Muv-Luv オルタネイティヴ インヘリティド   作:蒼山とうま

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犠牲の対価 参

 地獄と化す日本帝国帝都・京都。極東の帝国が誇る1200年の歴史は無惨にも地球外より上洛したBETAという化け物によってバラバラに引き裂かれ、今やそれも終焉のときを迎えかけていた。帝都防衛に徹し、皇帝のために、政威大将軍のために身を焦がして戦った日本や米国(アメリカ)英国(イギリス)の衛士たちは群る異星起源種に潰され、あるいは生きたまま食べられて、命の灯火をひとつまたひとつと消していっている状況にあった。そんな中、日本帝国斯衛第14戦術機大隊と極秘命令で増援に来た西ドイツ第111戦術機中隊ヴァイスターテルは、それぞれ鶴翼参陣(フォ-メーション・ウィング・スリー)(山括弧のような形の陣形)と傘壱型隊形(フォーメーション・ウエッジ・ワン)(傘や矢印に似た形の陣形)をそれぞれ組んで、燃え盛る市街地の中で互いにBETAとぶつかり合う。飛びかかる戦車(タンク)に対して青山は噴射滑走(ブーストダッシュ)でこれを斬り伏せた。

「全機半小隊(エレメント)にて行動し各個撃破せよ、兵器使用自由を通達する!」

「了解!」

 斯衛第14大隊は36機全機が2機ずつ18個半小隊(エレメント)を作りBETAに向けて突撃砲を照準し放つ。観音院は92式多目的追加装甲を戦車(タンク)級にぶつけて押しつぶしながら群れる下等生物の中に潜り込んでは120ミリの榴弾を叩き込んでいた。

「アドルフ少佐!上方!」

「青山隊長、上空援護機を確認」

 ガーランドの見上げる方向の空を浮遊しているのは、米空軍の超音速偵察爆撃機B-70ヴァルキリー、コールサインはワイバーン。三機編成が複数、数にして約30機ほどで接近する白いそれは、戦乙女(ヴァルキリー)と言うよりかは、死に場所を求める老兵(オールドソルジャー)にも見えた。黒く染った雲を背に光線(レーザー)級のレーザー照射を受け続ける老兵たちは決死の覚悟で兵装格納庫(ウェポンベイ)の扉を開けた。

「こちらワイバーン1(ワン)、上空援護を開始する」

「了解、援護感謝する」

「ヴァイス1(ワン)、ワイバーン隊の爆撃が来る!マークした安全地帯(ホールディングエリア)まで撤退せよ!」

 青山に撤退を促されアドルフがそれに従うと、彼に率いられたF-16は辺りに蔓延るBETAを切り伏せ撃ち散らしBETA群を突破、緑色の円マーカーで表示された安全地帯(ホールディングエリア)で退避した。一方でその上空では、白い老兵たちが編隊を鏃に組んだ上で水平飛行でBETA群に接近していた。高度は6000、十分に取ってある。

「ワイバーン2(ツー)9(ナイン)消滅(ロスト)!」

「そのまま攻撃体勢を維持、編隊を崩すなよ…ッ!」

 ワイバーン隊の隊長は兵装格納庫(ウェポンベイ)爆弾投下ボタンに手をかけて、少しだけ目をレーダーに移して、BETA群の写っている赤いマーキングを確認してからその爆弾投下ボタンを力強く押す。JDAM2000ポンドのクラスター爆弾は兵装格納庫(ウェポンベイ)から一斉に放り投げられて、GPS誘導の下に甲高い音を立てながら、光線(レーザー)級やその周辺にいる目障りな炭素の塊(BETA)に向けて落ちる。一面に広がって動き回っていたBETA群は、吹き飛ぶか爆風でその手足をもぎ取られた後にピクリとも動かなくなった。一度の爆撃が骸の山や骸の原と言っていいほどに、ただでさえ地獄の戦場を更に地獄へと変えた。

