バカとテストと召喚獣~すべてを知った僕となにも知らない君~ 作:唐笠
明久SIDE
僕はもう姫路さんに嫌われてしまっている。
だから、今から僕が行う行為になんの意味もありはしない。
たった一つの出来事で状況が好転するなどありえないのだ。
一つ一つの積み重ねが、本当に変えたいものを変える力となる。
堕ちるのは容易くとも、積み重ねはそれの比とならないほどに困難なのだ。
僕が今までやってきたのも姫路さんを助けるための積み重ね。
そう思ってきていた。
いや、そう思うことで現実から目をそらしてきていたんだ。
「姫路さん!」
校門から飛び出した僕は力のかぎりに声を張り上げると姫路さんの横に並ぶ。
姫路さんのその目は恐怖の色がはっきりと見てとれた。
それを見て僕は今一度決心する。
逃げるのは……もうやめよう…
僕は気付いてしまったから……
僕は君を助けたいんじゃない………
罪悪感を感じてたわけでもない。ただ――――――――
「あ、明久君!?」
「あぁん?なんだテメェ?」
「僕は―――――――――」
「姫路さんの彼氏だ!」
君の傍にいたかっただけなんだ。
そう、確信できたから…
僕は一つのこたえを見つけることができたから……
僕の中に渦巻く『厄介な感情』は僕にとってなによりも大切な感情だったんだ。
「おまえみたいのが、嬢ちゃんの彼氏だって?
笑わせるなよ。嬢ちゃんは今から俺たちといいことするんだよ」
「僕の彼女に手を出そうなんていい度胸じゃないか」
そう言いながら僕は姫路さんに絡んでいた二人組を睨み付ける。
もちろん僕が姫路さんの彼氏だなんてまっぴらな嘘だ。
だが、その嘘によってやつらの注意は僕に向いたし、姫路さんを庇うように間に割り込むこともできた。
「テメェみたいなやつが俺らに敵うと思ってんのかよ?」
「大人しく引き下がりゃぁ見逃してやるぜぇ?」
「減らず口も大概にしなよ。僕を誰だと思ってるの?」
正直な話、腕っぷしのよくない僕ではこいつら三人を相手取ることなどできない。
だから一種の賭けにでよう。
それが吉とでるか凶とでるかはわからないけれど、そこに姫路さんを護れる……いや、僕が姫路さんといられる可能性があるのならなんだってやってみせる!
「僕はあの悪鬼羅刹なんだよ。それでもやるかい?」
そう、僕は底の浅い嘘をつく。
だが、あくまでも嘘を取り繕うために自信たっぷりに雄二の二つ名を語る僕。
「なっ、あの悪鬼羅刹だと!?」
「おいおい、冗談じゃねぇぞ!?」
「悪鬼羅刹の坂本に俺ら三人だけで敵うわけねぇよ!」
今まで余裕の表情を見せていた三人組が明らかな狼狽をみせる。
はったりなのに、こんなに取り乱すなんて雄二のやつはいったいなにをやってきたんだろうか……
「わるかった!
俺らがわるかったから見逃してくれ!」
「坂本さん、どうかここは穏便にお願いいたします」
「さっさと失せやがれ」
さっきまでとは一変して下手にでる三人組に僕は更に脅しをかけるように睨み付けながら言う。
自身よりも小柄な相手に睨み付けられて怯む人も中々見れたものではないだろう。
「「「はっ、はい!」」」
そう言って、足並みを揃えて一目散に逃げ出す三人。
ふぅ…
なんとか、助かったよ。今回ばっかりは雄二に感謝しなきゃね。
そう僕が安堵したのも束の間、あの三人組がピタッと足並みを揃えて止まったのだ。
「なぁ、そういや悪鬼羅刹の坂本ってあんなにチビだったか?」
チビって…
たしかに雄二と比べれれば小さいけど、ムッツリーニや秀吉と比べれれば僕の方が大きいのだからとやかく言われる程ではないはずだ。
「それにたしか赤髪って話じゃなかったか?」
あれ…?
もしかしてこれってまずいんじゃ……
「あのやろぉ…
ハッタリかましやがったな!?」
あっ、やっぱりバレた…
って、まずいよ!?
