転生少女は恋も未来も諦めない   作:紅琳檎

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10.爆豪勝己:ブレイク

初めはもちろん、仲のいい幼馴染だった。

疑いようのねぇ事実だ。

 

「オールマイトかっけぇ!!」

「うん!! 笑顔で助けちゃう、さいこーにカッコイイヒーローだ!!」

「ばーか!! どんなヴィランでもぶっ飛ばす、ツエーヒーローだよ!!」

 

憧れたヒーローも、もちろん同じ。

ただ、俺とあいつは最高のヒーローの別の面に、それぞれ憧れを持った。

 

「無個性のクセにヒーロー気取りか! デク!」

 

強さこそが正義を成す。

どんなヴィランでも必ず打ち倒し、人々の歓声を浴びて。

「ちから」がある自分もまた、同じく正義であると誤認していた。

だから。

 

「やめろぉぉぉぉおお!!」

 

取り巻きのひとり、腕を岩にする個性の一撃を生身で受けるあいつを。

無個性だってのに、薄汚れた女を守るために飛び出したあいつを、見て。

劣ってるはずのお前が差し伸べた、あの手を思い出して。

俺は自分の強さが、本当に強いものなのか、分からなくなった。

 

 

――――――――――

 

 

「明々装。 今日からよろしく!」

 

あの公園の女が転校してきたとき、俺は内心焦っていたと思う。

ガキ大将の俺でも、個性でいじめをしている瞬間を大人に見られたらヤバいってことは気づいていたから。

 

「出久! 今日は走って帰ろう! 持久力はヒーローの基本だ!」

 

あの女は、どうやらバラすつもりは無かったようだ。

1ヶ月くらい観察していただろうか、そもそも俺はあの女にとって眼中になかったように思える。

出久が毎日引っ張られて行って、だんだん疎遠になっていった。

幼馴染が盗られるような気分も少しはあったような気がする。

でもそれ以上に、あいつらもヒーローを目指していることを知って、目の前が真っ赤になるほど怒りを感じたことは覚えている。

 

「デク! 無個性のお前じゃいくら頑張ってもヒーローなんかなれねーよ!」

 

「無個性と没個性でお似合いだなァ! 無駄な努力ご苦労サン!!」

 

「いい加減諦めろって。 無個性ヒーローなんて誰が相手にすンだよ」

 

時が経つにつれて、だんだんとあいつが俺に向ける目が、冷めていくのを感じた。

初めは怯えて伏し目がちだったツラが、少しずつつまらないものを見る目に変わって。

「爆破」で威嚇すればちっとは怯えが戻ってくるものの、体格が良くなり背が抜かされ、徐々に反応すら鈍くなって。

いつだっただろうか、あいつが俺を、かっちゃんと呼ばなくなったのは。

 

「雄英を受ける、だとォ……?」

 

第一回の進路調査で、俺とあいつとあの女が雄英高校を受験すると明かされ、クラス中から笑いが起きた瞬間。

俺も怒ってはいたが、内心では、どこか嗤っていたんだと思う。

 

「クソナードと没個性が、いい加減に現実見ろっつってんだろ!」

 

俺は幼馴染だ。

7歳の頃から少しずつトレーニングを始めていたのを知っている。

9歳でいくつかの道場で武術を学び始めたのを知っている。

12歳で一気に背が伸びて、13歳で体力テストの記録をほとんど塗り替えてしまったことも知っている。

それでもまだ、無個性ってだけで嘲笑の的であり、庇護対象でもあるのだ。

この超人社会で名を上げるには、個性が前提だから。

いくら努力しても、結局は一般人なんだ。

 

「それは僕が足を止める理由にはならないよ」

 

俺のことを、たったのひとかけらも、なんとも思ってない声色で。

 

「受験が近いよ、爆豪くん。 僕は僕で勝手にやるし、もちろん君も勝手にやるんだろ。 お互い無駄な時間を使うのはやめにしよう」

 

違うんだよ、なぁ、おい。

お前、まだ頑張るつもりなんか。

同じ15歳だと思えないくらい、どこもかしこも傷跡だらけで。

意味わからんくらいバッキバキの筋肉つけて。

ヒーローにゃなれねぇよ、無個性だぞ、お前。

いいんだよ、夢は夢のままでいいんだ。

あの時ふたりで憧れたヒーローには俺がなるから。

ヴィランは全部、俺がぶっ飛ばすから。

 

「デク……ッ!」

「いつまで子供のつもりでいるんだよ、爆豪くん。 僕をそう呼ぶのは、もう君だけだよ」

 

