推敲時点では見つからない気がしてるんですけど、こいつらどっかから生えてきたりしてません???
予想より数倍、脳内でキャラが暴れた結果、シナリオが大幅に(当社比)変更になりました。
とはいえシナリオのとある地点までで最終決戦時相当の戦力が必要になるため強化イベントは考えていたんですが……ちょっとやりすぎました。
尚、今話の爆豪に対する文句は受け付けませんが異論は受け入れます。
「拍子抜けと言えば拍子抜けだけど」
もぐもぐとランチラッシュのお昼ご飯を食べながら雑談に興じる。
ぽつりと呟いた芦戸ちゃんに上鳴くんと切島くんが、おーと声を上げる。
「まぁ入学式からアレだったからなぁ」
「午前は普通の授業だし、まだトクベツなんもしてないもんなあ」
なんだかんだと10人くらいで食堂に来ているのだが、1年だと気付いた先輩たちがニッコニコしながら席譲ってくれたの民度良すぎないか。
だからこの学校来てるんだなぁって自然と思ったよね。
「ですが使用している教科書や参考書は難易度が高いことで有名ですわね」
「確かに。 文武両道を謳う雄英ならでは、という感じだ」
「午後になればヒーロー基礎学もあるし、明日の午前にはヒーロー情報学もあるわね」
「先生たちも豪華だよなぁ……講師も結構すごいの来るって聞くぜ」
「俺、ハウンドドッグ先生好きなんだけど授業あるのかなぁ」
皆でご飯楽しいなぁ。
とりあえずわたしはヒーロー基礎学がオールマイト担当だと知ってるので楽しみでわくわくが止まらない。
ヒーロースーツ用意してたけど、ネタバレになるからってどれ持って来たか聞いてないんだよなぁ。
「ランチラッシュ監修のレストランと味が完全に一緒だ……!」
感動してるオタクもいます。
「にしてもよォ、基礎学って何やるんだろうな?」
「情報学は法律や規則についてやるって聞いてるけど……」
「じゃあとりあえず体作りとか? 授業で筋トレはイヤだー!」
上級生から生暖かい目で見られながら盛り上がっている。
多分去年の今頃、おんなじ感じだったんだろうなぁ。
ここあったかい。
最終決戦で全員が協力して頑張れたのって、きっとこういうところからなんだろうなぁ。
「装ちゃん、結構食べるのね」
「んぉ? 成長期だからね! お弁当作るのしんどい時あるかもだから、食堂も味見しときたくて!」
「食べられるって才能だからなぁ」
ランチラッシュのA定食(白米・鯖の味噌煮・サラダ・味噌汁・ヨーグルト)と自分のお弁当(メインは豚の生姜焼き)をもぐもぐしてると蛙吹ちゃんが「美味しそうね」って覗き込んできてきゅんとしたかわいい。
食べる?と差し出すと良いのならって口を開けるからあーんって!!!
「とっても美味しいわ、装ちゃん……本当に美味しい……レシピって教えてもらえるかしら?」
「いいよー、特別なものは何にもないけどね! 愛情よ愛情!」
「それって昨日言ってたイイナズケー!? ねーねーどんなヒト!?」
「えっとね、大柄な人なんだけど優しくて包容力があって、わたしの手料理が大好きでたまに無邪気なところを見せる……オトナのオトコ……!」
「うわーとしうえ! お、オトナのオンナだー!」
芦戸ちゃんコミュ強すぎん?
