラ喋る龍亜の前に出て止める
「何考えてんのよ!?
遊星、追いかけられてんのよ!!」
「あっ、そうか……」
声を小さくして龍可に叱られた龍亜は黙り込む
『どーしたんだよ、龍可?』
「えへへ……あのね、わたし達まだ朝ごはん食べてないからさ、またご飯食べたらこっちから電話するね」
天兵をなんとかごまかした龍可は、TV電話の電源を切った
「遊星の事は内緒よ?」
「うん……オレ、もういっぺん遊星に会いたいなぁ…今度はちゃんと自分勝手なデュエルじゃないデュエルをするんだ!!
その為に、魔女を倒し「止めておきなさい」
龍亜を遮り、ユキは真面目な顔をして話に入った
「ユキ姉ちゃん?」
「あなたやあの子じゃ、とても魔女には敵わないわ
最悪、命に関わるの……絶対にダメ」
「何でだよユキ姉ちゃん!!
天兵が言ってたじゃんか!!
魔女に勝てるデッキ作ったって!!
大丈夫だよ!!」
「……もう、そういう意味じゃないのよ…?」
呆れ果てたようなため息をついたユキを、龍可は見上げた
「あの~、ユキさん
ユキさんも龍亜について行ってもらえないかな?」
「え?」
「龍亜と天兵だけじゃ、やっぱり心配だから……」
「どういう意味だよ、龍可!!」
「昨日、遊星にコテンパンにされたのは誰?
その後にユキさんとデュエルしても、手も足も出てなかったじゃない」
「うっ…」
言い返せなくなった龍亜に、龍可は追い討ちをかけた
「だから強いユキさんに保護者としてついて行って欲しいの」
「……そうね
子供達だけにして危ない事して怪我されるより、その方がずっと安心だし…わかったわ」
「ありがとう、ユキさん」
……食事を済ませた後、ユキは龍亜と天兵と一緒にダイモンエリアに向かった
……ダイモンエリアについた龍亜と天兵は聞き込みを始め、ユキは少し後ろで待機していた
「おじさん、魔女とデュエルした事ある?」
「えぇー?
冗談じゃねぇよ、魔女なんて
お前等とっとと帰んな」
龍亜の相手をしていた男はそう言って去って行った
「誰も見たことないのかぁー?」
「でもみんな知ってるって事は、絶対にここにいるって」
「魔女のモンスターが攻撃すれば、本当に大地が揺れるっていうもんな」
「罠や魔法を発動しても、やっぱり本当にそうなるっていうじゃん?
それに、少し前までは魔女って2人いたらしいし」
天兵の最後の一言に、ユキは反応して自分の腕をギュッと掴んだ
「2人?」
「うん、黒薔薇の魔女と『堕天の魔女』って呼ばれてたんだ
けど半年くらい前からかな、堕天の魔女はいなくなったんだ」
「何でさ?」
「さぁ?
噂だと黒薔薇の魔女に殺されたとかなんとか…」
「ええーっ!?
殺しちゃうの!?」
「噂だよ、噂」
龍亜と天兵の話に、ユキは何も言わずに黙っていた
「…ん?
あ、ああーっ!!
遊星ーっ!!」
「えっ……?」
その場にいないハズの人の名前を呼びながら走り出した龍亜の先には、遊星が数人の男達を連れていた
「天兵来いよ!
このデュエルディスク、カスマタイズしてくれた人だよ!!
ユキ姉ちゃんも早く早く!!」
「ちょっ、龍亜!!」
「それを言うならカスタマイズじゃ…」
走り出した龍亜を追いユキは走りだし、天兵は呆れながら龍亜の後を追った
「遊星も来てたんだー!!」
「どうしてこんな所にいる?
子供が来るような場所じゃないぞ…龍可はどうした?」
「留守番してる
オレもユキ姉ちゃんが一緒だから大丈夫だよ!!」
「ユキが…?」
「ふぅ…って遊星さん?」
龍亜に追い付いたユキは、目を丸くして遊星を見ていた
「ユキ、お前も来ていたのか」
「はい、龍亜の保護者代わりとして…」
「何だ遊星、このボウズと嬢ちゃんは知り合いか?」
遊星の後ろにいた大男が、1歩前に出た
「ああ
Dーホイールを取り返した後で起きた事故で気絶していたオレをかくまってくれた、トップスの子供達だ」
「オレ、龍亜!!」
「オレは氷室だ、よろしくな」
氷室に続くように、老人と男が数歩前に出た
「ワシは矢薙だよ、よろしくね」
「オレは何でも屋の雑賀だ」
「ユキです、初めまして」
一礼したユキの後ろから、天兵が走ってきた
「ね…ねぇ、龍亜……あれ、マーカーだよな……」
遅れてきた天兵が、ビクビクしながら龍亜の服を引っ張った
「だけど、コレやってくれたんだよ?」
「龍亜くんのお友達かい?」
「うん!!
天兵っていうんだ!!」
「ど、どーも…」
ビクビクしたままの天兵に、龍可は一切気付かずに無邪気に両手を広げた
「そぉーだ天兵、せっかくだから遊星とデュエルしてもらいなよ!
すっごく強いんだ!!
ユキ姉ちゃんより強いんだぜ!!」
「う、うん……」
天兵は遊星を見上げると、1通の封筒を見て声をあげた
「ああッそれ!!
