バカとテストと召喚獣~すべてを知った僕となにも知らない君~ 作:唐笠
あぁ!
忘れてるなんて私のバカ野郎ぉぉぉ!
あのピクニックから数週間、特に事件もなく僕の日常は流れていった。
『吉井 明久』としての日常は、とても色付いており退屈などしない。
過ぎた過去の中にある僕の知らないことは、その一つ一つがかけがえのないものだったのだ。
ふと横を見れば、離れていったはずのみんながいる。
失ったはずの君がいる…
そんな、素晴らしい日常も今日で終わりを告げるのだ。
「いよいよ…か……」
そっと、そう呟くと僕は玄関の戸をそっと開ける。
冬もそろそろ終わりを告げようとしているのに、身体の芯を射すほどに冷たい風。
それに相対するように、温かく僕を包む朝日。
この日、『吉井明久』は死んだのか…
そんな感傷に耽りながら、いつもの道を歩いていく。
君の待つ、坂の上を目指して…
「ついに来たか…」
俺はこの日を心待にしていた。
……していたはずなのに、胸中に残る一片の悔い。
それは、俺のしようとしていることと真逆のことだ。
後悔するならやらなければいい。
そんなことを言って逃げれるのは『子供』だけだ…
俺はやらなければいけない。
俺がやらなければいけない。
それはあいつのため…
俺の大切な親友のためなんだ…
「大丈夫だ…
俺は間違っていない。俺は……正しいんだ…」
そんな自己暗示をかけながら、俺は家を出る。
胸ポケットに愛用の銃があるのを確認して…
「来ちゃいましたね…」
誰へとなくそう呟いた私は決心を固める。
今日で楽しい日々とはおわかれ…
そんなのはイヤだけれど、それは逃れられない結末……
どのような形であれ、今日で楽しい日々とはおわかれなんです…
「楽しかったですよ…明久君……」
ここにはいない、私の大好きな人の名をそっと呟く。
きっと、その時にはその名前を呼ぶことはできないだろうから…
今の内に、何度も胸の中でその名を呼ぶ……
忘れないように…
なかったことにならないように…
せめて、明久君の記憶の片隅にでも残るようにと……
「バカ…ですね……」
こんなに苦しむなら、想いを伝えれば良かったのに…
でも、できなかったのはなぜ…?
答なんて解りきってるんです…
拒絶されるのがイヤだった…
たったそれだけのわがままな理由。
もしかしたら、それが解決策なのかもしれないのに、私はそれを選べなかった。
「最低…ですね……」
私は明久君のようには優しくなれない。
結局は、逃げることでしか解決できない狡い人間なんです…
だから、そんな優しい明久君が可能性を手に入れられるように私は……
「ありがとう…」
いつもの私とは違う口調。
いつの日か私が夢見た『私』
それは明久君自身に、明久君の優しさに、私になかったものをくれたことに対する言葉。
「名前で呼んでくれたこと…嬉しかったですよ……」
私は自ら、終止符を打つために家を出た。