そりゃ学園祭で1-Aの中核を担う存在ですわ。
打てば響くコミュニケーションが好きなのかもしれないなわたし。
「ごちそうさまでした! 美味しかったー!」
「先輩方、アザッシタ!」
「いいんよー! 頑張れ新入生!」
「食器は出入り口横のとこな! 基礎学頑張れよ!」
みんなで席を譲ってくれた先輩たちにお礼を言って食器を片付け、先輩方ほんといい人たちばっかでありがたいなーと話しながら教室へ戻る。
食堂は中央校舎で共有、かつ食堂は学年も教師も関係なく使うの、交流増えてめっちゃいいな。
たまに行くようにしよっと。
「オールマイトってやっぱり上級生のヒーロー学に行くんかなぁ」
「まだ俺見てねーんだよ! 気になるよなぁ」
「式典の時の黄色ストライプスーツ、カッケーんだよな!」
「ケロケロ。 私はシルバーエイジのころのヒーロースーツが見てみたいわ」
「デビュー当時のちょっと細いころのスーツとかリメイクしないかな」
やっぱりみんなオールマイト好きなんだな……。
「どうしたの、静かだけど」
「うーん。 やっぱりあの人はみんなにとっても特別なんだなぁって噛み締めてた」
「学校で癖だすの止めない?」
「いやそうじゃなくてさ、ある程度身近になっちゃうと等身大が見えるから。 そうなるとどうしても、活動中の姿が薄れるというか」
「ああ……分からなくないかな」
昼休みも終わり、ついにヒーロー基礎学が始まる。
空気がそわそわしてる。
「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!!」
「うおー! オールマイトォ!!」
「ケロ、シルバーエイジ時代のスーツ」
「デッケェ……画風違いすぎる……!」
どこぞのライブ会場かってくらい盛り上がっているけど隣のB組にちょっと悪いな……。
と思ったけどあっちからも歓声が聞こえるからどっこいどっこいか。
後で誰が来たか聞いてみよっと。
にしても……イイな、わたしの未来の旦那がちやほやされてんの!!!!
「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくるため、様々な訓練を行う科目だ! まずはこれ!」
ばーんと効果音が付きそうなくらいのタメと勢いで「BATTLE」のプレートを掲げる。
おお……早速……ってやばいんじゃないかそれ?
「戦闘訓練!! それに伴って、こちら!!」
壁が迫り出して番号の振られたスーツケースが現れる。
被服控除にて申請を出していた、各自のヒーロースーツだ……!
「コスチューム!!」
「僕の……戦闘服……!」
「着替えたらグラウンド・βに集合だ!!」
男女それぞれの更衣室で着替える、が。
女3人集まれば姦しいというが、では7人になったらどうなってしまうのか。
「……意外と静か!」
「いやそりゃあね、これから授業で着替えてるし急がなきゃじゃん?」
耳郎ちゃんあなたクールね。
もうちょっとさ、八百万ちゃんのちちしりやべー!みたいなさ!
というかお茶子ちゃん背中のチャック届いてないね。
「お茶子ちゃん、任せて!」
「ありがと明々ちゃん! というか、私も装ちゃんって呼んでもいい?」
「わーーーー大歓迎!!! ごめんね、わたし勝手に名前で呼んじゃってた!」
「ケロ。 それなら私も梅雨ちゃんって呼んでほしいわ」
「ねーねー、ヤオモモって呼んでいーい?」
「ッ! 歓迎ですわ!! 学友からあだ名で呼ばれるのが憧れでしたの!」
「きょーかちゃん名前かわいーね!」
「やだ恥ずかしいって! ……ま、まぁ、クラスメイトだし、いいけどさ」
「透ちゃんもかわいいね! わたし好きだよ!」
「男の子名前仲間だいえーい!」
わいわいと話しながら、お互いのコスチュームのチェックをする。
先輩見てても思うけど、やっぱりコミュニケーション能力って大事。
……戦闘訓練、ソロじゃなくてデュオだったよね確か?
あれっ本当に大事なのでは?
