バカとテストと召喚獣~すべてを知った僕となにも知らない君~   作:唐笠

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第5話 良薬は口に苦し。甘美な毒は病みつきに

明久SIDE

「ん…」

カーテンの隙間から差し込む真冬でも燦然と輝く朝日に僕は目を覚ます。

………………………………つ、ついにこの日がきてしまった…

雄二に連れられて姫路さんと霧島さんと喫茶店で楽しく話した日の翌日、僕にとって運命の日を迎えたのだ。そう、今日は――――――

姫路さんのお弁当が食べられる日だ。

運命の日と言っても別にあの事件の日ではないが、姫路さんのお弁当を食べるということは僕が通ってこなかった道である。

「少しずつでも……変わってるんだよね…」

そうであってほしい。

そして、いつかその少しの変化が君を助けるきっかけとなれば…

僕の想い描いた君のいる世界があるなら僕は幸せだから……

だから、少しでいい。

君にとってはなんでもないことでも、僕にとっては大切なもの変えていこう。

変えて、つくって、あの事をなかったことにするんだ…

「絶対に…失敗はできない…」

姫路さんのお弁当を食べてからのリアクションはもう何通りもシミュレーションした。

どんなに弁当が酷い内容でも笑顔をかえせる自信もある。

こんなところでつまずく訳にはいかないから…

できることなら君を助けた後に僕はその隣を歩いていきたいから……

「大丈夫…」

僕は自分に言い聞かせるようにして右手を握る締める。

その手には微かに繋いだ手の温もりが残ってる気がした…

この温もりをなかったことなんかにしたくない。

今一度、僕はそう決心を固めると登校の準備を始めた。

〜数十分後〜

朝食をすませた僕はいつもより早めに家を出ていた。

無論、姫路さんとの待ち合わせに遅れないようにするためである。

真冬の空っ風に吹かれるが気分が高揚しているためか寒さは感じない。

だけど、姫路さんのお弁当を楽しみにする反面、そこには不安もあった。

もし、姫路さんの気を害してしまったら…

僕が姫路さんの望んだような反応を返せなかったら……

そう考えると寒さとは別の理由から身体が震えてくる。

そんな希望と不安が入り交じった複雑な気持ちで待ち合わせへの坂道を登っていく。

だんだんと見えてくる下り坂の景色。

そして、そこに見える不安そうに辺り見回す姫路さんの姿。

「きれいだ…」

ぽつりと素直な感想がもれる。

朝日に当てられている姫路さんはその可憐さもさることながら神々しささえ感じた。

だからこそ感じてしまう僕たちの距離。

やっぱり…僕じゃ君に釣り合わないよ……

最初からわかっていた事実。

いくら過去を変えようとも変わらぬ現実。

そうあるべきことが必然であるという確証。

「あっ!

おはようございます吉井君♪」

なのに、君が僕に歩み寄ってきてくれる度に期待してしまう。

もしかしたら…

そんなことはないと頭では解っているはずなのに抱いてしまう淡い期待。

こんな整理のつかない感情を僕は知らない…

君を失ってからの10年間、一度もこんな感情を抱いたことないのに……

どうして、君と接する度にこの気持ちが溢れてくるの…?

僕にこの気持ちをどうしろと言うの…?

伝えることも諦めることも叶わない感情。

苦しくて…

厄介で……

知らなかった方が楽に生きれたはずなのに僕は――――

「吉井君、約束のお弁当です♪」

「ありがとう姫路さん」

この気持ちを大切にしたいと思っていた。

姫路さんと触れ合うことで初めてうまれたこの感情を……僕を困らしているはずの、この感情が愛しくてたまらなかったんだ。

ねぇ、君はこの想いにこたえをくれるの?

タイムマシンすら造ってみせた僕の知らない想いにこたえを知ってるの?

「吉井君、早くいきましょう?」

「うん」

…………いや、僕が見つけなきゃいけないんだ。

この感情が姫路さんを助けるのに役にたつかはわからない。

だけど、こたえを自分で見つけた先に僕の望んでいたものがある気がしたから…

必ずこたえを見つけてみせる。

そして、それを君に伝えたいんだ。だから―――――

『もう少しだけ僕に時間をくれるかな?』

〜文月学園〜

「よっ、明久おはようさん」

「あっ、雄二。おはよう」

姫路さんと渡り廊下で別れてから教室へと向かっていると、雄二が向かい側の廊下からやってきた。僕はそんな雄二と挨拶をかわすと教室へと入っていく。

「明久、昨日の帰り道粗相を起こさなかっただろうな?」

「おこせるわけないじゃなよ…」

いったい、雄二は僕のことをどんな変態だとおもっているのだろうか?

甚だ疑問だが、問い詰めたら余計に気が沈む応えがまっている気がするため、追及をさける。

「そういう雄二こそ霧島さんと粗相起こしてないよね?」

「明久、俺にそれを言うか…

あの後、翔子が俺の家に押し掛けてきたんだぞ…」

「えっ…」

冗談混じりに言ったのだが、雄二のまさかの返答に僕は固まってしまう。

いやいや、霧島さんってあの霧島さんだよね!?

あの口数が少なくて大人しそうな霧島さん!?

たしかに雄二に対して積極的な節はあったけど、そこまでするような人には見えないって!