過去に囚われているのは俺の方だと、知った。

 

 

――――――――――

 

 

「ヴィランpt77! レスキューpt0だが、徹頭徹尾戦い続けるタフネスには舌を巻いたぜ! 筆記も高水準で文句なし! 総合成績2位で次席合格だ! 来いよ、爆豪少年! ここが君のヒーローアカデミアだ!!」

 

オールマイトが雄英教師になるなんて衝撃は、結果を聞いた時点で薄れてしまった。

15分間、理想的な動きをした自負はある。

他の連中が0ptロボに逃げ惑う時も、徹底的に戦い尽くした。

例年の合格ptは大体予想がついていたし、主席合格を狙って割と無理もした。

しかし、結果は次席。

主席は、恐らく。

 

「デクだ……あいつ以外考えられねぇ……」

 

ヴィランptで負けている気はなかった。

だけどあいつの精神性を考えれば、明かされていなかったレスキューptは確実に獲っている。

想像でしかないが、きっと総合成績で劣ったのだろう。

 

「クソダセェな、俺ぁ……」

 

あの日。

ヴィランを打倒するオールマイトの強さに魅かれた俺が。

無辜の人々を救う姿に憧れた緑谷出久に、明確に劣っていると、突きつけられているようで。

俺の中の芯みたいなものに、罅が入るのを感じた。

 

「Aコンビがヒーロー、Dコンビがヴィランだ!!」

 

劣等感を悟られたくなくて噛みつき続けた。

本当に小型犬みてーだなって内心ではクソ女の皮肉に笑うことしかできなくなっていた。

だが、この直接対決ができる場が用意されたのだ。

優劣を、はっきりと付けられる場が。

 

「爆豪くん、どこに行くんだ!? 戦略を練らねば……」

「いらん。 最上階で防衛でもしてろ」

「だが相手は緑谷くんだぞ!? 二人で確実に攻めるべきだ!!」

「ンなこたぁ分かってんだよ!!」

 

下で待ち構えて、デクとタイマンでケリをつける。

俺の頭の中はそれでいっぱいになっていた。

初授業かつ一組目の俺たちであれば、あいつは愚直に真っすぐ登ってくるだろうと予想していた、が。

 

「くっ……屋上から!? そうか、麗日くんの個性……!」

「ッメガネ、持ちこたえろォ!」

 

完全に裏をかかれた。

丸顔の個性で外壁に沿って登ってきやがった。

憧れの前で愚直なのがお前じゃなかったんか……!

 

「くっ、スマン爆豪くん! 確保される……!」

 

最上階、扉を開けてすぐ「爆破」でかっ飛んで丸顔の持つ確保テープを焼き捨てる。

デクのやつは後方で眺めているだけだ。

さてはナメて指示出ししてやがんな……!?

 

「常々癇に障るヤロウだなァデクゥ!!」

「麗日さん一旦引いて。 二人で動こう」

「うん! ここからが正念場やね!」

「すまない、助かった……! とにかく連携して迎撃せねば」

「いらねぇ! ぶっ殺したらァ!!」

 

爆破の急推進を利用し前衛に出てきたデクを上から爆破で押さえつける……!

振り下ろした右腕を、あいつは一瞥してバックスウェーで軽く回避。

爆破の範囲外に逃げられたと判断し、地面に着いて姿勢維持、左掌の爆破で距離を潰す。

 

「右の大振り、避けられたら距離を潰して前宙で踵落としだろ? その先は下から爆風で視界潰してインファイト。 普通に使えるコンビネーションだよね」

 

全部読まれていやがる。

しかし前宙からの踵落とし、勢いが付いている状態では動きの切り替えは出来ない。

爆破で視界を潰すその前に飛んできた左脚が俺の右頬を蹴り抜いて、一瞬意識が飛ぶ。

 

「飯田くん確保ー!」

 

丸顔の声に意識を取り戻す。

数秒とはいえ、完全にしてやられた。

頭に血が上る。

 

「クソ、がぁ!!」

 

戦闘服の設計の要望。

掌から分泌されるニトロの性質を持つ汗を蓄積し、爆風に指向性を持たせる籠手。

思い返せば、全くもって冷静さを失っていた。

デクはともかくとして、丸顔には危険なレベルの攻撃だということを忘れていた。

 

「爆豪少年!! それはダメだ!!」

 

通信からオールマイトの声が聞こえたが、もう止まらない。

爆炎が視界を埋め尽くす。

 

「デトロイトッ」

 

向こうからあいつの声が聞こえて。

いくつもの光が収束するような、幻を見た。

 