「似合ってるぜ有精卵ども! さァ戦闘訓練のお時間だ!!」
新人教諭らしくゴタゴタしたけれど、掻い摘んだ内容としては屋内でヴィランが用意した爆弾を回収・またはヴィランの無力化を行う臨時チームアップ想定のツーマンセル、とのこと。
ということはひとり余るな、わたしが濃厚だけど。
「明々少女! 君は残念ながら本日は見学となる!」
「あ、やっぱりそういう感じなんですね」
「え? 緑谷じゃなくて?」
「緑谷少年は主席合格で、それはそれで特別だけどね! 明々少女もまた別の意味で特別なんだ!」
じゃあ紹介しよう、とオールマイトに促され、みんなに向き直る。
「明々装。 特別災害臨時ヒーロー、通称「特災ヒーロー」の免許を持っている! 少なくとも君ら有精卵より何歩も先を行く、現場も経験した現役のヒーローでもあるわけだ!」
「まぁ一応リカバリーガールの弟子やってるので。 多分今日は大きな怪我があれば授業後にわたしが治療する流れになるかと」
リカバリーガールから渡された、どう考えてもどこかの書類に埋もれていたせいでピッカピカにきれいな9歳当時の証明写真の免許をみんなに見せる。
オタクくんがめっちゃ興奮してるけどステイ、ステイだ、後でな。
「没個性の分際で、免許持ちだとォ……!? デクの個性に引き続きいちいち癇に障りやがるなァ……!」
「爆豪くん! 滅多なことは言うものじゃないぞ! つい先日も口の悪さに言及されていただろう!」
「まぁ鳴き喚くことしかできない小型犬は置いといて。 いくらわたしの個性が戦闘向きでなくとも、現場経験で得る経験値は想像を絶するよ。 今回のルールでも出久以外には負けないだろうしねわたし」
煽るんじゃないよとオールマイトに小突かれる。
だっ……こんな、みんなが見てるのにそんな見せつけちゃったら、もー!
「もしかして面識あった感じスか、オールマイトと明々って」
「まぁ、現場で何度かね! 観察眼や個性の発展性は正規のヒーローにも匹敵するレベルだね正直! まぁフィジカルはもうちょっとほしいけど!」
「推定増強型個性のオールマイトに言われると形無しなんですけどねっこのっ」
「HAHAHA! 脛を蹴るんじゃないよ!」
チーム分けをぼんやり眺める。
バインダーとメモ用紙をもらって、わたしはクラスメイトの個性伸ばしについて考察してよい、ということになった。
表向きは特災免許持ちだからってことなんだろうけど、新任のオールマイトにそこまでの裁量があるとは思えない……校長か相澤先生にわたしの「解析」を伝えたりしたのかな。
「そーちゃん。 行ってくるよ」
「行ってらっしゃい! しっかり見とくぜ、相棒!」
いつもより好戦的な笑みを浮かべた出久がお茶子ちゃんと歩いていく。
少し先を行くのは爆豪と……飯田くんだ。
ってことは、原作通りの組み合わせ、か。
「……さあて、どこまで食らいつくかね、チワワくんは」
――――――――――
「お疲れさん!! 爆豪少年以外は大きな怪我も無し! しかし真摯に取り組んだ! 初めての訓練にしちゃ上出来だったぜ!! じゃ、私は爆豪少年に本日の講評を聞かせねば!」
「んじゃわたしは治療に行ってきます、のでみんなは着替えてまた教室で! 終わったらわたしもチワワくん連れて行くからね」
オールマイトに小脇に抱えられ保健室まで急ぐ。
まぁまぁな怪我もしてるし、オールマイト的には自分の弟子が負わせてしまった負い目もあるんだろう。
あの人に教えるのへったくそだったオールマイトがしっかり師匠しててすごくうれしいな。
「自尊心の塊……良い方向に向けば、苛烈なところも受け入れられるエンデヴァーみたいになってくれそうなものだけど」
「まー無理じゃないかな。 少なくとも出久に変な劣等感持ってる時点でこれ以上の精神的成長は見込めないって」