「雄二が霧島さんの家じゃなくて、霧島さんが雄二の家に…?」

「なんで俺が翔子の家なんか行かなきゃいけないんだよ…

あいつの家に行く時は、あいつが俺を拉致して監禁する時くらいだ」

「なんか…大変そうだね……」

常時ならば疑うような場面だが、雄二の悲痛そうな顔が真実を物語っていた。

ここからどうやったら未来では夫婦になれているかは僕の人生の中でも五本の指に入る程の謎となるだろう…

「それにしても明久、なんだか浮かれてるように見えるがなんかあったか?」

「いやぁ、実を言うと姫路さんにお弁当もらっちゃったんだよね」

別に雄二になら隠す必要もないため、カバンから姫路さんにもらった弁当箱を取り出す。

「ひ、姫路の弁当だって…」

「そうだけど、どうしたの?」

雄二が明らかな拒否反応をみせているが、いったいどうしたのだろうか?

……………………………………もしかして!?

「雄二、霧島さん関連で弁当にイヤな思い出があるんだね…」

「あっ、いや…

まぁ、そうなんだ。翔子がとんでもないもの作りやがってな。ははは…」

雄二が乾いた笑いをしているが、そんなにイヤな記憶だったのだろうか?

霧島さんのことだから睡眠薬とかいれたんだろうけどさ……

「まぁ、なんだ。とにかくがんばれよ」

「???」

雄二がなぜだか僕の肩に右手を置いて哀れんだ目をしていた。

なにか心配なことでもあるのだろうか?

「さぁ、授業の時間だ!席につけ!」

そのことを尋ねようととした時、鉄人が教室に入ってくる。

しょうがないので僕は席に着いたのだが、結局昼休みまで聞く機会は訪れなかった。

〜昼休み〜

「あぁー、やっと昼だ昼」

よほど授業が退屈だったのか、雄二が欠伸をしながら言う。

まぁ、かく言う僕も高校の授業なんて暇なだけだけどね。

「雄二、一緒にご飯食べようよ」

「俺は構わないが、たぶんお前のところに客が―――――」

ガラガラ

雄二が言いかけたところで教室の扉が開く。

僕も自然とそちらの方に視線がいくと、そこいたのは―――――

「吉井君いますか?」

姫路さんだったのだ。

両手で自分の分の弁当箱を持っていることを考えると誰かと一緒に食べるつもりだろうか?

「明久、姫路の言ってたこと聞いてたか?」

「なんのこと?」

雄二が呆れたように言うが、姫路さんがなにを言ってたかわからない。

いや、僕を探してたように聞こえたけど、まさかそんなことはないだろう。

「そのまさかだ。さっさと行ってこい!」

「おわっと!」

なぜだか僕の考えを読んでいる雄二に僕は背中を押され、姫路さんの目の前に躓きながらも出ていく。

「吉井君、一緒にご飯食べませんか?」

なにこれ?

なんで僕は青春真っ盛りルート通ってるの?

姫路さんのお弁当を姫路さんと食べるってなんのご褒美?

「よかったら、屋上で食べましょ?」

「う、うん」

そう返事をすると僕は夢見心地で姫路さんと共に教室から出ていく。

その時、同じクラスの島田さんがこちらを見ていた気がするのは気のせいだろうか?

「本当に…あいつは幸せそうだな……」

それに雄二もなにかを呟いていた気がしたが、それは昼の喧騒に掻き消されてしまった。

〜屋上〜

「さぁ、食べましょう吉井君♪」

「うん、いただきます。姫路さん」

屋上にきた僕たちはそれぞれの弁当を広げていた。

真冬だというのに、僕は不思議と寒さはほとんど感じていなかった。

「吉井君のお口に合えばいいのですが…」

「心配いらないよ。こんなに美味しそうなんだからさ」

心配そうにこちらの様子をうかがう姫路さんに弁当の中身を見せながら笑顔を返してみせる。

その中身は色とりどりの厚焼き玉子やエビフライ、ウィンナーという具合にお世辞抜きにも美味しそうであった。

「いっただきまーす!」

パクっ!モグモグ

僕が厚焼き玉子を頬張ると姫路さんはより一層心配そうな面持ちで顔色をうかがってくる。

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。すごく美味しいからさ」

「本当ですか!」

喜びのあまりか姫路さんは今までの顔とは打って代わって満面の笑みを浮かべている。

だけど、その笑顔も長くは続かず姫路さんの頬には滴が伝いだしていた。

「うぐ…よかったです…

本当に…吉井君にやっと…食べてもらえて……」

「姫路さん!?」

突然泣き出してしまった姫路さんに僕は焦りながら周りを見渡すが、僕を助けてくれる人などいるはずもない。

僕がやるしかない…

僕が姫路さんを泣き止ませてあげないと……

そう考えたものの、姫路さんが泣いている理由すら僕にはわからないのだ。

こんな状況、シミュレーションしてなかったもんなぁ……

「姫路さん、僕なにかしちゃったかな…」

「ひぐ…

違うんです…

吉井君に…私の料理を食べてもらえたのが嬉しくて…」

「へっ…?」

そんなこと言われたら、また勘違いしちゃいそうになるじゃないか…

僕がまた淡い期待を抱いちゃうじゃないか……

「吉井君…もっと……食べてください…」

「う、うん…」

結局、今の僕にはどうすることもできないので姫路さんに言われた通りに箸を進める。

そして、僕の左手に落ちる滴。

なんで…僕まで泣いてるんだろう……

 

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