バカとテストと召喚獣~すべてを知った僕となにも知らない君~ 作:唐笠
明久SIDE
「終わりだ、明久…」
引かれる引き金。
その銃口が向けられるのは僕の額…
すなわち、文字どおり僕の終わりを意味する状況。
誰がそんなことをしているのかはわからない。
だけど、僕はこんなところで終わるわけにはいかないんだ!
「っ!?」
とっさの判断、いや、もはや条件反射と言っても過言ではないかのように僕は身を屈めると、そのままの姿勢で走り出す。
それは、まるで何度も練習したかのように自然と行える行動。
僕の身体に馴染んだそれは、そのまま再度銃を構えようとしているやつの元へと僕を向かわせる。
丸腰の僕が銃をもつ相手に挑むなんてバカげてる。
だけど、僕はそいつの元へと走った。
そう、僕の大切なものを取り返すために…
「また……やり直さなきゃなのか…」
「っ!?」
だが、僕のそれは叶うことがなかった…
そう、僕より一回り背が高く無駄のない筋肉のつき方をしたそいつが、左のポケットに隠し持っていた銃の引き金を引いたのだから…
バンッ!
「ん…」
頬を撫でる穏やかな風。
すぐ傍に感じる温かな感触。
「目が覚めました?」
そして、柔らかな笑顔で僕を迎えてくれた君。
それらを感じながら僕の意識は覚醒していく。
辺りを見回せばさっきまでと何も変わらない山の風景だ。
雄二が深呼吸をしながら遠くの景色を眺め、その隣には寄り添うように立つ霧島さん。
そんな、なんでもないはずのこの時代の僕の日常…
そうなれば、やはり先ほどまでのあれは夢だったのだろうか…?
それにしては、はっきりと覚えすぎているし、なによりも現実味がありすぎる…
だが、夢でないとするならば、僕が今生きていることに説明がつかない。
なんとも矛盾した状況なのだが、ただ単に僕の思い過ごしなのだろうか?
「明久君、どうかしましたか?」
「な、なんでもないよ…」
目が覚めても一向に動こうとしない僕に疑問をもったのか、姫路さんが心配そうに訊ねてくるが、さすがに夢のことを話しても笑われるだけだろう。
それにしても、姫路さんの顔がやけに近いし、さっきから感じているこの温もりはいったい…?
…………………………………なるほど、膝枕か…
「って、膝枕ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
驚きと恥ずかしさから僕は跳ね上がるようにして姫路さんから一旦離れる。
待て待て!
冷静になるんだ吉井明久、御歳17歳!
いや、正確には27歳なのかな!?
でも、この時代の僕はやっぱり17歳だから17でいいのか!?
未成年なのか成年なのかで、この後の展開が変わるって僕はなにを考えてるんだ!
「明久君、大丈夫ですか…?」
「うん大丈夫!
僕は大丈夫!大丈夫だから姫路さんは早く歳を「あきひさー、人生が終了したいなら構わないが暴走もそこまでにしろよー」
「???」
セーフ…
雄二の制止のおかげで最悪の事態はなんとか免れたようである……
まったく、僕はいったい何を考えているのだろうか…
姫路さんに対して、そんな邪な考えをもつなん……いや、もしかしたらこれもありのままの僕なのかもしれない。
姫路さんを助けに行ったあの時、たしかに感じた僕が僕であるという確証。
それは全てを取っ払った上で出された答え。
それに気付いたのは偶然なんかじゃない。
最初から僕は僕であって、それは必然であったんだ。
だけど、その必然に気付いたのは失ってしまった君との日々の中…
それを失っていた未来の僕は果たして僕であったのだろうか…?
答えなどあるはずがない。
いや、僕はその答えを知りたくないだけなのだ。
もう…君のいない日常になど戻りたくないから……
きっと、答えを知った時に君は僕の傍にはいない……
どのような形であれ、僕の前からはいなくなっているのだろう。
答えなんかいらないから…
いつまでも、僕を僕でいさせてほしい。
なにもしてあげられない僕だけど、君がいなければなにもできなくなってしまうのだから…
何度だって、その時に戻ろうと、それだけしか考えれなくなってしまう。
そう、何度でも……
「あっ!