「それにしても……あれほどだとは思わなかった。 緑谷少年も下手に加減するよりある程度の出力で失神を選ばざるを得ないほど追い詰められていたとは」
「うーん、なんだろうね? 多分わたしの知らない幼少期のころのトラウマみたいな感じなんだろうけど。 いじめっ子が何をナイーブになってんだか」
リカバリーガールの待つ保健室で、爆豪はベッドに寝かされている。
意識は無いので怒り狂って目を吊り上がった苛烈な印象から、少し幼く受け取れる。
まぁツラは悪くないけど現状の精神性がガキ過ぎて嫌い。
「さて、あんたがいて何でこんなことになってんだい」
「リカバリーガール。 これはですね……」
――――――――――
「Aコンビがヒーロー、Dコンビがヴィランだ!!」
組み合わせが決まり、訓練用のビルに向かう4人を見送って、残りは全員モニター観戦だ。
わたしは「解析」を使ってそれぞれの個性の成長方向……俗にいえばスキルツリーのようなものを構想する役割だ。
例えば上鳴くんなんて分かりやすい、全体放電としてそのまま強化するのか、任意の箇所に雷撃を落とすのか、とか。
同じ個性でも成長の方向が違えばそれだけでできることが変わってくる。
みんながどんなヒーローになりたいのか、そしてそれが実現可能な個性伸ばしを行っていくか、人生を左右する大仕事だと言ってもいい。
「さて……爆豪と飯田もかなりやれるけどよ、緑谷にはどこまで食い下がれるか……」
「一応ハンデとして、緑谷少年ひとりでヴィラン2人と核爆弾の確保をしてはならないと条件付けはしている! 自分ひとりでなんでもやってしまうのはこれからのヒーロー像にそぐわない、という公安からのお達しもあってね!」
アンチオールマイトと取られかねない言葉だが、ヒーロー公安委員会がオールマイトという象徴頼りにならず次世代を育てようと考えて動いた結果でもある。
着実にオールマイトが舞台を降りる準備が整ってきているのだ。
「ケロケロ……それってもしかして、オールマイトの引退説と関係したりするのかしら」
元気のない梅雨ちゃんの声に、全員の視線がオールマイトに向く。
いつもの巌のような堀の深い笑みを崩さず、彼は全員を見回ししっかり目を合わせる。
「雄英教師になったのは引退を考えていて、次世代のNo.1ヒーローを育成するため……という説ですわね……」
「でもでも! 不思議なのがこのウワサって去年の3月から聞くようになったんだよね!」
「実際、事件の解決数も下がってるし……」
ナチュラルボーンヒーロー、人は彼をそう呼ぶ。
雄英体育祭で産声を上げ、瞬く間にNo.1ヒーローへ駆け上がり、狂気的ともいえる滅私奉公の精神で30年近く一線級で活動してきたヒーローだ。
スキャンダルも、炎上も、敗北も無い。
産まれたときから活躍を続けるヒーローの引退、それは良くも悪くも、人々の心に傷を残すのだろう。
「HAHAHA!! 私が本当に引退すると思うかい? 解決数の低下は教員資格のために勉強や試験を合間に挟んでいたからね! 数年がかりになってしまったのでちょーっと下がってしまったが、私の肉体は未だ全盛期! まだまだNo.1の座は譲れないな!」
わたしの胴ほどもある腕をぱしんと叩くオールマイトに、みんなはつられたように笑う。
……ああ、分かっていたことだけど、まだみんなの中のオールマイトは、画面の向こうなんだ。
こんな修羅の生き方をしている彼を助けるだなんて、普通は思わないもんな。
「よし、時間だ! 屋内対人戦闘訓練、開始!!」
結果は分かりきっているので簡単に説明しよう。
まずお茶子ちゃんの「無重力」で屋上まで行き、最上階5階で防衛役の飯田くんと会敵。
奇襲狙いの爆豪は下に降りてしまったために2v1を強いられる形になった。
まぁ本来ならこの時点で勝負は決まっていたが、お茶子ちゃんの強化のためか出久が俯瞰的に見て指示を出す形で格闘戦が始まった。