 黒い煙が入れ混じった赤い閃光を確認した爆撃隊隊長は機体を左右に振って列機に無線を入れた。

「ワイバーン1(ワン)より全機へ。自分と3(スリー)はそのままSFR(戦略強行偵察)を続行。他の機は直ちに反転し帰投せよ」

「了解。くれぐれもお気をつけて」

 30機前後のB-70は反転して、その機体の腹に燃える帝都の光を浴びながら来た方を戻り、隊長と2番機はそのままの針路で強行偵察を続行を続行。

「諸元最新の届きました!」

「修正して撃て!」

 随時更新される偵察情報を元にして帝都郊外に存在する帝国軍砲兵隊は弾と時間が許す限りの砲撃による猛攻を加えて数を減らそうと試みるが、地中から石油が湧く如くはい出てくるBETAにとってはほんの些細な損害であった。「撃てーッ!」と砲兵隊の下士官たちは口々に叫び、砲兵たちはその声を聞くや否や、砲火を切り弾を押しだすのだが、ジリジリと押される戦線によって撤退を余儀なくされる砲兵陣地も出てき始めた。

「コイツら次から次へと…!」

「ヴァイスターテルズ全機に継ぐ、三条まで引き防衛戦を構築する。このフヌケどもから抜け出すぞ!」

「聞いたな!全機噴射地表面滑走(サーフェイシング)、できるだけ点集しろ!」

 埒が明かないと判断したアドルフは一点集中で突破を命令、京都の河原町三条付近までの撤退を開始。ガレールはそれを聞くや否や噴射地表面滑走(サーフェイシング)を中隊に指示して光線(レーザー)属種の標的になることを防ごうと試みるがそれを逃すまいとその光線(レーザー)属種はヴァイスターテルや第14斯衛大隊へとまん丸の大きなギョロ目からレーザーを放った。

「大隊長…!このままでは他戦線に存在する友軍へこの厄介者らを土産が如く持ち帰ることになりすぞ!」

 ふいに二龍の言葉ではっとした青山は考えを巡らせてみる。自身らが撤退することはすなわち、今まで分散していたBETAという圧力が加わる面積が狭くなる───それは友軍への負荷が大きくなることを意味している。衛士にかかる負担を例えるならば、衛士がスポンジでBETAが(おもり)、衛士にかかる負担が沈む深さである。衛士の数を表面積の大きさ、BETAの数を重さとすると衛士の数が減るということは面積の縮小を示す。こうなれば衛士一人あたりの負担は大きいことになり沈み込みはより大きくなる。

 衛士一人の存在がどれほど全体に影響することかは言うまでもない。日本帝国最大の都であるここを死守することこそ、城内省直属の精鋭・国運を左右する日本帝国斯衛軍(ロイアル・インペリアル・ガード)の死命である事を組織を構成する彼らは実感している。

 観音院、堀の2人は隊長機の前方50メートルを噴射地表面滑走(サーフェイシング)しながら突撃砲を進路上のBETAに向けて撃ち退路を築く。

 辺りには群がるBETAと撃破された戦術機の残骸、それから死体に崩れた廃墟のビル群。とてもでは無いが目も当てられない世界が広がる中、先行するそれを追いかけるようにして続く斯衛第14大隊本隊とその後続のヴァイスターテルズのさらに後ろからはこれ程かと言うほどに大量のBETAが迫ってきている。戦車の援護も戦闘ヘリの上空援護も、爆撃による面制圧も見込めない。ただ悪戯に燃料を消費して、捕まるまで戦車(タンク)級と鬼ごっこをしているに過ぎない状態に陥った。

「中隊長。このまま逃げても振り切れません、どうしますか?このまま食われるのも良くはありませんが…」

「三条大橋を落として少しでも時間を稼げ、河原町三条を抜けて東山まで行くぞ」

 斯衛第14大隊、ならびにヴァイスターテルズは京都御所はBETAの侵攻速度からして既に陥落したと考え、東山へと進路を変更。撤退を開始する。が、ビルの隙間やビルそのものをなぎ倒して突撃(デストロイヤー)級の出現に地面からはい出てくる戦車(タンク)級に苦戦を強いられる。

「駄目だ、戦車(タンク)級の幾らかが機体にへばりついて離れねぇ!」

「待っていろ、今行く!」

 堀が機首を転換させて戦車(タンク)級を切り落とそうとするが、斯衛第14大隊のセッター中隊に所属するセッター05(マルゴ)は一言、「自分が時間を稼ぐ」と言って救出を拒否した。