「SMASH!!!」

 

あれだけの規模の爆炎を、腕を振り抜いた突風だけで掻き消された。

目の前の光景に理解が及ばないうちに、あいつが突っ込んでくるのが見えて。

反射的に反対の籠手を構えて。

 

「ッ馬鹿野郎! 殺す気かよ!!」

 

鈍い音と床に叩きつけられる衝撃、痛み。

ぼんやりと左腕を折られたなと思いながら、沸々と怒りも湧いてくる。

こいつに劣っていると思いたくないし、思われたくもない。

 

「俺ァまだ動けっぞデクッ!!」

 

右腕の爆破で身を翻し、拘束を無理矢理解いて飛び掛かる。

あァ、またあの、冷めた目だ。

 

「初撃や焦りで動きが単調な時は右の大振り」

 

鳩尾に突き刺さる衝撃と遠ざかる意識。

完全に封殺された敗北に内心で毒づくこともできず。

 

「ヒーローチーム、WIN!!」

 

オールマイトの声が記憶の最後だった。

 

 

――――――――――

 

 

戦闘服から着替えるのも後回しで、1-Aの教室に飛び込む。

爆豪復帰はえー、なんて聞こえるが無視して、あいつの横に立つ。

 

「面貸せ」

「……まさかと思うけど報復とかじゃないよね?」

「違ぇ」

「じゃあいいよ。 ごめんね麗日さん」

 

連れだって教室を出る。

どこなら人がいないか考えていると、あいつは、こっちがいいよと先を行く。

 

「どういう風の吹き回しだか知らないけど、聞かれたくない話があるんでしょ?」

「……まぁ」

「こっちの歓談室、いつでも空いてるって聞いたから。個室、鍵かかるって」

 

机と椅子とウォーターサーバーだけが置いてある個室で、記憶にないくらい久しぶりに、机を挟んで向かい合う。

いつもお互いに斜に構えていたせいで、真っすぐ顔を見るのはいつぶりだろう。

 

「目が覚めてすぐ来たんでしょ? 水飲みなよ」

「……ああ……悪い」

「えっ」

 

素直に水を受け取り座ると、三度見くらいされた。

いやこいつのこういう行動にも原因はあると思うけどな俺。

……まァ、仕方ねぇし飲み込んでやるか。

 

「ど、どうしたのさ爆豪くん。 打ちどころ悪かった? 押さえつけたときかな、いやその前に蹴ったときかな」

「オマエその失礼な態度が原因の一端と思ったことないんか」

「あー……いやまぁ思わないこともなかったからここ数年は気を付けてたけど」

「今後も気ィつけろや。 少なくとも今年1年はお前が代表張るんだろうが」

 

目を丸くして俺を見るこいつに、自然と舌打ちをする。

冷めた目じゃなくて、ずっと昔の、幼馴染の頃の、それ。

 

「緑谷、今まで悪かった」

 

机に額が当たる勢いで頭を下げる。

 

「……ぁえ?」

「ガキの頃からずっと。 いじめ、ってより、暴力を振るって、暴言も吐いて」

 

先程の明々との会話で自覚した、自分でも理解していなかった内心を吐露して。

ある程度のキリがいいところで見れば、静かに聞いていた緑谷がボロボロと泣いていた。

 

「きみ、そんな風にちゃんと謝れたんだね」

「どういう意味だこら、喧嘩売ってんのか」

「いや……なんだかんだ、ずっと見てたけど、そんな殊勝な態度が取れると思ってなかったから」

「やっぱ喧嘩売ってるだろお前」

 

なんだか、昔に戻ったような気がした。

顔を見合わせて、ふたりで思わず笑ってしまった。

 

「今までごめん。 許されるとは思ってないけど、でもこれからヒーローを目指していく仲間として頑張らせてほしい」

「馬鹿だよ、本当。 僕が君にそんな風に謝られて許せないわけがないだろ。 オールマイトの次に憧れたすごいやつなんだから」

 

守るとか優劣とか、そういうもんじゃなくて。

同じヒーローに憧れて、同じ夢を見て、雄英まできて。

これからNo.1ヒーローを目指す仲間として、もう一度。

 

「もう一度、幼馴染をやり直そう。 そーちゃんも同じようなものだし。 3人でさ」

「……そうだな」

「よろしく、勝己」

「ォうよ、出久」

「君が泣くなよ、僕がいじめたみたいじゃんか」

「やっぱお前その無自覚に煽る癖直せ」

 

ここからだ。

ここから、俺のヒーローアカデミアを、もう一度。

 

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