先日の発目ちゃんからもらった制御装置が活きているのか、酔った様子もなく壁を蹴り天井を蹴り、三次元的な軌道で飯田くんを翻弄、確保テープを巻く瞬間に爆豪が帰還し、確保失敗。
その後は爆豪の独断専行な攻めを出久が軽く捌き、飯田くんをお茶子ちゃんとふたりで完封して捕獲。
頭に血が上ってサポートアイテムの大規模爆破を敢行しようとした爆豪を出久が殴って止めるも、周囲の危険を顧みない攻撃に出久がブチキレて左腕を折り、昏倒させ。
お茶子ちゃんが核を確保して、AコンビがWin、という流れだ。
「MVPは飯田さんです。 状況設定にしっかり順応していましたわ。 侵入時点では麗日さんもとても個性を使いこなしていて素晴らしくはありましたが、実戦形式の訓練で指示を受けながら格闘訓練を行うのは、少し趣旨に反しているかと。 緑谷さんも同じ理由ですわね。 口の動きから提案は緑谷さんからでしょうけど、その行動はこの授業を組んでくださったオールマイト先生をないがしろにしております。 爆豪さんは終始、飯田さんとの連携を拒否して独断専行……核兵器の設置された部屋で「爆破」個性の使用……危険行為が過ぎますわね」
「全部言われちゃったオールマイトはどんな気の利いたコメントを残すのかな」
「……ま、まぁ飯田少年ももっと柔軟に構える必要はあったかも、だね! 昨日の個性把握テスト。 内容は私も聞いてるけど、クラスメイトの個性の把握ができていればヴィラン側ももう少し配置や防衛箇所を絞ることもできた。 やはり即席とはいえコンビネーションの差も大きく出ちゃったんじゃないかな!」
「そう、ですね。 少なくとも俺は緑谷くんと麗日くんの個性を把握していました。 授業の趣旨に則った考え方だけでなく、柔軟な攻め方、守り方ができてこそのヒーロー……! 未熟を痛感しました……!」
と、思ったよりも立派に先生が出来ていたオールマイトにホクホク顔のわたし。
1戦目と違いつつがなく進む訓練に、積み重なっていくメモ用紙。
いいなぁいいなぁ伸びしろだらけだなぁ。
「明々少女、大丈夫かい?」
「大丈夫ですよ先生。 それより楽しくて筆が止まらないんですよね」
「うん、私から見ても非常に良い個性ばかりだからね。 君の下で育つと考えると、こりゃ中間試験あたりからテコ入れが必要そうかなぁ」
出久とOFAの育成実績があるからねわたしには。
みんなもしっかり魔改造してやるぜ。
と、最後の一組の訓練も終わり……リカバリーガールの下に向かう場面に戻るというわけだ。
――――――――――
「なるほどねぇ……入試の時から随分と勝気な性格の子だとは思っていたけど、そんな子が自分より優秀な幼馴染に嫉妬、劣等感……いや違うね、そんなタマじゃないだろう」
「と、言いますと?」
「私も長くいろんな生徒を見てきたけどね、この子が抱えてるのはそんな分かりやすい気持ちじゃないよ。 いうなれば、あんたを見るエンデヴァーに近いかもしれないね」
駄目ですよリカバリーガール、この人はそんな言葉じゃ気付くことはできない。
良くも悪くも、酷く独善的な人なんだ、オールマイトは。
極論になってしまうが、この人ほど他人の心が分からない存在も、そういないだろう。
「一度でも敵わないと思ってしまった自らの心が許せない、みたいな」
ぽつりとつぶやいた言葉に、オールマイトが息を呑むのが分かった。
「それが近いんじゃないかね。 劣等感と押し込めてしまえばそれまでだけれど、きっと心の中にはもっと大きなものが巣食っているだろうね」
「……なるほど。 精一杯、向き合ってみようと思います。 教師として、先達として」
「……そうだね、あんたがお師匠に抱いてた気持ちにもちょっとは近そうだ」
会話はそこまで。
後は爆豪を回復して、目が覚めるまでの間にオールマイトは今日の授業の報告書を纏めに退室していった。
……目が覚めるまでいてあげれば良かったのに。