姫路さんの手をひいて逃げるという手もあるが、体力のない姫路さんにそれを強いるのは酷というものだろう。
「姫路さん…
僕がなんとかしておくから先に帰ってて!」
「そんなことしたら吉井君が!」
そう言う姫路さんの目尻にはうっすらと涙が浮かんでいた。
それだけ恐かったということなのだろう。
その恐怖に耐えながらも、嫌いな僕のことを気遣ってくれているんだ…
「大丈夫。僕は絶対に負けないから…」
僕はそう言うと姫路さんを押し出すように下がらせる。
あとは姫路さんが自分で行動するだけだ。
そこに僕の意志が入り込む余地なんてありはしない。
そう……僕が捨てられるのも救われるのもすべては姫路さんしだいなんだ。
『バカ』
それは昔の僕のあだ名にも等しい言葉だった。
そして、今では僕に一番縁遠い言葉のはずなのに…
それなのに僕は今、自分が『バカ』だと自覚している。
君の傍が…こんなにも大切だなんて…
怖いはずなのに逃げようなんて気がおきないほどに僕に力を与えてくれるなんて……
なにより…僕が僕らしくいられる。
そう確信できることすらわからなかったなんて僕は本当に『バカ』だよ。
だから、『バカ』の本気を見せてあげるさ…
「なめたマネしやがって!」
「うぐっ!?」
僕に騙されたことに腹をたてた三人組が一斉に殴りかかってくる。
まったく、何年も殴り合いなんてしてないから一発受けただけでクラクラするよ…
「調子のんじゃねぇぞ!」
「ガハッ…」
みぞおちに踵をくらわせられたことによる痛みにで吐き気が襲ってくる。
しかし、それにも意を介さずに続けられる僕への暴行。
全身にはしる痛み。
ぼやけ始める視界。
本当なら、もう倒れてしまいそうなくらいに意識が朦朧としてしまっている。
だけど、僕がここで倒れてしまえば姫路さんの身に危険が迫ってしまう。
嫌われてたって関係ない。
それでも僕の姫路さんへの想いは変わらないのだから…
「ったく、いい加減倒れろよっと!」
バシッ!
「なっ!?」
一際強く繰り出された拳を僕に止められたことによる驚きからか三人組の攻撃が一旦やむ。
「悪いね…
『バカ』ってのは諦めないこと……諦めの悪いことが取り柄だからさ」
そう言って僕は笑ってみせる。
顔が腫れててやりづらいけど笑ってみせた。
やつらの注意が一層僕にむくように…
姫路さんが傷付かないように……
これが『バカ』にできる、たった一つのことだと信じて。
「いきがるんじゃ「やめてください!」
「っ!?」
僕の思惑通り、敵意を剥き出にした拳が振り上げられた瞬間に響く一つの声。
それは、その場の誰もが信じれない人が発したものだった。
「ひめ…じ……さん…」
どうして君がまだここにいるの…?
なんで…嫌いなはずの僕なんかに構い続けるの…?
もしかして……僕はまだ…見捨てられてない…?
「吉井君をこれ以上痛め付けないでください!
私なら…私でいいならなんでもしますから、吉井君を放してください!」
「へへっ、いい心掛けじゃねぇか嬢ちゃ―――ぐぼぉぁ!?」
「言わなかったかな…?
『バカ』は諦めが悪いんだって」
そう言うボロボロの僕は、脇を通り過ぎようとしたやつにみぞおちをくらわせ、残りの二人を睨み付ける。
「て、テメェ!マサキになにしやがるんだ!」
「ふざけんじゃねぇよ!」
マサキと呼ばれたやつを僕が倒したためか、今一度僕に注意が集まる。
当然、いきりたった二人は僕目掛けて拳と足を構える。
ろくに力の入らない拳。
定まらない焦点。
とっくにきている体力の限界。
だけど―――――――――――
「負ける気がしないね!」
僕にはまだチャンスがある。
見捨てられてなんかいない。
まだ、僕の積み上げてきたものは……僕自身は終わってなんかないから!
負けるはずが…
負けられるはずかないじゃないか!
それになにも難しいことじゃない。
僕が今からやることは、いつも僕がやってきたこととなんら変わりはない。
そう、『僕が君の傍にいるための積み重ね』だから…
「くたばれぇぇぇ!」
「死に晒せぇぇぇ!」
繰り出される拳と踵。
狙いは両方とも僕のみぞおち。
「ぐっ…」
僕はそれを防御もせずにモロに受ける。
だけど、僕はさっきまでの笑みを崩さずに相手を見据え続けた。
「今度はこっちの番だ!」
「「ぐほぉ!?」」
僕の行動に一瞬の迷いをみせた隙に二人のアゴと胸元に拳と肘を叩き込む。
覚悟していた痛みではなく、不意の攻撃だったためか二人は大きく体勢を崩す。
よし、あともう一息で―――――――――――
「小僧、そこまでだ」
「っ!?」
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