「堀、そこまでにしておけ。覚悟を決めた者にはどんなことを言っても聞かんぞ」

 観音院の機体が彼女の機体の隣に着地し、砲声が飛び交う中で装甲を齧られていくセッター05(マルゴ)を見ていた。観音院は青山に向けて無線を入れた。

「此方サイクロン01(マルヒト)、戦闘行為を停止し東山への撤退の優先を進言致します」

「BETAの足止めは誰がする?」

「セッター05(マルゴ)が引き受けるとの事」

 青山は押し黙ったのち、「一人でか」と聞く。それに対して観音院は、はい、と短調に応えた。観音院の返答を聞いた青山は、内心焦っている。隊を救うために部下を見殺しにするか。しかし、斯衛として、同じ日本人としての人徳がそれが許しはしなかった。

「原田軍曹。良いのだな?」

「構いません、大隊が助かるならば俺の命など安いものです」

「…貴官のその決断に敬意を評する」

「されば、お先御免」

 原田は跳躍(ジャンプ)ユニットの出力弁を開け、最大にすると戦車(タンク)級を自機の装甲を齧らせたまま、隊の後方に続くBETA群へと突入を開始した。隊長の前ではカッコつけて言い放った、しかしながら彼もまた人間である。迷いは振り払えない現状にあった。彼は自身の操縦席のアナログ高度計の隣にテープで止められた写真を一枚見つめる。その写真には赤ん坊を抱いた女性が写し出されていて、戦術機の揺れに合わせて小刻みに上下に揺れている。彼はその写真に向け内心、すまない、すまない、と謝る。突撃を開始して十数秒、ようやく覚悟を決めた。87式突撃砲を装備させた副腕(サイドアーム)主腕(メインアーム)に装備させた74式近接戦闘長刀を乱射し振り回し、燃料と体力が許す限りBETAのヘイトをこちらに向けさせた。

「オラオラどうしたッ!俺を殺さないならばここから先は通さねェェーーッ!」

 これも全て仲間を逃がすため。一人で相手するには無茶だと言うことは原田自身が一番よく知っている。数万といるBETA群を相手にこちらはたった一人。援軍を望むことはもちろんしない。これはあくまでも“時間稼ぎ”だと言うこと、日本帝国が一日でも国としての形を維持することを条件に、命を差し出すという悪魔との取引きそのものであることも重々承知の上で言い出した任。ここで放棄すれば斯衛第14大隊の名が泣くだろう。

 ふと突撃砲の残弾を示す計器に目を移すと250、200、150と見る見るうちにその残弾が底を尽きできていることを目視で確認し、思わず「あっ」と声を漏らした。しかし、発射ボタンにかかった手は緩むことを知らず、とうとうその数字は赤く0と表示されて点滅を繰り返すだけとなってしまった。

「こんな時にかよ…ッ!」

 弾のない87式突撃砲は役に立たないので、原田は87式突撃砲を破棄して長刀のみで体当たりを敢行。BETAを斬りつけた時の血しぶきが機体の至る所に飛び散りこべりつく。戦車(タンク)級に要撃(グラップラー)級、しまいには突撃(デストロイヤー)級を始末して回るが、数は減るどころか、逆に突撃開始の数倍にまでふくれあがり、いくつかの中隊規模BETA群は原田を無視して本隊を追跡している始末であった。

 突然、コックピット内は赤い警告灯に照らされ、重低音の警報までなり始めた。ヤケクソになって長刀を振り回していた彼のいるコックピットにガコンという、まるで工事現場の足場が崩れるような音がした。原田の背筋は嫌な予感からか、たちまち凍り付いた。戦車(タンク)級がとうとう装甲を食い千切ってコックピットにまで到達したのだ。原田は内心「ここまでか」と思いながら、目の前に開いた穴を一回り、二回りと大きくしていく化け物を見つめる。そして、他の戦車(タンク)級も機体に纏わりついて、とうとう原田の戦術機は身動きひとつ取れなくなってしまった。原田はギリギリまで引き付けたと判断し、ガラス張りのケースを叩き割り、それに収まった赤いボタンを握り拳で押す。それが自決用のS-11であることは言うまでもなく、爆発に巻き込まれた無数のBETAは何が起こったのか知る由もないまま塵灰と化す。

 爆風を背にし、斯衛第14大隊と第111戦術機中隊は涙を飲んで彼の最後を弔った。ガレールは十字を切り、青山は目を瞑り彼を偲んだ。

 

   * * *

 