オールマイトに憧れて、叶えられるだけの「ちから」を持っていて、だけど躓いてしまったひとりの少年なんだから。
いけ好かねぇけど、わたしは、ね。
「……ここは」
「保健室。 気分はどうだいチワワくん。 一応、左腕はしっかり繋いだけど」
「クソ女……チッ……つーことは、俺ァ……負けたのか」
「ぼっこぼこって感じかな!」
珍しくしおらしい様子のチワワくんを煽ってみたけど、反応が薄い。
どこか凪いだような表情に、ああ、と独り言ちる。
「強かったでしょ、幼馴染」
「……それを俺に言わせんのか」
「言わせるよ、もちろん。 そもそも遠ざけたのはきみだ。 その先で彼は一切腐らず、努力に努力を重ねて、こうして夢を叶えに来ているんだ。 いつまでも「木偶の坊」だと思っていたいのは、もうきみだけだよ」
今の爆豪には酷なことを言っている自覚はある。
だが、この無駄な感傷に浸る時間があるのであれば、こいつは克服しなければならない。
過去の自分と決別してもらわなければならない。
「もう一回聞こうか。 強かったでしょ、幼馴染」
「…………あァ、強かった。 あれァ逆立ちしても勝てんわ」
胸倉を掴んで引き起こし、逃がすもんかと質問をすれば、凪いだ表情のまま、答える。
「無個性のクセに、あいつの精神性はずっとヒーローだった。 俺はそれが怖かったんだと思う。 川で転んで、手ェ差し伸べてきた時からだったか。 そんな俺自身を許せなかったから遠ざけたくていじめてた。 それでも離れやしねぇあいつが、いつかヒーローになるって、俺と同じ夢があるって聞いて……そのうち、無茶して死んじまうんじゃねーかって思った」
独白は、続く。
「そのうちにお前が現れて、鍛えだしたって聞いて……いっそお前まで恨めしくなった。 大した個性でも無いのに無個性と組んでヒーローになるって……そんなん緩やかな自殺じゃねぇかって……俺は夢に殉じて幼馴染が死ぬ姿を、見たくなかった。 そうならないように、俺がヒーローになって、そんな無茶も無謀もしなくていいように、って、そう思ってた」
「……きみは、転んだ時に差し伸べられた手が嬉しかったんだね」
「分析せんでいいわ……そん時、周りからも良個性だ、強個性だって言われ続けたからよ。 個性発現からの全能感で満たされてた時期だから、あいつが無個性だって聞いて……優劣を付けたがってた。 俺に劣るんだから、お前は「でくのぼう」のままでいいって」
「……悪かったよ。 今まで暴言ばっか吐いて、悪かった」
ちゃんと、本心からの言葉だった。
まぁ仕方ない、受け取ってやるとするか。
「まぁ、わたしは別にいいよ、小型犬が喚いてるだけとしか思ってなかったし」
「アァ……!? てめェ人がちゃんと謝る気になったってのによ……!」
「違うでしょ。 きみが先にその言葉を向けるべき相手は。 圧倒的な差を感じて吹っ切れたんだと思うけどさ、罪悪感なんかで先にわたしに謝るのなんて侮辱でしかないだろ」
「……今の時間は」
「まだHR中。 さっさと着替えて向かえば、どうせみんな今日の反省会とかで残ってるでしょ」
「悪ィ、助かる」
振り返らずに保健室を出ていく爆豪を見送って、天井を見上げる。
随分と想定外なイベントが起きたもんだ。
それにしても、うん、疲れた。
ふたりの関係性が改善されたらいくつもの強化イベントを先倒しにできるだろうな、なんて思ってはいたけど……まさかこんなに早いなんて。
「若いってのはいいもんだね」
「うわっそういえばリカバリーガールいましたね」
「……少しは恥ずかしがったりしないもんかね、この娘は。思春期どこにやったんだい」
「きっと生みの母の腹の中ですよ。 じゃあわたしも戻ります」
「はいはい、お疲れさん。 ハリボー食べていきな」
その夜、出久から「嬉しいことがあったんだ」と連絡が来て、頬のゆるみが止まらないわたしがいた、とさ。