明久君、見てください!」
そんな自問自答を繰り返す中、なにかを見付けたらしい姫路さんが走り出す。
そして、しばらく走ったところでなにかを拾うように屈むと笑顔で振り返ってきた。
「これ、綺麗ですよね♪」
「っ!?」
そう言って姫路さんの見せてくれたそれは桜色の輝石。
そう、それはタイムマシンに必要不可欠である姫逢石だったのだ…
「なんだ姫路、やけにいいもん拾ったじゃねぇか」
「……すごく綺麗」
「明久君も見てみてくだ―――きゃぁ!?」
おそらくは僕にも近くで見てもらおうとしたであろう姫路さんがこちらに駆け寄ってくるが、途中で地面から出っ張っている石につまずき転倒してしまう。
しかも、運の悪いことに姫逢石は姫路さんの手元から放物線を描き―――――――
「「「「あっ…」」」」
正に異口同音。
姫逢石は、今にも落ちそうなあの岩に空いている穴にピッタリとハマってしまったのだ…
しかし、それは姫逢石が本来あるべき場所。
僕が見付けたのは、紛れもなくあそこであるのだから間違いない。
だが、そこで一つの矛盾点がうまれる。
過去に僕たちはここに来ていないと言うのに、姫逢石が岩にハマっているのはおかしいのだ。
もちろん、僕たち以外の誰かがやったという可能性もある。
しかし、このような偶然がそうそうおきるとは思えづらいものなのだ。
なにか僕の知り得ないことがおきている…
この、僕の過ぎてきた筈の日常の中に僕の知らない何かが……
「明久、ちょっと来てみろよ」
そんな僕の疑問を知りうるはずもない雄二が一際高い位置から僕を呼ぶ。
あそこから夜景を見れば、僕たちの住んでいる町もさぞかし絶景なのだろう。
そんなことを考えながら僕は雄二の元へと歩いていく。
「どうしたのさ、雄二?」
「見てみろよ。
ここからなら町が一望できるよな」
「たしかにね…」
僕も雄二に習うように頂上から町並みを見渡す。
遥か遠くに見える建設途中の如月グランドパーク。
過去の僕はそこに行くことはなかったけど、きっとみんなでいければ楽しかっただろうね…
また違った方向には僕たちの通う文月学園がある。
思い返してもなんら思い出もない場所。
ただ一つあるとすれば、あそこで僕の時は止まったということだ。
あの日から僕の時間は止まった。
ただ、ひたすらに過去を見続けただけなのだ。
それは今も変わることはなく、僕が生きている意味にすらなりかけている…
そんな、僕が死んだ場所でもあるのだ。
「なぁ、明久…
俺たちはあの町で生きている。
だけど、俺たちを囲うそれすら、ここから見れば全て見通せてしまうんだ」
「難しい話はよしてよ…」
「わりぃ…
要するには、いくら俺たちが必死に足掻いたって、上から見れば全てお見通しなんだと思ってな…」
また、いつものような雄二の意味深な言葉。
その時折での僕の悩みをついてくるその言葉に僕は疑問を通り越して恐怖を覚えていたのだろう…
だけど―――――
「それは違うよ…
例え、上から全てを見通せても、そこにいる人にしか解らない大切なことは沢山あるんだ」
そう、過去を知った気でいた僕もここにいて気付いたことが数多くある。
それはいくら思い返しても、克明に記録していても気付くことのできないもの…
なぜなら、それはその時にしか感じることのできないものだから……
確かに僕が僕として今の状況を感じ取ったものだから、上から見ただけでそれをわかった気でいないでほしいのだ。
「そうか…
たしかに、明久の言う通りかもしれないな。
だけど、世の中引き際や諦めが肝心だから無理だと感じたらすぐに諦めろよ」
「生憎、僕は諦めが悪いのだけが取り柄だからそれはできないかな」
「ったく、人の忠告くらい素直に聞けよな」
そう悪態をつく雄二だが、その表情はどこかしら満足そうだった。
だけど、同時に見せる一抹の陰り…
果たして、それは何に対してのものなのか僕にはわからない。
だけど、仮に僕の邪魔をするなら雄二ですら……
「明久君、お弁当食べましょう♪」
「……雄二、私たちも食べる」
そんな、はりつめた空気のなか僕たちにかけられる声。
雄二と共に振り替えれば、そこには弁当箱を広げている姫路さんと霧島さんが笑顔で待っていた。
「行くぞ明久」
その柔らかな笑みに少々見とれていると、いつの間にか僕より先を歩いてる雄二が僕を呼ぶ。
気になることはまだまだあるけど、今はこの時間を大切にしよう。
そう考えた僕は雄二に続くように歩き出すと、姫路さんたちに聞こえるように少し大きめに声を出す。
「待っててね、姫路さん。今、行くからー!」
その声は山彦となり辺り響き渡ったのだった…