 一方で嵐山を放棄した江口中尉率いるガルラント中隊は、二条御所に留まっていた政威大将軍の煌武院悠陽と日本帝国皇帝、並びにその家族を回収して舞鶴を経由して撤退戦を行っていた。帝国の重鎮らは斯衛軍が用意した専用の装甲トラックにての護送、護衛はガルラント中隊と帝国斯衛第1独立警護小隊、第2独立警護小隊が請け負っている。

 散発的な戦闘こそあったものの、大方、BETA群は日本帝国の戦力が集中している東山や京都駅周辺に集結しているようだった。

「舞鶴で輸送艦が待機している、陛下並びに殿下が輸送艦に乗艦なされるまでが護衛だ。いいな?」

「その後はどうするんです?」

「その後は撤退しつつ東京へ向かう、敗走した場合は東京の第一師団が身元引受けを承諾している」

 江口の言葉を聞き、ひとまず浪人とならなくて済むことに胸を撫で下ろす高砂。

「敵が南方に集中しているのは不幸中の幸いですかね…。にしても、味方部隊の被害は凄まじいようです、嵐山に所属していた部隊も大半は…」

「三沢、それまでにしておけ。陛下の前でそのような事は」

 三沢の声を遮るように森が割って入り、三沢は「了解」と答える。

 森は京都とその近郊の地図を画面に広げ、現在地と敵の数、味方の位置を事細かに把握する。赤いマーカーが示された所に青マーカーはひとつも見えず、心徳顔になった森はすかさず舞鶴に停泊中の艦船の名前を検索する。画面右下の小さな枠の中にF-4J撃震に搭載されたOSがヒットさせた艦名とスペックが表示される。

 愛宕級輸送艦1番艦愛宕。排水量5500トン、全長約240mで最大幅23m、吃水約5.1m、速力は約18ノット。各スペックが表示されたその画面を「中隊長」と言いながらリンクで共有する。

「愛宕か。一度新発田まで移動し、そこから陸路で東京に遷都をすれば行けるか?」

「日本帝国軍が一定間隔で基地を建築、そこに駐在しています。そこを通れば問題なく安全に移動できるかと考えます」

「よし、舞鶴に直行だ。なるべく最短距離で行くぞ」

「了解!」

 ガルラント中隊は政威大将軍らの乗ったトラックを護衛しながら、極力直線的に舞鶴まで移動する。直線距離で約62キロ、最短でも100キロだ。しかも舞鶴は帝都より北北西の方向に位置する、既にBETAが迫りつつある可能性も捨てきれないのが現状であり、たった一個中隊と二個小隊ではどれほどBETAを捌き切れるかと聞かれれば、微々たるものであるということは言うまでもなかった。

「中隊長、地上音源探知。数は300で少数、捌けますね」

 高砂のいる部隊左方面から無数の地ならしを撃震のサウンドレーダーが捉える。その大きさ、足音の数からして突撃(デストロイヤー)級か要撃(グラップラー)級であることは容易に予想出来る。江口は直ぐに「第一警戒体制を組め!」や「兵器使用自由、接敵し次第なぎ倒せ!」と怒涛の命令の嵐だ。

「了解!」

 ガルラント中隊と第1、第2独立警護小隊は陣の中心にトラック3台を配置、周りを戦術機で囲うという警戒陣を組んだ。

 自機を中心にした音響カメラの画像が映し出されたディスプレイは、緑から赤黒く色が著しく変化し、BETAとの戦闘が近いことを示唆する。まだ京都を出て12キロ、出世稲荷神社や宝泉院の近くだ。ここは既に避難民の誘導は完了しているというヘッドクォーターからの報告だったので民間人に対する被害は考えなくて良いのだが、問題は皇帝と政威大将軍が居るため普段通りの戦闘ができないという点。そこが一番危ぶまれる点であり、下手に動けば部隊全滅なんてことも有り得る。自分も中隊副長の森も自分の体で、『彩峰中将事件』で既にそれを経験している。直接的な指揮系統の混乱がないとはいえ、局面的には確実に殺しに来ていると言っても過言ではないほどに酷似している。あの時はただ鳳に付き従っていれば良かったのだが今回は自分が中隊長であり、頼れる(先代)はもうこの世に居ない。自分の判断と部下の腕に頼るしかない状態は、心の支えがほぼ無いに等しい江口にとって足枷となった。

「…!!」

「目標、まもなく接敵します!」

 サウンドレーダーを見ていた龍造寺の悲鳴のような声が、中隊全員の耳にこべり着いた。

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