遊星ー!!
これフォーチュンカップの招待状じゃん!!
遊星も出るの!?」
「ああ」
「やったー!!
また遊星とデュエルできるぞぉ!!
遊星、オレはもう負けないよ!!
ほらなー天兵!?
遊星はフォーチュンカップに出るくらいすっごいデュエリストなんだ!!」
「へぇーっ!!」
天兵は警戒心を解き、笑顔で遊星を見上げた
そんな子供達を見ながら、ユキはそっと遊星に近寄り小声で話し出した
「…何かあったんですか?」
「ユキ?」
「おかしいですよ
フォーチュン・カップの選手はランダムに選出されているハズ…だからもう8人全員がとっくに選出されているハズです
なのに今になってなんて…だから何かあったのかなって…」
「勘の鋭いお嬢ちゃんだぜ」
「頭も中々キレそうだな」
話を聞いていた氷室と雑賀は、ユキを見て感心していた
「少し、な……だが、雑賀が動いてくれる事になったから大丈夫だ」
「そうですか…」
「ねぇねぇー!!
さっきから何の話してるのさー!?」
相手にされずにむくれた龍亜が、遊星とユキに抗議し始めた
「大した話じゃないさ」
「うん、何でもないのよ?」
「ホントー?」
「本当、大した事じゃないから心配しないで」
「なら、いいけどさ」
納得がいかないといった顔をした龍亜に、大人達は苦笑していた
「ぐっ……!!」
「っ遊星さん!?
……っ!!」
遊星が突然右腕を押さえて踞まり、遊星を支えようとしたユキも右腕を押さえて座りこんだ
「遊星!?
ユキ姉ちゃん!?
どうしたの!?」
「この、反応……この前と同じ……!!」
「あの時と、同じだ……!!」
「あの時?」
「赤い竜が現れた時……!!」
「─魔女だー!!
黒薔薇の魔女だー!!」
「魔女だって!?」
ダイモンエリアにいた観客が叫ぶと同時に、突風が遊星達を襲った
「あいつが来てるのか?」
「あいつ?」
「巻き込まれるぞ、逃げたほうがいい」
心当たりのある雑賀が率先して、矢薙達を避難させようとすると地面の下から棘の生えた大きな蔓が無数に生え、蔓は一斉に遊星達へ伸びて襲い掛かる
「みんな避けろ!!」
「「「うわああっ!!」」」
龍亜・天兵・矢薙は悲鳴を上げながら も避け、遊星・ユキ・氷室・雑賀はタイミングを見計らって避けた
蔓を避け切った遊星の目の前に、一頭のドラゴンが現れる
「ドラゴン……っ!!」
遊星は袖を捲ると赤い痣が浮かび、隣のユキの右腕にも赤い痣が浮かんでいた
「あんちゃん達……」
「おい!!
こんなのあったか!?」
「これがシグナーの印だよ!
竜の痣なんだ!!」
「竜の…痣……?」
矢薙の話を聞いた龍亜の脳裏に、龍可にある手のような形の赤い痣が浮かんだ
「あのモンスターは?」
遊星は1人、ドラゴンへと近づいていく
「「遊星/さん!!」」
ドラゴンへ向かっていく遊星を、龍亜とユキが後を追い掛ける
ドラゴンの下には仮面をつけ、マントを頭から羽織っている人がいた
「魔女……」
「あれが、魔女……」
(……まだ、そこにいるのね…)
魔女に警戒する遊星の隣で、ユキは悲しそうに魔女を見つめていた
「黒薔薇の魔女…本当にいたんだな……」
雑賀達も遊星の周りに集まり、魔女と対面した
魔女は遊星とユキの痣と気付くと、少し動揺しながら仮面ごしに呟いた
「ッ…お前達も……」
「「お前達も」……?」
(いけない……!!)
魔女の一言に反応した遊星が、数歩魔女に近づくのを見たユキは慌ててデュエルディスクを構えてカードを握った
「忌むべき印だ…!!」
魔女が叫びながらカードを赤紫色のデュエルディスクにセットした瞬間、強力な風と光が魔女を包み魔女は消えていった
「いない…だが、今のは……」
遊星は一瞬だけ見えた自分達を守るように張られた光のバリアを見逃していなかった
「ふぅ……
(よかった、バレてない……)」
「今の何だ…!?
ソリットビジョンなのに、何で魔法カードのパワーでワシ等襲われたー!?
なのに何でワシ等は平気でいるんだい!?」
「本当に…本当にいたよ……!!」
「消されなくてよかった…!!
龍亜と天兵は涙目になりながら抱き合い、雑賀達は遊星に近づいた
「お前と嬢ちゃんを見た魔女の反応…気になったが…」
遊星が右腕を見ると、痣は消えていた
「何でーー!?
もったいないーー!!
そうだ、お嬢ちゃんのは!?」
ユキの右腕には、羽のような痣が浮かんでいた
「お嬢ちゃんのはちゃんと残ってるんだね!!
けど、何であんちゃんのは消えたんだ?」
「きっと、あの魔女にも……痣がある」
「ええ、間違いなく有りますね…」
遊星とユキの一言に雑賀達はギョッとしていた
「お前達も……と、魔女は言ったんだ」
……そんな遊星達の様子を、煙突の上で治安維持局 副局長 イェーガーが見つめていた